宮崎駿とスタジオジブリについて

2013.05.02

(2013年5月2日メルマガより)


■宮崎駿監督の新作映画「風立ちぬ」が、
今夏に公開されるらしいですね。

なんでも、ゼロ戦の設計者だった人をモデルにした大河ドラマだとか。

宮崎監督は「なぜ自分のような軍事マニアでありながら反戦思想を持った人間ができたの
かを確かめたい」という意味のことを語っています。

また深い映画になりそうですね。これは、期待せずにはいられません。

■宮崎駿は、昭和16年(1941年)生まれの72歳。アニメーション映画の監督とし
て世界的な巨匠であることは、知らない人はいないでしょう。

テレビアニメの「アルプスの少女ハイジ」「ルパン三世」「未来少年コナン」などを手掛
けた後、1979年「ルパン三世 カリオストロの城」で劇場用映画に進出します。

1984年には「風の谷のナウシカ」を発表。興行的には必ずしも成功したわけではあり
ませんが、各界から高い評価を受けます。

続く、1986年の「天空の城ラピュタ」、1988年の「となりのトトロ」で名声を高
め、1989年「魔女の宅急便」でついに興行的にも大成功を収めます。

そして1997年「もののけ姫」、2001年「千と千尋の神隠し」では、日本映画の
興行成績記録を連続更新。

今では、押しも押されぬ日本映画界のカリスマです。

■その宮崎駿が所属するのが、やはり日本のアニメーションの大ブランドであるスタジオ
ジブリです。

宮崎駿、高畑勲という二大有名監督を擁し、国際的な評価と興行成績を両立させた稀有な
制作会社であり、世界においても、ピクサーやドリームワークスといったアメリカの会社
と人気を分け合っています。

一般にアニメ制作会社は、テレビアニメのシリーズを制作することで成り立っていますが、
同社の場合、2年に1本程度の劇場用アニメを制作するだけです。

そんな寡作で成り立つのは、ひとえに平均興行成績107億円という観客動員力をもって
してのものであり、宮崎駿監督への人気と信頼が高いということです。

■ところが、スタジオジブリの最近はどうかというと、どうも曲がり角に来ているらしい。

参考:『コクリコ坂』が転機に!? 揺れるジブリのビジネスモデル
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1204/18/news002.html

この記事によると、ジブリ映画の興行成績は、「千と千尋の神隠し」をピークに下がる
傾向にあり、直近の「コクリコ坂から」では、制作費を回収できていないのではないかと
書かれています。

このあたり、殆どの映画をヒットさせて、興行収入と利益を上げ続けているピクサー
(「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」など)と明暗を分けています。今の
ところですが。

ちなみに、ピクサーもジブリも、劇場公開収入だけではなく、DVDやグッズ販売で儲け
るビジネスモデルです。

ピクサーの場合、劇場公開時に制作資金を回収してしまい、その後のDVD販売などでは、
ひたすら利益を上げ続ける美味しい流れになっています。

ジブリも、これまでは、劇場収入プラスDVD販売というダブルで稼ぐ仕組みが機能して
いましたが、成績が振るわないと、DVD販売でやっと資金回収するという状態になって
しまうのかも知れません。

■スタジオジブリの強みは、宮崎駿という品質とヒットが保証できる類稀な作家を擁する
ことであり、弱みは、宮崎駿しか頼る者がいないことです。

これは断言してもいいと思いますが、我々がジブリの映画に寄せる期待は、宮崎駿監督の
作品を見てきたことに起因します。

もし宮崎駿監督以外の作品が期待に沿えないものだったら、我々もジブリ作品のすべてが
面白いわけではないと学習し、宮崎駿監督以外の作品を観にいかなくなってしまいます。

