ネスプレッソが売れている理由

2011.06.16

(2011年6月16日メルマガより)


■今週の月曜日は「ランチェスター戦略勉強会」でした。

お越しいただいた方はありがとうございました。

アットホームな雰囲気ながら、有益な勉強会を目指して、もう5年近く続け
ているでしょうか。

私自身、毎回、新たな刺激をいただいており、感謝すること限りありません。

実際、この勉強会からヒントをもらって、多くのコンサルティング技法を開
発してきました。

大げさな^^とお思いかも知れませんが、本当ですよ。

■今回のメルマガでは、その勉強会で討議されたネタを題材にしています。

私自身、面白かった事例ですので、再現させていただきました。

なお、最初に断っておきますが、ここに書くことは私一人が考えたことでは
なくて、勉強会に参加された方の意見や討議内容を集約したものです。

一つ一つ、誰の意見だとか書いてはいませんが、そういうことです。

参加された方には御礼を申し上げます。ネタにしましたので、お許しくださ
いね^^

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■「ホワイトスペース戦略」という本が出ていますね。

うーーん。いかにも怪しげな^^;

「ブルーオーシャン戦略と何が違うんやーーー」と言いたくなりますが、チ
ェックしとかないと気になるので、読んでみました。

■果たして、読んでみるとまともな本です。上から目線ですみませんが^^;

作者によると「ホワイトスペース」という言葉は、未知の新市場という意味
ではなく「既存のビジネスモデルが活動の対象としていない領域」という意
味で使っているそうです。

ビジネスモデルの改変や改善が必要なビジネス領域はすべて「ホワイトスペ
ース」です。そこが古くからの市場であっても、競合がひしめく厳しい市場
であっても、関係なく。

だから「競合他社が手をつけていない」未知の領域であるブルーオーシャン
とは全く違う概念となります。

■まあ、要するに、企業が新規事業に進出する際に、ビジネスモデルを含め
て、どんなことをしなければいけないかを書いた本です。

普通の「新規事業開発戦略」というタイトルでいいじゃないか!と思わなく
はありませんが^^;

それぞれの訴求方法があるでしょうから、ネーミングに目くじらは立てない
でおきましょう。

■それでも、この本は私にとって「使える本」でした。

読んでよかったです。

この本の特徴は、新規事業に進出する際に留意しなければならないことをシ
ンプルな「4つの箱」というフレームワークで整理していることです。

(1)顧客価値提案

(2)利益方程式

(3)主要業務プロセス

(4)主要経営資源

というのが、その4つです。

■(1)の顧客価値提案とは、いわゆる事業コンセプトのことです。

すなわち、ターゲットとする顧客に対して、どのような価値を提供するのか?

端的にいうと、特定顧客の悩みや欲求をどのように解消するのか?

そもそも、これがなければ事業は成立しませんから、最も重要な項目です。

(2)利益方程式とは、そのビジネスが経済的に成立するための根拠です。

収益モデル(どのようにして売上を上げるのか)、コスト構造(固定費と間
接費のバランス)、単位利益(粗利率)、経営資源回転率などがこれにあた
ります。

大変重要なわりには、画餅になりがちなところです。

(3)主要業務プロセスとは、ビジネスをしていく上での業務の仕組みのこと。

(4)主要経営資源とは、同じくビジネスをしていくための人材、資金、技
術、設備、商品など。

非常にシンプルですが、それだけに分りやすく使いやすいフレームワークです。

■ちなみに私が持っているフレームワークに当てはめると

1.経営環境分析。顧客、競合、自社の理解。ここに(1)(2)(4)が
入ります。

2.事業ドメイン策定。ここは(1)(2)です。

3.マーケティング施策の策定。

4.営業プロセスの作成。(2)(3)となります。

重複しているように見えますが、それぞれの要素の部分部分が、入り組んで
いるからこのような振り分けとなります。

ビジネスモデルを1から組み立てるという意味では、ホワイトスペース戦略
のフレームワークの方が明瞭です。

しかし、競争戦略という意味では、少しもの足りません。

(だから、私のフレームワークの中に、ビジネスモデル作成という項目を入
れたらいいのかな)

