一人勝ちのワナにはまった松下電器

2007.02.15


(2007年2月15日メルマガより)

■以前、このメルマガで、松下電器の「一点集中戦略」について書いたこと
があります。

覚えておられるでしょうか?こちらです↓

■松下電器は、言わずもがな、家電製造業のチャンピオン。

戦後から高度成長期を経て長い間、絶対的な強者として君臨してきた企業で
す。

「ランチェスター戦略セミナー」においても、強者・松下vs弱者・ソニー
という構図で、戦略を説明する事例にあげさせてもらっています。

■松下電器はよく「マネシタ電器」と揶揄されました。

しかし、ランチェスター戦略の視点で言うと、マネするとはミート戦略とい
う「強者の基本戦略」です。

判官びいきの日本人は、弱者を応援して強者を悪者扱いする傾向があるよう
ですが、何も松下が後ろめたいことをしているわけではない。極めてオーソ
ドックスな戦略方針なのです。

ところが、現会長の中村邦夫氏が、社長在任中に「マネシタ電器はやめた!」
と宣言しました。

重ねてランチェスター戦略の視点で言うと、要するに、強者の戦略から、弱
者の戦略への転換を宣言したわけです。

それ以降、松下は「松下らしい商品を開発・販売し、それに集中する」とい
う典型的な弱者の戦略を志向する会社になりました。

(なぜ松下電器が、強者の戦略を捨てなければならなかったのか?は、ここ
では言わないでおきます。私の「ランチェスター戦略セミナー」をお聞き下
さい^^)

■その象徴が、プラズマテレビへの集中戦略です。

中村前社長は「世界のプラズマテレビ市場で40%のシェアを獲得する」と
目標を掲げていました。

40%というのは、ランチェスター戦略の「市場シェア理論」における"絶
対独占"の条件となる数値です。中村前社長がそれを知っていたかどうかは
定かではありませんが、理に適った目標設定です。

その目標に応じて、約1800億円の投資を行い年間1150万台の生産体制を整え
ました。

その甲斐あってか、2006年度、早くも世界シェア40%という目標をほぼ達
成したようです。さすが松下ですね。
業績もよく、さぞや我が世の春を謳歌していることでしょう^^

と思ったのですが、どうもそうではないという話が聞こえてきます。。。

■あるビジネスが儲かるかどうかは「ファイブ・フォース・モデル」と言わ
れるフレームワークを使って精査すれば、かなりの程度分かります。

これはマイケル・ポーターという人が考案したツールで、企業を取り巻く脅
威を、競合他者、新規参入業者、仕入先、販売先、代替品という5つに分類
して把握するものです。

5つの力からのプレッシャーが強ければ強いほど、それは儲からないビジネ
スとなります。どの脅威が強いかで、とるべき戦略が異なってくるので、正
確に理解することが必要です。

詳しい説明は省きますが、この5つの脅威の中で最も手強いのが「代替品」
の脅威です。

例えば、同じカメラ業界同士で商品の差別化を競っているうちは打つ手は多
いのですが、デジカメという代替品が登場して支持を得た時、古い業界の住
人には打つ手が極端に少なくなります。

プラズマテレビの場合、液晶テレビという代替品が、初めから存在していま
した。だから、初めから厳しいビジネスになることは分かっていました。

■「週刊ダイヤモンド2006/11/18」によると、2006年第2四半期のパネル出
荷数は、プラズマ262万枚に対して、液晶1189万枚。実に、4.5倍。これは実
質、勝負がついていると言いたくなる数字です。

投資額も大変です。液晶テレビに対しては、シャープが約5150億円。サムス
ン電子が約5000億円。LGフィリップスが約5000億円。ソニーとサムスンの
合弁会社が約4800億円。

これに対して、プラズマテレビは松下電器が約1800億円。日立が約1550億円。
パイオニアが約300億円。

一般に液晶はプラズマに比べてコストが2~3倍するそうですが、それでも、
凄まじい差です。

価格競争になれば、プラズマが優位なはずだったのですが、液晶陣営は狂っ
たような低価格競争に突入しており、プラズマ側が引きずられて価格を下げ
ざるを得ない状況になっています。

これだけの数量の差ですから、コストダウンのスピードも速いと思われ、コ
スト優位性がいつまであるかも怪しいと言わざるを得ません。

また、当初は小型・中型なら液晶テレビ、大型ならプラズマテレビという棲
み分けが、ある時期まではもつだろうと思われていましたが、その棲み分け
も反故にされつつあります。それほど液晶の技術進歩は目ざましいようです。