これに比して、ピクサーの作品は、3~4人の共同監督である場合も多く、スター監督を
作らないようにしています。

つまりピクサーの場合、ピクサーブランドに客がついているので、誰が監督であろうと、
客が入ります。

その状態を作りながら、次の監督を育成するという流れができているようです。

■ジブリ側もその弱点を十分に承知しており、新監督の育成に積極的に取り組んでいます。

しかし宮崎駿や高畑勲といった大樹が近くにいるだけに、後進は育ちにくいのかも知れま
せん。

特に可哀そうなのは宮崎駿のご子息である吾郎監督ですね。(「ゲド戦記」「コクリコ坂
から」)

ただでさえ親の七光りと揶揄される立場の上、親父からは妨害に近い介入を受けているよ
うですから^^;

その上、作品の評価も興業成績も悪いとなったら、たまったものではありませんよ。

■私が思うに、ピクサーの映画作りとジブリのそれには、大きな違いがあります。

ピクサーの場合、テーマ設定、シナリオ、デザイン、作画...と高度に分業が進んでおり、
システマチックな映画作りをしているように感じます。

悪く言えば、ベルトコンベアーに乗って、アニメ作品が作り上げられるようなイメージです。

しかし、それが一定の質を保ってヒットするのは、シナリオが、高度なレベルで、ヒット
映画のパターンに則して作られているからです。

これはいかにもアメリカらしい。

「スターウォーズ」から始まった神話的なパターンを踏襲したシナリオは、どこかで観た
ような印象を与えるものの安定した面白さを保証してくれます。

その面白さを保証するシナリオがあるので、新人監督や技術者でも、安心して経験を積む
ことができます。

■ところがジブリの場合、作品の出来不出来は監督の力量に委ねられています。

特に、宮崎駿監督の場合、シナリオがあっても無視したり、シナリオそのものがない状態
で制作に入ることがあるらしい。

そもそも他人が作った企画や世界観に素直に従う人ではありません。「なぜ主人公はここ
で行動するのだろう」とか「この世界はどうやって生まれたのか」とか突き詰めて考えて
いるうちに、全く違う作品になってしまうようです。

良くも悪くも、極めて内面的な映画作りです。自分が気になったところ、ひっかかる部分
を中心に物語を作っていきますから、最初の段階では、本人でさえ結末を予想することは
できないかもしれません。

本人がそういう状態ですから、周りは黙って見ているしかありません。

■だからこそ、宮崎駿監督の作品は、世界で唯一無二のオリジナルとなります。

彼からすると、ハリウッド流の「売れるパターン」を踏襲した物語作りなど軽薄の極みに
映るのかも知れません。

要するに、宮崎駿という天才であるからこそ出来る映画作りです。

例えば、宮崎吾郎監督が、「コクリコ坂から」のシナリオ(宮崎駿作)を無視して、全く
新しい作品を作るなど考えられますか?

いや、無視することはできたとしても、映画製作を走らせながら、期間内に破綻なく作品
を完成させる力量を持った人がどこにいるというのでしょうか。

これはおよそエンターテイメント映画を作る人の方法論とは言えません。

宮崎駿の天才性は、この個人的なひらめきや問題意識を切り捨てずに、時には矛盾を抱え
たまま強引に「売れる作品」をまとめてしまう力技にあると言えます。

それは体力がいるでしょう。作品を完成させるたびに「引退する」と宣言する気持ちが分
かりますね。

参考:鈴木敏夫プロデューサーが語る、スタジオジブリ作品の創り方
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1011/25/news024.html

■ところが、そうして出来上がった宮崎駿監督作品が、実は神話や民話のパターンを踏襲
しているとよく指摘されます。

(例えば、トンネルをくぐったら異世界だった。とか、人のものを勝手に食べたので豚に
なった。とか、登場人物がその世界のルールに厳しく従わなければならない。とか...)

