さらば、スティーブ・ジョブズ

2011.09.08

(2011年9月8日メルマガより)


■「私は、自分がCEOとしての職務や期待に沿えなくなった場合、皆さん
に、すぐに伝えると常々言ってきました。残念ながらその日が来ました」

8月25日、アップルから衝撃的なニュースがもたらされました。

ついにスティーブ・ジョブズがアップルのCEOを辞任することを発表した
のです。

病気による長期療養中の身であるとはいえ、傾きかけたアップルを世界最大
の企業(株式時価総額で)に育て上げたカリスマCEOの引退です。

ある者は「レオナルド・ダ・ヴィンチに肩を並べる天才」といい、競合企業
からは「アップルは怖くないが、スティーブ・ジョブズは怖い」と言われた
人物です。

最近の痩せ細った映像を見ると、その日が来るのが近いことは誰もが分かっ
ていたはず。

それでも、このニュースは衝撃でした。

ついに来るべき時が来た...

IT業界にとって、2011年は、スティーブ・ジョブズの引退と共に思い
出される年となりました。

■スティーブ・ジョブズは1955年生まれ。

わすが20歳そこそこでホームコンピュータを作成し、アップル・コンピュ
ータを立ち上げ、成功します。

若くして億万長者となったジョブズですが、この頃の彼には、悪評も付きま
といます。共同経営者であったスティーブ・ウォズニアックの功績を横取り
しただけであるとか、傲慢で横暴であるとか、女癖の悪さまで取沙汰されます。

そして案の定、30歳の時には、社内の対立により、アップル・コンピュー
タから追放されてしまいます。

■文字通り、一人きりになってしまったジョブズですが、新しいコンピュー
タ会社NeXTの設立や、CGアニメーション作成会社ピクサーの買収など
で、徐々に存在感を強めていきます。

そしてピクサーがディズニーに買収されたのを機に、彼はディズニーの取締
役に就任します。

その頃、アップル・コンピュータは、マイクロソフト陣営のウィンドウズ搭
載パソコンに押されて、経営状況を悪化させ、買収を噂されるようになって
いました。

ジョブズは、古巣へのアプローチを開始し、アップルがNeXTを買収した
ために40歳過ぎに非常勤顧問として復帰。

さらに社内工作の末に、45歳でCEOに返り咲きます。

■そこからのスティーブ・ジョブズの伝記は、伝説的なものとなっていきます。

iMacでヒットを飛ばし、カリスマの復権を印象付けていたジョブズCE
Oは、2001年にiPodを発表。音楽のデジタル配信の仕組みとともに、
携帯音楽プレーヤーの市場シェアを一気に塗り替えてしまいます。

さらに2007年には、iPhoneを発表。2010年のiPadととも
に、スマートフォン市場を牽引したメガヒット商品となりました。

今や、多くのIT企業家がパソコンの時代は終わったと言うようになった
は、この商品の成功によるものです。

そして2011年8月には、ついにアップルの株式時価総額は、エクソン・
モービルを抜いて1位となりました。

まさに、世界1位の企業を作り上げたのです。

■グーグルの前CEOであるエリック・シュミットは、スティーブ・ジョブ
ズのことを「世界で最も素晴らしいCEO。50年、100年は出てこない」
と評しています。ソース→http://nkbp.jp/pGtfDx

シュミットは「(優れた)リーダーは技術的なビジョン、ビジネス的なビジョ
ンを示し、そしてものすごく働く。朝起きてがむしゃらに働く」と発言して
いますが、これはジョブズのことも念頭に置いてのことでしょう。

なんせ、ジョブズは、日曜の朝にグーグルの技術者に電話をかけて「スマー
トフォン用のグーグルのロゴのグラジュエーションが気に入らないから修正
したい」という人物です。http://bit.ly/pcKBQa

この細部へのこだわりは尋常ではありません。この異常さが、一度はアップ
ル追放の原因となり、また、復帰してからは誰も作りえない商品を作らせた
原動力であるわけです。

