サッカーW杯日本代表はなぜ躍進したのか?

2018.07.12

 (2018年7月12日メルマガより)

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サッカーワールドカップロシア大会は、いよいよ佳境を迎えています。

すでに準決勝まで終わって、あとは15日の決勝、フランス対クロアチア戦、14日の3位決定戦、ベルギー対イングランド戦を待つばかりです。

これはちょっと意外でしたね。

てっきり、ベルギー対イングランドが決勝戦をするものと思っていました。

フランスも優勝候補の一つでしたが、王国ブラジルを破り、勢いに乗るベルギーこそ優勝候補筆頭だと思い込んでいました。

それ以上に意外だったのが、人口440万人の小国クロアチアの決勝進出ですよ。

グループリーグを3戦全勝で突破し、ノックアウトステージ(決勝ステージ)ではなんと2試合連続PK戦で勝ち上がると、準決勝のイングランド戦では延長戦の末、撃破しました。

3戦連続延長戦をフルに戦っているわけです。

どんな体力と精神力をしているのでしょうか?

さすがに決勝では、体力的に余裕のあるフランスに分があると思いますが、それでも何が起きるかか分からないのが今大会ですからね。

楽しみにしています。


「おっさんジャパン」はなぜ躍進したのか?


さて日本代表チームは、グループステージを2位で通過し、ノックアウトステージ(決勝ステージ)では、優勝候補といわれていたベルギーと対戦しました。

これは実に凄まじい試合でしたね。

一時は、2-0のリードを得て、ベルギーを「敗退も覚悟した」と言わせるほどでした。

惜しくも後半、3点を返されて、敗退してしまいましたが、そのアグレッシブなサッカースタイルは、世界中のファンを驚かせました。

まさかあの日本代表が?!

と思ったのは、ほかならぬ日本人ファンでしょう。

なにしろ、今大会が始まる前は「おっさんジャパン」と揶揄され、期待感低レベルのチームでしたから。

私も3戦全敗を予想していましたから、グループステージ突破じたいが奇跡のような思いでした。

その上、優勝候補だったベルギーを相手にあれほどの戦いをするとは。

いったいどうなってしまったというのでしょうか。


8年前の南アフリカ大会との共通点


日本代表チームは、1998年のフランス大会からワールドカップに出場しており、ノックアウトステージに進出したのは、2002年の日韓大会、2010年の南アフリカ大会です。

