国内で敵なしのカルビーの将来が必ずしも明るくない理由

2017.08.24

(2017年8月24日メルマガより)


メルマガ登録はこちら


いま食品メーカーでノリにノっている企業といえばカルビーですね

2011年の上場以来、ずっと2桁増益を達成。

今年はじゃがいもの生産が追い付かず、ポテト類商品が減産に追い込まれたとはいえ、一時的なものです。過去最高益は続いています。

この好業績に関して、2009年から同社会長兼CEOとなっている松本晃氏の影響は小さくないでしょう。

松本氏は、伊藤忠商事を経て、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル株式会社の社長をされていた方です。

創業以来、同族経営だったカルビーが招いたいわゆるプロ経営者の一人です。

もっとも松本氏自身は「カルビーがもともと持っていたポテンシャルのおかげ」と謙遜されておられますが。

■カルビーは、1949年広島に設立された松尾糧食工業をもとにしているます。

現在の社名のカルビーは、カルシウムとビタミンB1からきているそうですね。

戦争で大きな被害を受けた広島の人々に豊かな栄養源を供給したいという創業者の思いがこめられた社名です。

最初のヒット商品は、瀬戸内海の小エビを使った「かっぱえびせん」

その後、じゃがいもを使った「サッポロポテト」「ポテトチップス」の成功で、日本有数のスナック菓子メーカーの地位を確立しました。

同社のホームページをみれば、原材料や品質に関する真摯な姿勢を感じ取ることができます。創業者の逸話が示すように、ものづくり企業として非常にまじめな会社なのだと思います。

■同時に、カルビーはプロモーションにおいても独特の強みを発揮してきました。

同社が市場を席巻するきっかけとなったのが、1971年の「仮面ライダースナック」や73年の「プロ野球スナック」など。

カード付のスナック菓子は子供たちに大人気で、購入動機はほぼカード目的でした。

私も覚えていますが、レアなカードが欲しくてほしくて仕方なかったものですよ。

カード欲しさに大量購入して、スナック袋の方は捨ててしまう子供がいたりして、社会問題になったものです。

戦後、頭角を現した会社には、なにかしら飛び道具めいたプロモーションの工夫がみられたものですが、カルビーのカード付スナックなどもその典型であったと思います。

■現在、カルビーはスナック市場において50%以上のシェアを持っており、ダントツのトップ企業です。

ところがその優良企業に「いい会社だが儲け方が下手だ」と言ったのが、現会長兼CEOの松本晃氏でした。

当時、同社の社外取締役をしていた松本氏の目には、ものづくりにこだわるあまり、低利益に甘んじているカルビーの姿はもどかしく映ったようですな

「それならあなたがやってみたら」と創業一族の人にいわれて、引き受けることになったわけです。

参考:カルビーは「良い会社だが儲け方が下手」、だからCEOを引き受けた
http://diamond.jp/articles/-/116745

松本氏が登板してからのカルビーの業績向上には目を見張るものがあります。

売上高で1.7倍。営業利益で3倍のアップです。(2010年~17年)