■このエピソードを聞くと、私は黒澤明監督が「七人の侍」の撮影時、エキ
ストラが道を歩くシーンの指導に一日を費やしたという逸話を思い出してし
まいます。

黒澤明も、映画のあらゆる部分に明確なビジョンを持ち、それを実現するた
めには常人離れした執念で、微塵も妥協を許さなかったといいます。

だからこそ、あれほど巨大かつ高度な品質の作品を作り続けることができま
した。

並外れた完璧主義が製作費の高騰を常態化したと批判の対象となってしまい
ましたが、それは経営の問題であり監督側に問うべきではありません。

これに対して経営者であるスティーブ・ジョブズは、自分の構想を採算ベー
スに乗せることを成し遂げました。

初期のマッキントッシュを作成している頃に比べて、実現できる技術のコス
トが下がっていたということもあるでしょうし、彼自身も妥協点を見出すよ
うに成熟していったのかも知れません。

ただし、社員や関係会社への容赦ない仕打ちは、相変わらずであったと漏れ
聞きますが。

■エリック・シュミットも言うとおり、ジョブズがどんな嫌な奴であろうと、
評価しなければならないのが、彼が誰よりも「顧客目線」を忘れなかったこ
とです。

iPodが、ウォークマンから市場シェアトップの座を奪い、iPhone
が常にスマートフォン市場でトップの位置にいるのは、それが顧客の支持を
得ているからに他なりません。

この点、マイクロソフトは、業界の構造的な支配に注力し、消費者の便益を
忘れたのだと、シュミットは発言していますね。

そこにグーグルの付け入る隙があったわけですから、シュミットは十分すぎ
るほど理解していることでしょう。

■もっともそうは言いながら、マイクロソフトも当初は圧倒的な消費者の支
持を集めて、市場に受け入れられたわけです。

コンピュータを動かすのに、複雑な言語は使わずに、アイコンをチェックす
るだけでよいウィンドウズというオペレーション・ソフトは画期的なもので
した。

とは言いながら、そのアイデアはスティーブ・ジョブズが先行していたもの
でしたし、ジョブズも他の誰かのアイデアを盗んだと言われています。

最初は誰のアイデアであったかなど重要ではありません。重要なのは、消費
者が支持するものを巧妙に多く広げたのは誰かということです。

具体的には、IBM互換機でその仕組みを提供できたのが、マイクロソフト
であり、アップルは先行しながら対象機器を広げることができませんでした

■ただし、市場をほぼ独占してしまうと、企業にはその地位を維持しようと
する力が働きます。

マイクロソフトは、パソコンにウィンドウズを予め入れておくという販売方
法を確立します。

メーカー側も、ウィンドウズの搭載を前提に開発を進めないと市場に並ぶこ
ともできません。あるいは、言うことを聞かないメーカーには何らかの報復
があったのかも知れませんね。

そうなれば、業界の構造的な支配です。

利潤を追求する企業としては至極真っ当な行動であるともいえますが、こう
なれば、消費者に選択肢はなく、競争による切磋琢磨もありません。

ランチェスター戦略では、市場シェア73.9%を超えると、必ずしも良い
状態とは言えないと教えていますが、まさにマイクロソフトは完全独占の罠
にはまってしまったことになります。

そんな事情で、マイクロソフトは、消費者の利便性よりも、業界支配の強化
を優先させていると批判されるようになったわけです。

■そんな時に登場したのがグーグルでした。

「世界中の情報をサーチする」というミッションを持つグーグルは、検索連動
型広告からの収入を源泉に、消費者の利便性を高めるサービスを次々と生
み出していきました。

無料の大容量メール。カレンダー。地図情報。果ては、表計算ソフトやワー
プロソフトまで、マイクロソフトが収入源としていたソフトを無料で提供し
始めました。

最終的にはウィンドウズを不要にするオペレーションソフトまで開発してい
ます。

それがすべて無料。

マイクロソフトは業界の支配力を背景に、なんとか持ちこたえていますが、
大きな流れがグーグルに傾くのを避けようはありません。

今、マイクロソフトは焦りまくって、次の生きる道を探し求めている状況で
すね。

■グーグルは「100%web」の実現に向けて、クラウド技術の発展を目
指しています。

それは端末の能力を問わず、webにつながりさえすれば、すべての処理が
可能となる世界の実現です。

ウィンドウズであろうと、リナックスであろうと、クロームであろうと、イ
ンターネットにさえつながりさえすれば、やりたい処理ができるようになる
というのは確かに便利な話です。