■実は先日(6月13日)、ランチェスター戦略勉強会の際に、このフレー
ムワークを使わせていただきました。

参加メンバーの方には黙っていましたが、実は、このフレームワークが使え
るのかな?という実験も兼ねて、勉強会運営をしておりました。

すみませんでした。

今回は、いい機会なので「ランチェスター戦略勉強会」ってどういうことを
しているんだ?という疑問に答えつつ、このメルマガを展開していきたいと
思います。

■さて、勉強会では、いつも、最初にネタとなる事例を配布します。

ネタは、私が毎回選んでいます。自分が面白いと思うものや、旬のものや、
話がふくらみそうだなと思えるものです。

大抵は「日経ビジネス」や「週刊ダイヤモンド」などからの切り抜きをコピ
ーして配布しています。

著作権違反になるとしたら申し訳ございません。お目こぼしを。

その切抜きをまずは全員で熟読します。10分ぐらい時間をかけますかね。

■今回のネタは「週刊東洋経済2011.1.8」の「ネスプレッソ」の事例でした。

「ネスプレッソ」は、売上高8兆円という世界最大級の食品メーカーネスレ
の高級カプセルコーヒー部門です。

端的にいうと、約3万円のエスプレッソマシーンと、エスプレッソを淹れる
ための70円のカプセルを販売する商売です。

世界では、年間2000億円以上を売り上げて、平均30%以上の成長率を
誇ります。凄まじい事業ですな。

記事そのものは、いささか宣伝臭のするものでしたが^^;一応の情報は揃
っていました。

■勉強会では、記事を読んだ後、司会役の私が何らかのフレームワークで、
事例を整理するようにしています。

意識の高い方が集まっているので、司会の役割はあまり重要ではないのです
が、一応、私が進行役です。

あまり無いことですが、事例の感想を言い合うような場になっても困ります
からね^^;

そこで今回は「ホワイトスペース戦略」のフレームワークで整理してみました。

■まず(1)顧客に対する提供価値は何か?

ネスプレッソは「究極のコーヒー体験」をコンセプトとして掲げています。

つまりインスタントコーヒーや安いドリップコーヒーなどでは味わえない本
格エスプレッソを家庭でも飲めるというもの。

言うまでもありませんが、何をコンセプトにするのかは、ものすごく重要で
す。事業は、設定したコンセプト以上には発展しないものでしょうから。

ここを設定し間違えると、事業は育たないどころか、立ち上がりもしないか
も知れません。

■ここで疑問は、欧米ではともかく、日本で「究極の(エスプレッソ)コー
ヒー体験」をしたいと思う人がどれほどいるのか?ということです。

実をいうと、ネスプレッソは最初、日本では業務用ルートを開拓しようとし
てうまくいかなかったようです。

これは恐らく、業務用には、低価格の業者がいっぱいいるからだと思われます。

ネスプレッソのマシンが、低価格の競合他社に比べて美味しいコーヒーを出
せるとしても、業務用ではコスト優位性が重要です。かといって、本格的な
コーヒーを志向する高級店は自社で豆を挽いて作りますからマシンは必要と
していません。

ポジションとして中途半端です。

そこで、家庭用へのシフトという考え方が出てきます。

つまりターゲットは、本格的なコーヒーをいつも飲みたいが、毎日コーヒー
専門店に行くわけにもいかん、という人たち。

だから厳密にいうと「究極のコーヒー体験」を家で思い出したい、というぐ
らいのニーズです。

日本ではスターバックスをはじめ、美味しいコーヒーを提供する店が増えて
いますから、消費者の舌が肥えています。

それに近い味を家庭でも味わいたいという人たちは確実に増えているのでは
ないかと考えられます。

やはり、ネスプレッソが急速に成長している背景には、今日的なニーズがあ
るのだと考えます。

■さて、そのコンセプトを実現するためにこの企業がやっていることを4P
(マーケティングミックス)にまとめると

製品:味へのこだわり。そのための農家への技術指導や豆の厳選など。

チャネル:顧客との接触店の高級イメージを重視。そのため、マシンは、直
営店か高級ホテルに設置。

その直営店は、スイス本社のデザイナーが世界統一で設計しています。写真
を見れば、カラフルなコーヒーカプセルがまるでオブジェのように並んで、
異次元空間のようです。

