脳内のリミットを外せ

2012.09.06

(2012年9月6日メルマガより)



■少し古い話になりますが、ロンドン・オリンピックは、
連日のメダルラッシュで、なに
げに盛り上がりましたね。

男子柔道が金メダルなしというのは困った事態ですが、それ以外の競技では、日本人初と
か十数年ぶりとかいうメダルが多かったように思います。

その後の報道などを見ていると、どうやら国をあげて競技者の支援を行っているらしい。

参考:ロンドンオリンピック 過去最多メダル獲得の影に国家戦略あり!
http://www.excite.co.jp/News/column_g/20120814/Topbrain_column_detail_384.html

これまで体育には熱心でも、競技への支援には無頓着だった日本も、ようやくベクトルを
合わせてきたようですね。

■もっとも、競技に対する姿勢は、韓国や北朝鮮とは隔たりがあります。

参考:選手数、日本の2割で金4個 北朝鮮の「なぜ」
http://s.nikkei.com/OWdwPb

参考:ポジショニングか能力か ロンドン・オリンピックの結果を戦略論にこじつけて解
釈する http://diamond.jp/articles/-/23387

上記(下の方)の記事によると、日本は全メダル総数における銀と銅の割合が最も多い国
であるということです。

金メダルの比率が少ない...ということは、そこそこできる人は多いが、世界トップは少な
いということになるのですかね。

あるいは、世界トップクラスの実力がありながら、本番では今一つ実力を発揮できない人
が多いのか。

その両方という気がするのですが、国家の支援によりメダル総数が増えてきた現状を見れ
ば、やはり全体の底上げは進んでいると考えてもよいのではないでしょうか。

■ところが、韓国や北朝鮮は、全体の底上げというよりも、才能のある個人を集中支援し
て、一点突破で金メダルを狙う方策です。

これはオリンピックで金メダルをとることが、国威高揚や国際社会での地位向上につなが
ると考えてのことでしょう。

少ない資源で競争に勝とうとすれば、「ポジショニング」戦略をとることが理にかなって
いるし、手っ取り早いわけです。

まさに自国を小国だと捉えた戦略選択です。

■それに対して、日本は「(人材)資源」を強化するという方策をとっています。

これは、アメリカ、ドイツ、フランスなどの大国がとるべき戦略で、豊富な人口を背景に、
全体の底上げを図ることで、突出した個人が出てくることを待つというものです。

そもそも、先進国は、特にオリンピックで勝たなくても、国家の威信が揺らぐわけではな
いので、無理にサイボーグのような競技者を作る必要はありません。

むしろ、非人道的な強化策が、世論の反発を買うかも知れません。

中国やロシアなど旧共産圏は、未だ無理目の強化策をとっているかも知れませんが、日本
がそこまでする必要はない。

なんせ1億2千万人の人口を抱える国ですから。そこそこ大国ですよ。

■...なんていうところが、日本の中途半端なところなんですね。

小国なのか大国なのか。

弱者なのか強者なのか。

微妙な位置にいるので、大胆に戦略を決めることができません。

スポーツに関する限り、個人的には、今の通り、全体の底上げを図る支援策でいいと思い
ます。

それぞれが好きなスポーツをやればいい。室伏広治に「ハンマー投げなんてやめて、レス
リングをしろ」なんてことを言う権利など誰にもない社会であってほしい。

ところが、国家の存亡に関わる経済政策においても、ポジショニング戦略がとれないとこ
ろに問題があります。

なぜなら日本は今後、確実に人口を減らせていきます。労働人口はさらに減り、高齢化し
ていきます。

そのような状況で、総花的な方向性しか出せない大国然とした状態では、立ちいかなくな
ることは目に見えています。

日本は、小国であり、弱者であるという立場に立たなければならない局面にきているのです。

まあ、そういうことが「戦略」の普及を目指す我々ランチェスター協会の使命感です。

大きな話は、これぐらいにしておきましょう^^

■オリンピックの話に戻りますが、メダルには届かなかったものの男子サッカーの活躍は
盛り上がりましたね。

オリンピックが始まる前は、女子サッカーはメダル確実だが、男子は予選突破も難しいと
いわれていました。(by釜本邦茂)

