なぜ我々にはマーケティングが必要なのか?

2011.07.28

(2011年7月28日メルマガより)


■小宮一慶氏の「ドラッカーが『マネジメント』でいちばん伝えたかったこ
と。」という本が出ています。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4478015414/lanchesterkan-22/ref=nosim

小宮氏は、独自の地位を築いている経営コンサルタントです。会計に強いと
いう印象がありますが、その著作は多岐にわたっています。

ハッタリやけれんみを殆ど感じさせない人で「すぐに稼げる実践ノウハウ」
とか「インパクトのあるキャッチ」とか言わないので、私は密かに好感を持
っています。

私の知人の一人が、小宮氏に師事しており、その人柄を絶賛していました。
ハッタリがないのに世に出ているというのは、その仕事内容や本質的な思想
で評価されているということではないでしょうか。

この世界、アクの強い厄介な人が多いので、誠実な人柄というだけで、尊敬
してしまいますがね^^

その小宮氏が、今を時めくピーター・ドラッカーを解説するというのだから、
贅沢な本ですね。

ドラッカーブームの便乗本だとは思わないようにしましょう。

■小宮氏のフィルターを通したとはいえ、さすがに分かりやすい。

少々クセのあるドラッカーの文章に慣れない方でも、これを読めば「マネジ
メント」に書かれた彼の思想をある程度把握できるはずです。

私の知人によると、小宮氏は、テクニック的なことは殆ど言わずに、常識的
な当たり前のことを大切にする人らしいですが、その印象通りに、ドラッカ
ーを捉えています。

ドラッカーも本質的なことばかりをその著作に残していった人だということ
が、小宮氏を通しても分かります。

■ドラッカー自身は、自分のことを「文筆家」と称していました。

実際、その著作は、学者の書くような実証的なものではありません。作者の
主張や思想が書き連ねられたものです。

ただし、その考察は深く、本質的な問題を捉えていると思わせる部分が多い。

実証もなく言い切るスタイルが嫌だと言う人がいるかも知れませんが、それ
が多くの読者の心を捉えているのは事実です。

それにやや含みを持たせた抽象的な言い回しは、様々な解釈を可能とします。

だから、警句や金言として抜き出すことができる一文が多いのでしょう。

ドラッカーの人気の秘密を3つ上げるとすれば、本質的、解釈が多岐にわた
る、金言が多いということになるでしょうか。

■小宮氏の「マネジメント」のまとめは明快です。

○企業の本質は、マーケティングとイノベーションである。

○そのためには、1.事業を定義する、2.目標を決める、3.人を動かす、
という企業の活動をマネジメントしていく必要がある。

○マネジメントの役割は、1.自らの組織に特有の使命を果たす、2.仕事
を通じて働く人たちを生かす、3.自らが社会に与える影響を処理するとと
もに、社会の問題について貢献することである。

ということになります。これは、まえがきに書かれていることです。

企業の本質であるというマーケティングとイノベーションとは何か

これも小宮氏の言葉でいうと、マーケティングはお客様、社会など「外部か
らの視点」を徹底させていくこと。

イノベーションとは、世の中の変化に合わせて「現在と未来のバランス」を
とりながら、今より良くするために企業活動を行うこと。です。

ドラッカーは「企業の目的は、顧客を創造することである」とも言っていま
すが、これはまさに本質であるマーケティングの機能を言い表しています

つまり企業活動とは、マーケティングそのものであり、進歩発展のためにイ
ノベーションが必要である、ということになります。

■ちなみに私はマーケティング理論の信奉者です。

経営コンサルティングの現場では、営業だけではなく、技術も開発も生産も
マーケティング理論の基本を理解してもらうことから始めます。

生産にマーケティングはいらんやろーーとはあまり言われませんね。皆さん、
企業活動の本質であるマーケティングの重要性は理解されています

むしろ、ベテラン営業から「マーケティングや何や知らんけど、そんなもん
でモノが売れるか!」と反発されることが多いですね^^;

