サマンサタバサはなぜ紳士服のコナカに買われたのか?

2019.10.17

(2019年10月14日メルマガより)

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ギャル御用達のバッグブランドで急成長したサマンサタバサが、紳士服チェーンのコナカに買収されるというニュースが先月ありました。

もともと社長同士が仲がいいということで個人的な救済策だったものが、急転直下、コナカによる買収に変更されたとのこと。その経緯に若干疑問は残りますが、鮮やかな買収劇であることは確かです。

ただこの買収、多くの識者を困惑させているようです。

なぜ紳士服チェーンが、ギャルのブランドを買うのか?相乗効果が見込みにくく、意味がわからない。という意見が多いのです。

本当にそうです。何なのでしょうか。


ギャルブランドの急激な失速


サマンサタバサといえば、10代から20代の女性にターゲットを絞り、個性的なデザインのバッグで急成長した会社です。

個性的といいましたが、私からすれば、色彩といいデコデコした形といい突き抜けすぎたデザインに思えます。

売り方も型破りです。ミランダ・カーやヒルトン姉妹ら本物の海外セレブを広告宣伝に起用してブランドイメージを確立しました。ただし海外で売るのではなく、日本における人気を高めて販売するためです。

日本の若い女性の、海外セレブに対する憧れをうまくくみ取った広告戦略であり、まさにブランドの一点突破手法ここにあり!という売り方です。

この販売手法が功を奏して、2007年には東証マザーズに上場。2015年には、売上高400憶円に成長します。

しかし、ここから急速に売上を落としてしまい、2017年には最終赤字に転落、その後、黒字化していません。

いったい何があったというのでしょう。


ニッチブランドを一気に拡大しようとした


低迷の原因は、無理な多角化とターゲットの拡大でブランドがぶれてしまったことにあるようです。

企業は株主から成長することを求められます。上場していればなおさらです。そのプレッシャーにあった経営者は、成長策を講ぜざるを得ません。

そこで同社がとったのが、バッグだけではなく、アパレル全般にブランドを拡大しようということ。(商品開発戦略)

およびバッグそのものも、年齢層の高い女性をターゲットにした拡大を行ったこと。(市場開拓戦略)でした。

これが見事に外れてしまいます。

経営学者のマイケル・ポーターによると、商品開発戦略の成功確率は45%、市場開拓戦略の成功確率は35%だということです。

もともと成長戦略の成功確率はこれほど低いわけです。かといって、何もしないと徐々に売上は落ちていきます。

だから、成長戦略を実施したことは悪いことではありません。勝負に出て失敗したという結果だけで非難することはできません。

ただ敢えて言えば、成長を焦り過ぎたのかもしれません。これだけ成功確率が低い戦略を同時並行して行えば、失敗もするというものです。

株主からのプレッシャーがなければ、もう少し慎重に取り組めたかも知れないと思います。後の祭りだとは承知の上で。

そう考えると、果たして企業が成長を目指す行為は必ずしも正しいと言えないのではないだろうか、日本という人口減少に向かう市場で、サマンサタバサのようなニッチブランドの成功者は、無理に成長など考えずに、むしろニッチとしての地盤固めに注力すべきではなかっただろうか、と思ってしまいます。

衰退市場で生き残りを図るコナカ


いっぽう紳士服のコナカも決して順風満帆な企業ではありません。

同社の売上高は651億円(2018年9月期)紳士服チェーンとしては第3位の規模です。

ただし、

1位の青山は、2503憶円(2019年3月期)

2位のアオキは、1939憶円(2019年3月期)ですからだいぶ離されていることになります。

3社とも、ここ数年の売り上げは現状維持か、微減、微増程度ですが、営業利益は下がり続けています。

はっきり言って、紳士服はもうだめでしょう。スーツを着ない人も多いし、人口が減っています。今さら紳士服を成長軌道に乗せるのは、無理筋というものです。

海外展開はどうなのか。ここは状況がわかりませんが、ユニクロのように海外展開で成果を上げているという話は聞きません。

だから青山は100円ショップのダイソーのフランチャイズを手掛けたり金融事業に進出したり、アオキは結婚式場やカラオケを運営したり、コナカは飲食店を運営していたりして、紳士服の落ち込みをカバーしようとしています。

