ソニーはどこへ行った?

2012.03.22

(2012年3月22メルマガより)


■「さよなら!僕らのソニー」は、私にとって衝撃の本でした。

http://amazon.co.jp/o/ASIN/4166608320/lanchesterkan-22/ref=nosim

なぜなら、私がイメージしていたソニーという会社は、もはやこの世界には
なくなってしまっていることを示した本だからです。

イメージというと曖昧ですね。。。

まずは私がどういうイメージでソニーという会社を見ていたかを説明しなけ
ればなりません。

■その前に。ソニーの数値的な現状は周知の通り。

参考:ソニー「解体」の日──復活への処方箋はあるか《上》
http://bit.ly/ymQz9Q

2012年3月期の決算は、最終2200億円の赤字見込みです。

ただし営業利益の段階では、赤字は950億円。

円高、タイの洪水、韓国サムスン電子との液晶合弁解消に伴う保有株の減損
損失などが、最終赤字に響いています。

営業利益の内訳をみると、映画、音楽、金融などの事業は好調で、1850
億円の営業黒字(株式の持ち分があるので、これがそのままソニーの利益に
計上されるわけではありません)

これに対して、売上高70%を占めるエレクトロニクス事業(テレビやゲー
ム機などの機器販売)は、1900億円の営業赤字です。

さすがにハワード・ストリンガーCEOが得意とするエンターテイメント関
連事業は好調なようですが、主力事業が赤字なので利益が吹っ飛んでしまっ
ています。

■もちろんこの状況はソニーだけに限ったことではなく、日本の家電メーカー
全体が苦境に陥っていることは、以前のメルマガにも書いた通りです。

「日本の電機メーカーはどうすれば生き残れるのか」
http://www.createvalue.biz/column2/post-208.html

簡単に言ってしまうと、家電製品分野は、特殊な技術力を持っていなくても
製造できるコモディティになってしまったので、水平分業化が進み、製造組
み立てに対して付加価値が付きにくい「スマイルカーブ現象」が起きるよう
になりました。

スマイルカーブとは、製品を製造し販売する過程の中で、特殊技術や特許が
必要な部品を作る企業と、最終顧客に対してソリューションやメンテナンス
を行う企業に利益が集まり、途中の製造組立企業には利益が残らない現象を
指します。(折れ線グラフにすると、スマイルマークの口のように見えるこ
とからこう呼ばれています)

まずは、製品技術がコモディティ化→垂直統合産業から水平分業産業にシフト
垂直統合産業の中で輝きを放っていた日本の家電メーカーが軒並み利益減
という流れです。

参考:スマイルカーブ
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20060315/114915/

参考:水平分業とは
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20100723/350552/

■非常に分かりやすい流れですから、日本の家電メーカーも予測していたは
ずです。

ソニーも、大賀社長の時代には、製品を製造するだけでは将来性がないとい
う危機感のもと、コンテンツの価値を製品に融合させるというビジョンを描き、
アメリカの映画会社買収を行います。

大賀社長の後を継いだ出井社長(CEO)時代には、ハードとソフトの融合

が基本路線となりました。

ところが、大賀社長にしろ、出井社長にしろ、具体的なイメージやかっきり
とした戦略があったわけではなく、漠然とした「ハードとソフトを融合させ
なければ未来はない」という思いで動いていたらしい。

そのため「ハードとソフトの融合」というスローガン通りのビジネスを作る
ことができないままに、製品でもコンテンツでも中途半端なものとなってし
まいました。

■皮肉なことに、「ハードとソフトの融合」を具体的かつ魅力的に実現した
のが、ソニーのファンであったアップルのスティーブ・ジョブズでした。

ジョブズも単なる製品メーカーでは将来性はないという危機感のもと、戦え
ない製品をカットして少数の製品に絞り込み、デザイン、使い勝手、利便性
という顧客価値を徹底追求した製品とコンテンツが一体となったビジネスで
一気に浮上しました。

恐らくアップルは、大賀社長や出井社長が漠然と考えていたビジネスをより
完璧な形で実現してしまったのではないでしょうか。

■なぜ、ソニーはアップルのようになれなかったのか?

それはスティーブ・ジョブズという天才がいなかったからだ...と個人の能力
に帰結してしまうのは簡単ですが、それでは話が進みません。

私が問題だと思うのは、ソニーは、いつしかソニーらしさを失って、アップ
ルに「ソニーらしさ」というお株を奪われしまったと思えることです。

では、そのソニーらしさとは何なのか?

