びっくりドンキーは弱者のエネルギーに満ちていた

2016.06.02

(2016年6月2日メルマガより)


■外食産業は、再び低価格志向に戻ったようです。


確か、去年の今頃は、客単価の向上をテーマにしているチェーンが多かったはず。

吉野家が牛すき鍋御膳で復活したとか、ガストのフォアグラを乗せたハンバーグが好評だとか、言われておりました。

しかし、市場の反応に敏い外食チェーン各社は、客単価向上をあっさり諦めて、客数向上に施策を転換しています。

ファミリーレストランでいうと、低価格路線を続けていたサイゼリアやジョイフルは、相変わらず好調ですし、ガストやロイヤルホストも、価格を下げたメニューが好評のようです。

まあ、この動きをみると、安倍首相の「消費税増税再延期」の決断は正しいのだと感じます。

リーマンショック前の状況に似ているとは思いませんが。

■そんな景気の状況に敏感な外食産業の中にあって、値上げを繰り返しながらも、好調を維持しているチェーンがあります。

ご存じですかね。

株式会社アレフが運営する「びっくりドンキー」です。

参考:「要求が細かい」びっくりドンキーの「びっくり」な秘密!3度の値上げでも客殺到の謎
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15079.html

■もちろん株式会社アレフは、同名の宗教団体とは何の関係もありません。

びっくりドンキーの前身は、庄司昭夫氏が岩手県盛岡市にオープンしたハンバーガーショップでした。

ところが、大手ハンバーガーチェーンのマクドナルドが日本に進出すると聞いた庄司氏は、あんなデカい企業とまともに戦えん、と業態転換を敢行します。

すなわち、ハンバーグと野菜をパンではさむのではなく、ハンバーグと野菜とごはんを一皿に盛り付ける形式に変更します。

それが、びっくりドンキーの特徴であるワンプレートのバーグディッシュとなりました。

ちなみに、びっくりドンキーという店名は、お客をびっくりさせたいという庄司氏の気持ちと、ロバのように着実に進んでいきたいという意思を表しているそうです。

(以上、wikipediaによる)

■なんだ、意外にまじめな企業やないか。

と言ったら、怒られますね。

なにしろ、びっくりドンキーは、牛肉も豚肉も米も野菜も厳格に管理しており、食の安心安全に取り組んでおられます。

店から出る生ごみも店内で処理して堆肥にする取り組みも進めていますし、工場においては再生エネルギーの活用に積極的です。

まじめもまじめ。食の安心安全、環境面に対する姿勢としては、超優良企業です。

が、しかし。

私の子供の頃の記憶では、びっくりドンキーといえば、地元の不良のたまり場で、店員の接客もぞんざいで、美味しいハンバーグを食べれるけれど、ちょっと怖いダークサイドのお店でした。