プロモーション:高級イメージを損なうような広告宣伝は行わず。1年以上
研修を受けた正社員による接客販売が基本。

価格:本体3万円。コーヒーカプセル70円。(競合会社に対して高めに設
定し、こだわりのある層を選別している)

ということになります。

■次に(2)収益モデル。

ネスプレッソは、コピー機や携帯電話などと同じ「ジレットモデル」で成立
しています。(剃刀の柄を配布して、替刃で儲けるモデル)

本体も3万円と高めですが、替刃にあたるコーヒーカプセルは70円です。
おそらく利益率は80%はあるのではないかと想像します。

1日1杯飲むとして、365日×70円=25550円。一家、2.5人と
しても、63875円。

マシンを100個販売すると、約640万円の追加需要があるわけです。粗
利500万円以上!

(コーヒー好きな人は、1日1杯では済まないと言っていましたから、これ
が倍になる可能性もあります)

もともと「ジレットモデル」は、史上最強のビジネスモデルと言われていま
すから、巧みにそれを取り入れたわけです。

えげつない収益モデルです。

なお「ジレットモデル」が成立するためには、顧客を囲いこんで、他社に乗
り換えられなくする工夫が必要です。

もちろんネスプレッソも、コーヒーカプセルに1700件以上の特許を持っ
ており、他社が代替品を作りたくてもできないようにしています。

■(3)業務プロセス。

ここでは営業プロセスのみを見ました。

このメルマガでは何度も言っていますが、営業は「顧客選択・集客→営業活
動→アフターフォロー」の三段階に分けることができます。

(ついでにいうと、真ん中の「営業活動」は、さらに「アプローチ→ヒアリ
ング→プレゼンテーション→クロージング」の4段階に分かれます)

営業の業績を上げたいならば、プロセス設計は必要不可欠です。営業トーク
や気合いなどで継続的な売上が見込めることはありません。

私は営業戦略作成の仕上げとして、必ず営業プロセスを作るようにしています。

さて、ネスプレッソの場合。

顧客選択・集客→

ターゲットは、3万円のマシンを買ってでも美味しいコーヒーを飲みたいと
感じる層です。だから、マシンの価格設定自体が、顧客を選別する機能を持
っています。(ジレットモデルのセオリーでは、柄はタダに近い値段で配っ
て替刃で利益をとることになりますが、ネスプレッソは敢えてセオリーを破
っています)

ただし、直営店や高級ホテルでマシンを見た人にアプローチするだけとした
ら、集客として弱いと言わざるをえません。

おそらく、セグメント分けした顧客リストを自社で作成してDMを送付して
いるのではないか。

あるいは、ターゲットに合うような雑誌への広告や記事協力、または通販を
うまく利用しているのではないかと思います。

このパートに関しては、よく見えないところが多かったですね...

営業活動→

ファーストアプローチは、直営店や高級ホテルで。そこで、教育された店員
が顧客に「究極のコーヒー体験」らしきものを与えます。単に、味だけでは
なく、店が与える印象、店員の薀蓄や物語などが印象として付加さられます。

一年間の研修では、顧客対応や販売のノウハウなどをみっちり教育されるの
だと思いますね。

アフターフォロー→

コーヒーカプセルは純正品のみ対応ですから買わざるを得ない。これが囲い
込みの基本的な仕掛けです。

それにマシンが3万円もしたのだから、コーヒーを飲まないと損だという気
持ちも働く仕掛けになっているでしょう。

それだけではありません。同社は「ネスプレッソクラブ」という無料の会員
サービスを行っています。それに入会すると、24時間カプセル購入、無償
で本体の代替などのサービスを受けることができます。

