コラム
プロ野球球団運営を成功させるには
(2010年11月4日メルマガより)
■今年の日本のプロ野球は全日程を終えたというのに、未だに試合をしてい
る奇特なチームがあるようですな。
なんやねん、と見てみると、なんと日本シリーズでした。
この寒い時期に必死に野球して、アホちゃうか、と思いつつも観てしまいま
した。
昨日の解説が野村克也氏です。これが面白い。延々、野村の解説つきで野球
を観るというのも贅沢なことですよ。
結局、延長11回まで全部観てしまいました^^
■それにしても面白い試合でしたねーーー。
野村氏の解説の力もあると思いますが、一球、一球、局面が変わる野球の醍
醐味を観ることができました。
キャッチャーのリードもさることながら、それを実現する投手の力も相当の
ものです。プロとはこういうものだ!と思わず唸ってしまいましたよ。
こんなところに阪神タイガースが出ていたら、4戦全敗して、今頃、怒り狂
っていることでしょうな^^;
のこのこと出なくてよかったですよ。
■今回、中日はともかく、ロッテはリーグ戦では3位の成績だったそうですね。
それが、この実力を発揮するのですから、やはり短期決戦は面白い。
成瀬とか、渡辺俊介とか、日本シリーズぐらいでしか見ない選手ですが、び
っくりしますね。
それに打線の迫力もある。阪神タイガース目線で観ると、よくあの中日の投
手陣と互角に戦うよなーーと驚いてしまいます。
これだけ面白い試合を観ると、プロ野球全体が今ひとつ盛り上がっていない
という事情が信じられなくなりますね。
■今年、横浜ベイスターズの身売り騒動がありました。
結局、買収交渉はまとまらなかったようですが、横浜は主力選手の流出危機
に喘いでいます。
その横浜に負けて、優勝を逃した阪神タイガースって一体…。
それは置いときましょう。聞くところによると、日本のプロ野球球団は、平
均20億円の赤字を毎年計上しているそうです。
さすがに、毎年、20億円の資金を広告費として計上する体力のある会社は
そうはないでしょうね。
なんでこういうことになってしまったのか。
■プロ野球ビジネスについては以前も書きましたね。
参考:「巨人軍の凋落は止められるか」
重複になるかも知れませんが、今回も書いてみようと思います。
なお、今回の内容は、10月29日の「ランチェスター戦略勉強会」で討議
されたことをベースにしております。
■以前のメルマガにも書きましたが、現在のプロ野球ビジネスの苦境は、巨
人を中心とした放映権収入をあてにしたビジネスモデルが疲弊してしまった
ことに起因しています。
高度成長期は、それでよかったでしょう。儲かる手段が見えている時に、そ
こに食いつかない企業はいません。全員が巨人のフォロワーでした。
あいていに言えば、日本のプロ野球は、強い巨人とその引き立て役というス
トーリーをテレビに販売していたわけです。
巨人は球界の盟主としての責任を十二分に自覚していたはずです。野村克也
氏も言うように、V9時代の巨人は、単に強いだけではなく「勝利に値する
チームづくり」をしていました。
新しい戦略、戦術、思想は、常に巨人がプロ野球にもたらしていたのです。
参考:「巨人軍論」野村克也著
■他のチームは楽ですよ^^
弱くても、巨人と試合さえすれば、多額の放映権が入るわけですから。
特に「巨人のライバル」という地位を得ている阪神タイガースなど、史上最
大のぼたもちが棚から毎年落ちてくるわけです。
こんないい商売はありませんな^^
巨人のオーナーが、別リーグを作ろうと言い出した時も、阪神だけは最初か
ら連れていくことになっていましたから。
こういう危機感のない立場にいるから、優勝がかかった試合前に「うちは2
位でええから頑張るな」と選手に言い出す球団幹部ができるんでしょうな。
(江夏豊投手の証言による)
■これに比べて、巨人と遠い位置にいるパ・リーグの球団は大変だったこと
でしょう。ご事情をお察しいたします。
観客が何人いたか数えられたとか、観客席でイチャつくカップルを選手が見
学していたとか、信じられないような逸話が残っていますからね。。。
だからこそ、パ・リーグは、球団としての危機感を持ち続けていたはずです。
今のパ・リーグの盛り上がりは、巨人を中心とした時の辺境にある者たちの