■ソニーには有名な「設立趣意書」というものがあります。

これは創業メンバーの一人である井深大が、一晩で書き上げたと言われる伝
説的な文書であり、今でもソニーのwebサイトに記載されています。
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html

私は、これほど一つの文書が企業の方向性として機能した例はないのでは
いかと考えています。

例えば「経営方針」

一、不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を
置き、いたずらに規模の大を追わず
一、経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがた
めに進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する
一、極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に
関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。また、単に電気、
機械等の形式的分類は避け、その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶
対許さざる境地に独自なる製品化を行う

これは、人が手を出さない難しい技術に挑戦し、儲けなくてもいいから内容
の充実した仕事をしようという小さな会社の決意を語ったものです

「儲けてナンボ」という経営の常識からすれば、クレージーな姿勢ではあり
ますが、まさにソニーの経営姿勢は、この通りであり、革新的な技術と製品
を生み出す前提となりました。

■ランチェスター戦略セミナーでは、弱者の戦略、強者の戦略の典型例とし
て、ソニーと松下電器(パナソニック)の戦いを事例として挙げることがよ
くあります。

松下電器は、圧倒的な販売力を背景に「よそさんの品もんのええ所を徹底的
に研究して、何か1つか2つ、足せばええんや」(松下幸之助)という2番手
開発戦略をとっていました。

全国に5万店以上もナショナルショップがあるものですから、こうしたマネ
をするだけで、販売につながるわけです。

ところが、ソニーのような販売力のない会社はそうはいきません。営業現場
での逆転などに期待できませんから、顧客が「これはすごい!」と一目で分
かるような商品を作らないと、相手にされません。

だからこそ、ソニーは尖った技術力で難しい開発に挑戦し続けなければなら
なかったのです。

■ソニーには非公式に開発18か条なるものがあったそうです。
http://plaza.rakuten.co.jp/createvalue/diary/201202030000/

長いですが引用してみますね。

第1条:客の欲しがっているものではなく客のためになるものをつくれ

第2条:客の目線ではなく自分の目線でモノをつくれ

第3条:サイズやコストは可能性で決めるな。必要性・必然性で決めろ

第4条:市場は成熟しているかもしれないが商品は成熟などしていない

第5条:できない理由はできることの証拠だ。できない理由を解決すればよい

第6条:よいものを安く、より新しいものを早く

第7条:商品の弱点を解決すると新しい市場が生まれ、利点を改良すると
今ある市場が広がる

第8条:絞った知恵の量だけ付加価値が得られる

第9条:企画の知恵に勝るコストダウンはない

第10条:後発での失敗は再起不能と思え

第11条:ものが売れないのは高いか悪いのかのどちらかだ

第12条:新しい種(商品)は育つ畑に蒔け

第13条:他社の動きを気にし始めるのは負けの始まりだ

第14条:可能と困難は可能のうち

第15条:無謀はいけないが多少の無理はさせろ、無理を通せば、発想が変わる

第16条:新しい技術は、必ず次の技術によって置き換わる宿命を持っている。
それをまた自分の手でやってこそ技術屋冥利に尽きる。自分がやらなければ
他社がやるだけのこと。商品のコストもまったく同じ

第17条:市場は調査するものではなく創造するものだ。世界初の商品を出す
のに、調査のしようがないし、調査してもあてにならない

第18条:不幸にして意気地のない上司についたときは新しいアイデアは上司
に黙って、まず、ものをつくれ

これを見ると、ソニースピリットとは、まさに技術開発のスピリットである
と感じます。

また誰かが指摘するように、このスピリットを受け継いでいるのは、アップル
ではないかと思ってしまいます。

■先の「設立趣意書」にもう一度戻ります。

「会社設立の目的」という項目には、「真面目なる技術者の技能を、最高度
に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とまず書かれて
あります。

つまり、ソニーは技術者が存分に能力を発揮するための会社であるというこ
とです。

続けてこうも書いています。

「日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」

戦後の焼け野原に出来た従業員20名程度の会社にしては、なんと壮大なる
目的を掲げたものでしょうか。

井深大氏は、ソニーという会社を通じて、日本の復興を担っていく覚悟を内
外に示しているのです。

しかも彼が偉大だったのは、その気持ちを後年に至るまで揺るぎなく持ち続
けたということです。

■「さよなら!僕らのソニー」には、戦後まだ反日感情が厳しかった時代に、
ニューヨーク5番街に出店したショールームに日章旗を掲げた井深大氏のエ
ピソードが載っています。

