コラム
人をやる気にさせるにはどうすればいいのか
(2010年4月8日メルマガより)
■元ライブドア社長の堀江貴文氏が、自身のブログで「起業してほぼ確実に
成功する方法」という記事を書いています。
相変わらずユニークかつ明快な意見を述べる方です。しかも、今回はあまり
にも正論なので、文句のつけようがありません。
■堀江氏の言っていることは「方向性を決めて、後はひたすら努力しなさい」
ということです。
まず、無駄な努力にならないように、成功確率の高い商売を選ぶことを指南
しています。
それが
利益率の高い商売
在庫を持たない商売
定期的に一定額の収入が入ってくる商売
資本ゼロあるいは小資本で始められる商売
だというわけです。
■あとは、睡眠時間以外はひたすら仕事に集中する。
「それくらいやったらほぼ確実に成功すると思うんだよなあ。。。」
私もそう思いますよ。
(本当は、戦略を作って、それを管理をするプロセスがあるのですが、省略
しています。まあ、それは了承しましょう)
■島田紳助も同じことを言っています。
最初に、確実な方向性を決めろ。
後は、ひたすら努力せよ。
私は先月、某所で島田紳助をテーマにビジネスセミナーを開催するという無
謀な挑戦をしたのですが、その際に、強調したのがこの一点です。
紳助は、無為に努力をする若手を見て「アホちゃうか。ただの自己満足やな
いけ」と嗤っています。
だから紳助は自身が言う「XとYの法則」を使って、まずはどこに進むべき
かを見極めろと主張するのです。
参考「島田紳助の研究2」
ただし、一方で、努力できない人は成功する資格さえない、とも言っていま
す。たとえ芸人として成功できなくても、努力することを知る若手には、新
しい道を用意することさえ厭いません。
実は、紳助は、何よりも努力することの大切さを説く人なのです。
堀江氏の意見も全く同じではないですか。
■しかし、堀江氏のこの記事に反発する人も多いそうです。
「そうは言っても、そこまで努力すること自体が大変じゃないか」というこ
とでしょう。
堀江氏は「(この程度の努力)を苦しいと思う人は(起業には)向いていな
い」とあっさり切り捨てていますが、それなら殆どの人は起業に向いていな
いことになります。
まあ、実際に、その通りなのですから、文句はありませんが。
■私はこの記事を読んで、営業マネージャーと新人営業の関係を思い浮かべ
ました。
多くの会社では、中堅どころの営業マンは、プレーイングマネージャーの役
割を担っています。
ところが、私の知る限り、殆どのプレーイングマネージャーは、単なるプレ
ーヤーとしてしか自覚がなく、マネージャーは肩書きのみです。
若手を育成しようという気持ちが希薄で、若手営業が悩んでいても「この程
度ができない奴は、営業失格だ」と切り捨てることさえあります。
そもそも、右肩上がりの環境下で営業を経験してきた人は「死ぬ気でやれば
何とかなるんだよ」と考える傾向にありますから、マネージャーになるため
の技術を一から勉強しなおさなければならないのでしょうね。
「おれは出来たのに、何でお前らは出来ないんだ」と言う人は、マネージャ
ーになってはダメです。
こういう人の下では、若手はますます白けて、やる気を失っていきます。
少なくともマネージャーは「どうやればやる気がでるんだろう」と悩む若手
とも真摯に向き合わなければなりません。
企業家である堀江氏と同じ感覚でいてもらったら困りますね。
■週刊東洋経済2010年3月27日号で、“モチベーション3.0”なる概念の
特集がなされていました。
これは「ハイ・コンセプト」で大当たりしたダニエル・ピンク氏の新しい著
書「Drive」に書かれている概念です。
ちなみに日本ではまだ発売されていません。アメリカで話題になっているの
だそうです。
■モチベーション3.0って何だーーーと思いますよね。いかにも、あざと
いネーミングですから^^
ピンク氏によると、モチベーション管理の方法には3段階あるのだそうです。
まず第1段階。モチベーション1.0です。
これは、人間が原初的に持つ欲求(食べたい、眠りたい、セックスしたい)
に訴えかける管理方法です。
頑張ったら、腹いっぱい食べさせてやるよ。
ここまでやれば寝ていいよ。
この仕事をやり遂げたら、いい女を抱かしてやる。
なんだか、動物をしつけているようですな^^;
