空前絶後の幸運に見舞われながらも、それゆえに破滅した男の話。

2019.08.08

(2019年8月8日メルマガより)



開拓史時代のアメリカで成功し、大農場主となった男が、自分の敷地内に巨大な金鉱脈を見つけるという幸運に見舞われながら、それゆえに破滅したという話がネットの記事にありました。

とても面白かったので紹介させていただきます。



大農場主 サッターの悲劇


内容については、上の記事を読んでもらうのが一番ですが、それではメルマガにならないので、簡単に説明させていただきます。

本編の主人公は、ジョン・アウグスト・サッター。ドイツからの移民で、信じられないような苦難の末に、カリフォルニアにたどり着き、広大な農場経営をするに至った人物です。

時は1850年頃。カリフォルニアが、メキシコからアメリカに移譲された頃の話です。西部劇の時代ですから、アメリカの治安は最低レベルです。カリフォルニアなんてのは、無法地帯だったと言っていいのでしょう。

たどり着くのさえ難しかった最果ての地に、サッターは農場を作ります。カリフォルニアが農業や畜産に適した肥沃な土地であることを知ったからです。

そこで大成功を収めたサッターは、広大な農場に道路や運河、橋などを建設し、さながら町を築いていくようでした。


そんな折、所有する敷地内に「砂金」の鉱脈が発見されました。これがきっかけになってアメリカの「黄金狂時代」が始まったといわれるほどの大きな鉱脈です。空前絶後。金は、金のあるところに集まる、という言葉を地でいくような幸運です。

とりあえず砂金のことは秘密にしておこうと考えたサッターですが、噂は広がってしまいます。

まずは農場の労働者たちが、職務を放棄して砂金を掘り始めました。労働の給金よりも遥かに多くの報酬が得られると考えたからです。

このことによって、サッターの農場は管理不能となり、荒れ果てていきました。

さらには、アメリカの大統領が「カリフォルニアで膨大な埋蔵量の金鉱脈が見つかった」などと発表してしまったのです。

ゴールドラッシュが始まった瞬間です。

一攫千金を夢見る者たちが、サッターの農場に集まりだしました。


もとから無法地帯だったカリフォルニアに、山師のような男たちが集まったのだから、管理ができようはずもありません。

サッターの所有権を無視して、荒くれ男たちは農場を蹂躙し、建物を破壊し、自分たちの仮家を建て始めました。その数、1万人以上というからスケールが大きい話です。


不法占拠に対してサッターは、立ち退きと賠償金を求めて裁判を起こします。当然、法的にはサッターの言い分が通りますが、強制執行する権力が、当時のカリフォルニア州にはありませんでした。

それどころか、裁判の結果に怒った不法占拠の者たちが暴徒化し、サッター一家は、殺害されたり、自殺に追い込まれたりして、崩壊してしまいます。

サッター自身は生き残りますが、全財産を不当に略奪された者として、その後の人生を惨めに過ごすことになったということです。


現実を受け入れられなかった者の末路


国家に実行権力がある今なら、これほど酷いことにはなっていなかったかも知れません。なにしろ無法時代です。自分の家族を守るためには、自分でパワーを持たなければなかったのですね。なんともやるせない話です。

サッターは何を間違えたのでしょうか。

私の考えるところ、サッターは、あまりにも現実を見ていませんでした。

法的根拠がどうあれ、実効支配されてしまっているのです。「法的には私の土地」「立ち退くべきだ」と言っても、何の威力もありません。

取り戻すには、私設軍隊でも作って、強制力を発揮しなければなりませんでした。

いやいや、麻薬カルテルのボスじゃあるまいし、そこまでしたら逆に歴史に悪名を残すことになるやないか。と言われそうですね。確かにそうですな。


それでも現実的な方法で支配力を取り戻すことが必要です。

「危機においては、味方ではなく、敵と組め」とは、ティリオン・ラニスターの言葉です。

不法占拠する者の中から、リーダー格、あるいはリーダー的資質を持った者を選んで、こちらの陣営に引き入れてしまう。という方法をまず試してみることです。

敵の主流派に、権限と利益を約束して、不法占拠者たちの取りまとめを委託するのです。

かつて、ホンダ車の違法コピー品が出回った時、ホンダがやったことは、それを排除することではなく、その製造企業と提携して、正規品工場として取り込んでしまうことでした。

本来の利益が少なくなるなんて言っていたら、現実的な解決は見込めません。その時のホンダの柔軟性は見習うべきものです。


烏合の衆と言えども暴徒化すれば、恐ろしいパワーとなります。そうしないためには、階層を作り、組織としての安定化を図るのがよいという意味もあります。

孫子のいう「戦わずして勝つ」という方法の一つです。


「オープン戦略」ならば収益を拡大できた


もう一つ。オープン化してしまうというのも現実的な方法です。



こちらは上の記事に書かれいるので、読んでいただければいいのですが、それだとメルマガにならないので、またもや書かせていただきます。

「オープン戦略」とは、砂金の権益を独り占めせずに、広く一般に公開するという方法です。今回の事例のような埋蔵量を超えた期待値を集めた件に関しては、オープン化したうえで、周辺需要を取り込んだ方が、利益が拡大します。

