売れないのではなく、売っていないんですよ

2005.02.03


(2005年2月3日メルマガより)

■最近、販路開拓のご相談を受けることが多くなってきました。

どちらの企業さまも、販路開拓には苦慮されておられます。

いや、むしろ、ほとんどの企業の悩みは販路開拓に集約されるのかも知れま
せん。

そんな印象を受けます。

■特に製造業の方の悩みは深いですね。

「なんで売れないのだろう」...

「この製品が売れないはずないんだが」...

そういう声を聞くことが多いです。本当に。

でも、きついかも知れませんが、私は言いますよ。

「社長、売れないんじゃなくて、売ってないんですよ」

■きつい言い方で申し訳ございません。

でも、中小製造業の方で、「よい製品さえ作れば売れる」と考えている方は
まだまだ大勢おられます。

残念ですが、それは幻想です。

よい製品でも世の中に知られずに消えていくものはいっぱいあります。

売ろうとしていないんだから仕様がない。

よい製品が日の目を見ないのは、社会的な損失ですよ!

■ランチェスター戦略は、よい製品を作って、それが販売につながるのは、
「強者」だけだと教えています。

少なくとも、販売チャネルを確立していない企業が、いくら画期的な商品を
開発したところで、自然に売れることはありません。

■ステンレス魔法瓶をご存知ですか?

もちろん、知ってますよね。子供が遠足の時なんかに持っていく、あの水筒
のことです。

昔は、ガラスの魔法瓶だったので、よく割れたものです。今は、ステンレス
なので、少々手荒に扱っても壊れることはありません。

あのステンレス魔法瓶は、日本の発明品だって知ってました?

開発したのは、日本酸素株式会社という大手化学メーカーです。今から20
年ほど前に開発されました。(日本酸素は現在、大陽日酸になってます)

■ガラスからステンレスへ! 当時としては画期的な発明でした。

そりゃそうですよね。ちょっとぶつけたり、氷を入れたりするだけで壊れて
た水筒が、半永久的にもつようになったんですから。

日本酸素は、この発明を機に、家庭用品業界に進出します。

まさに業界を席巻!

といいたいところですが、そうはいきませんでした。

■当時、ガラス魔法瓶のトップメーカーは、象印魔法瓶。2位がタイガー魔
法瓶でした。

日本酸素は旺盛な資金力と豊富な人材の能力を武器に攻勢をかけますが、こ
の2社の牙城を崩すまでにはいかなかったようです。

いくら画期的な商品を持っているからといって、新参者に売り場を明け渡す
ほど流通業界は簡単ではありません。

業界の商慣習、競合他社の営業力、卸問屋の戦略...どれをとっても一筋縄に
はいきません。

そうこうするうちにトップ2社は、マーケティング力を武器に、顧客が「ち
ょっといいな」と思う後発商品を出してきます。

もちろん、複雑な事情があったわけですが、結果的にガラスがステンレスに
置き換わっても、日本酸素は3位の地位に甘んじていました。

むしろ、他の様々なメーカーを追いやり、3位の地位にまで上り詰めたこと
が驚異といえるかも知れません。

■しかし、苦節20年。とうとう日本酸素がトップ企業になる時が来たよう
です。(現在は、分社独立してサーモス株式会社となっています)

それまで、同社は「技術力はあるけれども、販売力のない会社」という評判
でした。それでも業界で一定の地位を得ていました。

しかし、20年の経験は、同社を技術だけのメーカーから脱皮させたようで
す。

実は、日本酸素株式会社魔法瓶事業部は、創成期から、ランチェスター戦略
の習得を社員に厳命していました。

その中でも、得意先の絞込みに活路を見出し、コツコツとした地道な営業活
動を続けていました。

その甲斐あって、ナンバーワンの得意先をいくつか確保するようになってい
ました。(ナンバーワンとは、2位以下に3倍以上の格差をつけた1位のこ
とです。ここでいう格差は、サーモス株式会社との取引が、他社よりも大き
いという意味です)

