(2007年3月27日メルマガより)
■「ホッピー」という飲み物をご存知ですか?
私は知りません。。。
って言ったら、話が終わってしまいますね。
実はたまーーに、居酒屋などで見かける飲み物です。
なんだかレトロな響きのある低価格のアルコール飲料だったような気がします。
飲まないから味は分かりませんが。
■wikipediaによると、ホッピーというのは、「麦酒様清涼飲料水(ビール
テイスト飲料の一種)および焼酎をホッピーで割った飲み物の呼び名」とい
うことです。
戦後すぐの頃、ビールがまだ高価であった頃に、ビール風飲み物として人気
を博した商品です。要するにビールの安い代用飲料ですね。
発売は1946年。東京の新橋で販売されています。
レトロな響きがあるはずです。
■このホッピーという飲み物が、今、何気に飲まれているらしい。
2001年に8億8千万円だった売上高が、2006年には23億3千万円。2.6倍になっ
ています。(ホッピービバレッジ(株)全体の売上高です)
ホッピーそのものは、一度、低迷期を経験しています。ビールが高価ではな
くなった上に、チューハイなどの柑橘系アルコール飲料に押されてしまい飲
まれなくなってしまったのです。
昔懐かしいあの飲み物。という扱いになってしまいました。
そのホッピーが今更なぜ復活しているのでしょうか?
■前出のwikipediaによると、外部要因として「飲酒運転の厳罰化に伴うノ
ンアルコールビールの見直し」「健康ブーム」「レトロブーム」などがあげ
られています。
どれもありそうだし、なさそうでもある^^;
でも重要なのは、こうした外部要因をどのようにチャンスと捉えて、活かす
政策をとるかということです。
■このホッピービバレッジ株式会社の復活の経緯を副社長の立場から描いた
のが「社長が変われば会社は変わる!」という本です。
同社の代表取締役副社長が、社長の娘である石渡美奈氏。まだ40歳になるか
ならないかという若い経営者です。
この方が同社の跡取りとして奮闘する姿がドラマチックに描かれています。
成功譚だからそれなりに面白い本となっています。
■この石渡美奈という人。本の表紙に写真が載っていますがなかなかにイン
パクトのある人です。
本を読む限り「元気」「猪突猛進」「ネアカ」「目立ちたがり」「独善的」
という性格が伺えます。
こういう方が、経営者として成功するためには、相当、仕組みがしっかりし
ていないとダメでしょう。
従業員のお気持ちをお察しいたします^^;
(今回は言いたいことを言っていますね...)
■それはともかく、ホッピーという一度低迷した商品を復活させるために、
ホッピービバレッジは何をしたのか。
資金のない中小企業ができることなど限られていますから、同社の取り組み
は参考になるのではないでしょうか。
まずは失敗事例から。
同社は1999年にホッピーをあらかじめ焼酎で割った缶製品「ホッピーハイ」
を発売していますが、1000万円の赤字を出して撤退しています。
これは「缶チューハイ」などのサワー系飲料のフォロワー商品です。
儲かっている強者の真似をするというランチェスター戦略が絶対やってはい
けないと注意していることをやってしまったわけです。
後発組が似たような商品を売るためには「先発組を圧倒するような広告宣伝」
か「ものすごく特殊な売り方の工夫」が必要になってきます。
ホッピービバレッジは、そのどちらもできなかったわけですな。
■やはり中小企業は金をかけない売り方を考えなければならない。
まずは弱者の定番メディアである「インターネットの活用」です。
古い歴史を持つホッピーには、マニアのようなファンがいたらしい。
1999年にwebサイトを開設すると、コーポレートサイトを立ち上げる会社
がまだ珍しい頃ですから、そうしたマニアを中心にコアなコミュニティを形
成するようになっていきます。
ホッピービバレッジの「看板娘」である石渡美奈もブログを中心にコアな人気
を得るようになったようです。
■ネット以外の広告宣伝にも工夫をこらしています。
例えば、出荷担当の運送会社と契約し、トラックにカラフルな色調でホッピ
ーの画を描き「ホピトラ」と称して、街中を走らせています。
活用メディアはもっぱらラジオ。石渡美奈自身がラジオのパーソナリティと
なって、商品に対するこだわりを語る機会を作っています。
東国原宮崎県知事ではないですが、石渡美奈氏は「ホッピーの広告塔」の役
割を十二分に演じているようです。
■もっともこうした地道な努力が実を結ぶためには、先ほどあげた外部要因
である「ノンアルコール」「健康志向」「レトロ」という3つのブームの到
来を待たなければなりませんでした。
いや、逆に言うと、地道な努力があったからこそブームの到来というチャン
スを捉えることができたと言えるでしょう。
もっとも石渡氏自身はホッピーをブームの枠で捉えることには消極的です。
ブームというのはいつかは去るもの。
例えば、レトロというイメージに安易に寄りかかってしまうと、レトロブー
ムの終焉とともに商品の人気も失速します。
だから、同社はホッピーにレトロなイメージを被せることを否定し、カラフ
ルな「未来系の飲み物」と位置づけているようです。
■もう1つ、ホッピーの戦略で重要なことは、販売する地域を限定している
ことです。
ホッピーが売れているのは、ほとんどが関東。東京、神奈川、埼玉が8割を
占めています。
ラジオ広告や宣伝カーが機能するためには、販売エリアが小さいという前提
が必要です。
市場が小さければ小さいほど深堀りできるというランチェスター戦略の結論
を同社は体現してくれているわけです。
どうりで大阪では馴染みがないわけですね。
■まとめます。
経営資源に劣る弱者が、儲かっている商売の真似を安易にしてはなりません。
リスクを恐れず、独自商品で勝負することが必要です。
ホッピービバレッジは、同社の独自商品であるホッピーにすべてを賭けるビ
ジネス展開をしています。
しかも金のかからない差別化された広告宣伝を行っています。
こうした差別化戦略が機能するためには、市場を小さく設定することが必要
です。
■金がない。広告宣伝費が使えない。新製品を作れない。
こうしたマイナス要因をプラスに変えるしたたかさを同社には感じます。
弱点こそ強み。これが弱者の戦略の真髄ですね。
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■前出の「社長が変われば会社は変わる!」には、あまり戦略的なことは書かれて
いません。どちらかというと、経営者としての成長に伴う折々の情緒を記したものです。
(意地悪な言い方をすれば同社の宣伝本そのものです)
実は石渡氏は、株式会社武蔵野の小山昇社長の「実践経営塾」の門下生です
から、小山社長の経営哲学の実践事例としても読むことができます。
■戦略はあくまで方向性を示すもの。それを具体化するのは、人間に他なり
ません。
小山社長は、人が動くための仕組みのことを「儲かる仕組み」と言っています。
ホッピー販売戦略がいくら優れていても、石渡美奈氏がいくら一人で頑張っ
て宣伝しても、それを実行する従業員が冷めていれば、業績は上がりません。
戦略を具体化するための取り組みを小山社長は重要視しています。
ご興味のある方は、小山昇社長の著作をご覧ください。
斬新かつ具体的なノウハウが満載です。