システム思考って何だろう

2010.07.29

(2010年7月29日メルマガより)

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■ご存知の通り、私は経営コンサルタント業を営んでおります。その中でも、
専門分野を"営業"に置いています。

そう言うと、仕方ないことかも知れませんが、企業の方から「お客さんを紹
介してくれるんですか?」「うちの商品を売ってきてくれますか?」という
問い合わせがよくあります。

最近は少なくなりましたが、それでもたまにありますね。

残念ながら、そういう依頼にはお応えしておりません。

■「すぐに売れる魔法のテクニックを教えてくれ」という要望も多いですね。

「理屈はどうでもいいから、すぐに売れる方法を教えてくれ」

「コンサルだったら、簡単に売れる方法を知ってるんだろ」

これは大阪の企業に多い^^;

せっかちなんでしょうな。

同時に、理論、考え方、戦略など目に見えないものには価値を見出すことが
難しいのでしょう。

■コンサルタントの価値は「問題解決」である。というのが私の見解です。

それも場当たり的な解決ではなく、抜本的な解決を行うことがコンサルタン
トの良心です。

お客さんを紹介したり、営業トークをいじったりすることは、その場しのぎ
の時間稼ぎに過ぎず、何ら抜本的な解決になっていません。

たとえ顧客が対症療法を求めていたとしても、それに乗ってお茶を濁すこと
が誠実な対応と言えるのか?

そもそも、最も大きな問題は、場当たり的な時間稼ぎを臆面もなく求める姿
勢や考え方にあります。

その考えを改めなければ、いつまで経っても、一時しのぎの対症療法を繰り
返す蟻地獄から抜け出すことは出来ません。

■一時しのぎの対症療法ではない抜本的な解決とは何か?

私はそこに「戦略的思考」の必要性を見出しています。

戦略的思考とは、

1.全体を俯瞰して考える。

2.長期的見地から考える。

3.目的に応じているかで考える。

4.因果関係やプロセスで考える。

という思考方法です。

この思考法をマスターすることで、狭量なたこつぼ思考から逃れることがで
きると私は考え、自分のコンサルティングの最終形も、顧客が戦略的思考を
身につけ自律的に問題解決を行う状態だとしています。

もちろん私自身、戦略的思考の完全なる使い手かと言われれば、心もとない
わけですから、日々精進です。クライアント企業の方々と一緒に勉強させて
いただいている状態ですから、偉そうには言いませんが。。。

