ナイキもアシックスも「SHOE DOG」だ!

2017.12.14

(2017年12月14日メルマガより)

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最近のマイブームといえば「陸王」です。

日曜日の午後9時からTBS系で放送されているテレビドラマのことです。

この枠で放送される池井戸潤原作のドラマは、ストーリーや演出にけれんみがあって面白い。

主に、ビジネスにおいて、主人公やその仲間たちが、困難を乗り越えて目標達成を成し遂げていく姿を描いています。

余計な恋愛模様が出てこないところもいいですね。

「半沢直樹」「ルーズベルト・ゲーム」「下町ロケット」ぜんぶ観ておりますが、今回の「陸王」も変わらず面白いです。

ちなみに「陸王」というのは、小さな足袋メーカーが始めたジョギングシューズのブランド名です。

資金繰りにも困る小さな足袋屋さんが、スポーツシューズを開発したものの、毎回のように資金難や大手企業からの妨害や幾多の試練にさらされます。

それを一つひとつ乗り越えていく様が感動的です。

まだ放映中ですから、原作を読んで結末を知っている人は、どうかネタバレしないようにお願いいたします。


ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝「SHOE DOG」


そんな私にとって実に旬な本を読みました。


SHOE DOG(シュードッグ)
フィル・ナイト
東洋経済新報社
2017-10-27



世界最大のスポーツ用品メーカー、ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝です。

「SHOE DOG」とは「靴の製造、販売、購入、デザインなどにすべてを捧げる人間」のことだと書かれています。

意訳すれば「靴オタク」「靴キチガイ」といったところでしょうか。

学生時代に陸上選手だったフィル・ナイトが陸上用の靴を愛するあまり、1962年日本製の靴を輸入販売する会社を立ち上げるところから、メーカーとして自社製品を作るようになり、1980年株式公開するところまでが書かれています。

常に革新性を失わず、新たな挑戦を止めないナイキらしく、この本の中のフィル・ナイトもベンチャースピリットの塊です。

常に困難に立ち向かい、常に動き回っている。止まったら死んでしまうサメのようです。


ビジネス書というよりも、冒険小説


1962年、フィル・ナイトが、日本の鬼塚(現アシックス)を訪問して、製品の販売代理店になることを取り付けたところから行き当たりばったりです。

思い付きだけで訪問したものだから、受け入れる会社もない。そこで存在しない会社をでっちあげて、代理店の権利を勝ち取ります。

幸運にも、成長市場に網を張ることができたナイトの会社(ブルーリボン社、現ナイキ)は、倍々ゲームのように売上を伸ばしていきます。

ところが実際には困難の連続です。

鬼塚からの製品は遅れるわ、注文通り来ないわ。

他の販売代理店から商圏規約違反を主張されるわ。

銀行からは目の敵にされるわ。

FBIからは詐欺の疑いで調査されるわ。

鬼塚からは、買収されそうになるわ。

関税局からは巨額の関税を請求されるわ。

常に資金不足で資金繰りに追われるわ。

後発だったナイキがいかにして世界トップ企業に上り詰めたのか、戦略面のことは殆ど書かれていません。

一貫して描かれるのは、迫りくる危機をベンチャー企業がギリギリでさばく様です。

そういう意味では、ビジネス書というよりも、冒険小説に近いものがあります。

常に困難が押し寄せる展開は、読みだしたらやめられない面白さです。


サークルノリの経営


ベンチャー企業側としては、理路整然と戦略を練る姿よりも、行き当たりばったりで右往左往する方が、実感に近いものなのでしょうね。

そこに伝説の創業者たるフィル・ナイトの虚栄心が全く見られないのがさすがです。普通、人間は「あの時はこうだったから、こう決断した」という後付けの判断根拠を書きたくなるものですからね。

いや、むしろ、そういう立派に見える部分を意図して省いているかのようです。

頼りない創業者を助けたのが、これもまた癖のあるメンバーたち。

闘争心むき出しの陸上コーチ。

承認欲求がやたら強い社員第一号。

ブルドーザーマニアの元会計事務所の上司。

巨漢の弁護士。

SHEO DOG」であること以外、共通点のない彼らが、創業者たるナイトの言うことをまるで聞かず、勝手なことを言い合いながら、経営を進めていくのです。

その様は、ほとんどサークル運営のノリのよう。ナイトは、自分を含めたメンバーをバットフェイス(負け犬)と呼んでいますが、実際には、弁護士や会計士や、優秀な人物揃いです。

そもそもフィル・ナイト自身が、スタンフォード大学でMBAを取得し、会計学の講師もできるほどのエリートです。

まさかただのサークルノリでナイキができたわけではないでしょう。


理想的なチームとは


しかし、この本に書かれている経営チームが、理想的な組織であることは認めなければなりません。

デコボコでまとまりのないメンバーほど一体となった時にパワーを発揮します。

手前味噌ですが、拙著『「廃業寸前」が世界トップ企業になった奇跡の物語』でも、あえてデコボコのメンバーを描きました。(実際にあった話ですが、メンバーは創作です。モデルはいません。念のため)