いったいどんなマジックを使ったのかと思いたくなりますが、この記事を読む限り、合理的ではあるが、いささか強引なやり方です。

参考:カルビーを「数学」から「算数」の会社にしたら増収増益になった
http://diamond.jp/articles/-/117611

一例としてあげられているのが、工場の稼働率を上げること。じゃがいもの契約農家から全数買取を実施し、全部商品に加工することで工場をフル稼働させます。

そうすることで、固定費割合が減ります。

が、その分、在庫が積みあがるわけですが、それは安売りしてでも営業に売らせるという方法です。

まんまセリング(売り手の都合で売り込むこと)じゃないですか。

営業出身者らしいやり方ですな。

■ほかの記事で、松本CEOは「カルビーには分析のための会議と資料が多すぎた」と憤慨していました。

長らくトップ企業だった同社とすれば、売上をこれ以上アップさせるという意欲に乏しく、市場を分析し、守るという方向に向いていたのではないですかね。

そういう時に「安売りでもいいから売ってこい!」と号令するのは、実は効果的です。

市場が飽和しているようでも、隙間はいっぱいあるものです。チャネル、地域、業界、季節などを子細に見てみれば、入り込む余地はあります。

分析するより行くが易し。

実際、既存市場に既存商品を売るのが一番、効果が上がります。

セリングというと悪いイメージがありますが、それが必要な時もあるということです。

■ただし、市場浸透にも限度があります。

いわばこれまでのことは、上げやすいところで業績を上げて、経営者の求心力を高めるための時期です。

カルビーがこれから本当に取り組まなければならないのは、海外展開を本格化させて、グローバル企業になっていくことです。

それが松本氏が担う最大の使命であるはずです。

なにしろ世界のトップ企業の売上高は3兆円超えしていますから、2000億円いかないカルビーとすれば、吹けば飛ぶような存在といわれても仕方ありません。

※ナビスコやリッツなどを持つモンデリーズの売上高。296億ドル。菓子だけではないので、単純比較はできませんが...

カルビーはこれまでスナック菓子の海外展開に失敗してきた歴史があるので、簡単な道ではありませんが、プロ経営者としては挑戦しがいのある課題ではないでしょうかね。

■そういう意味では、松本氏の功績の一つである「フルグラ」の存在は、大きいといえます。

「フルグラ」とは、朝食に食べるシリアルの一種です。フルーツグラノーラという商品名を松本氏が短縮させた商品名です

カルビーらしく、素材にこだわり栄養バランスのいい商品として1988年に登場したグラノーラですが、2010年当時の売上高は30億円ほど。

同社の商品群としては鳴かず飛ばすの状態でした。

海外暮らしが長い松本氏は「こんな美味しいシリアルは初めてだ。こんないい商品がなんで売れないんだ」といって、販売強化を厳命します。

もっとも日本ではシリアル市場など小さいものです。社内には、30億円で頭打ちだといった意見があったようです。

■笛吹けど踊らぬ営業マンに業を煮やしたのか、カルビーは、社長直轄のフルグラ事業本部を作ります。

今回ばかりは、強引にセリングするわけにはいきません。なにしろ世間で売れてないジャンルなのですから、市場に認知される必要があります。

その時のフルグラ事業部の取り組みは新規事業展開の教科書に載りそうな内容です。

まずターゲットを「働く女性」に絞ります。

その上で「朝食をフルグラにすることは、時短になる」という訴求ポイントを見出します。

ところが、調査してみると、当時の女性にとって、朝食をシリアルにすることは「美味しくないものを手抜きで出している」という罪悪感を抱かせるものでした。

そこで「フルグラは、栄養バランスもいいし、健康にいい。しかも時短になる」というメッセージにして、雑誌やネットニュースで発信していきます。

それが徐々に浸透してくると、次に「いかに健康にいいか」「どうすれば美味しくなるか」を雑誌やテレビでとり上げられるように情報発信していきます。

最初は、フルグラを使ったホットケーキとかヨーグルトとかレシピを考案して発信。しだいに健康を重視したライフスタイル提案につなげていきました

世間の人が「どうやら健康にいいらしい」「美味しいらしい」「新しいライフスタイルだ」と思い始めた頃に、販促活動を本格化させます。

ここからは物量作戦です。実に1400店で店頭販売を実施。50万袋を配布。年間78万人以上に食べてもらいました。

その際、フルグラを勧めるだけでは弱いので、ヨールグルトメーカーなどと組んで「ヨーグルトと一緒に食べると、美味しいし、お通じもよくなるし、健康にいい」という販売促進を行いました。

他食品メーカーと組むやり方を、カルビーでは「オトモダチ作戦」と呼んだそうな。

その効果あって、2013年には売上100億円を突破。

2015年には、ターゲットを中高年の男性や子供にも広げて展開。

2016年の売上は300億円を超えており、目標を500億円に設定するに至っています。

いやー。ものすごい勢いですな。お見事です。

■フルグラが重要だというのは、海外展開の有力な弾になるからです。

2012年、カルビーは中国進出を試みて合弁事業を立ち上げるも、わずか3年で撤退したという苦い経験があります。

「じゃがビー」や「かっぱえびせん」の現地製造・販売に乗り出したものの、現地の商品より値段が高くなる。現地の商品と差別化しにくい。といった事情があったといわれていますし、現地製造に伴う様々な齟齬もあったことだろうと想像します。

