コラム
韓国ドラマ、なぜ人気?
(2004年8月22日メルマガより)
「冬のソナタ」の大ヒットが火付け役となった韓国ドラマブーム。
ドラマのヒットはもとより、DVD、写真集、関連グッズ、主演俳優のCM出演、果ては「冬のソナタツアー」まで…。。
まさに韓国ドラマブームは止まるところを知りません。
はて、ここで疑問です。
どうして、韓国ドラマばかりがこんなに人気なのでしょうか?
「日本人が忘れていた純情がある」「ストーリー展開がスリリング」「とにかく俳優がかっこいい!」
ドラマのファンからはいろんな声が聞こえてきます。。。
が、ちょっと待ってください。ここでは、あえてドラマの内容には踏み込みません。
あくまで、韓国ドラマのマーケティング戦略について検証しますので、悪しからずお聞きください。
韓国ドラマの人気に火がついたのは、実は、台湾が最初だったということです。台湾では1年以上前から韓国ドラマブーム。
台湾市場では韓国ドラマに対して、日本ドラマの“3倍以上”の放送時間を確保しているということです。
◆ ちょっとここで知恵袋 ◆-----------------
ランチェスター戦略には『射程距離理論』というものがあります。
これは、広域市場においては“√3倍”、限定市場においては“3倍”以上の差を引き離されたら、逆転は極めて困難というセオリーです。
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つまり、台湾という市場で、韓国ドラマの放映時間は日本ドラマの放映時間の“3倍”という「射程距離」以上を引き離しているわけです。
日本ドラマからすれば射程距離圏外となる、3倍以上もの圧倒的な放映時間を韓国ドラマは確保しているので、まず、その地位を脅かすことは難しいといえます。
以前、台湾において質の高い日本ドラマがもてはやされた時期もありました。しかし、今日では日本ドラマよりもはるかに韓国ドラマが注目されています。
東アジアで、韓国ドラマの輸出額は、6千万ドル(約65億円)に達する見込み。実に昨対比140%の伸びを示しています。
なぜ、韓国ドラマが、こんなに人気なのでしょう?
まず1つは放映権料の低価格戦略があげられます。よほど、日本のドラマの質が高くないと太刀打ちできない価格設定であるといいます。
次に徹底した『接近戦』。
◆ ちょっとここで知恵袋 ◆-----------------
『接近戦』はランチェスター弱者の5大戦略の1つです。
代表例として
・顧客に直接コンタクトをとること。
・できるだけ滞在時間を長くすること。
つまり、とっても簡単なことで「弱者はできるだけ、お客さんと接しましょう!」ということなのです。
これは、一般企業にも当てはまることであり、中小企業のセールス
パーソンがとる行動として、接近戦はとっても大事なことです。
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今日の日本のマスコミへの韓国ドラマのプロモーションを見れば、その効果は、実感できるのではないでしょうか。
韓国ドラマの場合は制作者はもちろんのこと監督や俳優たち自身までもが、その国に直接乗り込み、そのドラマを猛烈に売り込みます。
日本ドラマもプロモーションは行っていますが、映画ならまだしも、ドラマではここまで猛烈な売り込みは行っていないのが実情です。
残念ながら、その差が、そのまま台湾市場における「放映時間3倍以上」という数値に反映されているのではないでしょうか。
それだけ?
実は、韓国ドラマ躍進の秘密は、独特の「標的市場の設定」にあると考えられます。
◆ ちょっとここで知恵袋 ◆-----------------
ランチェスター戦略の最大のノウハウは「標的市場の設定」にあります。
ランチェスター戦略において「全体シェア」というものは、あまり意味をなしません。
全体シェアとは、個々の標的市場の集まった結果です。本当に大事なのは、それぞれの標的市場でナンバーワンの地位を得ることです。
ちなみにナンバーワンとは、2位以下に3倍以上の差をつけた1位のことです。
①大きすぎない適切な規模の市場を選ぶ、②その市場でナンバーワンの地位を得る。これが、標的市場設定の鉄則です。
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韓国ドラマは、当初、日本やアメリカなど、大きな市場には目を向けず、台湾、タイ、インドネシアなど、東アジア市場に狙いを定めました。
それぞれの市場に低価格戦略で侵攻すると、徹底した接近戦で、ナンバーワンの地位の獲得を目指しました。
その甲斐あって、いまやタイでは韓国の俳優は国民的人気を誇り、インドネシアでも韓国関連グッズが売れに売れているとか…
その間、日本のドラマとの競争はなかったのでしょうか?
韓国ドラマが東アジア市場に進出したのは、韓国国内の市場がもともと大きくなかったからだといいます。海外へ輸出しなければならない構造にありました。
これに対して、日本のドラマは、国内市場が充分やっていけるだけの規模を持っているので、輸出に対して、それほど積極的ではありません。むしろ、DVD販売等の国内における2次需要を優先しています。
つまり、標的市場がもともと違うために、競争にならなかったわけです。
しかし、です。小さな市場で力を蓄えて、さらに大きな攻撃目標を目指すことは戦略の定石です。
日本のドラマがうかうかしているうちに、韓国ドラマが戦略的に力をつけて、日本市場に進出してきたのが、今の状況。
ようやく日本のドラマ業界も、危機感を抱いているのではないでしょうか。
では、まとめてみましょう!
韓国ドラマの戦略とは、
①台湾、タイ、インドネシアなど、東アジアの小さなマーケットを標的とする。
②その標的市場で、ナンバーワンの地位を得るために、徹底した「接近戦」で売り込む。
③そしてその結果、台湾市場において日本ドラマの“3倍以上”の放映時間の確保、つまり『射程距離』以上の磐石な地位を築いた。
これぞまさしく“勝ち方のセオリー”
私達は、この韓国ドラマの戦略を大いに見習うべきではないでしょうか?
(参考:日経新聞2004年7月11日)