■なぜマーケティングが必要なのか。というと、その本質が「顧客志向」に
あるからです。

この少子化が進む構造的に低成長の国である日本において、売り手側の都合
を押し通していては、到底モノを売ることはできません。

顧客の立場から何が必要かを考えて営業活動をしなければならないことは、
まともな営業なら全てが理解しているはずです。

「死ぬ気でやれば売れる」と精神論を語る人でさえ、顧客の立場で考えるこ
とが何より重要であることを否定しないでしょう。

マーケティング理論は、顧客志向から出発し、顧客の欲求をいかにしてビジ
ネスに結びつけるのかをプロセスとして提示してくれます。

顧客志向を貫こうとする時、マーケティングほど合理的な考え方はないのです。

ちなみに「顧客志向」の大切さは、前回のメルマガにも書いた通りですが、
経営の根幹に関わることなので、何度でも言いたいと思います。

参考「いい商品」って何ですか?
http://www.createvalue.biz/column2/post-191.html

私は自分のコンサルティングの根幹にマーケティング理論を置いています。

営業戦略を立案するにしろ、地域戦略に落とし込むにしろ、人材育成をする
にしろ、「顧客志向」がなければ、成果に結びつくものは生み出すことはで
きません。

だからまず最初にマーケティング理論の概念をよく理解していただきます。

中には「理屈は分ったから具体的なノウハウを言え」と言い出す人がいます
が、そんな言葉が出てくるうちは、顧客志向を理解していないと判断します
ので、次には進めません^^;

進んだところで、無駄ですからね。

私の経験上、顧客志向を理解していない人に戦術を伝えても、実践段階で捻
じ曲がってしまいます。

お互い無駄な時間は使わない方がよりよい人生のためだと思うに至った次第
です。

■マーケティング理論が示す「顧客第一」の精神は、実は、我々日本人が古
くから持っていた商売の心でもあります。

例えば、日本の商売の原点である「近江商人」を挙げましょうか。

近江商人とは、その名の通り、近江国(今の滋賀県)が出自の商人のグルー
プです。

古く鎌倉時代から活動を始め、江戸時代には、全国で活躍し、大商人を多く
生み出しました。

現在でも残る大企業の中には、近江商人の系譜を引き継ぐものが少なくない
といわれています。

■近江商人は、商売のセンスに優れ、儲けることを大いに肯定し、また実際
に儲けていたためか、町人や武家の文化を持つ江戸の人びとからは妬まれ、
蔑まされることもあったようです。

しかし、代々守り続けた商売に対する独自の哲学には、注目すべきものがあ
ります。

私は必ずしも、近江商人の文化に詳しいわけではありませんが、滋賀県の企
業さんともお付き合いがありますので、その歴史的に引き継がれた商売セン
スなるものの一端を感じることもあります。

間違ってはいけないのは、それは「大阪商法」という蔑称に代表される目先
の小利益を確保しようというものなどではありません。

(大阪商法というものは、孫子などの兵法や交渉術を極めて短絡的に利用し
た浅はかな商売のやり方だと私は感じます)

