コラム
マクドナルド 一人勝ちの理由
(2009年8月27日メルマガより)
■売上高5183億円。経常利益182億円。
これが前期のマクドナルドの全店売上高、利益額です。
日本では5000億円を超える外食産業は初めてです。
この厳しい時勢に、この勢いは、まさに一人勝ちの状態です。
一時は、低価格路線の迷走から危機も伝えられたマクドナルドが、どのよう
にして復活したのでしょうか。
(2004年の売上高は3080億円)
■現在のマクドナルドの好調は、2004年からCEOを勤める原田泳幸氏
の力なくしてはありえなかったと言われています。
もともと日本マクドナルドは、カリスマ経営者であった藤田田氏の影響を強
く受けてきた企業でした。
米国マクドナルドが、日本進出を検討している時、並みいる大手企業を押し
のけて、日本側パートナーの座を射止めたのが“日本のユダヤ人”と言われ
た藤田氏です。
ちょっと怪しげなところもある人ですが^^;類稀な商売センスを持つ藤田
氏に信奉する社員は多かったと聞きます。
■比べて、現CEOの原田泳幸氏には“あくの強さ”をあまり感じません。
原田氏自身も「私に認められたいという思いで仕事している社員は一人もい
ません」「社長はただの職種です」と言ってはばかりません。
どちらかというと醒めたサラリーマン社長を思わせる発言です。
ところが、原田氏がCEOになってから5年で2000億円の売上アップを
果たしたのだから、新たな日本のカリスマ経営者だと言っても過言ではない
でしょう。
■ちなみに原田氏は、アップルコンピュータ(日本)の代表取締役社長を務
めていた人です。
マクドナルドの社長に転身した際には「マックからマックへ」とマスコミに
囃されたようですね。
もっとも関西人の私から見れば、マクドナルドはマックなどではなく「マク
ド」ですから、特にゴロも何もないのでピンと来ません。
それはともかく、ここは原田氏の人となりを紹介するのがテーマではありま
せん。
■マクドナルドのこの数字が驚異なのは、日本が決して成長している市場で
はないことです。
それどころか少子化が進む縮小市場において、業績を急激に伸ばしているわ
けです。
まさにデフレ時代の一強多弱という競争の特徴を典型的に現している事例で
す。
■田岡信夫先生は「成熟市場になれば、市場シェアの重要性がますます高ま
る」と発言しています。
市場が成熟すれば、競争が過当状況となるため確率戦の市場となり、差別化
が無力化されてしまい強者であるトップ企業だけが利得を得る仕組みです。
(難しい言い方ですかね。。。私のセミナーを聞かれた方には馴染みのある
理屈なんですが)
だから成長期にできるだけシェアをとっておくことが生き残るための条件と
なります。
市場が成熟した時点で、「3位、4位の企業は合併交渉に明け暮れる」(by
ジャック・ウェルチ)という状態に陥ってしまうわけです。
■それなのに、どういうわけか「市場シェアはいらない。利益額が大事」と
安易に考える人が増えているように思います。
基盤となる顧客数がないのに利益額を確保しようとすればどうなるのか。
上顧客から搾り取ろうとして嫌がられて逃げられ、残った顧客からさらに搾
ろうとする下手な飲み屋のようになってしまいます^^;
私はそういう店を何軒か知っていますが…
■余談ですが、自動車メーカーのスズキは、市場シェアは小さいのに利益を
確保している優等生です。
スズキこそ成熟市場に求められる経営だと賞賛する声もありますし、異論も
ないのですが、スズキが市場シェア無視の経営をしていると言ったら誤りで
す。
むしろスズキは軽自動車および小型自動車というカテゴリーの中で、一定の
市場シェアを確保を目指す経営をしています。
地域的にも、東欧、インドという強者が目をつけない市場をターゲットとし、
巧みに競争を避けてシェア確保しています。
このように弱者は、マスマーケットを狙う必要はないが、細分化した市場に
おいて市場シェアを確保する努力をしています。そうしなければ生き残れな
