物語風ビジネス書を読んでみよう

2012.05.03

(2012年5月3日メルマガより)


■「100円のコーラを1000円で売る方法」という本が売れているそうですね。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4806142395/lanchesterkan-22/ref=nosim

これは、マーケティングの基礎理論を物語に乗せて紹介した本です。

主人公は美貌の商品プランナー。

だだし勢いだけが取り柄の若い未熟な女性で、画に描いたようなトンチンカ
ンな行動で失敗を重ねますが、マーケティング理論を一つ一つ学ぶことで、
徐々に成長してきます。

周りを固めるのは、主人公が反発するマーケティングの理論家や、その理論
家を師匠と仰ぐライバル会社の女性営業、主人公に振り回される草食系の若
い男性など。

物語そのものは、理論を紹介するための付けたしで、小説として読むにはも
の足りない。

また理論書としても、あくまで教科書の要約的な内容に止まっています。

しかし、教科書的に理論を羅列されるよりも、物語仕立てにする方が印象に
残ります。

特に初めてマーケティングの理論を学ぶ人にとっては、いい本だと思います。

■例えば、最初の方で、主人公の女性が大型受注を勝ち取るために、顧客の
要望という要望を全て採りいれた商品を作り上げて提案しますが、まるで顧
客の要望を無視したかのように見えるライバル会社の商品に競り負けてしま
います。

なぜなら自社の商品は顧客の顕在ニーズを満たした商品に過ぎないが、ライ
バル会社の商品は、顧客が思いもつかなかったが、確実に顧客のためになる
商品だったからです。

マーケティングの基本は顧客視点に立つことですが、目先の要望や競合の動
きばかり気にしていたら、本質を見誤ります。

これをマーケティングの用語で、マーケティングマイオピア(近視眼的マー
ケティング)といいます。

概念自体は、古典的なものですが、この概念を勉強し直した方がいい企業や
個人は今でも多いと感じます。

そんな時に、古い学者(セオドア・レビット)の言葉を持ち出すよりも、若
い綺麗な女性が失敗して悔し涙を流す場面を見せた方が、はるかに心に残る
ことでしょう^^

■最近、小説仕立てのビジネス書が増えていると思うのですが、いかがでし
ょう。

「100円のコーラを...」と似たテイストを持つ本に「すべては戦略からはじ
まる─会社をよくする戦略思考のフレームワーク」があります。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4478014566/lanchesterkan-22/ref=nosim

こちらも美貌のマーケター(だったかな?)が、旧態依然とした営業組織に
戦略のフレームワークを導入して、みごと立て直す話です。

物語としては、嫌なベテラン営業が汚いやり口で主人公の邪魔をしたり、手
助けする草食系男子が主人公に恋心を抱いたりします。

そんな物語展開の中で、これもまたやはり、基本的な戦略立案の理論を紹介
していきます。

好き嫌いは分かれるでしょうが、私は面白かったですよ^^

■少し古いですが、「ドリルを売るには穴を売れ」という本にも、面白い物
語が載っています。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4413036239/lanchesterkan-22/ref=nosim

主人公は、若くて可愛らしい(かどうかは書いていないが...)女性のマーケ
ターです。彼女が、マーケティングの基本的なスキームを活用しながら、イ
タリアンレストランを再生する話です。

ロマンスこそありませんが、つっけんどんなコンサルタントがいたり、とぼ
けているが実はデキる上司がいたり、反発する現場の職人がいたり、いかに
もありそうな配役ですが、面白い物語展開となっています。

こちらは、理論説明と物語が並行して記載されています。

■体系的な理論を掲げるハードな専門書ではなく、すぐに使える実践ノウハ
ウを売りにするソフトなビジネス書のブームが始まったのは、今から10年
ほど前からですかね。

私が独立する前後だったからよく憶えています。確かに新鮮で、何冊か必死
に読んだ記憶があります。

あの頃「学術的理論は実践では役に立たないから机上の空論だ。実際に役立
つノウハウを伝える」というのが、実践ノウハウ本の主義主張でした。

いかにもリアルを売りにするので、具体的事例満載で、それを読んでいるだ
けで、成功するような気になったものですね^^;