ナンバーワンの得意先は簡単に逆転されることは少ないため、それを確保
していると、全体のシェアや収益を大きく落とすことは避けられます。

サーモス株式会社が、業界で一定の地位を維持し続けられたのは、技術力と
ともに、ナンバーワンの得意先をいくつか確保していたからだと考えられま
す。

■日本のステンレス魔法瓶は、成熟市場となっていました。大きな差別化商
品もなく、それぞれのメーカーが、前年並みの販売本数を継続する状況です。

その状況に風穴を開けたのは、やはり、サーモス株式会社でした。

サーモスは、それまでのコップに入れて飲むスタイルの魔法瓶から、ペット
ボトルのように直接口をつけて飲むスタイルの魔法瓶を開発しました。

これは、魔法瓶がファミリーユースから、個人ユースに変わったことに見事
に対応するものです。

片手で、ふたを開けて、すぐに飲むことができる魔法瓶。
それは、技術よりも、商品コンセプトで勝負する商品でした。

この商品は大ヒットし、今度こそ、業界を席巻しています。
(量販店などのステンレスボトル売り場をごらんください)

なぜなら、今度は、20年かかって構築した販売ルートをフルに活用するこ
とができたからです。

この勢いで、昨年度は、とうとうシェアトップを確保したということです。

■おわかりでしょうか?

日本酸素は、酸素業界のトップメーカーとして、東証1部上場する大企業で
す。

その企業が、画期的な新商品をもってさえ、簡単に販売することはできなか
ったのです。

一つは、販売する手段がなかったこと。

もう一つは、市場を知らないために、本当に消費者がほしがる商品をなかな
か作れなかったことです。

■「弱者」が販売するためには、まず、ナンバーワンの得意先を確保するこ
とです。次にナンバーワンの地域を持つことができればさらに強くなれます。

強い商品を開発するのは、それからです。

そもそも、市場のことを知らないうちに、強い商品を開発することは、よほ
どの偶然や奇跡がない限りできません。

■販売するということは並大抵のことではありません。

その販売をする以前に、「売れない」と嘆いていませんか?


追記:

サーモス株式会社というのは、実は、私が以前勤務していた会社です。

だから、内情をよく知っているのです。。。

あの会社は、魔法瓶を使った保温調理鍋とか、魔法瓶を使ったおかゆ製造器
とか、いろいろ面白いものを開発してヒットさせています。豆腐製造器とい
うのもありました。これは売れませんでしたが。

ところで、ステンレス魔法瓶は、日本では成熟市場ですが、世界的に見れば、
まだまだ普及していない導入期の商品です。

日本でトップの地位を固めたら、次は、世界戦略に乗り出すのでしょうね。
とても将来性豊かな企業なんですよ。


【オンラインセミナー】ランチェスター戦略入門編
http://goo.gl/ka0BBL


(2005年2月3日メルマガより)

■最近、販路開拓のご相談を受けることが多くなってきました。

どちらの企業さまも、販路開拓には苦慮されておられます。

いや、むしろ、ほとんどの企業の悩みは販路開拓に集約されるのかも知れま
せん。

そんな印象を受けます。

■特に製造業の方の悩みは深いですね。

「なんで売れないのだろう」...

「この製品が売れないはずないんだが」...

そういう声を聞くことが多いです。本当に。

でも、きついかも知れませんが、私は言いますよ。

「社長、売れないんじゃなくて、売ってないんですよ」

■きつい言い方で申し訳ございません。

でも、中小製造業の方で、「よい製品さえ作れば売れる」と考えている方は
まだまだ大勢おられます。

残念ですが、それは幻想です。

よい製品でも世の中に知られずに消えていくものはいっぱいあります。

売ろうとしていないんだから仕様がない。

よい製品が日の目を見ないのは、社会的な損失ですよ!

■ランチェスター戦略は、よい製品を作って、それが販売につながるのは、
「強者」だけだと教えています。

少なくとも、販売チャネルを確立していない企業が、いくら画期的な商品を
開発したところで、自然に売れることはありません。

■ステンレス魔法瓶をご存知ですか?

もちろん、知ってますよね。子供が遠足の時なんかに持っていく、あの水筒
のことです。

昔は、ガラスの魔法瓶だったので、よく割れたものです。今は、ステンレス
なので、少々手荒に扱っても壊れることはありません。

あのステンレス魔法瓶は、日本の発明品だって知ってました?

開発したのは、日本酸素株式会社という大手化学メーカーです。今から20
年ほど前に開発されました。(日本酸素は現在、大陽日酸になってます)

■ガラスからステンレスへ! 当時としては画期的な発明でした。

そりゃそうですよね。ちょっとぶつけたり、氷を入れたりするだけで壊れて
た水筒が、半永久的にもつようになったんですから。

日本酸素は、この発明を機に、家庭用品業界に進出します。

まさに業界を席巻!

