コラム
10/13の市場でビジネスする
(2008年11月20日メルマガより)
■10/13って、何の数字かご存知ですか?
10月13日のことじゃないですよ^^
分からないでしょうな。
実は、これは日本における携帯電話の普及率です。
13分の10。1億3千万人に対して、1億台の携帯電話が契約されている
ことを示しています。約77%。
1億3千万人の中には、赤ちゃんや高齢者もいることを考えると、相当の普
及率であると言えます。
まさに日本の携帯電話市場は、飽和状態にあるわけです。
■携帯電話に関する事業に関わっている人に話を聞くと、成熟市場であるこ
とを実感しているようですね。
5年前から比べると、携帯電話の売れ行きは、雲泥の差だと言いたくなるぐ
らい悪いそうです。
2年前と比べても悪い。昨年と比べても悪い。。。
年々半々ゲームのように売れ行きが悪くなっているようですな。
確かに、数年前の携帯電話は日本で唯一と言っていいぐらい成長期の商品で
したから、成長が鈍化するのは当然といえば当然です。
今までが異例に良かったわけですよ。
■携帯電話キャリア各社の売上高も落ちています。
2008年上半期の大手3社(ドコモ、au、ソフトバンク)の売上高は、
いずれも昨年割れしています。
ドコモが2兆2678億円(-2.5%)。auが1兆3607億円(-1.
5%)。ソフトバンクが7740億円(-5.0%)。
それでもすごい売上高(半期)なんですが、落ちていることは間違いありま
せん。
そうは言いながら、ドコモとauの営業利益は増加しています。
ドコモ5769億円(41.2%増)。au2879億円(5.3%増)。
ソフトバンク882億円(-6.4%)
特に、ドコモの大幅増益が際立っています。減収増益です。
驚くべきことですが、これは各社とも携帯端末価格を上げて、基本料金を下
げるという新料金プランを採用した結果です。
端末代金と販売店に対する販売奨励金の削減が利益を押し上げたようです。
(ソフトバンクは、インフラ整備に投資を続けているために減収減益になっ
たということです)
短期的には、ご同慶の至りということですが、長期視野に立った場合には、
各社の危機感は相当なものがあるはずです。
■このような市場環境の中にも、売上高を伸ばしている会社もあります。
イーモバイルです。
2008年10月の契約数の純増加数で、なんと2位を獲得しています。(1位は
ソフトバンク)
これこそ驚くべきことですね。
後発の小さな会社が、大手を押しのけて業績を伸ばすというのは、弱者の戦
略が機能していることを示しています。
この会社はどのような戦略をとっているのでしょうね。
■以前、このメルマガでソフトバンクモバイルの戦略について書いたことが
あります。
ソフトバンクは、マスを狙うドコモ、若年層を狙うauに対して、auより
もさらに若年層を狙って、基本料金の安さと端末機のおしゃれさを押し出し
ました。
特に、ソフトバンク同士は無料という究極の安さがインパクトを与えました。
もっとも、これはソフトバンクのシェアが低いという事実に基づく施策です。
実際に使ってみると、他社の携帯にかける機会が多くて、結局高くなったと
いう声も多いようです^^;
■これに対して、イーモバイルは、ソフトバンクよりもさらに安い!とアピ
ールしています。
サルが犬に向かって「ありえない」と叫んでいます^^
ターゲットを、ソフトバンクと同じ層に絞ったのでしょうかね。
■ソフトバンクが低価格を売り物にするのは、利益を犠牲にしてシェアを優
先しようというばかりではありません。
ソフトバンクと、ドコモ・auの最も大きな違いは、前者がインターネット
事業者の出身であり、後者が純粋な携帯電話事業者であるということです。
ソフトバンクグループの中心はヤフーという日本最大のポータルサイトです。
ヤフーを中心としたビジネスモデルが既に出来上がっています。
従って、携帯電話端末は、ネットにもつながる電話ではなく、電話もできる
インターネット機器であると捉えているようです。
だから、極端な話、ヤフーにつなげることでトータルで収益を出すことがで
きれば、携帯電話だけで儲けを出す必要はないわけです。
(実際には、ボーダーフォン買収時の有利子負債が巨大なため、単体で収益
を出さなければ銀行が黙っていませんが…)
■イーモバイルも同じインターネット事業からの参入です。(2005年に
新規参入)
従って、ドコモやauとは、違うビジネスモデルを持っています。
イーモバイルは、自社の競争領域を「パソコン向けのデータ通信機器」と
「電話もできるインターネット機器」に絞っています。
従って、そのターゲット顧客は、一般的な個人ユーザーではありません。
CMでソフトバンクを挑発した割りには、違うターゲットを持っています。
■先ほど、日本の携帯電話市場は飽和状態にあるということを申し上げまし
た。
しかし、世界的に見れば、普及率が必ずしも高いわけではありません。
最も高い国では150%というところもあるようです。
これは、2台以上の携帯電話を持つ人が多いことを示しています。
日本の場合、ドコモの携帯を持てば、ドコモしか使用することができません。
