ラスト・ワンマイルの表と裏をおさえよ

2017.03.09

(2017年3月9日メルマガより)


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■日本の物流が危機に瀕しているようです。

宅配便最大手のヤマト運輸が、27年ぶりに、個人向けの宅急便運賃を上げる意向だということ。

参考:27年ぶりヤマト値上げ。佐川との違いは何だったのか(ニュースイッチ)
http://newswitch.jp/p/8214

適正な運賃体系にする。とありますが、要するにこれまでは、作業員の頑張りに頼るところが大きかったのでしょうね。

残業代をまともに払えば、破綻してしまうのが現状なのでしょう。

■昨年だったか、佐川急便の配達員が、キレて、荷物を放り投げる動画が話題になりました。

マンション横の階段のようなところで、配達員らしき人が宅配の荷物を放り投げ、蹴とばし、あげくは台車を放り投げるという感情のこもった行為に及ぶ動画でした。

見慣れない者からすればショッキングな内容ではありましたが、物流会社に勤める知人は「あんなの皆やってるよ。撮影されるようなところでやらないだけ」とサラリといっていました。

そういう話を聞くと、日本の物流体制は再構築しなければならないところにきていたと思えますねえ。

■ただ、記事には「個人向けの宅急便は、ヤマトの取り扱う荷物の1割程度」だとあります。

「9割はアマゾンジャパン(東京都目黒区)などをはじめとしたネット通販など、BツーB(企業間)の大口顧客になる」

ここにも出てきましたね。

また、アマゾンか!

ヤマト側としては、アマゾンに価格改定要請をするそうですが、一筋縄でいかない相手ですからねー

前途多難であることは間違いありません。

■ヤマト運輸といえば、「宅配という社会インフラを守る」という社会的使命を信条とする会社です。

そのヤマトが「やってられん!」と音を上げる(値を上げる)のですから、余程のことですよ。

対するアマゾンも「すべては顧客の便益のため」というゴリゴリのマーケティング原理主義会社です。

なにしろ「儲けない。儲けるぐらいなら顧客に還元する」という信念を持っているようですからね。

原理主義者との交渉は厄介ですよ。信念が揺るぎませんからね。

■戦略的にいうと、アマゾンの卓越性は、ネット通販を装置産業と捉えたところにあります。

ネット通販は、店舗販売に比して、消費者との距離が近い事業です。

個人消費者は、店舗に出向かなくても、以前はパソコン、今はスマホを通じて、直接購買することができます。

いわゆる購買時の「ラスト・ワンマイル」が近い。

店舗に行かずに購買を行えるのですから、消費者が慣れさえすれば、購入者が増えるのは目に見えていました。

楽天しかり。ネット通販事業が、倍々に成長していくのは自明のことでした。

しかし問題は、購買後、消費者のもとに届けるという裏の「ラスト・ワンマイル」に難があることです。

そこに気付いたアマゾンは、物流体制を整備するために途方もない投資を行いました。

あまりの投資額に「アマゾンはいつ破綻してもおかしくない」と不安視されたものですが、その投資が一巡してしまえば、実に大きな優位性となりました。

今や、他のネット事業者が、アマゾンと張り合うのは現実的ではないレベルにまで投資の蓄積に至っています。

■しかし、物流倉庫は世界中に整備したものの、そこから消費者の自宅に届ける本当の「ラスト・ワンマイル」は、ヤマト運輸などの宅配業者が担っています。

送料無料。即日配送。時間指定配送。などはアマゾンお得意のサービスですが、その遂行をヤマトに押し付けているわけですから、ずるいと言われても仕方ありません。

特に配達員さんにかかる負担は看過できません。

私の心斎橋の事務所にも、アマゾンの荷物が届くことがあります。

たまに、再配達をしてもらうこともあります。もっというと、時間指定を頼んでいたにも関わらず、不在にしてしまって、再配達をお願いすることもあります。

そんな時は本当に申し訳なくて、土下座したい気持ちになりますよ。

■ただ今回の件、一筋縄でいかないと思うのは、アマゾンには「自分で宅配する」というオプションがあることです。

ドローンで配送しようとしたり、一般人に白タクならぬ白宅配をさせようとまで検討するアマゾンのことです。

当然、ヤマトに払う運賃が高くなれば、自社で宅配会社を持った方がいいや。と考えるでしょう。

実際、世界中で、アマゾンが運送業を始める可能性があると噂になっています。

海外の宅配業者は日本ほど高度ではない、という話もありますが、それはそれ、日本で運送業を始められれば、他の業者にとって大いなる脅威です。

ヤマト側が抜本的に運賃体系を再構築する。というのなら、アマゾンももっと抜本的に再構築します。と言い出すでしょうね。

悩ましい話です。

が、その方がいいかも知れません。

配達員が無理をしなければならない事業というのは、やまり間違っています。

■話は変わりますが、表の「ラスト・ワンマイル」についても、流通業界で革新が進んでいます。

参考:コンビニの「マイクロ店舗」続々、狙いはオフィス等の極小商圏(ダイヤモンドオンライン)
http://diamond.jp/articles/-/111969