あるいは、入会しない人には、フォローメールを送付し続けているのかも知
れませんね。

■(4)経営資源。

ネスレの会長は「人材こそわがグループの資産だ」と言っています。

確かに、ネスレグループの人材(とノウハウ)資源なくして新規事業開発は
できないでしょう。

まずは、コーヒー関連に強い人材(研究開発者や農場とのコネクションを持
つ人たち)なくしては「究極のコーヒー体験」をもたらす味を実現すること
はできなかったはずです。

次に、店舗開発のための人材。開発マネージャーやデザイナー、営業。

さらには「ネスプレッソクラブ」を運営する人材。

こうした多様な才能を取りまとめるプロジェクトマネージャー。

いかにも豊富な人材と資金力があればこその事業展開だと想像することがで
きます。

中小企業で戦略立案しても、人材やノウハウの不足が制約条件になることが
多いので、この資源の豊富さは羨ましい限りです。

もっとも、ブランドの構築や集客など課題も多いでしょうから、簡単ではな
かったはずです。

一番の資産は、やはり課題を克服する戦略ノウハウを持った人材が多かった
ということになりますかね。

■こうしてみると、実によくできたビジネスであるということが分ります。
成功事例だから当たり前かも知れませんが。

それでも多くのビジネス展開のヒントになるのではないでしょうか。

■それに「ホワイトスペース戦略」のフレームワークも多いに使えることが
分りました。

先ほども言いましたが、これにランチェスター戦略による競争の視点を入れ
ることで、より現実的な戦略立案ができるようになると思います。

ちなみにこの本の198頁には、19個のビジネスモデル類型が掲載されて
います。

これも思考の際の参考になると思いますよ。

■さて、ランチェスター戦略勉強会では、こうしたフレームワークに従って
事例を整理しながら、思いつくことや連想することなどを出し合います。

多様な背景を持つ異業種の人たちが集まっているので、知識も思考も感性も
様々です。

全く話が合わない恐れもありますが、フレームワークという共通の思考様式
を用いることで、同じ話題をテーマに討議することができます。

同じ話題が、立場も違えば、見え方が違うということに思い至り刺激的です。

異業種交流の楽しさはここにありますね。

脱線することもしばしばですが、それがまた楽しいものです。

私の役割は、適度に脱線していただき、また元に戻るように留意することで
すかね。

とはいいながら私自身がノリノリで脱線することも多いのですが...

■フレームワークがうまくはまった場合は、その構造を他の事業に応用する
ことを考えます。

それがフレームワーク思考の醍醐味です。

具体的なことばかりに囚われていると、その事業のことだけしか考えること
ができませんが、抽出されたフレームワークという構造は、万能の形態と為
り得ます。

今回の構造も、業種や規模を変えて、様々に応用できるはずです。

6月13日の勉強会では、お酒関連の業種の方が多かったこともあり、お酒
の話題で盛り上がりました。

☆ハイエンド層を狙った機能性の高い商品。

☆ジレットモデルを活用した収益モデル。

☆リピーターを囲い込む仕掛け。

こうした内容は、どの業種にでも当てはまるはずです。

せっかくの勉強会ですから、その構造を他業種に応用することを考える時間
を設けるようにしています。

■そんなわけで2時間の勉強会は休憩なしで続けられます。濃いですよ^^

この面白さと有益性が分っていただければなぁと思います。

これを読んで面白そうだなーーと思われた方は、ぜひとも、ご参加ください。

よろしくお願いいたします。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■勉強会の後は、必ず懇親会を開きます。

場所はいつも、会場の近くにある高級イタリアンです^^

懐の心配はなさらずに、気軽にお越しください。

■懇親会だけ参加される方もおられます。

今回は、沖縄から泡盛酒蔵の経営者の方が来られました。

それもまた楽しからずや。なかなか、そういう方とはお知り合いになれない
ですからね。

■ですから、遠くの方も、出張の都合が合えば、気軽に参加ください。

いえ。勉強会に合わせて出張を組んでください。

お待ちしております^^

(2011年6月16日メルマガより)