いわゆる多角化ですね。

ちなみに先述のマイケル・ポーターによると、多角化戦略の成功確率は25%。さらに低くなります。が、本業がダメなのでやらざるを得ないわけです。

幸いなことに、3社ともキャッシュフローは潤沢です。お金がありますから、現状を打破するための投資資金には今のところ困りません。

なにしろ紳士服チェーン各社は、日本の人口が拡大していた時期に地盤を固めた企業ですから、その頃に蓄積した資産があります。

ここが、今のような人口減時代に創めざるを得ない企業との違いであり、幸運だったところです。

もっとも多角化にも温度差があります。

青山の販売実績のうち20%が、非ファッション事業です。

アオキに至っては41%が、非ファッション事業です。

これが、コナカの場合、非ファッション事業の割合は、2~3%程度です。

つまり上位2社が、難しい多角化に取り組んで成果を上げつつあるのに比べて、コナカは、うまくいっていないか、そもそも取り組んでいないか、あるいはファッション分野でまだ粘ろうとしているか、という状態です。


足し算以上の意味はないが、それでもいいと割り切り


さてコナカがサマンサタバサを買収する意味とは何か?

サマンサタバサ側は背中に火がついているので背に腹は変えられません。助けてくれてありがとうございます。というところでしょう。

が、コナカ側としては、バッグの売上利益を足し算する以上の相乗効果が見えにくい。でも、この際だから収益の上がる事業は何でもほしいという気持ちでしょうな。

むしろ、足し算でいいんだ。という割り切りに覚悟が見えます。

なにしろコナカには永い冬の時代を過ごしてきた知恵があります。衰退市場において低空飛行ながらも利益を出し続けてきたしぶとい企業です。だから、ニッチブランドを無理に拡大しようなどといった愚は犯さないはずです。

サマンサタバサのコアである若い女性向けのバッグに商品を絞り、その他の余計な商品群は切り捨てて、再度尖ったブランドとして生き残りを図るはずです。

相乗効果が見えないと言いましたが、むしろ相乗効果などない方がいい。変にコナカのアパレルブランドと絡めない方が、サマンサタバサのブランド価値が混乱しません。

サマンサタバサの元気な時は、売上高400億円、営業利益30億円をあげていました。その半分でも毎年上げてくれれば御の字だというところでしょうか。


この買収によって、コナカの業績が劇的に上がるわけではありません。低空飛行は続くでしょうし、墜落の危険性も引き続き念頭に置いておかなければなりません。

あくまでコナカの生き残りのための一施策といったところでしょうか。

それでも、コナカはしぶとく生き残っていくのでしょう。それが成長期、バブル期、バブル崩壊期を生き抜いてきた中堅企業の凄みです。

皆さん。コナカの生き残りの様子をこれからも注視していこうではないですか。


《参考》








(2019年10月14日メルマガより)

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ギャル御用達のバッグブランドで急成長したサマンサタバサが、紳士服チェーンのコナカに買収されるというニュースが先月ありました。

もともと社長同士が仲がいいということで個人的な救済策だったものが、急転直下、コナカによる買収に変更されたとのこと。その経緯に若干疑問は残りますが、鮮やかな買収劇であることは確かです。

ただこの買収、多くの識者を困惑させているようです。

なぜ紳士服チェーンが、ギャルのブランドを買うのか?相乗効果が見込みにくく、意味がわからない。という意見が多いのです。

本当にそうです。何なのでしょうか。


ギャルブランドの急激な失速


サマンサタバサといえば、10代から20代の女性にターゲットを絞り、個性的なデザインのバッグで急成長した会社です。

個性的といいましたが、私からすれば、色彩といいデコデコした形といい突き抜けすぎたデザインに思えます。

売り方も型破りです。ミランダ・カーやヒルトン姉妹ら本物の海外セレブを広告宣伝に起用してブランドイメージを確立しました。ただし海外で売るのではなく、日本における人気を高めて販売するためです。

日本の若い女性の、海外セレブに対する憧れをうまくくみ取った広告戦略であり、まさにブランドの一点突破手法ここにあり!という売り方です。

この販売手法が功を奏して、2007年には東証マザーズに上場。2015年には、売上高400憶円に成長します。

しかし、ここから急速に売上を落としてしまい、2017年には最終赤字に転落、その後、黒字化していません。

いったい何があったというのでしょう。


ニッチブランドを一気に拡大しようとした


低迷の原因は、無理な多角化とターゲットの拡大でブランドがぶれてしまったことにあるようです。

企業は株主から成長することを求められます。上場していればなおさらです。そのプレッシャーにあった経営者は、成長策を講ぜざるを得ません。

そこで同社がとったのが、バッグだけではなく、アパレル全般にブランドを拡大しようということ。(商品開発戦略)

