井上尚弥が導く異次元のボクシングビジネス

2019.05.30

(2019年5月30日メルマガより)


さて今日はボクシングの話です。

実は、このメルマガではなにげにボクシングの話題をしています。




先日、「ワイドナショー」で松本人志が「凄さを世間がイマイチわかっていないのが悔しい」と発言していました。

井上尚弥選手のことです。

5月18日、WBSSの準決勝として行われたイギリスでの試合を受けての発言でした。

まったくもってその通り。

ほぼ全てのボクシング関係者が「日本史上最高」だと認める天才ボクサーの全盛期を目の当たりにしても、日本ではそれほど話題となっていません。

ボクシングもマイナーな競技になってしまったんだなあと寂しい気持ちになりますな。

そこで今回は、井上尚弥を通じて実現してほしいと思うビジネスの話を書かせていただきました。

どうか最後までお読みください。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


いやぁ、驚きました。

「強い」なんてものじゃないですね。

5月18日イギリスのグラスゴーにおいて行われたWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)バンタム級準決勝において、井上尚弥が、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンドTKOに退けました。

その様子に世界のボクシングファンが衝撃を受けました。

世界に衝撃を与えた圧勝劇


WBSSとは、ボクシングの各団体のチャンピオン同士をトーナメントで戦わせて、真の世界一を決めようという趣旨のイベントです。

確かに今、ボクシングチャンピオンの認定団体が多すぎて、誰がいちばん強いのかわかりにくい。

バンタム級(53.524kg以下)だけでも4人の正規チャンピオンがいます。そこに暫定チャンピオンやスーパーチャンピオンなどが存在するために、わけがわかりません。

そんな事情ですから、チャンピオン同士戦わせて、誰がいちばん強いのか知りたいというのは、ファンの総意です。実にいいイベントではないですか。


もう一つ、今のボクシングビジネスをアメリカの一部の大物プロモーターが牛耳っているという事情もあります。

大物プロモーターは、人気ボクサーを抱えて離しませんから、その他のプロモーターは試合すら組みにくい。

そこで人気ボクサーのいない階級を選んで始められたのがWBSSです。いわば、人気ボクサーがいないのを逆手にとって、人気者を作ってしまおうという企画です。

WBSSはこれまで、クルーザー級(90.719kg以下)、スーパーミドル級(76.204kg以下)、スーパーライト級(63.503kg以下)、バンタム級(53.524kg以下)で開催されています。

目論見通り、クルーザー級を制したオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)は、世界的な知名度を得て、人気ボクサーとなりました。

そしてバンタム級の人気ボクサー候補として大いに期待されていたのが、日本ボクシングの最高傑作と称される井上尚弥でした。


井上尚弥は、既にライトフライ級(48.988kg以下)、スーパーフライ級(52.163kg以下)、バンタム級の3階級で世界チャンピオンとなった実力者です。

日本でその実力を疑う者は皆無ですが、世界的にはまだスーパースターとは言えません。YouTubeで試合動画を観たボクシングマニアに高く評価されていたぐらいです。

しかしバンタム級に上げてからの井上は、WBAチャンピオンのジェイミー・マクドネル(英)、元WBAスーパーチャンピオンのファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ)という強豪を二人とも1ラウンドでKOしてしまっていました。

好事魔多し。そんなうまい話がいつまでも続くわけがありません。今回の相手のエマヌエル・ロドリゲスは、世界的にも実力を評価されるボクサーでした。素人ファンは連続KOを期待するけれど「さすがに今回は苦戦するだろう」「実際の実力は五分五分」というのが業界の見解でした。

果たしてロドリゲスの実力は本物でした。1ラウンド、井上の強打を恐れず攻勢に出たロドリゲスは多彩なパンチで井上を下がらせました。ロドリゲスがKOするのではないかと思った人もいたはずです。