8年ごとに、ノックアウトステージ進出を果たしていることになり、今年は8年ぶりに進出する番だと冗談まじりに言われておりました。

しかも今回、前任のヴァヒド・ハリルホジッチ監督解任を受けて、緊急登板した西野朗監督が率いる日本代表の状況は、8年前に似ていると言えなくもありません。

というのは、8年前も、前任のイビチャ・オシム監督の病気による退任を受けての岡田武史監督が率いる日本代表だったからです。

代表として期待感が低かったのも同じです。

もっとも8年前は、約1年の準備期間がありましたが、今回はたった2か月の準備期間です。

なんだか貧乏くじをつかまされたような西野朗監督が気の毒になるほどで、さすがに今回は期待できないだろうと思うのが普通の考えだったはずです。

しかし、日本代表は躍進しました。8年前と同じです。


ハリルホジッチ前監督の功績


8年前、日本代表は、守備的なサッカーを基本として、グループステージ突破を果たしました。

そこには日本代表そのままの力では、世界の強豪国に太刀打ちできないという現実を冷静に判断した岡田武史監督の決断がありました。

ところが、守備的なだけでは、ノックアウトステージを勝ち切ることはできないことを痛感させられたのも事実でした。

そこで「自分たちのサッカーをする」と言って攻撃的に臨んだ2014年ブラジル大会(アルベルト・ザッケローニ監督)ですが、こちらは1分2敗でグループステージ敗退。

やはりまだ日本代表には、まともに戦って世界に伍していく力はないのだと思わせる結果となりました。

これらの反省を踏まえた今大会、日本代表は、守備と攻撃の切り替えを早くする「守備的でありながら攻撃的な」サッカーで臨みました。

ガチガチに守っていたら攻撃できないので、前線からプレスをかけて、ボールを奪うとすぐに攻撃に移るというカウンターを武器とするサッカーです。

いわば、世界のサッカー中堅国が基本戦術とするサッカーです。今回、日本も世界の流れに倣って採用し、実際に機能しました。

この戦術をものにするために、前任者のハリルホジッチ監督が日本代表に課したのが、一対一のデュエル(決闘)に強い個人技と、縦に早いパスを入れるチームの連携です。

やはりハリルホジッチ前監督の功績なくして、今大会の結果は生まれなかったと認めなければなりません。


サッカー弱小国でも戦う方法があることが見えた


今大会、世界の強豪と堂々渡り合う日本代表をみてわかったことがあります。

まず一つ。日本のトップ選手は、世界レベルでみても、遜色のないテクニックと強さを持っているということ。

いまや日本代表選手のほとんどはヨーロッパで鎬を削り、活躍しています。海外選手の強さを体感しながらテクニックを磨いている選手たちであり、ワールドカップの舞台でも、その実力を発揮していました。

海外移籍を奨励するサッカー協会の方針が効果を上げているということです。

さらに下の世代も育ってきており、将来楽しみになってきます。


もう一つは、海外の強豪といえども弱点を持っているということ。

超人のような海外のスター選手をみているととても対応できないように思えますが、どんなチームにでも穴があります。

ベルギーでさえ、左サイドの守備に弱点を持っており、日本代表はそこを突いて2点を奪いました。

それだけではありません。最大の脅威と目されたルカクなどの超人選手も、その攻撃力をほとんど封じ込みました。

どんな相手でも同じ人間です。戦いようがあることを見事に示してくれました。


もう一つ。組織的に動くチームは強いということ。

日本代表には、突出したスター選手はいませんが、それだけにマークする相手がひとりではありません。組織で連動して動くので、対戦相手は対応に困っていました。

逆に、アルゼンチンやポルトガルなど、個人の能力を全面に押し出して戦うチームは思ったほどの活躍を見せることはできませんでした。

もはやワールドカップは、スター選手の活躍を見せるだけの花試合大会ではなく、戦術を駆使した虚々実々の駆け引きで勝ちにいく場所になりました。

強者として堂々と戦ったブラジルが、ベルギーの戦術に屈したのがいい例です。

思えば、日本代表も、2点リードした時点で、戦術を変えてきたベルギーに対応できなかったことが大きな敗因でした。

この結果を踏まえて、日本代表にはより多彩な戦術を駆使できるチーム作りが求められますし、同時に世界の各国も、クラブチームなみの洗練された戦術オプションを持つことが命題となってくるでしょう。


西野朗監督の手腕


このたび、ハリルホジッチ前監督が「私が監督なら、ベルギーに逆転されなかった」との発言をしたという報道がありました。

そうかも知れません。老練なヨーロッパの監督なら、2-0になった時点で、逃げ切るための戦い方をオプションとして持っていたことでしょう。

ただ、ハリルホジッチ監督のままなら、そもそもグループリーグを突破できずに、ベルギー戦も実現しなかったのではないかと多くの人が思っているはずです。

今回、多くの報道から、西野監督になってからの日本代表チームの一体感が確かなものであったと聞こえてきました。

大迫勇也、乾貴士、柴崎岳といった新戦力に加えて、本田圭佑、香川真司、長友佑都、岡崎慎司といったベテラン勢が、それぞれの持ち場で、生き生きと活躍したことからも伺い知れます。

約2か月の準備期間しかなかったにも関わらず、不協和音が聞こえていた代表チームをまとめあげた西野監督の手腕は、称賛して余りあるものだといえるでしょう。

いったいどのようにして、日本代表のようなプロ集団をひとつにまとめていったのでしょうか。


選手間に浸透していた西野監督のビジョン


さいわいワールドカップに関する記事や報道は多く、西野監督のマネジメントについても、様々な情報が伝わってきます。

そんな諸々の報道をみていて、西野監督がチームを一体にした要因として、私があげたいのは、下記の3つです。

(1)まず一つ目。目標を明確にしたこと。

具体的には「8強進出」を目標とし、そのためにはすべてを犠牲にするという覚悟をチームに示しました。

リーダーの仕事の最大のものはビジョンを示すことです。スポーツチームは最初から目標達成型の集団ですが、それでも目標がぶれることがあります。

前大会の「日本らしいサッカーをする」というビジョンじたいが、自己満足したいのか、勝ちたいのか、矛盾を含んでいます。

ところが今回は「8強進出」のために、ポーランド戦で1点差負けを受け入れるという非常に難しい決断をしました。

(勝ち点差で並んでいるセネガルがコロンビアに負けていたため、警告数の差で2位通過ができると目されていた)