でも、原初的な欲求は強烈ですから、効き目も高い。
終戦直後などは、腹いっぱい食わせてやる、住む家を用意してやる、それだ
けで人々は必死に働いたことでしょう。
私も起業直後、明日をも知れぬ身の頃は、とにかく一定の収入を得て生活の
不安をぬぐいたいという一心で働きました。
この気持ちは会社員には分からないでしょうね…
立場は、今でもあまり変わりませんけどね(-_-;)
■第2段階は、モチベーション2.0です。
さすがに生活の不安がなくなると、人は、原初的な欲求を煽られても動こう
とはしません。
そこで、次段階では、信賞必罰を管理に組み込みます。
すなわち、成果をあげた、目標を達成した人には、金銭的、名誉的な報酬を
与えます。
逆に、成果を上げられなかった、目標を達成できなかった人には、それを減
額し、剥奪します。
金と名誉。といえばイヤらしく聞こえますか?でも、これが我々に馴染みの
深い管理方法です。
■さて最終段階が、モチベーション3.0です。
ピンク氏はこれを、人から与えられる金や名誉ではなく、自ら望む成長や知
的興奮、社会への貢献などへの意欲であると言っています。
何か面白そう。
勉強になる。自分を高められる。
世の中に貢献できる。
生きている証を残すことができる。
書いていて、私もワクワクしてきました^^
キーワードはまさにこの“ワクワク感”です。
■確かに、情報があふれ、価値観が多様化している成熟社会において、人か
ら与えられる地位や名誉には、心を動かされなくなっていることが多い。
今、生活できるんだから、金もこれ以上いらないよ、という人も増えている
でしょう。
それなら自分がワクワクできることに、力を注ぎたい。
そういう自発的な動機に訴えかけるのが、モチベーション3.0です。
■モチベーション理論には、3つの古典があります。
マズローの欲求5段階説。http://bit.ly/9oyaj5
マグレガーのX理論、Y理論。http://bit.ly/cZxzxY
ハーズバーグの動機付け、衛生理論。http://bit.ly/albDww
詳しくは述べませんが、今回のピンク氏の理論は、これら3つの組み直しで
あると言えるでしょう。
もっとも、現代のモチベーション理論の殆どが、3つの古典理論の影響下に
あるので、モチベーション3.0理論の価値が損なわれるわけではありませ
んので。
■ただピンク氏の主張で面白いのは、金銭的報酬を与えると、仕事の創造性
が損なわれると述べているところです。
つまり、モチベーション2.0による管理だけでは、創造性が必要な場面で
は役に立たない。
ということは、末端の従業員それぞれが自ら環境を見極めて戦略を立てなけ
ればならない現代において、モチベーション3.0のマネジメントは必要不
可欠であるということです。
いいアイデアを出したら、金一封というコンテストをやりがちですが、こう
いうマネジメントは愚の骨頂。金で釣るのではなく、自分でアイデアを出す
ように場を整えることが重要です。
これまでの自分のマネジメントは間違っていたんじゃないかと感じる方は多
いのではないでしょうか。
■ではどうすれば、モチベーション3.0が目指すワクワクした仕事ができ
るようになるのか。
ピンク氏は、その鍵は「自律性、専門性、理念」にあると述べています。
■まず自律性。
自分で考えて、自分で決める。方向性さえしっかりと決まっていれば、あと
はそれぞれが工夫してやろうという考えです。
目標達成志向が強い人は、任せられると高いパフォーマンスを発揮します。
逆に、やり方を押し付けられると、とたんにやる気を失います。
グーグルやアップル、3Mなど創造性が高いことで知られる企業は、社員の
自主性を大胆に認めていることで知られます。
3Mなど、就業時間の20%を自分の好きなことに使えるという制度を採用
しています。
あっと驚く新規商品やサービスは、こうした自由な時間に生まれることが多
いそうです。
■次に専門性。
自分の技能を磨きたい。知らないことをもっと知りたい。そういう欲求に報
います。
技術者なら、ひたすら自分の技術を磨き、新しい方法を開発することにモチ
ベーションを上げるでしょう。
営業なら、新しい業界、知らない業界のことをもっと知りたい、知識を蓄え
たいという欲求が強い人がいます。私はまさにこのタイプでした。
勉強する機会を与える。というマネジメントです。