ところが井上は様子を見ていただけだったようです。2ラウンド、攻撃のスイッチを入れた井上に、ロドリゲスは為すすべもありませんでした。技術の粋を集めたような高度な左フックを顔の真ん中に浴びて1度目のダウン。足がふらつく中、左右のフックをボディに入れられて2度目のダウン。もうここで戦意喪失していたロドリゲスですが、悲しいかなボクサーの性で立ち上がってしまいます。すぐに左フックをボディに入れられ悶絶しながらダウン。ここで試合をストップされました。

2度目のダウンのあと、セコンドの方を向いて「むりむりむりむり」と半泣きで首を振るロドリゲスの顔アップが映った時には戦慄を覚えました。IBFチャンピオンにして井上尚弥の最大のライバルと言われた19戦無敗のボクサーが、恥もプライドも捨ててセコンドに試合を止めてくれと懇願したのです。

これを衝撃と言わずに何というのでしょう?

日曜日の「ワイドナショー」で松本人志が「この凄さを世間がイマイチわかってないのが悔しい」と発言していましたが、その通りです。

世界のボクシング関係者も同じ思いを持っているのではないでしょうか。

「井上が世界最高だとわからないのか?」マイク・コッピンガー(FOXスポーツ記者)

「井上の前にはまだまだ敗者が登場する」マイケル・ベンソン(英ラジオ局記者)

「すべてが信じられない」トム・グレイ(リング誌記者)

「本物のモンスターだ」フランク・ブリオーニ(元スーパーミドル級欧州チャンピオン)

「彼の一撃は食らいたくない」デーブ・アレン(英・ヘビー級ボクサー)

「全員逃げた方がいい」ビリー・デイブ(豪・元IBFフェザー級チャンピオン)

「もう誰も止められないでしょ」長谷川穂積(元バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級チャンピオン)

「攻略法がわからない」山中慎介(元バンタム級チャンピオン)

「井上に勝てるのは井上だけだ」イグナシオ・ベリスタイン(メキシコ・著名トレーナー)


大物プロモーターが接触


この活躍を受けて、大物プロモーターの一人ボブ・アラムが率いるトップランク社から契約のオファーがあったことが報道されています。

トップランク社とは、古くはモハメド・アリ、ジョージ・フォアマン、シュガー・レイ・レナード、マービン・ハグラー、ロベルト・デュラン、オスカー・デラ・ホーヤ、現在でも、テレンス・クロフォード、ワシル・ロマチェンコ、タイソン・フューリーなど錚々たるボクサーをプロモートしている会社です。米国のボクシングビジネスの中心を担っていると言っても過言ではありません。

それだけに、井上尚弥への契約オファーは異例です。米国では、軽量級選手は人気が出ないからです。

トップランク社がビジネスにならない行動をするはずがありません。つまり井上尚弥には、ビッグマネーが動く要素があるとみなされたのです。いかに井上尚弥が規格外の存在であるかを示しています。


ボクシング・ビジネスは、一部の人気ボクサーに大金が集中するシステムとなっています。

先ほども言ったように、世界チャンピオンというだけでは人気は出ません。本当に強くて、しかもキャラの立ったボクサーでないと人気も出ないし、報酬も上がらないのです。

その分「本当の人気ボクサー」の報酬は常軌を逸するレベルとなります。昨年大晦日、日本の那須川天心をKOしたフロイド・メイウェザーなど過去には1試合144億円なんて試合もありました。

(那須川との3ラウンドのエキシビジョン試合でも10億円稼いだそうですよ)

このように今のボクシングビジネスは、稼げる人気ボクサーを中心に組み立てられる傾向にあります。

キャラが濃くて実力もある人気ボクサーは、客を呼べるので、いつもメインで試合が組めます。

人気のないボクサーは、少しでも目立とうと、人気のあるボクサーの相手となるか、前座試合でインパクトのある勝ち方をしなければなりません。

勝つだけでは人気が出ません。より派手な勝ち方が必要です。(地味に勝つよりは派手に負ける方が人気がでるほどです)

ボクシングは興業ですから仕方ありません。お客様あってのビジネスですよ。


井上に足りない「キャラ」


その意味では、井上尚弥は、まだ世界の人気ボクサーといえるようなキャラ付けがありません。

井上尚弥のことをフィリピンの英雄マニー・パッキャオと比較する報道もありましたが、残念ながらその域には達していません。

いや、実力は充分です。軽量級サイズとしては、井上は過去最高のボクサーと言っていいでしょう。

しかし井上にはキャラを際立たせるようなストーリーがまだ足りないのです。


軽量級時代のパッキャオは、うだつの上がらない風采もあって軽んじられていました。「強いけど、ダサい奴」みたいな扱いです。

だからプロモーターも「かませ犬」としか見ていません。かませ犬とは、スター選手を引き立てる負け役です。

そんなわけで無理目の試合ばかり組まされていました。そらそうですな。かませ犬が勝ってしまったら、せっかく育てたスター選手がダメになってしまって大損ですから。

しかし空気を読まないパッキャオは、かませ犬のくせにスター選手をガンガン倒していきました。

「なんだこいつは?」と思われたのでしょう。ミドル級を含めて6階級を制覇したスーパースター、オスカー・デラ・ホーヤとの試合を組まされました。(ウェルター級(66.678kg以下)契約)

当日、二人の身体のサイズを観た観客は「さすがにこれは無謀だろー」と呆れました。パッキャオはふたまわりぐらい小さいのです。こうなるともう色物試合ですな。

ところが試合は逆に一方的になってしまいました。なんと小さなパッキャオが大きなデラ・ホーヤを滅多打ちにして試合放棄に追い込んだのです。

ここに来て、アメリカの観客は改めてマニー・パッキャオの底知れぬ実力を知ることになりました。

その後、パッキャオが世界から畏敬される偉大なボクサーとしての地位を確立したのは周知の通りです。


1試合10億円を超える!?


このようなストーリーが井上にはありません。これから作れるのか?というと難しいでしょう。トップランク社や井上サイドが、パッキャオに課したような潰されてもおかしくないような試合を組むとは考えにくいですから。

いや、何もパッキャオの進んだ道をなぞる必要などない。井上の実力からすれば小細工などしなくてもスーパースターに成り得る。という声もあるでしょう。そうかも知れません。

通常、軽量級のボクサーの報酬は、高くても2000万円程度だそうです。それでも井上は特別ですから1試合5000万円ほど。今回のWBSSにおける報酬は、1試合1億円に達するのではないかと言われています。

それがトップランク社のプロモートを受けるようになると、報酬はさらに跳ね上がるはずです。

何しろ井上の試合は派手です。グローブに爆弾が仕込んであると喩えられるほど相手をなぎ倒していくスタイルです。つまり素人にも分かりやすい。

まるでマイク・タイソンの再来です。派手なプロモーションで相手の実力を煽って煽って、試合になると派手に倒してしまう。そんな試合が続けば、1試合10億円に達するかも知れません。

これはもう破格を超えて、夢のようです。ボクシングを志す若者に大いなる希望を抱かせることでしょう。

だけど...と私は思うわけです。

井上がその程度で収まっていいのだろうか。


「金の亡者」が日本に興味を示す理由


PFP(パウンド・フォー・パウンド)とは体重差を超えた実力を測る概念です。「もし体重が同じだと仮定したら一番強いのは誰か?」という遊びの概念です。

このたびリング誌が認定するPFPランキングで、井上尚弥は4位にランクインしました。上位3名も錚々たるメンバーですが、井上はいつ1位になっても不思議ではない実力を持っています。

そのPFPランキングで引退まで永く1位を守り続けたのが、日本でもおなじみのフロイド・メイウェザーでした。

メイウェザーは、人気、実力ともにトップを維持し続けたボクサーです。

その実力は確かですが、守備的な戦い方をする人で派手さはありません。それなのに人気を維持し続けたのは、キャラ設定のうまさ、優れた自己演出のおかげです。

彼は意識的に「金の亡者」キャラを演じていました。試合相手や世間を挑発し、憎まれ役を務めました。

だから試合前には憎まれ度が最高潮に達し、ブーイングが起こる始末。それなのに試合では、判定狙いの馬鹿にしたような試合運びで勝ってしまいます。

「憎まれ役がまた勝った!」「次こそ負けろ!」と観客に思わせるのが、メイウェザーの演出意図でした。

これで人気を維持し続けるのだからすごいことですし、尊重すべきだと思います。しかも引退後も同じ演出方法で、総合格闘家やキックボクサーを翻弄し、稼ぎ続けているのだから大したものです。


そのメイウェザーが日本に並々ならぬ興味を持っていることをご存じでしょうか。

昔の名前を利用したエキジビジョン試合で数億円を稼ぐのが目的ではありません。本気で日本の格闘界やショービジネス界とのつながりを得ようとしています。

メイウェザーが見据えているのは、日本にできるカジノビジネスへの参入と、アジアマーケットを臨んだショービジネスを手掛けることだと考えられます。

おそらく大阪の万博会場あたりにカジノを含めた統合型リゾート施設ができるのでしょう。その際、ショービジネスの目玉の一つになるのが、ボクシングの試合です。

大阪にカジノができると、マカオ以上の賑わいができると期待できます。なにしろ関西には見るべきものが多い。大阪はアジアの中心といってもいい混沌さで何でもありますし、少し足を延ばせば京都もあります。兵庫県には、世界の聖地・阪神甲子園球場もあります。

世界中から、特に中国からさらに多くの人が訪れるようになるでしょう。そんな時、世界の一流ボクサーとアジア系ボクサーが戦う試合はどうしても欲しい。

やはりほしいのが、アジア系ボクサーのスター選手です。日本人と中国人のスターがいれば盛り上がります。

そこで井上尚弥の名前が真っ先に上がります。井上に任せれば間違いありません。世界の強豪といえども井上には歯が立ちません。アジアの観客を熱狂させる試合を必ずや実現してくれるはずです。

そうなるとアジアのショービジネス界も黙っていません。日本で成功するなら、東南アジアや中国でも成功させられるはずです。なにしろ人口が桁外れですから、途方もないマーケットが立ち上がります。

恐らくアジアのプロモーターが井上尚弥を欲しがるはずです。井上がいればイベントを派手に演出することができます。

つまりアジアの市場が大きくなればなるほど井上尚弥の価値も青天井に上がっていくわけです。

トップランク社のボブ・アラムが井上尚弥と契約しようとするのは、その近い将来を見据えているからなのではないかと思います。


日本やアジアのボクシング界に寄与


アジアの市場が立ち上がれば、井上側は何もアメリカまで遠征しなくても日本にいながらスーパースターの地位を築くことができます。

願ったりかなったりではないですか。

いやそんな小さなことはどうでもいい。

井上は、日本やアジアのボクシングビジネスの中心になれる存在です。そうならなければなりません。

最初はボブ・アラムの手駒でもいいじゃないですか。現役中は、誰よりも強いボクサーであることを証明するために、強いやつと闘って、1試合10億円、20億円をめざせばいいのです。

ただその中で、彼らのビジネスのやり方を換骨奪胎して、いずれは自分たちで主導権を握れるようにすればいい。

ゴールデンボーイと言われたオスカー・デラ・ホーヤが、現役中はトップランク社のプロモートを受けながら、引退後は自らプロモート会社(ゴールデンボーイ社)を立ち上げ、トップランク社のライバルになったように。

いずれは井上サイドも「モンスター社」を立ち上げるといいんですよ。


ひとりのスターが業界全体を変えてしまうことはよくあることです。

井上が活躍すれば、それを見ている若者が、井上を目指そうとします。

井上が出てくる前までは、世界中から期待され畏怖される日本人ボクサーが出てくるなんて誰も思っていませんでいた。が、今は違います。既に世界は身近です。井上に続いて世界で活躍したいという若者が、これから出てくるでしょう。

井上尚弥には「井上をきっかけに日本のボクシングは大きく変わった」と言われるような存在になってほしいし、なることができます。


(2019年5月30日メルマガより)


さて今日はボクシングの話です。

実は、このメルマガではなにげにボクシングの話題をしています。




先日、「ワイドナショー」で松本人志が「凄さを世間がイマイチわかっていないのが悔しい」と発言していました。

井上尚弥選手のことです。

5月18日、WBSSの準決勝として行われたイギリスでの試合を受けての発言でした。

まったくもってその通り。

ほぼ全てのボクシング関係者が「日本史上最高」だと認める天才ボクサーの全盛期を目の当たりにしても、日本ではそれほど話題となっていません。

ボクシングもマイナーな競技になってしまったんだなあと寂しい気持ちになりますな。

そこで今回は、井上尚弥を通じて実現してほしいと思うビジネスの話を書かせていただきました。

どうか最後までお読みください。


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いやぁ、驚きました。

「強い」なんてものじゃないですね。

5月18日イギリスのグラスゴーにおいて行われたWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)バンタム級準決勝において、井上尚弥が、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)を2ラウンドTKOに退けました。

その様子に世界のボクシングファンが衝撃を受けました。

世界に衝撃を与えた圧勝劇


WBSSとは、ボクシングの各団体のチャンピオン同士をトーナメントで戦わせて、真の世界一を決めようという趣旨のイベントです。

確かに今、ボクシングチャンピオンの認定団体が多すぎて、誰がいちばん強いのかわかりにくい。

バンタム級(53.524kg以下)だけでも4人の正規チャンピオンがいます。そこに暫定チャンピオンやスーパーチャンピオンなどが存在するために、わけがわかりません。

そんな事情ですから、チャンピオン同士戦わせて、誰がいちばん強いのか知りたいというのは、ファンの総意です。実にいいイベントではないですか。


もう一つ、今のボクシングビジネスをアメリカの一部の大物プロモーターが牛耳っているという事情もあります。

大物プロモーターは、人気ボクサーを抱えて離しませんから、その他のプロモーターは試合すら組みにくい。

そこで人気ボクサーのいない階級を選んで始められたのがWBSSです。いわば、人気ボクサーがいないのを逆手にとって、人気者を作ってしまおうという企画です。

WBSSはこれまで、クルーザー級(90.719kg以下)、スーパーミドル級(76.204kg以下)、スーパーライト級(63.503kg以下)、バンタム級(53.524kg以下)で開催されています。

目論見通り、クルーザー級を制したオレクサンドル・ウシク(ウクライナ)は、世界的な知名度を得て、人気ボクサーとなりました。

そしてバンタム級の人気ボクサー候補として大いに期待されていたのが、日本ボクシングの最高傑作と称される井上尚弥でした。


井上尚弥は、既にライトフライ級(48.988kg以下)、スーパーフライ級(52.163kg以下)、バンタム級の3階級で世界チャンピオンとなった実力者です。

日本でその実力を疑う者は皆無ですが、世界的にはまだスーパースターとは言えません。YouTubeで試合動画を観たボクシングマニアに高く評価されていたぐらいです。

しかしバンタム級に上げてからの井上は、WBAチャンピオンのジェイミー・マクドネル(英)、元WBAスーパーチャンピオンのファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ)という強豪を二人とも1ラウンドでKOしてしまっていました。

好事魔多し。そんなうまい話がいつまでも続くわけがありません。今回の相手のエマヌエル・ロドリゲスは、世界的にも実力を評価されるボクサーでした。素人ファンは連続KOを期待するけれど「さすがに今回は苦戦するだろう」「実際の実力は五分五分」というのが業界の見解でした。

果たしてロドリゲスの実力は本物でした。1ラウンド、井上の強打を恐れず攻勢に出たロドリゲスは多彩なパンチで井上を下がらせました。ロドリゲスがKOするのではないかと思った人もいたはずです。