日系企業への反発を危惧した当時のマネージャーに、彼はこう言っています。

「われわれは、日の丸に恥じないことをやるために、国旗を出すんだよ」

当時、5番街という一等地に日の丸が掲げられているのを見た日本企業の
在員たちは「アメリカの中心で、はためく日の丸を見て、どれだけ勇気づけ
られたことか」と語っていたそうです。

ソニーという会社が持っていた日本再建という気概に、多くの日本人が共鳴
し、夢を託しました。

つまり、私たちは、ソニーという会社に、ドン底から再び這い上がって、世
界の一等国の仲間入りを果たして、誇りを取り戻そうとする自分自身や日本
国そのものの姿を見ていたわけです。

■最初の疑問に戻ります。

私にとって、ソニーとは、小さな、販売力のない、儲けることが苦手な、し
かし、理想に燃えて挑戦心を失わない、尖った技術を武器とする、日本を代
表する会社です。

それは一企業という範疇を越えて、坂の上の雲を目指した私たちの希望であ
り続けました。

多くのアメリカ人が「ソニーはアメリカの会社だ!」と信じ込んでいるとい
うエピソードに、日本人としてプライドをくすぐられたものでした。

■ところが、出井社長が就任した1995年当時、ソニーは好きな技術を追
求しているだけでは立ち行かない会社になっていたようです。

それは小さな会社などではなく、日本有数の大企業となっていました。

当然、従業員も多い。彼らを抱えていくためには、利益を出さなければなり
ません。しかも、財務的な問題を抱えていました。

特に出井氏は、創業メンバーでもなく、技術系でもない人物なので、業績を
上げないと代表者として認めてもらえません。

利益を上げるために最も手っ取り早い方法は、固定費を削減することですか
ら、出井社長はそこに手をつけました。

つまり、人員削減です。

出井社長にとって、当時のソニーは、技術者が好き勝手にいつ金になるか分
からない研究開発に費用と時間をつぎこむ非効率で、非現実的な組織である
ように見えていたのかも知れません。

業績を上げることが仕事である経営者の立場からすれば当然の判断だったの
でしょうが、人員削減には、短期利益の向上という劇的効果もありますが、
組織の弱体化という強烈な副作用があります。

しかもたいてい人員削減した場合、有能な社員が出ていくものです。

出井社長の時代、ソニーの技術力を支えた多くの優秀な人材が、社外に流出
した事例が「さよなら...ソニー」には書かれています。

強みであった技術力を担う人材の多くは社外に流出し、彼らを吸収した韓国
企業(サムスンやLG)躍進の原動力の一因になったのではないかと思われ
ます。

■産業構造が水平分業化し、製造組立に利益が残らないということが分かっ
ていたなら、得意の技術力を生かした要素技術やデバイスを強化することで、
ビジネスを組み立てられなかったのか。

これもよく指摘されることです。

例えば、電子マネーのエディは、ソニーの技術がもとになっています。もし、
ソニーが電子マネーを中心にビジネスを組み立てることが出来たならば、相
当大きな利益を見込めたかも知れませんが、実際には、単体技術の提供に止
まっています。

ソニーが今でも強い製品分野は、プロ仕様の高性能デジタル機器などですか
ら、ニッチな分野を取り込むのは得意なのですが、ある技術を元に市場を丸
ごと創るような本来の意味でのマーケティング戦略は、不得意のようです。

出井社長時代に目指すべきは、こちらのコンセプト設計力の強化ではなかっ
たか?

ところが、彼は、コンテンツビジネスの強化にまい進します。魅力的なコン
テンツ(映画、音楽...)さえあれば、顧客を囲い込むことができて、機器が
売れるはずだという理屈でしょう。

一方のアップルは、製造組立では利益が出ないという認識は同じだったので
すが、自らコンテンツを抱え込もうとはせずに、コンテンツが集まりやすい
場を提供することで、顧客の抱え込みに成功します。

それがiPod、iPhone、iPadという機器がネットワークでつながるiTunesや
icloudといった仕組みです。

これは本来、ソニーがやりたかったことのはずです。できなかったのは、囲
い込みの手法に問題があったということです。

(もっともグーグルのオープン化戦略は、いずれアップルの囲い込み戦略を
凌駕してしまうのではないかと私は見ていますが、それは別の話です)

