コラム
小さな旅行会社の成功法則
(2006/12/7メルマガより)
■「片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず」とは、松尾芭蕉の「奥の細
道」の一節です。
私も学生時代には「漂白の思いやまず」ふらりと旅に出ることがよくありま
した。
香港から中国に入る一人旅のことは、未だに忘れません。まだ怪しげな格安
チケット屋だったHISで香港への往復航空券だけ買って(香港のホテルが
とれなかったんですけど、いいっすよね?と軽く言われました^^)香港か
ら北京へ電車で縦断していきました。
その香港の安宿に泊まった時。大勢の浮遊日本人(富裕ではありません)が
いるのに驚きました。彼らは、半年日本でバイトしてそれを元手に世界中を
彷徨って回っている人たちです。
彼らの口からは、ラサ、リド、リオデナジェイロ、リスボン、ボンベイ。想
像もつかないような町の様子が生き生きと語られていました。
驚いたのは、彼らの年齢層もバックボーンもバラバラなこと。フリーター、
自営業者、飲食店経営者、隠居。若いのからお年寄りまで様々でした。
今も、彼らは旅に日々を過ごしているのでしょうか?時折、彼らのような人
生を選択することもあったかも知れないと思うことがあります。
家庭を持ち、職業を持っていると、それを叶えることは難しいでしょう。
「せめては新しき背広をきて きままなる旅に出てみん。」といいながら、
軽いパッケージツアーに出るぐらいしかないんでしょうね。
■前置きが長くなりました。ビジネスとして考えた時「旅行」というのは付
加価値をつくりやすい商品だと思うのですがいかがでしょうか?
人は旅行を「消費」とは捉えていません。それは「体験」です。すなわち、
商品が付加価値そのものなのです。
しかし、ビジネスとして設計する時には、ある程度標準化しなければコスト
的に成立しません。
したがってビジネスとしての旅行において、我々は決められた枠組みの中で
の体験を強いられます。体験を標準化すればするほど味気ないものになって
いってしまう矛盾が生じます。
■ランチェスター戦略を勉強された方はもうお感じになっているでしょうが、
こういう「コスト的に合わない」というビジネスは、規模の小さな会社のフ
ィールドです。大手企業が儲からないと判断するレベルでも、小さな企業に
とっては十分儲かる場合があるからです。
漠然と、こういう旅行ビジネスの世界では、ニッチ需要を満たすことで生き
ている会社が多いのだろうなと考えています。
例えばランチェスター戦略セミナーなどでも事例にあげる「獣医師のニーズ
にフォーカスした」日洋航空http://www.nichiyo-air.co.jp/などがその好
例ですね。
■先日、日経MJ(2006/11/27)を読んでいると、ニッチな旅行ビジネスを
展開するパーパスジャパンhttp://www.purposejapan.com/index.htmlという
会社のことが掲載されていました。
この会社の商品はニッチです^^
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ドブロヴニクの旅
■まずは大手旅行者が手を出さない国のツアーを企画しています。(マイナ
ーな国や町は、ホテルの確保が難しい)
それにメジャーな国でも、一癖あるような内容にしています。
実は、この会社、もともと欧州のツアーオペレーターだった人たちが始めた
ものだそうです。だから、現地でアテンドする側の事情をよく知っているし、
商品の改善提案がしやすいようです。(現地のホテルに直接交渉するのでコ
ストも安いらしいです)
また最近では異業種からの中途採用も受け入れて「理想の家を作るための部
材・パーツショップ巡り イギリス8日間」などというツアーを発想するわけ
です。
■もちろん「ハワイ8日間」などという超メイン需要商品を格安で提供する
こともできるのでしょうが、それでは泥沼の価格競争に入り込むことになり
ます。
また、メイン需要は、外部要因に影響されやすいという事情を述べています。
例えば、SARS、鳥インフルエンザ、テロなどがあると、多くの人は海外
旅行を控えようと考えます。しかし、目的を絞った旅行はあまりそういう外
部要因に影響を受けにくいそうです。
■この会社も、ある成功パターンに則っていることが分かります。
まずは、自分の強みを認識した。(欧州のツアーコンダクター。現地の事情
に精通。ネットワークあり。語学力)
次にその強みを活かせる「大手にはコスト的に合わない」小さな市場を選択
した。(少人数しか参加できないマイナーなツアー。バントヒットを重ねる
ように展開した)
固定費を下げる工夫をした。(販売はインターネットのみ。従業員は15名で
売上高16億円。たぶん各国のフリー・ツアーコンダクターとうまく提携関係
にあるのでしょう)
その従業員も多くは異業種からの転職。発想がバラバラ^^(要するに、他
の旅行会社が思いつかないような企画を発想する)
この会社のホームページを見ていると、旅行参加者の体験記が多数載ってい
て、その感動を追体験できるようになっています。まさに「体験」を商品と
することが徹底されているわけですね。
あとは、おそらく、顧客をリピート化する仕掛けがあるでしょうから、それ
を知りたいですね。
■今後、パーパスジャパンはどのように事業を展開していくのでしょうか?
記事によると、PR面では、雑誌などとのタイアップ企画を進めるようです。
また、参加者に対する物販も計画しているようです。
■まあそれもいいでしょうが、私としては、提携するフリーコンダクター達
との関係をどのように発展させていくのかを知りたいところですね。
なにしろ、こういった見えない部分こそ、企業の命運を左右しますからね。