ところがフルグラは、オリジナリティのある商品なので競合が起きにくい。さらに単価も高いので、国内生産、輸出で対応が可能です。

競合がない分、市場の創造が必要になりますが、それは日本で経験済みです。

日本でのやり方はある意味、教科書通りだったので、普遍的に通用すると思います。

■ただ、今回の海外進出について聞いてみると、日本で生産し、中国へはネット販売をするという形のようです。

参考:カルビー、課題は「ポテチ」よりも海外(日本経済新聞・有料記事)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO18315420Q7A630C1000000/

ネット販売ですか...

テスト販売なのでしょうかね。それにしては、海外販売で4割増を目指すと言っています。

どういうやり方をするのかわかりませんが、何とも腰の入らない計画に思えます。

これではアナリストから「今回も順調にいくかはふたを開けてみないと分からない」と言われるもの仕方ありませんな。

いまのところは需要があるかどうかを確かめる段階ということなんでしょうね。

■本来ならば、ネット販売という空中戦ではなく、流通チャネルをリアルに開拓する地上戦を展開しなければなりません。

そもそもカルビーが国内で強いのは、流通チャネルを独占的に押さえているからです。

商品がいいから売れているのではありません。流通チャネルを押さえているから売れているのです。

ここを間違えてはいけません。商品力は、主に流通開拓時に力を発揮しますが、一度押さえてしまえば、面積そのものが力となるのです。商品力は副次的なものとなります。

それを「売れているのは商品がいいからだ→いい商品さえ流せば勝手に売れる」と捉えてしまうと、新規開拓などできません。

中国進出を目指すならば、なるべく顧客に近いところでビジネスを展開すべきです。

すなわち、自身で流通チャネル開拓に赴くこと。現地社員を雇ってでも自分で開拓しなければなりません。

それが難しければ、提携相手のところに常駐して、密に営業状況を把握し、指導すること。

それができなければ、新規開拓など不可能です。

カルビーの記事を読むにつけ、結局、今の段階では、海外進出は始まっていないのだと思います。

■もうひとつ言うと、日本は間違いなく少子化ですから、国内需要が減っていくのは確実です。

松本会長兼CEOは「(スーパーなどで)菓子の棚が減れば、カルビーの扱いが増える」と発言しています。

確かにその通りです。衰退市場では、スーパー側も「確実に売れるものだけ残そう」という考えになるので、トップ企業の扱いが増大します。

しかし、そんなのんきなことを言っている場合ではありません。

市場は独占しすぎると疲弊します。カルビーは今でもシェア50%以上の独占状態を持っています。

それが70%を超えてしまうと、今度は顧客が離反していく要因となってしまいます。

(正確には73.9%。ランチェスター戦略の市場シェア理論による)

ただでさえセリングに寄りがりな営業姿勢なのですから、その上市場を完全独占してしまうと、流通業者でさえ反発するかもしれません。

トップ企業としては、市場の衰退を食い止め、さらなる成長状態を作ることが大きな役割の一つです。

そのために最も効果が高いのが、商品にイノベーションを起こすことです。

これまで女性をターゲットに減塩や無添加商品を投入するなどの改善を行ってきたカルビーですが、さらなる大きなイノベーションが必要になります。

美容、健康、新たな素材。このあたりで大きなイノベーションを起こさなければ、スナック菓子市場がじり貧になっていくのは確実です。

もちろんカルビーもそこは十分に理解していて、取り組んでいるわけですが、けっこう待ったなしの状況であると私は思います。

参考:カルビーがオープンイノベーションで100億円目指す 創業地・広島に新商品開発拠点を開設
http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/pickup/15/1008498/110800504/

■いずれにしろ、カルビーほどの会社が主力の分野で10年間、ヒット商品がないというのは、怠慢といわれても仕方ありません。

そういう業界は実は多いのですが...