私も一消費者として、グーグルの未来観に乗りたくなります。

■ただ、一口に顧客目線といっても、大雑把な概念です。

顧客にもいろいろありますので、どの顧客の目線を持つかによって、ビジョ
ンは変わってきます。

顧客目線とは、いささか主観的な概念なのです。

そう考えると、グーグルの想定する顧客は、かなり広い範囲の抽象的な存在
に思えます。

全人類。といってもいいかも知れない。

全体としては素晴らしいと思うが、細かいところでは不便も感じるというの
は、対象顧客が大雑把である所以です。

グーグルが、ローカルなサービスに弱点を抱えているのはそのためです。

■逆に、アップルいやスティーブ・ジョブズの標的顧客は極めて明確です。

彼は「おれが面白い・クールだと思うものを喜ぶ顧客」をターゲットにして
います。

要するに、顧客は自分です。自分が欲しいものを提供する。

アップルの製品は、ひたすらスティーブ・ジョブズの美意識を追求している
ように見えます。

ここにボタンなんかついていたらクールじゃない。これぐらい薄くないとク
ールじゃない。丸みはこれぐらいの角度じゃないとクールじゃない。

さらにはこのアプリはクールじゃない。この技術はクールじゃない。

そこに妥協はなく、顧客(おれ)目線を貫徹しています。

一般消費者の表面的なニーズに迎合しようなどとは思っておらず、分かる奴
だけ分かればいいという姿勢なので、はまる顧客にとっては、驚きと感動と
深い満足を与えることができます。

独りよがりになる怖れのある方法ですが、顧客の予想を一歩も二歩も進んだ
サービスを提供するので、それが一定の顧客層に響いた時には大きな波を起
こすことができます。

■ハーバード大学のデビッド・ヨフィー教授によると、スティーブ・ジョブ
ズの卓越性は、その独裁的な経営手法にあるといいます。
http://nkbp.jp/ouQzMe

ジョブズは、先鋭的な美意識とビジネス感覚を持ち、一点集中する勇気を持
ち、完璧主義で、周りの反対意見など気にも留めない傲慢さがありました。

いくら優れた戦略眼があっても、それを実行する実力がなければ画に描いた
餅です。

優れた実行力があっても、方向性が間違っていれば、愚か者です。

スティーブ・ジョブズは、その両方の資質を高いレベルで持つことが出来た
稀有な例です。

それが天才と呼ばれる所以なのでしょう。他の人たちに真似できるものでは
ありません。

アップルにあって、グーグルにないものといえば、まさにスティーブ・ジョ
ブズの存在でした。

■一方でアップルは、グーグル陣営に対して、執拗な「特許侵害訴訟」攻撃
を仕掛けているそうです。

これはマイクロソフトも同じです。

比較的新参者で、取得特許の少ないグーグルには、効果的な嫌がらせです。

グーグル自身に訴訟を仕掛けるのでははなく、グーグルの技術を使用するメ
ーカーに仕掛けるものですから、困ったものです。

こちらは顧客目線に立つという話ではありません。相手が嫌がるところに攻
撃を集中して弱らせるという孫子ばりの戦法です。

グーグルが「そんなのは本来のビジネス競争の趣旨から外れている」と悲鳴
を上げるのも分かります^^;でも、これが企業競争の現実です。

グーグルがモトローラを買収した背景には、特許権の取得が大きかったとい
うのはこうした事情からです。

同時に、アップルに対しては、おれたちもモトローラのノウハウを使って、
クールな端末を作ってやるぜ!という挑発にもなっているのでしょうな。

■そういえば、グーグルはフェイスブックとの戦いも続けていますね。

フェイスブックに対抗してグーグルプラスというサービスを開始しました。

私はグーグルプラスの内容は知らないのですが、フェイスブックを徹底的に
調査して、より使いやすいものを目指したという触れ込みですから、フェイ
スブックのマイナーチェンジのようなものなんでしょうか。

しかし、世界で7億人が使用するというトップのSNSに対して、マイナー
チェンジで対抗しようというのは戦略として弱いと言わざるを得ない。

根本的にフェイスブックではできないことをグーグルプラスでやるのなら効
果的ですが、今やっていることは、いずれフェイスブックでも真似できるよ
うなことばかりだと聞きます。

