雑草のようにしたたかなワタミの生き残り戦略

2020.11.26

(2020年11月26日メルマガより)

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生き残り戦略を学ぶには、稲垣栄洋氏の「雑草という戦略」が参考になるのでお勧めいたします。


稲垣栄洋氏といえば、植物とくに雑草の研究で知られる農学博士です。

雑草という弱いがしたたかな植物に関する知見から、普遍的な生き残り戦略を導き出すユニークな著書を多数出しています。

とにかくその著作量が半端ない。wikiで確認すると、この20年で、共著も含め50冊以上の著作があることがわかります。

まるで野村克也氏ですな。

ご本人の意欲も高いのでしょうが、これだけの著作を出せるというのは売れているということですよ。


■そういえば、以前のメルマガでも、稲垣博士の著作をとりあげたことがありました。


実をいうと、稲垣氏の著作は、以前とりあげたものと大きく違うものではありません。

内容に重複する部分も多い。

それでも手に取って買ってしまうというのは、やはり面白いし、参考になる部分が多いということです。

今回は、稲垣氏の著作を参考にしながら、ワタミの生き残り戦略について書いてみました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


稲垣栄洋博士の「雑草という戦略」が面白い。

稲垣博士は、雑草研究の専門家で、その知見から普遍的な生き残り戦略を導きだすユニークな著作を多く書かれています。

植物や動物など自然界の生物が生き残るためにしている工夫は、われわれがビジネスにおいても大いに参考になります。

なにしろ生物の生き残り策とは、理屈で考えたものではなく、恐ろしく長い年月をかけて多様な変異を繰り返す中で、結果として効果があったものだけが今に残っています。

いわば、数えきれない実証実験を繰り返した結果が、われわれが見る生き残り策です。

その知見をわかりやすく伝える稲垣博士の著作は、本当に参考になると思う次第です。


植物が種として生き残るための要素(CSR)


稲垣博士の著作には、植物の成功要素(CSR)という概念が示されています。

1970年代に英国の学者が提唱した概念だそうですが、植物が生き残るためには、C(競争:Competition)S(ストレス耐性:Stress)R(攪乱適応:Ruderal)の3つの成功要素があるということを表しています。

簡単に説明します。

C:競争とは、直接対決になった時に強いことを指しています。動物ならより力が強いこと。植物なら、日光や栄養分をより多く吸収できることです。

ビジネスにおいてはより顧客の支持を集められること。そのための商品力であったり、営業力であったりを指すといえます。


S:ストレス耐性とは、過酷な環境下でも生きることができる能力です。氷河期に恐竜が滅んだのに、個として弱い哺乳類が生き残ったのはストレス耐性があったからです。植物なら、砂漠でも生きていけるサボテンはストレス耐性があるといえます。

ビジネスにおいては、例えばコロナ禍においても事業を維持できるような財務体質や組織力を指すのでしょう。


R:攪乱適応とは、突然の環境変化にもいちはやく適応する能力です。一部の昆虫や小動物は、人間の住居に適した変化を成し遂げ、人工的な環境でも生き残っていますし、道端のアスファルトの隙間で生育する雑草は、過酷な環境に適応することで生き残っている種であるといえます。

ビジネスにおいては、攪乱適応こそがいま最も求められています。なぜなら、人口減少という避けようのない環境変化にすべての業種がさらされていて、今まで通りでは生き残れないことは自明だからです。

生き残ることこそが命題となっている現代、こうした雑草の生き方を学ぶことは、意味あることだと考えます。


ワタミの攪乱適応戦略


先ごろ、居酒屋チェーンのワタミが、360店舗のうち120店舗を焼肉チェーンに業態転換することを発表しました。

実に3分の1の大転換です。

直接の原因は、コロナ禍による業績の低迷です。

夜の街の代表格である居酒屋の売り上げは、前年比4割程度に落ち込んでいます。(GoTo前)