コンビニといえば、全国どこにでもあり、売れ筋ばかりが並んでいて、顧客の利便性をとことん追求している存在です。

が、そのコンビニがさらに「ラスト・ワンマイル」を詰めようとしています。

それが「マイクロ店舗」なるものです。

■これはオフィス内などに設置されたミニコンビニのこと。

自動販売機スタイルのところもありますし、棚に並べただけの無人販売スタイルのところもあります。

もしかしたら新幹線のワゴン販売スタイルのところがあるかも知れません。

確かにオフィス街のコンビニは昼時にはレジが行列になってげんなりします。オフィス内にミニコンビニがあれば、確かに便利です。

今や、そこまで消費者に近づく競争になっているのですよ。

■全国、津々浦々に張り巡らされたコンビニの店舗網は、いまや社会インフラといえるほど便利なものですが、当のコンビニ側は、それでは飽き足りないわけです。

なにしろ、専門店が量販店に駆逐されたように、量販店がコンビニに追いやられたように、コンビニもアマゾンのようなネット事業者に消されてしまうかも知れません。

メーカー側がコンビニにすり寄るのは、そこが最も成果の出る売り場だからです。アマゾンの方がよければ、そちらに乗り換えるのは当然です。

だから、セブンイレブンはオムニチャンネルとかいってアマゾンの先をいこうとするし、ファミリーマートは、上の記事のようにオフィス内店舗を作ろうとする。

売り場としての魅力を失わないようにしておかなければならない。

■俗にいうマーケティング・ミックス(商品、価格、チャネル、プロモーション)の中で、最も重要なものは、チャネルだと私は考えています。

チャネル。売る場所。販売ルート。

ここをしっかり把握し、押さえていることが、ナンバーワン企業の最大の優位性となります。

トップ企業が競争に強く、なかなか2位に後退しないのは、チャネルに強いからです。

逆にいうと、トップ企業や商品の交代が起こるのは、新たなチャネルが立ち上がった時が最も多い。

キリンラガー(酒販店)→アサヒスーパードライ(量販店)

任天堂(玩具屋)→DeNA、グリー(ガラケー)→ガンホー、MIXI(スマホ)

ヤフオク(パソコン)→メルカリ(スマホ)

例は必ずしもトップ企業の交代とは言えないものもありますが、勢いのある企業が変遷しているということで...

だから、メーカー側は、チャネルの優位性を常に見ておかなければなりません。新たなチャネルに乗り遅れれば、致命的なことになってしまいますからね。

■一方で、チャネルに頼らずに、自ら顧客とのラスト・ワンマイルを詰めようとするメーカーもいます。

ヤクルトは、ヤクルトレディがオフィスを巡回して直接販売していることが非常な強みとなっています。

グリコの「置き菓子」は、年間売上53億円のビジネスになっているそうですよ。

ダスキンも、ドーナツはイマイチですが、直接家庭を巡回する清掃事業は強いですね。(ドーナツも宅配すればどうですか?)

