コラム
ランチェスター戦略が示すこと
(2006年8月3日メルマガより)
■このメルマガもいつの間にか、58号です。皆様の温かい声援に支えられな
がら、なんとかここまで続いてこれました。
ランチェスター戦略を少しでも多くの方に知っていただこうという思いから
はじめたこのメルマガ。
まだまだ道半ばです。今後も応援をお願いいたします。
■ところで、最近、読者の方から「メルマガでランチェスター戦略を使用し
ていないじゃないか」というお叱りの言葉をいただきました。
私もそうかな…と思っております。
もとい。
冗談です。私としては、いつもランチェスター戦略の視点を失わないように
書いてきたつもりです。
ランチェスター戦略の名前や基礎理論をその都度、あげなくても、ランチェ
スター戦略としての視点は伝わるだろう、という気持ちでした。
■「どこがランチェスターなの?」というご批判は、私の伝え方が未熟だっ
たのだと考えます。
ただ、基礎理論を一からお伝えするのは、このメルマガの本意ではありませ
ん。よろしければ、こちらのページをご覧ください。
http://www.lanchester-kansai.jp/knowledge/page01.html
■そうは言いましても、このメルマガの読者に対する責任もありますし、今
日は、これまでの反省もかねて、私なりの「ランチェスター戦略のエッセン
ス」をお伝えしたいと思います。
なるべく、ざっくばらんに、私の言葉で、本部の見解からズレることを恐れ
ずに(笑)書いていきたいと思います。
■理論面はとりあえず置いときましょう。
ランチェスター戦略は、統計学から始っていますから、「入門セミナー」な
どでは簡単な方程式(ランチェスターの法則)を紹介いたします。
ただ、今日お伝えしたいのは、そこから何を読み取るかです。
■私がまずランチェスター戦略ってすごいなーと思うのが、
“戦略には「弱者の戦略」と「強者の戦略」がある”
と規定しているところです。
今では、多くの人たちがこの言葉を使っています。
有名なのは楽天イーグルスの野村克也監督ですね。あの人ほど、弱者根性が
染み付いた人はいないでしょう^^
「戦力に劣る楽天が、西武やソフトバンクとまともにぶつかっても勝ち目は
ない」
考えてみれば当たり前のことなんですが、多くの者が勘違いしています。
→強い者の真似をすれば、自分も強くなれる。
→儲けるには、儲かっている人の真似をするといい。
もちろん、大間違いです。
■弱者は、強者のマネをしては絶対にダメ。弱者には弱者の戦い方がありま
す。
それなりに成功した人は、必ず、こう言います。
「人と同じことをしてはだめだ」
これこそ、弱者の戦略の正当性を表しています。
なぜなら、弱者の基本戦略とは、差別化、つまり「人と違うことをする」こ
とだからです。
■「自分は弱者じゃない、失礼なことを言うな」と怒り出す人もいます^^
私はあるセミナーで主催者から「お客さんのことを弱者、弱者と言うな!」
と叱られたこともありました(爆)
もちろん、弱者も強者も人間や企業としての優劣を示すものではありません。
あくまで、競争上の局面における判別です。
ランチェスター戦略では、それを
“市場シェア1位の企業は「強者」、それ以外は「弱者」”
と明確に規定しています。
■だから、ランチェスター戦略の示すことの1つは、
“競争する立場には、弱者と強者がある”
“弱者と強者では戦い方が異なる”
“だから、自分が弱者か強者かを見極めよ”
ということです。
■戦国最強の武将といえば、豊臣秀吉でしょう。
天下を統一したのですから、最強なのです。
その秀吉の戦い方の特徴はハッキリしています。
彼は「勝てる相手としか戦わない」という方針を頑なに守り通しました。
物語や小説によると、様々な奇策を弄して、華々しく成り上がっていくのが
太閤記ですから意外に思うかも知れませんが本当です。
具体的に言うと「兵力数が相当多い場合でないと戦わない」という方針を持
っていたようです。
戦争においては、兵力数の差が勝敗に大きく影響します。特に、ミサイルや
特殊爆弾などがない古代の戦いにおいては、兵力数の差は相当の決め手にな
ります。
数で圧倒するというのは、まさに強者の戦略です。
数に劣る時は、あらゆる策略を使って戦いを避けるようにしていました。
彼は、強者の戦略のうまみを味わい尽くした人だと言えるでしょう。
その時代、どうすれば確実に勝てるかを考え抜いた豊臣秀吉はやはり最強の
武将だったのです。
■それに対して天才肌の武将が織田信長です。
彼は、秀吉ほど安定した戦いをしていません。何もないところからスタート
した人ですから、弱者の戦いをせざるを得ませんでした。
弱者の戦いとは、数的な劣勢をスピードや武器などの工夫によって覆すこと。
桶狭間の戦い、長篠の合戦、石山本願寺との戦い。ぎりぎりの勝利を重ねて
天下統一の手前まで行きました。
彼が、強者の戦略を志向しなかったかと言えば、そうではありません。数に
優る局面では軽々と勝利していますし、危うい勝負は避けようと、強い相手
(武田信玄)には卑屈なまでに取り入ろうとしています。ただ、数的優位を
作れない状況下でもなんとかして勝利を重ねた人です。
秀吉の方が、農民から成り上がったんだから、弱者の戦略じゃないのか?と