それはそうです。

深夜営業もやっていて、駐車場が広く、店もなんだかゴテゴテした過剰な外装と内装で、異世界に来たようなワクワク感とドキドキ感がある店です。

面白いものに敏感な地元の不良が放っておくはずがありませんわね

私は、初期のびっくりドンキーの魅力は、その「やんちゃ感」にあったのではないかと思っています。

■その創業時のエピソードからわかるように、びっくりドンキーは、ランチェスター戦略にいう「弱者の戦略」を志向してきたと言えます。

ハンバーガー業界の巨人マクドナルドが、本場の味そのままのハンバーガーを展開するのに対して、びっくりドンキーが扱うのは日本風にアレンジしたハンバーグ定食です。

しかし、パンに挟んでいようと、ごはんに被せていようと、ハンバーグはハンバーグ。肉は肉。

昭和の日本人にとって、肉は贅沢品の一つです。

その肉を手軽な価格で提供するというコンセプト(手の届く贅沢)は、マクドナルドと同じく、日本人の心を捉えました。

■その主力商品であるハンバーグです。

こってりし過ぎず、食べやすい。

スパイスが効いた独特の味は、また食べたくなる中毒性があるように思えます。

スパイスが独特なので、何を混ぜ込んでいるのだろうと、不安に思わないでもないですが、同社は食の安全アピールを強く行っておられます^^

ということで、びっくりドンキーの最初の「弱者の戦略」は、その特殊なハンバーグの味付けです。

決して万人受けを狙っていない味つけが、大勢の人に受け入れられたことが、最大の成功要因であることは間違いがないでしょう。

■マクドナルドの日本第一号店が、銀座の一等地に出店したことは有名な話ですが、びっくりドンキーはそんなことはしません。

いまでは全国展開する同店も、初期は、本社所在地である北海道と近畿に集中出店していました。

その店舗も独特です。

もともと資金力のない身ですから、初期のマクドナルドのように直営店をバンバン作るわけにはいきません。

基本はフランチャイズ。

さらに出費を抑えるためにファミリーレストランなどが撤退した居ぬき店舗を狙っての出店を志向します。

あのゴテゴテとした外装内装は、テーマパークに来たような非日常空間を演出していますが、本来は、居ぬき店舗をそれらしく見せないための過剰な工夫だったのではないかと思われます。

昔の店舗には、天井にボートが逆さに飾っていたり、古い西部劇のような道具がぶら下がっていたりしていました。

そのわりに、テーブルはゆったりしていて、個室感もあります。要するに、ゴテゴテしているのに、居心地のいい空間をつくることに成功しているように思えます。

上の記事にあるようにびっくりドンキーの魅力は「手の届く贅沢」と「居心地のいい空間」に集約されていますね。

■弱者としての特徴はまだあります。

マクドナルドが全国均一の店舗運営を目指したのに対して、びっくりドンキーはかなりゆるい運営です。

すなわち、店舗の外装内装もオペレーションも店員の雰囲気も、わりと自由です。

今でこそ、店員教育が行き届いた店として知られていますが、初期の頃はそれは酷かった。私は覚えてますからね^^;

これはおそらく、そこまで手が回らなかったということなんでしょう。

それ以上の魅力やエネルギーがあれば、足りないところがあっても、流行るという事例です。

■価格についてはどうでしょう。

主力商品であるハンバーグディッシュが値上げの対象になっていたことは上に書いた通りです。

ただ1000円以内で食事ができるということですから、特に高くもなく、安くもない。普通ですね。

ただ目立つのはサイドメニューが安いことです。食後のコーヒーとかデザートとかの価格が抑えられていて、お得感があります。

主力は普通の価格でも、サイドメニューが安いというのも独特ですね。

■びっくりドンキーは、全国に337店舗(直営143店、FC194店)

売上高では約559億円(フランチャイズ店含む)を誇る一大チェーンです。(2013年度)

ただし、すかいらーく(2474億円)、サイゼリア(1022億円)などと比べると見劣りする売上規模です。

もっとも、同社はファミリーレストランではなく、ハンバーグ専門店ですから、比べるのはフェアではありませんね。

もとより、びっくりドンキーは、これ以上店舗を増やすのではなく、既存店の実績向上を志向しているようです。

それはそうでしょう。

いま、びっくりドンキーが好調を維持しているのは、専門チェーンとして採算の出る効率性と適正規模があるからだと考えられます。

ファミリーレストランのように間口を広げれば、景気動向によってメニューを入れ替えたり、オペレーションを変えたり大変です。

マクドナルドのように規模を大きくし過ぎれば、固定費の増大に苦しみ、その挙句、現場の掌握や人材育成の面で問題を抱えてしまいます。

だから無理に拡大する必要などこれっぽっちもありません。

ドンキー(ロバ)のように、ゆっくりでも着実に歩むという創業者の信条が活きているのだとすれば、とても素晴らしいことだと思います。

■ただし、最近のびっくりドンキーをみていると、初期の頃のようなやんちゃ感がなくなり、普通の外食チェーンになってしまったのが残念です。

内装も普通のファミリーレストランと変わらなくなってきていますしね。

現在の経営陣は、既存店の深堀りをすると宣言しています。

そこには、自分たちが行儀よく普通になってしまったことに対する危機感があるのではないでしょうか。

私もそう思います。強者の立場に安住した時が、終わりの始まりですから。

それはぜひ、思い出していただきたい。初期のびっくりドンキーは、決して洗練されていなかったが、えも言われぬエネルギーを持っていたはずです。

それが、びっくりドンキーをここまで生き残らせてきたのです。

ファミリーレストランと肩を並べたからといって、もはや弱者ではないなんて思わないように。

もう一度、かつての猥雑なエネルギーを取り戻し、我々をびっくりさせててほしいものです。



(2016年6月2日メルマガより)