およびバッグそのものも、年齢層の高い女性をターゲットにした拡大を行ったこと。(市場開拓戦略)でした。

これが見事に外れてしまいます。

経営学者のマイケル・ポーターによると、商品開発戦略の成功確率は45%、市場開拓戦略の成功確率は35%だということです。

もともと成長戦略の成功確率はこれほど低いわけです。かといって、何もしないと徐々に売上は落ちていきます。

だから、成長戦略を実施したことは悪いことではありません。勝負に出て失敗したという結果だけで非難することはできません。

ただ敢えて言えば、成長を焦り過ぎたのかもしれません。これだけ成功確率が低い戦略を同時並行して行えば、失敗もするというものです。

株主からのプレッシャーがなければ、もう少し慎重に取り組めたかも知れないと思います。後の祭りだとは承知の上で。

そう考えると、果たして企業が成長を目指す行為は必ずしも正しいと言えないのではないだろうか、日本という人口減少に向かう市場で、サマンサタバサのようなニッチブランドの成功者は、無理に成長など考えずに、むしろニッチとしての地盤固めに注力すべきではなかっただろうか、と思ってしまいます。

衰退市場で生き残りを図るコナカ


いっぽう紳士服のコナカも決して順風満帆な企業ではありません。

同社の売上高は651億円(2018年9月期)紳士服チェーンとしては第3位の規模です。

ただし、

1位の青山は、2503憶円(2019年3月期)

2位のアオキは、1939憶円(2019年3月期)ですからだいぶ離されていることになります。

3社とも、ここ数年の売り上げは現状維持か、微減、微増程度ですが、営業利益は下がり続けています。

はっきり言って、紳士服はもうだめでしょう。スーツを着ない人も多いし、人口が減っています。今さら紳士服を成長軌道に乗せるのは、無理筋というものです。

海外展開はどうなのか。ここは状況がわかりませんが、ユニクロのように海外展開で成果を上げているという話は聞きません。

だから青山は100円ショップのダイソーのフランチャイズを手掛けたり金融事業に進出したり、アオキは結婚式場やカラオケを運営したり、コナカは飲食店を運営していたりして、紳士服の落ち込みをカバーしようとしています。

いわゆる多角化ですね。

ちなみに先述のマイケル・ポーターによると、多角化戦略の成功確率は25%。さらに低くなります。が、本業がダメなのでやらざるを得ないわけです。

幸いなことに、3社ともキャッシュフローは潤沢です。お金がありますから、現状を打破するための投資資金には今のところ困りません。

なにしろ紳士服チェーン各社は、日本の人口が拡大していた時期に地盤を固めた企業ですから、その頃に蓄積した資産があります。

ここが、今のような人口減時代に創めざるを得ない企業との違いであり、幸運だったところです。

もっとも多角化にも温度差があります。

青山の販売実績のうち20%が、非ファッション事業です。

アオキに至っては41%が、非ファッション事業です。

これが、コナカの場合、非ファッション事業の割合は、2~3%程度です。

つまり上位2社が、難しい多角化に取り組んで成果を上げつつあるのに比べて、コナカは、うまくいっていないか、そもそも取り組んでいないか、あるいはファッション分野でまだ粘ろうとしているか、という状態です。


足し算以上の意味はないが、それでもいいと割り切り


さてコナカがサマンサタバサを買収する意味とは何か?

サマンサタバサ側は背中に火がついているので背に腹は変えられません。助けてくれてありがとうございます。というところでしょう。

が、コナカ側としては、バッグの売上利益を足し算する以上の相乗効果が見えにくい。でも、この際だから収益の上がる事業は何でもほしいという気持ちでしょうな。

むしろ、足し算でいいんだ。という割り切りに覚悟が見えます。

なにしろコナカには永い冬の時代を過ごしてきた知恵があります。衰退市場において低空飛行ながらも利益を出し続けてきたしぶとい企業です。だから、ニッチブランドを無理に拡大しようなどといった愚は犯さないはずです。

サマンサタバサのコアである若い女性向けのバッグに商品を絞り、その他の余計な商品群は切り捨てて、再度尖ったブランドとして生き残りを図るはずです。

相乗効果が見えないと言いましたが、むしろ相乗効果などない方がいい。変にコナカのアパレルブランドと絡めない方が、サマンサタバサのブランド価値が混乱しません。

サマンサタバサの元気な時は、売上高400億円、営業利益30億円をあげていました。その半分でも毎年上げてくれれば御の字だというところでしょうか。


この買収によって、コナカの業績が劇的に上がるわけではありません。低空飛行は続くでしょうし、墜落の危険性も引き続き念頭に置いておかなければなりません。

あくまでコナカの生き残りのための一施策といったところでしょうか。

それでも、コナカはしぶとく生き残っていくのでしょう。それが成長期、バブル期、バブル崩壊期を生き抜いてきた中堅企業の凄みです。

皆さん。コナカの生き残りの様子をこれからも注視していこうではないですか。


《参考》








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