要するに、1点差負けなら、グループステージ突破が可能になるという状況です。

ポーランド戦では、控え組を中心に戦ったのですが、パフォーマンスが低調で、点をとれるような気配がありませんでした。

それなら、コロンビアがセネガルにこのまま勝ち切る方に賭けようという西野監督の勝負士らしい冷徹な判断です。

ここで「お客さんに変な試合を見せられない」「攻め切るのが日本らしいサッカーだ」などと余計なことを考えると目標と矛盾してしまいます。

「いや、そもそもポーランド戦で勝つためには、主力組を大量に休ませるなど無謀ではなかったのか?」という批判もありました。

が、これも「8強進出」のためです。単にグループステージ突破のためだけなら、主力組で戦えばよかったのです。

しかしノックアウトステージを勝ち上がるためには、主力組を休ませる必要がありました。この措置が、ベルギー戦でのハイパフォーマンスにつながったのだから間違ってはいません。(逆に、ポーランド戦にフル出場した柴崎は、ベルギー戦の後半疲弊して交替を余儀なくされました)

ポーランド戦後、日本国内からもその戦術に賛否巻き起こりましたが、選手からはチーム戦術を批判する声は聞こえてきませんでした。

これは、西野監督のビジョンや目標が、選手間に共有されていたという証拠だと思います。


爆発的だったコミュニケーション解禁


(2)コミュニケーションを重視したこと。

上の「8強進出」という目標は、前大会からの日本代表の命題であり、ハリルホジッチ監督にも課せられていたものでした。

しかし、前監督になかったのは、日本人選手との充分なコミュニケーションでした。

この点、西野監督になってから、爆発的とでもいいたくなるような、チーム内でのコミュニケーションがとられたことが、様々な報道から伺い知れます。

西野監督じたい、選手一人一人と対話することを重視したようですし、選手間同士のミーティングも積極的に奨励したようです。

この点、ハリルホジッチ前監督は、ヨーロッパ人らしい厳格なリーダーシップを志向し、選手間同士のミーティングは禁止していたそうです。

余計なことは考えなくていい。方針はすべておれが決めるというスタイルですね。

ところが西野監督は、自身とぼけたおやじを演じ(天然だったという話も)委縮した選手たちをほぐしました。



ハリルホジッチ時代に冷遇されていた本田圭佑選手の変心も重要です。

大会前、NHKの番組で「プロフェッショナルとは...(長い沈黙の後)...ケイスケ・ホンダ」と発言して、日本中にイタい奴認定されてしまった本田選手ですが、今大会においては、自らイタい奴キャラを認め、若い選手からいじられまくっていたそうです。