ところが井上は様子を見ていただけだったようです。2ラウンド、攻撃のスイッチを入れた井上に、ロドリゲスは為すすべもありませんでした。技術の粋を集めたような高度な左フックを顔の真ん中に浴びて1度目のダウン。足がふらつく中、左右のフックをボディに入れられて2度目のダウン。もうここで戦意喪失していたロドリゲスですが、悲しいかなボクサーの性で立ち上がってしまいます。すぐに左フックをボディに入れられ悶絶しながらダウン。ここで試合をストップされました。

2度目のダウンのあと、セコンドの方を向いて「むりむりむりむり」と半泣きで首を振るロドリゲスの顔アップが映った時には戦慄を覚えました。IBFチャンピオンにして井上尚弥の最大のライバルと言われた19戦無敗のボクサーが、恥もプライドも捨ててセコンドに試合を止めてくれと懇願したのです。

これを衝撃と言わずに何というのでしょう?

日曜日の「ワイドナショー」で松本人志が「この凄さを世間がイマイチわかってないのが悔しい」と発言していましたが、その通りです。

世界のボクシング関係者も同じ思いを持っているのではないでしょうか。

「井上が世界最高だとわからないのか?」マイク・コッピンガー(FOXスポーツ記者)

「井上の前にはまだまだ敗者が登場する」マイケル・ベンソン(英ラジオ局記者)

「すべてが信じられない」トム・グレイ(リング誌記者)

「本物のモンスターだ」フランク・ブリオーニ(元スーパーミドル級欧州チャンピオン)

「彼の一撃は食らいたくない」デーブ・アレン(英・ヘビー級ボクサー)

「全員逃げた方がいい」ビリー・デイブ(豪・元IBFフェザー級チャンピオン)

「もう誰も止められないでしょ」長谷川穂積(元バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級チャンピオン)

「攻略法がわからない」山中慎介(元バンタム級チャンピオン)

「井上に勝てるのは井上だけだ」イグナシオ・ベリスタイン(メキシコ・著名トレーナー)


大物プロモーターが接触


この活躍を受けて、大物プロモーターの一人ボブ・アラムが率いるトップランク社から契約のオファーがあったことが報道されています。

トップランク社とは、古くはモハメド・アリ、ジョージ・フォアマン、シュガー・レイ・レナード、マービン・ハグラー、ロベルト・デュラン、オスカー・デラ・ホーヤ、現在でも、テレンス・クロフォード、ワシル・ロマチェンコ、タイソン・フューリーなど錚々たるボクサーをプロモートしている会社です。米国のボクシングビジネスの中心を担っていると言っても過言ではありません。

それだけに、井上尚弥への契約オファーは異例です。米国では、軽量級選手は人気が出ないからです。

トップランク社がビジネスにならない行動をするはずがありません。つまり井上尚弥には、ビッグマネーが動く要素があるとみなされたのです。いかに井上尚弥が規格外の存在であるかを示しています。


ボクシング・ビジネスは、一部の人気ボクサーに大金が集中するシステムとなっています。

先ほども言ったように、世界チャンピオンというだけでは人気は出ません。本当に強くて、しかもキャラの立ったボクサーでないと人気も出ないし、報酬も上がらないのです。

その分「本当の人気ボクサー」の報酬は常軌を逸するレベルとなります。昨年大晦日、日本の那須川天心をKOしたフロイド・メイウェザーなど過去には1試合144億円なんて試合もありました。

(那須川との3ラウンドのエキシビジョン試合でも10億円稼いだそうですよ)

このように今のボクシングビジネスは、稼げる人気ボクサーを中心に組み立てられる傾向にあります。

キャラが濃くて実力もある人気ボクサーは、客を呼べるので、いつもメインで試合が組めます。

人気のないボクサーは、少しでも目立とうと、人気のあるボクサーの相手となるか、前座試合でインパクトのある勝ち方をしなければなりません。

勝つだけでは人気が出ません。より派手な勝ち方が必要です。(地味に勝つよりは派手に負ける方が人気がでるほどです)