いということです。
■原田泳幸氏の著書「日本マクドナルドの社長が送り続けた101の言葉」
を読むと、この方がシンプルに市場シェアの確保を経営の最重要課題として
いることが分かります。
原田氏は、今日、利益を生み出すビジネスモデルは、
1.マスマーケットで一定のシェアをとる。
2.ニッチマーケットでシェア独占する。
この2つしかないと断言しています。
客単価の増加に走ることは「目先の計算だけで利益を狙う」ことだとして戒
めています。
原田氏の利益モデルに対する信念が、ブレない経営手法につながっているこ
とが分かります。
■ご存知のようにマクドナルドは、無軌道な低価格路線を続けた結果、赤字
に陥って危機に陥ったことがあります。
これは藤田田氏が最期に行った失策と言ってもいいでしょう。安売りをやめ
る時、藤田氏がテレビに向かって「これで日本のデフレは終わり!」と宣言
していたのが、藤田氏の強い訴求力を垣間見させていました。
もっとも原田氏も言うように低価格路線そのものは、決して間違った戦略選
択ではありません。
むしろ成熟期を迎えるにあたり、赤字覚悟の低価格路線を仕掛けることで、
体力のない競合他社を市場から排除し、地位を磐石にするための非常に高度
な戦略です。
事実、多くのハンバーガーチェーンは日本の市場から撤退せざるを得ない状
況に陥りました。今日のマクドナルド一人勝ちの基盤を作った戦略であると
評価できます。
■たださすがの藤田田氏も、低価格戦略の本来の意味を履き違えたのかも知
れません。
100円マックをやめて価格を戻したことで客足が鈍ると、65円、80円、
59円とコロコロ値段を変えて、逆に消費者の不信感を買いました。
その当時、マクドナルドの社員が「80円バーガーだけでは儲かりませんが、
利益幅の大きいセットを買ってもらえれば儲かります」とテレビで発言して
いるのを見て、身も蓋もない言い方をするよな、社内でいつもそんなこと言
ってるんだろうなと感じたのを覚えています。
一向に上がらない客単価に対して、新規出店を猛烈に繰り返し、店舗数で売
上の落ち込みをカバーしようとしていました。
既存店舗の落ち込みには無策であったことから、問題は手付かずのまま。い
つしか赤字体質に陥ってしまったという図式です。
■新たにCEOになった原田氏の考えは驚くほどシンプルです。
新製品を出して起死回生を図ろうという幹部に対して「みんながマクドナル
ドを馬鹿にしている時に、新製品なんて出しても売れるわけない」と一喝し
ています。
彼がCEOになってから行ったことは
1.既存店舗の質を上げる。いわゆる飲食店の基本であるQSC(品質・サ
ービス・清潔)を徹底することで、消費者の不信を払拭する。
原田氏には、低価格路線や新規出店に力を注ぐあまり、既存店舗のスタッフ
の能力が落ちていると見えたようです。
これではいくら客数が増えても、消費者に失望を与えるばかりになってしま
う。
まずはお客様を迎え入れる基本能力を取り戻そうというわけです。
原田CEO最初の1年は、QSCの向上対策投資だけに努めたということで
す。
(ちなみに組織の大改革と人事異動は就任3日で行っています)
■QSC対策の目玉とでも言うべきなのが「メイド・フォー・ユー」と言わ
れる厨房のシステムです。
これはその名の通り、注文を受けてから商品を作り始めるというもの。
作りたての美味しいハンバーガーを提供しようという考えです。
ただ、時間がかかって仕様が無いんじゃないか?と思われますが、実際には
需要を読み違えることのある作り置きシステムよりも短時間でできるそうで
す。
この導入を一気に行っています。
■次にしたことは
2.客数対策。100円マックの復活。
あの悪名高き100円マックをまたやるのかーーと言う声がなきにしもあら
ずだったことでしょうが、断行しています。
これは原田氏の「客数が最も大事だ」という経営の信念に基づくものです。
QSCという基礎があるので、客数増にも対応できるというのが、この政策