これは、宮崎駿がピクサーのようにパターンに当てはめて作っているというのではなく、
神話や民話の影響下に書かれたファンタジー(「ゲド戦記」や「指輪物語」など)の影響
を受けているからと考えた方がいいでしょう。

結果として、宮崎駿監督の難解な作品がここまで一般大衆に支持されるのは、この神話
パターンの踏襲が、皆に受け入れられやすいからだと解釈できます。

つまり「売れる作品」とは、そういうことなのです。

■このままだとスタジオジブリは、スティーブ・ジョブズなきあとのアップル状態になっ
てしまうでしょう。

どうも宮崎駿氏はスタジオ内では「暴君」だそうですから、若手が育つ余地は少ないのか
も知れませんね。

むしろ、ジブリ以外のところで、若手監督の活躍が目立ちます。

参考:宮崎駿氏は71歳だけど......アニメ監督の高齢化は進んでいるか?
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1206/26/news011.html

一つの方法は、有望な若手監督をスカウトして、映画作りを任せることです。

もっとも、監督だけ連れてきても作品ができるわけではありません。気心の知れたスタッフ
も必要でしょうから、外様監督というのは現実味が乏しいのかも知れません。

やはり内部で人材を育成するのがいいのでしょうね。

■理想は、ピクサーのように、そこそこ売れる作品を作る手法を確立した上で、ローリスク
で若手監督育成を図ることです。

完全分業体制にしてしまえば、ジブリの魅力がなくなってしまうので、あくまで作家性を
活かせる映画作りを目指します。

鈴木敏夫プロデューサーによると、宮崎駿監督の凄さは、彼にしか描けない絵の表現が
いっぱいあることだそうです。

やはり宮崎駿監督は、現場の絵から映画を発想する人なのですね。

それは素晴らしいと思いますが、すごい絵が描けるからといって作品全体が作れるわけで
はありません。

絵がうまい人、センスがある人は、若手の中にもいるはずです。そこは前提条件として、
映画作りの才能を育成または見出すことが必要です。

私は、ジブリの特徴は「あえて売れ線を狙わず、作家性の高い根源的な作品づくりをする」
ことだと考えます。

宮崎駿監督のように、根源からテーマを問い直すような映画作りは、単純な訓練でなされ
るものではありません。

できる人はできるし、できない人はいつまでもできない。ありていに言えば、それが才能
です。

ならば、若手の才能を発見するためには、経験をしてもらうしかありません。

たとえば、30分程度の短編を若手に作ってもらう。長編映画と同時上映するか、DVD
に集めて発売するか、それ自体で回収できる仕組みを作ります。

場合によっては、深夜アニメの枠を買ってもいいでしょう。

ただし趣味的な映画に終わるのではなく、あくまで物語としての形を保っていることが
条件です。

尖ったセンスを作品として「売れるパターン」にまとめ上げる方法を身につけることが、
この訓練の目的です。

その中から、第二、第三の看板監督が育ってくるのを待つことです。

その際、宮崎駿氏には、余計な口出しをさせないこと。若手が委縮してしまいますので^^;

■それにしても、宮崎駿という人は面白いですね。

今回、彼のインタビュー集を読んだのですが、これほど生々しい発言をする人だとは思っ
ていませんでした。

参考:「風の帰る場所─ナウシカから千尋までの軌跡」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4860520076/lanchesterkan-22/ref=nosim

まず、かなり偏屈です。自分が人格者であるとか、エコロジストであるとか見られるのを
拒否しています。

他のアニメ作家の批判も平気です。「エヴァンゲリオン」の庵野秀明に対して「お前は、
中身がない」なんて言いますしね。

なにより手塚治虫への攻撃がすごい。追悼雑誌に、凄まじい否定の文章を載せたぐらいで
すから。

それだけ正直な人なんですね。

だからインタビュアーの質問に対しても、逃げることなく、真正面から答えています。

そこから読み取れるのは、宮崎駿が、非常に根源的、本質的なところに立ち返って物事を
捉えようとしていることです。

決して、凄まじく頭がよく、切れ味鋭く、瞬時に物事の本質を捉えるというタイプでは
ありません。どちらかというと、泥臭い試行錯誤を重ねながら、ようやく物事の根源に
たどり着いているという印象です。

つまり宮崎駿は努力の天才です。

こういう人が今の時代を生きているということを有難く思わなければならないですね。

近くにいれば厄介かも知れませんけど^^;