ボクシングは興業ですから仕方ありません。お客様あってのビジネスですよ。


井上に足りない「キャラ」


その意味では、井上尚弥は、まだ世界の人気ボクサーといえるようなキャラ付けがありません。

井上尚弥のことをフィリピンの英雄マニー・パッキャオと比較する報道もありましたが、残念ながらその域には達していません。

いや、実力は充分です。軽量級サイズとしては、井上は過去最高のボクサーと言っていいでしょう。

しかし井上にはキャラを際立たせるようなストーリーがまだ足りないのです。


軽量級時代のパッキャオは、うだつの上がらない風采もあって軽んじられていました。「強いけど、ダサい奴」みたいな扱いです。

だからプロモーターも「かませ犬」としか見ていません。かませ犬とは、スター選手を引き立てる負け役です。

そんなわけで無理目の試合ばかり組まされていました。そらそうですな。かませ犬が勝ってしまったら、せっかく育てたスター選手がダメになってしまって大損ですから。

しかし空気を読まないパッキャオは、かませ犬のくせにスター選手をガンガン倒していきました。

「なんだこいつは?」と思われたのでしょう。ミドル級を含めて6階級を制覇したスーパースター、オスカー・デラ・ホーヤとの試合を組まされました。(ウェルター級(66.678kg以下)契約)

当日、二人の身体のサイズを観た観客は「さすがにこれは無謀だろー」と呆れました。パッキャオはふたまわりぐらい小さいのです。こうなるともう色物試合ですな。

ところが試合は逆に一方的になってしまいました。なんと小さなパッキャオが大きなデラ・ホーヤを滅多打ちにして試合放棄に追い込んだのです。

ここに来て、アメリカの観客は改めてマニー・パッキャオの底知れぬ実力を知ることになりました。

その後、パッキャオが世界から畏敬される偉大なボクサーとしての地位を確立したのは周知の通りです。


1試合10億円を超える!?


このようなストーリーが井上にはありません。これから作れるのか?というと難しいでしょう。トップランク社や井上サイドが、パッキャオに課したような潰されてもおかしくないような試合を組むとは考えにくいですから。

いや、何もパッキャオの進んだ道をなぞる必要などない。井上の実力からすれば小細工などしなくてもスーパースターに成り得る。という声もあるでしょう。そうかも知れません。

通常、軽量級のボクサーの報酬は、高くても2000万円程度だそうです。それでも井上は特別ですから1試合5000万円ほど。今回のWBSSにおける報酬は、1試合1億円に達するのではないかと言われています。

それがトップランク社のプロモートを受けるようになると、報酬はさらに跳ね上がるはずです。

何しろ井上の試合は派手です。グローブに爆弾が仕込んであると喩えられるほど相手をなぎ倒していくスタイルです。つまり素人にも分かりやすい。

まるでマイク・タイソンの再来です。派手なプロモーションで相手の実力を煽って煽って、試合になると派手に倒してしまう。そんな試合が続けば、1試合10億円に達するかも知れません。

これはもう破格を超えて、夢のようです。ボクシングを志す若者に大いなる希望を抱かせることでしょう。

だけど...と私は思うわけです。

井上がその程度で収まっていいのだろうか。


「金の亡者」が日本に興味を示す理由


PFP(パウンド・フォー・パウンド)とは体重差を超えた実力を測る概念です。「もし体重が同じだと仮定したら一番強いのは誰か?」という遊びの概念です。

このたびリング誌が認定するPFPランキングで、井上尚弥は4位にランクインしました。上位3名も錚々たるメンバーですが、井上はいつ1位になっても不思議ではない実力を持っています。

そのPFPランキングで引退まで永く1位を守り続けたのが、日本でもおなじみのフロイド・メイウェザーでした。

メイウェザーは、人気、実力ともにトップを維持し続けたボクサーです。

その実力は確かですが、守備的な戦い方をする人で派手さはありません。それなのに人気を維持し続けたのは、キャラ設定のうまさ、優れた自己演出のおかげです。

彼は意識的に「金の亡者」キャラを演じていました。試合相手や世間を挑発し、憎まれ役を務めました。

だから試合前には憎まれ度が最高潮に達し、ブーイングが起こる始末。それなのに試合では、判定狙いの馬鹿にしたような試合運びで勝ってしまいます。

「憎まれ役がまた勝った!」「次こそ負けろ!」と観客に思わせるのが、メイウェザーの演出意図でした。

これで人気を維持し続けるのだからすごいことですし、尊重すべきだと思います。しかも引退後も同じ演出方法で、総合格闘家やキックボクサーを翻弄し、稼ぎ続けているのだから大したものです。


