松下電器の一点集中戦略

2005.11.24


(2005年11月24日メルマガより)

■景気は上向いてきたようですね。株価、物価、失業率、様々な指標がそれ
を示しています。

特に目覚しいのがデジタル家電業界です。
JEITA(電子情報技術産業協会)によると、2004年の民生用電子機
器国内出荷金額は、24160億円、3年連続の前年比増です。


■しかし、11月21日の日経新聞を読むと、早くも一部のメーカーが「一人勝
ち」する状況が現出しています。

プラズマテレビ:松下・シェア42.1%

液晶テレビ:シャープ・シェア50.1%

DVDレコーダー:松下・シェア32.8%

デジタルカメラ:キャノン・シェア18.9%

携帯音楽プレーヤー:アップル・シェア32.2%


■ここに上がっていないメーカーは業績を急速に悪化させています。パイオ
ニアは社長が退陣、NECエレクトロニクスは東芝との提携に活路を見出そ
うとしています。

かつてGEのジャック・ウェルチは「4,5位の企業は合併に明け暮れ、苦
しむのが仕事になる」と言いましたが、まさにその状況です。


■プラズマテレビでいえば、松下がシェア42.1%。

これはランチェスター戦略の市場占拠率理論からいえば、相対的安定シェア
という「地位が圧倒的に有利となり、立場が安定する値。首位独走の条件と
して多くの企業の目標値」です。

ただし、市場が黎明期であったり、成長初期の場合は、激しく地位が入れ替
わるので、まだ安泰とは言えないでしょうが。


■シャープは液晶テレビで50%超。

こちらは長年、液晶技術に賭けていた感があり、それが花開いたという状況
です。

プラズマの松下。液晶のシャープ。

それぞれの分野でナンバーワンを狙います。


■ちょうど、今週の「週刊東洋経済」で松下電器の特集をやっています。

それによると、松下電器は、世界市場でもプラズマテレビのシェア22.9
%でトップ。(2005年1月~6月台数)

この裏側には、プラズマテレビという商品ジャンルに経営資源を集める"絵
に描いたような一点集中戦略"がありました。


■実は、松下電器は、市場を伝統的な日本国内市場ではなく、グローバルな
世界市場の枠組みで捉えなおしているようです。

国内では横綱相撲で戦える松下も、グローバルな市場に目を向けると、サム
スンやフィリップスやLG電子など強敵に囲まれており、安穏としていられません。

さすがの松下も、弱者の戦略をとらざるを得ない。

いや。

フラットテレビ市場は2007年には7兆円規模の市場になると予想されて
います。

そこで、ナンバーワンになるために、松下電器は、大きな経営判断を行った
と言った方がいいでしょう。

「とにかくプラズマテレビに賭けよう」と。


■松下電器は、サムスンやLG電子の韓国勢の投資額をはるかに凌ぐ超大型
の生産工場を建設、生産量とコスト競争力を手にすると、積極的な価格政策
(安売り)で世界中に売りまくっている最中です。

破壊的な価格政策は、体力のない低価格ブランドを押しやり、大手他メーカ
ーのシェアを奪っています。(安売りメーカーの多くは戦意喪失)

消耗戦になって勝算はあるのかという問いに、中村社長は「2010年に需要が
2500万台の時、シェア40%とれば1000万台。価格が10万円としても1兆円
の事業になる」と見積もります。

これは「トップしか儲からない」という強い信念です。

正直言って、松下のような巨大企業に本気で一点集中戦略をとられたら、国
内で「総合家電メーカー」の看板を掲げていた他メーカーはお手上げするし
かありませんね。


■デジタル家電業界は、いちはやくグローバル化しており、日本市場だけを
想定した企業戦略では、もう太刀打ちできないということがわかります。

国内で圧倒的に強いシャープでさえ、海外市場は脆弱で、ソニーやサムスン
の激しい追撃を受けています。特に欧州では、大きく出遅れています。

シャープの町田社長は「売上高8兆円や7兆円のメーカーと同じことを、たか
だか2.7兆円のメーカーができますか」と開き直ったようなことを言ってい
ます。

じゃあ、どうするんでしょうか?


