ハウステンボスはどのようにして再建されたのか?

2014.12.25

(2014年12月25日メルマガより)


■今から30年前、中国に一人旅をしたことがあります。

私は大学生で、卒業も見込めた(と思い込んでいた)ため、気楽なものでした。

香港から入って、広東、桂林から北京まで、ずっと電車で行ってきました。

行先だけを決めて、電車の乗継は行き当たりばったりの放浪のような旅です。

今思えば無謀のような気がしますが、当時は天安門事件前で、中国の雰囲気ものんびりしていたような気がします。

それにしても中国は広かったなーー。

またその頃は、沢木耕太郎の「深夜特急」が流行っていたこともあり、バックパッカーと呼ばれる低予算旅行者が大勢いました。

香港でも桂林でも北京でも、そういう人たちとは本当によく会いましたね。日本人に限らず、世界中の国の人たちです。

今も、世界の安宿には、そういう若者たちがたむろしているのでしょうか。

■思い出すのは、そのでたらめな旅行計画です^^;

まず日本を出て最初に入る香港滞在が、航空チケットだけ決めてあって、ホテルはないといういい加減なもの。

申し込んだツアーにはホテルはついていたのですが、渡航日直前に「ホテルの予約がとれませんでした。行きます?」と旅行会社に言われて、反射的に「はい」と言ってしまったのですね。

その分、安くしてもらったのかな?どうだろ、思い出せない。

そのおかげで、最初の夜から、香港の怪しげなホテル街を泊まる場所を探して回るという素敵な経験をすることができました。

そんなツアーを受ける方も受ける方ですが、提案する旅行会社も会社ですな。

その会社こそ、今を時めくHISです。

今でこそ日本でシェアトップの旅行会社ですが、あの頃は怪しげなもんでしたよねー

■HISは、1980年創業の旅行会社です。

創業者は大阪出身の澤田秀雄氏。彼自身、世界中を放浪してまわった人です。

スタートは、海外で入手した格安チケットを日本で販売するというビジネスでした。

いわば、世界の金券ショップみたいなものですか。

とりたてて凄いビジネスではありませんが、澤田氏が偉いのは、それを一点集中で貫いたこと。

安易に手を広げずに、日本のバックパッカーのためのビジネスをひたすら追求しました。

その姿勢なく、中途半端に手を広げていたら、今のHISはなかったと澤田氏自身も仰っています。

折しも時代は、円高が進行し、海外旅行がブームになっていました。その流れに乗って、HISは業容を拡大していきました。

ちなみに、澤田氏は、ランチェスター戦略の信奉者です。

格安チケットの販売で名と財をなしたHISは激安パッケージツアーに進出します。

それが1990年頃。

私がお世話になったのは、その前ですから、過渡期だったのでしょうね。

まさか今では「予約とれませんでしたけど、行きます?」とは言わんでしょう。

満を持しての展開だったからか、激安ツアーも成功し、2000年代には旅行取扱人数で日本トップとなります。

今では、ホテルも旅行会社もテーマパークも持っている日本有数の企業になっています。

■そのHISの業績が好調だそうです。

今は円安で海外旅行は低調のはずですから、HISなどは苦しんでいるように思えるのですが、実際には絶好調といってもいい数字です。

その理由は、ハウステンボス象徴する国内事業が好調だからのようです。

参考:ハウステンボスが牽引、HISの華麗なる変身
http://toyokeizai.net/articles/-/56372

HISが経営難で赤字続きのハウステンボスを子会社化したのが、2010年のこと。

それからわずか4年で見事再建を果たした経営手腕は見事というほかありません。

今や、ハウステンボスの再建は、HISや澤田氏の成功の象徴のように考えられています。

誰もが二の足を踏む巨大赤字のテーマパークがなぜこんな短期間で再建できたのでしょうか?

■そのヒントとなるのが、こちらのインタビュー記事です。

参考:ハウステンボスはディズニーのマネをしない
http://toyokeizai.net/articles/-/11645

澤田氏自身、簡潔に語っていますし、さらに編集者のフィルターを通しているので、相当シンプルな内容になっています。

経営戦略はシンプルに考える方がうまくいくものですから、非常に参考になるいい記事だと思います。

■最初のポイントは、目標の共有です。

澤田氏は象徴的に、売上を2割増、経費を2割減を目指したと言っています。

トータル4割も上がれば、赤字は解消するでしょうが、それを現実的な目標数値として説明する際の澤田氏なりの工夫なのでしょう。

こういう分かりやすい目標やスローガンは、再建においては非常に重要です。

目標が達成可能であると思わなければ誰も本気で動こうとしませんからね。

澤田氏は、あらゆるところで、売上を2割増、経費を2割減ということを言っているので、それは社内でも繰り返していた言葉なのでしょう。

■そうはいっても、売上を2割増、経費を2割減というのは、厳しい目標です。

ハウステンボスの場合、敷地がディスニーランドの1.6倍もあるものですから、コストも高くついてしまいます。

おそらく社内にも「うちは広いからコストがかかって当然だ」という空気があったのでしょうね。

澤田氏はずいぶん怒ったはずですよ^^;