そのメイウェザーが日本に並々ならぬ興味を持っていることをご存じでしょうか。

昔の名前を利用したエキジビジョン試合で数億円を稼ぐのが目的ではありません。本気で日本の格闘界やショービジネス界とのつながりを得ようとしています。

メイウェザーが見据えているのは、日本にできるカジノビジネスへの参入と、アジアマーケットを臨んだショービジネスを手掛けることだと考えられます。

おそらく大阪の万博会場あたりにカジノを含めた統合型リゾート施設ができるのでしょう。その際、ショービジネスの目玉の一つになるのが、ボクシングの試合です。

大阪にカジノができると、マカオ以上の賑わいができると期待できます。なにしろ関西には見るべきものが多い。大阪はアジアの中心といってもいい混沌さで何でもありますし、少し足を延ばせば京都もあります。兵庫県には、世界の聖地・阪神甲子園球場もあります。

世界中から、特に中国からさらに多くの人が訪れるようになるでしょう。そんな時、世界の一流ボクサーとアジア系ボクサーが戦う試合はどうしても欲しい。

やはりほしいのが、アジア系ボクサーのスター選手です。日本人と中国人のスターがいれば盛り上がります。

そこで井上尚弥の名前が真っ先に上がります。井上に任せれば間違いありません。世界の強豪といえども井上には歯が立ちません。アジアの観客を熱狂させる試合を必ずや実現してくれるはずです。

そうなるとアジアのショービジネス界も黙っていません。日本で成功するなら、東南アジアや中国でも成功させられるはずです。なにしろ人口が桁外れですから、途方もないマーケットが立ち上がります。

恐らくアジアのプロモーターが井上尚弥を欲しがるはずです。井上がいればイベントを派手に演出することができます。

つまりアジアの市場が大きくなればなるほど井上尚弥の価値も青天井に上がっていくわけです。

トップランク社のボブ・アラムが井上尚弥と契約しようとするのは、その近い将来を見据えているからなのではないかと思います。


日本やアジアのボクシング界に寄与


アジアの市場が立ち上がれば、井上側は何もアメリカまで遠征しなくても日本にいながらスーパースターの地位を築くことができます。

願ったりかなったりではないですか。

いやそんな小さなことはどうでもいい。

井上は、日本やアジアのボクシングビジネスの中心になれる存在です。そうならなければなりません。

最初はボブ・アラムの手駒でもいいじゃないですか。現役中は、誰よりも強いボクサーであることを証明するために、強いやつと闘って、1試合10億円、20億円をめざせばいいのです。

ただその中で、彼らのビジネスのやり方を換骨奪胎して、いずれは自分たちで主導権を握れるようにすればいい。

ゴールデンボーイと言われたオスカー・デラ・ホーヤが、現役中はトップランク社のプロモートを受けながら、引退後は自らプロモート会社(ゴールデンボーイ社)を立ち上げ、トップランク社のライバルになったように。

いずれは井上サイドも「モンスター社」を立ち上げるといいんですよ。


ひとりのスターが業界全体を変えてしまうことはよくあることです。

井上が活躍すれば、それを見ている若者が、井上を目指そうとします。

井上が出てくる前までは、世界中から期待され畏怖される日本人ボクサーが出てくるなんて誰も思っていませんでいた。が、今は違います。既に世界は身近です。井上に続いて世界で活躍したいという若者が、これから出てくるでしょう。

井上尚弥には「井上をきっかけに日本のボクシングは大きく変わった」と言われるような存在になってほしいし、なることができます。


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