JAL再生にみる企業変革の王道

2013.04.04

(2013年4月4日メルマガより)


■先月、日経新聞に、
稲盛和夫氏のJAL再建に関する特集記事がシリーズで掲載されま
した。お読みですかね。

破綻したJAL(日本航空)の再建役を、京セラの創業者である稲盛会長が引き受けて、
見事黒字化・再上場を成し遂げたことは皆さんご存知のことと思います。

山崎豊子の小説「沈まぬ太陽」にあるように、JALぐらい巨大企業になると社内のしが
らみや政治的な駆け引きが渦巻いており、やりにくい面も多々あったと思いますが、見事
成果を出したとあっては、その経営手腕には脱帽するほかありませんね。

あっぱれなことですよ。

■といって、稲盛氏が魔法のような経営手法を使っているのかというとそうではありません。

これは至ってシンプル。

「嘘をつくな、正直であれ、欲張るな、人に迷惑をかけるな、人には親切にせよ。子ども
のころ親や先生に教わった人間として守るべき当然のルール。そうした『当たり前』の規
範に従って経営も行っていけばいい」

という彼の言葉に象徴されるような当たり前で真っ当な経営を志向しています。

■実際の行動も実直です。現場を見て回り、従業員一人一人の話を聞き、毎月の報告を聞く。

社内勉強会を開いて、その後は懇親会で語り合い、稲盛式「フィロソフィー」の浸透を図る。

最初は「老人の精神論に付き合っていられない」と避けていた頭のいい幹部社員たちが、
徐々に稲盛氏のフィロソフィーに感化されていき、改革の原動力になっていったという物
語のような経緯は感動的です。

JAL再建を成し遂げた稲盛氏は、航空事業については素人です。

その素人でも、経営ができるということは、どの業界、企業であっても、経営の極意は同
じだということではないでしょうか。

今後は、アメリカのように、優秀な経営者は、業界を超えて、活躍する時代が、日本でも
来るようになるのでしょうね。

■念のために言っておきますと、日本航空(JAL)が、会社更生法の申請をしたのが、
2010年1月のことです。

日本の航空行政の要であった「国策企業」の破綻に、日本中が騒然となりました。

これは、JALの従業員の方々も同じのようで「予期していなかった」「テレビで知った」
という人もいたと聞きますから、危機感が足りなかったと言われても仕方ありません。

■経営破綻の原因については諸説あり、はっきりしません。

直接の原因はリーマンショックによる経営環境の悪化ということですが、真因は、そのよ
うな環境変化に耐えられなかった経営体質にあります。

要するに、長年の様々な要因が蓄積されて、破綻しやすい体質になっていったと考えるの
が正しいのでしょう。

いろんな資料を読んでいると、主に下記の要因が指摘されています。

1.親方が日の丸なので潰れるはずがないという慢心からくる豊満経営体質

2.そのような体質から繰り返された投資の失敗

3.複雑な労使関係

4.政治的理由からの赤字路線の維持

■2010年2月に会長に就任した稲盛和夫氏は、これらを徹底的に排除します。

すなわち、赤字案件の切り離し、無駄な投資の見直し、政治的な案件の排除、労使関係の
整理などです。

しかし、最大の課題は、組織に染みついた「放漫経営体質」を洗い流すことでした。

今回の再生事例で、最もフォーカスされているのが、まさにこの従業員一人一人の経営に
対する意識や体質を変えたことです。

その甲斐あって、2009年にはマイナス1200億円の営業赤字が、2011年には
2000億円以上の黒字を達成。凄まじいV字回復です。

■稲盛氏の経営の極意は、「フィロソフィー」に加えて「アメーバ経営」と呼ばれる管理
手法を使うことです。

アメーバ経営とは、企業内を小さな単位に分けて、それぞれ収支計算を徹底するというもの。

売上と変動費を細かに出し、一か月ごとに限界利益を把握するための管理会計の仕組みです。

ものすごく簡単に言うと、少数のグループのメンバー一人一人に、「収入」「利益」
「生産性」の責任を持つように仕向けるための仕組みです。

これは管理部門でも同じ。「協力対価」という形で収入を発生させて、利益責任を問います。

収益報告は毎月行われるので、従業員はその成果を確認することができます。

その結果に一喜一憂する従業員を見ると「これが全員参加の経営なんだ」と実感するよう
です。

アメーバ経営の効果は、以前から認められていましたが、今回、JALのような巨大企業
にも導入して成果を上げたということですから、その効果がさらに確認されたということ
ですね。