それにしてもシャープの町田社長は「うちはそんなに体力がないから投資で
きないよ」なんてとぼけたことを言いながら、きっちり投資競争の先頭を走
っておりますね^^

■このメルマガでも幾度となくとりあげた概念ですが、松下電器も「一人勝
ちのワナ」にはまってしまったようです。

市場シェア理論では、73.9%のシェアを「上限目標値」と設定していま
す。

「これ以上、シェアをとってはダメですよ」という数値のことです。

なぜなら、一人勝ちは、市場全体の停滞を招き、顧客の飽きを誘い、必ずし
もトップ企業が得をするとは限らないからです。

プラズマテレビの場合、松下電器が70%のシェアを獲得しているわけでは
ありませんが、よく見ると、2位のLG電子、3位のサムスン電子ともに、
液晶テレビと二兎を追う作戦をとっています。液晶テレビの需要が増えれば、
そちらにシフトすればいいやという構えです。

つまり、実質として、プラズマ陣営は、松下、日立、パイオニアが支えてい
るという構図です。さらに正確に言うと、シェアからみて、プラズマ陣営は、
松下電器1社で支えている状況です。

かつて松下が本気になって価格競争を仕掛けたことで、多くの海外メーカー
が戦意喪失に追い込まれたわけですが、それが市場そのものの拡大を阻害し
てしまうというジレンマに陥ってしまったのです。強すぎるゆえの蹉跌です
な。

このままでは、売り場のプラズマテレビのコーナーは縮小されて、マイナー
製品扱いになってしまうかも知れません。小さな会社ならそれでもいいんで
しょうが、松下の規模でそれはツライですね。

■私はあまり詳しくないので恐縮ですが、液晶とプラズマでは機能に差はな
いのでしょうか。

現在、薄型テレビ各社は、量産→コストダウン→低価格化という価格競争に
邁進していますが、液晶とプラズマにこれだけの数量差が出た以上、このま
ま同質競争を続けていてもプラズマ陣営に勝ち目は見えません。

「液晶テレビではなく、プラズマテレビじゃないとダメだ」という特徴を打
ち出さないと生き残りは望めないでしょう。

先ほどのファイブ・フォース・モデルには、実は6つ目の力が隠されていま
す。「顧客の顧客」要するに「最終消費者」です。

最終消費者、つまり我々が、支持しない限り、商品は売れません。

やはり初心に帰って「なぜ消費者はプラズマテレビを選ぶのか」をこの時点
で問い直し、戦略の転換・修正を図る必要があるというのが私の意見です。

もしプラズマと液晶では価格以外に差異はないというのでしたら、早いうち
に液晶へのシフトを進めないと、皮肉なことに、かつてベータ(ビデオ)を
担いだソニーのようになってしまいかねませんからね。

■技術力も資金力も経営力もある松下電器のことですから、また見事な舵取
りを見せてくれると信じています。

セミナーでの事例にできるように、頑張ってください^^


(2007年2月15日メルマガより)

■以前、このメルマガで、松下電器の「一点集中戦略」について書いたこと
があります。

覚えておられるでしょうか?こちらです↓

■松下電器は、言わずもがな、家電製造業のチャンピオン。

戦後から高度成長期を経て長い間、絶対的な強者として君臨してきた企業で
す。

「ランチェスター戦略セミナー」においても、強者・松下vs弱者・ソニー
という構図で、戦略を説明する事例にあげさせてもらっています。

■松下電器はよく「マネシタ電器」と揶揄されました。

しかし、ランチェスター戦略の視点で言うと、マネするとはミート戦略とい
う「強者の基本戦略」です。

判官びいきの日本人は、弱者を応援して強者を悪者扱いする傾向があるよう
ですが、何も松下が後ろめたいことをしているわけではない。極めてオーソ
ドックスな戦略方針なのです。

ところが、現会長の中村邦夫氏が、社長在任中に「マネシタ電器はやめた!」
と宣言しました。

重ねてランチェスター戦略の視点で言うと、要するに、強者の戦略から、弱
者の戦略への転換を宣言したわけです。

それ以降、松下は「松下らしい商品を開発・販売し、それに集中する」とい
う典型的な弱者の戦略を志向する会社になりました。

(なぜ松下電器が、強者の戦略を捨てなければならなかったのか?は、ここ
では言わないでおきます。私の「ランチェスター戦略セミナー」をお聞き下
さい^^)

■その象徴が、プラズマテレビへの集中戦略です。

中村前社長は「世界のプラズマテレビ市場で40%のシェアを獲得する」と
目標を掲げていました。

40%というのは、ランチェスター戦略の「市場シェア理論」における"絶
対独占"の条件となる数値です。中村前社長がそれを知っていたかどうかは
定かではありませんが、理に適った目標設定です。

その目標に応じて、約1800億円の投資を行い年間1150万台の生産体制を整え
ました。

その甲斐あってか、2006年度、早くも世界シェア40%という目標をほぼ達
成したようです。さすが松下ですね。
業績もよく、さぞや我が世の春を謳歌していることでしょう^^

と思ったのですが、どうもそうではないという話が聞こえてきます。。。

■あるビジネスが儲かるかどうかは「ファイブ・フォース・モデル」と言わ
れるフレームワークを使って精査すれば、かなりの程度分かります。

これはマイケル・ポーターという人が考案したツールで、企業を取り巻く脅
威を、競合他者、新規参入業者、仕入先、販売先、代替品という5つに分類
して把握するものです。