むしろ、近江商人は、極めて、長期的に繁栄するための知恵を身に着けてい
るのだと感じさせます。

■近江商人の商売十訓なるものをご紹介いたします。

☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆

1.商売は世のため、人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり

2.店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何

3.売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる

4.資金の少なさを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし

5.無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ

6.良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり

7.紙一枚でも景品はお客を喜ばせる、つけてあげるもののないときは笑顔を
景品にせよ

8.正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ

9.今日の損益を常に考えよ、今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ
習慣にせよ

10.商売は好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ

☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆

いかがでしょうか。

鎌倉時代から、800年以上続いた歴史は伊達ではないことが分っていただ
けるのではないでしょうか。

■この十訓を読めば、近江商人の思想が、現代的なマーケティングの理念に
極めて近いものを持っていたということが分るはずです。

例えば1番の「商売は世のため、人のための奉仕にして、利益はその当然の
報酬なり」というくだり。

マーケティング理論では、ビジネスの目的は「社会への貢献」です。そして、
その利益は、次の社会貢献のための原資と考えます。

つまり、すべての経済活動は、公の幸せに結びつくように行われなければな
らない。

それがマーケティング理論の「顧客志向」であり「社会志向」です。

江戸時代の階級制度の中では卑しいものと規定された商い行為が、本当は世
のため人のための奉仕であると、近江商人たちはが強烈に自負していたこと
が分かります。

■あるいは5番の「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになる
ものを売れ」というくだり。

これぞまさに、商品・サービスの核は「問題解決のパッケージ」だというマ
ーケティングの考え方に合致するものです。

一部にはマーケティングの行為は、徒に人々の欲望を煽って、不要なものま
でも消費させようとするものではないかと考える人もいるようですが、それ
はマーケティングの理念に則するものではありません。

マーケティングの信奉者は、それが売れる、というだけでは十分だとは考え
ません。それが「よりよい社会への進歩・発展につながる」かどうかを留意
します。

十訓にはありませんが、「三方よし(客よし、店よし、世間よし)」という
考え方にも通じます。

売れればいいよ。儲かればいいんだろ。という姿勢は、マーケティング理論
からは導き出されません。

そういう者がいたら、それはマーケティングを理解していない輩です。

■このようにマーケティングとは、理念であり、思想でもあります。

もちろん単なるマーケット・リサーチなどではありません。

あらゆる企業に理念が必要であるように、マーケティングは必要不可欠なも
のです。

営業に携わる者はもとより、経済活動に関わる者すべてが、マーケティング
の理論と戦略を身に着けておくべきだと私は考えます。

分っていただけるでしょうか。

■近江商人の商売十訓は、長い間の経験則として導きだされたものなので、
重みがあります。

これに対して、マーケティング理論は、この100年ぐらいの間に、優れた
企業家や学者たちが、仮説と実証を繰り返しながら体系化してきたものです。

図らずも、双方の提示する思想は類似していたのです。

■何度でも言いますが、この根本がなければ、商売やビジネスといわれるも
のは、浅はかで短絡的なものとなってしまいます。

残念ながら、私自身も独立当初は「まず稼ごう」と愚かにも考えて、同じよ
うな姿勢の人たちとつるんで行動しようとしたことがありました。

消し去りたい過去ですが、仕方がありません。

自分では戦略を立てて動いているつもりでも、金儲けが目的となった行動は、
自分の都合を優先させることになってしまいます。

人間は目的や目標を持てば、それに向かって動くという特性があるようで、
マーケティング戦略に従っているつもりでも、最後の判断の中に「ここを誤
魔化せば儲かるな」とか「儲けるために、都合の悪いことは言わないでおこ
う」とか考えてしまいます。

なんと短絡的で浅はかなビジネス活動なんでしょうか。まさに目先の千円を
拾おうというビジネスです。

こういうやり方が長く続かないことは、自らの経験が示しています。

だからこそ、マーケティングの理念の大切さを身に沁みて感じています。

私が、馬鹿のように、原理原則を言い続ける所以です。

■ドラッカーが現在の日本で読まれているのは、やはり人びとの気持ちの中
に、本質的な価値への希求が強いということなのでしょう。

本質的な価値から演繹的に体系化されたドラッカーの理論は、やはり素晴ら
しいものだと思います。

マーケティングの体系や、競争戦略の体系とともに、一度は勉強しておきた
いものですね。

私も自分の体系の中に、取り入れられるものは取り入れたいと思います。




(2011年7月28日メルマガより)


■小宮一慶氏の「ドラッカーが『マネジメント』でいちばん伝えたかったこ
と。」という本が出ています。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4478015414/lanchesterkan-22/ref=nosim

