コラム
2009年の携帯とジーンズと餃子
(2009年12月31日メルマガより)
■今朝の日経新聞を見ていると、シャープの携帯電話が中国市場で売れてい
るという記事が載っていましたね。
ついにここまでキタかーーーと思いました。
日本製の携帯電話といえば、高機能すぎて世界に通用しない「ガラパゴス経
済」の象徴のように言われていましたから、それが中国で売れ出したという
のは、注目すべき事象です。
記事では中国の富裕層が、高機能製品に着目している旨が書かれていました。
さもありなん。ずいぶん前から中国の富裕層の消費に注目する声は多かった
ものですが、こうして携帯電話などという身近な製品が売れているという記
事を目にすると、いよいよ中国の消費も本格化してきたと感じます。
なにしろ13億人もいるのですから、その5%が富裕層だとしても、6千5
百万人ですよ!
凄まじい消費大国ですね。。。
■ひるがえって日本は、相変わらず、デフレだ、金融危機だ、円高だと落ち
込んでいます。
おそらく2009年か2010年には、GDP(国内総生産)では中国に抜
かれて、世界第3位になっていると言われています。
もう日本は世界第2位の経済大国ではないのですよ。
実は、ここ15年ほど、日本のGDPはずっと横ばいです。しかもドル換算
での計測なので、円高でなければ、マイナスでした。
米国やEUでさえ2倍以上に伸ばしているにも関わらずです。
なんか暗い話ですな^^;
だけど、今日の話は、そう悪いことばかりでもないよということを言いたい
と思っていますので、少々お待ちください^^
■日本国内のミクロな内容も見てみましょうか。
いわゆるヒット商品番付にも特徴がありました。
日経MJによると、今年は「節約志向」「環境志向」の2大潮流があったと
いうことです。
確かに、「激安ジーンズ、餃子の王将」「エコカー、LED」などといった
上位番付は記憶に新しいところです。
■特に「節約志向」は、100年に1度と言われる世界的な金融恐慌下にお
いて必然的に志向されるべきものでした。
上記の記事にも書いてあるように、日経平均株価の低迷と、低価格商品のヒ
ットは連動しています。
思えば、バブル崩壊後に台頭したユニクロが、ここに来て復活を遂げ、最高
益を上げているのも、相関関係に則したものだといえるのでしょう。
■一般的に、低価格商品が流行ると「デフレだーー」と災厄のように騒がれ
る傾向にありますが、私は必ずしも、低価格志向が悪いことだとは思いませ
ん。
バブル期は極端だとしても、景気がいい時には「付加価値」と称して、価値
を測定しにくい機能がつけられて高価格で販売されることが行われます。
しかし、景気低迷期には、人々はその商品やサービスの価値を見極めて消費
しようとするようになります。
私はこれを「本質的志向」だと考えます。
ここでいう本質的とは「目的に沿った(合目的的)」という意味で使ってい
ます。
つまり自分が何を求めるかを認識した上で、自分にとっての価値を測定して
消費するということです。
この消費者の姿勢は、価値を提供する側の質を問い、その質を高度化するこ
とに資するはずです。
低価格品が流行る今の状況は、日本の企業と消費社会を鍛えてレベルアップ
する役割を担っているともいえるでしょう。
だからこの時代を生き抜いた企業や消費者は、したたかで強い消費社会の担
い手になるに違いありません。
金融危機の今を「100年に1度のチャンス」という人もいますが、あなが
ち奇をてらった意見ではないと思います。
■その意味では、ケータイ小説の反動として売れたとか、出版社の飢餓マー
ケティングがはまったとか言われる村上春樹の小説「1Q41」も、「どう
せ読むなら手ごたえのあるものを読みたい」という消費者の気持ちに適った
ものだったのでしょう。
私は読んでませんが^^;
■さて、関脇のところに「餃子の王将」が入っています。
そういえば、今年は、王将がマスメディアで採り上げられることが多かった
ですね。
上場以来、音無しの構えをとっていると思っていた王将が、ここに来て俄然
勢いを増してきたのは関西人としてうれしい限りですな。
なにしろ、王将の餃子は我々関西人にとって、たこ焼き、お好み焼きに次ぐ、
国民食のようなものですから^^
■私は、今年、いろんな地方に出張で行くことが多かったのですが、たまー
ーに、王将の餃子が食べたくて仕方がない時がありました^^;
今年は少なくとも2回ありましたね。
そういう時に限って、近くに王将がない。。。
そこで代替措置として、中華料理屋などに行って餃子を注文するのですが、
一皿500円も600円もするわりには「まずい!」
餃子の王将って偉大だなーーーとつくづく思いましたね。
きっとこういう感覚は関西人独特のものではないでしょうか。
他地域の人は、王将に「大阪王将」と「京都王将」があることも知らないん
でしょうね。ちょっと優越感。
余談ですが、昔、大阪の針中野という場所に「大将」という中華料理屋があ
りました。いかにも王将のまがいもの然としているのですが、ここの餃子は
おそらく日本で一番美味しかったと記憶しています。今は残念ながら閉店し
てしまいました。おやじさんどうしているのでしょうね…
■よく知られた話ですが、王将チェーンは、一時期低迷していました。
一説には、上場時に採り入れた経営のマニュアル化が、現場から活気を奪っ
たのだといわれています。
そこから奇跡の復活を遂げたきっかけは、看板商品である餃子以外は、各店
が自由裁量でカスタマイズしていいという方針に変えたからだということで
す。
餃子そのものは、セントラルキッチンで作って各店に届けられるので、基本
的にどこでも同じ味です。(焼き加減もあるのでしょうが)