もっとも、学術的理論は、客観的な実証手続きを経た上で、抽象化体系化さ
れています。

逆に実践ノウハウは、確かに具体的事例から構成されているものの、それは
作者一人の才覚で培ったノウハウやスキルの提示です。

つまり、学術的理論の方が客観的であり、実践ノウハウの方が主観的です。

実践ノウハウ本を読んでいて気づいたのは、実は、それは、読者に向けて
「ボクはこういうやり方で成功したんだ。君もきっと成功できるよ」と直接
語りかける形式の物語であるということです。

ということは、現在の物語形式のビジネス書ブームは、実践ノウハウ本ブー
ムからの発展形です。

■一時期のノウハウ本ブームが去った感があるのは、ターゲットとなる前向
きな読者層に一巡したのか、あるいはワンパターンの物語に食傷気味なのか。

だから物語風ビジネス書は、その反省に立つものだと思われます。その特徴
として

1.扱う理論体系がしっかりしていること。(単なる経験談なら、物語がよ
ほどしっかりしていないと読むに堪えないものとなります)

2.物語そのものは単純であること。(あまり複雑だと、理論説明の邪魔に
なります)

3.キャラクターで勝負すること。(物語が単純なので、そうなります。読
者層を考えると、萌え系が多くなるのかな^^)

などがあげられるでしょうか。

特に1は、ノウハウ本の弱点を補うものだと考えます。

■もっとも上の3冊は、リアルな臨場感という意味では不満も残ります。ど
うも、作り事めいた底の浅さが見えてしまう。

最近のビジネス書では「下町ロケット」のような直木賞受賞作も現われまし
たから、決してこのジャンルがすべて無味乾燥なものではない。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4093862923/lanchesterkan-22/ref=nosim

ただし「下町ロケット」は、物語に主軸を置いているので、それを読んだか
らといってビジネスの勉強にはならないと思いますが。

■しっかりした経営理論を学び、かつ、理論の活用方法を臨場感を持って知
ることができる物語風ビジネス書はないものか。

それならば、最近の本ではなく、古典といっていいかも知れませんが、この
メルマガで何度か紹介したことのある三枝匡氏の「V字回復の経営─2年で会
社を変えられますか」をお勧めします。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4532193427/lanchesterkan-22/ref=nosim

噂によると、三枝氏が実際にコンサルティングを手掛けたコマツの子会社の
再生事例を物語化したもののようです。私自身のコンサル経験から考えても、
リアルな内容だと感じますし、誇張や美化することなく誠実に書いているな
あと思います。

なお三枝氏にはこの他にも優秀な物語風のビジネス書がありますので、ご参
考に。

「経営パワーの危機─会社再建の企業変革ドラマ」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4532191653/lanchesterkan-22/ref=nosim

「戦略プロフェッショナル─シェア逆転の企業変革ドラマ」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4532191459/lanchesterkan-22/ref=nosim

■萌え系とビジネス書の融合という流れを作ったのが「もし高校野球の女子
マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(もしドラ)で
あることは間違いないでしょう。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4478012032/lanchesterkan-22/ref=nosim

普段ビジネス書を手にとらない読者に対して、ドラッカーの名と存在を知ら
しめたということでは、この本の効果は絶大でした。

私の分析でいうと、やはりこの本の成功は、

1.前提となる理論がしっかりしている。(ドラッカーですから)

2.物語がシンプルで面白い。(ベタベタ過ぎるとも言われますが)

3.キャラクターが立っている。(AKB風のキャラ立て)

ということになります。

この本がえらい売れたおかげで似たような本がその後、雨後のタケノコのご
とく(←この言い回しもよく分かりませんが...)出版されることとなりました。

おそらくこれからも類似本、便乗本が出てくるのでしょうな。

作者の岩崎夏海氏は、文学界よりの方で、物語に対するこだわりはひとしお
のようですから、最近の便乗本の隆盛をみて、どう感じておられるのでしょ
うかね。

■今後、物語風ビジネス書はどのようになっていくのか。

おそらく物語の部分を深化洗練させていく方向にいくのでしょうね

(理論紹介を深化させる本も出てくるでしょうが、難しくなると売れなくな
るので続かないでしょうから)