■出井体制の後、ハワード・ストリンガーCEOの時代(2005年~)に
なると、コンテンツ重視はさらに加速し、技術軽視といった感さえしてきます。

ストリンガーCEOは、本社のある日本には滞在せずに、米国から遠隔で経
営しようとしました。

コンテンツ大国アメリカに住む彼の危機感は、前の代表よりもさらに強く、
製造組立など早くやめて、コンテンツ中心のメーカーにしようとしました。

その意図通り、映画や音楽の世界では、ソニーは一定の業績を上げています。

彼の目指すものは、ディズニーのようなコンテンツやキャラクターを中心と
するビジネスの確立だったのでしょうか。

残念ながら多くの日本人には、その方向性は理解されず、彼の改革は進みま
せんでした。

参考:ソニーはどこへ向かうのか ストリンガー氏の長い苦闘の先にある未来
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34662

しかし、そもそもソニーをコンテンツ中心の事業に変えようというのが正し
かったかと言われれば大いに疑問です。

なぜなら、そこにはソニーの強みはなかったからです。

もともと持っていた強みを捨てて、新しい分野で強みを作ろうという試みが
全て間違っているとは言いませんが、そんな壮大な実験を日本を代表する巨
大企業でやろうとする時に、リスクに見合ったリターンが見込めたとは思え
ません。

10人中10人が、得意の技術を生かせるようなビジネス構築を目指すはず
です。

■しかし、出井、ストリンガー体制の下では「機器売りではダメだ。コンテ
ンツを中心としたビジネスにしなければならない」という方向性を選びました。

昔のソニーを知る者にとって、彼らの経営の仕方は、技術を理解しない経営陣
による地に足のつかないスローガンだけの浮ついたものに見えたことでし
ょう。彼らは巨大な抵抗勢力として立ちはだかり、社内を混乱させる大きな
要因となりました。

ところが、選択と集中を志向する経営陣からすると、技術陣の自由気ままを
いつまでも放置するわけにはいきません。

確かに、売上高7兆円超、従業員数17万人、外国人持ち株比率が半分に迫
ろうとする大企業が「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」たらんとす
ることには無理があるという改革派の意見にも理屈があります。

出井CEOが組織体制をめまぐるしく変えたり、ストリンガーCEOが東京
の本社から距離を置いたりしたことは、ソニー旧体制の批判を封じ込めよう、
かわそうとする気持ちの表れなのかも知れません。

紆余曲折はあったものの、ソニーをコンテンツとネットワークに強い会社に
するという彼らの構想は、実現しつつあるようです。

未だ力強さはないものの、円高やタイの洪水の影響がなければ、黒字基調に
乗せることができたはずだとストリンガー陣営は見ていたようです

(といいながらストリンガー氏の後を引き継ぐ平井CEOが、「テレビ事業
を再生する」などと発言していることがいかにも中途半端で不安ですが...)

■ただし、それは我々のかつて知っていたソニーではありません。

ソニーはもはや、先端技術に挑戦する尖った企業でもなく、日本の再建の象
徴になるような企業でもありません。

出井、ストリンガー体制のもとで、ソニーがかつて持っていた技術的強みは
失われ、今やコンテンツビジネスで生きていくしかない、というのが「さよ
なら!僕らのソニー」の結論でした。

それも仕方ないでしょう。彼らだって株主に報いなければならないというの
が第一の使命ですから、CEOを任せられた者は、短期的にも業績向上を目
指さなければなりませんでした。

ソニーは日本の宝だ、日本の代表だ、というのは我々の勝手であり、責任の
ない発言です。

コンテンツ&ネットワークビジネスで一定の利益を上げたというのはご同慶
の至りです。

それが、長期的な利益を生み出す仕組みや企業の強みとして確立されている
のかどうかまでは、今回調べきれませんでしたが、我々は、大きくその存在
意義を変えなければならなかった巨大企業の方向転換に立ち会う者として、
その姿を見守る機会を素直に享受しようではありませんか。

一抹の寂しさを感じつつ、そう書いておきます。

(2012年3月22メルマガより)


