リオ五輪 男子柔道はなぜ躍進したのか?

2016.08.25

(2016年8月25日メルマガより)


ブラジルのリオデジャネイロで開催されたオリンピックが閉会しました。

開催される前は、え、いつやるんだっけ?ぐらいのテンションでしたが、始まってみるとやはり盛り上がるもんですね。

特に今大会の日本はメダルラッシュ。

金12個。銀8個。銅21個の計41個は、過去最高のメダル獲得数だということです。

(金メダル獲得数は、64年の東京大会と04年のアテネ大会の16個が最高)

日本時間で夜中の開催であるにも関わらず、ライブで観た方は多かったのではないでしょうか。

■それにしても、なぜ日本選手団はこれほど調子がよかったのでしょうか。

北京、ロンドン、リオと続く夏季オリンピックのメダル獲得総数をみてみると、日本は25個、38個、41個と右肩上がりになっていることがわかります。

メダル獲得総数上位10国の推移をみていると

1位 アメリカ 110個、104個、121個(増加)

2位 中国 100個、87個、70個(減少)

3位 ロシア 73個、82個、56個(減少)

4位 イギリス 47個、65個、67個(増加)

5位 ドイツ 41個、44個、42個(横ばい)

6位 フランス 41個、34個、42個(横ばい)

7位 オーストラリア 46個、35個、29個(減少)

8位 日本 25個、38個、41個(増加)

9位 イタリア 27個、28個、28個(横ばい)

10位 韓国 31個、28個、21個(減少)

となっています。

つまり、中国とロシアの減少が大きく、その影響を他国は受けたといえるでしょう。

■アメリカは別格として、自国開催の国は強化策にかける予算も多く、メダル獲得数を伸ばす傾向にあります。

ですから、イギリスや日本は増加させています。

逆に、自国開催を終わらせた中国やオーストラリアは減らす傾向にあります。

そこに、ドーピング問題で参加そのものを制限されたロシアの減少がありました。

それにしても中国がこれほど減らすというのは謎めいています。いろいろ噂は聞きますが、言わないでおきましょう。

■日本の場合、2004年に国立スポーツ科学センター、2008年に味の素ナショナルトレーニングセンターが設立され、五輪競技の指導体制が整備されてきました。

各競技のトップ選手たちは同じ施設での強化トレーニングに参加するようになり、競技の垣根を越えた一体感が生まれるようになりました。

有望選手には、国際試合の出場や海外遠征への参加が義務付け・奨励され、高いレベルでの経験を積む仕組みもできています。

要するに、東京オリンピックに向けた強化策が効果をあげつつあるとみていいのでしょうね。

だから次回東京ではさらに上積みが期待できそうです。

このままロシアや中国の巻き返しがなければ、倍増も期待できるかもしれませんよ。

■たとえば、柔道を例にあげます。

ロンドン五輪では、メダル4個(金メダルなし)の結果に終わり、惨敗したといわれた男子柔道が、リオでは、7個(金2個、銀1個、銅4個)を獲得し、復活を印象づけました。