小宮氏は、独自の地位を築いている経営コンサルタントです。会計に強いと
いう印象がありますが、その著作は多岐にわたっています。

ハッタリやけれんみを殆ど感じさせない人で「すぐに稼げる実践ノウハウ」
とか「インパクトのあるキャッチ」とか言わないので、私は密かに好感を持
っています。

私の知人の一人が、小宮氏に師事しており、その人柄を絶賛していました。
ハッタリがないのに世に出ているというのは、その仕事内容や本質的な思想
で評価されているということではないでしょうか。

この世界、アクの強い厄介な人が多いので、誠実な人柄というだけで、尊敬
してしまいますがね^^

その小宮氏が、今を時めくピーター・ドラッカーを解説するというのだから、
贅沢な本ですね。

ドラッカーブームの便乗本だとは思わないようにしましょう。

■小宮氏のフィルターを通したとはいえ、さすがに分かりやすい。

少々クセのあるドラッカーの文章に慣れない方でも、これを読めば「マネジ
メント」に書かれた彼の思想をある程度把握できるはずです。

私の知人によると、小宮氏は、テクニック的なことは殆ど言わずに、常識的
な当たり前のことを大切にする人らしいですが、その印象通りに、ドラッカ
ーを捉えています。

ドラッカーも本質的なことばかりをその著作に残していった人だということ
が、小宮氏を通しても分かります。

■ドラッカー自身は、自分のことを「文筆家」と称していました。

実際、その著作は、学者の書くような実証的なものではありません。作者の
主張や思想が書き連ねられたものです。

ただし、その考察は深く、本質的な問題を捉えていると思わせる部分が多い。

実証もなく言い切るスタイルが嫌だと言う人がいるかも知れませんが、それ
が多くの読者の心を捉えているのは事実です。

それにやや含みを持たせた抽象的な言い回しは、様々な解釈を可能とします。

だから、警句や金言として抜き出すことができる一文が多いのでしょう。

ドラッカーの人気の秘密を3つ上げるとすれば、本質的、解釈が多岐にわた
る、金言が多いということになるでしょうか。

■小宮氏の「マネジメント」のまとめは明快です。

○企業の本質は、マーケティングとイノベーションである。

○そのためには、1.事業を定義する、2.目標を決める、3.人を動かす、
という企業の活動をマネジメントしていく必要がある。

○マネジメントの役割は、1.自らの組織に特有の使命を果たす、2.仕事
を通じて働く人たちを生かす、3.自らが社会に与える影響を処理するとと
もに、社会の問題について貢献することである。

ということになります。これは、まえがきに書かれていることです。

企業の本質であるというマーケティングとイノベーションとは何か

これも小宮氏の言葉でいうと、マーケティングはお客様、社会など「外部か
らの視点」を徹底させていくこと。

イノベーションとは、世の中の変化に合わせて「現在と未来のバランス」を
とりながら、今より良くするために企業活動を行うこと。です。

ドラッカーは「企業の目的は、顧客を創造することである」とも言っていま
すが、これはまさに本質であるマーケティングの機能を言い表しています

つまり企業活動とは、マーケティングそのものであり、進歩発展のためにイ
ノベーションが必要である、ということになります。

■ちなみに私はマーケティング理論の信奉者です。

経営コンサルティングの現場では、営業だけではなく、技術も開発も生産も
マーケティング理論の基本を理解してもらうことから始めます。

生産にマーケティングはいらんやろーーとはあまり言われませんね。皆さん、
企業活動の本質であるマーケティングの重要性は理解されています

むしろ、ベテラン営業から「マーケティングや何や知らんけど、そんなもん
でモノが売れるか!」と反発されることが多いですね^^;