auも持とうとすれば、それぞれの基本料金を負担しなければならないので、
固定費が増えてたまったものではありません。
海外の国の一部では、基本料金が安いので、状況に応じて、電話を使い分け
るということができるそうです。
例えば、家族と電話するにはドコモのファミリー割引(24時間無料)を使
い、ソフトバンクの友達と電話するにはソフトバンクの無料通話を使うとい
うような使い方です。
今、日本でこのような使い方ができる料金体系を作ろうとすれば、携帯電話
会社の収益性が悪化して、日本経済に打撃を与えそうです。
でも、ゆっくりとながらその方向に進んでいることは確かです。
使い放題が当たり前のインターネットの世界から来たイーモバイルからすれ
ば、こうした消費者よりも事業者優先の状況は我慢ならないはずですな。
■2台目需要の他にも、日本の携帯電話普及が遅れいている分野があります。
それは法人需要です。
日本の法人契約数は約1千万。25%の普及率です。
これはいかにも少ない。
日本の場合、個人の携帯電話を仕事でも使用させるという形が一般的になっ
ています。
私用で使う輩をどうするかという問題がありますからね。
ただ、逆に仕事で個人の電話を使用させるというのも横暴な話です。
サービス残業が社会問題化している現在、いつ、携帯電話のサービス使用が
問題となってもおかしくありません。
そういう意味でも、携帯電話の法人需要はこれからも拡大することが予測さ
れます。
ある予測では、2、3年のうちに、法人契約は今の2倍になると見てい
ます。
■携帯電話の法人需要は、これからの成長分野であるとして、多くのベンチ
ャー企業が注目しているようです。
MVNO(仮想移動体通信事業者)という形態のビジネスが増加傾向にあり
ます。
これは、携帯電話やPHSの回線を借りて、2次卸する形でビジネスを行う
事業者のことです。
日本通信が老舗ですが、最近ではディズニーがソフトバンクの回線を借りて、
携帯電話を始めたことで話題となりました。あれです。
固定費がかからないので、利益が読みやすいという特徴があります。黒字に
さえなるなら、参入しやすい事業形態です。
面白いアイデアを持つベンチャー企業にとって、最適の形態ですから、おそ
らくMVNOで創業する企業がこれから増加すると思われます。
この分野の元請事業者としては、ウィルコムが先行していますが、イーモバ
イルもソフトバンクもここに力を入れようとしています。
■ウィルコムやイーモバイルの本当のターゲットは、法人需要です。
5万円パソコン(ネットブック)が話題になっていますが、ウィルコムやイ
ーモバイルは、それらにモバイル通信機器をセット販売させる動きをしてい
ます。
さらに、本命は「電話もできる小型パソコン」であるスマートフォンの普及
です。2社の製品ラインアップは、見事にスマートフォン中心となっていま
すし、ソフトバンクもスマートフォンを充実させる動きをしています。
イーモバイルは、都市部の法人を中心に「持ち運べて、電話もできるパソコ
ン」を販売する戦略のようです。
■弱者は小さな市場を狙え。
これがランチェスター戦略の鉄則です。
小さな市場は儲からないので大手企業は手をつけることができないからです。
あるいは、今回のように、今後成長が見込まれる市場であっても大手が手を
出せない場合があります。
ドコモやauは、自社に顧客を囲い込むことでビジネスを組立てています。
だから、ネットもiモードやezwebで完結するようにしています。イン
ターネットに勝手につながれるとビジネスモデルが壊れるわけです。
ところがスマートフォンは、インターネットにつなぐことを特徴としていま
すから、iモードをすり抜けて、ヤフーやグーグル、アップストアに直接収
益を与える仕組みを作ってしまいます。
ドコモやauにとってはスマートフォン販売は自己矛盾する施策であるわけ
です。
■と思っていたら、ドコモがグーグル携帯(スマートフォン)を来年中に出
す計画を発表しました。
これは勇気のいることでしたね。
トップ企業が没落する時、自己矛盾する戦略ができずに対応が遅れて苦しむ
ことが多いのですが、今回、ドコモはあえてそこに踏み込もうとしています。
過去の事例から鑑みて、戦略的に極めて興味深い動きです。
確かに、スマートフォン市場の拡大、パソコンと携帯電話の融合、基本通話
料の引き下げ圧力、SIMフリーの動きなどドコモのビジネスモデルを破壊
しようとする動きは止まりようがありませんから、手をこまねいているわけ
にはいかないわけです。
ドコモはどこに行こうとしているのか?
1.通信回線の元請事業者として生きる。
2.通話用携帯については面倒を見る。
3.そこで収益を確保しながら、ネットを中心としたビジネスを再構築する。
というのが現実的でしょうか。
ただし、現状の収益を維持しなければなりませんので、縮小均衡に陥るのは
避けなければなりません。
現状の事業を推し進めながらソフトランディングを目指さざるを得ません。
茨の道であることは確かです。
■この分野はまだまだ動きがありそうですね。
特に、法人需要の部分ではMVNOベンチャーの参入が続きそうです。
引き続き注目していきましょう。
参考: