鳥貴族の成長はこのまま∞に続くのか

2017.02.23

(2017年2月23日メルマガより)


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■「鳥貴族」の話題を目にする機会が増えてきたような気がします。

鳥貴族といえば、お酒も料理も含めて全品280円(税抜)均一の価格設定で「2000円もあれば本気飲みできる焼き鳥店」として若者を中心に支持を得ている居酒屋チェーンです。

私もたまに行きますが、確かに280円の割には、お得感があるメニューが並んでいます。

いや。正直にいいまして、私は、鳥貴族の主要顧客である"若い人たち"から大きく外れる存在だからか、あまりいい顧客ではありません。

「ごっつ美味い!」「毎日でも行こう!」と感じているわけではありません(^^;

それでも目にする機会が増えてきたというのは、ビジネスとして勢いがあるということですね。

鳥貴族は、あまり広告宣伝をしないお店なのだそうですが、ビジネスとして面白いので、ビジネス系の雑誌やテレビが採りあげます。

会社側もそれをわかっているので、積極的に取材を受けているのではないでしょうか。

そういう意味でも商売上手な企業ですね^^

そんな中、東洋経済オンラインに記事が全4回にわたって集中連載されており、なかなか面白かったので、紹介させていただきます。

著者は、外食ジャーナリストの中村芳平氏です。

参考:「鳥貴族」がワタミをついに追い抜いた理由 全品280円均一の焼き鳥屋は何が強いのか
http://toyokeizai.net/articles/-/157602

記事によれば、鳥貴族は2017年中にも全国600店舗を越え、年商は約450億円規模になる見込みです。

一世を風靡したワタミを、店舗数においても、売上高においても、超えてしまうことになります。

この居酒屋飽和状態といわれる今、なぜ鳥貴族は勢いを持続しているのでしょうか。

■鳥貴族第一号店は、1985年、東大阪市の近鉄俊徳道駅前にオープンしています。(現在は閉店)

創業社長の大倉忠司氏は、ホテルのレストラン勤務を経て、焼き鳥屋で3年近くの修業を経て独立した人です。

ちなみに修業した焼き鳥屋というのは、関西近郊の駅前によくある「やきとり大吉」から独立したお店だったそうです。

一号店は、9坪27席のお店。これを皮切りに全国展開するぞ!と夢は大きかったのですが、そう簡単ではありませんでした。

なぜなら俊徳道駅前という立地は、駅前とはいいながら、居酒屋など成り立ちそうにない寂しい場所でした。

その分、家賃は安い。

安いが、人通りの少ない立地で、いかに店を成立させるかを第一号店で苦闘しながら学んだことが、鳥貴族チェーンの基礎となったわけです。

■大倉氏は当初から大きなビジネスを志向していました。

そのためのコンセプトが、

(1)若い人が安心して入れる店。駅前の赤ちょうちんからの脱却です。

(2)2000円で本気飲みできる店。安さの追求です。

ダイエー創業者・中内功の信奉者であった大倉氏は、居酒屋業界で価格破壊を実行し、全国制覇せんと考えていました。

そのためには、供給側の押し付けではなく、消費者が求める価格設定にしなければならない。

かといって、むやみに安くすれば、利益が出ない。

そのあたりのさじ加減が難しく、当初は食材の原価に応じて、150円、250円、350円の3つの価格帯メニューを用意していました。

しかし、店側の「損をしたくない」という思惑が透けてみえる価格設定は、顧客の支持を得ることはできず、業績は芳しくありませんでした。

■ここで大倉氏は思い切ります。

価格破壊をするならば、徹底しなければならない!と250円に統一したのです。

ビールも酎ハイも焼き鳥も何もかも250円です。

当然、利益が出ないメニューもあるでしょう。

しかし、この決断が、鳥貴族を一号店で終わる危機から救い出すことになりました。

均一価格設定は、近隣顧客のハートを掴み、店は盛り返しました。(消費税を機に280円均一に変更)

利益はどうするんだ?と思うかも知れませんが、そこは100円ショップと同じです。利益が出るメニュー、出ないメニュー、合わせて全体で利益を確保する考えです。

むしろ、280円という縛りの中で、いかに魅力あるメニューを開発できるかが、店側の工夫のしどころであり、開発力の強化につながりました。

■この均一価格設定は、鳥貴族の象徴となり、最大の強みとなりました。

当然ながら「安いなりのメニュー」になってしまったらただの安売り店になってしまいます。顧客の支持を得て、人気店になるためには「安いのに旨い」を実現しなければなりません。

鳥貴族に関する記事の多くが伝えているのが、メニューに対するこだわりの高さです。

象徴として言われているのが、国内生産の地鶏を各店舗で串打ち(手で串に指す)していること。鮮度に敏感な鶏は、食べる直前に調理することが美味しく食べるコツですが、低価格のチェーン店でそれをするのはコストがかかって割に合わないはず。しかし鳥貴族は「鶏屋が鶏を美味しく出さないと意味はない」と意に介しません。まるで個人の焼き鳥屋のような仕込みをしていることになります。

あるいはタレについてもメーカーの提供するものを使わずに自社生産です。メーカーのタレは日持ちするが旨みが落ちやすいからだそうです。鳥貴族秘伝のタレを毎日店に届けています。

だから鳥貴族のメニューは、低価格店のわりにはグレードを感じるわけですね。

■そんなこだわりがあるのに安くするためには、コストを切り詰める必要があります。

人件費にお金をかけられませんので、品質以外のものは、効率化、自動化、システム化をしつこく進め、ローコスト運営を追求しています。

店舗はログハウス風で、内装にお金をかけていません。小型店舗が中心なので、設備投資も低く抑えられます。

立地も、都会の一等地には展開できません。郊外の駅か、都会であればビルの上階や地下の立地になります。バラバラに出店するのは非効率ですから、地域を決めて集中出店することになります。自然と看板を目にする機会が増えますので、認知度が高まります。

もっとも、コスト削減を追求する同社が、タッチパネル導入に慎重だったのは、従業員と顧客の接点を減らしたくなかったからだといいます。

あくまで顧客に接する部分(メニュー、接客)にはコストをかけて、その他の部分を切り詰めようという考えです。

そんな薄利ビジネスですから、一店舗あたりの利益はしれたものです。実際、一号店を始めてから10年ほどは利益を出せずに苦しみ、大倉氏は何度も辞めようと思ったといいます。

チェーンとして、利益が出たのは店舗数が増えてスケールメリットを享受できるようになってからでした。

その苦労した期間、280円という枠の中で、いかにローコストとハイグレードを追求するか。その積み重ねが独自ノウハウとなっていったのでしょう。

そうした目に見えないノウハウは、強固な優位性になっているはずです。

■だから均一価格の模倣店が多く出現しても、鳥貴族はダメージを受けませんでした。むしろ均一価格の認知度が高まり、鳥貴族の知名度が上がったほどです。

参考:鳥貴族だけが激安・均一戦争に大勝した意味 大手居酒屋優位の構造はこうして変わった
http://toyokeizai.net/articles/-/158335

それにしても、外食産業というのは、模倣が多い業界ですな。

もっとも、成熟市場において、強者といわれる企業が新興企業の真似をするのは理にかなった戦略です。

ランチェスター戦略にいうミート戦略の実施です。

その場合、強者企業の武器となるのが、顧客接点を把握する力です。

難しい言い方ですみません。顧客接点とは供給側が顧客と出会う場所のことです。消費財メーカー等においては、販売店が顧客接点ですから、それを把握する力というのは、流通を支配する力のことを指します。外食産業の場合、いい立地に店舗を多く抱えていることが、顧客接点を多く把握しているということにつながります。

店舗を多く抱えているということは、確かに強い武器ではあるものの、それだけの固定費がかかるということですから、客が入らなければお荷物になってしまいます。その時々で客が入る旬な業態を真似しなければならない所以です。

逆にいうと新興企業は弱者ですから店舗立地に優位性は求められません。その場合、差別化して何らかの尖った価値を打ち出さなければなりません。

その尖った価値が、思いつきレベルのものならば、強者企業によってすぐに真似されてしまいます。強者が自ら抱えている一等地の店舗で、その業態をそっくり真似してしまうと、弱者企業の価値は吹き飛んでしまいます。

真似するなんて後出しじゃんけんみたいでずるい。と思われるかも知れませんが、企業競争とはもとよりそのようなものです。お互い生き残るために必死なのに、ずるいも何もない。むしろ真似されてポシャるような価値しか作れなかった弱者企業の方に問題があると考えなければなりません。

しかしその尖った価値が、独自の技術やノウハウの蓄積によるものならば、強者企業といえども簡単に真似することはできません。

鳥貴族の場合、一号店から始まって東京進出を果たすまで20年の期間をかけています。その期間に蓄積したノウハウとシステムが、容易に模倣できない優位性となったのでしょう。

さらにいうと、鳥貴族のビジネスは、三等立地を前提とした薄利多売モデルです。賃料の高い駅前一等地で真似しようとすれば無理があります。しかも薄利多売は規模がなければ機能しませんので、一朝一夕に真似できるようなものではありません。

いわば、居酒屋業界のコメリみたいなビジネスですね。

■そういえば、ワタミも勢いがあった頃は、散々他の大手企業によって真似されてきました。

ワタミは、駅前居酒屋チェーンに対して、二等立地でテーブル席中心の店を展開し「お酒よりも、食事を食べてもらう店」というコンセプトで若い世代やファミリー層の支持を受け、一世を風靡しました。

ワタミの強みは、居酒屋とは思えないようなバラエティ豊かな料理をメニューとしたことでした。その調理オペレーションには、店でバイトする主婦のアナログな調理力が欠かせなかったといいます。

しかし他企業に真似されて競争が激化する中、ワタミのキッチンは効率化していき、家庭の主婦の知恵やノウハウを活かすという面白みは希釈していったように感じます。

さらに長引く不況の中、台頭する鳥貴族などメニューを絞った専門チェーンに価格で対抗できなくなっていったことが、戦略の混乱(価格帯を上げたり下げたりした)を招きました。

ついでに言うとカリスマ創業者が政治家になるために会社を離れたことで、夢を語って従業員を引っ張る経営手法が、形だけみればブラック企業だったという事例が次々に露呈して、悪いイメージがついてしまい苦境に陥っています。

こちらも復活を期しておりますね。

■鳥貴族は、大阪出自の企業ですし、勝手に親近感を持っております。頑張っていただきたい。

何より創業者の大倉社長には、哲学があると感じます。

彼には、儲けたい、会社を大きくしたいというゲーム感覚よりも、価格決定権は消費者にある、そのための店を実現したいという信念を感じます。

いつかは鳥貴族をコンビニのような生活必需業態にしたい。だから鳥貴族のライバルは「宅飲み」(家で飲むこと)だと言っています。

何とも面白い。アマゾンのジェフ・ベゾスが居酒屋を始めたら言いそうな発言ではないですか。このようなポリシーを持つ企業家には、ぜひとも頑張っていただきたいと思っています。

■しばらくは鳥貴族の勢いは続きそうですね。

今でも「安売りの焼き鳥屋なんてどんな食材を使っているか知れたもんじゃない」と考える人は多いでしょう。そんな人たちに鳥貴族の品質に関する取り組みが知られてくれば、さらにターゲットは広がっていくことと思います。

ただ大倉氏の目指す生活必需業態に、鳥貴族がこのままなっていくか。というと疑問を抱いています。

まず、鳥貴族というブランド一本に絞る戦略はリスクが大きい。

我々は、業態を絞ったチェーンが、不測の事態に弱いことを知っています。狂牛病騒ぎの時の吉野家がそうでした。

今後、世界的な鳥インフルエンザの流行が起きて、打撃を受けないという保証はどこにもありません。

もしそのような不測の事態が起きなかったとしても、単一チェーンは顧客に飽きられるという宿命を抱えています。

いくらメニュー改定を続けたとしてもイメージは徐々に陳腐化していきます。その時、新たな専門チェーンが現れて、市場を侵食していくかも知れません。

さらにいえば、顧客単価2000円という市場ではトップを維持できたとしても、景気の動向で「2000円で本気飲みできる店なんてしょぼい」という評価をされる時が来るかも知れません。

逆に、1000円で本気飲みできる店が台頭し、鳥貴族の価格帯を陳腐化してしまうかも知れません。

■ランチェスター戦略にはグー・パー・チョキ理論といわれるものがあります。

旗を立てるまではグーでいく。(業態・地域・顧客などを絞って集中する)

旗が立てばパーでいく。(主業を中心に商品やビジネスを多様化する)

その後、チョキでいく。(いくつかのビジネスをカットし、有望なものを残す)

この繰り返しで企業は成長し、生き残っていくという考え方です。

この論でいくと、鳥貴族は現在「グー」の段階です。

いずれ「パー」になり「チョキ」をする段階が来るでしょう。

その時を見極め、逃さないことが、生き残るための知恵だと私は考えております。


(2017年2月23日メルマガより)


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■「鳥貴族」の話題を目にする機会が増えてきたような気がします。

鳥貴族といえば、お酒も料理も含めて全品280円(税抜)均一の価格設定で「2000円もあれば本気飲みできる焼き鳥店」として若者を中心に支持を得ている居酒屋チェーンです。

私もたまに行きますが、確かに280円の割には、お得感があるメニューが並んでいます。

いや。正直にいいまして、私は、鳥貴族の主要顧客である"若い人たち"から大きく外れる存在だからか、あまりいい顧客ではありません。

「ごっつ美味い!」「毎日でも行こう!」と感じているわけではありません(^^;

それでも目にする機会が増えてきたというのは、ビジネスとして勢いがあるということですね。

鳥貴族は、あまり広告宣伝をしないお店なのだそうですが、ビジネスとして面白いので、ビジネス系の雑誌やテレビが採りあげます。

会社側もそれをわかっているので、積極的に取材を受けているのではないでしょうか。

そういう意味でも商売上手な企業ですね^^

そんな中、東洋経済オンラインに記事が全4回にわたって集中連載されており、なかなか面白かったので、紹介させていただきます。

著者は、外食ジャーナリストの中村芳平氏です。

参考:「鳥貴族」がワタミをついに追い抜いた理由 全品280円均一の焼き鳥屋は何が強いのか
http://toyokeizai.net/articles/-/157602

記事によれば、鳥貴族は2017年中にも全国600店舗を越え、年商は約450億円規模になる見込みです。

一世を風靡したワタミを、店舗数においても、売上高においても、超えてしまうことになります。

この居酒屋飽和状態といわれる今、なぜ鳥貴族は勢いを持続しているのでしょうか。

■鳥貴族第一号店は、1985年、東大阪市の近鉄俊徳道駅前にオープンしています。(現在は閉店)

創業社長の大倉忠司氏は、ホテルのレストラン勤務を経て、焼き鳥屋で3年近くの修業を経て独立した人です。

ちなみに修業した焼き鳥屋というのは、関西近郊の駅前によくある「やきとり大吉」から独立したお店だったそうです。

一号店は、9坪27席のお店。これを皮切りに全国展開するぞ!と夢は大きかったのですが、そう簡単ではありませんでした。

なぜなら俊徳道駅前という立地は、駅前とはいいながら、居酒屋など成り立ちそうにない寂しい場所でした。

その分、家賃は安い。

安いが、人通りの少ない立地で、いかに店を成立させるかを第一号店で苦闘しながら学んだことが、鳥貴族チェーンの基礎となったわけです。

■大倉氏は当初から大きなビジネスを志向していました。

そのためのコンセプトが、

(1)若い人が安心して入れる店。駅前の赤ちょうちんからの脱却です。

(2)2000円で本気飲みできる店。安さの追求です。

ダイエー創業者・中内功の信奉者であった大倉氏は、居酒屋業界で価格破壊を実行し、全国制覇せんと考えていました。

そのためには、供給側の押し付けではなく、消費者が求める価格設定にしなければならない。

かといって、むやみに安くすれば、利益が出ない。

そのあたりのさじ加減が難しく、当初は食材の原価に応じて、150円、250円、350円の3つの価格帯メニューを用意していました。

しかし、店側の「損をしたくない」という思惑が透けてみえる価格設定は、顧客の支持を得ることはできず、業績は芳しくありませんでした。

■ここで大倉氏は思い切ります。

価格破壊をするならば、徹底しなければならない!と250円に統一したのです。

ビールも酎ハイも焼き鳥も何もかも250円です。

当然、利益が出ないメニューもあるでしょう。

しかし、この決断が、鳥貴族を一号店で終わる危機から救い出すことになりました。

均一価格設定は、近隣顧客のハートを掴み、店は盛り返しました。(消費税を機に280円均一に変更)

利益はどうするんだ?と思うかも知れませんが、そこは100円ショップと同じです。利益が出るメニュー、出ないメニュー、合わせて全体で利益を確保する考えです。

むしろ、280円という縛りの中で、いかに魅力あるメニューを開発できるかが、店側の工夫のしどころであり、開発力の強化につながりました。

■この均一価格設定は、鳥貴族の象徴となり、最大の強みとなりました。

当然ながら「安いなりのメニュー」になってしまったらただの安売り店になってしまいます。顧客の支持を得て、人気店になるためには「安いのに旨い」を実現しなければなりません。

鳥貴族に関する記事の多くが伝えているのが、メニューに対するこだわりの高さです。

象徴として言われているのが、国内生産の地鶏を各店舗で串打ち(手で串に指す)していること。鮮度に敏感な鶏は、食べる直前に調理することが美味しく食べるコツですが、低価格のチェーン店でそれをするのはコストがかかって割に合わないはず。しかし鳥貴族は「鶏屋が鶏を美味しく出さないと意味はない」と意に介しません。まるで個人の焼き鳥屋のような仕込みをしていることになります。

あるいはタレについてもメーカーの提供するものを使わずに自社生産です。メーカーのタレは日持ちするが旨みが落ちやすいからだそうです。鳥貴族秘伝のタレを毎日店に届けています。

だから鳥貴族のメニューは、低価格店のわりにはグレードを感じるわけですね。

■そんなこだわりがあるのに安くするためには、コストを切り詰める必要があります。

人件費にお金をかけられませんので、品質以外のものは、効率化、自動化、システム化をしつこく進め、ローコスト運営を追求しています。

店舗はログハウス風で、内装にお金をかけていません。小型店舗が中心なので、設備投資も低く抑えられます。

立地も、都会の一等地には展開できません。郊外の駅か、都会であればビルの上階や地下の立地になります。バラバラに出店するのは非効率ですから、地域を決めて集中出店することになります。自然と看板を目にする機会が増えますので、認知度が高まります。

もっとも、コスト削減を追求する同社が、タッチパネル導入に慎重だったのは、従業員と顧客の接点を減らしたくなかったからだといいます。

あくまで顧客に接する部分(メニュー、接客)にはコストをかけて、その他の部分を切り詰めようという考えです。

そんな薄利ビジネスですから、一店舗あたりの利益はしれたものです。実際、一号店を始めてから10年ほどは利益を出せずに苦しみ、大倉氏は何度も辞めようと思ったといいます。

チェーンとして、利益が出たのは店舗数が増えてスケールメリットを享受できるようになってからでした。

その苦労した期間、280円という枠の中で、いかにローコストとハイグレードを追求するか。その積み重ねが独自ノウハウとなっていったのでしょう。

そうした目に見えないノウハウは、強固な優位性になっているはずです。

■だから均一価格の模倣店が多く出現しても、鳥貴族はダメージを受けませんでした。むしろ均一価格の認知度が高まり、鳥貴族の知名度が上がったほどです。

参考:鳥貴族だけが激安・均一戦争に大勝した意味 大手居酒屋優位の構造はこうして変わった
http://toyokeizai.net/articles/-/158335

それにしても、外食産業というのは、模倣が多い業界ですな。

もっとも、成熟市場において、強者といわれる企業が新興企業の真似をするのは理にかなった戦略です。

ランチェスター戦略にいうミート戦略の実施です。

その場合、強者企業の武器となるのが、顧客接点を把握する力です。

難しい言い方ですみません。顧客接点とは供給側が顧客と出会う場所のことです。消費財メーカー等においては、販売店が顧客接点ですから、それを把握する力というのは、流通を支配する力のことを指します。外食産業の場合、いい立地に店舗を多く抱えていることが、顧客接点を多く把握しているということにつながります。

店舗を多く抱えているということは、確かに強い武器ではあるものの、それだけの固定費がかかるということですから、客が入らなければお荷物になってしまいます。その時々で客が入る旬な業態を真似しなければならない所以です。

逆にいうと新興企業は弱者ですから店舗立地に優位性は求められません。その場合、差別化して何らかの尖った価値を打ち出さなければなりません。

その尖った価値が、思いつきレベルのものならば、強者企業によってすぐに真似されてしまいます。強者が自ら抱えている一等地の店舗で、その業態をそっくり真似してしまうと、弱者企業の価値は吹き飛んでしまいます。

真似するなんて後出しじゃんけんみたいでずるい。と思われるかも知れませんが、企業競争とはもとよりそのようなものです。お互い生き残るために必死なのに、ずるいも何もない。むしろ真似されてポシャるような価値しか作れなかった弱者企業の方に問題があると考えなければなりません。