(2013年5月2日メルマガより)


■宮崎駿監督の新作映画「風立ちぬ」が、
今夏に公開されるらしいですね。

なんでも、ゼロ戦の設計者だった人をモデルにした大河ドラマだとか。

宮崎監督は「なぜ自分のような軍事マニアでありながら反戦思想を持った人間ができたの
かを確かめたい」という意味のことを語っています。

また深い映画になりそうですね。これは、期待せずにはいられません。

■宮崎駿は、昭和16年(1941年)生まれの72歳。アニメーション映画の監督とし
て世界的な巨匠であることは、知らない人はいないでしょう。

テレビアニメの「アルプスの少女ハイジ」「ルパン三世」「未来少年コナン」などを手掛
けた後、1979年「ルパン三世 カリオストロの城」で劇場用映画に進出します。

1984年には「風の谷のナウシカ」を発表。興行的には必ずしも成功したわけではあり
ませんが、各界から高い評価を受けます。

続く、1986年の「天空の城ラピュタ」、1988年の「となりのトトロ」で名声を高
め、1989年「魔女の宅急便」でついに興行的にも大成功を収めます。

そして1997年「もののけ姫」、2001年「千と千尋の神隠し」では、日本映画の
興行成績記録を連続更新。

今では、押しも押されぬ日本映画界のカリスマです。

■その宮崎駿が所属するのが、やはり日本のアニメーションの大ブランドであるスタジオ
ジブリです。

宮崎駿、高畑勲という二大有名監督を擁し、国際的な評価と興行成績を両立させた稀有な
制作会社であり、世界においても、ピクサーやドリームワークスといったアメリカの会社
と人気を分け合っています。

一般にアニメ制作会社は、テレビアニメのシリーズを制作することで成り立っていますが、
同社の場合、2年に1本程度の劇場用アニメを制作するだけです。

そんな寡作で成り立つのは、ひとえに平均興行成績107億円という観客動員力をもって
してのものであり、宮崎駿監督への人気と信頼が高いということです。

■ところが、スタジオジブリの最近はどうかというと、どうも曲がり角に来ているらしい。

参考:『コクリコ坂』が転機に!? 揺れるジブリのビジネスモデル
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1204/18/news002.html

この記事によると、ジブリ映画の興行成績は、「千と千尋の神隠し」をピークに下がる
傾向にあり、直近の「コクリコ坂から」では、制作費を回収できていないのではないかと
書かれています。

このあたり、殆どの映画をヒットさせて、興行収入と利益を上げ続けているピクサー
(「トイ・ストーリー」「ファインディング・ニモ」など)と明暗を分けています。今の
ところですが。

ちなみに、ピクサーもジブリも、劇場公開収入だけではなく、DVDやグッズ販売で儲け
るビジネスモデルです。

ピクサーの場合、劇場公開時に制作資金を回収してしまい、その後のDVD販売などでは、
ひたすら利益を上げ続ける美味しい流れになっています。

ジブリも、これまでは、劇場収入プラスDVD販売というダブルで稼ぐ仕組みが機能して
いましたが、成績が振るわないと、DVD販売でやっと資金回収するという状態になって
しまうのかも知れません。

■スタジオジブリの強みは、宮崎駿という品質とヒットが保証できる類稀な作家を擁する
ことであり、弱みは、宮崎駿しか頼る者がいないことです。

これは断言してもいいと思いますが、我々がジブリの映画に寄せる期待は、宮崎駿監督の
作品を見てきたことに起因します。

もし宮崎駿監督以外の作品が期待に沿えないものだったら、我々もジブリ作品のすべてが
面白いわけではないと学習し、宮崎駿監督以外の作品を観にいかなくなってしまいます。