ベテランである本田選手が道化役を買ってまでチームのコミュニケーションを活性化させた効果は非常に大きかったと言えるでしょう。


日本の強みは、ベテラン選手のアドリブから生まれた


(3)選手に任せたこと。

西野監督に与えられた準備期間は約2カ月でした。その期間でできることはあまりありません。

そこで西野監督は「お前はどうしたい」「どうすればいいと思う?」と選手に聞いて回ったと言われています。

ハリルホジッチ前監督ならありえなかったことでしょう。

もともとハリルホジッチ前監督に鍛えられた基本戦術があり、そこに選手が自主的にアレンジする権利が与えられたわけです。

何が起こるかわからない本番に対応するためには、現場で臨機応変に動くことが求められます。

特に今大会のように準備期間が短い場合、現場対応の力が必要不可欠です。

ことに今の日本代表は、世界で戦っている選手たちであり、自分独自のサッカー観や戦術眼を持っているはずです。

そんな選手たちですから、ヨーロッパの有名監督であるといえ、箍(たが)をはめられるのは、欲求不満のたまることだったと思います。

そんな箍が外れて、一気に爆発した。その勢いが、今大会の日本代表の躍進の原動力になった側面は大きかったと思います。

逆にいうと、今大会の日本代表は、ベテラン勢の現場におけるアドリブに頼ったチームです。

そのために、選手たちが気持ちよくプレーできる状況を作る。これが西野監督の基本プランだったということです。

準備期間2カ月の中で、割り切って、できることをやりきった見事なマネジメントであったと評価したいと思います。


西野朗監督の失策


しかし、2点リードしたベルギー戦で、逆転を許してしまったのは、準備期間が短すぎて、「守りきる」というオプションを用意できなかったということでもあります。

ベルギーは、2点リードされた時点で、戦術を変更し、高さと強度で圧倒するパワープレイに出ました。

これに対抗する術は今の日本代表にはありません。

いや、今回の敗戦だけではありません。ベルギー戦の後半3失点は、日本攻略法を世界に晒してしまったといえるでしょう。

特に最後の1点。終了間際のカウンターによる1点は、西野監督の失策だといわれても仕方ありません。

守ってもパワープレイは防ぎようがない。だから攻める。という姿勢はわかりますが、終了間際のカウンターによる失点はさすがに防がなければいけません。

ここは「8強進出」という目標にとっても間違った指示であったと思います。


ワールドカップそのものの方向性が決まった


それにしても今大会、クロアチアだけではなく、ロシア、スウェーデン、メキシコといった中堅国の健闘が目立ちました。

弱者は弱者なりに、強豪国を分析して、強みを消し、弱点を突く戦術が相当以上に機能することを示してくれました。

そればかりか、ベルギーのような強国でも、戦術変更を駆使して、局面を打開するオプションを持っていることを示しました。

今大会を受けて、各国は、戦術オプションを複数持ち、状況に応じて使い分ける柔軟性を持つことをスタンダードにしてくるでしょう。

日本代表も、今大会で戦い方や強化の方向性がはっきりしたはずです。

私のようなにわかファンでもそれなりに、戦術というものを意識してみるようになったわけで、4年後にむけたプロセスを、厳しく評価され続けることを覚悟してもらわなければなりません。

ともあれ、今大会は面白かった。(まだ終わっていませんが)

新たな局面に入るワールドカップに向けて、期待していきたいと思います。





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サッカーワールドカップロシア大会は、いよいよ佳境を迎えています。

すでに準決勝まで終わって、あとは15日の決勝、フランス対クロアチア戦、14日の3位決定戦、ベルギー対イングランド戦を待つばかりです。

これはちょっと意外でしたね。

てっきり、ベルギー対イングランドが決勝戦をするものと思っていました。

フランスも優勝候補の一つでしたが、王国ブラジルを破り、勢いに乗るベルギーこそ優勝候補筆頭だと思い込んでいました。

それ以上に意外だったのが、人口440万人の小国クロアチアの決勝進出ですよ。

グループリーグを3戦全勝で突破し、ノックアウトステージ(決勝ステージ)ではなんと2試合連続PK戦で勝ち上がると、準決勝のイングランド戦では延長戦の末、撃破しました。

3戦連続延長戦をフルに戦っているわけです。

どんな体力と精神力をしているのでしょうか?

さすがに決勝では、体力的に余裕のあるフランスに分があると思いますが、それでも何が起きるかか分からないのが今大会ですからね。

楽しみにしています。


「おっさんジャパン」はなぜ躍進したのか?


さて日本代表チームは、グループステージを2位で通過し、ノックアウトステージ(決勝ステージ)では、優勝候補といわれていたベルギーと対戦しました。

これは実に凄まじい試合でしたね。

一時は、2-0のリードを得て、ベルギーを「敗退も覚悟した」と言わせるほどでした。

惜しくも後半、3点を返されて、敗退してしまいましたが、そのアグレッシブなサッカースタイルは、世界中のファンを驚かせました。

まさかあの日本代表が?!

