大阪の小さなものづくり企業

2008.06.19

(2008年6月19日メルマガより)

■日本の家電製品が世界を席巻していたのは今は昔。

日本製品にかつての勢いはなく、今や中国や韓国の製品が、価格だけではな
く、品質やデザイン性においても、日本をリードする存在となっています。

テレビも、携帯用音楽プレーヤーも、携帯電話も、世界のトップではありま
せん。

多機能をコンパクトな形状にまとめる技術は日本のお家芸だったはずなのに、
どうなってしまったのでしょうか。

■世界において日本を象徴するメーカーだったソニーの状況が、日本の置か
れた立場を端的に物語っています。

あれだけ強かったウォークマンはipodの遥か後方で、後塵を拝することもで
きない位置に下がったまま。音楽携帯電話に活路を見出すも、それもエリク
ソンとの共同作業です。

液晶テレビはサムソンとの提携に縛られてソニーらしさを製品づくりに活か
せないまま今に至っています。

ゲーム機も周回遅れと言いたくなるような状況です。もっともこれは任天堂
との競争ですが、欧米ではXboxにも迫られています。

ソニーよ、どうしてしまったんだ。。。

■だからと言って日本の製造業全体が落ち込んでいるわけではありません。

よく言われることですが、韓国や中国製品の中身(部品)の殆どは日本製で
す。

韓国や中国の製品が売れれば売れるほど日本の部品産業が潤うという図式が
出来上がっています。

今を時めく、ipodやiphoneも、日本の部品技術がなければ成立しないと言わ
れています。

だから海外の製品メーカーは日本の部品技術を取り込もう、少なくとも協力
を取り付けようと躍起になっています。

■日本の製造技術は、こうした小さな部品工場の要素技術の積み重ねに他な
りません。

これは昔から変わらぬ強さを保ち続けているのです。

むしろ、今に至って、日本の最終製品メーカーの「コンセプト構築力」(新
しいビジネスや製品の全体を組み立てる力)の欠如が、表面化してきたとい
うのが私の実感です。

だから、別に日本の産業全体が弱体化したわけではない。もともと弱かった
ところが、ばれたというわけです^^;

■大阪産業創造館が発行している「大阪ものづくり企業読本」を読んでいる
と、大阪の小さなものづくり企業のしたたかさに感心することしきりです。

(ちなみに大阪産業創造館とは大阪市の中小企業支援センターのことです。
また「大阪ものづくり企業読本」は一般には配布しておりません)

ここには独自の技術や戦略を持つ大阪市内のものづくり企業65社が掲載さ
れています。

まあ、見事にランチェスター戦略の教科書に載せたいような企業のオンパレ
ードですわ^^

■ここに掲載されている企業の話を読んでいると、いくつかの特徴があるこ
とが分かります。

まず第1に、独自のニッチ市場に特化しているということです。

これはどの企業であっても例外なくです。

粉塵除去装置、深絞り加工技術、ろ紙、X線検査装置、ポリエチレン手袋、
光拡散シート、ロールメッキ、微細バリ処理、水面計、金型補修。。。など
など。

最初のきっかけは「たまたま馴染みがあった」「興味があった」という程度
でも、自分の立ち位置を定めると、その市場でのナンバーワンになるまで徹
底するしたたかさを持っています。

■ニッチ市場の多くは、メインとなる市場の周辺や基礎技術・要素技術に存
在します。

たとえ小さな市場でも、それがなければ成立しない要素技術、周辺技術は多
く存在するものです。

例えば、プラスチック成形加工時の素材を乾燥させるための装置で35%の
シェアを持つ企業。

工業用ミシンの一部品で70%のシェアを持つ企業。

液晶ディスプレイの光を調整するシートで40%のシェアを持つ企業。

アパレル用染料固形剤で70%のシェアを持つ企業。

いずれも小さいが、無くなっては困る市場でトップシェアを獲得しているの
で、安定的な利益を生んでいます。

■もし、その市場が小さいままなら、多品種少量生産がキーワードとなりま
す。

顧客の要望に柔軟に対応するものづくり姿勢が、付加価値を生んで、高い利
益をもたらすからです。

そういう企業は、自分の技術が価格競争に巻き込まれたら「儲からないなら、
やめる」と潔い決断をして、次の技術開発に取り組む姿勢を持っています。

(だから普段から研究開発のネタを探し続けている企業が生き残ります)

もし、その市場が思いのほか大きく育ってきたならば、思い切った設備投資
をして、いち早く価格競争に耐えられる体制を整えた企業が生き残っている
ようです。

市場が大きくなれば、否応なしに競争に巻き込まれてしまうからです。

■第2に、オンリーワン企業の経営者はアイデアマンが多いという特徴があ
ります。

小さな市場や技術に特化しているものですから、その分野に関する様々なア
イデアが次々に沸いてくるようです。

きっとアイデアを考えることが好きなんでしょうね。

これを技術に取り入れて、改良を重ねていきます。

この2重3重のアイデアの積み重ねが、独自ノウハウとなって、他の追随を
許さない根拠となります。

消しゴム付き鉛筆を考案した企業が、今は、トライアスロン用ウェットスー
ツで90%のシェアを持っています。

この企業が、競泳用水着素材の開発で話題の山本化学工業です。

水の抵抗を無くすゴムの開発技術が水着素材の開発に向いたわけですが、実
は、この技術の用途として最も期待しているのが医療用のニーズだそうです。
(医療用にどう使うかは省略します^^)