今、あまりに単純でパターン通りの物語が多いですから、ちょっとひねりを
効かせて、推理小説風、冒険小説風、SF小説風、時代小説風の物語を持ち
込むと面白くなるかも知れません。

そうなると、ビジネス畑の人間が書くのは難しくなるので、プロの小説家に
やってもらわなければなりません。

今は、プロの小説家は、物語風ビジネス書などバカバカしくて書いていられ
ないでしょうが、一つ売れる本が出るとその気になる人も現われるかも知れ
ません。

期待したいですね。

■「もしドラ」の岩崎夏海氏が、自身のブログで、物語を語る能力の重要性
について書いています。

参考:これからはローカルで勝てる人材こそ求められる
http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20120501/1335859069

この中で岩崎氏は「物語は、多くの人の生きる気持ちをドライブする力があ
る」と書いています。いわゆるモチベーションを上げる効果です。

ところが今、物語が失われています。特に「アメリカに追いついて、豊かな
生活を手に入れよう」といった大きな物語がない。

だから人々はネットや書籍や人との交流などで自分にしっくりくる物語を見
つけてきては、生きる気持ちのドライブにしています。

例えば「誠実にコツコツ働くことで成功する」という物語。

あるいは「周りの人にありがとうの気持ちを伝えることで幸せになる」とい
う物語。

「孫子の兵法を身に着けることでビジネスの社会で生きていける」という物語。

これからの時代、求心力を持つのは、こうした人々を惹きつける物語を作れ
る人材なんだ。というのが岩崎氏の主張でしょう。

■全くその通りだと思います。

物語は、論理よりはるかに強く人々の心に訴える力を持ちます。

それは何千年もの間、人々が世界を理解するために使ってきた受容器なのだ
と私は考えています。

小説や映画など物語に触れていると「理屈では理解し難いが、受け入れるこ
とはできる」という感覚を持つことがあります。

例えば、村上春樹の小説にしばしば登場する羊の被り物をした男の存在。

あるいは神話や民話などで、村人全員が死んだ時に、子供一人だけ助かった
というような話。

ガルシアマルケスの「予告された死の記録」で、惨殺された男が家に帰って
きて「おれは殺されたんだよ」と言ってから倒れる場面。

要するにこれらの事例は、論理と物語の違いを表すものです。

■「理屈では分からんが、内容はしっくりくる」それは物語として、受け入
れられているということです。

確かに世の中には、論理的な矛盾を起こして、正確な答えが出せない事柄と
いうのはたくさんあります。

あるいは情報が少なくて、客観的な判断が難しいということも多い。

それでも、行動する者としては判断して答えを出さなければならない。

そんな時に物語の力は威力を発揮します。

例えば、ろくな商品もないのに売上を上げてこいと言われた営業チーム内で
「言われたらやらなしゃあない」で済ますのではなく、「この状況で売るこ
とが出来たら開発陣を一泡吹かせられるぞ。やるだけのことはやってやろう
ぜ!」と言うことが出来るのが優れたリーダーです。