日本発祥の柔道ですから、強くて当たり前といわれるかもしれませんが、もはやグローバルに展開する競技ですから日本だけが強いというわけではありません。

実際、競技人口をみてみると、日本は17.5万人。

これに対して、フランスは56万人、ドイツは18万人。

ブラジルに至っては、200万人です。

単純な競技人口比でみても、日本はすでに遅れをとっています。

参考:http://kimuramasahiko.blog.fc2.com/img/judo_map.gif/

■しかも国際化したJUDOは、既に日本の柔道ではありません。柔道とJUDOは似て非なるものといっても過言ではありません。

日本式柔道に慣れた実力者が国際大会で勝てないのも当然です。違う競技に参加しているようなものですから。

近年の日本柔道の低迷は、違う競技になってしまったJUDOに、本来の柔道のつもりで参加してきたことに発していると考えます。

■ロンドン五輪の結果を受けて、新たに就任した井上康生監督がやったことは、きわめて論理的でした。

(1)指導者の海外派遣。

柔道は日本のものだから、日本の指導法が最も優れているという考えを捨て、JUDOの指導方法を学びにいかせました。

JUDOだと馬鹿にすることはできません。その指導法の多くは、科学的合理的であったといわれています。

(2)選手ごとの担当コーチ制。

本来、選手の個性、状態によって、指導内容は変えるべきです。その当たり前のことを、体制として整えました。

もちろん全体的な指導にも意味があり、必要であることは確かです。

しかしそれだけでは、限界があります。

井上監督は、担当コーチを設定し、強化選手ひとりひとりに細かな指導やケアができるようにしました

特に、オーバーワークの避止とメンタル面のケアには、力を入れています。

(3)他の競技の技術の積極的な導入

海外の選手が厄介なのは、ブラジル柔術やサンボなど他の格闘技の経験者が多いことです。

柔道にない技術や身体の動きをしてくるので、それに戸惑ってポイントをとられてしまうこともあります。

そこで、井上監督は、ロシアの格闘技サンボの指導者を呼び、その技術を選手に経験させ習得させる講習を行っています。

数回の講習でどれだけ効果があったのかは正直にいってわかりませんが、なんでも取り入れようとする姿勢がわかります。

■こうした組織体制、指導者、現場という重層的な取り組みが、メダルの増加に結び付いたことは間違いないでしょう。

柔道に限らず、強くなる競技には、時間をかけた構造的な取り組みが見られます。

水泳でも、体操でも、卓球でも、今大会のような活躍に至るまでには、子供教室の開催で裾野を広げる取り組みから初めて、十数年以上の準備期間があると聞きます。

コツコツと積み上げることで、競技を盛り上げてきた関係者の努力には頭が下がります。

■ちなみに、柔道には、ポイント制への対応という課題があります。

柔道とJUDOの最大の違いは、ポイント制にあるといってもいいでしょう。

柔道は1本をとる競技です。近代では優勢勝ちが導入されているとはいえ、あくまで1本をとりにいくことを目指します。

ところがグローバル展開し、競技としてわかりやすさを追求するJUDOは、ポイント制を導入しました。

ポイントが一つでも多ければ勝ちです。

だから勝ちに徹するならば、無理にリスクを負って一本を狙いにいく必要はありません。ローリスクでポイントをとりにいけばいいわけです。海外選手の多くは、そう考えているようです。

が、この姿勢が日本の柔道家には相容れないらしい。

日本の柔道家が勝つときは鮮やかで、負けるときは曖昧なことが多いのはそのためです。

試合には負けたが、勝負には負けてない。といいたくなるような試合が多くなるのです。

■今大会、100キロ超級の決勝がいい例です。

世界選手権8連覇。ロンドン五輪覇者。絶対王者といわれるテディ・リネール(仏)に、日本の原沢久喜が挑んだ試合です。

怪物的な強さを誇るリネールがどんな試合をするのだろうと楽しみにしていたのですが、彼がとった戦法はまさにポイント稼ぎの退屈なもの。

安全運転に徹するリネールに、原沢は見せ場を作ることなく敗れ去りました。

すわ、日本では、リネールは逃げただの、原沢が実質の勝者であるなどと言われましたが、それは違います。

勝ちに徹したリネールに、原沢は通用しなかった。それだけのことでした。

■その意味で、北京五輪で100キロ超級金メダリストとなった石井慧は、出色でした。

彼は、日本の柔道家としては珍しく、勝ちに徹する柔道を貫きました。

その試合運びでブーイングを受けることもあったそうですが、これが自分の道だと意に介しませんでした。

北京五輪では、なんなく金メダルを獲得。

しかもあっさりと引退して、プロ格闘家に転向したのは異色でしたが。

■もし、日本の柔道が、メダルを目的に勝ちに徹する試合をすれば、全階級金メダルも夢ではないでしょう。

その方が、2020年東京五輪でメダル量産できるかもしれない。

では、そうするべきなのか。

とは私も思いません。

今大会、73キロ級金メダリスト大野将平がいう「強くて美しい柔道」に日本柔道の矜持を感じます。

もし日本選手全員が勝ちに徹するようになれば、ますますJUDOのポイントゲーム化が進むでしょう。

怪力で崩してポイントを奪おうとする海外選手に対し、あえて一本を狙う日本の選手たちがいるから、柔道という競技のダイナミックさ、面白さがあるのだと私は考えます。

リネールら巨漢に真正面から向かって一本をとるのが日本の柔道です。

世界の柔道の発展のためにも、

JUDOはやはり柔道だったと世界が認めるまで、

日本の柔道家は、いまの姿勢を貫いてほしいと思います。




 