■「さよなら!僕らのソニー」は、私にとって衝撃の本でした。

http://amazon.co.jp/o/ASIN/4166608320/lanchesterkan-22/ref=nosim

なぜなら、私がイメージしていたソニーという会社は、もはやこの世界には
なくなってしまっていることを示した本だからです。

イメージというと曖昧ですね。。。

まずは私がどういうイメージでソニーという会社を見ていたかを説明しなけ
ればなりません。

■その前に。ソニーの数値的な現状は周知の通り。

参考:ソニー「解体」の日──復活への処方箋はあるか《上》
http://bit.ly/ymQz9Q

2012年3月期の決算は、最終2200億円の赤字見込みです。

ただし営業利益の段階では、赤字は950億円。

円高、タイの洪水、韓国サムスン電子との液晶合弁解消に伴う保有株の減損
損失などが、最終赤字に響いています。

営業利益の内訳をみると、映画、音楽、金融などの事業は好調で、1850
億円の営業黒字(株式の持ち分があるので、これがそのままソニーの利益に
計上されるわけではありません)

これに対して、売上高70%を占めるエレクトロニクス事業(テレビやゲー
ム機などの機器販売)は、1900億円の営業赤字です。

さすがにハワード・ストリンガーCEOが得意とするエンターテイメント関
連事業は好調なようですが、主力事業が赤字なので利益が吹っ飛んでしまっ
ています。

■もちろんこの状況はソニーだけに限ったことではなく、日本の家電メーカー
全体が苦境に陥っていることは、以前のメルマガにも書いた通りです。

「日本の電機メーカーはどうすれば生き残れるのか」
http://www.createvalue.biz/column2/post-208.html

簡単に言ってしまうと、家電製品分野は、特殊な技術力を持っていなくても
製造できるコモディティになってしまったので、水平分業化が進み、製造組
み立てに対して付加価値が付きにくい「スマイルカーブ現象」が起きるよう
になりました。

スマイルカーブとは、製品を製造し販売する過程の中で、特殊技術や特許が
必要な部品を作る企業と、最終顧客に対してソリューションやメンテナンス
を行う企業に利益が集まり、途中の製造組立企業には利益が残らない現象を
指します。(折れ線グラフにすると、スマイルマークの口のように見えるこ
とからこう呼ばれています)

まずは、製品技術がコモディティ化→垂直統合産業から水平分業産業にシフト
垂直統合産業の中で輝きを放っていた日本の家電メーカーが軒並み利益減
という流れです。

参考:スマイルカーブ
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/WORD/20060315/114915/

参考:水平分業とは
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Keyword/20100723/350552/

■非常に分かりやすい流れですから、日本の家電メーカーも予測していたは
ずです。

ソニーも、大賀社長の時代には、製品を製造するだけでは将来性がないとい
う危機感のもと、コンテンツの価値を製品に融合させるというビジョンを描き、
アメリカの映画会社買収を行います。

大賀社長の後を継いだ出井社長(CEO)時代には、ハードとソフトの融合

が基本路線となりました。

ところが、大賀社長にしろ、出井社長にしろ、具体的なイメージやかっきり
とした戦略があったわけではなく、漠然とした「ハードとソフトを融合させ
なければ未来はない」という思いで動いていたらしい。

そのため「ハードとソフトの融合」というスローガン通りのビジネスを作る
ことができないままに、製品でもコンテンツでも中途半端なものとなってし
まいました。

■皮肉なことに、「ハードとソフトの融合」を具体的かつ魅力的に実現した
のが、ソニーのファンであったアップルのスティーブ・ジョブズでした。

ジョブズも単なる製品メーカーでは将来性はないという危機感のもと、戦え
ない製品をカットして少数の製品に絞り込み、デザイン、使い勝手、利便性
という顧客価値を徹底追求した製品とコンテンツが一体となったビジネスで
一気に浮上しました。

恐らくアップルは、大賀社長や出井社長が漠然と考えていたビジネスをより
完璧な形で実現してしまったのではないでしょうか。

■なぜ、ソニーはアップルのようになれなかったのか?

それはスティーブ・ジョブズという天才がいなかったからだ...と個人の能力
に帰結してしまうのは簡単ですが、それでは話が進みません。

私が問題だと思うのは、ソニーは、いつしかソニーらしさを失って、アップ
ルに「ソニーらしさ」というお株を奪われしまったと思えることです。

では、そのソニーらしさとは何なのか?