そういう意味で、論理だけではなく、物語を操ることのできる人材が、求心
力を持つことは間違いないと思います。

■思えば、実践ノウハウ本も自己啓発本も、論理ではなく、物語の文脈の上
に成り立つものでした。

だから物語は大きなパワーを持つと同時に危険なものでもあります

「寝ていても億万長者になれる方法がある」

「成功者の言う通りしていれば、自分も成功できる」

「あの人は現世にいても不幸なだけだから、来世に送ってやるのが、あの人
のためだ」

こうした物語に安易に乗ってしまう人のなんと多いことか。

■人間は何も考えていないと「快・不快の法則」に囚われています。

これは、人間の本能として、快感を覚えるもの(食欲、性欲、睡眠欲、集団
欲などを満たすもの)に惹かれるという法則です。

当然のことながら、長い目で見て、快感や幸福に満たされた人生を送りたい
と誰もが思っているでしょう。

ただし、人間の本能は、まずは目先の快感にとびつこうとします。

たとえそれが将来のマイナスにつながってしまうとしても、人間の快感に対
する欲求はそれほど強いものです。

人間の理性は、目先の快感にとびつこうとする自らの本能を律し、長期的な
快感や幸福につながる行動を選択しようとします。

人間が他の動物と違うところは、長期的なビジョンをもって人生を送れると
いうことです。

だから、物語の高揚に自らを任せるならば、それが長期的ビジョンに合致す
るものであってほしいと思います。

決して、安易な目先の快感に囚われるようなものであっては、ならないと考
えます。

■これからの時代、物語を作る人と同時に、それを受け入れる側には、物語
を判断する目が必要になる。というのが私の最近の主張です。

そのためにはどうすればいいのか。

私の答えでは、やはり、戦略性、論理性を持って、物語を検証していくこと
です。

「この人の話に心惹かれるのはなぜだろう」「この話に乗ると、どうなって
いくのか」こうした問いかけを絶えずし続けることです。

その上で、この物語は、目先の快感を満たすだけのものか、それとも長期的
なビジョンに合うものなのかを理性的に考えてみることです。

感性と理性。相反するものかも知れませんが、その両方を身に着けることが、
長期的な幸福を得るための秘訣です。

■それはともかく、私が物語風ビジネス書をおススメしたいのは、

1.小難しい理論を面白く学ぶことができる。

2.理論の活用方法を臨場感をもって学ぶことができる。

ことに加えて、

3.物語に対する感性を磨き、自分にとって、いい物語、悪い物語を見極め
る力を得る。

ことも大きな理由です。

ぜひとも多くの物語風ビジネス書に触れて、物語に対する感性を磨いていた
だきたいと思います。



(2012年5月3日メルマガより)


■「100円のコーラを1000円で売る方法」という本が売れているそうですね。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4806142395/lanchesterkan-22/ref=nosim

これは、マーケティングの基礎理論を物語に乗せて紹介した本です。

主人公は美貌の商品プランナー。

だだし勢いだけが取り柄の若い未熟な女性で、画に描いたようなトンチンカ
ンな行動で失敗を重ねますが、マーケティング理論を一つ一つ学ぶことで、
徐々に成長してきます。

周りを固めるのは、主人公が反発するマーケティングの理論家や、その理論
家を師匠と仰ぐライバル会社の女性営業、主人公に振り回される草食系の若
い男性など。

物語そのものは、理論を紹介するための付けたしで、小説として読むにはも
の足りない。

また理論書としても、あくまで教科書の要約的な内容に止まっています。

しかし、教科書的に理論を羅列されるよりも、物語仕立てにする方が印象に
残ります。

特に初めてマーケティングの理論を学ぶ人にとっては、いい本だと思います。

■例えば、最初の方で、主人公の女性が大型受注を勝ち取るために、顧客の
要望という要望を全て採りいれた商品を作り上げて提案しますが、まるで顧
客の要望を無視したかのように見えるライバル会社の商品に競り負けてしま
います。

なぜなら自社の商品は顧客の顕在ニーズを満たした商品に過ぎないが、ライ
バル会社の商品は、顧客が思いもつかなかったが、確実に顧客のためになる
商品だったからです。

マーケティングの基本は顧客視点に立つことですが、目先の要望や競合の動
きばかり気にしていたら、本質を見誤ります。

これをマーケティングの用語で、マーケティングマイオピア(近視眼的マー
ケティング)といいます。

概念自体は、古典的なものですが、この概念を勉強し直した方がいい企業や
個人は今でも多いと感じます。

そんな時に、古い学者(セオドア・レビット)の言葉を持ち出すよりも、若
い綺麗な女性が失敗して悔し涙を流す場面を見せた方が、はるかに心に残る
ことでしょう^^

■最近、小説仕立てのビジネス書が増えていると思うのですが、いかがでし
ょう。

「100円のコーラを...」と似たテイストを持つ本に「すべては戦略からはじ
まる─会社をよくする戦略思考のフレームワーク」があります。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4478014566/lanchesterkan-22/ref=nosim