これに比して、ピクサーの作品は、3~4人の共同監督である場合も多く、スター監督を
作らないようにしています。

つまりピクサーの場合、ピクサーブランドに客がついているので、誰が監督であろうと、
客が入ります。

その状態を作りながら、次の監督を育成するという流れができているようです。

■ジブリ側もその弱点を十分に承知しており、新監督の育成に積極的に取り組んでいます。

しかし宮崎駿や高畑勲といった大樹が近くにいるだけに、後進は育ちにくいのかも知れま
せん。

特に可哀そうなのは宮崎駿のご子息である吾郎監督ですね。(「ゲド戦記」「コクリコ坂
から」)

ただでさえ親の七光りと揶揄される立場の上、親父からは妨害に近い介入を受けているよ
うですから^^;

その上、作品の評価も興業成績も悪いとなったら、たまったものではありませんよ。

■私が思うに、ピクサーの映画作りとジブリのそれには、大きな違いがあります。

ピクサーの場合、テーマ設定、シナリオ、デザイン、作画...と高度に分業が進んでおり、
システマチックな映画作りをしているように感じます。

悪く言えば、ベルトコンベアーに乗って、アニメ作品が作り上げられるようなイメージです。

しかし、それが一定の質を保ってヒットするのは、シナリオが、高度なレベルで、ヒット
映画のパターンに則して作られているからです。

これはいかにもアメリカらしい。

「スターウォーズ」から始まった神話的なパターンを踏襲したシナリオは、どこかで観た
ような印象を与えるものの安定した面白さを保証してくれます。

その面白さを保証するシナリオがあるので、新人監督や技術者でも、安心して経験を積む
ことができます。

■ところがジブリの場合、作品の出来不出来は監督の力量に委ねられています。

特に、宮崎駿監督の場合、シナリオがあっても無視したり、シナリオそのものがない状態
で制作に入ることがあるらしい。

そもそも他人が作った企画や世界観に素直に従う人ではありません。「なぜ主人公はここ
で行動するのだろう」とか「この世界はどうやって生まれたのか」とか突き詰めて考えて
いるうちに、全く違う作品になってしまうようです。

良くも悪くも、極めて内面的な映画作りです。自分が気になったところ、ひっかかる部分
を中心に物語を作っていきますから、最初の段階では、本人でさえ結末を予想することは
できないかもしれません。

本人がそういう状態ですから、周りは黙って見ているしかありません。

■だからこそ、宮崎駿監督の作品は、世界で唯一無二のオリジナルとなります。

彼からすると、ハリウッド流の「売れるパターン」を踏襲した物語作りなど軽薄の極みに
映るのかも知れません。

要するに、宮崎駿という天才であるからこそ出来る映画作りです。

例えば、宮崎吾郎監督が、「コクリコ坂から」のシナリオ(宮崎駿作)を無視して、全く
新しい作品を作るなど考えられますか?

いや、無視することはできたとしても、映画製作を走らせながら、期間内に破綻なく作品
を完成させる力量を持った人がどこにいるというのでしょうか。

これはおよそエンターテイメント映画を作る人の方法論とは言えません。

宮崎駿の天才性は、この個人的なひらめきや問題意識を切り捨てずに、時には矛盾を抱え
たまま強引に「売れる作品」をまとめてしまう力技にあると言えます。

それは体力がいるでしょう。作品を完成させるたびに「引退する」と宣言する気持ちが分
かりますね。

参考:鈴木敏夫プロデューサーが語る、スタジオジブリ作品の創り方
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1011/25/news024.html

■ところが、そうして出来上がった宮崎駿監督作品が、実は神話や民話のパターンを踏襲
しているとよく指摘されます。

(例えば、トンネルをくぐったら異世界だった。とか、人のものを勝手に食べたので豚に
なった。とか、登場人物がその世界のルールに厳しく従わなければならない。とか...)