自らチャネルを作るというのは、大変な労力が必要となりますが、それをやり遂げた企業にとっては、大変な優位性となっています。

■もちろん、アマゾンも表のラスト・ワンマイルについて手を打ってきています。

参考:アマゾンはどこから来てどこへ行くのか
https://www.createvalue.biz/column2/post-412.html

「無人コンビニ」「アマゾンダッシュ」「アマゾンエコー」などと矢継ぎ早に繰り出す新施策は、要するに表のラスト・ワンマイルを詰めるためのものです。

なにしろアマゾンは資金もあるし、発想のリミットがなさそうですからね。なんでもありです。

ここまで革新的だと、アマゾンはどこまで行ってしまうのだろうかと楽しみになりますね

ここは、アマゾンの持つ革新力で、物流業界の最適解も導き出してほしいものです。

周辺の企業とすれば、大変な地殻変動が起きるかも知れませんが、それは仕方ない。

覚悟して、変化に臨んでいくしかありません。


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■日本の物流が危機に瀕しているようです。

宅配便最大手のヤマト運輸が、27年ぶりに、個人向けの宅急便運賃を上げる意向だということ。

参考:27年ぶりヤマト値上げ。佐川との違いは何だったのか(ニュースイッチ)
http://newswitch.jp/p/8214

適正な運賃体系にする。とありますが、要するにこれまでは、作業員の頑張りに頼るところが大きかったのでしょうね。

残業代をまともに払えば、破綻してしまうのが現状なのでしょう。

■昨年だったか、佐川急便の配達員が、キレて、荷物を放り投げる動画が話題になりました。

マンション横の階段のようなところで、配達員らしき人が宅配の荷物を放り投げ、蹴とばし、あげくは台車を放り投げるという感情のこもった行為に及ぶ動画でした。

見慣れない者からすればショッキングな内容ではありましたが、物流会社に勤める知人は「あんなの皆やってるよ。撮影されるようなところでやらないだけ」とサラリといっていました。

そういう話を聞くと、日本の物流体制は再構築しなければならないところにきていたと思えますねえ。

■ただ、記事には「個人向けの宅急便は、ヤマトの取り扱う荷物の1割程度」だとあります。

「9割はアマゾンジャパン(東京都目黒区)などをはじめとしたネット通販など、BツーB(企業間)の大口顧客になる」

ここにも出てきましたね。

また、アマゾンか!

ヤマト側としては、アマゾンに価格改定要請をするそうですが、一筋縄でいかない相手ですからねー

前途多難であることは間違いありません。

■ヤマト運輸といえば、「宅配という社会インフラを守る」という社会的使命を信条とする会社です。

そのヤマトが「やってられん!」と音を上げる(値を上げる)のですから、余程のことですよ。

対するアマゾンも「すべては顧客の便益のため」というゴリゴリのマーケティング原理主義会社です。

なにしろ「儲けない。儲けるぐらいなら顧客に還元する」という信念を持っているようですからね。

原理主義者との交渉は厄介ですよ。信念が揺るぎませんからね。

■戦略的にいうと、アマゾンの卓越性は、ネット通販を装置産業と捉えたところにあります。

ネット通販は、店舗販売に比して、消費者との距離が近い事業です。

個人消費者は、店舗に出向かなくても、以前はパソコン、今はスマホを通じて、直接購買することができます。

いわゆる購買時の「ラスト・ワンマイル」が近い。

店舗に行かずに購買を行えるのですから、消費者が慣れさえすれば、購入者が増えるのは目に見えていました。

楽天しかり。ネット通販事業が、倍々に成長していくのは自明のことでした。

しかし問題は、購買後、消費者のもとに届けるという裏の「ラスト・ワンマイル」に難があることです。

そこに気付いたアマゾンは、物流体制を整備するために途方もない投資を行いました。

あまりの投資額に「アマゾンはいつ破綻してもおかしくない」と不安視されたものですが、その投資が一巡してしまえば、実に大きな優位性となりました。

今や、他のネット事業者が、アマゾンと張り合うのは現実的ではないレベルにまで投資の蓄積に至っています。

■しかし、物流倉庫は世界中に整備したものの、そこから消費者の自宅に届ける本当の「ラスト・ワンマイル」は、ヤマト運輸などの宅配業者が担っています。

送料無料。即日配送。時間指定配送。などはアマゾンお得意のサービスですが、その遂行をヤマトに押し付けているわけですから、ずるいと言われても仕方ありません。

特に配達員さんにかかる負担は看過できません。

私の心斎橋の事務所にも、アマゾンの荷物が届くことがあります。

たまに、再配達をしてもらうこともあります。もっというと、時間指定を頼んでいたにも関わらず、不在にしてしまって、再配達をお願いすることもあります。

そんな時は本当に申し訳なくて、土下座したい気持ちになりますよ。

■ただ今回の件、一筋縄でいかないと思うのは、アマゾンには「自分で宅配する」というオプションがあることです。

ドローンで配送しようとしたり、一般人に白タクならぬ白宅配をさせようとまで検討するアマゾンのことです。

当然、ヤマトに払う運賃が高くなれば、自社で宅配会社を持った方がいいや。と考えるでしょう。

実際、世界中で、アマゾンが運送業を始める可能性があると噂になっています。

海外の宅配業者は日本ほど高度ではない、という話もありますが、それはそれ、日本で運送業を始められれば、他の業者にとって大いなる脅威です。

ヤマト側が抜本的に運賃体系を再構築する。というのなら、アマゾンももっと抜本的に再構築します。と言い出すでしょうね。

悩ましい話です。

が、その方がいいかも知れません。

配達員が無理をしなければならない事業というのは、やまり間違っています。

■話は変わりますが、表の「ラスト・ワンマイル」についても、流通業界で革新が進んでいます。

参考:コンビニの「マイクロ店舗」続々、狙いはオフィス等の極小商圏(ダイヤモンドオンライン)
http://diamond.jp/articles/-/111969