特に、テーブル席が多く、多人数の会食に適したワタミのような業態はダメージが大きいはずです。

ただワタミ側は、業績低迷をコロナ禍中のものだけとはとらえておらず、長期化するとみています。

コロナ以前から総合居酒屋の業績は右肩下がりを続けており、このまま人口減少していく中、持ちこたえられないと思われるからです。

だから今回は3分の1の業態転換ですが、ゆくゆくは焼肉チェーンを主力にする考えのようです。

あの一世を風靡した居酒屋ワタミでさえ持ちこたえられなかったのかと感慨深く感じると同時に、実に思い切った攪乱適応戦略であると評価したいと思います。

生き残るためには、何でもやらなければなりません。

今回は、ワタミの生き残り戦略について、雑草の生き残り策にからめて見てきたいと思います。


個としての競争力があったスタート時


ワタミは、1984年、渡邉美樹氏が創業した居酒屋チェーン運営会社です。

スタートは居酒屋つぼ八のフランチャイズ店です。その後、和民ブランドで店舗展開し、1998年には株式上場を果たします。

一時期は、一世を風靡するほどの勢いがありました。

創業者の渡邉氏は、自己PRに長けた人で、マスコミを利用してワタミの戦略を積極的に発信していきました。

渡邉氏をモデルにした小説もあります。まさに時代の寵児ですよ。


居酒屋和民は、その当時主流だった駅前焼き鳥屋からの差別化を目指しました。

駅近、客回転が速く、利益率が高いという居酒屋経営成功法則の逆、すなわち、駅から遠く、テーブル席中心で客回転が悪く、利益率の高い酒ではなく料理を中心に提供する業態です。

常識外れで一見無謀な店づくりですが、これが当たりました。何しろ、居酒屋という業態を、仕事帰りのサラリーマンが寄り道する店から、若者や女性やファミリー層までもがわざわざ行く店に変えたのです。

要するに、仕事帰りのオヤジ以外は、ワタミの顧客となったのです。手つかずの顧客層を掴んだことが、全国展開への原動力となりました。

個店としての競争力(魅力)があるときは、集中展開することが正しい戦略です。

スタート時のワタミは、まさに無双状態でした。


ライバルの模倣戦略により競争力を削がれる


しかし他店が手をこまねいてみているほど甘い業界ではありません。市場があることを知った競合店は、当然、それを狙いに来ます。

その際、手っ取り早いのは、ワタミの店舗運営形態をそのまま模倣することです。看板からメニューから店内構造から運営オペレーションから人材確保育成までそのまま真似すると、とりあえず成立します。