しかし今や日本を代表する企業の一つとなったカルビーですからね

大きなヒット商品をもう2つ3つ作って世界に羽ばたいていただきたいと期待しております。




(2017年8月24日メルマガより)


メルマガ登録はこちら


いま食品メーカーでノリにノっている企業といえばカルビーですね

2011年の上場以来、ずっと2桁増益を達成。

今年はじゃがいもの生産が追い付かず、ポテト類商品が減産に追い込まれたとはいえ、一時的なものです。過去最高益は続いています。

この好業績に関して、2009年から同社会長兼CEOとなっている松本晃氏の影響は小さくないでしょう。

松本氏は、伊藤忠商事を経て、ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル株式会社の社長をされていた方です。

創業以来、同族経営だったカルビーが招いたいわゆるプロ経営者の一人です。

もっとも松本氏自身は「カルビーがもともと持っていたポテンシャルのおかげ」と謙遜されておられますが。

■カルビーは、1949年広島に設立された松尾糧食工業をもとにしているます。

現在の社名のカルビーは、カルシウムとビタミンB1からきているそうですね。

戦争で大きな被害を受けた広島の人々に豊かな栄養源を供給したいという創業者の思いがこめられた社名です。

最初のヒット商品は、瀬戸内海の小エビを使った「かっぱえびせん」

その後、じゃがいもを使った「サッポロポテト」「ポテトチップス」の成功で、日本有数のスナック菓子メーカーの地位を確立しました。

同社のホームページをみれば、原材料や品質に関する真摯な姿勢を感じ取ることができます。創業者の逸話が示すように、ものづくり企業として非常にまじめな会社なのだと思います。

■同時に、カルビーはプロモーションにおいても独特の強みを発揮してきました。

同社が市場を席巻するきっかけとなったのが、1971年の「仮面ライダースナック」や73年の「プロ野球スナック」など。

カード付のスナック菓子は子供たちに大人気で、購入動機はほぼカード目的でした。

私も覚えていますが、レアなカードが欲しくてほしくて仕方なかったものですよ。

カード欲しさに大量購入して、スナック袋の方は捨ててしまう子供がいたりして、社会問題になったものです。

戦後、頭角を現した会社には、なにかしら飛び道具めいたプロモーションの工夫がみられたものですが、カルビーのカード付スナックなどもその典型であったと思います。

■現在、カルビーはスナック市場において50%以上のシェアを持っており、ダントツのトップ企業です。

ところがその優良企業に「いい会社だが儲け方が下手だ」と言ったのが、現会長兼CEOの松本晃氏でした。

当時、同社の社外取締役をしていた松本氏の目には、ものづくりにこだわるあまり、低利益に甘んじているカルビーの姿はもどかしく映ったようですな

「それならあなたがやってみたら」と創業一族の人にいわれて、引き受けることになったわけです。

参考:カルビーは「良い会社だが儲け方が下手」、だからCEOを引き受けた
http://diamond.jp/articles/-/116745

松本氏が登板してからのカルビーの業績向上には目を見張るものがあります。

売上高で1.7倍。営業利益で3倍のアップです。(2010年~17年)

