コラム

島田紳助の研究2

(2009年10月22日メルマガより)

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■マーケティングの基本プロセスの中にSTPという概念があります。

STPとは「セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング」のこ
と。

横文字で書いたら、難しいように思えるかも知れませんが、実際はそうでも
ありませんので^^

要するに、市場を細分化して、その中で標的顧客を決めて、自社として提供
する価値を決めるというプロセスです。

マーケティングというと、リサーチであったり、4Pという具体的な手法を
イメージされる方が多いかも知れませんが、最も重要なプロセスが、このS
TPであると私は思っています。

■私が営業コンサルティングをする際に、最もこだわるのが、STPという
プロセスです。

私の場合「営業ドメイン図を書く」というようにアレンジしていますが、意
図するところはSTPを明確に行うということです。

そもそも市場を分析して、顧客を明確に設定し、その顧客にどのような価値
を提供するかを決めていないと、営業の方向性が定まらないはずです。

「走りながら考える」というとかっこいいですが、常に頭の中にSTPを意
識しておかないと、エネルギー浪費となってしまいます。

だから実践ノウハウや具体的な手法を求める方には要注意です。

そういう方に、営業ドメイン図を書いてもらうと、殆どがグダグダになって
しまいます。

まずは全体像を把握するという癖をつけてもらわないと、成功に至ることは
できません。

■芸能界における類稀な成功者である島田紳助も、ビジネスを行う際には、
STPを相当綿密に練りこんでいるはずです。

彼が、適当に「これは売れるんちゃうか」などと思いつきで行動することは
ないでしょう。

それは、紳助のこれまでの芸能活動と成功哲学を聞くとよく分かります。

なにしろ、紳助は、現在進行形の成功者でありながら、その成功法則を相当
意識して表現してくれる稀な存在です。

(盟友の明石家さんまが、成功哲学を語るところを見たことがありません)

だから我々にとって非常に有難い。注目したくなる存在なんですね。

■ところで、私が今までメルマガを書いてきて、最も反響が大きかったのが
島田紳助の研究」という号でした。

本来、ビジネスのメルマガなのに、これいかに^^;

こういう話題も欠かすことができない所以ですな。

■この号は、紳助竜介の漫才グラフティである「紳竜の研究」というDVD
をもとに、私が感じるところを書かせていただいたものです。

前回も書きましたが、これはすごいDVDです。

紳助竜介の漫才を観るための資料的な価値もさることながら、その内容を副
音声で解説する島田洋七の言葉がまた鋭い。

単なる解説を超えて、研究と題名をつけたくなるわけです。

■さらにすごいと思うのが、紳助自身がNSC(吉本総合芸能学院)で行っ
た約1時間の講演が収録されていることです。

紳助が、バラエティ番組などで冗談まじりに話す「人生の成功法則」や「生
き残り哲学」の深さに感心したことがある人は少なくないと思うのですが、
この講演は、吉本の芸人の卵たちに、笑い抜きで、紳助流「成功哲学」をた
っぷりと披露したものです。