■ソニーには有名な「設立趣意書」というものがあります。

これは創業メンバーの一人である井深大が、一晩で書き上げたと言われる伝
説的な文書であり、今でもソニーのwebサイトに記載されています。
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/prospectus.html

私は、これほど一つの文書が企業の方向性として機能した例はないのでは
いかと考えています。

例えば「経営方針」

一、不当なる儲け主義を廃し、あくまで内容の充実、実質的な活動に重点を
置き、いたずらに規模の大を追わず
一、経営規模としては、むしろ小なるを望み、大経営企業の大経営なるがた
めに進み得ざる分野に、技術の進路と経営活動を期する
一、極力製品の選択に努め、技術上の困難はむしろこれを歓迎、量の多少に
関せず最も社会的に利用度の高い高級技術製品を対象とす。また、単に電気、
機械等の形式的分類は避け、その両者を統合せるがごとき、他社の追随を絶
対許さざる境地に独自なる製品化を行う

これは、人が手を出さない難しい技術に挑戦し、儲けなくてもいいから内容
の充実した仕事をしようという小さな会社の決意を語ったものです

「儲けてナンボ」という経営の常識からすれば、クレージーな姿勢ではあり
ますが、まさにソニーの経営姿勢は、この通りであり、革新的な技術と製品
を生み出す前提となりました。

■ランチェスター戦略セミナーでは、弱者の戦略、強者の戦略の典型例とし
て、ソニーと松下電器(パナソニック)の戦いを事例として挙げることがよ
くあります。

松下電器は、圧倒的な販売力を背景に「よそさんの品もんのええ所を徹底的
に研究して、何か1つか2つ、足せばええんや」(松下幸之助)という2番手
開発戦略をとっていました。

全国に5万店以上もナショナルショップがあるものですから、こうしたマネ
をするだけで、販売につながるわけです。

ところが、ソニーのような販売力のない会社はそうはいきません。営業現場
での逆転などに期待できませんから、顧客が「これはすごい!」と一目で分
かるような商品を作らないと、相手にされません。

だからこそ、ソニーは尖った技術力で難しい開発に挑戦し続けなければなら
なかったのです。

■ソニーには非公式に開発18か条なるものがあったそうです。
http://plaza.rakuten.co.jp/createvalue/diary/201202030000/

長いですが引用してみますね。

第1条:客の欲しがっているものではなく客のためになるものをつくれ

第2条:客の目線ではなく自分の目線でモノをつくれ

第3条:サイズやコストは可能性で決めるな。必要性・必然性で決めろ

第4条:市場は成熟しているかもしれないが商品は成熟などしていない

第5条:できない理由はできることの証拠だ。できない理由を解決すればよい

第6条:よいものを安く、より新しいものを早く

第7条:商品の弱点を解決すると新しい市場が生まれ、利点を改良すると
今ある市場が広がる

第8条:絞った知恵の量だけ付加価値が得られる

第9条:企画の知恵に勝るコストダウンはない

第10条:後発での失敗は再起不能と思え

第11条:ものが売れないのは高いか悪いのかのどちらかだ

第12条:新しい種(商品)は育つ畑に蒔け

第13条:他社の動きを気にし始めるのは負けの始まりだ

第14条:可能と困難は可能のうち

第15条:無謀はいけないが多少の無理はさせろ、無理を通せば、発想が変わる

第16条:新しい技術は、必ず次の技術によって置き換わる宿命を持っている。
それをまた自分の手でやってこそ技術屋冥利に尽きる。自分がやらなければ
他社がやるだけのこと。商品のコストもまったく同じ

第17条:市場は調査するものではなく創造するものだ。世界初の商品を出す
のに、調査のしようがないし、調査してもあてにならない

第18条:不幸にして意気地のない上司についたときは新しいアイデアは上司
に黙って、まず、ものをつくれ

これを見ると、ソニースピリットとは、まさに技術開発のスピリットである
と感じます。

また誰かが指摘するように、このスピリットを受け継いでいるのは、アップル
ではないかと思ってしまいます。

■先の「設立趣意書」にもう一度戻ります。

「会社設立の目的」という項目には、「真面目なる技術者の技能を、最高度
に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とまず書かれて
あります。