コンビニといえば、全国どこにでもあり、売れ筋ばかりが並んでいて、顧客の利便性をとことん追求している存在です。

が、そのコンビニがさらに「ラスト・ワンマイル」を詰めようとしています。

それが「マイクロ店舗」なるものです。

■これはオフィス内などに設置されたミニコンビニのこと。

自動販売機スタイルのところもありますし、棚に並べただけの無人販売スタイルのところもあります。

もしかしたら新幹線のワゴン販売スタイルのところがあるかも知れません。

確かにオフィス街のコンビニは昼時にはレジが行列になってげんなりします。オフィス内にミニコンビニがあれば、確かに便利です。

今や、そこまで消費者に近づく競争になっているのですよ。

■全国、津々浦々に張り巡らされたコンビニの店舗網は、いまや社会インフラといえるほど便利なものですが、当のコンビニ側は、それでは飽き足りないわけです。

なにしろ、専門店が量販店に駆逐されたように、量販店がコンビニに追いやられたように、コンビニもアマゾンのようなネット事業者に消されてしまうかも知れません。

メーカー側がコンビニにすり寄るのは、そこが最も成果の出る売り場だからです。アマゾンの方がよければ、そちらに乗り換えるのは当然です。

だから、セブンイレブンはオムニチャンネルとかいってアマゾンの先をいこうとするし、ファミリーマートは、上の記事のようにオフィス内店舗を作ろうとする。

売り場としての魅力を失わないようにしておかなければならない。

■俗にいうマーケティング・ミックス(商品、価格、チャネル、プロモーション)の中で、最も重要なものは、チャネルだと私は考えています。

チャネル。売る場所。販売ルート。

ここをしっかり把握し、押さえていることが、ナンバーワン企業の最大の優位性となります。

トップ企業が競争に強く、なかなか2位に後退しないのは、チャネルに強いからです。

逆にいうと、トップ企業や商品の交代が起こるのは、新たなチャネルが立ち上がった時が最も多い。

キリンラガー(酒販店)→アサヒスーパードライ(量販店)

任天堂(玩具屋)→DeNA、グリー(ガラケー)→ガンホー、MIXI(スマホ)

ヤフオク(パソコン)→メルカリ(スマホ)

例は必ずしもトップ企業の交代とは言えないものもありますが、勢いのある企業が変遷しているということで...

だから、メーカー側は、チャネルの優位性を常に見ておかなければなりません。新たなチャネルに乗り遅れれば、致命的なことになってしまいますからね。

■一方で、チャネルに頼らずに、自ら顧客とのラスト・ワンマイルを詰めようとするメーカーもいます。

ヤクルトは、ヤクルトレディがオフィスを巡回して直接販売していることが非常な強みとなっています。

グリコの「置き菓子」は、年間売上53億円のビジネスになっているそうですよ。

ダスキンも、ドーナツはイマイチですが、直接家庭を巡回する清掃事業は強いですね。(ドーナツも宅配すればどうですか?)

自らチャネルを作るというのは、大変な労力が必要となりますが、それをやり遂げた企業にとっては、大変な優位性となっています。

■もちろん、アマゾンも表のラスト・ワンマイルについて手を打ってきています。

参考:アマゾンはどこから来てどこへ行くのか
https://www.createvalue.biz/column2/post-412.html

「無人コンビニ」「アマゾンダッシュ」「アマゾンエコー」などと矢継ぎ早に繰り出す新施策は、要するに表のラスト・ワンマイルを詰めるためのものです。

なにしろアマゾンは資金もあるし、発想のリミットがなさそうですからね。なんでもありです。

ここまで革新的だと、アマゾンはどこまで行ってしまうのだろうかと楽しみになりますね

ここは、アマゾンの持つ革新力で、物流業界の最適解も導き出してほしいものです。

周辺の企業とすれば、大変な地殻変動が起きるかも知れませんが、それは仕方ない。

覚悟して、変化に臨んでいくしかありません。


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