(2008年2月28日メルマガより)
六甲颪に颯爽と
蒼天翔ける日輪の
青春の覇気美しく
輝く我が名ぞ阪神タイガース
オウオウオウオウ阪神タイガース
フレフレフレフレ
闘志溌剌起つや今
熱血既に敵を衝く
獣王の意気高らかに
無敵の我等ぞ阪神タイガース
オウオウオウオウ阪神タイガース
フレフレフレフレ
鉄腕強打幾千度び
鍛えてこゝに甲子園
勝利に燃ゆる栄冠は
輝く我等ぞ阪神タイガース
オウオウオウオウ阪神タイガース
フレフレフレフレ
■何を隠そう、私は阪神タイガースファンです。
私は常々、日本のプロ野球は12球団とも阪神タイガースにすべきだと主張し
ています。
毎日勝利。毎年優勝。そんなだったらどんなに幸せか。
カラオケに行けば「六甲おろし」を歌わない日はありません。カラオケにな
ければ、アカペラで歌いますので^^
ただの迷惑なオヤジかも知れませんが。
■しかし私のような理屈の通じないファン気質が阪神タイガースをダメにし
ているという意見があります。
元阪神タイガース監督の野村克也氏は、そう糾弾しています。
氏の近著である「あぁ、阪神タイガース」という本で声高に主張されています。
それにしても、この本。「あぁ、阪神タイガース」ってアンタ。もっと他に
タイトルはなかったのかい?
なんとも情けない...
■野村克也といえば、南海ホークスでの選手時代は、首位打者1回、本塁打
王9回、打点王7回、そのうち1回は三冠王に輝いた大打者。また頭脳派の捕
手として、ベストナインに19回も選出された偉大な選手です。
それに南海で1回。ヤクルトで4回(3回は日本一)チームを優勝に導いた大監
督でもあります。
ただし、阪神の監督時代は3年連続最下位に終わってキャリアに傷をつけた
ため、現在は汚名を払拭すべく楽天イーグルスの監督に励んでいます。
なぜ野村克也ほどの名将が、阪神では力を発揮できなかったのか?
この本は、そういう疑問に対する野村氏なりの回答です。
■私は、個人的には野村克也氏の著作が好きです。
氏の著作の特徴は「弱者の視点」からの鋭い分析眼と、独特の「ボヤキ節」
にあります。
「弱者の視点」は、野村氏自身、練習生からのスタートだったことがあり、
どうすればスター選手に勝てるだろうかと考え続けた経験が育んだものであ
ると思われます。
南海でスターとなった後は、巨人などの人気球団を倒すために「弱者の戦法」
をさらに磨いていきました。
南海、ヤクルトと培われた「弱者の戦法」は、薫陶を受けた選手やコーチを
通して多くの球団に広がり、日本のプロ野球のレベルを確実に上げたと言っ
て良いでしょう。やはり偉大な存在です。
「弱者の戦法」は、名の通り、凡庸な選手、チームでも天才選手や強いチー
ムに勝てる方法を集計したものです。
その方法は論理的で具体的ですから、我々素人にも分かりやすい。
素人の野球観戦のレベルが、野村氏の著作を読むことで、上がっていくとい
う効用もあります。
■また「ボヤキ節」は、常に弱い立場に置かれた自身に対するやりきれない
思いと反発心や照れなどが相まって、独特のユーモア感で包んで吐き出され
るもの。野村氏の人柄からにじみ出る芸のようなものです。
月亭八方のマイナス思考芸に通じると私は思っています^^これはこれで味
がありますな。
ただ、この本に関する限り、ボヤキが強すぎる。
主観、憶測による個人攻撃が目立つ。
あまりにも阪神の選手が手痛い攻撃を受けているのでそう感じたんでしょう
かね。
■なぜ、野村克也ほどの名将にして阪神タイガースを再生できなかったか。
この本での野村氏の主張は「阪神があまりにも腐っていた」ことと「野村氏
自身がやる気を失っていた」ことだそうです。
自分自身の責任を素直に認めるくだりは立派です。
一説には「星野監督時代の優勝は野村監督の成果だ」と言われます。星野監
督自身も「俺は野村監督のやり方を踏襲しただけ」と発言しています。
ただ、野村氏はこの著作でそういう説をきっぱりと否定しています。自分の
やろうとしたことは、阪神では実を結ばなかったと。
自分には、阪神を改革するだけのエネルギーがなく、星野仙一にはそれがあ
ったと認めています。
■では、野村克也もやる気を失った阪神の腐敗具合とはどのようなものだっ
たか...