■戦略的思考と同じく抜本的な問題の把握と解決を目指す思考法の一つに
「システム思考」という概念があります。

最近、2冊の著作を読んで、偶然、この思考方法が、私の言う戦略的思考と
同じ目的を持つものだと知りました。

そして、「システム思考」というものが、戦略的思考と重なる部分、重なら
ない部分があったことを発見し、非常に興味を持った次第です。

前置きが長くなりましたが、今回は、システム思考という概念を紹介させて
いただきます。

私が読んだ著作は下記の2冊です。

思考脳力のつくり方 ─仕事と人生を革新する四つの思考法

なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動かす!
システム思考の上手な使い方

■システム思考を含む思考法全体の概念を包括しているのが、前野隆司氏の
思考脳力のつくり方─仕事と人生を革新する四つの思考法」です。

私にとってこの本は実に分かりやすかったし、納得できるものでした。新書
ですから、分量は多くないものの、的確に4つの思考法を紹介してくれてい
ます。

前野氏が紹介する4つの思考法とは

1.要素還元的思考

2.システム思考

3.ポストシステム思考

4.システム思想

というもの。ご覧の通り、システム思考は、2番目に紹介されています。

システム思考が戦略的思考に相似するものだとすれば、それを発展させたも
のがまだ2つもあったわけです。

その思考法を発展させていく様が、私には実にスリリングで、腑に落ちるも
のでした。

■順番にいきましょう。

あらゆる論理的思考の基礎となり、問題解決の第一歩となるのが「要素還元
的思考」という考え方です。

論理的な考え方ができる人は、自分の置かれた状況を把握すると、それを細
かく分解して、どこに問題があるかを探します。

もし問題が見つからない場合は、時系列で考えたり、他との比較を行ったり
して、問題点を見つけようとします。

「分解、時系列、比較」というテクニックで問題点を発見すると、あとは早
い。その部分を解決すればいいわけです。

これが基本的な「要素還元的思考」によるアプローチです。

■論理的思考に慣れていない人は、勘やジンクスに従った行動をとりがちです。

勘やジンクスは、過去の経験の無意識の中での総体ですから、全く意味のな
いというわけではない。

実際、頭では良かれと思っていても、何となく嫌な感じがする時、意識では
気づかない見落としをしていることがあったりします。

だからといって、勘に従うだけでは、さらに大きな見落としをする危険性が
あります。

なぜなら、過去の経験をいくら探ったところで、現代のように急激に社会環
境が変化している状況に対応する方法を見つけることは難しいからです。

不確実性に対応するためには、意識の上で論理を組み立て、それを検証する
作業が最も有効です。

理想でいえば、論理と勘の両方を働かせつつ、検証しながら行動することが
求められます。

むしろ論理を強固にした方が、勘の働く範囲が広がると私は"経験から"思
っています。

■さて、論理的思考の第一歩である「要素還元的思考」ですが、これだけで
問題が解決できるとは限らないのが、難しいところです。

多くの方が経験していることでしょう。瑣末事をいくらつぶしていっても、
全体には大した影響がでない場合がよくあります。

目に付くところばかりをいくら解決していっても、それは一時しのぎの対症
療法に過ぎません。

問題を抜本的に解決するためには、その問題が発生している根本的な原因を
突き止めて、それを解決しなければなりません。

ということは、問題がどのように起こっているのかを全体的なスケールで観
る必要があるわけです。

「システム思考」とは、世の中のあらゆることを「システム」として捉え、
考えていこうとする考え方です。

システムですから、一部だけを見ていても、全体像は把握できません。

1.全体を見る。これが必要です。

さらに、一つ一つの要素が集まって出来ているのが全体ですが、しばしば各
要素は、シナジーを起こしたり、あるいは特徴を消しあったりしていること
があります。

つまり1+1=2ではなく、1+1=3であったり、1+1=0になったり
するわけです。

そこを見極めなければならない。

2.関係性を見る。これも必要です。

さらに、各要素は、複雑に絡み合って関係しあっているものですから、

3.つながりを見る。これも重要ですね。

要するに、物事をシステムとして捉えるには、

1.全体を見る。

2.関係性を見る。

3.つながりを見る。

ことが必要になります。

■ちなみに「思考脳力のつくり方─仕事と人生を革新する四つの思考法」で
は、システム思考を行うための基本ツールとして、

1.ロジックツリー(全体を見る)

2.マトリクス図(要素間の関係を見る)

3.ループ図(つながり、因果関係を見る)

を紹介しています。

ご存知かも知れませんが、ロジックツリーは、高校野球のトーナメント表の
ような図です。

各要素を階層別、並列に並べたもので、MECE(もれなく、ダブりなく)
配置していることが条件となります。

ロジックツリーをうまく使うと、自分が抱えている問題の全体像を体系的に
掴むことができるだけではなく、問題解決の方法を思いつきではなく、体系
として発想することができるようになります。

ただしロジックツリーは、1+1=2を前提としたツールですから、要素間
の相乗効果までは測ることができません。

そのために四角い格子図であるマトリクス図が威力を発揮します。

SWOT分析やPPM分析もポジショニングマップもマトリクス図です。ア
ンゾフの成長ベクトルも有名ですね。

マトリクス図は、MECEではないことも多いのですが、要素間の関係性が
明確になって、場合によっては、1+1=10ぐらいの相乗効果を発見する
こともあるので、非常にパワフルな"魔法のツール"です。

