コラム
真似したくてもできない事情がある
(2009年1月15日メルマガより)
■2008年度の「ヒット商品番付」を覚えておられますか?
いろんなヒットランキングがあるので混乱しそうですが、ここではSMBC
コンサルティングの番付をリンクしておきます。
知らない方はトレンドに乗り損ねていますので反省してください^^
■横綱不在だそうですが、堂々西の大関に選ばれたのが「5万円PC」です。
記憶に新しい。。。どころか、ますます隆盛の商品です。今や「3万円代P
C」の登場も話題となっています。
日本のパソコン市場といえば、2005年を境に出荷台数の減少が見られて
おり1400万台程度で安定するのではないかというのが大方の見方です。
つまり、まごうことなく成熟市場にあるということです。
ところが、2008年度は「5万円PC」の登場が、久々に市場を刺激し、
出荷台数を押し上げる公算です。
■成熟市場でどのようにビジネスを展開するのか?は、日本企業に課せられ
た大きな課題です。
ビジネスの基本の第一は「儲かる市場を選ぶ」ことですが、現実には多くの
市場が成熟し激しい競争に晒されているので、簡単にはいきません。
「儲かる商売を教えてください」と直接聞きにくる方もおられますが、残念
ながら私も答えを示すことはできません。
冗談で「中国かロシアに行けばどうですか」と言うことはありますが^^;
■では、成熟市場でも売れる商品(サービス)を作るにはどうすればいいの
か?
そのような方のために「ビジネスアイデア創出法」という講座を開催するこ
ともあります。
これは、アイデアを発想するための頭の使い方を提示するものです。
アイデアは天から降ってくるのではなく、頭の使い方で出てくるものだとい
う当たり前の考えを実現する講座です。
発想法のひとつに、最寄品と買回り品を逆転させるというものがあります。
最寄品・買回り品の意味についてはこちら
(勝手にリンクしました。すみませんm(_ _)m)
例えば、買回り品である家具を最寄品の価格で販売すればどうか?
ダイニングテーブルセットを2万円。ベットを1万5千円。
「売れるのは分かっているけど、そんなこと無理に決まっている!」と怒ら
れそうですが、イケアはこのコンセプトで成功しています。
逆に最寄品を買回り品の価格で販売する。
食パンを3千円。プリンを5千円。
これも「そんなアホな」と言われるのですが、インターネットで普通に販売
さてれています。
この程度の発想ができないはずはありません。
参考:「常識を少しずらすとチャンスが生まれる」
■今回の「5万円PC」は、まさに買回り品であるパソコンを最寄品価格に
した事例です。実に分かりやすい。
代表的メーカーである台湾のエイサーの王振堂会長は「市場が成熟している
と受身になっている日米メーカーは、私から見ると怠けているようにしか見
えない」と発言しています。(日経ビジネス2008.11.17)
えらい言われようですが、ぐうの音も出ませんな。
■市場が成熟した時多くのメーカーがとる方法は「機能の高度化による差別
化」です。
決して機能をシンプルにして価格を安くしようとは発想しません。
なぜなら、価格を安くしてしまえば、自らの利益を吐き出してしまうからで
す。
同じ差別化なら、プレミアム価格をとれるようにしたい。
普通の考えではありますが「消費者を犠牲にして企業の都合を優先させてい
るのではないか」という不満もあってしかるべきです。
■そこに目をつけたのが、台湾企業のアスースやエイサーです。
台湾企業は日米メーカーのODM(生産委託)先として力を蓄えてきました。
実は、ブランドは違っても、中身は同じ台湾製ということが少なくありませ
ん。
それならば台湾ブランドで売ってもいいじゃないか、と考えたのが、上記の
2社です。
ただし、同じような商品を販売していては、日米メーカーのブランドにかな
いません。
勝負できるところは「価格」です。それなのに、同じように高く売ろうとし
ては強者の思う壺。
やるべきは「価格」という強みをとことん突き詰めることです。
「5万円PC」は、大幅に機能を省くことでこの価格を実現しています。
このPCを買う顧客は「ネットとメールだけでいいや」と考えているか、
「2台目だから安いやつでいいや」と思う人たちです。
実はこの商品を待っていた人たちが多くいたわけです。
■差別化のコツは「簡単に真似されないこと」です。
簡単に真似されない差別化には次の3つがあります。
1.真似するのにコストがかかりすぎる。
2.差別化の内容が複雑すぎて真似できない。
3.真似しようにもできない事情がある。
今回の場合、日米メーカーは「真似してくてもできない事情」を抱えていま
す。端的に言うと、5万円PCは、10万円以上する通常のノートPCと食
い合いしてしまいます。自分で自分の利益を食うような商品の販売はできれ
ば避けたいところです。
また「5万円PC」に参入しようと思えば、台湾メーカーに発注せぜるを得
なくなり、さらに彼らの価格競争力を強化してしまいます。
エイサーの王会長は「企業の都合ではなく、ユーザーの需要を満たす」とま
っとうなことを言っていますが、戦略的にも非常にしたたかです。
■ちなみに、日本で「5万円PC」がこれほど売れた背景には、イーモバイ
ルの活躍がありました。
イーモバイルは、自社のデータカードを契約するとアスースの5万円パソコ
ンを大幅に割引するキャンペーンを行いました。実質100円でパソコンが
買えるという時もあったようですから、0円携帯電話の手法をこの分野に持
ち込んだということです。
イーモバイルの差別化もドコモやauが「真似しようにもできない事情」を
突いたものです。
ドコモやauは、携帯電話の中でビジネスを完結させようと仕組み化してき
ました。
iモードやezwebは、携帯だけの擬似インターネットです。
しかし、イーモバイルは出自がネット事業ですから、携帯電話をインターネ
ットの窓口にしようと画策しています。
携帯電話を単なるネット端末にしたくないドコモとすれば、データ通信に本
格的には取り組みにくい状況がありました。
また、NECやパナソニックなど携帯端末会社と関係の深い携帯キャリア3
社(ドコモ、au、ソフトバンク)は、台湾メーカーに肩入れしにくい事情
も抱えています。
■このように、台湾メーカーもイーモバイルも巨大になり強みを持つ「強者」
が強みゆえに手を出せない分野に進出するという「弱者の戦略」を見せてい
ます。
実は過去にもこうした事例は見られます。
キリンビールがアサヒビールに逆転を許したのは、強者キリンが業務用ルー
トが強すぎて手を出すのが遅れた「量販店ルート・コンビニルート」をアサ
ヒが効率よく伸ばしたという背景があると言われています。
コクヨがアスクルの台頭を許したのも、文具店ルートに強すぎて、ネット通
販という仕組みに取り組むのを躊躇したからだと言われています。
松下電器は、ナショナルショップが強みでありすぎたために、量販店対応に
遅れました。(ただし、幸いなことにライバルメーカーはこの機会をうまく
利用することができませんでしたが)
強者は強者なりの弱点があります。
それを把握することで、弱者も戦えることを理解してください。