と思ったのは、ほかならぬ日本人ファンでしょう。

なにしろ、今大会が始まる前は「おっさんジャパン」と揶揄され、期待感低レベルのチームでしたから。

私も3戦全敗を予想していましたから、グループステージ突破じたいが奇跡のような思いでした。

その上、優勝候補だったベルギーを相手にあれほどの戦いをするとは。

いったいどうなってしまったというのでしょうか。


8年前の南アフリカ大会との共通点


日本代表チームは、1998年のフランス大会からワールドカップに出場しており、ノックアウトステージに進出したのは、2002年の日韓大会、2010年の南アフリカ大会です。

8年ごとに、ノックアウトステージ進出を果たしていることになり、今年は8年ぶりに進出する番だと冗談まじりに言われておりました。

しかも今回、前任のヴァヒド・ハリルホジッチ監督解任を受けて、緊急登板した西野朗監督が率いる日本代表の状況は、8年前に似ていると言えなくもありません。

というのは、8年前も、前任のイビチャ・オシム監督の病気による退任を受けての岡田武史監督が率いる日本代表だったからです。

代表として期待感が低かったのも同じです。

もっとも8年前は、約1年の準備期間がありましたが、今回はたった2か月の準備期間です。

なんだか貧乏くじをつかまされたような西野朗監督が気の毒になるほどで、さすがに今回は期待できないだろうと思うのが普通の考えだったはずです。

しかし、日本代表は躍進しました。8年前と同じです。


ハリルホジッチ前監督の功績


8年前、日本代表は、守備的なサッカーを基本として、グループステージ突破を果たしました。

そこには日本代表そのままの力では、世界の強豪国に太刀打ちできないという現実を冷静に判断した岡田武史監督の決断がありました。

ところが、守備的なだけでは、ノックアウトステージを勝ち切ることはできないことを痛感させられたのも事実でした。

そこで「自分たちのサッカーをする」と言って攻撃的に臨んだ2014年ブラジル大会(アルベルト・ザッケローニ監督)ですが、こちらは1分2敗でグループステージ敗退。

やはりまだ日本代表には、まともに戦って世界に伍していく力はないのだと思わせる結果となりました。

これらの反省を踏まえた今大会、日本代表は、守備と攻撃の切り替えを早くする「守備的でありながら攻撃的な」サッカーで臨みました。

ガチガチに守っていたら攻撃できないので、前線からプレスをかけて、ボールを奪うとすぐに攻撃に移るというカウンターを武器とするサッカーです。

いわば、世界のサッカー中堅国が基本戦術とするサッカーです。今回、日本も世界の流れに倣って採用し、実際に機能しました。

この戦術をものにするために、前任者のハリルホジッチ監督が日本代表に課したのが、一対一のデュエル(決闘)に強い個人技と、縦に早いパスを入れるチームの連携です。

やはりハリルホジッチ前監督の功績なくして、今大会の結果は生まれなかったと認めなければなりません。


サッカー弱小国でも戦う方法があることが見えた


今大会、世界の強豪と堂々渡り合う日本代表をみてわかったことがあります。

まず一つ。日本のトップ選手は、世界レベルでみても、遜色のないテクニックと強さを持っているということ。

いまや日本代表選手のほとんどはヨーロッパで鎬を削り、活躍しています。海外選手の強さを体感しながらテクニックを磨いている選手たちであり、ワールドカップの舞台でも、その実力を発揮していました。

海外移籍を奨励するサッカー協会の方針が効果を上げているということです。

さらに下の世代も育ってきており、将来楽しみになってきます。


もう一つは、海外の強豪といえども弱点を持っているということ。

超人のような海外のスター選手をみているととても対応できないように思えますが、どんなチームにでも穴があります。

ベルギーでさえ、左サイドの守備に弱点を持っており、日本代表はそこを突いて2点を奪いました。

それだけではありません。最大の脅威と目されたルカクなどの超人選手も、その攻撃力をほとんど封じ込みました。

どんな相手でも同じ人間です。戦いようがあることを見事に示してくれました。


もう一つ。組織的に動くチームは強いということ。

日本代表には、突出したスター選手はいませんが、それだけにマークする相手がひとりではありません。組織で連動して動くので、対戦相手は対応に困っていました。

逆に、アルゼンチンやポルトガルなど、個人の能力を全面に押し出して戦うチームは思ったほどの活躍を見せることはできませんでした。

もはやワールドカップは、スター選手の活躍を見せるだけの花試合大会ではなく、戦術を駆使した虚々実々の駆け引きで勝ちにいく場所になりました。

強者として堂々と戦ったブラジルが、ベルギーの戦術に屈したのがいい例です。

思えば、日本代表も、2点リードした時点で、戦術を変えてきたベルギーに対応できなかったことが大きな敗因でした。

この結果を踏まえて、日本代表にはより多彩な戦術を駆使できるチーム作りが求められますし、同時に世界の各国も、クラブチームなみの洗練された戦術オプションを持つことが命題となってくるでしょう。