このあたりもグーグルは「弱者の戦略」というものが分かっていない。実は
競争というリアルな現場に弱いことが見えてしまいますね。

このままでは、フェイスブックの優位性は揺るがないでしょう。

■それはともかく、アップルの今後の戦略はどうなっていくのでしょうか。

アップル=スティーブ・ジョブズであった時には、功罪がありました。

功は、誰にも真似できない徹底した美意識の現出としての製品。

罪は、美意識を追求するあまりの行き過ぎた排他主義。

私がiPhoneを使用していながら、今一つ、アップルのやり方に馴染め
ないのは、この囲い込み戦略に対する違和感です。

アップルを使いだすと、ずっとアップルを使い続けなければならないという
のは、養殖の魚にされたようで、どうも異を唱えたくなってしまうんですな。。。

まあ、基本的に企業は顧客を囲い込みたがるのですが(それが持続的に儲か
るから)アップルは、それが普通よりも強い。アプリも技術も、自分の意に
適うものばかりで固めようとしています。

これに対して、ユーザーの自由度を認める姿勢を示すのがグーグルですから、
心情的には、こちらの陣営を応援したくなります。

■おそらく、しばらくはアップルも今まで通り、端末の魅力で顧客を惹きつ
ける戦略をとり続けるのでしょう。

でも、そのうち、フェイスブックなどと提携して、徐々に柔軟な姿勢を見せ
るようになるでしょう。

周囲との融和です。

そうなると、アップルの独自性が薄れていくでしょうが、仕方ありません。
ジョブズなきあと、独自の美意識で突っ走ることは無理がありますから。

業界の強者であることを意識して、柔軟な対応で市場シェアを維持し続ける
というのがベターなシナリオです。

もし、強者の戦略への移行に失敗して、中途半端な差別化製品を出している
と、普通の2位、3位メーカーになってしまうのは目に見えています。

昔のアップルのように、市場シェアは小さくてもいいので、ニッチなメーカ
ーとして存在感を持ち続けるという手もありますが、ここまで巨大な企業と
なった今、それでは許されないでしょう。

戦略を間違うとすぐに凋落してしまうでしょうから、気を付けなければなり
ません。

■これに対して、グーグルは、アップルの対抗上、端末開発に力を入れよう
とすることと思います。

なんかトンチンカンなものが出てくる懸念がなきにしもあらずですが^^;
やはりそこはグーグルなんで、面白いものを出してくると期待しましょう。

ただし、グーグルは今まで通り、端末開発の自由を保証し続けるはずです。
モトローラで売れた商品でも、開放すれば大したものです。

有利な戦いは続くでしょうが、ローカルで弱いという難点は持ち続けたまま
尖った技術系メーカーとして生き続けてほしいと思います。

これは私の願望も含めてですけど。

■もちろん、アップルにとってもベストのシナリオは、ジョブズ・イズムを
DNAとして持ち続けて、クールな製品メーカーとして、トップを走り続け
ることです。

それが可能かどうかは、神のみぞ知る。

と言いながら、黒澤明の助監督が、黒澤明のような映画を撮っているかとい
えば、それはありませんからね。

やはりアップルは、ジョブズの真似はできないというところから、戦略を立
てるべきなんでしょうな。

そう思っていたら、スティーブ・ジョブズが、引退してからも意気軒昂だと
いうニュースが飛び込んできました。http://bit.ly/pI0uiL

どうやら、新CEOであるティム・クックに干渉しまくっているらしい。ジ
ョブズは引退してもジョブズだったのですね^^

なんて。

実は、これはジョークでした。

やりかねないので、怖いですが。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■引退後のスティーブ・ジョブズに関する記事の多さを見るにつけ、いかに
彼が突出した存在であったが分かります。

悪評も多かった人物ですが、それ以上に大きな功績を遺したことは誰も異論
はないでしょう。

これは仇敵といわれたビル・ゲイツでも認めざるを得ないはずです。

もっとも、この期に及んで「ジョブズは発明ではなく盗作の天才だった」な
どという記事がでるところが、彼の人柄を示しています^^;
http://bit.ly/nLl7mz

■最近の痩せ細った痛々しい姿を見ると、次のニュースがすぐそこに迫って
いるように思えます。

とても残念ですが。

そして、一つの時代が終わるような気がして、寂しいですね。


「スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション─人生・仕事・世界を変える7つの法則」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4822248569/lanchesterkan-22/ref=nosim