これは、宮崎駿がピクサーのようにパターンに当てはめて作っているというのではなく、
神話や民話の影響下に書かれたファンタジー(「ゲド戦記」や「指輪物語」など)の影響
を受けているからと考えた方がいいでしょう。

結果として、宮崎駿監督の難解な作品がここまで一般大衆に支持されるのは、この神話
パターンの踏襲が、皆に受け入れられやすいからだと解釈できます。

つまり「売れる作品」とは、そういうことなのです。

■このままだとスタジオジブリは、スティーブ・ジョブズなきあとのアップル状態になっ
てしまうでしょう。

どうも宮崎駿氏はスタジオ内では「暴君」だそうですから、若手が育つ余地は少ないのか
も知れませんね。

むしろ、ジブリ以外のところで、若手監督の活躍が目立ちます。

参考:宮崎駿氏は71歳だけど......アニメ監督の高齢化は進んでいるか?
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1206/26/news011.html

一つの方法は、有望な若手監督をスカウトして、映画作りを任せることです。

もっとも、監督だけ連れてきても作品ができるわけではありません。気心の知れたスタッフ
も必要でしょうから、外様監督というのは現実味が乏しいのかも知れません。

やはり内部で人材を育成するのがいいのでしょうね。

■理想は、ピクサーのように、そこそこ売れる作品を作る手法を確立した上で、ローリスク
で若手監督育成を図ることです。

完全分業体制にしてしまえば、ジブリの魅力がなくなってしまうので、あくまで作家性を
活かせる映画作りを目指します。

鈴木敏夫プロデューサーによると、宮崎駿監督の凄さは、彼にしか描けない絵の表現が
いっぱいあることだそうです。

やはり宮崎駿監督は、現場の絵から映画を発想する人なのですね。

それは素晴らしいと思いますが、すごい絵が描けるからといって作品全体が作れるわけで
はありません。

絵がうまい人、センスがある人は、若手の中にもいるはずです。そこは前提条件として、
映画作りの才能を育成または見出すことが必要です。

私は、ジブリの特徴は「あえて売れ線を狙わず、作家性の高い根源的な作品づくりをする」
ことだと考えます。

宮崎駿監督のように、根源からテーマを問い直すような映画作りは、単純な訓練でなされ
るものではありません。

できる人はできるし、できない人はいつまでもできない。ありていに言えば、それが才能
です。

ならば、若手の才能を発見するためには、経験をしてもらうしかありません。

たとえば、30分程度の短編を若手に作ってもらう。長編映画と同時上映するか、DVD
に集めて発売するか、それ自体で回収できる仕組みを作ります。

場合によっては、深夜アニメの枠を買ってもいいでしょう。

ただし趣味的な映画に終わるのではなく、あくまで物語としての形を保っていることが
条件です。

尖ったセンスを作品として「売れるパターン」にまとめ上げる方法を身につけることが、
この訓練の目的です。

その中から、第二、第三の看板監督が育ってくるのを待つことです。

その際、宮崎駿氏には、余計な口出しをさせないこと。若手が委縮してしまいますので^^;

■それにしても、宮崎駿という人は面白いですね。

今回、彼のインタビュー集を読んだのですが、これほど生々しい発言をする人だとは思っ
ていませんでした。

参考:「風の帰る場所─ナウシカから千尋までの軌跡」
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4860520076/lanchesterkan-22/ref=nosim

まず、かなり偏屈です。自分が人格者であるとか、エコロジストであるとか見られるのを
拒否しています。

他のアニメ作家の批判も平気です。「エヴァンゲリオン」の庵野秀明に対して「お前は、
中身がない」なんて言いますしね。

なにより手塚治虫への攻撃がすごい。追悼雑誌に、凄まじい否定の文章を載せたぐらいで
すから。

それだけ正直な人なんですね。

だからインタビュアーの質問に対しても、逃げることなく、真正面から答えています。

そこから読み取れるのは、宮崎駿が、非常に根源的、本質的なところに立ち返って物事を
捉えようとしていることです。

決して、凄まじく頭がよく、切れ味鋭く、瞬時に物事の本質を捉えるというタイプでは
ありません。どちらかというと、泥臭い試行錯誤を重ねながら、ようやく物事の根源に
たどり着いているという印象です。

つまり宮崎駿は努力の天才です。

こういう人が今の時代を生きているということを有難く思わなければならないですね。

近くにいれば厄介かも知れませんけど^^;





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