5つの力からのプレッシャーが強ければ強いほど、それは儲からないビジネ
スとなります。どの脅威が強いかで、とるべき戦略が異なってくるので、正
確に理解することが必要です。

詳しい説明は省きますが、この5つの脅威の中で最も手強いのが「代替品」
の脅威です。

例えば、同じカメラ業界同士で商品の差別化を競っているうちは打つ手は多
いのですが、デジカメという代替品が登場して支持を得た時、古い業界の住
人には打つ手が極端に少なくなります。

プラズマテレビの場合、液晶テレビという代替品が、初めから存在していま
した。だから、初めから厳しいビジネスになることは分かっていました。

■「週刊ダイヤモンド2006/11/18」によると、2006年第2四半期のパネル出
荷数は、プラズマ262万枚に対して、液晶1189万枚。実に、4.5倍。これは実
質、勝負がついていると言いたくなる数字です。

投資額も大変です。液晶テレビに対しては、シャープが約5150億円。サムス
ン電子が約5000億円。LGフィリップスが約5000億円。ソニーとサムスンの
合弁会社が約4800億円。

これに対して、プラズマテレビは松下電器が約1800億円。日立が約1550億円。
パイオニアが約300億円。

一般に液晶はプラズマに比べてコストが2~3倍するそうですが、それでも、
凄まじい差です。

価格競争になれば、プラズマが優位なはずだったのですが、液晶陣営は狂っ
たような低価格競争に突入しており、プラズマ側が引きずられて価格を下げ
ざるを得ない状況になっています。

これだけの数量の差ですから、コストダウンのスピードも速いと思われ、コ
スト優位性がいつまであるかも怪しいと言わざるを得ません。

また、当初は小型・中型なら液晶テレビ、大型ならプラズマテレビという棲
み分けが、ある時期まではもつだろうと思われていましたが、その棲み分け
も反故にされつつあります。それほど液晶の技術進歩は目ざましいようです。

それにしてもシャープの町田社長は「うちはそんなに体力がないから投資で
きないよ」なんてとぼけたことを言いながら、きっちり投資競争の先頭を走
っておりますね^^

■このメルマガでも幾度となくとりあげた概念ですが、松下電器も「一人勝
ちのワナ」にはまってしまったようです。

市場シェア理論では、73.9%のシェアを「上限目標値」と設定していま
す。

「これ以上、シェアをとってはダメですよ」という数値のことです。

なぜなら、一人勝ちは、市場全体の停滞を招き、顧客の飽きを誘い、必ずし
もトップ企業が得をするとは限らないからです。

プラズマテレビの場合、松下電器が70%のシェアを獲得しているわけでは
ありませんが、よく見ると、2位のLG電子、3位のサムスン電子ともに、
液晶テレビと二兎を追う作戦をとっています。液晶テレビの需要が増えれば、
そちらにシフトすればいいやという構えです。

つまり、実質として、プラズマ陣営は、松下、日立、パイオニアが支えてい
るという構図です。さらに正確に言うと、シェアからみて、プラズマ陣営は、
松下電器1社で支えている状況です。

かつて松下が本気になって価格競争を仕掛けたことで、多くの海外メーカー
が戦意喪失に追い込まれたわけですが、それが市場そのものの拡大を阻害し
てしまうというジレンマに陥ってしまったのです。強すぎるゆえの蹉跌です
な。

このままでは、売り場のプラズマテレビのコーナーは縮小されて、マイナー
製品扱いになってしまうかも知れません。小さな会社ならそれでもいいんで
しょうが、松下の規模でそれはツライですね。

■私はあまり詳しくないので恐縮ですが、液晶とプラズマでは機能に差はな
いのでしょうか。

現在、薄型テレビ各社は、量産→コストダウン→低価格化という価格競争に
邁進していますが、液晶とプラズマにこれだけの数量差が出た以上、このま
ま同質競争を続けていてもプラズマ陣営に勝ち目は見えません。

「液晶テレビではなく、プラズマテレビじゃないとダメだ」という特徴を打
ち出さないと生き残りは望めないでしょう。

先ほどのファイブ・フォース・モデルには、実は6つ目の力が隠されていま
す。「顧客の顧客」要するに「最終消費者」です。

最終消費者、つまり我々が、支持しない限り、商品は売れません。

やはり初心に帰って「なぜ消費者はプラズマテレビを選ぶのか」をこの時点
で問い直し、戦略の転換・修正を図る必要があるというのが私の意見です。

もしプラズマと液晶では価格以外に差異はないというのでしたら、早いうち
に液晶へのシフトを進めないと、皮肉なことに、かつてベータ(ビデオ)を
担いだソニーのようになってしまいかねませんからね。

■技術力も資金力も経営力もある松下電器のことですから、また見事な舵取
りを見せてくれると信じています。

セミナーでの事例にできるように、頑張ってください^^

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