これは著作を読んでもらうしかありません。私にはあまりにもつらい文章で
した。
ただ、いささかボヤキが強すぎるとは言え、野村氏の鋭い批判眼でこれでも
かと書かれると、私もその内容に向き合わざるを得ません。
野村克也はこう言っています。
「私は阪神タイガースに伝統の重みを感じない。ただ古いだけの球団だ」
うーーーーん。
巨人には確かに、パイオニアとして、プロ野球全体をリードしてきた功績が
ある。しかし、阪神は巨人の対抗軸の役割をこなしていただけだ。つまり、
巨人の敷いたレールの上をただ走っていたに過ぎない。
痛いところをつきますな。
■ビジネスとしてみれば、阪神球団は大きな成功事例です。なんせ、親会社
である阪神電鉄が、球団にお金を借りにくるそうですから(!)
巨人の掲げたビジョンに乗っかり、それを補完するのが阪神の戦略です。要
するにフォロワーです。
東京に対して大阪。という差別化軸も決まりすぎるほど決まっています。
ただし、それは巨人あっての阪神です。強い巨人に敢然と挑む姿がファンを
熱くさせますが、巨人が強くなければ成立せず、巨人よりは稼げないビジネ
スです。
■野村氏はこの本の中で、おぞましい阪神球団の考え方を紹介してます。
「うちの球団は優勝争いだけしてくれたらええ。優勝されたら選手の給料を
上げなあかんからな」
いいところまでいって負ける。これでいいんだそうです。ファンは熱狂し、
収入は増える。
江夏豊投手は、優勝争いの最中に球団幹部からそう言われたという有名な話
です。
なんともファンをバカにした発言ですが、巨人のフォロワーというビジネス
スキームが出来上がっている限り、球団関係者がそういう考えを持つのも仕
方ありません。
(まるでプロレスのWWFやハッスルを思わせるシナリオですな...)
それになんとも情けないのは、そういうシナリオに乗っかって煽るマスコミ
と熱狂するファンの存在です。
まさに私です...
野村氏は、阪神凋落の一番の原因を、ファンとマスコミだと指摘しています。
勝っても負けても大騒ぎ。本当に野球を観にきているのか、騒ぎに来ている
のか定かではないファン。
ちょっと活躍すると新人でもスター扱い。才能をある選手をおだててダメに
してしまうマスコミやOB。(おだてるのはその選手が可愛いからではなく、
おだてることが自分の仕事に有利だからなんですが)
巨人といい勝負さえしていればファンは喜ぶから収入は減りません。これで
は球団に舐められても文句は言えませんな。
■もっとも、その構図は今は通用しません。巨人は無敵ではなくなり、阪神
も対抗軸でさえなくなりました。
巨人中心のプロ野球を変えた功労者の一人は野村克也その人でしょう。
独自の理論から編み出されたヤクルトのID野球は、巨人を十分に苦しめ、
資金力だけではどうしようもないレベルの違う野球があることを我々に提示
してくれました。
阪神に至っては、ヤクルトに全く歯が立たず、金もかけない知恵もない球団
の姿を世に晒してしまいました。
さすがにファンの熱も冷めかけて収入減を招くに至り「なんとかせなあかん
なー」というところに招聘されたのが、当の野村監督であったというわけです。
■巨人中心だったプロ野球の収益構造が変化していることは、以前のメルマ
ガで書きました。
それを端的に表しているのが、巨人が中心になって提示した「プロ野球1リ
ーグ構想」の頓挫です。
あの時、巨人の言うことにはいつも右に倣えだった阪神は「収益が減る」と
いう理由で反対に回りました。
私は、あの時が、プロ野球と阪神タイガースの転機であったと見ています。
(今日のその時です)
つまり、巨人のビジョンの中ではもうビジネスしないという宣言だったのです。
■その際、裏で表で活発に動いたのが阪神のシニアディレクターという肩書
きの星野仙一氏でした。
星野氏は収益シュミレーションを示して阪神球団オーナーを説得したと言わ
れています。
巨人中心のプロ野球からの脱却ビジョンを最も明確に意識していた一人が星