■さらにシステムを捉える上で重要性を増しているのが「ループ図」と呼ば
れるものです。

これは各要素のつながりや因果関係を表したもの。

PDCAを時計回りの図に表すことがあるかと思いますが、あれがループ図
の典型です。

ロジックツリーやマトリクス図は、静的な位置づけや関係性を表すことに有
効ですが、ループ図は動的な関係性、発展性を表すことが可能です。

確かに全ての問題は、複雑に動く関係性の中に存在しており、その動的なシ
ステム(仕組み)を把握しない限りは、抜本的な問題解決に至ることはでき
ません。

思考脳力のつくり方 ─仕事と人生を革新する四つの思考法」では、「シ
ステム思考といえば、因果関係ループとシステムダイナミクスだ」と考える
ことを「狭義のシステム思考」と述べています。

■「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動か
す!システム思考の上手な使い方
」には、その「狭義のシステム思考」に則
り、ループ図の使い方が詳細に書かれています。

例えば、あるメーカーが、順調に売上を上げてきたつもりなのに急に頭打ち
になってしまった。という問題があったとします。

商品が飽きられてきた。営業の慢心。ライバルの存在。など様々な理由を並
べたとしても、具体的にどのように問題解決に取り組んだらいいか分かりま
せん。

そこで、ループ図に整理してみます。

まずは、売上増→キャッシュ増→新製品の追加→受注増→売上増というプラ
スのループを書きます。

それに対して、受注増→受注対応業務増→納期遅れ→顧客の評価減→受注減。
というマイナスのループが考えられます。

つまりこの場合、売上が増えるごとに、受注対応業務が追いつかなくなり、
顧客の信頼を落とすというマイナスのループが働くことを示しています。

ということは、受注業務の軽減措置をとらなければ問題は解決しません。一
時的には、受注制限をしなければならない場面もあるかも知れません。

この他にも、受注増→営業のキャパオーバー→営業活動の希薄化→顧客の信
頼性減→受注減。というループが書けるかも知れません。

受注増→人気商品の明確化→ライバル会社からミート→顧客の選択肢が増え
る→受注減。というケースも考えられます。

結局問題は複雑に絡み合っているので、どれが最も影響が大きいかを見極め、
ループ図の中から、自社で手をつけられるところに注力することが問題解決
につながります。

要するに、ループ図は、問題のつながりを見極め、どこにレバレッジ・ポイ
ント(そこを押さえれば全体に影響を与えられるポイント)があるかを発見
することに役立つツールです。

■ループ図を描く作業は、1回ごとにアーティスティックな能力を求められ
るような気がしますね。

それも仕方ありません。システムは複雑なので、一定ではありません。

ですから、ループ図を使いこなすようになるまでには、ある程度の訓練や経
験が必要になることでしょう。

特にレバレッジ・ポイントを見極め方には公式はない。と「なぜあの人の解
決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動かす!システム思考の上
手な使い方
」には書かれています。

■しかし、発生する問題の構造には、いくつかのパターンが見られることも
事実です。

なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動かす!
システム思考の上手な使い方
」では、いくつかの問題の構造パターンをシス
テム原型として提示しています。

例えば、先ほどの例に挙げた、成長すればするほど逆に成長を阻害するよう
なループが働く「成長の限界」というパターン。

問題解決までに時間がかかることを理解せず、目先の対症療法に走ってしま
う「うまくいかない解決策」

対症療法的な対応を繰りかえすことで、抜本的な問題が放置されて病状を悪
化させてしまう「問題のすり替わり」

最初にたてた目標が達成できずに知らず知らず馴れ合いになってしまう「目
標のなし崩し」

トップの者が有利な立場を利用して自己強化を進めるために、2位以下との
距離が開いていく「強者はさらに強くなる」

一方が仕掛けた競争に他社が対抗することで、敵味方とも疲弊していく「エ
スカレート」

もちろん、このパターンに当てはまらないものもあるので、原型を暗記すれ
ばいいというものではありません。

ただ、当てはまらないものもあると条件をつけた上で、パターン認識ができ
るようになると、問題の把握のスピードが格段に高くなります。

■システム思考とは、人間に責任を帰着させるのではなく、システムそのも
のに責任を求めようという考えです。

誰が悪い、自分が悪い、というわけではない。根本的な責任は、システムに
あると考える。だから、抜本的な解決法とは、問題が生じないようなシステ
ムに作り変えることとなります。