しかしそれ以外は、地域性に配慮して、各店長がカスタマイズします。裁量
を与えられた店長は、責任をもって店の運営に取り組むことができます。
また、調理も野菜を切るのもオープンキッチンでやりますので、顧客からみ
てライブ感のある現場となります。
これらが活気となって店を盛り上げたということです。
■この原理原則を守ることと地域カスタマイズすることは表裏一体です。
餃子という統一された看板商品がなければ、チェーンとして整合性を保つた
めに地域性を捨てていたかも知れません。
地域性がなければ、今のようなライブ感も従業員の活気も失われていたかも
知れません。
事情通の方に話を聞くと、王将の現在の復活は論理的に方針を考えたのでは
なく、試行錯誤の中から徐々に出てきたということですが、結果として非常
に理に適った経営手法となっています。
■デフレ経済の申し子のようなユニクロは、アパレル業界でほぼ一人勝ち状
態となっています。
この後、景気がよくなったからと言って、アパレルの価格が2000年以前
のようになるとは思えません。
ユニクロの品質と価格は、消費者に記憶されてしまったので、この先、また
昔売れた価格で売れるようになるとは単純に考えない方がよさそうです。
■そのユニクロは、2020年に売上高5兆円、経常利益1兆円の目標を掲
げています。
ZARAやH&Mが、1兆円そこそこの売上高ですから、途方もない目標で
す。
現在はまだ1兆円に届いていないので、道は遠い。
しかしそれがホラ話に聞こえないほど、最近のユニクロには勢いがあります。
柳井社長は、これをM&Aではなく、自力成長によって成し遂げようとして
いるようです。
要するに、ユニクロの海外進出です。
■柳井社長はよほど自信があるんでしょうね。
ちなみに、ユニクロを中国で安く作った服を日本で安売りするという昔のイ
メージで捉えてはいけません。
同社は、ファッション性を捨てて品質にフォーカスすることによって、消費
者の感じる価値>価格を実現しているブランドです。
だからこそ、本質的志向のデフレ状況下で鍛えられたユニクロの経営システ
ムは、東南アジアや中国でも通用しそうです。
■これは餃子の王将も同じです。
もともと中華料理をアレンジした餃子を安く美味しく提供するシステムは、
中国をはじめとするアジア諸国で通用するはずです。
最初の携帯電話の話に戻りますが、日本の製品が中国で売れてきているのは、
何も、中国の消費者が豊かになって日本のレベルに近づいてきたからという
理由だけではないと私は考えます。
この15年、デフレと言われながら低迷し続けた日本の消費市場で試行錯誤
し、それでも成長してきた企業は、いつしかガラパゴス島のような生態系か
ら脱して、世界で通用する能力を身に着けたのではないでしょうか。
デフレ下で苦労して生き抜いてきた企業とすれば、気づいてみれば、日本と
アジアは地続きになっていたのです。
そういう意味でも、まさに金融危機後の2009年は「100年に1度のチ
ャンス」だったと言えるのかも知れませんね。
■著名な経営学者の楠木建氏は、グローバルに通用する企業の特徴として、
1.普遍的な価値がある。
2.原理原則を守っている。
3.世界各地から価値の還流を行っている。
ことであると発言していました。
(CS放送の番組内においてです。私は、この方が何気に好きなんですよー)
■ユニクロでいうならば、
1.「品質」という普遍的な価値にフォーカスしている。しかも、適性価値
>価格を作り上げた実績を持つ。
2.世界で通用するチェーン・オペレーション・システムを既に作り上げて
いる。
3.あとは現地で起こった様々な出来事を、本部へフィードバックして、さ
らに全体的な価値を高めることができるかどうかがグローバル展開成功の鍵
となります。
■一方、餃子の王将でいうならば、
1.餃子という少なくともアジア圏で通用するキラーコンテンツを持ってい
る。しかも安い。
2.同じくチェーン・オペレーション・システムを既に作り上げている。
(世界化できるかどうかは未だ未知数でしょうが)
3.現地に裁量を与え、独自の価値をつくり上げ、全社で共有してきた実績
がある。
ということになります。
すぐにでも海外展開できそうですね。
■これって、何もグローバル展開する企業だけに当てはまるものではありま
せんよね。
多店舗展開したい企業。地域の横展開をしたい企業にとっては、そのまま経
営の秘訣として適応できます。
今の日本で通用する仕組みは、世界でも通用する仕組みであるといえます。
■多くの識者が「これからの日本企業は、アジアを目指せ」と言っています。
おそらく、これから、中業企業、大企業問わず、無数の企業がアジア進出を
果たすことでしょう。
とうとうその時期が来たということです。
その際に、どうか運を天に任さないで、意思決定の原理原則を持つようにし
てくださいね。
何らかのヒントになれば幸いです。
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■今回は「エコ消費」のことは書きませんでしたね。
でも、私は、エコに関する消費態度も「本質的志向」の表れだと思っていま
す。
つまり、目先の安さや機能にとらわれず、長期的、全体的な価値を考えて消
費しようという考え方です。
■ただ、現在の「エコ」と言われる価値が、本当に有効なものかどうかにつ
いては、疑問も残ります。
地球温暖化そのものがフィクションだという学者もいますからね。
そんなこと言ってたら何も進まないじゃないかーー、だからとりあえずエコ
に付き合おうというのが大方の人の姿勢でしょうが。
というわけで私としては、逆らうわけではありませんが、積極的な態度もと
っておりませんので。
私は慎重になりたいと思います。