■今週の月曜日は「ランチェスター戦略勉強会」でした。

お越しいただいた方はありがとうございました。

アットホームな雰囲気ながら、有益な勉強会を目指して、もう5年近く続け
ているでしょうか。

私自身、毎回、新たな刺激をいただいており、感謝すること限りありません。

実際、この勉強会からヒントをもらって、多くのコンサルティング技法を開
発してきました。

大げさな^^とお思いかも知れませんが、本当ですよ。

■今回のメルマガでは、その勉強会で討議されたネタを題材にしています。

私自身、面白かった事例ですので、再現させていただきました。

なお、最初に断っておきますが、ここに書くことは私一人が考えたことでは
なくて、勉強会に参加された方の意見や討議内容を集約したものです。

一つ一つ、誰の意見だとか書いてはいませんが、そういうことです。

参加された方には御礼を申し上げます。ネタにしましたので、お許しくださ
いね^^

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■「ホワイトスペース戦略」という本が出ていますね。

うーーん。いかにも怪しげな^^;

「ブルーオーシャン戦略と何が違うんやーーー」と言いたくなりますが、チ
ェックしとかないと気になるので、読んでみました。

■果たして、読んでみるとまともな本です。上から目線ですみませんが^^;

作者によると「ホワイトスペース」という言葉は、未知の新市場という意味
ではなく「既存のビジネスモデルが活動の対象としていない領域」という意
味で使っているそうです。

ビジネスモデルの改変や改善が必要なビジネス領域はすべて「ホワイトスペ
ース」です。そこが古くからの市場であっても、競合がひしめく厳しい市場
であっても、関係なく。

だから「競合他社が手をつけていない」未知の領域であるブルーオーシャン
とは全く違う概念となります。

■まあ、要するに、企業が新規事業に進出する際に、ビジネスモデルを含め
て、どんなことをしなければいけないかを書いた本です。

普通の「新規事業開発戦略」というタイトルでいいじゃないか!と思わなく
はありませんが^^;

それぞれの訴求方法があるでしょうから、ネーミングに目くじらは立てない
でおきましょう。

■それでも、この本は私にとって「使える本」でした。

読んでよかったです。

この本の特徴は、新規事業に進出する際に留意しなければならないことをシ
ンプルな「4つの箱」というフレームワークで整理していることです。

(1)顧客価値提案

(2)利益方程式

(3)主要業務プロセス

(4)主要経営資源

というのが、その4つです。

■(1)の顧客価値提案とは、いわゆる事業コンセプトのことです。

すなわち、ターゲットとする顧客に対して、どのような価値を提供するのか?

端的にいうと、特定顧客の悩みや欲求をどのように解消するのか?

そもそも、これがなければ事業は成立しませんから、最も重要な項目です。

(2)利益方程式とは、そのビジネスが経済的に成立するための根拠です。

収益モデル(どのようにして売上を上げるのか)、コスト構造(固定費と間
接費のバランス)、単位利益(粗利率)、経営資源回転率などがこれにあた
ります。

大変重要なわりには、画餅になりがちなところです。

(3)主要業務プロセスとは、ビジネスをしていく上での業務の仕組みのこと。

(4)主要経営資源とは、同じくビジネスをしていくための人材、資金、技
術、設備、商品など。

非常にシンプルですが、それだけに分りやすく使いやすいフレームワークです。

■ちなみに私が持っているフレームワークに当てはめると

1.経営環境分析。顧客、競合、自社の理解。ここに(1)(2)(4)が
入ります。

2.事業ドメイン策定。ここは(1)(2)です。

3.マーケティング施策の策定。

4.営業プロセスの作成。(2)(3)となります。

重複しているように見えますが、それぞれの要素の部分部分が、入り組んで
いるからこのような振り分けとなります。

ビジネスモデルを1から組み立てるという意味では、ホワイトスペース戦略
のフレームワークの方が明瞭です。

しかし、競争戦略という意味では、少しもの足りません。

(だから、私のフレームワークの中に、ビジネスモデル作成という項目を入
れたらいいのかな)