ところが始まってみると、優勝候補のスペインを破るわ、負けないわの活躍で4強にまで
進出しました。

日本のサッカーも強くなったもんですねーー

今やマンチェスターユナイテッドやインテルミラノで日本人プレーヤーが活躍する時代
です。

そのうちFCバルセロナでも活躍する選手が出るでしょうね。

私が学生の頃は、日本代表がワールドカップに出ることなど夢のまた夢だと思われていま
した。

それが、ワールドカップで2度の予選突破を経験し、次の大会では、8強、4強を期待さ
れています。

一体どうしてしまったのでしょうか。

■もちろんJリーグの発足以来、日本のサッカー協会が、長期的なビジョンで育成システ
ムを構築し、機能させてきたからにほかなりません。

が、それにしても、成長のスピードが速くないですか??

一説にはマンガ「キャプテン翼」を読んでその気になった子供たちが才能を開花させたの
だと言われているらしいですが、同マンガは、海外の選手も必死になって読んでいるので、
日本人だけの力になっているわけではありません。

注)「キャプテン翼」の影響を受けた海外の有名選手→・ジダン(フランス)、デル・ピ
エロ(イタリア)、ガットゥーゾ(イタリア)、ザンブロッタ(イタリア)、ピルロ(イ
タリア)、トッティ(イタリア)、メッシ(アルゼンチン)、カンナバーロ(イタリア)、
フェルナンド・トーレス(スペイン) ただしネット情報ですが。

■日本代表がワールドカップで初めて予選突破したのは、2002年の日韓共催大会にお
いてでした。

ただしこの大会では、主催国シードがあったために組み合わせが若干有利な状況にありま
した。それでもトルシエはいい仕事をしたわけなんですが。

次に予選突破したのが、南アフリカ大会です。オランダ、デンマーク、カメルーンと同組
のこの時は、シードでもなんでもなく、ガチンコの突破です。

この時の代表監督は岡田武史氏。前評判は決してよいものではありませんでした。

第1戦のカメルーン戦で、特徴的だったのは、きわめて守備的な戦いだったこと。およそ
綺麗な試合はこびではありませんでした。

それでも勝ちは勝ち。オランダには1-0で敗れたものの、最後のデンマークに3-1で
勝って予選突破を決めました。

■当時、いわれていたのが、岡田監督は壮行試合で韓国に完敗したのを受けて、守備的に
ならざるを得ず、それが奏功したのだと。

私も素人ながら、えらい消極的な戦いだなーーと思った記憶があります。

それでも勝ちは勝ち。ワールドカップで綺麗な勝ち方を求めるほど日本は強豪ではありま
せんから。

もっとも南アフリカ大会は総じて守備的に戦うチームが勝ち残っていきました。だから岡
田監督の戦術眼は正しかったのです。

■しかし、岡田監督は、大会後のインタビューで全く違うことを言っていました。

手元にそのインタビューがないので正確には再現できませんが、岡田監督は「単に守備的
に戦っているだけなら勝てなかった」と言っていました。

それよりも彼が目指したのは「1対1で勝てるサッカー」だそうです。

本来、岡田監督は「欧米人と1対1で戦えば勝てないから組織で戦おう」と考えていたの
ですが、これが難しい。相手が個人技だけのチームなら通用するのでしょうが、組織的に
戦ってくるチームなら、どうしても最後の局面で1対1にされてしまって、勝ちきれない。

岡田監督は、ある時「1対1で勝たなければならない」と考えを変えたらしい。

確かにパワーでは勝てない。トップスピードでも勝てない。ところが日本人特有の身のこ
なしで、相手よりも動き出しを早くすれば、1対1でも勝てるのではないか。

専門家の意見を聞きながら、日本人でも欧米人に勝てる身体の使い方を追求し、その特徴
を活かせる戦術を作ろうとした。

それが、あの守備的な戦い方だというのです。

大会後のインタビューですから、物語風に作られている部分があるかも知れませんが、
「1対1でも勝てる」という確信を得たことにより、監督自身が、迷いなく大会に臨めた
ことが伝わってきました。