いったいどんなマジックを使ったのかと思いたくなりますが、この記事を読む限り、合理的ではあるが、いささか強引なやり方です。

参考:カルビーを「数学」から「算数」の会社にしたら増収増益になった
http://diamond.jp/articles/-/117611

一例としてあげられているのが、工場の稼働率を上げること。じゃがいもの契約農家から全数買取を実施し、全部商品に加工することで工場をフル稼働させます。

そうすることで、固定費割合が減ります。

が、その分、在庫が積みあがるわけですが、それは安売りしてでも営業に売らせるという方法です。

まんまセリング(売り手の都合で売り込むこと)じゃないですか。

営業出身者らしいやり方ですな。

■ほかの記事で、松本CEOは「カルビーには分析のための会議と資料が多すぎた」と憤慨していました。

長らくトップ企業だった同社とすれば、売上をこれ以上アップさせるという意欲に乏しく、市場を分析し、守るという方向に向いていたのではないですかね。

そういう時に「安売りでもいいから売ってこい!」と号令するのは、実は効果的です。

市場が飽和しているようでも、隙間はいっぱいあるものです。チャネル、地域、業界、季節などを子細に見てみれば、入り込む余地はあります。

分析するより行くが易し。

実際、既存市場に既存商品を売るのが一番、効果が上がります。

セリングというと悪いイメージがありますが、それが必要な時もあるということです。

■ただし、市場浸透にも限度があります。

いわばこれまでのことは、上げやすいところで業績を上げて、経営者の求心力を高めるための時期です。

カルビーがこれから本当に取り組まなければならないのは、海外展開を本格化させて、グローバル企業になっていくことです。

それが松本氏が担う最大の使命であるはずです。

なにしろ世界のトップ企業の売上高は3兆円超えしていますから、2000億円いかないカルビーとすれば、吹けば飛ぶような存在といわれても仕方ありません。

※ナビスコやリッツなどを持つモンデリーズの売上高。296億ドル。菓子だけではないので、単純比較はできませんが...

カルビーはこれまでスナック菓子の海外展開に失敗してきた歴史があるので、簡単な道ではありませんが、プロ経営者としては挑戦しがいのある課題ではないでしょうかね。

■そういう意味では、松本氏の功績の一つである「フルグラ」の存在は、大きいといえます。

「フルグラ」とは、朝食に食べるシリアルの一種です。フルーツグラノーラという商品名を松本氏が短縮させた商品名です

カルビーらしく、素材にこだわり栄養バランスのいい商品として1988年に登場したグラノーラですが、2010年当時の売上高は30億円ほど。

同社の商品群としては鳴かず飛ばすの状態でした。

海外暮らしが長い松本氏は「こんな美味しいシリアルは初めてだ。こんないい商品がなんで売れないんだ」といって、販売強化を厳命します。

もっとも日本ではシリアル市場など小さいものです。社内には、30億円で頭打ちだといった意見があったようです。

■笛吹けど踊らぬ営業マンに業を煮やしたのか、カルビーは、社長直轄のフルグラ事業本部を作ります。

今回ばかりは、強引にセリングするわけにはいきません。なにしろ世間で売れてないジャンルなのですから、市場に認知される必要があります。

その時のフルグラ事業部の取り組みは新規事業展開の教科書に載りそうな内容です。

まずターゲットを「働く女性」に絞ります。

その上で「朝食をフルグラにすることは、時短になる」という訴求ポイントを見出します。

ところが、調査してみると、当時の女性にとって、朝食をシリアルにすることは「美味しくないものを手抜きで出している」という罪悪感を抱かせるものでした。

そこで「フルグラは、栄養バランスもいいし、健康にいい。しかも時短になる」というメッセージにして、雑誌やネットニュースで発信していきます。

それが徐々に浸透してくると、次に「いかに健康にいいか」「どうすれば美味しくなるか」を雑誌やテレビでとり上げられるように情報発信していきます。

最初は、フルグラを使ったホットケーキとかヨーグルトとかレシピを考案して発信。しだいに健康を重視したライフスタイル提案につなげていきました

世間の人が「どうやら健康にいいらしい」「美味しいらしい」「新しいライフスタイルだ」と思い始めた頃に、販促活動を本格化させます。

ここからは物量作戦です。実に1400店で店頭販売を実施。50万袋を配布。年間78万人以上に食べてもらいました。

その際、フルグラを勧めるだけでは弱いので、ヨールグルトメーカーなどと組んで「ヨーグルトと一緒に食べると、美味しいし、お通じもよくなるし、健康にいい」という販売促進を行いました。

他食品メーカーと組むやり方を、カルビーでは「オトモダチ作戦」と呼んだそうな。

その効果あって、2013年には売上100億円を突破。

2015年には、ターゲットを中高年の男性や子供にも広げて展開。

2016年の売上は300億円を超えており、目標を500億円に設定するに至っています。

いやー。ものすごい勢いですな。お見事です。

■フルグラが重要だというのは、海外展開の有力な弾になるからです。

2012年、カルビーは中国進出を試みて合弁事業を立ち上げるも、わずか3年で撤退したという苦い経験があります。

「じゃがビー」や「かっぱえびせん」の現地製造・販売に乗り出したものの、現地の商品より値段が高くなる。現地の商品と差別化しにくい。といった事情があったといわれていますし、現地製造に伴う様々な齟齬もあったことだろうと想像します。

ところがフルグラは、オリジナリティのある商品なので競合が起きにくい。さらに単価も高いので、国内生産、輸出で対応が可能です。

競合がない分、市場の創造が必要になりますが、それは日本で経験済みです。

日本でのやり方はある意味、教科書通りだったので、普遍的に通用すると思います。

■ただ、今回の海外進出について聞いてみると、日本で生産し、中国へはネット販売をするという形のようです。

参考:カルビー、課題は「ポテチ」よりも海外(日本経済新聞・有料記事)
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO18315420Q7A630C1000000/

ネット販売ですか...