実際、ゴールドラッシュによって莫大な収益を上げたのは、金を掘り当てた者ではなく、金を掘るための道具を販売した会社だったという有名な教訓があります。

道具だけではありません。住居も衣服も日用品も入り用になりますから需要が確実にあるのです。その販売取扱権を独占的に扱うことは、砂金を独り占めするよりも、はるかに容易で、はるかに大きな収益を生んだはずです。

リーバイスというジーンズは、まさに金採掘時の作業着として発達したブランドだったということですしね。


近年、オープン戦略によって莫大な収益を上げる企業の事例があちこちにあります。

有名なのは、半導体のインテルです。半導体の製造特許を開放したために、世界中で半導体メーカーが生まれました。ただしインテルは、半導体の中心部分だけの特許は開放していません。つまり、周辺の技術を開放することで需要を拡大し、中心部分で稼ぐという戦略です。

グーグルのスマホに関する戦略も似ています。彼らもスマホのOS規格(アンドロイド)を広く開放しています。アンドロイドを使用したスマホが増えることで、グーグルの検索エンジンが使用されるという戦略です。

スケールは小さくなりますが、おたふくソースも一種のオープン戦略をとっています。彼らは広島風お好み焼きのレシピや、お好み焼き屋の経営ノウハウを広く公開することで、世間に広島風お好み焼きを浸透させることに尽力しました。広島風お好み焼きが広がれば、おたふくソースの需要も広がるという戦略です。

サッターにとって、農場に1万人以上の人間が滞在するという状況は、それだけ大きな需要がそこにあるということにほかなりません。「彼らはそこにいるべきでない」などと詮無い正論を主張するだけに終わらず、ビジネスチャンスだととらえることができていたならば、今頃、サッター印の工具なんてブランドに名を残す人物になっていたかも知れません。

なんて言っても後の祭りですね。

我々は、サッターの悲劇を教訓として、あくまで現実に即した賢い立ち居振る舞いをしていきましょう。

(2019年8月8日メルマガより)



開拓史時代のアメリカで成功し、大農場主となった男が、自分の敷地内に巨大な金鉱脈を見つけるという幸運に見舞われながら、それゆえに破滅したという話がネットの記事にありました。

とても面白かったので紹介させていただきます。



大農場主 サッターの悲劇


内容については、上の記事を読んでもらうのが一番ですが、それではメルマガにならないので、簡単に説明させていただきます。

本編の主人公は、ジョン・アウグスト・サッター。ドイツからの移民で、信じられないような苦難の末に、カリフォルニアにたどり着き、広大な農場経営をするに至った人物です。

時は1850年頃。カリフォルニアが、メキシコからアメリカに移譲された頃の話です。西部劇の時代ですから、アメリカの治安は最低レベルです。カリフォルニアなんてのは、無法地帯だったと言っていいのでしょう。

たどり着くのさえ難しかった最果ての地に、サッターは農場を作ります。カリフォルニアが農業や畜産に適した肥沃な土地であることを知ったからです。

そこで大成功を収めたサッターは、広大な農場に道路や運河、橋などを建設し、さながら町を築いていくようでした。


そんな折、所有する敷地内に「砂金」の鉱脈が発見されました。これがきっかけになってアメリカの「黄金狂時代」が始まったといわれるほどの大きな鉱脈です。空前絶後。金は、金のあるところに集まる、という言葉を地でいくような幸運です。

とりあえず砂金のことは秘密にしておこうと考えたサッターですが、噂は広がってしまいます。

まずは農場の労働者たちが、職務を放棄して砂金を掘り始めました。労働の給金よりも遥かに多くの報酬が得られると考えたからです。

このことによって、サッターの農場は管理不能となり、荒れ果てていきました。

さらには、アメリカの大統領が「カリフォルニアで膨大な埋蔵量の金鉱脈が見つかった」などと発表してしまったのです。

ゴールドラッシュが始まった瞬間です。

一攫千金を夢見る者たちが、サッターの農場に集まりだしました。


もとから無法地帯だったカリフォルニアに、山師のような男たちが集まったのだから、管理ができようはずもありません。

サッターの所有権を無視して、荒くれ男たちは農場を蹂躙し、建物を破壊し、自分たちの仮家を建て始めました。その数、1万人以上というからスケールが大きい話です。


不法占拠に対してサッターは、立ち退きと賠償金を求めて裁判を起こします。当然、法的にはサッターの言い分が通りますが、強制執行する権力が、当時のカリフォルニア州にはありませんでした。