■なぜマーケティングが必要なのか。というと、その本質が「顧客志向」に
あるからです。

この少子化が進む構造的に低成長の国である日本において、売り手側の都合
を押し通していては、到底モノを売ることはできません。

顧客の立場から何が必要かを考えて営業活動をしなければならないことは、
まともな営業なら全てが理解しているはずです。

「死ぬ気でやれば売れる」と精神論を語る人でさえ、顧客の立場で考えるこ
とが何より重要であることを否定しないでしょう。

マーケティング理論は、顧客志向から出発し、顧客の欲求をいかにしてビジ
ネスに結びつけるのかをプロセスとして提示してくれます。

顧客志向を貫こうとする時、マーケティングほど合理的な考え方はないのです。

ちなみに「顧客志向」の大切さは、前回のメルマガにも書いた通りですが、
経営の根幹に関わることなので、何度でも言いたいと思います。

参考「いい商品」って何ですか?
http://www.createvalue.biz/column2/post-191.html

私は自分のコンサルティングの根幹にマーケティング理論を置いています。

営業戦略を立案するにしろ、地域戦略に落とし込むにしろ、人材育成をする
にしろ、「顧客志向」がなければ、成果に結びつくものは生み出すことはで
きません。

だからまず最初にマーケティング理論の概念をよく理解していただきます。

中には「理屈は分ったから具体的なノウハウを言え」と言い出す人がいます
が、そんな言葉が出てくるうちは、顧客志向を理解していないと判断します
ので、次には進めません^^;

進んだところで、無駄ですからね。

私の経験上、顧客志向を理解していない人に戦術を伝えても、実践段階で捻
じ曲がってしまいます。

お互い無駄な時間は使わない方がよりよい人生のためだと思うに至った次第
です。

■マーケティング理論が示す「顧客第一」の精神は、実は、我々日本人が古
くから持っていた商売の心でもあります。

例えば、日本の商売の原点である「近江商人」を挙げましょうか。

近江商人とは、その名の通り、近江国(今の滋賀県)が出自の商人のグルー
プです。

古く鎌倉時代から活動を始め、江戸時代には、全国で活躍し、大商人を多く
生み出しました。

現在でも残る大企業の中には、近江商人の系譜を引き継ぐものが少なくない
といわれています。

■近江商人は、商売のセンスに優れ、儲けることを大いに肯定し、また実際
に儲けていたためか、町人や武家の文化を持つ江戸の人びとからは妬まれ、
蔑まされることもあったようです。

しかし、代々守り続けた商売に対する独自の哲学には、注目すべきものがあ
ります。

私は必ずしも、近江商人の文化に詳しいわけではありませんが、滋賀県の企
業さんともお付き合いがありますので、その歴史的に引き継がれた商売セン
スなるものの一端を感じることもあります。

間違ってはいけないのは、それは「大阪商法」という蔑称に代表される目先
の小利益を確保しようというものなどではありません。

(大阪商法というものは、孫子などの兵法や交渉術を極めて短絡的に利用し
た浅はかな商売のやり方だと私は感じます)