システム思考ができている人は、視野が広く、自分の無意識の思考パターン
にも気づく可能性が高くなります。

また自分や他人を無為に攻めたりすることがないので、楽観的で、人に優し
く、幸福を感じる度合いが高いと述べられています。

まるでいいことづくめですね^^

■ちなみに「思考脳力のつくり方 ─仕事と人生を革新する四つの思考法
では、システム思考の次の段階を提示しています。

次の段階である「ポスト・システム思考」とは、そもそも問題の全てを把握
することなど厳密には不可能であるという、ある意味、全うな考え方です。

確かに、全てを把握するという理想はあっても、本当に全てを完璧に把握す
ることなど不可能です。

そもそも論理というもの自体、一つの世界を理解するための方策であって、
それが万能であるとは言えない。

だから、肩肘張っても仕方ないよ。無理なものは無理だよ。自然に任せよう
や。といういわば老荘思想です。

■さらに次の段階である「システム思想」とは、それまでの考えをすべて認
めた上で、昇華させるような考えです。

これは説明するのが難しい。

問題を全て把握することは不可能である。しかし、把握しようという試みは
認めよう。それで不可能であると分かってもいいじゃないか。挫折して落ち
込んでもいいじゃないか。ニヒリズムに陥るのも人間だ。全てを受け入れよ
う。。。

上記の作者である前野氏は、修行僧などがたどり着く悟り。各分野の達人と
言われる人たちが最後にたどり着く境地。であると述べています。

いささか文学的、哲学的な考えでしょうか。

実は私は昔、文学が好きでしたので、この境地を想像することはできます。

アルベール・カミュの小説「異邦人」やエッセイ「シーシュポスの神話」で
は、まさにこの問題を取り上げています。

西洋人であるカミュは、神の作った規律、人間の作った法律や道徳になぜ従
う必要があるのだと真剣に自問自答しています。

それで、小説の中で、意味のない殺人を犯す人物を登場させ、神の摂理に挑
戦しています。

小説の主人公は死刑場に向かうラストで突如悟ります。「本来、人間は何も
なく生まれてきて、死んでいく。そこに意味はない。そんな人間のすべてを
受け入れよう」

シーシュポスの神話」では、カミュ自身が熱く語っています。「人間のす
ることに善悪などない。すべては許されている」

私のような凡人はうまく語ることができませんが「人間のやることなどたか
が知れている」と理解した上で、何事にも真剣に向き合う姿勢が"悟り"だ
と私は考えます。

いわば"究極の上から目線"です。

■ちょっと話が飛躍したきらいがありますな。

話を最初に戻しましょう。

私は自分のコンサルティングで、顧客の問題を抜本的に解決したいと願って
います。

もぐら叩きのような対症療法を繰りかえしたくない。

ということは、顧客自身が自分で自社の問題を解決できるような力を身につ
けてもらいたい。

ですから、私は顧客と一緒に問題解決に取り組み、顧客に考えてもらうこと
を重視しています。

仮に、私がボンクラで問題解決に至らなくても、顧客が自ら解決策を見つけ
出してくれればいい^^;

自分で問題を発見し、解決策を考え出せるようにはどのような思考のスキル
を身につければいいのか。

それが「戦略的思考」であり、「システム思考」であると提示します。

■今回、私としても「システム思考」を知り、自分が考えていた「戦略的思
考」を強化することができたと考えています。

大変参考になりました。

この考えを自分なりに咀嚼した上で、また皆様に使い方を提案したいと思い
ます。


(2010年7月29日メルマガより)