それどころか、裁判の結果に怒った不法占拠の者たちが暴徒化し、サッター一家は、殺害されたり、自殺に追い込まれたりして、崩壊してしまいます。

サッター自身は生き残りますが、全財産を不当に略奪された者として、その後の人生を惨めに過ごすことになったということです。


現実を受け入れられなかった者の末路


国家に実行権力がある今なら、これほど酷いことにはなっていなかったかも知れません。なにしろ無法時代です。自分の家族を守るためには、自分でパワーを持たなければなかったのですね。なんともやるせない話です。

サッターは何を間違えたのでしょうか。

私の考えるところ、サッターは、あまりにも現実を見ていませんでした。

法的根拠がどうあれ、実効支配されてしまっているのです。「法的には私の土地」「立ち退くべきだ」と言っても、何の威力もありません。

取り戻すには、私設軍隊でも作って、強制力を発揮しなければなりませんでした。

いやいや、麻薬カルテルのボスじゃあるまいし、そこまでしたら逆に歴史に悪名を残すことになるやないか。と言われそうですね。確かにそうですな。


それでも現実的な方法で支配力を取り戻すことが必要です。

「危機においては、味方ではなく、敵と組め」とは、ティリオン・ラニスターの言葉です。

不法占拠する者の中から、リーダー格、あるいはリーダー的資質を持った者を選んで、こちらの陣営に引き入れてしまう。という方法をまず試してみることです。

敵の主流派に、権限と利益を約束して、不法占拠者たちの取りまとめを委託するのです。

かつて、ホンダ車の違法コピー品が出回った時、ホンダがやったことは、それを排除することではなく、その製造企業と提携して、正規品工場として取り込んでしまうことでした。

本来の利益が少なくなるなんて言っていたら、現実的な解決は見込めません。その時のホンダの柔軟性は見習うべきものです。


烏合の衆と言えども暴徒化すれば、恐ろしいパワーとなります。そうしないためには、階層を作り、組織としての安定化を図るのがよいという意味もあります。

孫子のいう「戦わずして勝つ」という方法の一つです。


「オープン戦略」ならば収益を拡大できた


もう一つ。オープン化してしまうというのも現実的な方法です。



こちらは上の記事に書かれいるので、読んでいただければいいのですが、それだとメルマガにならないので、またもや書かせていただきます。

「オープン戦略」とは、砂金の権益を独り占めせずに、広く一般に公開するという方法です。今回の事例のような埋蔵量を超えた期待値を集めた件に関しては、オープン化したうえで、周辺需要を取り込んだ方が、利益が拡大します。

実際、ゴールドラッシュによって莫大な収益を上げたのは、金を掘り当てた者ではなく、金を掘るための道具を販売した会社だったという有名な教訓があります。

道具だけではありません。住居も衣服も日用品も入り用になりますから需要が確実にあるのです。その販売取扱権を独占的に扱うことは、砂金を独り占めするよりも、はるかに容易で、はるかに大きな収益を生んだはずです。

リーバイスというジーンズは、まさに金採掘時の作業着として発達したブランドだったということですしね。


近年、オープン戦略によって莫大な収益を上げる企業の事例があちこちにあります。

有名なのは、半導体のインテルです。半導体の製造特許を開放したために、世界中で半導体メーカーが生まれました。ただしインテルは、半導体の中心部分だけの特許は開放していません。つまり、周辺の技術を開放することで需要を拡大し、中心部分で稼ぐという戦略です。

グーグルのスマホに関する戦略も似ています。彼らもスマホのOS規格(アンドロイド)を広く開放しています。アンドロイドを使用したスマホが増えることで、グーグルの検索エンジンが使用されるという戦略です。

スケールは小さくなりますが、おたふくソースも一種のオープン戦略をとっています。彼らは広島風お好み焼きのレシピや、お好み焼き屋の経営ノウハウを広く公開することで、世間に広島風お好み焼きを浸透させることに尽力しました。広島風お好み焼きが広がれば、おたふくソースの需要も広がるという戦略です。

サッターにとって、農場に1万人以上の人間が滞在するという状況は、それだけ大きな需要がそこにあるということにほかなりません。「彼らはそこにいるべきでない」などと詮無い正論を主張するだけに終わらず、ビジネスチャンスだととらえることができていたならば、今頃、サッター印の工具なんてブランドに名を残す人物になっていたかも知れません。

なんて言っても後の祭りですね。

我々は、サッターの悲劇を教訓として、あくまで現実に即した賢い立ち居振る舞いをしていきましょう。

コラム

blog

代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
世の中の事象を営業戦略コンサルタントの視点から斬っていきます。(無料)

記事一覧

blog

記事一覧

Customer Voice

記事一覧

このページのTOPへ