まさに「1対1でも世界で戦える」という確信が、岡田監督の脳内リミットを外したのです。

■その時、岡田監督がチームの中心として期待したのは、本田圭祐という選手でした。

彼は、日本人離れした身体の強さとキープ力のある選手でした。

さらに、岡田監督が着目したのは、他の日本人選手にない精神の持ち様です。

あの大会当時、本田圭祐のビッグマウスばかりが面白おかしく取り上げられていましたが、
今になって聞いてみると、計算の上、意図した発言だったことがわかります。

決して、若気の至りといった軽い内容ではありません。

参考:強烈な目標達成意識について
http://plaza.rakuten.co.jp/createvalue/diary/201208140000/

「成果を上げる秘訣は、成果とは何かを知ることである」といいますが、本田圭祐は20
代にして、既にその秘訣を明確に意識している人のようです。

本田選手に限らず、一流のスポーツ選手の発言には、老成した人に似た重みと深みがあり
ます。師匠と呼ばせていただきます。

■あの大会、リミットを外したのは、岡田監督だけではなかったはずです。

長友佑都にしろ、遠藤保仁にしろ、中澤佑二にしろ、田中マルクス闘莉王にしろ、憑かれ
たように戦っていました。

本田圭祐はもともとリミットがないような人ですから、その他の選手は彼に引きずられた
のかも知れません。

薄笑いを浮かべて前線でボールキープする本田圭祐を見ていると、こいつ本当に日本人か
と思ったものです。

そこには、国際大会で余裕を失ってミスを連発するひ弱な日本人の姿はありません。

ワールドカップの舞台を自分の庭にしてしまった人物の姿でした。

■脳科学者ではないので偉そうなことは言えませんが、どうも人間には、リミットを外す
という瞬間があるらしい。

コンサルティングをしていても感じます。「絶対無理」だと思われていた目標に一人が本
気になって挑戦すると、それに同調する人々が次々と現れます。

不思議ですが、何かがチーム内で伝染しているらしい。

そして一人がその目標を達成すると、他の人たちも軽々とクリアするようになります。

だから、コンサルティングの鍵の一つは、リミットに挑戦しようと意欲を持つ人を見つけ
ることです。

■どんな元気のないヘタレ組織の中にも、現状を変えたいと願う人たちがいるものです。

さらにその中には、自ら変革の中心になろうとする意欲を持った人がいます。

必ずいます。

私は、論理性を重視したコンサルティングを自認していますが、だからといって人間の精
神を軽視しているわけではありません。

現実には、完璧な理論を持った批判者よりも、未熟な論理しか持たない行動者が組織を動
かしていきます。

だから、組織を変革するためには、そういうキーとなる人物を探し出して、協力して取り
組むことです。

戦略は、行動者のエネルギーを一つのベクトルにまとめる役割を果たします

■そんな組織変革のキーとなる人物とはどういう人か。

私の拙い経験ではありますが、次のような特徴を持っています。

1.現場感覚を持つ。現場のことを聞くと、すぐに答えられる。

2.ものごとのいい面を見る。悪い面には頓着しない。

3.当事者意識を持つ。責任感がある。

4.すぐに放り出さない。

■逆にいうと、次のような人は役に立ちません。

1.現場のことを臨場感を持って話すことができない。

2.批判が多い。揶揄したり、茶化したりする。

3.常に自分を「安全地帯」に置いている。

4.すぐに放り出す。続かない。最後まで貫徹しない。

組織には2割か3割、そういう人がいます。

最初の段階で、そういう人にフォーカスすると、時間ばかりかかって、成果につながりま
せん。

申し訳ないが、最初の段階では、置いていくしかありません。

リミットを外した人たちの影響を受けることを期待します。

ひどい場合は、排除した方が、組織のためですね。

■私が思うに、日本のサッカーにおいて、2010年のワールドカップは、代表選手だけ
ではなく、後に続く多くの若者のリミットを外したのではないか。

長友佑都、川島永嗣の活躍は言うに及ばず、その下の世代、香川真司や吉田麻也、宮市亮
といった選手が目を見張る活躍を見せています。

今回のオリンピックで谷間世代といわれた若者が自信を持って戦う姿を見て、そう感じた
次第です。




(2012年9月6日メルマガより)



