コラム
顧客接点がビジネスの命綱
(2005年12月22日メルマガより)
■「日経ビジネス」2005年10月31日号に、ハッピーという会社の事例が載っ
ています。(衣類などのクリーニング業)
先日の「戦略勉強会」で、この企業事例を取り上げました。
我々は、この企業のことを全く知らないのですが、この記事の情報だけで様
々なことを議論しました。
今日は、その内容の一端をお知らせいたします。
■ハッピーという会社、本社は京都府宇治市。売上高は1億5622万円、従業
員は20名という会社です。
■クリーニング市場は、ご存知のとおり、衰退市場です。
家庭での洗濯技術の発達、洗濯が容易な衣服の普及、価格競争の激化などか
ら、1995年には1兆円あった市場が、2005年には半分の5000億円に縮小して
います。
ランチェスター戦略に触れた方なら、こういう衰退市場にこそ、中小企業の
活躍の場があることをご承知ですよね^^
ハッピーは、この市場で、業績を向上し続けています。
■当然のことながら、成熟市場や衰退市場で他社と同じことをしていたら、
ともに衰退していきます。
ハッピーは「他社があきらめた頑固な汚れ」を落とすことで、顧客の支持を
得ています。
15年かけて独自に開発した技法があるようです。
料金は業界平均の5倍以上になるのですが、それでも顧客を増やし続けてい
ます。
■もっとも、こういう「技術」に頼ってビジネスを組み立てる企業はいっぱ
いありますよね。
その殆どが、顧客不在の「思い込み」に陥っていることを私はいやというほ
ど見てきています。
「うちの商品は日本一なんだ」「この技術はだれにも真似できない」という
会社からコンサルティングを依頼されると、私はめまいがします(笑)きっ
と手間がかかるだろうなあと思うからです。
■しかしハッピーの場合、もともとの動機が技術開発ではなく、顧客の不満
を解消することだったと述べられています。
クリーニングを利用した顧客の20~30%が不満を持っていると言われて
います。
思った通りに汚れが落ちないことが多いからです。
悪徳業者になると、しみ落としのサービスを売りながら、実際には普通の洗
い方を施し、返却時に「これ以上のしみ落としは無理」とのカードをつける
だけ…ということもあるそうです。
ハッピーはそんな不満の解消を目的に技術開発を続けてきたようです。
■ハッピーが非凡なのは、従来のクリーニングメーカーの問題を”技術”で
はなく、”顧客接点”がないことだと考えたことです。
通常、メーカーと顧客の間には取次店が介在します。
それが、ビジネスとして効率性を追求した末のシステムなのですが、顧客の
声をメーカーにダイレクトに届けられない仕組みでもあったのです。
そこで、ハッピーは、インターネットを見た顧客などが直接工場へ衣服を送
付する仕組みにしました。
■なんと非効率な!と思われるかも知れませんが、これは「顧客に接近せよ」
というランチェスター戦略やマーケティング戦略の基本に則った実に理に適
ったビジネスモデルなのです。
喩えていうなら「クリーニング業界のデル・モデル」ですね。
■衣服を受け取った工場では100種類のチェック項目がある「電子カルテ」
なるものに衣服の状態を記入し、担当者が顧客に直接電話をして「現状の状
態」「顧客の要望」「クリーニング方法」「料金」を打ち合わせます。
顧客によっては「しみが残っても、衣類の風合いを維持して欲しい」「衣類
が傷んでもしみを落として欲しい」などそれぞれの要望があるでしょうから、
これをここで聞くというわけです。
”顧客接点”こそが、このビジネスの命綱です。
このやり取りの中で、思わぬサービスの改善点も明らかになるでしょうし、
新たなサービスが発想されることもあるでしょう。
技術開発は、そのニーズを聞き取った結果、行われるべきものです。
■今後、この会社はどうなっていくのでしょうか。
”顧客接点”をより濃密にするためのシステム開発が必要となるでしょう。
顧客とダイレクトにやりとりする状況を保持することを前提に、受付のみを
「取次店」「コンビニ」「宅配業者」に委託することで顧客拡大を望めます。
あるいは、現在の顧客に周辺サービスを提供することも可能です。
顧客をダイレクトにつかまえているビジネスには、継続的なキャッシュが見
込めるので、資金調達も可能ですから、新たな投資ができそうです。
発展性がありそうですし、強いビジネスだと思いますね。
■そういえば、今日の日経新聞に「ニッチ企業」の売上高経常利益率が高い
ことが掲載されています。
1位の一休(高級ホテル・旅館に特化した宿泊予約サイト運営)の経常利益
率は61.7%!(全産業平均で3~4%)
小さな市場に特化することの最も大きな利点は、お客さんに貼り付けること
です。
ハッピーという会社は、それを理念だけではなく、仕組みとして構築してい
るわけですね。