こちらも美貌のマーケター(だったかな?)が、旧態依然とした営業組織に
戦略のフレームワークを導入して、みごと立て直す話です。

物語としては、嫌なベテラン営業が汚いやり口で主人公の邪魔をしたり、手
助けする草食系男子が主人公に恋心を抱いたりします。

そんな物語展開の中で、これもまたやはり、基本的な戦略立案の理論を紹介
していきます。

好き嫌いは分かれるでしょうが、私は面白かったですよ^^

■少し古いですが、「ドリルを売るには穴を売れ」という本にも、面白い物
語が載っています。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4413036239/lanchesterkan-22/ref=nosim

主人公は、若くて可愛らしい(かどうかは書いていないが...)女性のマーケ
ターです。彼女が、マーケティングの基本的なスキームを活用しながら、イ
タリアンレストランを再生する話です。

ロマンスこそありませんが、つっけんどんなコンサルタントがいたり、とぼ
けているが実はデキる上司がいたり、反発する現場の職人がいたり、いかに
もありそうな配役ですが、面白い物語展開となっています。

こちらは、理論説明と物語が並行して記載されています。

■体系的な理論を掲げるハードな専門書ではなく、すぐに使える実践ノウハ
ウを売りにするソフトなビジネス書のブームが始まったのは、今から10年
ほど前からですかね。

私が独立する前後だったからよく憶えています。確かに新鮮で、何冊か必死
に読んだ記憶があります。

あの頃「学術的理論は実践では役に立たないから机上の空論だ。実際に役立
つノウハウを伝える」というのが、実践ノウハウ本の主義主張でした。

いかにもリアルを売りにするので、具体的事例満載で、それを読んでいるだ
けで、成功するような気になったものですね^^;

もっとも、学術的理論は、客観的な実証手続きを経た上で、抽象化体系化さ
れています。

逆に実践ノウハウは、確かに具体的事例から構成されているものの、それは
作者一人の才覚で培ったノウハウやスキルの提示です。

つまり、学術的理論の方が客観的であり、実践ノウハウの方が主観的です。

実践ノウハウ本を読んでいて気づいたのは、実は、それは、読者に向けて
「ボクはこういうやり方で成功したんだ。君もきっと成功できるよ」と直接
語りかける形式の物語であるということです。

ということは、現在の物語形式のビジネス書ブームは、実践ノウハウ本ブー
ムからの発展形です。

■一時期のノウハウ本ブームが去った感があるのは、ターゲットとなる前向
きな読者層に一巡したのか、あるいはワンパターンの物語に食傷気味なのか。

だから物語風ビジネス書は、その反省に立つものだと思われます。その特徴
として

1.扱う理論体系がしっかりしていること。(単なる経験談なら、物語がよ
ほどしっかりしていないと読むに堪えないものとなります)

2.物語そのものは単純であること。(あまり複雑だと、理論説明の邪魔に
なります)

3.キャラクターで勝負すること。(物語が単純なので、そうなります。読
者層を考えると、萌え系が多くなるのかな^^)

などがあげられるでしょうか。

特に1は、ノウハウ本の弱点を補うものだと考えます。

■もっとも上の3冊は、リアルな臨場感という意味では不満も残ります。ど
うも、作り事めいた底の浅さが見えてしまう。

最近のビジネス書では「下町ロケット」のような直木賞受賞作も現われまし
たから、決してこのジャンルがすべて無味乾燥なものではない。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4093862923/lanchesterkan-22/ref=nosim

ただし「下町ロケット」は、物語に主軸を置いているので、それを読んだか
らといってビジネスの勉強にはならないと思いますが。

■しっかりした経営理論を学び、かつ、理論の活用方法を臨場感を持って知
ることができる物語風ビジネス書はないものか。

それならば、最近の本ではなく、古典といっていいかも知れませんが、この
メルマガで何度か紹介したことのある三枝匡氏の「V字回復の経営─2年で会
社を変えられますか」をお勧めします。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4532193427/lanchesterkan-22/ref=nosim