■少し古い話になりますが、ロンドン・オリンピックは、
連日のメダルラッシュで、なに
げに盛り上がりましたね。

男子柔道が金メダルなしというのは困った事態ですが、それ以外の競技では、日本人初と
か十数年ぶりとかいうメダルが多かったように思います。

その後の報道などを見ていると、どうやら国をあげて競技者の支援を行っているらしい。

参考:ロンドンオリンピック 過去最多メダル獲得の影に国家戦略あり!
http://www.excite.co.jp/News/column_g/20120814/Topbrain_column_detail_384.html

これまで体育には熱心でも、競技への支援には無頓着だった日本も、ようやくベクトルを
合わせてきたようですね。

■もっとも、競技に対する姿勢は、韓国や北朝鮮とは隔たりがあります。

参考:選手数、日本の2割で金4個 北朝鮮の「なぜ」
http://s.nikkei.com/OWdwPb

参考:ポジショニングか能力か ロンドン・オリンピックの結果を戦略論にこじつけて解
釈する http://diamond.jp/articles/-/23387

上記(下の方)の記事によると、日本は全メダル総数における銀と銅の割合が最も多い国
であるということです。

金メダルの比率が少ない...ということは、そこそこできる人は多いが、世界トップは少な
いということになるのですかね。

あるいは、世界トップクラスの実力がありながら、本番では今一つ実力を発揮できない人
が多いのか。

その両方という気がするのですが、国家の支援によりメダル総数が増えてきた現状を見れ
ば、やはり全体の底上げは進んでいると考えてもよいのではないでしょうか。

■ところが、韓国や北朝鮮は、全体の底上げというよりも、才能のある個人を集中支援し
て、一点突破で金メダルを狙う方策です。

これはオリンピックで金メダルをとることが、国威高揚や国際社会での地位向上につなが
ると考えてのことでしょう。

少ない資源で競争に勝とうとすれば、「ポジショニング」戦略をとることが理にかなって
いるし、手っ取り早いわけです。

まさに自国を小国だと捉えた戦略選択です。

■それに対して、日本は「(人材)資源」を強化するという方策をとっています。

これは、アメリカ、ドイツ、フランスなどの大国がとるべき戦略で、豊富な人口を背景に、
全体の底上げを図ることで、突出した個人が出てくることを待つというものです。

そもそも、先進国は、特にオリンピックで勝たなくても、国家の威信が揺らぐわけではな
いので、無理にサイボーグのような競技者を作る必要はありません。

むしろ、非人道的な強化策が、世論の反発を買うかも知れません。

中国やロシアなど旧共産圏は、未だ無理目の強化策をとっているかも知れませんが、日本
がそこまでする必要はない。

なんせ1億2千万人の人口を抱える国ですから。そこそこ大国ですよ。

■...なんていうところが、日本の中途半端なところなんですね。

小国なのか大国なのか。

弱者なのか強者なのか。

微妙な位置にいるので、大胆に戦略を決めることができません。

スポーツに関する限り、個人的には、今の通り、全体の底上げを図る支援策でいいと思い
ます。

それぞれが好きなスポーツをやればいい。室伏広治に「ハンマー投げなんてやめて、レス
リングをしろ」なんてことを言う権利など誰にもない社会であってほしい。

ところが、国家の存亡に関わる経済政策においても、ポジショニング戦略がとれないとこ
ろに問題があります。

なぜなら日本は今後、確実に人口を減らせていきます。労働人口はさらに減り、高齢化し
ていきます。

そのような状況で、総花的な方向性しか出せない大国然とした状態では、立ちいかなくな
ることは目に見えています。

日本は、小国であり、弱者であるという立場に立たなければならない局面にきているのです。

まあ、そういうことが「戦略」の普及を目指す我々ランチェスター協会の使命感です。

大きな話は、これぐらいにしておきましょう^^

■オリンピックの話に戻りますが、メダルには届かなかったものの男子サッカーの活躍は
盛り上がりましたね。

オリンピックが始まる前は、女子サッカーはメダル確実だが、男子は予選突破も難しいと
いわれていました。(by釜本邦茂)