知恵と工夫と意地の結晶なんでしょう。涙が出ますね。
日本ハムが、ダルビッシュ有もいるのに、斎藤佑樹を取りやがってとか、う
らやましいですが、妬まないようにしますね。
■パ・リーグの諸球団は、テレビの放映権をあてにしない球団運営を早くか
ら強いられてきました。
特に、ビジネスとして優等生だといわれるのが、楽天イーグルスです。参入
初年度は黒字を達成したし、その後も他球団よりは少ない赤字で推移してい
ます。
日経ビジネスの記事を読んでいると、この球団が最初から、球団運営で儲け
を出そうと試行錯誤していたことが分かります。
■テレビ放映権に頼らないビジネスをするためには、観客動員数を増やす必
要があります。
どうすれば、球場に足を運んでくれる顧客を増やすことができるのか。
これは私の解釈ですが、主に3つあると考えます。
1.野球というゲームそのものの魅力(迫真性、ドラマ性、勝利)
2.選手が持つ魅力(親近感、憧れ)
3.球場が持つ魅力(居心地のよさ、様々な楽しみ)
■まずは、1の野球そのものの魅力を高めることが重要です。千葉パイレー
ツではないのですから、これがなければ成立しない。
これが成立するためには、質がよく鍛え抜かれた選手、彼らをうまく動かす
監督・コーチ、組織のバランスをとる編成、が必要となります。
特に私は編成の機能が重要だと考えます。
実は、これがうまくいっていると思うのが、巨人軍です。
一時期は、他球団から金でエースと4番ばかり集めて、どうなってるんだー
と批判されましたが、今は全く様相が違ったチームになっています。
ここ数年の巨人は、FAで獲得した選手と同じぐらい生え抜きの若手が活躍
するチームです。
小笠原やラミレスが活躍するかと思えば、坂本や亀井、さらには山口とか松
本とか、育成枠から上がってきた選手も存分に使っています。
くそーーー。うまいことやりやがって。
これに比べると、阪神タイガースの偏っていること。阪神こそ、他球団の育
てた選手でチーム編成していますよ。
金があるなら、巨人みたいに育成枠をもっととれよーーー。(資金力のない
球団は、育成枠を馬鹿みたいに拡大できるかーーと怒っていますが…)
■試合の面白さを決める要因は、プロとしての技能の高さだけではありません。
そこにはドラマ性もあります。
ドラマ性を出すためには、勝ったり、負けたりをバランスよく持つことが必
要となります。常勝球団は面白くありませんからね。
その意味では、3位までは出場権を得ることができるクライマックスシリー
ズというシステムは、よく出来ています。
3位までに入れば、日本シリーズに出る可能性があるわけですから、どの球
団にも万遍なくチャンスが与えられています。
短期決戦は何が起こるかわかりませんから、今回のように先発の持ち駒が少
ないロッテでも日本シリーズに進出するチャンスがあるわけです。
逆に、阪神タイガースやソフトバンクホークスのように豊富な戦力を持ちな
がら、短期決戦では負けてばかりいるチームもあるわけですが…
■野球選手は、野球の能力がなければ話になりません。
ただし、プロとして活躍するためには、それだけでは足りない。
私は1軍で活躍する選手には、プラスアルファの能力が必要だと考えています。
つまり、自分の長所を最大限に生かすためのアピール力です。
これは、単に、監督に認めてもらうだけではない。ファンにアピールするも
のでもあります。
このあたりのセンスに長けていたのが、元オリックスの仰木監督(故人)で
あり、野村克也監督でした。
才能の塊だった鈴木一郎が、前監督に「打ち方が気に入らない」と干されて
いたのを「ええやないか」と使い、登録名を「イチロー」と変えさせた伝説
を持つのが仰木監督です。
仰木監督は、選手個々の個性を見極めて、うまく使うことで知られていました。
また「パンチ佐藤」「トルネード投法」といったネーミングにも寛容で、選
手の個性を際立たせようとしていました。
野村監督も、選手を売り出すのがうまい監督です。「マー君」の売り出しに
それが現われています。
阪神時代は、目立ちたがり屋の新庄の性質を見抜き、投手として使ったりも
しました。
また面白かったのが、阪神時代、若手の足の速い選手を7人集めて「F1セ
ブン」と命名したことです。