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■ご存知の通り、私は経営コンサルタント業を営んでおります。その中でも、
専門分野を"営業"に置いています。

そう言うと、仕方ないことかも知れませんが、企業の方から「お客さんを紹
介してくれるんですか?」「うちの商品を売ってきてくれますか?」という
問い合わせがよくあります。

最近は少なくなりましたが、それでもたまにありますね。

残念ながら、そういう依頼にはお応えしておりません。

■「すぐに売れる魔法のテクニックを教えてくれ」という要望も多いですね。

「理屈はどうでもいいから、すぐに売れる方法を教えてくれ」

「コンサルだったら、簡単に売れる方法を知ってるんだろ」

これは大阪の企業に多い^^;

せっかちなんでしょうな。

同時に、理論、考え方、戦略など目に見えないものには価値を見出すことが
難しいのでしょう。

■コンサルタントの価値は「問題解決」である。というのが私の見解です。

それも場当たり的な解決ではなく、抜本的な解決を行うことがコンサルタン
トの良心です。

お客さんを紹介したり、営業トークをいじったりすることは、その場しのぎ
の時間稼ぎに過ぎず、何ら抜本的な解決になっていません。

たとえ顧客が対症療法を求めていたとしても、それに乗ってお茶を濁すこと
が誠実な対応と言えるのか?

そもそも、最も大きな問題は、場当たり的な時間稼ぎを臆面もなく求める姿
勢や考え方にあります。

その考えを改めなければ、いつまで経っても、一時しのぎの対症療法を繰り
返す蟻地獄から抜け出すことは出来ません。

■一時しのぎの対症療法ではない抜本的な解決とは何か?

私はそこに「戦略的思考」の必要性を見出しています。

戦略的思考とは、

1.全体を俯瞰して考える。

2.長期的見地から考える。

3.目的に応じているかで考える。

4.因果関係やプロセスで考える。

という思考方法です。

この思考法をマスターすることで、狭量なたこつぼ思考から逃れることがで
きると私は考え、自分のコンサルティングの最終形も、顧客が戦略的思考を
身につけ自律的に問題解決を行う状態だとしています。

もちろん私自身、戦略的思考の完全なる使い手かと言われれば、心もとない
わけですから、日々精進です。クライアント企業の方々と一緒に勉強させて
いただいている状態ですから、偉そうには言いませんが。。。