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ブラジルのリオデジャネイロで開催されたオリンピックが閉会しました。

開催される前は、え、いつやるんだっけ?ぐらいのテンションでしたが、始まってみるとやはり盛り上がるもんですね。

特に今大会の日本はメダルラッシュ。

金12個。銀8個。銅21個の計41個は、過去最高のメダル獲得数だということです。

(金メダル獲得数は、64年の東京大会と04年のアテネ大会の16個が最高)

日本時間で夜中の開催であるにも関わらず、ライブで観た方は多かったのではないでしょうか。

■それにしても、なぜ日本選手団はこれほど調子がよかったのでしょうか。

北京、ロンドン、リオと続く夏季オリンピックのメダル獲得総数をみてみると、日本は25個、38個、41個と右肩上がりになっていることがわかります。

メダル獲得総数上位10国の推移をみていると

1位 アメリカ 110個、104個、121個(増加)

2位 中国 100個、87個、70個(減少)

3位 ロシア 73個、82個、56個(減少)

4位 イギリス 47個、65個、67個(増加)

5位 ドイツ 41個、44個、42個(横ばい)

6位 フランス 41個、34個、42個(横ばい)

7位 オーストラリア 46個、35個、29個(減少)

8位 日本 25個、38個、41個(増加)

9位 イタリア 27個、28個、28個(横ばい)

10位 韓国 31個、28個、21個(減少)

となっています。

つまり、中国とロシアの減少が大きく、その影響を他国は受けたといえるでしょう。

■アメリカは別格として、自国開催の国は強化策にかける予算も多く、メダル獲得数を伸ばす傾向にあります。

ですから、イギリスや日本は増加させています。

逆に、自国開催を終わらせた中国やオーストラリアは減らす傾向にあります。

そこに、ドーピング問題で参加そのものを制限されたロシアの減少がありました。

それにしても中国がこれほど減らすというのは謎めいています。いろいろ噂は聞きますが、言わないでおきましょう。

■日本の場合、2004年に国立スポーツ科学センター、2008年に味の素ナショナルトレーニングセンターが設立され、五輪競技の指導体制が整備されてきました。

各競技のトップ選手たちは同じ施設での強化トレーニングに参加するようになり、競技の垣根を越えた一体感が生まれるようになりました。

有望選手には、国際試合の出場や海外遠征への参加が義務付け・奨励され、高いレベルでの経験を積む仕組みもできています。

要するに、東京オリンピックに向けた強化策が効果をあげつつあるとみていいのでしょうね。

だから次回東京ではさらに上積みが期待できそうです。

このままロシアや中国の巻き返しがなければ、倍増も期待できるかもしれませんよ。

■たとえば、柔道を例にあげます。

ロンドン五輪では、メダル4個(金メダルなし)の結果に終わり、惨敗したといわれた男子柔道が、リオでは、7個(金2個、銀1個、銅4個)を獲得し、復活を印象づけました。