経営陣を総入れ替えぐらいにやってますからね。

■この記事には書かれていませんが、ハウステンボスは早い時期に、敷地の3分の1を無料ゾーンに開放し、コストの低下と、残りの有料ゾーンへの投資の集中を図っています。

それだけではなく、仕入の見直し、従業員の行動の効率化などを推し進めています。

澤田氏は、従業員が2割早く歩くと、生産性が2割アップするなどと冗談のようなことを言っていますが、それぐらいなりふり構わず、何が何でも経費削減に取り組んだということでしょう。

■しかし難しいのは、経費の2割削減ではなく、売上の2割増です。

いわゆる集客ですね。

ここでもなりふり構わない集客作戦を展開しています。

入場料を改訂して値頃感を探ったり。

バラ園を作ったり。

ワンピース(漫画)イベントを開催したり。

AKBのコンサートを開いたり。

運河をイルミネーションしたり。

澤田氏は、世界中を見てきて、これは面白いというものをすぐに採り入れたと言っていますから、本来のハウステンボスのコンセプトであるオランダを再現したテーマパークという枠からはみ出してしまったわけです。

社内でどのような議論があったのかは定かではありませんが、コンセプトの再定義が否応なしになされたようです。

■やはりそこには、ディズニーランドやUSJと同じようにはできないという事情があります。

彼らの集客力は、コンセプトに応じたアトラクションの魅力によっています。

USJでも、ずいぶん本格的なハリー・ポッターのアトラクションができたそうじゃないですか。

それが集客の目玉となります。

ところが、お金のないハウステンボスが、新たなアトラクションを建築するのは現実的ではありません。

残された手段は、ひたすらイベントを開催すること。イベントによって、集客するしかありません。

■やはりここには書かれていませんでしたが、澤田氏は社内から特技を持つ社員を募っては、イベントを担当させるなどの大胆な人事を行ったといいます。

例えば、園芸が趣味の社員がいれば、その人にバラ園の造園を任せるとか。

ホラー好きの社員がいれば、彼にお化け屋敷の担当をさせるとか。

(そういえば、客の入りが悪くて、閉鎖していた地域をゴーストタウンと称して、開放したらしいですね)

それもプロを雇う余裕がないための苦肉の策ですが、社内活性化に役立ったようです。

どんな状況でも、アイデアはあるものですね。

■結局、コスト減、集客、従業員のやる気がうまく回って、短期間で黒字化したというのが、私の見方です。

どれが欠けても、これほど短期間でなされることはなかったでしょう。

さすがランチェスター戦略の使い手、澤田秀雄氏ですよ。

■そもそもHISは、なぜハウステンボスの再建を引き受けたのでしょうか。

偉い人に頼まれて、断りきれなかった。。。

というわけではないでしょう。

おそらく澤田氏の頭の中には、これから増加するであろうアジアの訪日客を呼び込むための目玉にできないだろうか、という計算があったことでしょう。

その前提としてディズニーランドやUSJが、訪日客の呼び込みに成功しているという事実があります。

関東のディズニーランド、関西のUSJ、九州のハウステンボスで人気を3分するというのが、HISの理想とするところです。

ですから、今の円高は誤算だったでしょうし、訪日客が思ったほど伸びなかったというのも、計算外だったはずです。

国内の旅行者が増えて、黒字化できたのはいいことですが、これからの課題は、東京五輪に向けて増える訪日客をいかに取り込むかです。

ハウステンボスと長崎の街に訪日客があふれて、関東、関西と人気を3分するようになった時が本当の目標達成です。

今後、澤田氏には、長崎や九州の各自治体と連携をとって、九州全体の活性化に乗り出していただきたいものです。

スケールの大きな話ですが、ハウステンボスを引き受けるにあたって粘り強い交渉を行って、金融機関の債権放棄と地元企業からの多額の出資を引き出し、無借金経営状態を最初から作った澤田氏のことですから、九州全体を巻き込んだ展開もやってくれることでしょう。

大いに期待したいと思います。

(2014年12月25日メルマガより)


■今から30年前、中国に一人旅をしたことがあります。

私は大学生で、卒業も見込めた(と思い込んでいた)ため、気楽なものでした。

香港から入って、広東、桂林から北京まで、ずっと電車で行ってきました。

行先だけを決めて、電車の乗継は行き当たりばったりの放浪のような旅です。

今思えば無謀のような気がしますが、当時は天安門事件前で、中国の雰囲気ものんびりしていたような気がします。

それにしても中国は広かったなーー。

またその頃は、沢木耕太郎の「深夜特急」が流行っていたこともあり、バックパッカーと呼ばれる低予算旅行者が大勢いました。

香港でも桂林でも北京でも、そういう人たちとは本当によく会いましたね。日本人に限らず、世界中の国の人たちです。

今も、世界の安宿には、そういう若者たちがたむろしているのでしょうか。

■思い出すのは、そのでたらめな旅行計画です^^;

まず日本を出て最初に入る香港滞在が、航空チケットだけ決めてあって、ホテルはないといういい加減なもの。

申し込んだツアーにはホテルはついていたのですが、渡航日直前に「ホテルの予約がとれませんでした。行きます?」と旅行会社に言われて、反射的に「はい」と言ってしまったのですね。

その分、安くしてもらったのかな?どうだろ、思い出せない。

そのおかげで、最初の夜から、香港の怪しげなホテル街を泊まる場所を探して回るという素敵な経験をすることができました。

そんなツアーを受ける方も受ける方ですが、提案する旅行会社も会社ですな。

その会社こそ、今を時めくHISです。

今でこそ日本でシェアトップの旅行会社ですが、あの頃は怪しげなもんでしたよねー

■HISは、1980年創業の旅行会社です。

創業者は大阪出身の澤田秀雄氏。彼自身、世界中を放浪してまわった人です。

スタートは、海外で入手した格安チケットを日本で販売するというビジネスでした。

いわば、世界の金券ショップみたいなものですか。

とりたてて凄いビジネスではありませんが、澤田氏が偉いのは、それを一点集中で貫いたこと。

安易に手を広げずに、日本のバックパッカーのためのビジネスをひたすら追求しました。

その姿勢なく、中途半端に手を広げていたら、今のHISはなかったと澤田氏自身も仰っています。

折しも時代は、円高が進行し、海外旅行がブームになっていました。その流れに乗って、HISは業容を拡大していきました。

ちなみに、澤田氏は、ランチェスター戦略の信奉者です。

格安チケットの販売で名と財をなしたHISは激安パッケージツアーに進出します。

それが1990年頃。

私がお世話になったのは、その前ですから、過渡期だったのでしょうね。

まさか今では「予約とれませんでしたけど、行きます?」とは言わんでしょう。

満を持しての展開だったからか、激安ツアーも成功し、2000年代には旅行取扱人数で日本トップとなります。

今では、ホテルも旅行会社もテーマパークも持っている日本有数の企業になっています。

■そのHISの業績が好調だそうです。

今は円安で海外旅行は低調のはずですから、HISなどは苦しんでいるように思えるのですが、実際には絶好調といってもいい数字です。

その理由は、ハウステンボス象徴する国内事業が好調だからのようです。

参考:ハウステンボスが牽引、HISの華麗なる変身
http://toyokeizai.net/articles/-/56372

HISが経営難で赤字続きのハウステンボスを子会社化したのが、2010年のこと。

それからわずか4年で見事再建を果たした経営手腕は見事というほかありません。

今や、ハウステンボスの再建は、HISや澤田氏の成功の象徴のように考えられています。

誰もが二の足を踏む巨大赤字のテーマパークがなぜこんな短期間で再建できたのでしょうか?

■そのヒントとなるのが、こちらのインタビュー記事です。

参考:ハウステンボスはディズニーのマネをしない
http://toyokeizai.net/articles/-/11645

澤田氏自身、簡潔に語っていますし、さらに編集者のフィルターを通しているので、相当シンプルな内容になっています。

経営戦略はシンプルに考える方がうまくいくものですから、非常に参考になるいい記事だと思います。

■最初のポイントは、目標の共有です。

澤田氏は象徴的に、売上を2割増、経費を2割減を目指したと言っています。

トータル4割も上がれば、赤字は解消するでしょうが、それを現実的な目標数値として説明する際の澤田氏なりの工夫なのでしょう。

こういう分かりやすい目標やスローガンは、再建においては非常に重要です。

目標が達成可能であると思わなければ誰も本気で動こうとしませんからね。

澤田氏は、あらゆるところで、売上を2割増、経費を2割減ということを言っているので、それは社内でも繰り返していた言葉なのでしょう。

■そうはいっても、売上を2割増、経費を2割減というのは、厳しい目標です。

ハウステンボスの場合、敷地がディスニーランドの1.6倍もあるものですから、コストも高くついてしまいます。

おそらく社内にも「うちは広いからコストがかかって当然だ」という空気があったのでしょうね。

澤田氏はずいぶん怒ったはずですよ^^;