つまり、ソニーは技術者が存分に能力を発揮するための会社であるというこ
とです。

続けてこうも書いています。

「日本再建、文化向上に対する技術面、生産面よりの活発なる活動」

戦後の焼け野原に出来た従業員20名程度の会社にしては、なんと壮大なる
目的を掲げたものでしょうか。

井深大氏は、ソニーという会社を通じて、日本の復興を担っていく覚悟を内
外に示しているのです。

しかも彼が偉大だったのは、その気持ちを後年に至るまで揺るぎなく持ち続
けたということです。

■「さよなら!僕らのソニー」には、戦後まだ反日感情が厳しかった時代に、
ニューヨーク5番街に出店したショールームに日章旗を掲げた井深大氏のエ
ピソードが載っています。

日系企業への反発を危惧した当時のマネージャーに、彼はこう言っています。

「われわれは、日の丸に恥じないことをやるために、国旗を出すんだよ」

当時、5番街という一等地に日の丸が掲げられているのを見た日本企業の
在員たちは「アメリカの中心で、はためく日の丸を見て、どれだけ勇気づけ
られたことか」と語っていたそうです。

ソニーという会社が持っていた日本再建という気概に、多くの日本人が共鳴
し、夢を託しました。

つまり、私たちは、ソニーという会社に、ドン底から再び這い上がって、世
界の一等国の仲間入りを果たして、誇りを取り戻そうとする自分自身や日本
国そのものの姿を見ていたわけです。

■最初の疑問に戻ります。

私にとって、ソニーとは、小さな、販売力のない、儲けることが苦手な、し
かし、理想に燃えて挑戦心を失わない、尖った技術を武器とする、日本を代
表する会社です。

それは一企業という範疇を越えて、坂の上の雲を目指した私たちの希望であ
り続けました。

多くのアメリカ人が「ソニーはアメリカの会社だ!」と信じ込んでいるとい
うエピソードに、日本人としてプライドをくすぐられたものでした。

■ところが、出井社長が就任した1995年当時、ソニーは好きな技術を追
求しているだけでは立ち行かない会社になっていたようです。

それは小さな会社などではなく、日本有数の大企業となっていました。

当然、従業員も多い。彼らを抱えていくためには、利益を出さなければなり
ません。しかも、財務的な問題を抱えていました。

特に出井氏は、創業メンバーでもなく、技術系でもない人物なので、業績を
上げないと代表者として認めてもらえません。

利益を上げるために最も手っ取り早い方法は、固定費を削減することですか
ら、出井社長はそこに手をつけました。

つまり、人員削減です。

出井社長にとって、当時のソニーは、技術者が好き勝手にいつ金になるか分
からない研究開発に費用と時間をつぎこむ非効率で、非現実的な組織である
ように見えていたのかも知れません。

業績を上げることが仕事である経営者の立場からすれば当然の判断だったの
でしょうが、人員削減には、短期利益の向上という劇的効果もありますが、
組織の弱体化という強烈な副作用があります。

しかもたいてい人員削減した場合、有能な社員が出ていくものです。

出井社長の時代、ソニーの技術力を支えた多くの優秀な人材が、社外に流出
した事例が「さよなら...ソニー」には書かれています。

強みであった技術力を担う人材の多くは社外に流出し、彼らを吸収した韓国
企業(サムスンやLG)躍進の原動力の一因になったのではないかと思われ
ます。

■産業構造が水平分業化し、製造組立に利益が残らないということが分かっ
ていたなら、得意の技術力を生かした要素技術やデバイスを強化することで、
ビジネスを組み立てられなかったのか。

これもよく指摘されることです。

例えば、電子マネーのエディは、ソニーの技術がもとになっています。もし、
ソニーが電子マネーを中心にビジネスを組み立てることが出来たならば、相
当大きな利益を見込めたかも知れませんが、実際には、単体技術の提供に止
まっています。

ソニーが今でも強い製品分野は、プロ仕様の高性能デジタル機器などですか
ら、ニッチな分野を取り込むのは得意なのですが、ある技術を元に市場を丸
ごと創るような本来の意味でのマーケティング戦略は、不得意のようです。

出井社長時代に目指すべきは、こちらのコンセプト設計力の強化ではなかっ
たか?