■実は先日(6月13日)、ランチェスター戦略勉強会の際に、このフレー
ムワークを使わせていただきました。

参加メンバーの方には黙っていましたが、実は、このフレームワークが使え
るのかな?という実験も兼ねて、勉強会運営をしておりました。

すみませんでした。

今回は、いい機会なので「ランチェスター戦略勉強会」ってどういうことを
しているんだ?という疑問に答えつつ、このメルマガを展開していきたいと
思います。

■さて、勉強会では、いつも、最初にネタとなる事例を配布します。

ネタは、私が毎回選んでいます。自分が面白いと思うものや、旬のものや、
話がふくらみそうだなと思えるものです。

大抵は「日経ビジネス」や「週刊ダイヤモンド」などからの切り抜きをコピ
ーして配布しています。

著作権違反になるとしたら申し訳ございません。お目こぼしを。

その切抜きをまずは全員で熟読します。10分ぐらい時間をかけますかね。

■今回のネタは「週刊東洋経済2011.1.8」の「ネスプレッソ」の事例でした。

「ネスプレッソ」は、売上高8兆円という世界最大級の食品メーカーネスレ
の高級カプセルコーヒー部門です。

端的にいうと、約3万円のエスプレッソマシーンと、エスプレッソを淹れる
ための70円のカプセルを販売する商売です。

世界では、年間2000億円以上を売り上げて、平均30%以上の成長率を
誇ります。凄まじい事業ですな。

記事そのものは、いささか宣伝臭のするものでしたが^^;一応の情報は揃
っていました。

■勉強会では、記事を読んだ後、司会役の私が何らかのフレームワークで、
事例を整理するようにしています。

意識の高い方が集まっているので、司会の役割はあまり重要ではないのです
が、一応、私が進行役です。

あまり無いことですが、事例の感想を言い合うような場になっても困ります
からね^^;

そこで今回は「ホワイトスペース戦略」のフレームワークで整理してみました。

■まず(1)顧客に対する提供価値は何か?

ネスプレッソは「究極のコーヒー体験」をコンセプトとして掲げています。

つまりインスタントコーヒーや安いドリップコーヒーなどでは味わえない本
格エスプレッソを家庭でも飲めるというもの。

言うまでもありませんが、何をコンセプトにするのかは、ものすごく重要で
す。事業は、設定したコンセプト以上には発展しないものでしょうから。

ここを設定し間違えると、事業は育たないどころか、立ち上がりもしないか
も知れません。

■ここで疑問は、欧米ではともかく、日本で「究極の(エスプレッソ)コー
ヒー体験」をしたいと思う人がどれほどいるのか?ということです。

実をいうと、ネスプレッソは最初、日本では業務用ルートを開拓しようとし
てうまくいかなかったようです。

これは恐らく、業務用には、低価格の業者がいっぱいいるからだと思われます。

ネスプレッソのマシンが、低価格の競合他社に比べて美味しいコーヒーを出
せるとしても、業務用ではコスト優位性が重要です。かといって、本格的な
コーヒーを志向する高級店は自社で豆を挽いて作りますからマシンは必要と
していません。

ポジションとして中途半端です。

そこで、家庭用へのシフトという考え方が出てきます。

つまりターゲットは、本格的なコーヒーをいつも飲みたいが、毎日コーヒー
専門店に行くわけにもいかん、という人たち。

だから厳密にいうと「究極のコーヒー体験」を家で思い出したい、というぐ
らいのニーズです。

日本ではスターバックスをはじめ、美味しいコーヒーを提供する店が増えて
いますから、消費者の舌が肥えています。

それに近い味を家庭でも味わいたいという人たちは確実に増えているのでは
ないかと考えられます。

やはり、ネスプレッソが急速に成長している背景には、今日的なニーズがあ
るのだと考えます。

■さて、そのコンセプトを実現するためにこの企業がやっていることを4P
(マーケティングミックス)にまとめると

製品:味へのこだわり。そのための農家への技術指導や豆の厳選など。

チャネル:顧客との接触店の高級イメージを重視。そのため、マシンは、直
営店か高級ホテルに設置。

その直営店は、スイス本社のデザイナーが世界統一で設計しています。写真
を見れば、カラフルなコーヒーカプセルがまるでオブジェのように並んで、
異次元空間のようです。