私も講演をする機会が少なくない身ですが、さすがに紳助の講演を見ている
と、この男が本気で話すと、こんな凄い話ができるのかと戦慄を覚えますな。

■さて、最近、島田紳助の「自己プロデュース力」という本が発売されまし
た。

これは「紳竜の研究」の件の講演を活字にリライトしたものです。

講演の内容をもっと学びたいなという人には便利な本ですよ。

ただ何人かが言っていますが、紳助のしゃべりの迫力は伝わってきませんか
ら、できれば、DVDとセットで買う方がいいでしょうね。

■この講演のキモとなっているのが、紳助流成功法則である「XとYの法則」
です。

前回も書きましたが、繰り返します。

紳助の言うXとは「自分の能力」のことです。自分には何ができるのか。ど
の部分が人より優れているのか。

Yとは、「世の中の流れ」です。10年前と今とでは受け入れられるものが
違います。当然、10年後も違います。その流れを読むということです。

このXとYがクロスした時に、初めて、売れるという状態を作ることができ
ます。

だから、XとYが何であるかを見極めた上で努力しなければならないという
のが紳助の主張です。

■いかがでしょうか。

このXとYの法則こそ、紳助なりのSTPということではないですか。

■まずはセグメンテーション。

紳助は、漫才の歴史を相当の過去から研究して、流行る漫才の流れを知ろう
としています。

なぜ過去からの流れを見たのか。それは、現在、旬な漫才を知るだけではな
く、近い未来に流行る漫才を知るためです。

紳助は、高校を出てすぐに漫才の世界に入りました。

彼は「他の者が大学で勉強している間、おれは漫才の勉強をする」という気
概を持っていたようです。

少なくとも2年間は、コンビを組む相手も探さずに、みっちりと研究に時間
を費やしています。

その方法は執拗です。

過去からの漫才のテープを聴いて、自分が面白いと思う何組かのコンビにつ
いて、台詞を紙に書き出しています。

1回の漫才だけではありません。これはと決めた漫才コンビについては、ず
ーと研究の対象にしています。

その上で、いいと思えるくだりには赤い線を、あまりよくないと思えるくだ
りには青い線を引いていたようです。

それぞれの漫才の面白さを解析する作業であったようですが、面白い漫才や
流行る漫才のタイプを分けることになっています。

これが紳助なりのセグメンテーションだったということでしょう。

■次にターゲティング。

紳助は「お笑いは細分化する」と主張していました。

それまでの漫才は、子供からお年寄りまですべてに受けることが理想とされ
ていました。

代表がやすしきよしでしょう。

しかし、若者からすると、やすしきよしの漫才はどちらかというとかったる
い^^;(その当時の私の気持ちです)

それよりもB&Bやツービートの方が、爆発的に面白い。

それなのに、当時は、やすしきよしこそ王道だと評価されていました。

紳助はそのような権威よりも、自分自身の感覚を頼みにして、これからは一
部の人に熱狂的に指示される漫才をしなければならないと考えました。

だから紳助竜介は、ターゲットを自分たちと同世代の若い男に設定しました。

まさに自分たちが求めているものを提供しようとしたわけです。

だから紳助は、昼の寄席で話をしていて、高齢者に全く受けなくても気にし
ないようにしたそうです。自分たちのターゲットと違う人たちに受けても仕
方ないからです。

あるいはテレビで若い女の子に熱狂的に応援されても冷静になるように心が
けたといいます。これも自分たちのターゲットではないからです。

紳助は、竜介に「おれたちは、目の前の女の子ではなく、テレビの向こうの
コタツで寝ながら聞いている兄ちゃんを笑わさなあかんのやからな」といい
続けていたそうです。

■そしてポジショニング。

ここが紳助のいうXとYの交差点です。

まず、時代の求めるものとして「うまい漫才ではなく、面白い漫才」を志向
しました。

ありていに言ってしまえば、漫才芸というよりもギャグそのものです。短い
時間で爆発的に笑えるものを時代が欲していました。

B&Bやツービートが、その代表格でしょう。

紳助は、早いテンポで連続的に畳み掛けるギャグの連射を自分の漫才に採り
入れました。

ただし、先輩と同じことをしていては負けてしまいます。

前にも書きましたが、紳助は臆病な性格のようです。つまり、いつ負けるか
も知れないと怯えている。

あれだけ突出した笑いの才能を持ちながら「さんまには勝てない」「オール
巨人には勝てない」と、自分を過小評価する癖を持っています。

だから、自分が勝てるポジションを作ることに全力をかけています。

そこで見つけたのが「ヤンキーの癖に弱いやつ」というキャラクターを押し
出したツッパリ漫才でした。

紳助というXの中から、そういうキャラクターを引っ張り出したわけです。

ギャグを中心とした笑い、ボケがツッコミよりも強いというスタンス、息継
ぎもないような早いテンポ。こうした構図は先輩の真似をして、キャラクタ
ーで差別化するという企みです。