■戦略的思考と同じく抜本的な問題の把握と解決を目指す思考法の一つに
「システム思考」という概念があります。

最近、2冊の著作を読んで、偶然、この思考方法が、私の言う戦略的思考と
同じ目的を持つものだと知りました。

そして、「システム思考」というものが、戦略的思考と重なる部分、重なら
ない部分があったことを発見し、非常に興味を持った次第です。

前置きが長くなりましたが、今回は、システム思考という概念を紹介させて
いただきます。

私が読んだ著作は下記の2冊です。

思考脳力のつくり方 ─仕事と人生を革新する四つの思考法

なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動かす!
システム思考の上手な使い方

■システム思考を含む思考法全体の概念を包括しているのが、前野隆司氏の
思考脳力のつくり方─仕事と人生を革新する四つの思考法」です。

私にとってこの本は実に分かりやすかったし、納得できるものでした。新書
ですから、分量は多くないものの、的確に4つの思考法を紹介してくれてい
ます。

前野氏が紹介する4つの思考法とは

1.要素還元的思考

2.システム思考

3.ポストシステム思考

4.システム思想

というもの。ご覧の通り、システム思考は、2番目に紹介されています。

システム思考が戦略的思考に相似するものだとすれば、それを発展させたも
のがまだ2つもあったわけです。

その思考法を発展させていく様が、私には実にスリリングで、腑に落ちるも
のでした。

■順番にいきましょう。

あらゆる論理的思考の基礎となり、問題解決の第一歩となるのが「要素還元
的思考」という考え方です。

論理的な考え方ができる人は、自分の置かれた状況を把握すると、それを細
かく分解して、どこに問題があるかを探します。

もし問題が見つからない場合は、時系列で考えたり、他との比較を行ったり
して、問題点を見つけようとします。

「分解、時系列、比較」というテクニックで問題点を発見すると、あとは早
い。その部分を解決すればいいわけです。

これが基本的な「要素還元的思考」によるアプローチです。

■論理的思考に慣れていない人は、勘やジンクスに従った行動をとりがちです。

勘やジンクスは、過去の経験の無意識の中での総体ですから、全く意味のな
いというわけではない。

実際、頭では良かれと思っていても、何となく嫌な感じがする時、意識では
気づかない見落としをしていることがあったりします。

だからといって、勘に従うだけでは、さらに大きな見落としをする危険性が
あります。

なぜなら、過去の経験をいくら探ったところで、現代のように急激に社会環
境が変化している状況に対応する方法を見つけることは難しいからです。

不確実性に対応するためには、意識の上で論理を組み立て、それを検証する
作業が最も有効です。

理想でいえば、論理と勘の両方を働かせつつ、検証しながら行動することが
求められます。

むしろ論理を強固にした方が、勘の働く範囲が広がると私は"経験から"思
っています。

■さて、論理的思考の第一歩である「要素還元的思考」ですが、これだけで
問題が解決できるとは限らないのが、難しいところです。

多くの方が経験していることでしょう。瑣末事をいくらつぶしていっても、
全体には大した影響がでない場合がよくあります。

目に付くところばかりをいくら解決していっても、それは一時しのぎの対症
療法に過ぎません。

問題を抜本的に解決するためには、その問題が発生している根本的な原因を
突き止めて、それを解決しなければなりません。

ということは、問題がどのように起こっているのかを全体的なスケールで観
る必要があるわけです。

「システム思考」とは、世の中のあらゆることを「システム」として捉え、
考えていこうとする考え方です。

システムですから、一部だけを見ていても、全体像は把握できません。

1.全体を見る。これが必要です。

さらに、一つ一つの要素が集まって出来ているのが全体ですが、しばしば各
要素は、シナジーを起こしたり、あるいは特徴を消しあったりしていること
があります。

つまり1+1=2ではなく、1+1=3であったり、1+1=0になったり
するわけです。

そこを見極めなければならない。

2.関係性を見る。これも必要です。

さらに、各要素は、複雑に絡み合って関係しあっているものですから、

3.つながりを見る。これも重要ですね。

要するに、物事をシステムとして捉えるには、

1.全体を見る。

2.関係性を見る。

3.つながりを見る。

ことが必要になります。

■ちなみに「思考脳力のつくり方─仕事と人生を革新する四つの思考法」で
は、システム思考を行うための基本ツールとして、

1.ロジックツリー(全体を見る)

2.マトリクス図(要素間の関係を見る)

3.ループ図(つながり、因果関係を見る)

を紹介しています。

ご存知かも知れませんが、ロジックツリーは、高校野球のトーナメント表の
ような図です。

各要素を階層別、並列に並べたもので、MECE(もれなく、ダブりなく)
配置していることが条件となります。

ロジックツリーをうまく使うと、自分が抱えている問題の全体像を体系的に
掴むことができるだけではなく、問題解決の方法を思いつきではなく、体系
として発想することができるようになります。

ただしロジックツリーは、1+1=2を前提としたツールですから、要素間
の相乗効果までは測ることができません。

そのために四角い格子図であるマトリクス図が威力を発揮します。

SWOT分析やPPM分析もポジショニングマップもマトリクス図です。ア
ンゾフの成長ベクトルも有名ですね。

マトリクス図は、MECEではないことも多いのですが、要素間の関係性が
明確になって、場合によっては、1+1=10ぐらいの相乗効果を発見する
こともあるので、非常にパワフルな"魔法のツール"です。

