コラム
小さな市場に焦点を絞る会社は強い
(2006年11月9日メルマガより)
■トヨタ自動車がいすゞと提携するそうですね。トヨタはディーゼル車への
参入を狙って。いすゞは生き残りを賭けてというようです。
まさにトヨタは全方位戦略。自動車業界では、圧倒的な強者になりました。
■強いのはトヨタだけではありません。日産、ホンダ、いずれも世界的に強
い企業です。自動車産業は、日本が世界をリードしています。
ただし、成熟市場である日本国内の販売は必ずしも好調ではありません。
各自動車メーカーは、北米や中国、インドなど海外市場を開拓することによ
って好調を維持しています。
■では、日本国内の自動車関連産業には成長余地はないのか、といえばそう
ではありません。
どんな市場にもスキマがあり、成長余地は残されています。
■今日は、そんなスキマに成長余地を見つけた企業の話です。
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■トヨタ自動車は、強い日本企業の象徴のようになりましたね。
2005年度の連結売上高が21兆円。利益は1兆3721億円。
ちなみに、三菱商事や三井物産など商社系は売上は大きいものの利益はそれ
ほどでもありません。
やはり、売上、利益とも大きいのが、自動車メーカーとNTT関連企業です。
■といって、世界に冠たる強い自動車産業も笑ってばかりもいられません。
日本の国内市場は完全な飽和状態です。中古車市場も成熟しています。
トヨタも、その業績の多くは北米市場に依存しており、日本で販売拡大して
いるわけではありません。
■そんな自動車関連市場において12年前に起業し、今年ジャスダックに株式
上場した会社が、システム・ロケーションです。
いくら成熟しているといっても、巨大な自動車産業には様々な需要と成長余
地が残されています。
実際、新車市場が成熟しても、中古車市場、メンテナンス市場、廃棄市場な
どが存在します。これらアフターマーケットや周辺市場にはスキマが残され
ている場合が多いのです。
ちなみにシステム・ロケーションは、自動車リース会社にシステムを提供し
ています。
自動車リース市場は自動車産業の中でも拡大を続ける小さな市場(1兆3000
億円の市場規模)です。
同社は、まさに「小さな市場で戦う」ことを選択して成功した会社であると
言えます。
■システム・ロケーションの最初の成功が、インターネットによる入札会の
運営でした。
リース車は期間が過ぎればリース会社に戻ってきます。ところが、それを次
の利用に回すことはなかなかに難しい。販売するにしても、一般に走行距離
の長いリース車は買い手がつきにくい傾向にあります。
そこで同社は、インターネット上で、入札会を運営することで、海外にも広
く販売するルートを作り、成約率を高めました。
■もっともそれは入り口です。同社は、7年間、入札における車種と落札記
録を蓄積し続けました。
そのデータをもとに、リース車の現在価値や予想売却価格などを計算するシ
ステムを開発、さらにその中古車の車種を特定する車種データベースを作り
ました。
これらのシステムは、リース車の現在の最適価格を瞬時にはじき出せるので、
リース会社は価格設定で“泣きを見る”ことが少なくなり、収益拡大に貢献
することとなりました。
■同社の中核能力は、この蓄積したデータベースにあると言えるでしょう。
新規参入企業が、このデータの蓄積に追いつくのは困難です。
ビジネスモデル自体は、インターネット上の利用に課金するというシンプル
なものですが、先行者の優位性を活かして、大手リース会社にOEMでシス
テム提供しており、業界のデファクト・スタンダードを築き上げています。
(自動車リース市場は大手9社が市場の半分を占めています)
■同社の成功要因をまとめると、
●小さな市場でナンバーワンをいち早く獲得した。
●さらにアフターリースという部分にサービスを集中した。
●入札会を運営し、データベースの精度を高める仕組みを持っている。
●他社をよせつけない参入障壁を作っている。
ということになるでしょうか。
いずれにしろ、最も重要なのは、最初に「小さな市場」に焦点を絞ったこと
ですね。
■自動車リース市場でナンバーワンとなった同社は、今後、市場規模の大き
な(4兆6000億円)自動車ローン市場に参入するとしています。
同社のシステムを改良することですぐに利用できるからだということです。
ただし、市場が違えば、顧客の属性もニーズ特性も違うので、商品が合いそ
うだというだけでは難しい。
自動車リース市場を開拓した時のようなさらなる「絞込み」と「差別化」が
必要になるでしょう。
■週刊ダイヤモンド2006/10/14号を参照しました。