野仙一氏だと言えるでしょう。
実は、野村監督の後を引き継いだ星野監督は、1年間様子を見た後、阪神の
選手の3分の1を入れ替えるという非情なリストラを断行します。
その時獲得したのが、金本、下柳、伊良部などの有力選手でした。
彼らの存在なくしては、阪神のリーグ優勝は有り得ませんでした。つまり、
阪神の優勝は人を入れ替えることによって成し遂げられた側面が大きいのです。
これは野村監督が常々ぼやいていた「阪神は腐っとる」という言葉に対して、
恐ろしいほどの政治力で一刀両断の解決策を図ったということです。
特に、金本の加入は、その後の阪神タイガースというチームの体質そのもの
を変えた形跡があります。だから、阪神が強くなったのは、星野監督の功績
以外の何ものでもないというのが、野村氏の見解です。
ただし星野監督は優勝した年に辞任してしまいました。体調不良とも、オー
ナーとの確執とも言われますが、残念なことです。
結果として、星野氏は、もっと大きな野球界全体のビジョン構築・実現に向
けて動き出しています。だからそれはそれでよかったのかも知れません。
■星野監督辞任後の阪神はどうなったか。相変わらず強いままです。
野村氏は著書の中で、岡田監督の手腕を「分からない」と述べています。分
からないというのは、自分とタイプが違うので判断できないということです。
理解できない行動も多いが、実は名監督の器かも知れないとも述べています。
一方、スカウトを含めた編成部は確実に力をつけてきたようです。これが、
阪神の選手の能力を底上げしています。いい選手が入ってくるから強いとい
うことは言えるでしょう。
この部分は自分の功績であると野村氏は自画自賛しています^^
■もっとも私は、阪神タイガースがただなんとなく強いだけのチームであっ
ては面白くありません。
野村氏はこの本の中で「優勝するにふさわしいチームがある」と述べています。
「優勝するにふさわしいチーム」とはただ強いだけのチームではありません。
確固たる野球観を持つ指揮官のもとで意思統一されて、戦略を共有し、一致
団結して行動するチームのことです。
かつてV9時代の巨人は、川上監督の指導のもとプロ野球にドジャーズ式の
細かな戦術を持ち込み一歩も二歩も進んだチームを作り上げました。
野村監督時代のヤクルトは、監督の卓越した野球観のもと、データに基づい
た考える野球を展開しました。
彼らは、確かに優勝するにふさわしいチームであったと思えます。
今の阪神の野球は、果たして、未来に語り継がれるような優勝するにふさわ
しいチームと言えるのか。
JFKという鉄壁の抑えは歴史に名を残すかも知れませんが、それだけでは
まだ物足りないと私は感じます。
戦力が充実している今だからこそ、阪神タイガースには、21世紀の代表とな
るようなチームづくりをしてほしいと期待します。
■アジアリーグ構想を星野仙一氏が現実のものとした時、アジア全体のお手
本となるようなチームであってほしい。
そう切に願っております。
そのためにも、私も理屈の通じる大人のファンにならなければあきません。
と思う今日この頃です。
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■「あぁ、阪神タイガース」という本は、私には辛い内容の本でした。
毒舌が過ぎると私は感じましたが、阪神ファンではない人にとっては、ロジ
カルな本なんでしょうか。
■ただ、この本を今回じっくり読ませていただいて、野村氏のロジックの面
白さを再認識することができました。
例えば「優勝するにふさわしいチームがある」というくだり。
ただ強いだけではダメ。確固たる野球観を持つ指揮官のもとで意思統一され
て、戦略を共有し、一致団結して行動するチームが、優勝するにふさわしい。
これはビジネスにおける組織にも通じるものがあります。
「ただ業績がいいだけではダメ。業績を上げるにふさわしいチームがある」
かっこいいですね。今度、コンサルで利用してみようと思います^^