もちろん、ただの模倣でワタミを超えることは難しいでしょう。しかし、稼ぎの独り占めを少しでも阻止しなければなりません。それが企業競争というものです。

資金力が豊富な強者企業であったモンテローザは、和民のまわりに似たような店舗を多く配置し、その魅力を削ごうとしてきました。

ワタミとモンテローザの間で訴訟騒ぎが起きますが、こうした裁判は判断が難しいものです。

結局、うやむやに和解することになるのですが、マスコミの注目を集めたこの訴訟合戦は、むしろ話題になった分だけ両社にプラスになったのかもしれません。

ただ競合店の増加が、徐々にワタミの魅力を奪っていったことは確かです。

いつしか和民は、わざわざ行く店ではなく、いっぱいある中の一つになっていました。

しかも2000年代になると、若者のアルコール離れが目立つようになり、居酒屋業態全体の勢いがなくなっていきました。


ワタミのストレス耐性


売上に陰りがでると、試されるのがストレス耐性です。

売上が低迷しても利益を確保できるような財務体質であったり、従業員のモチベーションが高い企業は生き残ることができます。

ワタミの場合、回転数が低く、メニューが多いという業態の特性上、人員負担が大きくなります。

したがって、低迷する売上の中でも利益を確保しようとすれば、人件費を抑えることが最も簡単な方法です。そうなると、従業員にかかる負荷が増大しがちとなります。

ワタミの特徴は、従業員のモチベーションが高いことでした。それは創業者渡邉代表の「巻き込む力」によるところが大きいと思えます。

夢を語り、未来を語る渡邉代表に共鳴する従業員は、宗教的とでもいいたくなるようなテンションを示していました。

だがその分だけ、従業員に無理をさせる態勢があったのでしょう。

従業員の中には過労死する者もいたということで、ワタミはブラック企業の典型例だとみなされるようになりました。


そこに登場したのが、鳥貴族を代表とする専門店型の居酒屋チェーンです。メニューを極端に絞り込むことで、低価格と高品質を同時に追求できる形態を実現しました。

確かに鳥貴族はメニューが少ない。サイドメニューの中には、首をかしげたくなるようなしょぼいものもあります。しかし、看板メニューはたしかに価格以上の満足度を実現しています。

それに比べると、何でもあるように見えるワタミのメニューは、すべて平均的で見劣りします。

均一価格というインパクトもあり、鳥貴族のような業態が、若者を中心に支持を集めました。

あれほど強かったワタミ個店が、いつしか「何でもあるけど、食べたいものはない」店になってしまったのは、寂しい思いがします。

そんな中、ライバル会社に散々真似されてきた被害者だったワタミが、鳥貴族の模倣店(三代目鳥メロ)をしれっと出したのも皮肉でした。

それでも業績悪化は止まらず、2014年には、創業以来の赤字を計上してしまい改革待ったなしの状態でした。


焼肉店という業態の優位性


焼き鳥チェーンだけではなく、この頃には、ワタミも様々な業態店に挑戦するようになっていました。

攪乱適応戦略の前提になるのが、多様性です。

何が当たるのかわからないので、とりあえず多様な業態を試しておいて、いつでも展開できるようにしておかなければなりません。

ワタミは、終了したものも含めて、和食洋食中華、ありとあらゆる業態に挑戦しています。

その一環として焼肉店(かみむら牧場)にも取り組んでいました。

今回、120店舗を焼肉店に業態転換するというのは、取り組みを通じて、焼肉店の優位性に気付いたからでしょう。

まずは焼肉店というジャンルの根強い人気です。コロナ禍においても、最も回復が早かったのが焼肉店だというデータがあります。日本人にとって、焼肉店はいまだわざわざ行く店という位置づけです。

次にオペレーションの簡易さです。料理居酒屋と比べて、顧客との接触が少ない焼肉店は人手が少なくて済みます。

とくにワタミは、脱ブラック企業が最上課題となっており、余裕のある人員計画は必要不可欠なものです。

その意味で、焼肉店の運営は、方向性に合致したものです。

それ以外にも、回転寿司のような配膳レーンや、配膳ロボットの導入も計画しており、効率化への取り組みを推し進めるようです。

かみむら牧場の運営を通じて、和牛の仕入れ先が確保できたワタミは、ついに和民ブランドでの焼肉チェーン展開を決断したという現在です。


ワタミの生き残り戦略は奏功するか


ワタミの2020年3月期の売上高は、909億円。これは、4年前の7割の水準です。

そのうち国内外食事業の売上高は、469億円。52%を占めています。

次に大きいのが、宅食事業で、売上高は、344億円。38%を占めています。

利益をみれば、国内外食事業のセグメント利益2億4千万円に対して、宅食事業の利益は、22憶3千万円です。(海外外食事業は赤字)

つまり、売上においても宅食事業がもう一つの柱に育っており、利益でいえば宅食事業がほぼひとりで稼いでいる状態です。

これはコロナ禍においてますます鮮明になり、宅食事業の存在感は増すばかりです。

ある意味、ワタミグループとしての攪乱適応戦略が機能しているといえます。

が、半分以上を占める国内外食事業がこの収益傾向では未来は暗いと言わざるをえず、利益改善と売上再拡大が急務となっています。

ワタミは、2022年1000億円、2029年2000億円という強気な目標を立てており、その第一歩が、主力事業を焼肉チェーンに転換するという取り組みですね。

もちろん8年後には市場環境がさらに激変しているかもしれず、焼肉以外の業態を模索している可能性だってありますが、それはそれ。


(2020年11月26日メルマガより)