「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン─人々を惹きつける18の法則」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/482224816X/lanchesterkan-22/ref=nosim


(2011年9月8日メルマガより)


■「私は、自分がCEOとしての職務や期待に沿えなくなった場合、皆さん
に、すぐに伝えると常々言ってきました。残念ながらその日が来ました」

8月25日、アップルから衝撃的なニュースがもたらされました。

ついにスティーブ・ジョブズがアップルのCEOを辞任することを発表した
のです。

病気による長期療養中の身であるとはいえ、傾きかけたアップルを世界最大
の企業(株式時価総額で)に育て上げたカリスマCEOの引退です。

ある者は「レオナルド・ダ・ヴィンチに肩を並べる天才」といい、競合企業
からは「アップルは怖くないが、スティーブ・ジョブズは怖い」と言われた
人物です。

最近の痩せ細った映像を見ると、その日が来るのが近いことは誰もが分かっ
ていたはず。

それでも、このニュースは衝撃でした。

ついに来るべき時が来た...

IT業界にとって、2011年は、スティーブ・ジョブズの引退と共に思い
出される年となりました。

■スティーブ・ジョブズは1955年生まれ。

わすが20歳そこそこでホームコンピュータを作成し、アップル・コンピュ
ータを立ち上げ、成功します。

若くして億万長者となったジョブズですが、この頃の彼には、悪評も付きま
といます。共同経営者であったスティーブ・ウォズニアックの功績を横取り
しただけであるとか、傲慢で横暴であるとか、女癖の悪さまで取沙汰されます。

そして案の定、30歳の時には、社内の対立により、アップル・コンピュー
タから追放されてしまいます。

■文字通り、一人きりになってしまったジョブズですが、新しいコンピュー
タ会社NeXTの設立や、CGアニメーション作成会社ピクサーの買収など
で、徐々に存在感を強めていきます。

そしてピクサーがディズニーに買収されたのを機に、彼はディズニーの取締
役に就任します。

その頃、アップル・コンピュータは、マイクロソフト陣営のウィンドウズ搭
載パソコンに押されて、経営状況を悪化させ、買収を噂されるようになって
いました。

ジョブズは、古巣へのアプローチを開始し、アップルがNeXTを買収した
ために40歳過ぎに非常勤顧問として復帰。

さらに社内工作の末に、45歳でCEOに返り咲きます。

■そこからのスティーブ・ジョブズの伝記は、伝説的なものとなっていきます。

iMacでヒットを飛ばし、カリスマの復権を印象付けていたジョブズCE
Oは、2001年にiPodを発表。音楽のデジタル配信の仕組みとともに、
携帯音楽プレーヤーの市場シェアを一気に塗り替えてしまいます。

さらに2007年には、iPhoneを発表。2010年のiPadととも
に、スマートフォン市場を牽引したメガヒット商品となりました。

今や、多くのIT企業家がパソコンの時代は終わったと言うようになった
は、この商品の成功によるものです。

そして2011年8月には、ついにアップルの株式時価総額は、エクソン・
モービルを抜いて1位となりました。

まさに、世界1位の企業を作り上げたのです。

■グーグルの前CEOであるエリック・シュミットは、スティーブ・ジョブ
ズのことを「世界で最も素晴らしいCEO。50年、100年は出てこない」
と評しています。ソース→http://nkbp.jp/pGtfDx

シュミットは「(優れた)リーダーは技術的なビジョン、ビジネス的なビジョ
ンを示し、そしてものすごく働く。朝起きてがむしゃらに働く」と発言して
いますが、これはジョブズのことも念頭に置いてのことでしょう。

なんせ、ジョブズは、日曜の朝にグーグルの技術者に電話をかけて「スマー
トフォン用のグーグルのロゴのグラジュエーションが気に入らないから修正
したい」という人物です。http://bit.ly/pcKBQa

この細部へのこだわりは尋常ではありません。この異常さが、一度はアップ
ル追放の原因となり、また、復帰してからは誰も作りえない商品を作らせた
原動力であるわけです。

