出前館vsウーバーイーツ

2020.10.29

(2020年10月29日メルマガより)


コロナ禍において、業績を大きく伸ばした業種といえば、フードデリバリーです。

自粛期間中は、食べに行くのも、テイクアウトのために店に行くのも憚られて、デリバリーに頼った人が多かったのではないでしょうか。

自粛が明けても、街中でウーバーイーツのバッグを背負った自転車乗りをよく見かけます。

フードデリバリーの需要は、コロナが終わった後にも定着し、拡大基調に乗ると考えられています。


業績絶好調のウーバー。赤字転落の出前館。


この勢いの乗って、ウーバージャパンの業績好調が伝えられています。

2019年12月期の決算ですが、純利益が前年比162%増だとか。


コロナ禍の2020年はさらに業績向上が見込まれます。

日本ではライドシェア(一般自動車の有料相乗り)が認可されず苦労したウーバーも、フードデリバリーで巻き返しを果たしたわけで、さすがしたたかだと言えますな。


この分野、日本のトップは「出前館」です。

ところが、出前館の業績はどうにも芳しくありません。

2020年8月期の決算速報によると、売上高は前期比54.6%増の103億円。過去最高です。が、最終利益は41憶円の赤字です。

同社によると、来期も再来期も赤字の予測を立てており、2023年にようやく赤字脱却を見込んでいます。

儲かるウーバーと大赤字の出前館で明暗分かれてしまったかっこうで、同じ業種なのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか。


出前館のビジネスモデル


出前館株式会社は、1999年、大阪で設立されました。設立当初の会社名は「夢の街創造委員会株式会社」いかにもベンチャー企業らしい名前でした。

出前館のビジネスモデルは単純です。蕎麦屋やピザ屋、中華屋さんなど、出前を売上の柱の一つにしている飲食業者のために、インターネットで、販売代行をするものです。(出前そのものは店がします)

出前館は自社のウェブサイトに、メニューを掲載し、ユーザーから注文が入ると、お店に連絡し、出前を促します。代金はネット上で決済するので、店側が徴収する必要がありません。

出前館は、代金の10%を差し引いて、店側に払う仕組みです。

店とすれば、メニュー表を作り、営業配布して、電話注文を受けていたら、確実に10%以上のコストがかかりますから、出前館を利用する方が楽です。

ユーザーも、出前館のサイトを見れば、蕎麦もピザも中華も注文できるので便利です。いちいちメニュー表を保管しておく必要がありません。

店側にもユーザーにもメリットのあるビジネスですから、出前館は需要を捉えて、設立から6年ほどで株式上場するに至りました。

その後も、出前館は、地方自治体との提携、ヤフーやツタヤとの提携、スマホアプリ対応など事業を進め、順調に業績を伸ばしていきました。


黒船ウーバーイーツ襲来


ウーバーが日本に進出したのが、2013年。出前館上場の7年後です。2016年には、ウーバーイーツのサービスを開始しました。

配車ビジネスから始まったウーバーは、飲食においても、デリバリーそのものを斡旋することを志向しています。

すなわち、デリバリー(出前)できる一般の人を、デリバリーを代行してほしい飲食店に仲介するビジネスです。

この方法だと、出前する人員を持たない小さな飲食店でも利用することができます。今まで店に来てもらう他なかったのに、配達してくれるのです。需要が格段に大きくなります。

ウーバーイーツの扱い店舗が多いのはそのためです。これまで人員がいないので出前を断念していた小さな店や個人店が多く登録しています。

ただし配達には費用がかかるので、とうぜん手数料が高めとなります。売値の平均30%程度は、ウーバー側に支払わなければならないので、店側は、売値を高く設定せざるを得ないでしょう。

それでも、今まで不可能だったデリバリーに進出できるので、ビジネスとしてはプラスとなります。

ウーバーイーツは、小さなお店を中心に利用店を増やし、拡大していきました。


副業需要で存在感


ウーバーイーツの特徴は、デリバリーを一般人に任せることです。

登録さえすれば、配達員には誰でもなれます。日本で就労することが認められていれば、外国籍でも大丈夫です。

配達するためのバッグも、自転車も貸し出してくれます。バッグは保証料のみ。自転車は月4000円程度です。あとは、スマホにアプリをダウンロードすればOKです。

報酬は、受取料金、受渡料金、距離料金などがあり、少々複雑ですが、おおむね1時間あたり1000円から1500円程度になるようです。(地域によって報酬は変わりますが)