しかしその尖った価値が、独自の技術やノウハウの蓄積によるものならば、強者企業といえども簡単に真似することはできません。

鳥貴族の場合、一号店から始まって東京進出を果たすまで20年の期間をかけています。その期間に蓄積したノウハウとシステムが、容易に模倣できない優位性となったのでしょう。

さらにいうと、鳥貴族のビジネスは、三等立地を前提とした薄利多売モデルです。賃料の高い駅前一等地で真似しようとすれば無理があります。しかも薄利多売は規模がなければ機能しませんので、一朝一夕に真似できるようなものではありません。

いわば、居酒屋業界のコメリみたいなビジネスですね。

■そういえば、ワタミも勢いがあった頃は、散々他の大手企業によって真似されてきました。

ワタミは、駅前居酒屋チェーンに対して、二等立地でテーブル席中心の店を展開し「お酒よりも、食事を食べてもらう店」というコンセプトで若い世代やファミリー層の支持を受け、一世を風靡しました。

ワタミの強みは、居酒屋とは思えないようなバラエティ豊かな料理をメニューとしたことでした。その調理オペレーションには、店でバイトする主婦のアナログな調理力が欠かせなかったといいます。

しかし他企業に真似されて競争が激化する中、ワタミのキッチンは効率化していき、家庭の主婦の知恵やノウハウを活かすという面白みは希釈していったように感じます。

さらに長引く不況の中、台頭する鳥貴族などメニューを絞った専門チェーンに価格で対抗できなくなっていったことが、戦略の混乱(価格帯を上げたり下げたりした)を招きました。

ついでに言うとカリスマ創業者が政治家になるために会社を離れたことで、夢を語って従業員を引っ張る経営手法が、形だけみればブラック企業だったという事例が次々に露呈して、悪いイメージがついてしまい苦境に陥っています。

こちらも復活を期しておりますね。

■鳥貴族は、大阪出自の企業ですし、勝手に親近感を持っております。頑張っていただきたい。

何より創業者の大倉社長には、哲学があると感じます。

彼には、儲けたい、会社を大きくしたいというゲーム感覚よりも、価格決定権は消費者にある、そのための店を実現したいという信念を感じます。

いつかは鳥貴族をコンビニのような生活必需業態にしたい。だから鳥貴族のライバルは「宅飲み」(家で飲むこと)だと言っています。

何とも面白い。アマゾンのジェフ・ベゾスが居酒屋を始めたら言いそうな発言ではないですか。このようなポリシーを持つ企業家には、ぜひとも頑張っていただきたいと思っています。

■しばらくは鳥貴族の勢いは続きそうですね。

今でも「安売りの焼き鳥屋なんてどんな食材を使っているか知れたもんじゃない」と考える人は多いでしょう。そんな人たちに鳥貴族の品質に関する取り組みが知られてくれば、さらにターゲットは広がっていくことと思います。

ただ大倉氏の目指す生活必需業態に、鳥貴族がこのままなっていくか。というと疑問を抱いています。

まず、鳥貴族というブランド一本に絞る戦略はリスクが大きい。

我々は、業態を絞ったチェーンが、不測の事態に弱いことを知っています。狂牛病騒ぎの時の吉野家がそうでした。

今後、世界的な鳥インフルエンザの流行が起きて、打撃を受けないという保証はどこにもありません。

もしそのような不測の事態が起きなかったとしても、単一チェーンは顧客に飽きられるという宿命を抱えています。

いくらメニュー改定を続けたとしてもイメージは徐々に陳腐化していきます。その時、新たな専門チェーンが現れて、市場を侵食していくかも知れません。

さらにいえば、顧客単価2000円という市場ではトップを維持できたとしても、景気の動向で「2000円で本気飲みできる店なんてしょぼい」という評価をされる時が来るかも知れません。

逆に、1000円で本気飲みできる店が台頭し、鳥貴族の価格帯を陳腐化してしまうかも知れません。

■ランチェスター戦略にはグー・パー・チョキ理論といわれるものがあります。

旗を立てるまではグーでいく。(業態・地域・顧客などを絞って集中する)

旗が立てばパーでいく。(主業を中心に商品やビジネスを多様化する)

その後、チョキでいく。(いくつかのビジネスをカットし、有望なものを残す)

この繰り返しで企業は成長し、生き残っていくという考え方です。

この論でいくと、鳥貴族は現在「グー」の段階です。

いずれ「パー」になり「チョキ」をする段階が来るでしょう。

その時を見極め、逃さないことが、生き残るための知恵だと私は考えております。


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