■このエピソードを聞くと、私は黒澤明監督が「七人の侍」の撮影時、エキ
ストラが道を歩くシーンの指導に一日を費やしたという逸話を思い出してし
まいます。

黒澤明も、映画のあらゆる部分に明確なビジョンを持ち、それを実現するた
めには常人離れした執念で、微塵も妥協を許さなかったといいます。

だからこそ、あれほど巨大かつ高度な品質の作品を作り続けることができま
した。

並外れた完璧主義が製作費の高騰を常態化したと批判の対象となってしまい
ましたが、それは経営の問題であり監督側に問うべきではありません。

これに対して経営者であるスティーブ・ジョブズは、自分の構想を採算ベー
スに乗せることを成し遂げました。

初期のマッキントッシュを作成している頃に比べて、実現できる技術のコス
トが下がっていたということもあるでしょうし、彼自身も妥協点を見出すよ
うに成熟していったのかも知れません。

ただし、社員や関係会社への容赦ない仕打ちは、相変わらずであったと漏れ
聞きますが。

■エリック・シュミットも言うとおり、ジョブズがどんな嫌な奴であろうと、
評価しなければならないのが、彼が誰よりも「顧客目線」を忘れなかったこ
とです。

iPodが、ウォークマンから市場シェアトップの座を奪い、iPhone
が常にスマートフォン市場でトップの位置にいるのは、それが顧客の支持を
得ているからに他なりません。

この点、マイクロソフトは、業界の構造的な支配に注力し、消費者の便益を
忘れたのだと、シュミットは発言していますね。

そこにグーグルの付け入る隙があったわけですから、シュミットは十分すぎ
るほど理解していることでしょう。

■もっともそうは言いながら、マイクロソフトも当初は圧倒的な消費者の支
持を集めて、市場に受け入れられたわけです。

コンピュータを動かすのに、複雑な言語は使わずに、アイコンをチェックす
るだけでよいウィンドウズというオペレーション・ソフトは画期的なもので
した。

とは言いながら、そのアイデアはスティーブ・ジョブズが先行していたもの
でしたし、ジョブズも他の誰かのアイデアを盗んだと言われています。

最初は誰のアイデアであったかなど重要ではありません。重要なのは、消費
者が支持するものを巧妙に多く広げたのは誰かということです。

具体的には、IBM互換機でその仕組みを提供できたのが、マイクロソフト
であり、アップルは先行しながら対象機器を広げることができませんでした

■ただし、市場をほぼ独占してしまうと、企業にはその地位を維持しようと
する力が働きます。

マイクロソフトは、パソコンにウィンドウズを予め入れておくという販売方
法を確立します。

メーカー側も、ウィンドウズの搭載を前提に開発を進めないと市場に並ぶこ
ともできません。あるいは、言うことを聞かないメーカーには何らかの報復
があったのかも知れませんね。

そうなれば、業界の構造的な支配です。

利潤を追求する企業としては至極真っ当な行動であるともいえますが、こう
なれば、消費者に選択肢はなく、競争による切磋琢磨もありません。

ランチェスター戦略では、市場シェア73.9%を超えると、必ずしも良い
状態とは言えないと教えていますが、まさにマイクロソフトは完全独占の罠
にはまってしまったことになります。

そんな事情で、マイクロソフトは、消費者の利便性よりも、業界支配の強化
を優先させていると批判されるようになったわけです。

■そんな時に登場したのがグーグルでした。

「世界中の情報をサーチする」というミッションを持つグーグルは、検索連動
型広告からの収入を源泉に、消費者の利便性を高めるサービスを次々と生
み出していきました。

無料の大容量メール。カレンダー。地図情報。果ては、表計算ソフトやワー
プロソフトまで、マイクロソフトが収入源としていたソフトを無料で提供し
始めました。

最終的にはウィンドウズを不要にするオペレーションソフトまで開発してい
ます。

それがすべて無料。

マイクロソフトは業界の支配力を背景に、なんとか持ちこたえていますが、
大きな流れがグーグルに傾くのを避けようはありません。

今、マイクロソフトは焦りまくって、次の生きる道を探し求めている状況で
すね。

■グーグルは「100%web」の実現に向けて、クラウド技術の発展を目
指しています。

それは端末の能力を問わず、webにつながりさえすれば、すべての処理が
可能となる世界の実現です。

ウィンドウズであろうと、リナックスであろうと、クロームであろうと、イ
ンターネットにさえつながりさえすれば、やりたい処理ができるようになる
というのは確かに便利な話です。