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生き残り戦略を学ぶには、稲垣栄洋氏の「雑草という戦略」が参考になるのでお勧めいたします。


稲垣栄洋氏といえば、植物とくに雑草の研究で知られる農学博士です。

雑草という弱いがしたたかな植物に関する知見から、普遍的な生き残り戦略を導き出すユニークな著書を多数出しています。

とにかくその著作量が半端ない。wikiで確認すると、この20年で、共著も含め50冊以上の著作があることがわかります。

まるで野村克也氏ですな。

ご本人の意欲も高いのでしょうが、これだけの著作を出せるというのは売れているということですよ。


■そういえば、以前のメルマガでも、稲垣博士の著作をとりあげたことがありました。


実をいうと、稲垣氏の著作は、以前とりあげたものと大きく違うものではありません。

内容に重複する部分も多い。

それでも手に取って買ってしまうというのは、やはり面白いし、参考になる部分が多いということです。

今回は、稲垣氏の著作を参考にしながら、ワタミの生き残り戦略について書いてみました。


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稲垣栄洋博士の「雑草という戦略」が面白い。

稲垣博士は、雑草研究の専門家で、その知見から普遍的な生き残り戦略を導きだすユニークな著作を多く書かれています。

植物や動物など自然界の生物が生き残るためにしている工夫は、われわれがビジネスにおいても大いに参考になります。

なにしろ生物の生き残り策とは、理屈で考えたものではなく、恐ろしく長い年月をかけて多様な変異を繰り返す中で、結果として効果があったものだけが今に残っています。

いわば、数えきれない実証実験を繰り返した結果が、われわれが見る生き残り策です。

その知見をわかりやすく伝える稲垣博士の著作は、本当に参考になると思う次第です。


植物が種として生き残るための要素(CSR)


稲垣博士の著作には、植物の成功要素(CSR)という概念が示されています。

1970年代に英国の学者が提唱した概念だそうですが、植物が生き残るためには、C(競争:Competition)S(ストレス耐性:Stress)R(攪乱適応:Ruderal)の3つの成功要素があるということを表しています。

簡単に説明します。

C:競争とは、直接対決になった時に強いことを指しています。動物ならより力が強いこと。植物なら、日光や栄養分をより多く吸収できることです。

ビジネスにおいてはより顧客の支持を集められること。そのための商品力であったり、営業力であったりを指すといえます。


S:ストレス耐性とは、過酷な環境下でも生きることができる能力です。氷河期に恐竜が滅んだのに、個として弱い哺乳類が生き残ったのはストレス耐性があったからです。植物なら、砂漠でも生きていけるサボテンはストレス耐性があるといえます。

ビジネスにおいては、例えばコロナ禍においても事業を維持できるような財務体質や組織力を指すのでしょう。


R:攪乱適応とは、突然の環境変化にもいちはやく適応する能力です。一部の昆虫や小動物は、人間の住居に適した変化を成し遂げ、人工的な環境でも生き残っていますし、道端のアスファルトの隙間で生育する雑草は、過酷な環境に適応することで生き残っている種であるといえます。

ビジネスにおいては、攪乱適応こそがいま最も求められています。なぜなら、人口減少という避けようのない環境変化にすべての業種がさらされていて、今まで通りでは生き残れないことは自明だからです。

生き残ることこそが命題となっている現代、こうした雑草の生き方を学ぶことは、意味あることだと考えます。


ワタミの攪乱適応戦略


先ごろ、居酒屋チェーンのワタミが、360店舗のうち120店舗を焼肉チェーンに業態転換することを発表しました。

実に3分の1の大転換です。

直接の原因は、コロナ禍による業績の低迷です。

夜の街の代表格である居酒屋の売り上げは、前年比4割程度に落ち込んでいます。(GoTo前)