■さらにシステムを捉える上で重要性を増しているのが「ループ図」と呼ば
れるものです。

これは各要素のつながりや因果関係を表したもの。

PDCAを時計回りの図に表すことがあるかと思いますが、あれがループ図
の典型です。

ロジックツリーやマトリクス図は、静的な位置づけや関係性を表すことに有
効ですが、ループ図は動的な関係性、発展性を表すことが可能です。

確かに全ての問題は、複雑に動く関係性の中に存在しており、その動的なシ
ステム(仕組み)を把握しない限りは、抜本的な問題解決に至ることはでき
ません。

思考脳力のつくり方 ─仕事と人生を革新する四つの思考法」では、「シ
ステム思考といえば、因果関係ループとシステムダイナミクスだ」と考える
ことを「狭義のシステム思考」と述べています。

■「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動か
す!システム思考の上手な使い方
」には、その「狭義のシステム思考」に則
り、ループ図の使い方が詳細に書かれています。

例えば、あるメーカーが、順調に売上を上げてきたつもりなのに急に頭打ち
になってしまった。という問題があったとします。

商品が飽きられてきた。営業の慢心。ライバルの存在。など様々な理由を並
べたとしても、具体的にどのように問題解決に取り組んだらいいか分かりま
せん。

そこで、ループ図に整理してみます。

まずは、売上増→キャッシュ増→新製品の追加→受注増→売上増というプラ
スのループを書きます。

それに対して、受注増→受注対応業務増→納期遅れ→顧客の評価減→受注減。
というマイナスのループが考えられます。

つまりこの場合、売上が増えるごとに、受注対応業務が追いつかなくなり、
顧客の信頼を落とすというマイナスのループが働くことを示しています。

ということは、受注業務の軽減措置をとらなければ問題は解決しません。一
時的には、受注制限をしなければならない場面もあるかも知れません。

この他にも、受注増→営業のキャパオーバー→営業活動の希薄化→顧客の信
頼性減→受注減。というループが書けるかも知れません。

受注増→人気商品の明確化→ライバル会社からミート→顧客の選択肢が増え
る→受注減。というケースも考えられます。

結局問題は複雑に絡み合っているので、どれが最も影響が大きいかを見極め、
ループ図の中から、自社で手をつけられるところに注力することが問題解決
につながります。

要するに、ループ図は、問題のつながりを見極め、どこにレバレッジ・ポイ
ント(そこを押さえれば全体に影響を与えられるポイント)があるかを発見
することに役立つツールです。

■ループ図を描く作業は、1回ごとにアーティスティックな能力を求められ
るような気がしますね。

それも仕方ありません。システムは複雑なので、一定ではありません。

ですから、ループ図を使いこなすようになるまでには、ある程度の訓練や経
験が必要になることでしょう。

特にレバレッジ・ポイントを見極め方には公式はない。と「なぜあの人の解
決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動かす!システム思考の上
手な使い方
」には書かれています。

■しかし、発生する問題の構造には、いくつかのパターンが見られることも
事実です。

なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?─小さな力で大きく動かす!
システム思考の上手な使い方
」では、いくつかの問題の構造パターンをシス
テム原型として提示しています。

例えば、先ほどの例に挙げた、成長すればするほど逆に成長を阻害するよう
なループが働く「成長の限界」というパターン。

問題解決までに時間がかかることを理解せず、目先の対症療法に走ってしま
う「うまくいかない解決策」

対症療法的な対応を繰りかえすことで、抜本的な問題が放置されて病状を悪
化させてしまう「問題のすり替わり」

最初にたてた目標が達成できずに知らず知らず馴れ合いになってしまう「目
標のなし崩し」

トップの者が有利な立場を利用して自己強化を進めるために、2位以下との
距離が開いていく「強者はさらに強くなる」

一方が仕掛けた競争に他社が対抗することで、敵味方とも疲弊していく「エ
スカレート」

もちろん、このパターンに当てはまらないものもあるので、原型を暗記すれ
ばいいというものではありません。

ただ、当てはまらないものもあると条件をつけた上で、パターン認識ができ
るようになると、問題の把握のスピードが格段に高くなります。

■システム思考とは、人間に責任を帰着させるのではなく、システムそのも
のに責任を求めようという考えです。

誰が悪い、自分が悪い、というわけではない。根本的な責任は、システムに
あると考える。だから、抜本的な解決法とは、問題が生じないようなシステ
ムに作り変えることとなります。