ところが、彼は、コンテンツビジネスの強化にまい進します。魅力的なコン
テンツ(映画、音楽...)さえあれば、顧客を囲い込むことができて、機器が
売れるはずだという理屈でしょう。

一方のアップルは、製造組立では利益が出ないという認識は同じだったので
すが、自らコンテンツを抱え込もうとはせずに、コンテンツが集まりやすい
場を提供することで、顧客の抱え込みに成功します。

それがiPod、iPhone、iPadという機器がネットワークでつながるiTunesや
icloudといった仕組みです。

これは本来、ソニーがやりたかったことのはずです。できなかったのは、囲
い込みの手法に問題があったということです。

(もっともグーグルのオープン化戦略は、いずれアップルの囲い込み戦略を
凌駕してしまうのではないかと私は見ていますが、それは別の話です)

■出井体制の後、ハワード・ストリンガーCEOの時代(2005年~)に
なると、コンテンツ重視はさらに加速し、技術軽視といった感さえしてきます。

ストリンガーCEOは、本社のある日本には滞在せずに、米国から遠隔で経
営しようとしました。

コンテンツ大国アメリカに住む彼の危機感は、前の代表よりもさらに強く、
製造組立など早くやめて、コンテンツ中心のメーカーにしようとしました。

その意図通り、映画や音楽の世界では、ソニーは一定の業績を上げています。

彼の目指すものは、ディズニーのようなコンテンツやキャラクターを中心と
するビジネスの確立だったのでしょうか。

残念ながら多くの日本人には、その方向性は理解されず、彼の改革は進みま
せんでした。

参考:ソニーはどこへ向かうのか ストリンガー氏の長い苦闘の先にある未来
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/34662

しかし、そもそもソニーをコンテンツ中心の事業に変えようというのが正し
かったかと言われれば大いに疑問です。

なぜなら、そこにはソニーの強みはなかったからです。

もともと持っていた強みを捨てて、新しい分野で強みを作ろうという試みが
全て間違っているとは言いませんが、そんな壮大な実験を日本を代表する巨
大企業でやろうとする時に、リスクに見合ったリターンが見込めたとは思え
ません。

10人中10人が、得意の技術を生かせるようなビジネス構築を目指すはず
です。

■しかし、出井、ストリンガー体制の下では「機器売りではダメだ。コンテ
ンツを中心としたビジネスにしなければならない」という方向性を選びました。

昔のソニーを知る者にとって、彼らの経営の仕方は、技術を理解しない経営陣
による地に足のつかないスローガンだけの浮ついたものに見えたことでし
ょう。彼らは巨大な抵抗勢力として立ちはだかり、社内を混乱させる大きな
要因となりました。

ところが、選択と集中を志向する経営陣からすると、技術陣の自由気ままを
いつまでも放置するわけにはいきません。

確かに、売上高7兆円超、従業員数17万人、外国人持ち株比率が半分に迫
ろうとする大企業が「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」たらんとす
ることには無理があるという改革派の意見にも理屈があります。

出井CEOが組織体制をめまぐるしく変えたり、ストリンガーCEOが東京
の本社から距離を置いたりしたことは、ソニー旧体制の批判を封じ込めよう、
かわそうとする気持ちの表れなのかも知れません。

紆余曲折はあったものの、ソニーをコンテンツとネットワークに強い会社に
するという彼らの構想は、実現しつつあるようです。

未だ力強さはないものの、円高やタイの洪水の影響がなければ、黒字基調に
乗せることができたはずだとストリンガー陣営は見ていたようです

(といいながらストリンガー氏の後を引き継ぐ平井CEOが、「テレビ事業
を再生する」などと発言していることがいかにも中途半端で不安ですが...)

■ただし、それは我々のかつて知っていたソニーではありません。

ソニーはもはや、先端技術に挑戦する尖った企業でもなく、日本の再建の象
徴になるような企業でもありません。

出井、ストリンガー体制のもとで、ソニーがかつて持っていた技術的強みは
失われ、今やコンテンツビジネスで生きていくしかない、というのが「さよ
なら!僕らのソニー」の結論でした。

それも仕方ないでしょう。彼らだって株主に報いなければならないというの
が第一の使命ですから、CEOを任せられた者は、短期的にも業績向上を目
指さなければなりませんでした。

ソニーは日本の宝だ、日本の代表だ、というのは我々の勝手であり、責任の
ない発言です。

コンテンツ&ネットワークビジネスで一定の利益を上げたというのはご同慶
の至りです。

それが、長期的な利益を生み出す仕組みや企業の強みとして確立されている
のかどうかまでは、今回調べきれませんでしたが、我々は、大きくその存在
意義を変えなければならなかった巨大企業の方向転換に立ち会う者として、
その姿を見守る機会を素直に享受しようではありませんか。

一抹の寂しさを感じつつ、そう書いておきます。

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