■しかし町田社長の発言も同情すべき点が多くあります。

フラットテレビ市場は、想像を超える速さでコモディティ化していっていま
す。こうなれば、体力があり、寡占化の可能な企業だけが生き残ります。

世界市場を睨んだ場合、町田社長の言うように、規模の小さい企業が、ボリ
ュームの大きい完成品メーカーとして存続するのはきついですね。


■しかし、日東電工や村田製作所など、部品メーカーとしてなら、世界規模
を想定しても、小さな会社が生き残る余地はあります。

サムスン電子も、最初は特定の部品分野に集中投資を行って、圧倒的なナン
バーワンになったことが今日の躍進の足がかりでした。

重要なのは「どの市場でナンバーワンを目指すのか」を見極めること。

松下電器は2007年には7兆円規模になると予想されるフラットテレビ市場で
ナンバーワンになることを目指しています。

小さな企業が、いきなりその7兆円市場でナンバーワンになると言っても、
勝算はありません。小さな会社には、適切なサイズの市場があるはず。

小さな会社は、小さな市場でナンバーワンになれ。

これがランチェスター戦略の結論の一つです。


■もちろん、どの業界にあっても、結論は同じ。

市場が従来の枠組みではとらえきれなくなっていることを確認すること。

その上で、自社に適切なサイズの市場はどこかを見極めること。

そして、選んだ市場で、何が何でもナンバーワンを得ることです。


追記:

松下電器の事例はランチェスター戦略セミナーでもよく事例としてとりあげさせてもらっています。

昔は「強者の戦略」の典型例であった松下電器も、今や「弱者の戦略」を志向しているというお話です。

もっとも、最近では、この戦略が効きすぎて、むしろ「一人勝ちの弊害」に陥っている感があります。

参考:中村邦夫―「幸之助神話」を壊した男 (日経ビジネス人文庫)





(2005年11月24日メルマガより)

■景気は上向いてきたようですね。株価、物価、失業率、様々な指標がそれ
を示しています。

特に目覚しいのがデジタル家電業界です。
JEITA(電子情報技術産業協会)によると、2004年の民生用電子機
器国内出荷金額は、24160億円、3年連続の前年比増です。


■しかし、11月21日の日経新聞を読むと、早くも一部のメーカーが「一人勝
ち」する状況が現出しています。

プラズマテレビ:松下・シェア42.1%

液晶テレビ:シャープ・シェア50.1%

DVDレコーダー:松下・シェア32.8%

デジタルカメラ:キャノン・シェア18.9%

携帯音楽プレーヤー:アップル・シェア32.2%


■ここに上がっていないメーカーは業績を急速に悪化させています。パイオ
ニアは社長が退陣、NECエレクトロニクスは東芝との提携に活路を見出そ
うとしています。

かつてGEのジャック・ウェルチは「4,5位の企業は合併に明け暮れ、苦
しむのが仕事になる」と言いましたが、まさにその状況です。


■プラズマテレビでいえば、松下がシェア42.1%。

これはランチェスター戦略の市場占拠率理論からいえば、相対的安定シェア
という「地位が圧倒的に有利となり、立場が安定する値。首位独走の条件と
して多くの企業の目標値」です。

ただし、市場が黎明期であったり、成長初期の場合は、激しく地位が入れ替
わるので、まだ安泰とは言えないでしょうが。


■シャープは液晶テレビで50%超。

こちらは長年、液晶技術に賭けていた感があり、それが花開いたという状況
です。

プラズマの松下。液晶のシャープ。

それぞれの分野でナンバーワンを狙います。


■ちょうど、今週の「週刊東洋経済」で松下電器の特集をやっています。

それによると、松下電器は、世界市場でもプラズマテレビのシェア22.9
%でトップ。(2005年1月~6月台数)