むしろ、近江商人は、極めて、長期的に繁栄するための知恵を身に着けてい
るのだと感じさせます。

■近江商人の商売十訓なるものをご紹介いたします。

☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆

1.商売は世のため、人のための奉仕にして、利益はその当然の報酬なり

2.店の大小よりも場所の良否、場所の良否よりも品の如何

3.売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永遠の客をつくる

4.資金の少なさを憂うなかれ、信用の足らざるを憂うべし

5.無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ

6.良きものを売るは善なり、良き品を広告して多く売ることはさらに善なり

7.紙一枚でも景品はお客を喜ばせる、つけてあげるもののないときは笑顔を
景品にせよ

8.正札を守れ、値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ

9.今日の損益を常に考えよ、今日の損益を明らかにしないでは、寝につかぬ
習慣にせよ

10.商売は好況、不況はない、いずれにしても儲けねばならぬ

☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆☆★★☆

いかがでしょうか。

鎌倉時代から、800年以上続いた歴史は伊達ではないことが分っていただ
けるのではないでしょうか。

■この十訓を読めば、近江商人の思想が、現代的なマーケティングの理念に
極めて近いものを持っていたということが分るはずです。

例えば1番の「商売は世のため、人のための奉仕にして、利益はその当然の
報酬なり」というくだり。

マーケティング理論では、ビジネスの目的は「社会への貢献」です。そして、
その利益は、次の社会貢献のための原資と考えます。

つまり、すべての経済活動は、公の幸せに結びつくように行われなければな
らない。

それがマーケティング理論の「顧客志向」であり「社会志向」です。

江戸時代の階級制度の中では卑しいものと規定された商い行為が、本当は世
のため人のための奉仕であると、近江商人たちはが強烈に自負していたこと
が分かります。

■あるいは5番の「無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになる
ものを売れ」というくだり。

これぞまさに、商品・サービスの核は「問題解決のパッケージ」だというマ
ーケティングの考え方に合致するものです。

一部にはマーケティングの行為は、徒に人々の欲望を煽って、不要なものま
でも消費させようとするものではないかと考える人もいるようですが、それ
はマーケティングの理念に則するものではありません。

マーケティングの信奉者は、それが売れる、というだけでは十分だとは考え
ません。それが「よりよい社会への進歩・発展につながる」かどうかを留意
します。

十訓にはありませんが、「三方よし(客よし、店よし、世間よし)」という
考え方にも通じます。

売れればいいよ。儲かればいいんだろ。という姿勢は、マーケティング理論
からは導き出されません。

そういう者がいたら、それはマーケティングを理解していない輩です。

■このようにマーケティングとは、理念であり、思想でもあります。

もちろん単なるマーケット・リサーチなどではありません。

あらゆる企業に理念が必要であるように、マーケティングは必要不可欠なも
のです。

営業に携わる者はもとより、経済活動に関わる者すべてが、マーケティング
の理論と戦略を身に着けておくべきだと私は考えます。

分っていただけるでしょうか。

■近江商人の商売十訓は、長い間の経験則として導きだされたものなので、
重みがあります。

これに対して、マーケティング理論は、この100年ぐらいの間に、優れた
企業家や学者たちが、仮説と実証を繰り返しながら体系化してきたものです。

図らずも、双方の提示する思想は類似していたのです。

■何度でも言いますが、この根本がなければ、商売やビジネスといわれるも
のは、浅はかで短絡的なものとなってしまいます。

残念ながら、私自身も独立当初は「まず稼ごう」と愚かにも考えて、同じよ
うな姿勢の人たちとつるんで行動しようとしたことがありました。

消し去りたい過去ですが、仕方がありません。

自分では戦略を立てて動いているつもりでも、金儲けが目的となった行動は、
自分の都合を優先させることになってしまいます。

人間は目的や目標を持てば、それに向かって動くという特性があるようで、
マーケティング戦略に従っているつもりでも、最後の判断の中に「ここを誤
魔化せば儲かるな」とか「儲けるために、都合の悪いことは言わないでおこ
う」とか考えてしまいます。

なんと短絡的で浅はかなビジネス活動なんでしょうか。まさに目先の千円を
拾おうというビジネスです。

こういうやり方が長く続かないことは、自らの経験が示しています。

だからこそ、マーケティングの理念の大切さを身に沁みて感じています。

私が、馬鹿のように、原理原則を言い続ける所以です。

■ドラッカーが現在の日本で読まれているのは、やはり人びとの気持ちの中
に、本質的な価値への希求が強いということなのでしょう。

本質的な価値から演繹的に体系化されたドラッカーの理論は、やはり素晴ら
しいものだと思います。

マーケティングの体系や、競争戦略の体系とともに、一度は勉強しておきた
いものですね。

私も自分の体系の中に、取り入れられるものは取り入れたいと思います。




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