ところが始まってみると、優勝候補のスペインを破るわ、負けないわの活躍で4強にまで
進出しました。

日本のサッカーも強くなったもんですねーー

今やマンチェスターユナイテッドやインテルミラノで日本人プレーヤーが活躍する時代
です。

そのうちFCバルセロナでも活躍する選手が出るでしょうね。

私が学生の頃は、日本代表がワールドカップに出ることなど夢のまた夢だと思われていま
した。

それが、ワールドカップで2度の予選突破を経験し、次の大会では、8強、4強を期待さ
れています。

一体どうしてしまったのでしょうか。

■もちろんJリーグの発足以来、日本のサッカー協会が、長期的なビジョンで育成システ
ムを構築し、機能させてきたからにほかなりません。

が、それにしても、成長のスピードが速くないですか??

一説にはマンガ「キャプテン翼」を読んでその気になった子供たちが才能を開花させたの
だと言われているらしいですが、同マンガは、海外の選手も必死になって読んでいるので、
日本人だけの力になっているわけではありません。

注)「キャプテン翼」の影響を受けた海外の有名選手→・ジダン(フランス)、デル・ピ
エロ(イタリア)、ガットゥーゾ(イタリア)、ザンブロッタ(イタリア)、ピルロ(イ
タリア)、トッティ(イタリア)、メッシ(アルゼンチン)、カンナバーロ(イタリア)、
フェルナンド・トーレス(スペイン) ただしネット情報ですが。

■日本代表がワールドカップで初めて予選突破したのは、2002年の日韓共催大会にお
いてでした。

ただしこの大会では、主催国シードがあったために組み合わせが若干有利な状況にありま
した。それでもトルシエはいい仕事をしたわけなんですが。

次に予選突破したのが、南アフリカ大会です。オランダ、デンマーク、カメルーンと同組
のこの時は、シードでもなんでもなく、ガチンコの突破です。

この時の代表監督は岡田武史氏。前評判は決してよいものではありませんでした。

第1戦のカメルーン戦で、特徴的だったのは、きわめて守備的な戦いだったこと。およそ
綺麗な試合はこびではありませんでした。

それでも勝ちは勝ち。オランダには1-0で敗れたものの、最後のデンマークに3-1で
勝って予選突破を決めました。

■当時、いわれていたのが、岡田監督は壮行試合で韓国に完敗したのを受けて、守備的に
ならざるを得ず、それが奏功したのだと。

私も素人ながら、えらい消極的な戦いだなーーと思った記憶があります。

それでも勝ちは勝ち。ワールドカップで綺麗な勝ち方を求めるほど日本は強豪ではありま
せんから。

もっとも南アフリカ大会は総じて守備的に戦うチームが勝ち残っていきました。だから岡
田監督の戦術眼は正しかったのです。

■しかし、岡田監督は、大会後のインタビューで全く違うことを言っていました。

手元にそのインタビューがないので正確には再現できませんが、岡田監督は「単に守備的
に戦っているだけなら勝てなかった」と言っていました。

それよりも彼が目指したのは「1対1で勝てるサッカー」だそうです。

本来、岡田監督は「欧米人と1対1で戦えば勝てないから組織で戦おう」と考えていたの
ですが、これが難しい。相手が個人技だけのチームなら通用するのでしょうが、組織的に
戦ってくるチームなら、どうしても最後の局面で1対1にされてしまって、勝ちきれない。

岡田監督は、ある時「1対1で勝たなければならない」と考えを変えたらしい。

確かにパワーでは勝てない。トップスピードでも勝てない。ところが日本人特有の身のこ
なしで、相手よりも動き出しを早くすれば、1対1でも勝てるのではないか。

専門家の意見を聞きながら、日本人でも欧米人に勝てる身体の使い方を追求し、その特徴
を活かせる戦術を作ろうとした。

それが、あの守備的な戦い方だというのです。

大会後のインタビューですから、物語風に作られている部分があるかも知れませんが、
「1対1でも勝てる」という確信を得たことにより、監督自身が、迷いなく大会に臨めた
ことが伝わってきました。