西野朗監督の手腕


このたび、ハリルホジッチ前監督が「私が監督なら、ベルギーに逆転されなかった」との発言をしたという報道がありました。

そうかも知れません。老練なヨーロッパの監督なら、2-0になった時点で、逃げ切るための戦い方をオプションとして持っていたことでしょう。

ただ、ハリルホジッチ監督のままなら、そもそもグループリーグを突破できずに、ベルギー戦も実現しなかったのではないかと多くの人が思っているはずです。

今回、多くの報道から、西野監督になってからの日本代表チームの一体感が確かなものであったと聞こえてきました。

大迫勇也、乾貴士、柴崎岳といった新戦力に加えて、本田圭佑、香川真司、長友佑都、岡崎慎司といったベテラン勢が、それぞれの持ち場で、生き生きと活躍したことからも伺い知れます。

約2か月の準備期間しかなかったにも関わらず、不協和音が聞こえていた代表チームをまとめあげた西野監督の手腕は、称賛して余りあるものだといえるでしょう。

いったいどのようにして、日本代表のようなプロ集団をひとつにまとめていったのでしょうか。


選手間に浸透していた西野監督のビジョン


さいわいワールドカップに関する記事や報道は多く、西野監督のマネジメントについても、様々な情報が伝わってきます。

そんな諸々の報道をみていて、西野監督がチームを一体にした要因として、私があげたいのは、下記の3つです。

(1)まず一つ目。目標を明確にしたこと。

具体的には「8強進出」を目標とし、そのためにはすべてを犠牲にするという覚悟をチームに示しました。

リーダーの仕事の最大のものはビジョンを示すことです。スポーツチームは最初から目標達成型の集団ですが、それでも目標がぶれることがあります。

前大会の「日本らしいサッカーをする」というビジョンじたいが、自己満足したいのか、勝ちたいのか、矛盾を含んでいます。

ところが今回は「8強進出」のために、ポーランド戦で1点差負けを受け入れるという非常に難しい決断をしました。

(勝ち点差で並んでいるセネガルがコロンビアに負けていたため、警告数の差で2位通過ができると目されていた)

要するに、1点差負けなら、グループステージ突破が可能になるという状況です。

ポーランド戦では、控え組を中心に戦ったのですが、パフォーマンスが低調で、点をとれるような気配がありませんでした。

それなら、コロンビアがセネガルにこのまま勝ち切る方に賭けようという西野監督の勝負士らしい冷徹な判断です。

ここで「お客さんに変な試合を見せられない」「攻め切るのが日本らしいサッカーだ」などと余計なことを考えると目標と矛盾してしまいます。

「いや、そもそもポーランド戦で勝つためには、主力組を大量に休ませるなど無謀ではなかったのか?」という批判もありました。

が、これも「8強進出」のためです。単にグループステージ突破のためだけなら、主力組で戦えばよかったのです。

しかしノックアウトステージを勝ち上がるためには、主力組を休ませる必要がありました。この措置が、ベルギー戦でのハイパフォーマンスにつながったのだから間違ってはいません。(逆に、ポーランド戦にフル出場した柴崎は、ベルギー戦の後半疲弊して交替を余儀なくされました)

