"志"が歴史を変えた--三国志に寄せて
"志"が歴史を変えた--三国志に寄せて
2007.10.11
(2007年10月11日メルマガより)
■先月の29日、アシックスの鬼塚喜八郎会長が、お亡くなりになられました。
心からご冥福をお祈りいたします。
■鬼塚会長は、戦後、裸一貫で靴の製造を始め弱者の戦略である「オニツカ
錐もみ商法」を駆使して、一大スポーツ用品メーカーを作り上げた偉大な人
物です。
以前、このメルマガでも、書いたことがありますので、参考にしてください。
オニツカ錐もみ商法とは(前編)http://www.createvalue.biz/column2/post-93.html
オニツカ錐もみ商法とは(後編)http://www.createvalue.biz/column2/post-94.html
■鬼塚会長は、まさに"志"の人でした。
いくら戦略を駆使しても、志がなければ、それは小手先の動きになってしま
います。
鬼塚会長の志が、アシックスを作り上げたのです。
■今回は"志"の話をしてみたいと思います。
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■私は元来、魂とか精神とか根性とかいう言葉が嫌いなタチです。
営業に魂はいらない!と宣言していたぐらいです。
というのも、私が営業の一線にいた頃、とにかく営業は根性論が主流でした。
私のいた会社もご多分に漏れず、昔実績を上げたらしい「営業の鬼」が、経
験論をもとに、非効率非科学極まりない指示をとばしていました。
できない者は根性が足りない。言われてすぐに走らない者はダメだ。営業は
ゴミになりきれる奴だけでいい。理屈を言う奴はいらない。
その実、やっている政策は安売りだけ。「名刺代わり」と称する安売りが、
唯一の戦術でした。
■もちろん、営業に魂は必要です。いくら知識と理論とスキルがあっても、
魂のない営業が活躍を持続することはできません。それは充分承知の上です。
要するに、営業根性論のアンチテーゼとして、根性不要論を謳っているわけ
です。
しかし、ここ何年か、営業にも生産性向上が議論されるようになりました。
宋文州「やっぱり変だよ日本の営業」
藤本篤志「御社の営業がダメな理由」
などといった著作が発売されて、営業の効率性追求の姿勢も一般的になって
きた感があります。
大昔の恐竜のような営業の鬼への反発から、営業精神論を頑なに廃してきた
私ですが、メジャーが営業生産性向上を謳うなら、その役割も終わりを告げ
たのかも知れません。
むしろ、弱者の私は、そろそろ、営業の精神性を強調すべき時期に来ている
のでしょうか^^
■確かに、営業でも経営者でも、トップクラスの人は、強烈な精神性を持っ
ている気がします。
アシックスの鬼塚喜八郎会長はその典型です。あんなに気高く、エネルギー
に溢れた人を見たことがありません。
自分にそのマネはできるだろうかと甚だ疑問に思いながらも、その必要性を
再評価しているところです。私のコンサルティングに「精神論」が加わって
も、そんなに驚かないでくださいね^^
■私がコンサルティングに精神性を持ち込まない理由のもう1つは、理想の
コンサルタントだと密かに掲げる人物のイメージが念頭にあることです。
私が経営コンサルタントを目指した時、理想像としてベンチマークしたのは
(言うのが少々気恥ずかしいのですが)1800年前の中国の蜀という国の
軍師、諸葛亮孔明です。
彼は三国志の中でも屈指の英雄として、さらには、中華民族5000年の誇
りとまで言われる人物です。
もっとも彼の実像は「そこにいるのが分からないぐらい」影の薄い人物であ
ったと言われます。つまり、決してカリスマ性やハッタリで人に影響を及ぼ
す人物ではなく、あくまでその知識とスキル、その活用であれだけの仕事を
やってのけた人物なのです。
だから私は、コンサルタントには派手なパフォーマンスも根性論も必要ない
というイメージを持ち続けていたのです。
■諸葛亮、字は孔明。一族には各国の参謀として仕えた者が多く、学究一家
であったと思われます。本人も学者肌の人で、若くからその才能を知られる
ところとなっていました。
もっとも世俗的な野心は全くといっていいほどなく、質素な晴耕雨読の生活
を長く送っていました。才能を聞きつけた劉備玄徳の誘いを2度もかわし、
3度目でようやく応じた話は「三顧の礼」としてあまりにも有名です。
■劉備玄徳は、三国志という壮大な物語の主人公に設定されている人物です
が、正直言って、なんでこの人物が主人公なんだろうと思えるような凡庸な
男です。
しかし、この男には、人を惹きつける何かがあったようです。関羽、張飛と
いう稀代の英傑が兄と慕い、強大な魏という国の創設者曹操でさえ「天下に
英雄と言えるのは、私と劉備しかいない」と語っています。(物語の中です
が...)