こうしたアイデアは、四六時中自社技術を考え続けるものだからこそ生まれ
るものだと言えるでしょう。

つまり小さな市場に特化したからこそ、差別化策も生まれるという事例です。

■第3に、生き残る企業は自分の選んだ道を徹底させています。

刃を折ることで切れ味を保ち続けるカッターを考案したのが、オルファ(折
る刃の意味)株式会社です。

一時期、資本力のある競合会社の参入にあいましたが「カッターのことだけ
考えているのはウチだけだ」という自負のもと、毎年2,3種類の新製品を
開発し続けて、トップ企業の地位を守っています。

このように、多くの企業が「○○年コツコツやってきた積み上げがウチの強
みだ」という言い方をします。

ノウハウとは、まさにこのような重みのあるものなのです。

(いつも言っていますが、安易に他人のノウハウに乗っかるのはやめましょ
う^^;)

■おわかりでしょうか。

ランチェスター戦略の"鉄則"として私が提唱する

○小さな市場で戦え。

○差別化せよ。

○一点突破せよ。

の生きた事例が、大阪の小さなものづくり企業なのです。こんな身近に、戦
略のお手本となる企業があったんですね。

それもすごく多く。

日本は製造業の国だということを今更ながらに実感した次第です。

■最後に言っておきますが、冒頭に出たソニーは、ハワード・ストリンガー
CEOのもと、真のグローバル企業になるための改革を進行中です。

営業利益は既にV字回復しており、社内の雰囲気も盛り上がりつつあるよう
です。

ただ、独自技術に徹底してこだわり、真似のできない技術製品を生み出すと
いうソニーらしさからは脱却し、ノキアやアップルのようなネットワークを
駆使したコンセプト主導の企業になろうとしているようです。

要するに、ソニーの低迷は、世界的な規模を持ちながら「小さな町工場」の
精神を持ち続けた企業の、頭と身体のギャップが生み出したものだったとい
うことができます。

私はランチェスター戦略セミナーでソニーのことを「永遠の弱者企業」と称
したりしましたが、あと5年もすれば、そうは言ってられなくなるんでしょ
うね。

さびしい気がしないでもないですが。でも、新生ソニーのビジョンに期待い
たしましょう。

(2008年6月19日メルマガより)

■日本の家電製品が世界を席巻していたのは今は昔。

日本製品にかつての勢いはなく、今や中国や韓国の製品が、価格だけではな
く、品質やデザイン性においても、日本をリードする存在となっています。

テレビも、携帯用音楽プレーヤーも、携帯電話も、世界のトップではありま
せん。

多機能をコンパクトな形状にまとめる技術は日本のお家芸だったはずなのに、
どうなってしまったのでしょうか。

■世界において日本を象徴するメーカーだったソニーの状況が、日本の置か
れた立場を端的に物語っています。

あれだけ強かったウォークマンはipodの遥か後方で、後塵を拝することもで
きない位置に下がったまま。音楽携帯電話に活路を見出すも、それもエリク
ソンとの共同作業です。

液晶テレビはサムソンとの提携に縛られてソニーらしさを製品づくりに活か
せないまま今に至っています。

ゲーム機も周回遅れと言いたくなるような状況です。もっともこれは任天堂
との競争ですが、欧米ではXboxにも迫られています。

ソニーよ、どうしてしまったんだ。。。

■だからと言って日本の製造業全体が落ち込んでいるわけではありません。

よく言われることですが、韓国や中国製品の中身(部品)の殆どは日本製で
す。

韓国や中国の製品が売れれば売れるほど日本の部品産業が潤うという図式が
出来上がっています。

今を時めく、ipodやiphoneも、日本の部品技術がなければ成立しないと言わ
れています。

だから海外の製品メーカーは日本の部品技術を取り込もう、少なくとも協力
を取り付けようと躍起になっています。

■日本の製造技術は、こうした小さな部品工場の要素技術の積み重ねに他な
りません。

これは昔から変わらぬ強さを保ち続けているのです。

むしろ、今に至って、日本の最終製品メーカーの「コンセプト構築力」(新
しいビジネスや製品の全体を組み立てる力)の欠如が、表面化してきたとい
うのが私の実感です。

だから、別に日本の産業全体が弱体化したわけではない。もともと弱かった
ところが、ばれたというわけです^^;

■大阪産業創造館が発行している「大阪ものづくり企業読本」を読んでいる
と、大阪の小さなものづくり企業のしたたかさに感心することしきりです。

(ちなみに大阪産業創造館とは大阪市の中小企業支援センターのことです。
また「大阪ものづくり企業読本」は一般には配布しておりません)