■外食産業は、再び低価格志向に戻ったようです。


確か、去年の今頃は、客単価の向上をテーマにしているチェーンが多かったはず。

吉野家が牛すき鍋御膳で復活したとか、ガストのフォアグラを乗せたハンバーグが好評だとか、言われておりました。

しかし、市場の反応に敏い外食チェーン各社は、客単価向上をあっさり諦めて、客数向上に施策を転換しています。

ファミリーレストランでいうと、低価格路線を続けていたサイゼリアやジョイフルは、相変わらず好調ですし、ガストやロイヤルホストも、価格を下げたメニューが好評のようです。

まあ、この動きをみると、安倍首相の「消費税増税再延期」の決断は正しいのだと感じます。

リーマンショック前の状況に似ているとは思いませんが。

■そんな景気の状況に敏感な外食産業の中にあって、値上げを繰り返しながらも、好調を維持しているチェーンがあります。

ご存じですかね。

株式会社アレフが運営する「びっくりドンキー」です。

参考:「要求が細かい」びっくりドンキーの「びっくり」な秘密!3度の値上げでも客殺到の謎
http://biz-journal.jp/2016/05/post_15079.html

■もちろん株式会社アレフは、同名の宗教団体とは何の関係もありません。

びっくりドンキーの前身は、庄司昭夫氏が岩手県盛岡市にオープンしたハンバーガーショップでした。

ところが、大手ハンバーガーチェーンのマクドナルドが日本に進出すると聞いた庄司氏は、あんなデカい企業とまともに戦えん、と業態転換を敢行します。

すなわち、ハンバーグと野菜をパンではさむのではなく、ハンバーグと野菜とごはんを一皿に盛り付ける形式に変更します。

それが、びっくりドンキーの特徴であるワンプレートのバーグディッシュとなりました。

ちなみに、びっくりドンキーという店名は、お客をびっくりさせたいという庄司氏の気持ちと、ロバのように着実に進んでいきたいという意思を表しているそうです。

(以上、wikipediaによる)

■なんだ、意外にまじめな企業やないか。

と言ったら、怒られますね。

なにしろ、びっくりドンキーは、牛肉も豚肉も米も野菜も厳格に管理しており、食の安心安全に取り組んでおられます。

店から出る生ごみも店内で処理して堆肥にする取り組みも進めていますし、工場においては再生エネルギーの活用に積極的です。

まじめもまじめ。食の安心安全、環境面に対する姿勢としては、超優良企業です。

が、しかし。

私の子供の頃の記憶では、びっくりドンキーといえば、地元の不良のたまり場で、店員の接客もぞんざいで、美味しいハンバーグを食べれるけれど、ちょっと怖いダークサイドのお店でした。

それはそうです。

深夜営業もやっていて、駐車場が広く、店もなんだかゴテゴテした過剰な外装と内装で、異世界に来たようなワクワク感とドキドキ感がある店です。

面白いものに敏感な地元の不良が放っておくはずがありませんわね

私は、初期のびっくりドンキーの魅力は、その「やんちゃ感」にあったのではないかと思っています。

■その創業時のエピソードからわかるように、びっくりドンキーは、ランチェスター戦略にいう「弱者の戦略」を志向してきたと言えます。

ハンバーガー業界の巨人マクドナルドが、本場の味そのままのハンバーガーを展開するのに対して、びっくりドンキーが扱うのは日本風にアレンジしたハンバーグ定食です。

しかし、パンに挟んでいようと、ごはんに被せていようと、ハンバーグはハンバーグ。肉は肉。

昭和の日本人にとって、肉は贅沢品の一つです。

その肉を手軽な価格で提供するというコンセプト(手の届く贅沢)は、マクドナルドと同じく、日本人の心を捉えました。

■その主力商品であるハンバーグです。

こってりし過ぎず、食べやすい。

スパイスが効いた独特の味は、また食べたくなる中毒性があるように思えます。

スパイスが独特なので、何を混ぜ込んでいるのだろうと、不安に思わないでもないですが、同社は食の安全アピールを強く行っておられます^^

ということで、びっくりドンキーの最初の「弱者の戦略」は、その特殊なハンバーグの味付けです。

決して万人受けを狙っていない味つけが、大勢の人に受け入れられたことが、最大の成功要因であることは間違いがないでしょう。

■マクドナルドの日本第一号店が、銀座の一等地に出店したことは有名な話ですが、びっくりドンキーはそんなことはしません。

いまでは全国展開する同店も、初期は、本社所在地である北海道と近畿に集中出店していました。

その店舗も独特です。

もともと資金力のない身ですから、初期のマクドナルドのように直営店をバンバン作るわけにはいきません。

基本はフランチャイズ。

さらに出費を抑えるためにファミリーレストランなどが撤退した居ぬき店舗を狙っての出店を志向します。

あのゴテゴテとした外装内装は、テーマパークに来たような非日常空間を演出していますが、本来は、居ぬき店舗をそれらしく見せないための過剰な工夫だったのではないかと思われます。