の根拠となっています。
■さらに
3.新製品の投入を行っています。
えびフィレオのヒットが最初です。最近では、メガマックやクォーターパウ
ンダーなどインパクトのある商品が出てきています。決して、安い商品だけ
で勝負しているわけではないようです。
ただこうした新製品は、客数が前提になっています。客もいないのに、いく
ら新製品を出したところで、効果は薄いでしょう。順番を間違えてはいけま
せん。
マクドナルドのような大企業でさえ順番を守って戦略展開しているのですか
ら、中小企業は余計、新製品に賭ける愚は犯すべきではありません。
ちなみに、原田氏は言っていませんが、マクドナルドの商品戦略は、ミート
を基本としています。
えびフィレオは、ロッテリアの目玉商品であったえびバーガーをミートした
もの。
メガマックはバーガーキングのワッパーをミートしています。
競合他社で売れているものを見れば、丁寧にミートすることを繰り返してい
ます。
まさに強者の戦略です。
■今、マクドナルドへ行けば、その活気に驚きます。
まず時間限定のコーヒー無料。朝の8時から9時までの間に行けば、コーヒ
ーを無料で飲めました。(期間限定でしたので今はやっていません)
私は特にマクドのコーヒーが飲みたかったわけではないのですが、興味があ
るのでいってみたら、持ち帰りもOKでした。
また携帯クーポンの充実ぶり。これも、利用する気はあまりないのに登録し
てみたら、毎週のようにクーポンが届きうるさい^^;
マクドのクーポン利用率は98%という驚異的な数字だそうですが、確かに、
レジで携帯をかざす人をよく見かけます。
店舗に入れば、ニンテンドーDS利用席というのがあります。これは通信ゲ
ームが出来る席のようです。
もちろん無線LANが使える席も用意されている店もあります。
あげくは、能天気な外人がキャラクターのスクラッチ。(ミスター・ジェー
ムズのタマランデス・カード)外れ券4枚集めると、商品一つプレゼントと
いう趣向です。
一時期の停滞はどこへやら。これでもかこれでもかと「客数増加対策」に努
めています。
競合店と比較してみれば、その徹底ぶりがわかります。
ハンバーガーに興味なくても、一度行ってみればいいと思いますよ。
■絶好調のマクドナルドに死角はないのか。
やはり原田氏が自画自賛するQSCの高さに対する疑問です。
まず商品の味については、相変わらずモスバーガーがリードしているという
データがあります。もっともこれは市場シェアの前では、些細なことかも知
れません。
もっと大きいのは、店舗クルーの対応が必ずしもいいとは思えないことです。
昔のマクドの女の子はもっと笑顔で応対していたと感じるのは私だけでしょ
うか。それとも、私の利用する店だけが愛想の無い店なのか。あるいは無料
コーヒーを持ち帰るだけなのでムッとされたのか^^;
市場シェアが大きい分、消費者との接点が最も多いわけですから、店舗クル
ーの対応は後に響いてくるはずです。
“スマイル0円”の復活を望みます。
■もう一つは、原田CEOの意外な不人気ですか。ウィキペディアなどの記
述を見ていると、ちょっと心配になってきますね。。。
■それはともかく、成熟市場における経営のあり方として、マクドナルドの
取り組みは非常に参考になるのではないでしょうか。
この事例は、市場シェアの重要性を再認識することを教えてくれます。
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■原田泳幸氏の著書「日本マクドナルドの社長が送り続けた101の言葉」
は、なかなか面白い本です。
これは原田氏が社員あてに配信しているメルマガをもとにしています。だか
ら、平易な文章で、分かりやすくマクドナルドの戦略や原田氏の経営思想を
知ることができます。
実践主義の人なので、一般論ではない経営のヒントを知ることができます。
私も読んでいて、気づきになる部分が多々ありました。
一読されることをお勧めいたします。