言われそうですが、そうじゃないところが面白いですね。
彼は織田家の雇われの身。織田家の兵力をバックに強者の戦略を志向した人
です。
織田信長は、何もないところから破壊と創造を繰り返した人でした。
*視点を変えれば、信長と秀吉の人心掌握に関する資質の差が出たという説
もありますが、ここでは言わないでおきましょう。
なお、この二人の武将の話は、田岡信夫先生の「ランチェスター販売戦略」
第1巻に記載されていますので、ご参照ください。
http://tinyurl.com/zylx5
■ちなみに、これから創業する人はすべて弱者です。市場シェアが無いのだ
から当然です。どんな大企業がはじめるにしても、新規参入業者は弱者なの
です。
以前、ある地方に大手居酒屋チェーンが進出してくる、と戦々恐々としてい
る場面に出くわしました。黒船が来る!っていう感じです。圧倒的な強者が
来るのにどうしたらいいんだ、と。
しかし、この場合も、新規に進出してくる大手チェーンの方が弱者です。市
場シェアは、圧倒的に地元チェーンが持っているのですから、新参者は弱者
でしか有り得ません。強者の戦略で迎え撃てばいいのです。
■その“弱者と強者”という概念を踏まえた上で、ビジネスをする際に最も
重要な5つの方針だと、私が考えているものがあります。
それは
1.小さな市場を選ぶこと
2.差別化すること
3.一点集中すること
4.勝ちやすきに勝つこと
5.ナンバーワンを獲得すること
です。
以降、簡潔にこの5つについて説明しておきます。
■1~3については、バブル崩壊以降さかんに言われてきた「選択・差別化・
集中」を表しています。
1の小さな市場を選ぶとは、いかにも弱者の戦略のように思われるかも知れ
ませんが、実際には、選択した市場の中で「弱者と強者」に分かれるもので
す。
小さな市場を選ばなければならないのは、企業の適正サイズというもの自体
が小さくなってきているからです。
変化が激しい状況においては、図体の大きさはマイナスに働きます。
大きな市場をカバーできるほどの巨大企業の時代ではありません。
特に市場がグローバル化している業界においては、狭く深いニーズに対応し
ないと、世界展開できないという矛盾に晒されています。
実際には、小さな市場を選ぶことこそ、大きな利益につながります。
■2の差別化はおわかりでしょう。
選択した市場の中で、自分が他社とどのような違いを出すのかということ。
対立軸を明確に示すことが、顧客をひきつけることになります。
■3、差別化をした上で、決めた市場に一点集中すること。
結局、ビジネスは、顧客にどれだけ満足や感動を与えられるかです。
それには、自分が選んだ顧客群に全力を集中することが必要です。
よく1つの市場に集中しすぎるのはリスクが高いと言われます。
その通りなのですが、それは市場選択の時点で、考慮すべき問題です。
その市場がどのような規模と成長性を持っており、自分の強みを活かすこと
ができるのかを計算します。
リスクが高いならば分散できるようにポートフォリオを組むこともいいでし
ょう。
ただ、本気で、弱者が勝ち残るためには、リスクを負うことが絶対に必要で
す。むしろ、絶対に勝てると思えるまで小さな市場を探すことが正しい行動
です。
安全地帯に身を置いて、ぬくぬくと勝ち太るという経営戦略は私の範疇外で
す。
■4については、さらに競争を意識した地位の戦略を示しています。
トップ企業が有利なのは、顧客のことを考える時間が最も多いからです。
2位以下の企業は、自分より強い相手の動向を睨みつつ、違った形で顧客を
満足させる方法を探らなければなりません。
日産はトヨタと同じ方法で、顧客に報いようとしたので、徐々に競争に負け
ていきました。本来、日産は、トヨタができないことを探し、むしろホンダ
の顧客を奪わなければならなかったのです。
それに対して、トップ企業であるトヨタは「トヨタの敵はトヨタ」と余裕の
スローガンを掲げて、自身の顧客に最大限報いる道を探っていくことができ
ました。
競争する地位によって戦略が違うことを理解しなければなりません。
■5は最終的なゴールを示すものです。
ランチェスター戦略では42%の市場シェアを目標にすべしと明確に示して
います。
ややこしいなら40%で結構です。
松下電器の中村邦夫会長も「プラズマテレビで40%のシェアをとる」とい
う目標を掲げています。
40%をシェアをとることで、2位以下に3倍(√3倍)以上の差をつけたナ
ンバーワンになる可能性が高くなります。
ナンバーワンになれば、知名度も人材確保力も売上も利益も向上し、圧倒的
な優位性を手に入れることができます。
経営者は経験的に40%という数値の意味を知っているようですが、ランチ
ェスター戦略は、それを論理的に導き出しているのです。
■世にいう成長戦略と競争戦略は、この5つに集約できると私は考えていま
す。
最後の1~5については、さらに細かいことをいろいろと言いたかったので
すが、紙面の関係で簡略化しました。また、事例の中で、発言していきたい
と思います。
ちなみに「戦略勉強会」においても、この考え方を用いていきます。
世の中の企業事例をランチェスター戦略のエッセンスで斬る!
このメルマガもこの方針で続けていきたいと思います。