昔の店舗には、天井にボートが逆さに飾っていたり、古い西部劇のような道具がぶら下がっていたりしていました。

そのわりに、テーブルはゆったりしていて、個室感もあります。要するに、ゴテゴテしているのに、居心地のいい空間をつくることに成功しているように思えます。

上の記事にあるようにびっくりドンキーの魅力は「手の届く贅沢」と「居心地のいい空間」に集約されていますね。

■弱者としての特徴はまだあります。

マクドナルドが全国均一の店舗運営を目指したのに対して、びっくりドンキーはかなりゆるい運営です。

すなわち、店舗の外装内装もオペレーションも店員の雰囲気も、わりと自由です。

今でこそ、店員教育が行き届いた店として知られていますが、初期の頃はそれは酷かった。私は覚えてますからね^^;

これはおそらく、そこまで手が回らなかったということなんでしょう。

それ以上の魅力やエネルギーがあれば、足りないところがあっても、流行るという事例です。

■価格についてはどうでしょう。

主力商品であるハンバーグディッシュが値上げの対象になっていたことは上に書いた通りです。

ただ1000円以内で食事ができるということですから、特に高くもなく、安くもない。普通ですね。

ただ目立つのはサイドメニューが安いことです。食後のコーヒーとかデザートとかの価格が抑えられていて、お得感があります。

主力は普通の価格でも、サイドメニューが安いというのも独特ですね。

■びっくりドンキーは、全国に337店舗(直営143店、FC194店)

売上高では約559億円(フランチャイズ店含む)を誇る一大チェーンです。(2013年度)

ただし、すかいらーく(2474億円)、サイゼリア(1022億円)などと比べると見劣りする売上規模です。

もっとも、同社はファミリーレストランではなく、ハンバーグ専門店ですから、比べるのはフェアではありませんね。

もとより、びっくりドンキーは、これ以上店舗を増やすのではなく、既存店の実績向上を志向しているようです。

それはそうでしょう。

いま、びっくりドンキーが好調を維持しているのは、専門チェーンとして採算の出る効率性と適正規模があるからだと考えられます。

ファミリーレストランのように間口を広げれば、景気動向によってメニューを入れ替えたり、オペレーションを変えたり大変です。

マクドナルドのように規模を大きくし過ぎれば、固定費の増大に苦しみ、その挙句、現場の掌握や人材育成の面で問題を抱えてしまいます。

だから無理に拡大する必要などこれっぽっちもありません。

ドンキー(ロバ)のように、ゆっくりでも着実に歩むという創業者の信条が活きているのだとすれば、とても素晴らしいことだと思います。

■ただし、最近のびっくりドンキーをみていると、初期の頃のようなやんちゃ感がなくなり、普通の外食チェーンになってしまったのが残念です。

内装も普通のファミリーレストランと変わらなくなってきていますしね。

現在の経営陣は、既存店の深堀りをすると宣言しています。

そこには、自分たちが行儀よく普通になってしまったことに対する危機感があるのではないでしょうか。

私もそう思います。強者の立場に安住した時が、終わりの始まりですから。

それはぜひ、思い出していただきたい。初期のびっくりドンキーは、決して洗練されていなかったが、えも言われぬエネルギーを持っていたはずです。

それが、びっくりドンキーをここまで生き残らせてきたのです。

ファミリーレストランと肩を並べたからといって、もはや弱者ではないなんて思わないように。

もう一度、かつての猥雑なエネルギーを取り戻し、我々をびっくりさせててほしいものです。



コラム

blog

代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
世の中の事象を営業戦略コンサルタントの視点から斬っていきます。(無料)

記事一覧

blog

記事一覧

Customer Voice

記事一覧

このページのTOPへ