日本発祥の柔道ですから、強くて当たり前といわれるかもしれませんが、もはやグローバルに展開する競技ですから日本だけが強いというわけではありません。

実際、競技人口をみてみると、日本は17.5万人。

これに対して、フランスは56万人、ドイツは18万人。

ブラジルに至っては、200万人です。

単純な競技人口比でみても、日本はすでに遅れをとっています。

参考:http://kimuramasahiko.blog.fc2.com/img/judo_map.gif/

■しかも国際化したJUDOは、既に日本の柔道ではありません。柔道とJUDOは似て非なるものといっても過言ではありません。

日本式柔道に慣れた実力者が国際大会で勝てないのも当然です。違う競技に参加しているようなものですから。

近年の日本柔道の低迷は、違う競技になってしまったJUDOに、本来の柔道のつもりで参加してきたことに発していると考えます。

■ロンドン五輪の結果を受けて、新たに就任した井上康生監督がやったことは、きわめて論理的でした。

(1)指導者の海外派遣。

柔道は日本のものだから、日本の指導法が最も優れているという考えを捨て、JUDOの指導方法を学びにいかせました。

JUDOだと馬鹿にすることはできません。その指導法の多くは、科学的合理的であったといわれています。

(2)選手ごとの担当コーチ制。

本来、選手の個性、状態によって、指導内容は変えるべきです。その当たり前のことを、体制として整えました。

もちろん全体的な指導にも意味があり、必要であることは確かです。

しかしそれだけでは、限界があります。

井上監督は、担当コーチを設定し、強化選手ひとりひとりに細かな指導やケアができるようにしました

特に、オーバーワークの避止とメンタル面のケアには、力を入れています。

(3)他の競技の技術の積極的な導入

海外の選手が厄介なのは、ブラジル柔術やサンボなど他の格闘技の経験者が多いことです。

柔道にない技術や身体の動きをしてくるので、それに戸惑ってポイントをとられてしまうこともあります。

そこで、井上監督は、ロシアの格闘技サンボの指導者を呼び、その技術を選手に経験させ習得させる講習を行っています。

数回の講習でどれだけ効果があったのかは正直にいってわかりませんが、なんでも取り入れようとする姿勢がわかります。

■こうした組織体制、指導者、現場という重層的な取り組みが、メダルの増加に結び付いたことは間違いないでしょう。

柔道に限らず、強くなる競技には、時間をかけた構造的な取り組みが見られます。

水泳でも、体操でも、卓球でも、今大会のような活躍に至るまでには、子供教室の開催で裾野を広げる取り組みから初めて、十数年以上の準備期間があると聞きます。

コツコツと積み上げることで、競技を盛り上げてきた関係者の努力には頭が下がります。

■ちなみに、柔道には、ポイント制への対応という課題があります。

柔道とJUDOの最大の違いは、ポイント制にあるといってもいいでしょう。

柔道は1本をとる競技です。近代では優勢勝ちが導入されているとはいえ、あくまで1本をとりにいくことを目指します。

ところがグローバル展開し、競技としてわかりやすさを追求するJUDOは、ポイント制を導入しました。

ポイントが一つでも多ければ勝ちです。

だから勝ちに徹するならば、無理にリスクを負って一本を狙いにいく必要はありません。ローリスクでポイントをとりにいけばいいわけです。海外選手の多くは、そう考えているようです。

が、この姿勢が日本の柔道家には相容れないらしい。

日本の柔道家が勝つときは鮮やかで、負けるときは曖昧なことが多いのはそのためです。

試合には負けたが、勝負には負けてない。といいたくなるような試合が多くなるのです。

■今大会、100キロ超級の決勝がいい例です。

世界選手権8連覇。ロンドン五輪覇者。絶対王者といわれるテディ・リネール(仏)に、日本の原沢久喜が挑んだ試合です。

怪物的な強さを誇るリネールがどんな試合をするのだろうと楽しみにしていたのですが、彼がとった戦法はまさにポイント稼ぎの退屈なもの。

安全運転に徹するリネールに、原沢は見せ場を作ることなく敗れ去りました。

すわ、日本では、リネールは逃げただの、原沢が実質の勝者であるなどと言われましたが、それは違います。

勝ちに徹したリネールに、原沢は通用しなかった。それだけのことでした。

■その意味で、北京五輪で100キロ超級金メダリストとなった石井慧は、出色でした。

彼は、日本の柔道家としては珍しく、勝ちに徹する柔道を貫きました。

その試合運びでブーイングを受けることもあったそうですが、これが自分の道だと意に介しませんでした。

北京五輪では、なんなく金メダルを獲得。

しかもあっさりと引退して、プロ格闘家に転向したのは異色でしたが。

■もし、日本の柔道が、メダルを目的に勝ちに徹する試合をすれば、全階級金メダルも夢ではないでしょう。

その方が、2020年東京五輪でメダル量産できるかもしれない。

では、そうするべきなのか。

とは私も思いません。

今大会、73キロ級金メダリスト大野将平がいう「強くて美しい柔道」に日本柔道の矜持を感じます。

もし日本選手全員が勝ちに徹するようになれば、ますますJUDOのポイントゲーム化が進むでしょう。

怪力で崩してポイントを奪おうとする海外選手に対し、あえて一本を狙う日本の選手たちがいるから、柔道という競技のダイナミックさ、面白さがあるのだと私は考えます。

リネールら巨漢に真正面から向かって一本をとるのが日本の柔道です。

世界の柔道の発展のためにも、

JUDOはやはり柔道だったと世界が認めるまで、

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