特に、テーブル席が多く、多人数の会食に適したワタミのような業態はダメージが大きいはずです。

ただワタミ側は、業績低迷をコロナ禍中のものだけとはとらえておらず、長期化するとみています。

コロナ以前から総合居酒屋の業績は右肩下がりを続けており、このまま人口減少していく中、持ちこたえられないと思われるからです。

だから今回は3分の1の業態転換ですが、ゆくゆくは焼肉チェーンを主力にする考えのようです。

あの一世を風靡した居酒屋ワタミでさえ持ちこたえられなかったのかと感慨深く感じると同時に、実に思い切った攪乱適応戦略であると評価したいと思います。

生き残るためには、何でもやらなければなりません。

今回は、ワタミの生き残り戦略について、雑草の生き残り策にからめて見てきたいと思います。


個としての競争力があったスタート時


ワタミは、1984年、渡邉美樹氏が創業した居酒屋チェーン運営会社です。

スタートは居酒屋つぼ八のフランチャイズ店です。その後、和民ブランドで店舗展開し、1998年には株式上場を果たします。

一時期は、一世を風靡するほどの勢いがありました。

創業者の渡邉氏は、自己PRに長けた人で、マスコミを利用してワタミの戦略を積極的に発信していきました。

渡邉氏をモデルにした小説もあります。まさに時代の寵児ですよ。


居酒屋和民は、その当時主流だった駅前焼き鳥屋からの差別化を目指しました。

駅近、客回転が速く、利益率が高いという居酒屋経営成功法則の逆、すなわち、駅から遠く、テーブル席中心で客回転が悪く、利益率の高い酒ではなく料理を中心に提供する業態です。

常識外れで一見無謀な店づくりですが、これが当たりました。何しろ、居酒屋という業態を、仕事帰りのサラリーマンが寄り道する店から、若者や女性やファミリー層までもがわざわざ行く店に変えたのです。

要するに、仕事帰りのオヤジ以外は、ワタミの顧客となったのです。手つかずの顧客層を掴んだことが、全国展開への原動力となりました。

個店としての競争力(魅力)があるときは、集中展開することが正しい戦略です。

スタート時のワタミは、まさに無双状態でした。


ライバルの模倣戦略により競争力を削がれる


しかし他店が手をこまねいてみているほど甘い業界ではありません。市場があることを知った競合店は、当然、それを狙いに来ます。

その際、手っ取り早いのは、ワタミの店舗運営形態をそのまま模倣することです。看板からメニューから店内構造から運営オペレーションから人材確保育成までそのまま真似すると、とりあえず成立します。