ただし、実際に足が速かったのは赤星だけだったという大阪らしいオチがつ
いていましたが…
■私は、選手を含めたチームの演出は、球団の専門職員がやるべきだと思い
ます。
個人の裁量に任せていれば、できる人はいいのですが、できない人は浮かば
れません。
あるいは、チーム全体として好ましくないキャラクターになってしまうかも
知れません。
それなら、専門家がやるべきです。
単なる広報ではなく、演出家です。テリー伊藤が、チームの演出を手がける
ようなイメージをしてください。
ただしふざけるのではなく、あくまで野球選手としてのアピールです。
その節度の中で「強気キャラクターでいこう」とか「誠実さをアピールしよ
う」とか、やるわけです。
その中には、選手のマネジメントも含めるべきだと私は考えます。
現在は、スター選手は、個々に企業と契約を結ぶところもあるようですが、
これは全て球団管理とします。もちろんその分の報酬も払います。
だからユニフォームの着こなしや私服などもマネジメントの対象です。
選手は球団所属のタレントだとする考え方です。
■選手の魅力の中には「親近感」も含まれますから、ファンと接するイベン
トは積極的に開催すべきです。
例えば、桧山とキャッチボールできるなら、私は年間50回甲子園に通って
もいいです。
それがダメなら、ツイトモとか、ミクトモとかでもいいです。ファンクラブ
に入れば、桧山がツイッターでフォローしてくれるとか、やってくれないか
なーーー。
そうなれば、1分ごとにつぶやきますよ。いや、うざいと思われるな^^;
こういうことも球団の演出家がやってほしいものです。
■日本のプロ野球からメジャーリーグへの人材流出が止まりません。
しかしそれを規制することは得策ではありません。むしろ、メジャーリーグ
よりも魅力あるリーグになることを考えるべきでしょう。
現在は、メジャーリーグにどんどん行ってもらえばいい。ポスティングシス
テムにより移籍金も入ります。
スター選手が抜けた穴を埋める育成システムと、演出力があれば、新陳代謝
が進む方が、ビジネスとしては都合がいい。
宝塚歌劇団のように、トップスターは辞めていってもらわなければ、若手が
育ちませんからね。
■上記の「野球の魅力」「選手の魅力」が、チーム運営の根幹となります。
3つ目の「球場の魅力」は、どちらかというと傍流ですが、それでも重要です。
アメリカのマイナーリーグは、むしろ、この球場の魅力で、勝負しています。
ジャグジーに入りながら観戦できる席とか、看板にぶら下がって観る席とか、
実際にあるそうです。
野球に興味のない家族のための遊園地とか、ゲームセンターとか、他のショ
ーがあってもいい。ミニラスベガスですね。
実は、楽天は、球場の営業権を持っているので、ビジネスを展開しやすい状
況にあります。
選手ゆかりのグッズ販売とか、弁当とか、こうしたタイアップ企画はいくら
でもできるはずです。
観客動員が増えれば、それに比例して儲かる仕組みを作っておかなければな
らないのに、多くの球団は、球場を使用しているという立場なので、サイド
ビジネスは球場管理会社に任せ、球団にはわずかなロイヤリティ収入しか得
られないそうです。
(楽天は、宮城県営球場の改修費用を負担する代わりに、球場内の営業権を
得ています)
■もちろん、経営とはこれだけではありません。
営業プロセスでいうと、観客を球場に呼ぶためのトラフィックをどれだけ多
くするか(集客)、また一度球場に来た人をもう一度呼ぶためにはどうする
か(アフターフォロー)の仕組みも必要になります。
特にアフターフォローについては、現状、出来ていないようなので、知恵を
出さなければならないところです。
ただ今回は割愛します。
■阪神タイガースも人気にあぐらをかいていないで、もっと努力をしてほし
いですね。
阪神の場合、関西ローカルのメディアが、勝手に選手を演出してくれるから、
何もしないでも人気が落ちないんですかね。
特に選手の育成にはもっと力を入れてほしい。いつまでも外人助っ人とFA
選手というのでは、いつかはファンに飽きられますよ。
ファンも大人にならないとダメです。
ちょっと岩田投手がブルペンで新球を試したとかいう小さな記事に狂喜して
いるようでは、あきませんな。私のことですけど。