まさに「1対1でも世界で戦える」という確信が、岡田監督の脳内リミットを外したのです。

■その時、岡田監督がチームの中心として期待したのは、本田圭祐という選手でした。

彼は、日本人離れした身体の強さとキープ力のある選手でした。

さらに、岡田監督が着目したのは、他の日本人選手にない精神の持ち様です。

あの大会当時、本田圭祐のビッグマウスばかりが面白おかしく取り上げられていましたが、
今になって聞いてみると、計算の上、意図した発言だったことがわかります。

決して、若気の至りといった軽い内容ではありません。

参考:強烈な目標達成意識について
http://plaza.rakuten.co.jp/createvalue/diary/201208140000/

「成果を上げる秘訣は、成果とは何かを知ることである」といいますが、本田圭祐は20
代にして、既にその秘訣を明確に意識している人のようです。

本田選手に限らず、一流のスポーツ選手の発言には、老成した人に似た重みと深みがあり
ます。師匠と呼ばせていただきます。

■あの大会、リミットを外したのは、岡田監督だけではなかったはずです。

長友佑都にしろ、遠藤保仁にしろ、中澤佑二にしろ、田中マルクス闘莉王にしろ、憑かれ
たように戦っていました。

本田圭祐はもともとリミットがないような人ですから、その他の選手は彼に引きずられた
のかも知れません。

薄笑いを浮かべて前線でボールキープする本田圭祐を見ていると、こいつ本当に日本人か
と思ったものです。

そこには、国際大会で余裕を失ってミスを連発するひ弱な日本人の姿はありません。

ワールドカップの舞台を自分の庭にしてしまった人物の姿でした。

■脳科学者ではないので偉そうなことは言えませんが、どうも人間には、リミットを外す
という瞬間があるらしい。

コンサルティングをしていても感じます。「絶対無理」だと思われていた目標に一人が本
気になって挑戦すると、それに同調する人々が次々と現れます。

不思議ですが、何かがチーム内で伝染しているらしい。

そして一人がその目標を達成すると、他の人たちも軽々とクリアするようになります。

だから、コンサルティングの鍵の一つは、リミットに挑戦しようと意欲を持つ人を見つけ
ることです。

■どんな元気のないヘタレ組織の中にも、現状を変えたいと願う人たちがいるものです。

さらにその中には、自ら変革の中心になろうとする意欲を持った人がいます。

必ずいます。

私は、論理性を重視したコンサルティングを自認していますが、だからといって人間の精
神を軽視しているわけではありません。

現実には、完璧な理論を持った批判者よりも、未熟な論理しか持たない行動者が組織を動
かしていきます。

だから、組織を変革するためには、そういうキーとなる人物を探し出して、協力して取り
組むことです。

戦略は、行動者のエネルギーを一つのベクトルにまとめる役割を果たします

■そんな組織変革のキーとなる人物とはどういう人か。

私の拙い経験ではありますが、次のような特徴を持っています。

1.現場感覚を持つ。現場のことを聞くと、すぐに答えられる。

2.ものごとのいい面を見る。悪い面には頓着しない。

3.当事者意識を持つ。責任感がある。

4.すぐに放り出さない。

■逆にいうと、次のような人は役に立ちません。

1.現場のことを臨場感を持って話すことができない。

2.批判が多い。揶揄したり、茶化したりする。

3.常に自分を「安全地帯」に置いている。

4.すぐに放り出す。続かない。最後まで貫徹しない。

組織には2割か3割、そういう人がいます。

最初の段階で、そういう人にフォーカスすると、時間ばかりかかって、成果につながりま
せん。

申し訳ないが、最初の段階では、置いていくしかありません。

リミットを外した人たちの影響を受けることを期待します。

ひどい場合は、排除した方が、組織のためですね。

■私が思うに、日本のサッカーにおいて、2010年のワールドカップは、代表選手だけ
ではなく、後に続く多くの若者のリミットを外したのではないか。

長友佑都、川島永嗣の活躍は言うに及ばず、その下の世代、香川真司や吉田麻也、宮市亮
といった選手が目を見張る活躍を見せています。

今回のオリンピックで谷間世代といわれた若者が自信を持って戦う姿を見て、そう感じた
次第です。




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