■私は、アメーバ経営というスキームがそれほど特殊なものであるとは見ていません。

これは要するに、従業員一人一人がコストと生産性に対する意識を高めるための仕組みで
すから、アメーバ経営でなくても、適切な会計の仕組みとその共有化をすることで事足り
るものだと考えます。

だから世の中の税理士さんや会計事務所には、もっと頑張って管理会計の仕組みを中小企業
に普及していただきたいものです。

それが日本企業復活の起爆剤になる可能性があるのですからね。

■それはともかく、アメーバ経営という手法そのものは、ツールの一つであって、魔法の杖
でもなんでもありません。

世の中には役に立ちそうなツールがごまんとあり、その中で、アメーバ経営という手法が
最も優れているという根拠などありません。

ということは、結局、このツールを使いこなす組織の一体的な行動こそが、今回のJAL
再生の原動力になったということだと私は考えます。

■これは、コンサルティングをやっていて思うことですが、戦略を作って、ツールを渡して、
それで組織が動き出すことなど皆無です。

止まった車輪を最初に動かすためには、相当のパワーが必要です。

そのパワーの源泉こそが、メンバーの「前に進もう」という気持ちに他なりません。

コンサルタントの仕事の大半は、その気持ちに火をつける作業に費やされます。

■私は安直に「実践派」だとか「現場主義」だとか名乗るコンサルタントを信用しないよ
うにしています。

実践や現場主義は大切ですが、その看板の裏側には、単なる経験主義が隠れていることが
多いからです。

要するに自分の経験を大げさに粉飾して、ハッタリで対応しようという人もいるという
ことです。

(だからインパクトという言葉も好きではありません^^;)

それぐらいなら、経験はないが、体系的な知識が豊かな理論派コンサルタントの方が、
マシだと思っています。

■ただし、一概にそうとは言えないのが、この業界の難しさです。

理論だけは素晴らしくても、全く成果を上げられない人もいるでしょうし、精神論のみで
も成果を上げる人もいます。

結局、成果を上げるコンサルティングは、何らかの瞬間に、メンバーの気持ちに火をつけ
られたかどうかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。

その意味で、今回、JAL再生を成し遂げた稲盛氏が、勉強会、懇親会、面談としつこく
繰り返して、メンバーの気持ちに火をつけた地道なやり方こそ企業変革の王道だと思います。

■その結果、2012年9月には、JALは株式の再上場を果たします。わずか2年9カ月
という見事な再生劇でした。

戦略の面からみると、JAL再生の内容は、徹底して「組織能力の向上」を図った結果です。

破綻した時点でも、競争激化などにより需要が圧迫されていたわけではありません。ある
程度の需要があり、それに応える能力がありながら、赤字に陥ったのは、組織の中に無駄
にコストを使う金食い虫がいたということですから、その虫を駆除すれば、とりあえずは
黒字化します。

金食い虫を退治するのは従業員自身ですから、その従業員のコスト意識を改善することが、
今回のV字回復の肝でした。

それが成し遂げられたということは、稲盛氏の手腕とともに、やはりもともとのJALの
従業員の能力の高さがあったからでしょう。

■ところが、航空業界の経営環境は、今後まだまだ変化していくことが考えられます。

いうまでもなく、LCCの台頭や、海外の強い競合会社からの攻勢です。

ということは、戦略のもう一つのアプローチである「ポジショニング」(顧客と競合他社
の関係から、勝てる位置取りをすること)が、これからの生き残りの鍵になってくるとい
うことです。

■今月、稲盛会長は、一仕事終えて退任してしまいましたから、ポジショニング戦略を
作る仕事は後任に託された形です。

まさかJALほどの巨大企業が「組織能力の向上」だけで未来永劫生き残っていけるとは
思っていないでしょうが、のど元過ぎれば熱さ忘れるで、生き残るための戦略をまじめに
作ろうとする機運が薄れてしまわないとも限りません。

早急に、戦略作りに取り組んでもらいたいと思います。

その時はぜひともランチェスター戦略を参考にされることをおススメいたします。

(2013年4月4日メルマガより)