仮に、1250円として、4時間働くと、5000円です。10日働くと、5万円。副収入としてはそこそこではないでしょうか。

これも、収入を増やすためのコツなどあるらしく、トップ配達員は、月に100万円以上稼ぐ人もいるそうですから、本業にしてもいいぐらいです。

いまは多くの会社が副業を認めており、時代にあったシステムです。副業の選択肢としても、ウーバーイーツは存在感を見せています。


もっとも、一般人が配達するというのは、リスクもあります。

雇っているわけではないので、配達は自由です。好きな時に配達員になればいい。

ということは、日によっては、配達員が不在で、デリバリーできない日があるかも知れません。

それも織り込んだ仕組みだと、ユーザー含めて納得してもらうしかありません。


街中を走るウーバー自転車のマナーの悪さがしばしば指摘されています。真偽不明のトラブルも聞いています。

そりゃそうですね。面接も研修もなく仲介するだけですから、素行の悪い者もいるでしょう。

重大なトラブルが起きた時、誰が責任を持つんだ!?と日本企業なら及び腰になるところですが、そこは米国の会社です。うちは仲介しただけだから、責任は配達員にあるよ。という立場です。

そういう一種乱暴な積極性が、ウーバーイーツのビジネスとして、今のところ功を奏しています。


配達機能を固定費にするか、変動費にするか


出前館も、2016年から配達代行サービスを開始しました。

しかし、こちらの配達員は、出前館と雇用契約を結んだ人です。問題が起きれば、責任の所在は出前館です。そこが明確だと、ユーザーも安心でしょう。

ただ、その分、自由度がそがれますし、コストもかかります。

マンパワーが限られているので、加盟店を増やすことができません。かといって配達員をむやみに増やすと、稼働率が悪くなり、コスト倒れになります。

出前館が大きな赤字を出しているのは、各地に配達代行サービスを整備しているからです。とくに同社は、47都道府県に進出しているので、すべて整えようとすると、相当の費用がかかります。

それに、全国で体制が整備されたからといって、抜群に儲かるわけではありません。配達員の人件費は固定費ですから、需要が減ればたちまち赤字です。需要を喚起するために、広告宣伝費をかけ続けなければなりません。難しいかじ取りを迫られます。

これに対して、ウーバーイーツは、16都府県のみ。関東を中心に需要のある地域に、店も配達員も集中させて、効率的にまわしています。

配達員の報酬は変動費ですから、需要がなくなれば、縮小すればいい。

なんとも抜け目のないやり方です。


いずれは統合する?


ウーバーイーツは、柔軟な体制のまま、需要を睨みながら事業を拡大していく腹積もりでしょう。

ただリスクは常にはらんでいます。社会現象になるほどの大きなトラブルが起きた場合、日本法人が吹き飛ぶかも知れません。

いっぽうの出前館は、固定費を抱え込むことになりますから、事業拡大せざるを得ません。

出前代行だけではやっていけないので、地域の買い物代行などに事業展開していくことになるかも知れませんね。


ただ、この2社、いずれは1つになるという噂もあります。

というのも、出前館は、LINEの持ち分子会社です。つまり、ソフトバンク傘下です。

米国ウーバーテクノロジーズにも、ソフトバンクの資本が入っています。

いわば姻戚関係にあるわけで、いざとなれば、ソフトバンクが2社を統合させるように働きかけるというのは、いかにもありそうです。

もちろん、出前館も、ウーバージャパンも、経営陣はそんなこと考えていません。自らの身を充実させることに注力しているし、そうでなければなりません。

そもそも、市場が拡大している局面においては、統合の目はありません。成長市場においては各企業はそれぞれ切磋琢磨して、成長を目指すことが肝要です。

ただ、市場が成熟し、衰退局面に入るとなれば、これ以上成長は望めませんから、統合する可能性は大いにあります。いや、きっと統合するでしょうな。

今はまだ、その時ではない、というだけです。

なんだよー、出来レースかよー

と思わなくもない。

まあ、企業の生き残り競争とはそういうものです。

われわれ消費者は、企業の動向を見極め、賢い選択をしていかなければなりませんよね。


ウーバーvs.出前館、「デリバリー」業界の死闘

出前館、ウーバーイーツ買収観測が広がる理由...背後にソフトバンク、両社の主要株主に




(2020年10月29日メルマガより)