といいたいところですが、そうはいきませんでした。

■当時、ガラス魔法瓶のトップメーカーは、象印魔法瓶。2位がタイガー魔
法瓶でした。

日本酸素は旺盛な資金力と豊富な人材の能力を武器に攻勢をかけますが、こ
の2社の牙城を崩すまでにはいかなかったようです。

いくら画期的な商品を持っているからといって、新参者に売り場を明け渡す
ほど流通業界は簡単ではありません。

業界の商慣習、競合他社の営業力、卸問屋の戦略...どれをとっても一筋縄に
はいきません。

そうこうするうちにトップ2社は、マーケティング力を武器に、顧客が「ち
ょっといいな」と思う後発商品を出してきます。

もちろん、複雑な事情があったわけですが、結果的にガラスがステンレスに
置き換わっても、日本酸素は3位の地位に甘んじていました。

むしろ、他の様々なメーカーを追いやり、3位の地位にまで上り詰めたこと
が驚異といえるかも知れません。

■しかし、苦節20年。とうとう日本酸素がトップ企業になる時が来たよう
です。(現在は、分社独立してサーモス株式会社となっています)

それまで、同社は「技術力はあるけれども、販売力のない会社」という評判
でした。それでも業界で一定の地位を得ていました。

しかし、20年の経験は、同社を技術だけのメーカーから脱皮させたようで
す。

実は、日本酸素株式会社魔法瓶事業部は、創成期から、ランチェスター戦略
の習得を社員に厳命していました。

その中でも、得意先の絞込みに活路を見出し、コツコツとした地道な営業活
動を続けていました。

その甲斐あって、ナンバーワンの得意先をいくつか確保するようになってい
ました。(ナンバーワンとは、2位以下に3倍以上の格差をつけた1位のこ
とです。ここでいう格差は、サーモス株式会社との取引が、他社よりも大き
いという意味です)

ナンバーワンの得意先は簡単に逆転されることは少ないため、それを確保
していると、全体のシェアや収益を大きく落とすことは避けられます。

サーモス株式会社が、業界で一定の地位を維持し続けられたのは、技術力と
ともに、ナンバーワンの得意先をいくつか確保していたからだと考えられま
す。

■日本のステンレス魔法瓶は、成熟市場となっていました。大きな差別化商
品もなく、それぞれのメーカーが、前年並みの販売本数を継続する状況です。

その状況に風穴を開けたのは、やはり、サーモス株式会社でした。

サーモスは、それまでのコップに入れて飲むスタイルの魔法瓶から、ペット
ボトルのように直接口をつけて飲むスタイルの魔法瓶を開発しました。

これは、魔法瓶がファミリーユースから、個人ユースに変わったことに見事
に対応するものです。

片手で、ふたを開けて、すぐに飲むことができる魔法瓶。
それは、技術よりも、商品コンセプトで勝負する商品でした。

この商品は大ヒットし、今度こそ、業界を席巻しています。
(量販店などのステンレスボトル売り場をごらんください)

なぜなら、今度は、20年かかって構築した販売ルートをフルに活用するこ
とができたからです。

この勢いで、昨年度は、とうとうシェアトップを確保したということです。

■おわかりでしょうか?

日本酸素は、酸素業界のトップメーカーとして、東証1部上場する大企業で
す。

その企業が、画期的な新商品をもってさえ、簡単に販売することはできなか
ったのです。

一つは、販売する手段がなかったこと。

もう一つは、市場を知らないために、本当に消費者がほしがる商品をなかな
か作れなかったことです。

■「弱者」が販売するためには、まず、ナンバーワンの得意先を確保するこ
とです。次にナンバーワンの地域を持つことができればさらに強くなれます。

強い商品を開発するのは、それからです。

そもそも、市場のことを知らないうちに、強い商品を開発することは、よほ
どの偶然や奇跡がない限りできません。

■販売するということは並大抵のことではありません。

その販売をする以前に、「売れない」と嘆いていませんか?


追記:

サーモス株式会社というのは、実は、私が以前勤務していた会社です。

だから、内情をよく知っているのです。。。

あの会社は、魔法瓶を使った保温調理鍋とか、魔法瓶を使ったおかゆ製造器
とか、いろいろ面白いものを開発してヒットさせています。豆腐製造器とい
うのもありました。これは売れませんでしたが。

ところで、ステンレス魔法瓶は、日本では成熟市場ですが、世界的に見れば、
まだまだ普及していない導入期の商品です。

日本でトップの地位を固めたら、次は、世界戦略に乗り出すのでしょうね。
とても将来性豊かな企業なんですよ。


【オンラインセミナー】ランチェスター戦略入門編
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