テスト販売なのでしょうかね。それにしては、海外販売で4割増を目指すと言っています。

どういうやり方をするのかわかりませんが、何とも腰の入らない計画に思えます。

これではアナリストから「今回も順調にいくかはふたを開けてみないと分からない」と言われるもの仕方ありませんな。

いまのところは需要があるかどうかを確かめる段階ということなんでしょうね。

■本来ならば、ネット販売という空中戦ではなく、流通チャネルをリアルに開拓する地上戦を展開しなければなりません。

そもそもカルビーが国内で強いのは、流通チャネルを独占的に押さえているからです。

商品がいいから売れているのではありません。流通チャネルを押さえているから売れているのです。

ここを間違えてはいけません。商品力は、主に流通開拓時に力を発揮しますが、一度押さえてしまえば、面積そのものが力となるのです。商品力は副次的なものとなります。

それを「売れているのは商品がいいからだ→いい商品さえ流せば勝手に売れる」と捉えてしまうと、新規開拓などできません。

中国進出を目指すならば、なるべく顧客に近いところでビジネスを展開すべきです。

すなわち、自身で流通チャネル開拓に赴くこと。現地社員を雇ってでも自分で開拓しなければなりません。

それが難しければ、提携相手のところに常駐して、密に営業状況を把握し、指導すること。

それができなければ、新規開拓など不可能です。

カルビーの記事を読むにつけ、結局、今の段階では、海外進出は始まっていないのだと思います。

■もうひとつ言うと、日本は間違いなく少子化ですから、国内需要が減っていくのは確実です。

松本会長兼CEOは「(スーパーなどで)菓子の棚が減れば、カルビーの扱いが増える」と発言しています。

確かにその通りです。衰退市場では、スーパー側も「確実に売れるものだけ残そう」という考えになるので、トップ企業の扱いが増大します。

しかし、そんなのんきなことを言っている場合ではありません。

市場は独占しすぎると疲弊します。カルビーは今でもシェア50%以上の独占状態を持っています。

それが70%を超えてしまうと、今度は顧客が離反していく要因となってしまいます。

(正確には73.9%。ランチェスター戦略の市場シェア理論による)

ただでさえセリングに寄りがりな営業姿勢なのですから、その上市場を完全独占してしまうと、流通業者でさえ反発するかもしれません。

トップ企業としては、市場の衰退を食い止め、さらなる成長状態を作ることが大きな役割の一つです。

そのために最も効果が高いのが、商品にイノベーションを起こすことです。

これまで女性をターゲットに減塩や無添加商品を投入するなどの改善を行ってきたカルビーですが、さらなる大きなイノベーションが必要になります。

美容、健康、新たな素材。このあたりで大きなイノベーションを起こさなければ、スナック菓子市場がじり貧になっていくのは確実です。

もちろんカルビーもそこは十分に理解していて、取り組んでいるわけですが、けっこう待ったなしの状況であると私は思います。

参考:カルビーがオープンイノベーションで100億円目指す 創業地・広島に新商品開発拠点を開設
http://trendy.nikkeibp.co.jp/atcl/pickup/15/1008498/110800504/

■いずれにしろ、カルビーほどの会社が主力の分野で10年間、ヒット商品がないというのは、怠慢といわれても仕方ありません。

そういう業界は実は多いのですが...

しかし今や日本を代表する企業の一つとなったカルビーですからね

大きなヒット商品をもう2つ3つ作って世界に羽ばたいていただきたいと期待しております。




コラム

blog

代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
世の中の事象を営業戦略コンサルタントの視点から斬っていきます。(無料)

記事一覧

blog

記事一覧

Customer Voice

記事一覧

このページのTOPへ