システム思考ができている人は、視野が広く、自分の無意識の思考パターン
にも気づく可能性が高くなります。

また自分や他人を無為に攻めたりすることがないので、楽観的で、人に優し
く、幸福を感じる度合いが高いと述べられています。

まるでいいことづくめですね^^

■ちなみに「思考脳力のつくり方 ─仕事と人生を革新する四つの思考法
では、システム思考の次の段階を提示しています。

次の段階である「ポスト・システム思考」とは、そもそも問題の全てを把握
することなど厳密には不可能であるという、ある意味、全うな考え方です。

確かに、全てを把握するという理想はあっても、本当に全てを完璧に把握す
ることなど不可能です。

そもそも論理というもの自体、一つの世界を理解するための方策であって、
それが万能であるとは言えない。

だから、肩肘張っても仕方ないよ。無理なものは無理だよ。自然に任せよう
や。といういわば老荘思想です。

■さらに次の段階である「システム思想」とは、それまでの考えをすべて認
めた上で、昇華させるような考えです。

これは説明するのが難しい。

問題を全て把握することは不可能である。しかし、把握しようという試みは
認めよう。それで不可能であると分かってもいいじゃないか。挫折して落ち
込んでもいいじゃないか。ニヒリズムに陥るのも人間だ。全てを受け入れよ
う。。。

上記の作者である前野氏は、修行僧などがたどり着く悟り。各分野の達人と
言われる人たちが最後にたどり着く境地。であると述べています。

いささか文学的、哲学的な考えでしょうか。

実は私は昔、文学が好きでしたので、この境地を想像することはできます。

アルベール・カミュの小説「異邦人」やエッセイ「シーシュポスの神話」で
は、まさにこの問題を取り上げています。

西洋人であるカミュは、神の作った規律、人間の作った法律や道徳になぜ従
う必要があるのだと真剣に自問自答しています。

それで、小説の中で、意味のない殺人を犯す人物を登場させ、神の摂理に挑
戦しています。

小説の主人公は死刑場に向かうラストで突如悟ります。「本来、人間は何も
なく生まれてきて、死んでいく。そこに意味はない。そんな人間のすべてを
受け入れよう」

シーシュポスの神話」では、カミュ自身が熱く語っています。「人間のす
ることに善悪などない。すべては許されている」

私のような凡人はうまく語ることができませんが「人間のやることなどたか
が知れている」と理解した上で、何事にも真剣に向き合う姿勢が"悟り"だ
と私は考えます。

いわば"究極の上から目線"です。

■ちょっと話が飛躍したきらいがありますな。

話を最初に戻しましょう。

私は自分のコンサルティングで、顧客の問題を抜本的に解決したいと願って
います。

もぐら叩きのような対症療法を繰りかえしたくない。

ということは、顧客自身が自分で自社の問題を解決できるような力を身につ
けてもらいたい。

ですから、私は顧客と一緒に問題解決に取り組み、顧客に考えてもらうこと
を重視しています。

仮に、私がボンクラで問題解決に至らなくても、顧客が自ら解決策を見つけ
出してくれればいい^^;

自分で問題を発見し、解決策を考え出せるようにはどのような思考のスキル
を身につければいいのか。

それが「戦略的思考」であり、「システム思考」であると提示します。

■今回、私としても「システム思考」を知り、自分が考えていた「戦略的思
考」を強化することができたと考えています。

大変参考になりました。

この考えを自分なりに咀嚼した上で、また皆様に使い方を提案したいと思い
ます。


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