これがまんまと当たったというわけでした。

■このように紳助は、最初から方法論に意識的な成功者です。

起業家としても非常に優秀な戦略家と言っていいでしょう。

紳助自身「XとYの法則は、どんなビジネスにも、誰にも当てはまる」と言
っています。実際、それを証明するかのように、様々なビジネスを手がけて
成功させていますから、説得力がありますね。

私に言わせれば、その法則は、STPのことなのだから、何にでも当てはま
るわけです。

■私が思うに、起業家には、3つのタイプがあります。

1.アントレプレナータイプ(新しいことをやらないと気がすまない根っか
らの起業家)

2.マネージャータイプ(多くの才能をまとめあげる調整に長けたタイプ。
あまりいない。)

3.スペシャリストタイプ(自分の才能を頼りに一人で起業するタイプ)

です。

紳助は、もともと1のアントレプレナータイプですが、意識して2のマネー
ジャータイプに変化しようとしてきました。

最近のプロデューサー的な動きを見ていると、特に感じます。

まさに、1と2の混合系は、最も大きな成功を収めるタイプです。

意識して、自分をそのように変化させているのですから、恐ろしいことです。

■さて、その紳助が最も認める才能が、松本人志です。

昔から、ダウンタウンは、我々の世代では、別格扱いの存在でした。

今でもその気持ちは変わりません。松本より面白いやつはいません。

紳助自身が「ダウンタウンには勝てないから漫才は辞めよう」と決意したと
いう有名なエピソードがあります。

ダウンタウンの漫才は、早いテンポでギャグを連射してきたそれまでの漫才
の常識をあざ笑うかのようなゆっくりしたテンポのものでした。

むしろ時間が停滞しているんじゃないだろうかと思えるようなリズムを作っ
ています。

これまで積み上げてきたスタイルを否定された紳助が、不戦敗を選びたくな
るのもうなづけます。

■この二人の比較がよくわかるのが「哲学」という文庫本です。

これを読んで思うのは、松本は殆ど方法論に無頓着であるということです。

彼は、時代の流れを読んで自分の個性を出そうなどとは思っていません。

「おれはこんなに面白いんやから、早く気が着け」というスタンスです。

むしろ、自分の笑いのセンスを全開させずに、徐々に見せて、顧客を教育し
ようとさえしています。

天才だけに許された手法です^^;

先ほどの起業家タイプでいえば、明らかにスペシャリストタイプ。

目標も定めないで、内向きにエネルギーを発揮しています。

それで、ここまで売れたのですから、大した才能としかいいようがありませ
ん。

だから、ビジネスのヒントを得たい者としてはあまり参考になりませんな。

■もっとも松本は「紳助さんが笑いに本気を出したら怖い」と評価していま
す。

逆に言うと、紳助は笑い以外に興味ある対象がありすぎて、怖くないという
ことです。

ここに「笑い」に一生を賭ける者と、「笑い」はオプションの1つだとする
者の違いがあります。

やはり紳助は「目標達成ジャンキー」なんでしょうね。

どんな世界に行こうとしているのかは分かりませんが、これからも独自の成
功哲学を我々に提供してもらいたいものです。

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■松本は私とほぼ同じ世代なので、リアルタイムでその成功を見てきました。

紳助は「本当に松本の面白さをわかっているやつは日本に数%しかいない」
と言っていますが、実は、昔から大勢の人たちが、同じようなことを言って
いました。

「おれは松本の面白さがわかるよ」と。

■案外、松本の笑いは万人受けするのでしょうか。

それとも彼自身が言うように、徐々に万人を教育して、松本の笑いが分かる
ようにしてきたというのでしょうか。

■紳助の言うように「本当に分かっているやつ」が数%しかいないのに、こ
こまで受け入れられたというのは奇跡のようですね。

私はお笑いに関してそれほど高いレベルを持っているわけではないので、正
直なところ分かりません。

果たして、私は松本人志の本当の面白さを知っているのでしょうか。


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