コロナ禍において、業績を大きく伸ばした業種といえば、フードデリバリーです。

自粛期間中は、食べに行くのも、テイクアウトのために店に行くのも憚られて、デリバリーに頼った人が多かったのではないでしょうか。

自粛が明けても、街中でウーバーイーツのバッグを背負った自転車乗りをよく見かけます。

フードデリバリーの需要は、コロナが終わった後にも定着し、拡大基調に乗ると考えられています。


業績絶好調のウーバー。赤字転落の出前館。


この勢いの乗って、ウーバージャパンの業績好調が伝えられています。

2019年12月期の決算ですが、純利益が前年比162%増だとか。


コロナ禍の2020年はさらに業績向上が見込まれます。

日本ではライドシェア(一般自動車の有料相乗り)が認可されず苦労したウーバーも、フードデリバリーで巻き返しを果たしたわけで、さすがしたたかだと言えますな。


この分野、日本のトップは「出前館」です。

ところが、出前館の業績はどうにも芳しくありません。

2020年8月期の決算速報によると、売上高は前期比54.6%増の103億円。過去最高です。が、最終利益は41憶円の赤字です。

同社によると、来期も再来期も赤字の予測を立てており、2023年にようやく赤字脱却を見込んでいます。

儲かるウーバーと大赤字の出前館で明暗分かれてしまったかっこうで、同じ業種なのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか。


出前館のビジネスモデル


出前館株式会社は、1999年、大阪で設立されました。設立当初の会社名は「夢の街創造委員会株式会社」いかにもベンチャー企業らしい名前でした。

出前館のビジネスモデルは単純です。蕎麦屋やピザ屋、中華屋さんなど、出前を売上の柱の一つにしている飲食業者のために、インターネットで、販売代行をするものです。(出前そのものは店がします)

出前館は自社のウェブサイトに、メニューを掲載し、ユーザーから注文が入ると、お店に連絡し、出前を促します。代金はネット上で決済するので、店側が徴収する必要がありません。

出前館は、代金の10%を差し引いて、店側に払う仕組みです。

店とすれば、メニュー表を作り、営業配布して、電話注文を受けていたら、確実に10%以上のコストがかかりますから、出前館を利用する方が楽です。

ユーザーも、出前館のサイトを見れば、蕎麦もピザも中華も注文できるので便利です。いちいちメニュー表を保管しておく必要がありません。

店側にもユーザーにもメリットのあるビジネスですから、出前館は需要を捉えて、設立から6年ほどで株式上場するに至りました。

その後も、出前館は、地方自治体との提携、ヤフーやツタヤとの提携、スマホアプリ対応など事業を進め、順調に業績を伸ばしていきました。


黒船ウーバーイーツ襲来


ウーバーが日本に進出したのが、2013年。出前館上場の7年後です。2016年には、ウーバーイーツのサービスを開始しました。

配車ビジネスから始まったウーバーは、飲食においても、デリバリーそのものを斡旋することを志向しています。

すなわち、デリバリー(出前)できる一般の人を、デリバリーを代行してほしい飲食店に仲介するビジネスです。

この方法だと、出前する人員を持たない小さな飲食店でも利用することができます。今まで店に来てもらう他なかったのに、配達してくれるのです。需要が格段に大きくなります。

ウーバーイーツの扱い店舗が多いのはそのためです。これまで人員がいないので出前を断念していた小さな店や個人店が多く登録しています。

ただし配達には費用がかかるので、とうぜん手数料が高めとなります。売値の平均30%程度は、ウーバー側に支払わなければならないので、店側は、売値を高く設定せざるを得ないでしょう。

それでも、今まで不可能だったデリバリーに進出できるので、ビジネスとしてはプラスとなります。

ウーバーイーツは、小さなお店を中心に利用店を増やし、拡大していきました。


副業需要で存在感


ウーバーイーツの特徴は、デリバリーを一般人に任せることです。

登録さえすれば、配達員には誰でもなれます。日本で就労することが認められていれば、外国籍でも大丈夫です。

配達するためのバッグも、自転車も貸し出してくれます。バッグは保証料のみ。自転車は月4000円程度です。あとは、スマホにアプリをダウンロードすればOKです。

報酬は、受取料金、受渡料金、距離料金などがあり、少々複雑ですが、おおむね1時間あたり1000円から1500円程度になるようです。(地域によって報酬は変わりますが)