噂によると、三枝氏が実際にコンサルティングを手掛けたコマツの子会社の
再生事例を物語化したもののようです。私自身のコンサル経験から考えても、
リアルな内容だと感じますし、誇張や美化することなく誠実に書いているな
あと思います。

なお三枝氏にはこの他にも優秀な物語風のビジネス書がありますので、ご参
考に。

「経営パワーの危機─会社再建の企業変革ドラマ」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4532191653/lanchesterkan-22/ref=nosim

「戦略プロフェッショナル─シェア逆転の企業変革ドラマ」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4532191459/lanchesterkan-22/ref=nosim

■萌え系とビジネス書の融合という流れを作ったのが「もし高校野球の女子
マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(もしドラ)で
あることは間違いないでしょう。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4478012032/lanchesterkan-22/ref=nosim

普段ビジネス書を手にとらない読者に対して、ドラッカーの名と存在を知ら
しめたということでは、この本の効果は絶大でした。

私の分析でいうと、やはりこの本の成功は、

1.前提となる理論がしっかりしている。(ドラッカーですから)

2.物語がシンプルで面白い。(ベタベタ過ぎるとも言われますが)

3.キャラクターが立っている。(AKB風のキャラ立て)

ということになります。

この本がえらい売れたおかげで似たような本がその後、雨後のタケノコのご
とく(←この言い回しもよく分かりませんが...)出版されることとなりました。

おそらくこれからも類似本、便乗本が出てくるのでしょうな。

作者の岩崎夏海氏は、文学界よりの方で、物語に対するこだわりはひとしお
のようですから、最近の便乗本の隆盛をみて、どう感じておられるのでしょ
うかね。

■今後、物語風ビジネス書はどのようになっていくのか。

おそらく物語の部分を深化洗練させていく方向にいくのでしょうね

(理論紹介を深化させる本も出てくるでしょうが、難しくなると売れなくな
るので続かないでしょうから)

今、あまりに単純でパターン通りの物語が多いですから、ちょっとひねりを
効かせて、推理小説風、冒険小説風、SF小説風、時代小説風の物語を持ち
込むと面白くなるかも知れません。