私も一消費者として、グーグルの未来観に乗りたくなります。

■ただ、一口に顧客目線といっても、大雑把な概念です。

顧客にもいろいろありますので、どの顧客の目線を持つかによって、ビジョ
ンは変わってきます。

顧客目線とは、いささか主観的な概念なのです。

そう考えると、グーグルの想定する顧客は、かなり広い範囲の抽象的な存在
に思えます。

全人類。といってもいいかも知れない。

全体としては素晴らしいと思うが、細かいところでは不便も感じるというの
は、対象顧客が大雑把である所以です。

グーグルが、ローカルなサービスに弱点を抱えているのはそのためです。

■逆に、アップルいやスティーブ・ジョブズの標的顧客は極めて明確です。

彼は「おれが面白い・クールだと思うものを喜ぶ顧客」をターゲットにして
います。

要するに、顧客は自分です。自分が欲しいものを提供する。

アップルの製品は、ひたすらスティーブ・ジョブズの美意識を追求している
ように見えます。

ここにボタンなんかついていたらクールじゃない。これぐらい薄くないとク
ールじゃない。丸みはこれぐらいの角度じゃないとクールじゃない。

さらにはこのアプリはクールじゃない。この技術はクールじゃない。

そこに妥協はなく、顧客(おれ)目線を貫徹しています。

一般消費者の表面的なニーズに迎合しようなどとは思っておらず、分かる奴
だけ分かればいいという姿勢なので、はまる顧客にとっては、驚きと感動と
深い満足を与えることができます。

独りよがりになる怖れのある方法ですが、顧客の予想を一歩も二歩も進んだ
サービスを提供するので、それが一定の顧客層に響いた時には大きな波を起
こすことができます。

■ハーバード大学のデビッド・ヨフィー教授によると、スティーブ・ジョブ
ズの卓越性は、その独裁的な経営手法にあるといいます。
http://nkbp.jp/ouQzMe

ジョブズは、先鋭的な美意識とビジネス感覚を持ち、一点集中する勇気を持
ち、完璧主義で、周りの反対意見など気にも留めない傲慢さがありました。

いくら優れた戦略眼があっても、それを実行する実力がなければ画に描いた
餅です。

優れた実行力があっても、方向性が間違っていれば、愚か者です。

スティーブ・ジョブズは、その両方の資質を高いレベルで持つことが出来た
稀有な例です。

それが天才と呼ばれる所以なのでしょう。他の人たちに真似できるものでは
ありません。

アップルにあって、グーグルにないものといえば、まさにスティーブ・ジョ
ブズの存在でした。

■一方でアップルは、グーグル陣営に対して、執拗な「特許侵害訴訟」攻撃
を仕掛けているそうです。

これはマイクロソフトも同じです。

比較的新参者で、取得特許の少ないグーグルには、効果的な嫌がらせです。

グーグル自身に訴訟を仕掛けるのでははなく、グーグルの技術を使用するメ
ーカーに仕掛けるものですから、困ったものです。

こちらは顧客目線に立つという話ではありません。相手が嫌がるところに攻
撃を集中して弱らせるという孫子ばりの戦法です。

グーグルが「そんなのは本来のビジネス競争の趣旨から外れている」と悲鳴
を上げるのも分かります^^;でも、これが企業競争の現実です。

グーグルがモトローラを買収した背景には、特許権の取得が大きかったとい
うのはこうした事情からです。

同時に、アップルに対しては、おれたちもモトローラのノウハウを使って、
クールな端末を作ってやるぜ!という挑発にもなっているのでしょうな。

■そういえば、グーグルはフェイスブックとの戦いも続けていますね。

フェイスブックに対抗してグーグルプラスというサービスを開始しました。

私はグーグルプラスの内容は知らないのですが、フェイスブックを徹底的に
調査して、より使いやすいものを目指したという触れ込みですから、フェイ
スブックのマイナーチェンジのようなものなんでしょうか。

しかし、世界で7億人が使用するというトップのSNSに対して、マイナー
チェンジで対抗しようというのは戦略として弱いと言わざるを得ない。

根本的にフェイスブックではできないことをグーグルプラスでやるのなら効
果的ですが、今やっていることは、いずれフェイスブックでも真似できるよ
うなことばかりだと聞きます。