プロモーション:高級イメージを損なうような広告宣伝は行わず。1年以上
研修を受けた正社員による接客販売が基本。

価格:本体3万円。コーヒーカプセル70円。(競合会社に対して高めに設
定し、こだわりのある層を選別している)

ということになります。

■次に(2)収益モデル。

ネスプレッソは、コピー機や携帯電話などと同じ「ジレットモデル」で成立
しています。(剃刀の柄を配布して、替刃で儲けるモデル)

本体も3万円と高めですが、替刃にあたるコーヒーカプセルは70円です。
おそらく利益率は80%はあるのではないかと想像します。

1日1杯飲むとして、365日×70円=25550円。一家、2.5人と
しても、63875円。

マシンを100個販売すると、約640万円の追加需要があるわけです。粗
利500万円以上!

(コーヒー好きな人は、1日1杯では済まないと言っていましたから、これ
が倍になる可能性もあります)

もともと「ジレットモデル」は、史上最強のビジネスモデルと言われていま
すから、巧みにそれを取り入れたわけです。

えげつない収益モデルです。

なお「ジレットモデル」が成立するためには、顧客を囲いこんで、他社に乗
り換えられなくする工夫が必要です。

もちろんネスプレッソも、コーヒーカプセルに1700件以上の特許を持っ
ており、他社が代替品を作りたくてもできないようにしています。

■(3)業務プロセス。

ここでは営業プロセスのみを見ました。

このメルマガでは何度も言っていますが、営業は「顧客選択・集客→営業活
動→アフターフォロー」の三段階に分けることができます。

(ついでにいうと、真ん中の「営業活動」は、さらに「アプローチ→ヒアリ
ング→プレゼンテーション→クロージング」の4段階に分かれます)

営業の業績を上げたいならば、プロセス設計は必要不可欠です。営業トーク
や気合いなどで継続的な売上が見込めることはありません。

私は営業戦略作成の仕上げとして、必ず営業プロセスを作るようにしています。

さて、ネスプレッソの場合。

顧客選択・集客→

ターゲットは、3万円のマシンを買ってでも美味しいコーヒーを飲みたいと
感じる層です。だから、マシンの価格設定自体が、顧客を選別する機能を持
っています。(ジレットモデルのセオリーでは、柄はタダに近い値段で配っ
て替刃で利益をとることになりますが、ネスプレッソは敢えてセオリーを破
っています)

ただし、直営店や高級ホテルでマシンを見た人にアプローチするだけとした
ら、集客として弱いと言わざるをえません。

おそらく、セグメント分けした顧客リストを自社で作成してDMを送付して
いるのではないか。

あるいは、ターゲットに合うような雑誌への広告や記事協力、または通販を
うまく利用しているのではないかと思います。

このパートに関しては、よく見えないところが多かったですね...

営業活動→

ファーストアプローチは、直営店や高級ホテルで。そこで、教育された店員
が顧客に「究極のコーヒー体験」らしきものを与えます。単に、味だけでは
なく、店が与える印象、店員の薀蓄や物語などが印象として付加さられます。

一年間の研修では、顧客対応や販売のノウハウなどをみっちり教育されるの
だと思いますね。

アフターフォロー→

コーヒーカプセルは純正品のみ対応ですから買わざるを得ない。これが囲い
込みの基本的な仕掛けです。

それにマシンが3万円もしたのだから、コーヒーを飲まないと損だという気
持ちも働く仕掛けになっているでしょう。

それだけではありません。同社は「ネスプレッソクラブ」という無料の会員
サービスを行っています。それに入会すると、24時間カプセル購入、無償
で本体の代替などのサービスを受けることができます。