経営陣を総入れ替えぐらいにやってますからね。

■この記事には書かれていませんが、ハウステンボスは早い時期に、敷地の3分の1を無料ゾーンに開放し、コストの低下と、残りの有料ゾーンへの投資の集中を図っています。

それだけではなく、仕入の見直し、従業員の行動の効率化などを推し進めています。

澤田氏は、従業員が2割早く歩くと、生産性が2割アップするなどと冗談のようなことを言っていますが、それぐらいなりふり構わず、何が何でも経費削減に取り組んだということでしょう。

■しかし難しいのは、経費の2割削減ではなく、売上の2割増です。

いわゆる集客ですね。

ここでもなりふり構わない集客作戦を展開しています。

入場料を改訂して値頃感を探ったり。

バラ園を作ったり。

ワンピース(漫画)イベントを開催したり。

AKBのコンサートを開いたり。

運河をイルミネーションしたり。

澤田氏は、世界中を見てきて、これは面白いというものをすぐに採り入れたと言っていますから、本来のハウステンボスのコンセプトであるオランダを再現したテーマパークという枠からはみ出してしまったわけです。

社内でどのような議論があったのかは定かではありませんが、コンセプトの再定義が否応なしになされたようです。

■やはりそこには、ディズニーランドやUSJと同じようにはできないという事情があります。

彼らの集客力は、コンセプトに応じたアトラクションの魅力によっています。

USJでも、ずいぶん本格的なハリー・ポッターのアトラクションができたそうじゃないですか。

それが集客の目玉となります。

ところが、お金のないハウステンボスが、新たなアトラクションを建築するのは現実的ではありません。

残された手段は、ひたすらイベントを開催すること。イベントによって、集客するしかありません。

■やはりここには書かれていませんでしたが、澤田氏は社内から特技を持つ社員を募っては、イベントを担当させるなどの大胆な人事を行ったといいます。

例えば、園芸が趣味の社員がいれば、その人にバラ園の造園を任せるとか。

ホラー好きの社員がいれば、彼にお化け屋敷の担当をさせるとか。

(そういえば、客の入りが悪くて、閉鎖していた地域をゴーストタウンと称して、開放したらしいですね)

それもプロを雇う余裕がないための苦肉の策ですが、社内活性化に役立ったようです。

どんな状況でも、アイデアはあるものですね。

■結局、コスト減、集客、従業員のやる気がうまく回って、短期間で黒字化したというのが、私の見方です。

どれが欠けても、これほど短期間でなされることはなかったでしょう。

さすがランチェスター戦略の使い手、澤田秀雄氏ですよ。

■そもそもHISは、なぜハウステンボスの再建を引き受けたのでしょうか。

偉い人に頼まれて、断りきれなかった。。。

というわけではないでしょう。

おそらく澤田氏の頭の中には、これから増加するであろうアジアの訪日客を呼び込むための目玉にできないだろうか、という計算があったことでしょう。

その前提としてディズニーランドやUSJが、訪日客の呼び込みに成功しているという事実があります。

関東のディズニーランド、関西のUSJ、九州のハウステンボスで人気を3分するというのが、HISの理想とするところです。

ですから、今の円高は誤算だったでしょうし、訪日客が思ったほど伸びなかったというのも、計算外だったはずです。

国内の旅行者が増えて、黒字化できたのはいいことですが、これからの課題は、東京五輪に向けて増える訪日客をいかに取り込むかです。

ハウステンボスと長崎の街に訪日客があふれて、関東、関西と人気を3分するようになった時が本当の目標達成です。

今後、澤田氏には、長崎や九州の各自治体と連携をとって、九州全体の活性化に乗り出していただきたいものです。

スケールの大きな話ですが、ハウステンボスを引き受けるにあたって粘り強い交渉を行って、金融機関の債権放棄と地元企業からの多額の出資を引き出し、無借金経営状態を最初から作った澤田氏のことですから、九州全体を巻き込んだ展開もやってくれることでしょう。

大いに期待したいと思います。

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