この裏側には、プラズマテレビという商品ジャンルに経営資源を集める"絵
に描いたような一点集中戦略"がありました。


■実は、松下電器は、市場を伝統的な日本国内市場ではなく、グローバルな
世界市場の枠組みで捉えなおしているようです。

国内では横綱相撲で戦える松下も、グローバルな市場に目を向けると、サム
スンやフィリップスやLG電子など強敵に囲まれており、安穏としていられません。

さすがの松下も、弱者の戦略をとらざるを得ない。

いや。

フラットテレビ市場は2007年には7兆円規模の市場になると予想されて
います。

そこで、ナンバーワンになるために、松下電器は、大きな経営判断を行った
と言った方がいいでしょう。

「とにかくプラズマテレビに賭けよう」と。


■松下電器は、サムスンやLG電子の韓国勢の投資額をはるかに凌ぐ超大型
の生産工場を建設、生産量とコスト競争力を手にすると、積極的な価格政策
(安売り)で世界中に売りまくっている最中です。

破壊的な価格政策は、体力のない低価格ブランドを押しやり、大手他メーカ
ーのシェアを奪っています。(安売りメーカーの多くは戦意喪失)

消耗戦になって勝算はあるのかという問いに、中村社長は「2010年に需要が
2500万台の時、シェア40%とれば1000万台。価格が10万円としても1兆円
の事業になる」と見積もります。

これは「トップしか儲からない」という強い信念です。

正直言って、松下のような巨大企業に本気で一点集中戦略をとられたら、国
内で「総合家電メーカー」の看板を掲げていた他メーカーはお手上げするし
かありませんね。


■デジタル家電業界は、いちはやくグローバル化しており、日本市場だけを
想定した企業戦略では、もう太刀打ちできないということがわかります。

国内で圧倒的に強いシャープでさえ、海外市場は脆弱で、ソニーやサムスン
の激しい追撃を受けています。特に欧州では、大きく出遅れています。

シャープの町田社長は「売上高8兆円や7兆円のメーカーと同じことを、たか
だか2.7兆円のメーカーができますか」と開き直ったようなことを言ってい
ます。

じゃあ、どうするんでしょうか?


■しかし町田社長の発言も同情すべき点が多くあります。

フラットテレビ市場は、想像を超える速さでコモディティ化していっていま
す。こうなれば、体力があり、寡占化の可能な企業だけが生き残ります。

世界市場を睨んだ場合、町田社長の言うように、規模の小さい企業が、ボリ
ュームの大きい完成品メーカーとして存続するのはきついですね。


■しかし、日東電工や村田製作所など、部品メーカーとしてなら、世界規模
を想定しても、小さな会社が生き残る余地はあります。

サムスン電子も、最初は特定の部品分野に集中投資を行って、圧倒的なナン
バーワンになったことが今日の躍進の足がかりでした。

重要なのは「どの市場でナンバーワンを目指すのか」を見極めること。

松下電器は2007年には7兆円規模になると予想されるフラットテレビ市場で
ナンバーワンになることを目指しています。

小さな企業が、いきなりその7兆円市場でナンバーワンになると言っても、
勝算はありません。小さな会社には、適切なサイズの市場があるはず。

小さな会社は、小さな市場でナンバーワンになれ。

これがランチェスター戦略の結論の一つです。


■もちろん、どの業界にあっても、結論は同じ。

市場が従来の枠組みではとらえきれなくなっていることを確認すること。

その上で、自社に適切なサイズの市場はどこかを見極めること。

そして、選んだ市場で、何が何でもナンバーワンを得ることです。


追記:

松下電器の事例はランチェスター戦略セミナーでもよく事例としてとりあげさせてもらっています。

昔は「強者の戦略」の典型例であった松下電器も、今や「弱者の戦略」を志向しているというお話です。

もっとも、最近では、この戦略が効きすぎて、むしろ「一人勝ちの弊害」に陥っている感があります。

参考:中村邦夫―「幸之助神話」を壊した男 (日経ビジネス人文庫)




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