コラム
ゼロ距離を目指す
(2008年12月4日メルマガより)
■最近、出張続きでした。移動というのは、結構体力を使います。
私も歳のせいか、身体がきついですな。。。
ジョギングで身体を鍛えていなければ、やばかったかも知れませんね。
■移動のメリットは、ゆっくりと読書する時間がとれることです。
最近読んだのは「メガヒットのからくり」という新書です。
「なぜオヤジは新橋に集まるのか?」というどうでもいい疑問から始まって
います^^;ので、なんか煽りの強いノウハウ本の一種かなと思っていたら、
内容は至極まじめなマーケティングの基本理論を示したものでした。
これは分かりやすかった。
■「だれに、何を、どのように売るのか」
これは、企業が最初に決めるべきことですが、この事業ドメインに沿って、
構成された本なので分かりやすい。
私が自分のセミナーでよく使う切り口なので、興味深く読ませていただきま
した。
マーケティングの基本を学びたい方にお勧めです。
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■「ゼロ距離マーケティング」という新書が出ています。(PHP新書)
「ゼロ距離…」って何のことだか分かりますかね?
距離をとことんまで詰める。。。
そう。
ランチェスター戦略で言えば「接近戦」のことですね。
■もともとマーケティングは、企業が顧客との距離を縮めることを命題にし
ています。
空間的距離を縮める。時間的距離を縮める。数量的距離を縮める。
もし、世の中に流通というものがなければ、産地のものは産地に行かなけれ
ば消費できません。
好きなものを好きな時に好きなだけ消費できるのは、流通というものの進化
のお陰です。
■ただし、人間の欲望は限りありません。さらにいいものを、さらに安くと
我々は要求します。
だから、マーケティングは進化を重ね、消費者と生産者の経済的距離、品質
的距離までも縮めようとしています。
最近、産地偽装や原材料の偽装が問題になりますが、あれは、顧客の要望に
対して様々な距離を縮めようとするあまり、ごまかしという安易な方法に手
を染めてしまった企業の事例です。
■この「ゼロ距離マーケティング」は、マーケティングそのものを「距離」
という切り口から見直した珍しい本です。
新書によくある「思いついたから書いてみました」といういい加減なもので
はなく、ちゃんとした体系が作者にはあるようです。
■ランチェスター戦略における「接近戦」は弱者の5大戦略の一つです。
強者が、強い商品力を根拠に、顧客と距離をとって遠隔戦(卸などをフルに
使い広く流通させる)を仕掛けるのに対して、弱者は、顧客に接近したビジ
ネスを志向しなければなりません。
商品力もブランド力も弱い弱者は、顧客に接近しないと太刀打ちできないわ
けです。
消費者に直接販売する。それができなくても、なるべく川下に展開する。卸
を使ったとしても営業活動は、直接消費者に近いところへ行く。地元に密着
し、スキンシップを行う。
これが接近戦です。
■「ゼロ距離マーケティング」ではそれをさらに押し進めます。
この本によれば、距離には「経済的、技術的距離」に加え、「社会的、文化
的距離」「精神的、倫理的距離」が存在するということです。
従来のマーケティングでは「経済的、技術的距離」を縮めることを飛躍的に
達成し、我々に豊かな生活をもたらすようになったのですが、その他の「社
会的、文化的距離」「精神的、倫理的距離」については、むしろ遠ざけたの
かもしれないと問題提起しています。
■有名な心理学者のマズローによれば、人間の欲求は5段階になっているそ
うです。
1段階目は「生理的欲求」、2段階目は「安全の欲求」。生きるのに必死、
食べていくのに必死という段階では、原初的な欲求を満たすことが優先され
ます。
それらが満たされると、人間は次の段階の欲求を感じます。
3段階目が「社会的欲求」。どこかのグループに属したい、属したグループ
を大切にしたいという欲求です。
そして4段階目は「尊厳の欲求」。仲間や周りの人たちから尊敬されたいと
いう欲求。
最後の5段階目が「自己実現の欲求」。周りの評判に囚われずに、自分が納
得することをしたいという欲求です。
■このマズローの説にあてはめると、マーケティングは「生理的欲求」や
「安全の欲求」をほぼカバーしたため、次の「社会的欲求」を満たすことを
求められているということでしょうか。
(ただしマズローは、これらの欲求は必ずしも順番に現れるのではなく、共
存するものであると言っているようです。確かに、我々の中には、様々な欲
求が渦巻いていますな…)
先進国の消費者は、生きるのに必死というわけではありませんから、多くの
人が「社会に貢献したい」「社会を大切にしたい」という気持ちを抱いてい
ます。
まさに第3段階にいるわけです。
消費者のニーズに応えるのがマーケティングですから、現代の企業は、低次
の欲求を満たすだけでは支持されないということになります。
「ゼロ距離マーケティング」の主張は、ここにあります。
すなわち、「今は、社会全体のことを考えなければ生き残れませんよ!」と
いうことです。
■マーケティングの理念は「企業は(広い意味で)社会に貢献をしなければ
生き残れない」と示しています。
ですから、時代がその理念に追いついてきたと言えるでしょうね。
■なお、この本では、最後の「精神的、倫理的距離」を縮める方法を「ホス
ピタリティ」だと要約しています。
確かにホスピタリティを発揮する企業の事例は感動的です。
いくら小さな企業でも、個人事業でも、顧客を感動させるぐらいの顧客応対
を実現できれば、弱者であろうと強者であろうと関係ありません。
顧客を感動させる力=一騎打ちで勝つ力です。
だからこれからの企業は「ホスピタリティ」を組織全体の力としていこうと、
この本は主張しています。
示唆に富んだ言葉ですね。
■ユニークな切り口の面白い本でしたな。
「接近戦」という言葉も掘り下げると、ここまで組立てられるのかと目を見
開かされました。
これも一点集中の一つの事例なんでしょうね。
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■「ホスピタリティ」は魅力的な概念です。
ここまで喧伝されるのは、時代が求めているのでしょうね。
■ただし、安易に感動を呼び起こすので、危険でもあります。
ちょっと油断すれば、ただの精神論の羅列になってしまいます。
ホスピタリティだけで企業が生き残れるわけではありません。
それははっきりさせておきましょう。
■明確な戦略、確固たる財務的根拠。その上で、実践力。
ホスピタリティを活かすためにも、その前提を間違えないようにしなければ
なりませんね。