■先月、日経新聞に、
稲盛和夫氏のJAL再建に関する特集記事がシリーズで掲載されま
した。お読みですかね。

破綻したJAL(日本航空)の再建役を、京セラの創業者である稲盛会長が引き受けて、
見事黒字化・再上場を成し遂げたことは皆さんご存知のことと思います。

山崎豊子の小説「沈まぬ太陽」にあるように、JALぐらい巨大企業になると社内のしが
らみや政治的な駆け引きが渦巻いており、やりにくい面も多々あったと思いますが、見事
成果を出したとあっては、その経営手腕には脱帽するほかありませんね。

あっぱれなことですよ。

■といって、稲盛氏が魔法のような経営手法を使っているのかというとそうではありません。

これは至ってシンプル。

「嘘をつくな、正直であれ、欲張るな、人に迷惑をかけるな、人には親切にせよ。子ども
のころ親や先生に教わった人間として守るべき当然のルール。そうした『当たり前』の規
範に従って経営も行っていけばいい」

という彼の言葉に象徴されるような当たり前で真っ当な経営を志向しています。

■実際の行動も実直です。現場を見て回り、従業員一人一人の話を聞き、毎月の報告を聞く。

社内勉強会を開いて、その後は懇親会で語り合い、稲盛式「フィロソフィー」の浸透を図る。

最初は「老人の精神論に付き合っていられない」と避けていた頭のいい幹部社員たちが、
徐々に稲盛氏のフィロソフィーに感化されていき、改革の原動力になっていったという物
語のような経緯は感動的です。

JAL再建を成し遂げた稲盛氏は、航空事業については素人です。

その素人でも、経営ができるということは、どの業界、企業であっても、経営の極意は同
じだということではないでしょうか。

今後は、アメリカのように、優秀な経営者は、業界を超えて、活躍する時代が、日本でも
来るようになるのでしょうね。

■念のために言っておきますと、日本航空(JAL)が、会社更生法の申請をしたのが、
2010年1月のことです。

日本の航空行政の要であった「国策企業」の破綻に、日本中が騒然となりました。

これは、JALの従業員の方々も同じのようで「予期していなかった」「テレビで知った」
という人もいたと聞きますから、危機感が足りなかったと言われても仕方ありません。

■経営破綻の原因については諸説あり、はっきりしません。

直接の原因はリーマンショックによる経営環境の悪化ということですが、真因は、そのよ
うな環境変化に耐えられなかった経営体質にあります。

要するに、長年の様々な要因が蓄積されて、破綻しやすい体質になっていったと考えるの
が正しいのでしょう。

いろんな資料を読んでいると、主に下記の要因が指摘されています。

1.親方が日の丸なので潰れるはずがないという慢心からくる豊満経営体質

2.そのような体質から繰り返された投資の失敗

3.複雑な労使関係

4.政治的理由からの赤字路線の維持

■2010年2月に会長に就任した稲盛和夫氏は、これらを徹底的に排除します。

すなわち、赤字案件の切り離し、無駄な投資の見直し、政治的な案件の排除、労使関係の
整理などです。

しかし、最大の課題は、組織に染みついた「放漫経営体質」を洗い流すことでした。

今回の再生事例で、最もフォーカスされているのが、まさにこの従業員一人一人の経営に
対する意識や体質を変えたことです。

その甲斐あって、2009年にはマイナス1200億円の営業赤字が、2011年には
2000億円以上の黒字を達成。凄まじいV字回復です。

■稲盛氏の経営の極意は、「フィロソフィー」に加えて「アメーバ経営」と呼ばれる管理
手法を使うことです。

アメーバ経営とは、企業内を小さな単位に分けて、それぞれ収支計算を徹底するというもの。

売上と変動費を細かに出し、一か月ごとに限界利益を把握するための管理会計の仕組みです。

ものすごく簡単に言うと、少数のグループのメンバー一人一人に、「収入」「利益」
「生産性」の責任を持つように仕向けるための仕組みです。

これは管理部門でも同じ。「協力対価」という形で収入を発生させて、利益責任を問います。

収益報告は毎月行われるので、従業員はその成果を確認することができます。

その結果に一喜一憂する従業員を見ると「これが全員参加の経営なんだ」と実感するよう
です。

アメーバ経営の効果は、以前から認められていましたが、今回、JALのような巨大企業
にも導入して成果を上げたということですから、その効果がさらに確認されたということ
ですね。