ここには独自の技術や戦略を持つ大阪市内のものづくり企業65社が掲載さ
れています。

まあ、見事にランチェスター戦略の教科書に載せたいような企業のオンパレ
ードですわ^^

■ここに掲載されている企業の話を読んでいると、いくつかの特徴があるこ
とが分かります。

まず第1に、独自のニッチ市場に特化しているということです。

これはどの企業であっても例外なくです。

粉塵除去装置、深絞り加工技術、ろ紙、X線検査装置、ポリエチレン手袋、
光拡散シート、ロールメッキ、微細バリ処理、水面計、金型補修。。。など
など。

最初のきっかけは「たまたま馴染みがあった」「興味があった」という程度
でも、自分の立ち位置を定めると、その市場でのナンバーワンになるまで徹
底するしたたかさを持っています。

■ニッチ市場の多くは、メインとなる市場の周辺や基礎技術・要素技術に存
在します。

たとえ小さな市場でも、それがなければ成立しない要素技術、周辺技術は多
く存在するものです。

例えば、プラスチック成形加工時の素材を乾燥させるための装置で35%の
シェアを持つ企業。

工業用ミシンの一部品で70%のシェアを持つ企業。

液晶ディスプレイの光を調整するシートで40%のシェアを持つ企業。

アパレル用染料固形剤で70%のシェアを持つ企業。

いずれも小さいが、無くなっては困る市場でトップシェアを獲得しているの
で、安定的な利益を生んでいます。

■もし、その市場が小さいままなら、多品種少量生産がキーワードとなりま
す。

顧客の要望に柔軟に対応するものづくり姿勢が、付加価値を生んで、高い利
益をもたらすからです。

そういう企業は、自分の技術が価格競争に巻き込まれたら「儲からないなら、
やめる」と潔い決断をして、次の技術開発に取り組む姿勢を持っています。

(だから普段から研究開発のネタを探し続けている企業が生き残ります)

もし、その市場が思いのほか大きく育ってきたならば、思い切った設備投資
をして、いち早く価格競争に耐えられる体制を整えた企業が生き残っている
ようです。

市場が大きくなれば、否応なしに競争に巻き込まれてしまうからです。

■第2に、オンリーワン企業の経営者はアイデアマンが多いという特徴があ
ります。

小さな市場や技術に特化しているものですから、その分野に関する様々なア
イデアが次々に沸いてくるようです。

きっとアイデアを考えることが好きなんでしょうね。

これを技術に取り入れて、改良を重ねていきます。

この2重3重のアイデアの積み重ねが、独自ノウハウとなって、他の追随を
許さない根拠となります。

消しゴム付き鉛筆を考案した企業が、今は、トライアスロン用ウェットスー
ツで90%のシェアを持っています。

この企業が、競泳用水着素材の開発で話題の山本化学工業です。

水の抵抗を無くすゴムの開発技術が水着素材の開発に向いたわけですが、実
は、この技術の用途として最も期待しているのが医療用のニーズだそうです。
(医療用にどう使うかは省略します^^)

こうしたアイデアは、四六時中自社技術を考え続けるものだからこそ生まれ
るものだと言えるでしょう。

つまり小さな市場に特化したからこそ、差別化策も生まれるという事例です。

■第3に、生き残る企業は自分の選んだ道を徹底させています。

刃を折ることで切れ味を保ち続けるカッターを考案したのが、オルファ(折
る刃の意味)株式会社です。

一時期、資本力のある競合会社の参入にあいましたが「カッターのことだけ
考えているのはウチだけだ」という自負のもと、毎年2,3種類の新製品を
開発し続けて、トップ企業の地位を守っています。

このように、多くの企業が「○○年コツコツやってきた積み上げがウチの強
みだ」という言い方をします。

ノウハウとは、まさにこのような重みのあるものなのです。

(いつも言っていますが、安易に他人のノウハウに乗っかるのはやめましょ
う^^;)

■おわかりでしょうか。

ランチェスター戦略の"鉄則"として私が提唱する

○小さな市場で戦え。

○差別化せよ。

○一点突破せよ。

の生きた事例が、大阪の小さなものづくり企業なのです。こんな身近に、戦
略のお手本となる企業があったんですね。

それもすごく多く。

日本は製造業の国だということを今更ながらに実感した次第です。

■最後に言っておきますが、冒頭に出たソニーは、ハワード・ストリンガー
CEOのもと、真のグローバル企業になるための改革を進行中です。

営業利益は既にV字回復しており、社内の雰囲気も盛り上がりつつあるよう
です。

ただ、独自技術に徹底してこだわり、真似のできない技術製品を生み出すと
いうソニーらしさからは脱却し、ノキアやアップルのようなネットワークを
駆使したコンセプト主導の企業になろうとしているようです。

要するに、ソニーの低迷は、世界的な規模を持ちながら「小さな町工場」の
精神を持ち続けた企業の、頭と身体のギャップが生み出したものだったとい
うことができます。

私はランチェスター戦略セミナーでソニーのことを「永遠の弱者企業」と称
したりしましたが、あと5年もすれば、そうは言ってられなくなるんでしょ
うね。

さびしい気がしないでもないですが。でも、新生ソニーのビジョンに期待い
たしましょう。

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