あるいは、入会しない人には、フォローメールを送付し続けているのかも知
れませんね。

■(4)経営資源。

ネスレの会長は「人材こそわがグループの資産だ」と言っています。

確かに、ネスレグループの人材(とノウハウ)資源なくして新規事業開発は
できないでしょう。

まずは、コーヒー関連に強い人材(研究開発者や農場とのコネクションを持
つ人たち)なくしては「究極のコーヒー体験」をもたらす味を実現すること
はできなかったはずです。

次に、店舗開発のための人材。開発マネージャーやデザイナー、営業。

さらには「ネスプレッソクラブ」を運営する人材。

こうした多様な才能を取りまとめるプロジェクトマネージャー。

いかにも豊富な人材と資金力があればこその事業展開だと想像することがで
きます。

中小企業で戦略立案しても、人材やノウハウの不足が制約条件になることが
多いので、この資源の豊富さは羨ましい限りです。

もっとも、ブランドの構築や集客など課題も多いでしょうから、簡単ではな
かったはずです。

一番の資産は、やはり課題を克服する戦略ノウハウを持った人材が多かった
ということになりますかね。

■こうしてみると、実によくできたビジネスであるということが分ります。
成功事例だから当たり前かも知れませんが。

それでも多くのビジネス展開のヒントになるのではないでしょうか。

■それに「ホワイトスペース戦略」のフレームワークも多いに使えることが
分りました。

先ほども言いましたが、これにランチェスター戦略による競争の視点を入れ
ることで、より現実的な戦略立案ができるようになると思います。

ちなみにこの本の198頁には、19個のビジネスモデル類型が掲載されて
います。

これも思考の際の参考になると思いますよ。

■さて、ランチェスター戦略勉強会では、こうしたフレームワークに従って
事例を整理しながら、思いつくことや連想することなどを出し合います。

多様な背景を持つ異業種の人たちが集まっているので、知識も思考も感性も
様々です。

全く話が合わない恐れもありますが、フレームワークという共通の思考様式
を用いることで、同じ話題をテーマに討議することができます。

同じ話題が、立場も違えば、見え方が違うということに思い至り刺激的です。

異業種交流の楽しさはここにありますね。

脱線することもしばしばですが、それがまた楽しいものです。

私の役割は、適度に脱線していただき、また元に戻るように留意することで
すかね。

とはいいながら私自身がノリノリで脱線することも多いのですが...

■フレームワークがうまくはまった場合は、その構造を他の事業に応用する
ことを考えます。

それがフレームワーク思考の醍醐味です。

具体的なことばかりに囚われていると、その事業のことだけしか考えること
ができませんが、抽出されたフレームワークという構造は、万能の形態と為
り得ます。

今回の構造も、業種や規模を変えて、様々に応用できるはずです。

6月13日の勉強会では、お酒関連の業種の方が多かったこともあり、お酒
の話題で盛り上がりました。

☆ハイエンド層を狙った機能性の高い商品。

☆ジレットモデルを活用した収益モデル。

☆リピーターを囲い込む仕掛け。

こうした内容は、どの業種にでも当てはまるはずです。

せっかくの勉強会ですから、その構造を他業種に応用することを考える時間
を設けるようにしています。

■そんなわけで2時間の勉強会は休憩なしで続けられます。濃いですよ^^

この面白さと有益性が分っていただければなぁと思います。

これを読んで面白そうだなーーと思われた方は、ぜひとも、ご参加ください。

よろしくお願いいたします。

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■勉強会の後は、必ず懇親会を開きます。

場所はいつも、会場の近くにある高級イタリアンです^^

懐の心配はなさらずに、気軽にお越しください。

■懇親会だけ参加される方もおられます。

今回は、沖縄から泡盛酒蔵の経営者の方が来られました。

それもまた楽しからずや。なかなか、そういう方とはお知り合いになれない
ですからね。

■ですから、遠くの方も、出張の都合が合えば、気軽に参加ください。

いえ。勉強会に合わせて出張を組んでください。

お待ちしております^^

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代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
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