■私は、アメーバ経営というスキームがそれほど特殊なものであるとは見ていません。

これは要するに、従業員一人一人がコストと生産性に対する意識を高めるための仕組みで
すから、アメーバ経営でなくても、適切な会計の仕組みとその共有化をすることで事足り
るものだと考えます。

だから世の中の税理士さんや会計事務所には、もっと頑張って管理会計の仕組みを中小企業
に普及していただきたいものです。

それが日本企業復活の起爆剤になる可能性があるのですからね。

■それはともかく、アメーバ経営という手法そのものは、ツールの一つであって、魔法の杖
でもなんでもありません。

世の中には役に立ちそうなツールがごまんとあり、その中で、アメーバ経営という手法が
最も優れているという根拠などありません。

ということは、結局、このツールを使いこなす組織の一体的な行動こそが、今回のJAL
再生の原動力になったということだと私は考えます。

■これは、コンサルティングをやっていて思うことですが、戦略を作って、ツールを渡して、
それで組織が動き出すことなど皆無です。

止まった車輪を最初に動かすためには、相当のパワーが必要です。

そのパワーの源泉こそが、メンバーの「前に進もう」という気持ちに他なりません。

コンサルタントの仕事の大半は、その気持ちに火をつける作業に費やされます。

■私は安直に「実践派」だとか「現場主義」だとか名乗るコンサルタントを信用しないよ
うにしています。

実践や現場主義は大切ですが、その看板の裏側には、単なる経験主義が隠れていることが
多いからです。

要するに自分の経験を大げさに粉飾して、ハッタリで対応しようという人もいるという
ことです。

(だからインパクトという言葉も好きではありません^^;)

それぐらいなら、経験はないが、体系的な知識が豊かな理論派コンサルタントの方が、
マシだと思っています。

■ただし、一概にそうとは言えないのが、この業界の難しさです。

理論だけは素晴らしくても、全く成果を上げられない人もいるでしょうし、精神論のみで
も成果を上げる人もいます。

結局、成果を上げるコンサルティングは、何らかの瞬間に、メンバーの気持ちに火をつけ
られたかどうかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。

その意味で、今回、JAL再生を成し遂げた稲盛氏が、勉強会、懇親会、面談としつこく
繰り返して、メンバーの気持ちに火をつけた地道なやり方こそ企業変革の王道だと思います。

■その結果、2012年9月には、JALは株式の再上場を果たします。わずか2年9カ月
という見事な再生劇でした。

戦略の面からみると、JAL再生の内容は、徹底して「組織能力の向上」を図った結果です。

破綻した時点でも、競争激化などにより需要が圧迫されていたわけではありません。ある
程度の需要があり、それに応える能力がありながら、赤字に陥ったのは、組織の中に無駄
にコストを使う金食い虫がいたということですから、その虫を駆除すれば、とりあえずは
黒字化します。

金食い虫を退治するのは従業員自身ですから、その従業員のコスト意識を改善することが、
今回のV字回復の肝でした。

それが成し遂げられたということは、稲盛氏の手腕とともに、やはりもともとのJALの
従業員の能力の高さがあったからでしょう。

■ところが、航空業界の経営環境は、今後まだまだ変化していくことが考えられます。

いうまでもなく、LCCの台頭や、海外の強い競合会社からの攻勢です。

ということは、戦略のもう一つのアプローチである「ポジショニング」(顧客と競合他社
の関係から、勝てる位置取りをすること)が、これからの生き残りの鍵になってくるとい
うことです。

■今月、稲盛会長は、一仕事終えて退任してしまいましたから、ポジショニング戦略を
作る仕事は後任に託された形です。

まさかJALほどの巨大企業が「組織能力の向上」だけで未来永劫生き残っていけるとは
思っていないでしょうが、のど元過ぎれば熱さ忘れるで、生き残るための戦略をまじめに
作ろうとする機運が薄れてしまわないとも限りません。

早急に、戦略作りに取り組んでもらいたいと思います。

その時はぜひともランチェスター戦略を参考にされることをおススメいたします。

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