ポーランド戦後、日本国内からもその戦術に賛否巻き起こりましたが、選手からはチーム戦術を批判する声は聞こえてきませんでした。

これは、西野監督のビジョンや目標が、選手間に共有されていたという証拠だと思います。


爆発的だったコミュニケーション解禁


(2)コミュニケーションを重視したこと。

上の「8強進出」という目標は、前大会からの日本代表の命題であり、ハリルホジッチ監督にも課せられていたものでした。

しかし、前監督になかったのは、日本人選手との充分なコミュニケーションでした。

この点、西野監督になってから、爆発的とでもいいたくなるような、チーム内でのコミュニケーションがとられたことが、様々な報道から伺い知れます。

西野監督じたい、選手一人一人と対話することを重視したようですし、選手間同士のミーティングも積極的に奨励したようです。

この点、ハリルホジッチ前監督は、ヨーロッパ人らしい厳格なリーダーシップを志向し、選手間同士のミーティングは禁止していたそうです。

余計なことは考えなくていい。方針はすべておれが決めるというスタイルですね。

ところが西野監督は、自身とぼけたおやじを演じ(天然だったという話も)委縮した選手たちをほぐしました。



ハリルホジッチ時代に冷遇されていた本田圭佑選手の変心も重要です。

大会前、NHKの番組で「プロフェッショナルとは...(長い沈黙の後)...ケイスケ・ホンダ」と発言して、日本中にイタい奴認定されてしまった本田選手ですが、今大会においては、自らイタい奴キャラを認め、若い選手からいじられまくっていたそうです。

ベテランである本田選手が道化役を買ってまでチームのコミュニケーションを活性化させた効果は非常に大きかったと言えるでしょう。


日本の強みは、ベテラン選手のアドリブから生まれた


(3)選手に任せたこと。

西野監督に与えられた準備期間は約2カ月でした。その期間でできることはあまりありません。

そこで西野監督は「お前はどうしたい」「どうすればいいと思う?」と選手に聞いて回ったと言われています。

ハリルホジッチ前監督ならありえなかったことでしょう。

もともとハリルホジッチ前監督に鍛えられた基本戦術があり、そこに選手が自主的にアレンジする権利が与えられたわけです。

何が起こるかわからない本番に対応するためには、現場で臨機応変に動くことが求められます。

特に今大会のように準備期間が短い場合、現場対応の力が必要不可欠です。

ことに今の日本代表は、世界で戦っている選手たちであり、自分独自のサッカー観や戦術眼を持っているはずです。

そんな選手たちですから、ヨーロッパの有名監督であるといえ、箍(たが)をはめられるのは、欲求不満のたまることだったと思います。

そんな箍が外れて、一気に爆発した。その勢いが、今大会の日本代表の躍進の原動力になった側面は大きかったと思います。

逆にいうと、今大会の日本代表は、ベテラン勢の現場におけるアドリブに頼ったチームです。

そのために、選手たちが気持ちよくプレーできる状況を作る。これが西野監督の基本プランだったということです。

準備期間2カ月の中で、割り切って、できることをやりきった見事なマネジメントであったと評価したいと思います。


西野朗監督の失策


しかし、2点リードしたベルギー戦で、逆転を許してしまったのは、準備期間が短すぎて、「守りきる」というオプションを用意できなかったということでもあります。

ベルギーは、2点リードされた時点で、戦術を変更し、高さと強度で圧倒するパワープレイに出ました。

これに対抗する術は今の日本代表にはありません。

いや、今回の敗戦だけではありません。ベルギー戦の後半3失点は、日本攻略法を世界に晒してしまったといえるでしょう。

特に最後の1点。終了間際のカウンターによる1点は、西野監督の失策だといわれても仕方ありません。

守ってもパワープレイは防ぎようがない。だから攻める。という姿勢はわかりますが、終了間際のカウンターによる失点はさすがに防がなければいけません。

ここは「8強進出」という目標にとっても間違った指示であったと思います。


ワールドカップそのものの方向性が決まった


それにしても今大会、クロアチアだけではなく、ロシア、スウェーデン、メキシコといった中堅国の健闘が目立ちました。

弱者は弱者なりに、強豪国を分析して、強みを消し、弱点を突く戦術が相当以上に機能することを示してくれました。

そればかりか、ベルギーのような強国でも、戦術変更を駆使して、局面を打開するオプションを持っていることを示しました。

今大会を受けて、各国は、戦術オプションを複数持ち、状況に応じて使い分ける柔軟性を持つことをスタンダードにしてくるでしょう。

日本代表も、今大会で戦い方や強化の方向性がはっきりしたはずです。

私のようなにわかファンでもそれなりに、戦術というものを意識してみるようになったわけで、4年後にむけたプロセスを、厳しく評価され続けることを覚悟してもらわなければなりません。

ともあれ、今大会は面白かった。(まだ終わっていませんが)

新たな局面に入るワールドカップに向けて、期待していきたいと思います。





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