そうなると、ビジネス畑の人間が書くのは難しくなるので、プロの小説家に
やってもらわなければなりません。

今は、プロの小説家は、物語風ビジネス書などバカバカしくて書いていられ
ないでしょうが、一つ売れる本が出るとその気になる人も現われるかも知れ
ません。

期待したいですね。

■「もしドラ」の岩崎夏海氏が、自身のブログで、物語を語る能力の重要性
について書いています。

参考:これからはローカルで勝てる人材こそ求められる
http://d.hatena.ne.jp/aureliano/20120501/1335859069

この中で岩崎氏は「物語は、多くの人の生きる気持ちをドライブする力があ
る」と書いています。いわゆるモチベーションを上げる効果です。

ところが今、物語が失われています。特に「アメリカに追いついて、豊かな
生活を手に入れよう」といった大きな物語がない。

だから人々はネットや書籍や人との交流などで自分にしっくりくる物語を見
つけてきては、生きる気持ちのドライブにしています。

例えば「誠実にコツコツ働くことで成功する」という物語。

あるいは「周りの人にありがとうの気持ちを伝えることで幸せになる」とい
う物語。

「孫子の兵法を身に着けることでビジネスの社会で生きていける」という物語。

これからの時代、求心力を持つのは、こうした人々を惹きつける物語を作れ
る人材なんだ。というのが岩崎氏の主張でしょう。

■全くその通りだと思います。

物語は、論理よりはるかに強く人々の心に訴える力を持ちます。

それは何千年もの間、人々が世界を理解するために使ってきた受容器なのだ
と私は考えています。

小説や映画など物語に触れていると「理屈では理解し難いが、受け入れるこ
とはできる」という感覚を持つことがあります。

例えば、村上春樹の小説にしばしば登場する羊の被り物をした男の存在。

あるいは神話や民話などで、村人全員が死んだ時に、子供一人だけ助かった
というような話。

ガルシアマルケスの「予告された死の記録」で、惨殺された男が家に帰って
きて「おれは殺されたんだよ」と言ってから倒れる場面。

要するにこれらの事例は、論理と物語の違いを表すものです。

■「理屈では分からんが、内容はしっくりくる」それは物語として、受け入
れられているということです。

確かに世の中には、論理的な矛盾を起こして、正確な答えが出せない事柄と
いうのはたくさんあります。

あるいは情報が少なくて、客観的な判断が難しいということも多い。

それでも、行動する者としては判断して答えを出さなければならない。

そんな時に物語の力は威力を発揮します。

例えば、ろくな商品もないのに売上を上げてこいと言われた営業チーム内で
「言われたらやらなしゃあない」で済ますのではなく、「この状況で売るこ
とが出来たら開発陣を一泡吹かせられるぞ。やるだけのことはやってやろう
ぜ!」と言うことが出来るのが優れたリーダーです。

そういう意味で、論理だけではなく、物語を操ることのできる人材が、求心
力を持つことは間違いないと思います。

■思えば、実践ノウハウ本も自己啓発本も、論理ではなく、物語の文脈の上
に成り立つものでした。

だから物語は大きなパワーを持つと同時に危険なものでもあります

「寝ていても億万長者になれる方法がある」

「成功者の言う通りしていれば、自分も成功できる」

「あの人は現世にいても不幸なだけだから、来世に送ってやるのが、あの人
のためだ」

こうした物語に安易に乗ってしまう人のなんと多いことか。

■人間は何も考えていないと「快・不快の法則」に囚われています。

これは、人間の本能として、快感を覚えるもの(食欲、性欲、睡眠欲、集団
欲などを満たすもの)に惹かれるという法則です。

当然のことながら、長い目で見て、快感や幸福に満たされた人生を送りたい
と誰もが思っているでしょう。

ただし、人間の本能は、まずは目先の快感にとびつこうとします。

たとえそれが将来のマイナスにつながってしまうとしても、人間の快感に対
する欲求はそれほど強いものです。

人間の理性は、目先の快感にとびつこうとする自らの本能を律し、長期的な
快感や幸福につながる行動を選択しようとします。

人間が他の動物と違うところは、長期的なビジョンをもって人生を送れると
いうことです。

だから、物語の高揚に自らを任せるならば、それが長期的ビジョンに合致す
るものであってほしいと思います。

決して、安易な目先の快感に囚われるようなものであっては、ならないと考
えます。

■これからの時代、物語を作る人と同時に、それを受け入れる側には、物語
を判断する目が必要になる。というのが私の最近の主張です。

そのためにはどうすればいいのか。

私の答えでは、やはり、戦略性、論理性を持って、物語を検証していくこと
です。

「この人の話に心惹かれるのはなぜだろう」「この話に乗ると、どうなって
いくのか」こうした問いかけを絶えずし続けることです。

その上で、この物語は、目先の快感を満たすだけのものか、それとも長期的
なビジョンに合うものなのかを理性的に考えてみることです。

感性と理性。相反するものかも知れませんが、その両方を身に着けることが、
長期的な幸福を得るための秘訣です。

■それはともかく、私が物語風ビジネス書をおススメしたいのは、

1.小難しい理論を面白く学ぶことができる。

2.理論の活用方法を臨場感をもって学ぶことができる。

ことに加えて、

3.物語に対する感性を磨き、自分にとって、いい物語、悪い物語を見極め
る力を得る。

ことも大きな理由です。

ぜひとも多くの物語風ビジネス書に触れて、物語に対する感性を磨いていた
だきたいと思います。



コラム

blog

代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
世の中の事象を営業戦略コンサルタントの視点から斬っていきます。(無料)

記事一覧

blog

記事一覧

講演・セミナー実績

Customer Voice

記事一覧

このページのTOPへ