■最後に理念。
やはり人は、大きなビジョンや方向性に共鳴した時に、力を発揮します。
グーグルは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできるように
する」というビジョンを掲げており、それに共鳴した人々の集団です。
アップルも「世界を変える」というスティーブ・ジョブズの理念に共鳴した
人々の集まりだと言います。
私はといえば「仕事とは、よりよい社会を作るための人々に与えられた社会
的分担である」という佐川孝三郎氏の言葉に導かれて、仕事を続けています。
やはり、人間は世界につながっていたい、人々の役に立ちたいという欲求を
持っているのです。
こういうことを建前だと思う人には、モチベーション3.0によるマネジメ
ントは無理なんでしょうね。
■人はそれぞれワクワクするポイントが違うでしょうから、これも押し付け
るわけにはいきません。
例えば、営業が嫌いだ、やる気がでない、という人に対して、私は様々な
「営業の楽しみ方」を提案して、各人に選んでもらうようにしています。
1.目標を達成する楽しみ。営業は結果が明確に出るので、分かりやすい。
仕事をゲームだと考えられる人は、達成することそのものを楽しみにしてい
けばいいでしょう。
2.人と会う楽しみ。人間つきあいが好きな人なら、営業は天職のようなも
のです。頑固な人も意地悪な人も、最後には仲良くなることができれば、こ
んなにワクワクすることはありません。
3.仕切る楽しみ。営業は顧客の代弁者です。いくら会社の社長といえども
「お客さんがこう言っています」という言葉には逆らえません。したがって、
営業マンは、会社全体を仕切ることが可能な仕事です。仕切ることが好きな
人にはたまらない仕事となります。
4.知る楽しみ。営業で様々な業界に出入りしていると、それぞれの特徴や
ルール、儲け方などを知ることができます。私はこのタイプですから、様々
な業界に出入りすることが楽しくて仕方がなかった。だから新規開拓の時な
どワクワクしましたよ^^
その他、いろいろな楽しみ方はあるでしょうが、今思うと、上記はすべてモ
チベーション3.0によるものだったんですね。
■ただ、あまりにも自由になりすぎると、社員が勝手をやりだして収拾がつ
かなくなるんじゃないかと思われるかも知れません。
理念が共有されていれば、そういう心配はありませんので、まずは理念を浸
透させることからすべきです。
ただ、確かに、結果だけしか見ないよ、というマネジメントは、無法地帯を
作ってしまう危険を含んでいます。
そのため、自律性の高い会社では、仕事のプロセスを指標化するなりして
“見える化”し、目標達成管理を自分でできるように工夫しています。
私のコンサルティングは、営業プロセスの“見える化”にこだわります。
ただし営業プロセス指標は、あくまで仕事を進めやすくするためのもので、
信賞必罰の対象になってはダメです。
顧客に何回訪問したから評価アップなどとやっていたら、どんどんプロセス
と結果が離れていってしまいます。
だから、プロセス指標は、会社が押し付けるものではなく、営業チーム全体
で考えて設定し、自ら管理することが基本です。
時間はそれなりにかかりますが、最も効果が高い方法だと思います。
■さて今日のまとめです。
企業経営に限らず、成功するためには、方向性を明確にして、あとはひたす
ら努力すること。これしかありません。
方向性をどう作るかが、戦略の範疇です。
じゃあ、ひたすら努力するためにはどうすればいいのか。そのためにモチベ
ーション理論があります。
その人に段階によって、モチベーションのあり方が変わります。
特に価値観が多様化し、成熟した現代では、モチベーション3.0といわれ
るワクワク感を仕事に持ち込む方法が効果が高いといえます。
ワクワク感とは人から押し付けられるものではありません。自ら感じるもの
です。
そのキーワードは、自律性、専門性、理念です。
■私は営業戦略コンサルティングをすることが多いですが、実際には、戦略
を構築することよりも、それを実行してもらうことの方に多大な労力を使い
ます。
その意味でも、モチベーション理論は、絶対に必要なことなんですね。
人の心が相手ですから一筋縄ではいきませんが、それだけにやりがいがある
仕事ですよ。
とモチベーションの高いところを見せておきましょう^^