このあたりもグーグルは「弱者の戦略」というものが分かっていない。実は
競争というリアルな現場に弱いことが見えてしまいますね。

このままでは、フェイスブックの優位性は揺るがないでしょう。

■それはともかく、アップルの今後の戦略はどうなっていくのでしょうか。

アップル=スティーブ・ジョブズであった時には、功罪がありました。

功は、誰にも真似できない徹底した美意識の現出としての製品。

罪は、美意識を追求するあまりの行き過ぎた排他主義。

私がiPhoneを使用していながら、今一つ、アップルのやり方に馴染め
ないのは、この囲い込み戦略に対する違和感です。

アップルを使いだすと、ずっとアップルを使い続けなければならないという
のは、養殖の魚にされたようで、どうも異を唱えたくなってしまうんですな。。。

まあ、基本的に企業は顧客を囲い込みたがるのですが(それが持続的に儲か
るから)アップルは、それが普通よりも強い。アプリも技術も、自分の意に
適うものばかりで固めようとしています。

これに対して、ユーザーの自由度を認める姿勢を示すのがグーグルですから、
心情的には、こちらの陣営を応援したくなります。

■おそらく、しばらくはアップルも今まで通り、端末の魅力で顧客を惹きつ
ける戦略をとり続けるのでしょう。

でも、そのうち、フェイスブックなどと提携して、徐々に柔軟な姿勢を見せ
るようになるでしょう。

周囲との融和です。

そうなると、アップルの独自性が薄れていくでしょうが、仕方ありません。
ジョブズなきあと、独自の美意識で突っ走ることは無理がありますから。

業界の強者であることを意識して、柔軟な対応で市場シェアを維持し続ける
というのがベターなシナリオです。

もし、強者の戦略への移行に失敗して、中途半端な差別化製品を出している
と、普通の2位、3位メーカーになってしまうのは目に見えています。

昔のアップルのように、市場シェアは小さくてもいいので、ニッチなメーカ
ーとして存在感を持ち続けるという手もありますが、ここまで巨大な企業と
なった今、それでは許されないでしょう。

戦略を間違うとすぐに凋落してしまうでしょうから、気を付けなければなり
ません。

■これに対して、グーグルは、アップルの対抗上、端末開発に力を入れよう
とすることと思います。

なんかトンチンカンなものが出てくる懸念がなきにしもあらずですが^^;
やはりそこはグーグルなんで、面白いものを出してくると期待しましょう。

ただし、グーグルは今まで通り、端末開発の自由を保証し続けるはずです。
モトローラで売れた商品でも、開放すれば大したものです。

有利な戦いは続くでしょうが、ローカルで弱いという難点は持ち続けたまま
尖った技術系メーカーとして生き続けてほしいと思います。

これは私の願望も含めてですけど。

■もちろん、アップルにとってもベストのシナリオは、ジョブズ・イズムを
DNAとして持ち続けて、クールな製品メーカーとして、トップを走り続け
ることです。

それが可能かどうかは、神のみぞ知る。

と言いながら、黒澤明の助監督が、黒澤明のような映画を撮っているかとい
えば、それはありませんからね。

やはりアップルは、ジョブズの真似はできないというところから、戦略を立
てるべきなんでしょうな。

そう思っていたら、スティーブ・ジョブズが、引退してからも意気軒昂だと
いうニュースが飛び込んできました。http://bit.ly/pI0uiL

どうやら、新CEOであるティム・クックに干渉しまくっているらしい。ジ
ョブズは引退してもジョブズだったのですね^^

なんて。

実は、これはジョークでした。

やりかねないので、怖いですが。

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■引退後のスティーブ・ジョブズに関する記事の多さを見るにつけ、いかに
彼が突出した存在であったが分かります。

悪評も多かった人物ですが、それ以上に大きな功績を遺したことは誰も異論
はないでしょう。

これは仇敵といわれたビル・ゲイツでも認めざるを得ないはずです。

もっとも、この期に及んで「ジョブズは発明ではなく盗作の天才だった」な
どという記事がでるところが、彼の人柄を示しています^^;
http://bit.ly/nLl7mz

■最近の痩せ細った痛々しい姿を見ると、次のニュースがすぐそこに迫って
いるように思えます。

とても残念ですが。

そして、一つの時代が終わるような気がして、寂しいですね。


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