仮に、1250円として、4時間働くと、5000円です。10日働くと、5万円。副収入としてはそこそこではないでしょうか。

これも、収入を増やすためのコツなどあるらしく、トップ配達員は、月に100万円以上稼ぐ人もいるそうですから、本業にしてもいいぐらいです。

いまは多くの会社が副業を認めており、時代にあったシステムです。副業の選択肢としても、ウーバーイーツは存在感を見せています。


もっとも、一般人が配達するというのは、リスクもあります。

雇っているわけではないので、配達は自由です。好きな時に配達員になればいい。

ということは、日によっては、配達員が不在で、デリバリーできない日があるかも知れません。

それも織り込んだ仕組みだと、ユーザー含めて納得してもらうしかありません。


街中を走るウーバー自転車のマナーの悪さがしばしば指摘されています。真偽不明のトラブルも聞いています。

そりゃそうですね。面接も研修もなく仲介するだけですから、素行の悪い者もいるでしょう。

重大なトラブルが起きた時、誰が責任を持つんだ!?と日本企業なら及び腰になるところですが、そこは米国の会社です。うちは仲介しただけだから、責任は配達員にあるよ。という立場です。

そういう一種乱暴な積極性が、ウーバーイーツのビジネスとして、今のところ功を奏しています。


配達機能を固定費にするか、変動費にするか


出前館も、2016年から配達代行サービスを開始しました。

しかし、こちらの配達員は、出前館と雇用契約を結んだ人です。問題が起きれば、責任の所在は出前館です。そこが明確だと、ユーザーも安心でしょう。

ただ、その分、自由度がそがれますし、コストもかかります。

マンパワーが限られているので、加盟店を増やすことができません。かといって配達員をむやみに増やすと、稼働率が悪くなり、コスト倒れになります。

出前館が大きな赤字を出しているのは、各地に配達代行サービスを整備しているからです。とくに同社は、47都道府県に進出しているので、すべて整えようとすると、相当の費用がかかります。

それに、全国で体制が整備されたからといって、抜群に儲かるわけではありません。配達員の人件費は固定費ですから、需要が減ればたちまち赤字です。需要を喚起するために、広告宣伝費をかけ続けなければなりません。難しいかじ取りを迫られます。

これに対して、ウーバーイーツは、16都府県のみ。関東を中心に需要のある地域に、店も配達員も集中させて、効率的にまわしています。

配達員の報酬は変動費ですから、需要がなくなれば、縮小すればいい。

なんとも抜け目のないやり方です。


いずれは統合する?


ウーバーイーツは、柔軟な体制のまま、需要を睨みながら事業を拡大していく腹積もりでしょう。

ただリスクは常にはらんでいます。社会現象になるほどの大きなトラブルが起きた場合、日本法人が吹き飛ぶかも知れません。

いっぽうの出前館は、固定費を抱え込むことになりますから、事業拡大せざるを得ません。

出前代行だけではやっていけないので、地域の買い物代行などに事業展開していくことになるかも知れませんね。


ただ、この2社、いずれは1つになるという噂もあります。

というのも、出前館は、LINEの持ち分子会社です。つまり、ソフトバンク傘下です。

米国ウーバーテクノロジーズにも、ソフトバンクの資本が入っています。

いわば姻戚関係にあるわけで、いざとなれば、ソフトバンクが2社を統合させるように働きかけるというのは、いかにもありそうです。

もちろん、出前館も、ウーバージャパンも、経営陣はそんなこと考えていません。自らの身を充実させることに注力しているし、そうでなければなりません。

そもそも、市場が拡大している局面においては、統合の目はありません。成長市場においては各企業はそれぞれ切磋琢磨して、成長を目指すことが肝要です。

ただ、市場が成熟し、衰退局面に入るとなれば、これ以上成長は望めませんから、統合する可能性は大いにあります。いや、きっと統合するでしょうな。

今はまだ、その時ではない、というだけです。

なんだよー、出来レースかよー

と思わなくもない。

まあ、企業の生き残り競争とはそういうものです。

われわれ消費者は、企業の動向を見極め、賢い選択をしていかなければなりませんよね。


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