コラム
市場シェアの獲り過ぎに注意
(2006年10月12日メルマガより)
■ランチェスター戦略の白眉とも言うべきなのが「市場シェア理論」です。
参考→http://www.lanchester-kansai.jp/knowledge/page01.html
果たして市場シェアをどの程度獲得すればよいのか。
市場シェア理論は、その目標値を明確に表しています。
1. 73.9%(上限目標数値)
2. 41.7%(相対的安定値)
3. 26.1%(下限的目標値)
これが、同理論におけるシンボル数値です。
■ともかく、目標とすべきは、41.7%(相対的安定値)
シェアがこの数字を超えると、地位が圧倒的に有利になります。首位独走の
条件とも言われています。
多くの企業は経験的にこの数値の重要性を知っていて、40%を企業目標に
掲げているところが多いです。
松下電器も「プラズマテレビで40%のシェアを獲る」と言っていますね。
■26.1%(下限的目標値)とは、トップの地位に立つことができる強者
の最低条件です。
安定・不安定の境目とも言われ、これを下回ると1位であっても、その地位
は安定しません。
これ以下だと、すぐに逆転されてしまうかも知れませんから、安心などでき
ません。
■それでは、73.9%(上限目標数値)とは何か?
当然、ここまでシェアをとれば、絶対独占となり地位は磐石ですよ、という
意味の数値です。
ただし、上限なのだから、これ以上、上を目指す必要はありません。
いや、むしろ、これ以上、シェアが上がらないようにしなければなりません。
なぜなら、市場を独占することは、必ずしも企業にとってプラスに働かない
からです。
つまり、73.9%は、「これ以上、シェアを上げないようにしましょう」
という上限を意味しているのです。
■資本主義は、巨大企業を生み出し、やがて官僚的になって、社会主義のよ
うになっていく。。。そう言ったのは、経済学者のヨーゼフ・シュンペータ
ーです。
1つの企業が市場を独占してしまうと、その市場は疲弊していきます。企業
は既得権を守ることに注力し、選択肢が少なく、ダイナミックな動きのない
業界に顧客は魅力を感じなくなります。市場そのものが飽きられてしまうの
です。
常に企業間の新陳代謝が起こって、創造的破壊が生み出されることで、社会
に活力が生まれるというのが、シュンペーターの有名なイノベーション理論
ですね。
独占企業が支配し、面白みのない市場は、顧客から飽きられるばかりか、革
新的な新企業を待ち望む気運が高まっており、既存企業は一気に逆転負けを
喫する恐れもあります。
だから、現在の企業の多くが、大企業病に罹らないよう注意し、意識的にイ
ノベーションを起こすべく努力しているわけです。
■ただし、大企業ではないのに、大企業病に罹ってしまったように思える企
業はたくさんあります。
シェアもない、金もないのに大企業病とはこれいかに?
昔、完成したビジネスモデルがあり、大儲けできた業界などに多いですね。
中小・零細企業なのに妙に保守的で、昔ながらのやり方から抜けられない企
業って周りにありませんか?
「昔はよかったのにな~」なんて言っている経営者がいたら、その会社です。
自分はひと財産残したものですから、お腹いっぱいになっているんでしょう
ね。チャレンジ精神が上限目標値を超えてしまったわけです^^;
自分は昔、溜め込んだ財産があるからいいものの、付き合わされる従業員と
すれば迷惑千万な話です。
オーナーが「自分はこの財産を持ったまま逃げ切れればいい」と密かに思っ
ているような企業は、改革が非常に困難です。
そういう会社の従業員は、下克上を起こして、経営者を放逐しないとダメで
すな。
ただ、業界全体が、官僚的になっているところもあるので、単に一企業だけ
の問題ではないかも知れません。
企業も、業界も、人も、イノベーションが必要なんですよ。
■シュンペーターはイノベーションの方法として、
1.新しい財貨の生産 (新製品)
2.新しい生産方法の導入 (新製法)
3.新しい販売先の開拓 (新市場)
4.新しい仕入先の獲得 (新素材)
5.新しい組織の実現(新組織)
の5つを上げています。
私が、いろいろな企業、特に中小企業と接していて思うのは、1、2、4、
つまり、製品開発に関することには熱心な企業が多い。
だが、3と5。製品開発以外のことには無頓着な企業が非常に多い。
これは日本企業の特徴なのでしょうか。
製造業は日本の国技みたいなものですから、仕方ないのかも知れません。
製品の開発・製造・改善によって、ビジネスを伸ばしてきた企業が多いから、
今でも、その成功体験が製品のイノベーションに駆り立てるのでしょう。
もちろん、それが全面的に悪いというわけではないのですが、新市場、新組
織のイノベーションも考慮した方が、企業戦略の質が向上することは間違い
ありません。
話が逸れました。この件については、またの機会にさせていただきます。
■市場シェア41.7%を超えたビジネスは、地位が安定し、顧客に対峙す
る機会が増えて、ますます強くなっていきます。
だから、41.7%を超えると、50%、60%というシェアが見えてきま
す。30%から40%へ乗せるのは大変なのですが、40%から50%へ伸
ばすのは、そんなに大変でもないのです。
だからといって安心してはいられません。
数年前、アメリカでマイクロソフト社が、市場独占の疑いがあるということ
で、分割を検討されました。
市場独占であることは間違いないのですが、ビル・ゲイツ氏の七面六腑の活
躍で、分割は免れました。
(ちなみにシュンペーターは、独占企業が儲けをイノベーションに投資する
ことで経済は発展していくこともあるので、短期的な独占が必ずしも合理性
がないとは言い切れないと言っています)
ただし、その後、OSという市場そのものが凋落傾向になってきました。マ
イクロソフトの独占状況が、イノベーションを阻害したという意見もあなが
ち的外れではなかったと私は思っています。そのうちに、グーグルという新
たなイノベーションの担い手が登場してしまいました。マイクロソフトは、
イノベーションのジレンマに陥ってしまったわけですな。
だから、同社は、独占市場から吸い上げた利益を、いまのうちにゲーム機や
携帯音楽プレーヤーに投資しているところです。
■ビジネスは完成した時点から陳腐化が始るとはよく言われますが、市場シ
ェア理論の「上限目標値」は、それを数値的に表しています。