もっとも、この時まで、劉備はあちこちを転戦する外人部隊のリーダーのよ
うな程度の者だったのです。戦乱の世を生きのびてきた強運としぶとさは認
められますが、いつ消えてもおかしくない存在です。
■ところが、この男には、巨大な"志"を持ち続けるという稀有の才能があ
りました。それは、漢王朝の再興とも、民衆のための国家を作るというビジ
ョンであったとも言われます。この根無し草のような男を慕って数万の民衆
が行動を共にしようとしていました。曹操に追われて敗走する際にも、足手
まといになる民衆を見捨てずに、一緒に行動したという愚直な男です。
そんな劉備に諸葛亮は何を見たのでしょうか。
諸葛亮は、劉備が訪れた3度目に初めて会います。その時、劉備から、その
熱い志を語られます。自分にはこんな"志"がある。そして、それには孔明が
必要なのだと。
諸葛亮がその時、強い何かに惹き付けられたのは間違いありません。以降、
文字通り、生涯に渡って、劉備玄徳と彼の建国した蜀という国に身を捧げる
ことになるのですから。
後に劉備が死ぬ時「私の息子が王の器でなければいつでも代わってほしい」
と告げられますが、もちろんその姿勢は変わらず、一介の軍師として劉備の
息子を支え続けたのです。
私は、諸葛亮が、劉備玄徳の"志"に強く打たれたのだと解釈しています。
それまで、天下に並ぶものがないほどの学問の才能を認められながらも、彼
は、一介の農民に過ぎませんでした。
それが、劉備玄徳の持つ"志"に共鳴し、この男に賭けてみようと思ったのです。
いくら学問に通じていようと、天下を動かす程のスキルがあろうと、魂がなければ
宝の持ち腐れです。劉備によってそこに熱い魂を注ぎこまれました。いわば、命を
与えられたのです。彼は、そのことに生涯恩義を感じていました。
■諸葛亮は、劉備に「天下三分の計」という戦略を授けます。中国を制覇し
つつあった魏に対抗するために、呉という国と手を組み、第三勢力を打ち立
てるという壮大な構想です。
もし、この戦略がなければ、中国はそのまま魏に統一されていたことでしょ
う。まさに、諸葛亮の戦略が中国史に三国時代を作り上げたのです。
劉備はこの戦略に目を開かされます。
諸葛亮に説き伏せられた呉は、彼の協力のもと「赤壁の戦い」で魏を打ち
破り、三国時代を現実のものとするのです。
■劉備玄徳は、蜀を建国し、その王となります。
諸葛亮は、一気に魏を攻め立て、勢力拡大を図りますが、孔明の才能に恐れ
を抱いた呉の裏切りで、頓挫してしまいます。
この呉の裏切りによって関羽が戦死し、怒り狂った劉備も罠にはまって失意の
もとに斃れます。
■劉備、関羽、張飛という英雄たちの亡き後、抜群の内政能力で、国力を充実
させた諸葛亮ですが、魏のわずか1/6という小さな国では、いずれ攻め滅
ぼされることは明らかです。
だから諸葛亮は執拗に魏を攻め続けます。攻めなければ、滅ぼされるという
危機感があったのです。
しかし、そこに"志"を体現する劉備玄徳はもういません。民衆は、現状に
安寧することを望むもの。誰も戦争を求めません。
そこで、諸葛亮が書いたのが有名な「出師表」です。これは、自分がなぜ魏
に対して戦争を起こさなければならないかを書き綴った決意表明です。
そこには、蜀の置かれた現状、先帝に対する恩義、自身の悲壮な決意が書か
れています。美辞麗句は使用せず、簡潔に書かれた名文で、当時「これを読
んで泣かない者はいない」と称えられたものです。
諸葛亮は、自分に足りないカリスマ性をこうした「ビジョン」を示すことに
より補おうとしたのでしょう。この出師表が孔明の行動に裏づけを与え、民
衆は彼を指示したのです。
■5度に渡る北伐の後、諸葛亮が、五丈原に斃れたのは西暦234年の秋で
した。(日本では邪馬台国の時代です)
諸葛亮に立ちはだかった魏の総司令官が、司馬懿仲達という人物。後に、魏
を転覆させ晋を建国する野心あふれる男です。
司馬懿は、しかし、諸葛亮を恐れ、まともに戦おうとしませんでした。彼の
とった方法は持久戦という「強者の戦略」です。
弱者として生涯を戦い続けた諸葛亮孔明。それに対して強者としてミートし
た司馬懿仲達。この二人の英雄の秘術を尽くした戦いは、三国志のハイライ
トの1つであると同時に、軍事戦略の奥深さを見せ付けるものとなっていま
す。
もっとも、これを語るとまた長くなるので、またの機会にしたいと思います
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