もちろん、ただの模倣でワタミを超えることは難しいでしょう。しかし、稼ぎの独り占めを少しでも阻止しなければなりません。それが企業競争というものです。

資金力が豊富な強者企業であったモンテローザは、和民のまわりに似たような店舗を多く配置し、その魅力を削ごうとしてきました。

ワタミとモンテローザの間で訴訟騒ぎが起きますが、こうした裁判は判断が難しいものです。

結局、うやむやに和解することになるのですが、マスコミの注目を集めたこの訴訟合戦は、むしろ話題になった分だけ両社にプラスになったのかもしれません。

ただ競合店の増加が、徐々にワタミの魅力を奪っていったことは確かです。

いつしか和民は、わざわざ行く店ではなく、いっぱいある中の一つになっていました。

しかも2000年代になると、若者のアルコール離れが目立つようになり、居酒屋業態全体の勢いがなくなっていきました。


ワタミのストレス耐性


売上に陰りがでると、試されるのがストレス耐性です。

売上が低迷しても利益を確保できるような財務体質であったり、従業員のモチベーションが高い企業は生き残ることができます。

ワタミの場合、回転数が低く、メニューが多いという業態の特性上、人員負担が大きくなります。

したがって、低迷する売上の中でも利益を確保しようとすれば、人件費を抑えることが最も簡単な方法です。そうなると、従業員にかかる負荷が増大しがちとなります。

ワタミの特徴は、従業員のモチベーションが高いことでした。それは創業者渡邉代表の「巻き込む力」によるところが大きいと思えます。

夢を語り、未来を語る渡邉代表に共鳴する従業員は、宗教的とでもいいたくなるようなテンションを示していました。

だがその分だけ、従業員に無理をさせる態勢があったのでしょう。

従業員の中には過労死する者もいたということで、ワタミはブラック企業の典型例だとみなされるようになりました。


そこに登場したのが、鳥貴族を代表とする専門店型の居酒屋チェーンです。メニューを極端に絞り込むことで、低価格と高品質を同時に追求できる形態を実現しました。

確かに鳥貴族はメニューが少ない。サイドメニューの中には、首をかしげたくなるようなしょぼいものもあります。しかし、看板メニューはたしかに価格以上の満足度を実現しています。

それに比べると、何でもあるように見えるワタミのメニューは、すべて平均的で見劣りします。

均一価格というインパクトもあり、鳥貴族のような業態が、若者を中心に支持を集めました。

あれほど強かったワタミ個店が、いつしか「何でもあるけど、食べたいものはない」店になってしまったのは、寂しい思いがします。

そんな中、ライバル会社に散々真似されてきた被害者だったワタミが、鳥貴族の模倣店(三代目鳥メロ)をしれっと出したのも皮肉でした。

それでも業績悪化は止まらず、2014年には、創業以来の赤字を計上してしまい改革待ったなしの状態でした。


焼肉店という業態の優位性


焼き鳥チェーンだけではなく、この頃には、ワタミも様々な業態店に挑戦するようになっていました。

攪乱適応戦略の前提になるのが、多様性です。

何が当たるのかわからないので、とりあえず多様な業態を試しておいて、いつでも展開できるようにしておかなければなりません。

ワタミは、終了したものも含めて、和食洋食中華、ありとあらゆる業態に挑戦しています。

その一環として焼肉店(かみむら牧場)にも取り組んでいました。

今回、120店舗を焼肉店に業態転換するというのは、取り組みを通じて、焼肉店の優位性に気付いたからでしょう。

まずは焼肉店というジャンルの根強い人気です。コロナ禍においても、最も回復が早かったのが焼肉店だというデータがあります。日本人にとって、焼肉店はいまだわざわざ行く店という位置づけです。

次にオペレーションの簡易さです。料理居酒屋と比べて、顧客との接触が少ない焼肉店は人手が少なくて済みます。

とくにワタミは、脱ブラック企業が最上課題となっており、余裕のある人員計画は必要不可欠なものです。

その意味で、焼肉店の運営は、方向性に合致したものです。

それ以外にも、回転寿司のような配膳レーンや、配膳ロボットの導入も計画しており、効率化への取り組みを推し進めるようです。

かみむら牧場の運営を通じて、和牛の仕入れ先が確保できたワタミは、ついに和民ブランドでの焼肉チェーン展開を決断したという現在です。


ワタミの生き残り戦略は奏功するか


ワタミの2020年3月期の売上高は、909億円。これは、4年前の7割の水準です。

そのうち国内外食事業の売上高は、469億円。52%を占めています。

次に大きいのが、宅食事業で、売上高は、344億円。38%を占めています。

利益をみれば、国内外食事業のセグメント利益2億4千万円に対して、宅食事業の利益は、22憶3千万円です。(海外外食事業は赤字)

つまり、売上においても宅食事業がもう一つの柱に育っており、利益でいえば宅食事業がほぼひとりで稼いでいる状態です。

これはコロナ禍においてますます鮮明になり、宅食事業の存在感は増すばかりです。

ある意味、ワタミグループとしての攪乱適応戦略が機能しているといえます。

が、半分以上を占める国内外食事業がこの収益傾向では未来は暗いと言わざるをえず、利益改善と売上再拡大が急務となっています。

ワタミは、2022年1000億円、2029年2000億円という強気な目標を立てており、その第一歩が、主力事業を焼肉チェーンに転換するという取り組みですね。

もちろん8年後には市場環境がさらに激変しているかもしれず、焼肉以外の業態を模索している可能性だってありますが、それはそれ。


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