それはコンサル経験上、デコボコチームの威力を知っていたからです。

私が考えるチームが一体化して威力を発揮する条件とは、

(1)明確な目標がある。

(2)風通しが良い。コミュニケーションがとれている。

(3)できる限り権限移譲されている。

ことです。

SHOE DOG」でも、その様子はイキイキと描かれています。サークルノリだから、必要以上にコミュニケーションはとれているし、権限移譲の割合も高い。というか、社長がアップアップで殆ど丸投げです^^;

ただし(1)の目標は、ナイキにおいては、世界トップなどではありません。

フィル・ナイトやそのメンバーは、まるで「仕事に追い立てられる」ことを目的にしているかのように描かれています。

つまりナイキのメンバーとして靴に関わり続けること。それが彼らの大きな動機となっているのです。


日本のトップ企業、アシックス


いま、ナイキの売上高は、約3兆8千億円超。世界トップ企業です。

2位がアディダスの約2兆4千億円超。

この2社が、2強を形成しています。

その下に、アンダーアーマー(約5300億円)、プーマ(約4500億円)、ニューバランス(業績非公開)などが続きます。

日本のトップ企業は、アシックス。売上高は、約4千億円弱。世界でいえば5位。(ニューバランスは業績非公開なので省く)

昨年、今年と売り上げを落としていることが気がかりですが。

この「SHOE DOG」で気になるのは、鬼塚(現アシックス)を、理不尽な要求を突きつける悪役企業に仕立てていることでしょうか。

私は、アシックスの創業者、鬼塚喜八郎氏を知っています。少なくとも、私が知る鬼塚氏は、公共意識、利他意識が強い高潔な人格をお持ちの方でした。

およそ「SHOE DOG」に書かれるような、姑息な策略を弄してベンチャー企業を陥れるような人ではありません。

もちろんビジネス上のことですから、一方から見れば理不尽な仕業にみえる部分があったのかも知れません。

が、それはあまりにも一面的な見方であると言っておきます。


アシックスの創業者 鬼塚喜八郎


私は以前、このメルマガで何度かアシックスについて書いたことがあります。




詳しくは上記を読んでいただくとして、簡単に再掲いたします。

鬼塚喜八郎氏は、もとは坂口喜八郎という名前でしたが、軍隊にいた時、戦地に赴く戦友から「自分が死んだら、代わりに近所の老夫婦の面倒を見てほしい」と頼まれ、それを実行するために老夫婦の養子になり、鬼塚姓となりました。

このことからも鬼塚氏が「約束は絶対に守る」人だったことがわかっていただけるのではないでしょうか。

養子になったものの、一家を食べさせていかなければならない。どうすればいいのだろうかと学校の先生に相談すると、戦後すぐのこと「いまの子供たちは履く靴もない。彼らが健康に育つように運動用の靴を作ったらどうか」と勧められ、靴メーカーになることを決意します。

ところが、靴を製造する技術もない。そこで、鬼塚氏は、神戸長田の靴工場に働きに出て、靴の作り方を一から学んだそうです。

そこまでやったのです。まるでリアル「陸王」のようではないですか。

鬼塚氏もベンチャー精神にあふれた人でした。


オニツカ錐もみ商法


ここからが圧巻です。

靴を作る技術を習得し、需要を捉えたものの、鬼塚氏はこう考えます。

「いまは戦後で物資の少ない時期だから、何を作っても売れる。しかし、物が充分に供給されるようになると、小さな会社は淘汰されるのではないか?」

そこで、鬼塚氏は「今のうちに大手企業が手掛けないような分野に旗を立てよう」と決断します。

選んだのがバスケットシューズです。

動いたり止まったりの激しいバスケットシューズは作るのが難しい。だから、大手もやりたくないはずだ。そう考えたからです。

狙いは的確でした。しかし、バスケットシューズの制作は想像以上に困難だったようです。

バスケットの強い地元の中学に靴を無償提供し、何度も「こんなもの履けるか!」と突き返されながら、少しずつ機能と品質を向上させていきました。

やがて地元の中学が全国大会で優勝。

話題になったバスケットシューズを会場で展示販売し、徐々に知名度を高めていきました。

ついに最初の目論見通り、狭いながらもバスケットボール競技者の世界で知らぬ者のない存在となっていきます。

この機を逃さず、各地の販売店に展開していき、国内ナンバーワンシューズの地位を確立していきました。

そしてバスケットシューズの世界でトップになった鬼塚タイガー(ブランド名)は、ジョギングシューズ、テニスシューズ...というように、一競技ずつ同じように攻略していきました。

これを鬼塚喜八郎氏は「オニツカ錐もみ商法」と呼んでいます。


貴社のやってきたことはランチェスター戦略です


競技靴の世界を制した鬼塚は、アシックスとなり、総合スポーツ用品メーカーとなっていきます。

後に、ランチェスター戦略を知った鬼塚喜八郎氏は「これは自分のやってきた戦略ではないか!」と感じます。

創立者の田岡信夫先生にその旨を尋ねると「その通りです。貴社のやってきたことはまさにランチェスター戦略です」と言われました。

有名な戦略の創立者に認められた。その時の感激を鬼塚氏は生涯忘れなかったようです。

それ以来、鬼塚氏はランチェスター協会の会員として、この戦略の普及に協力されました。

このエピソードからもわかるように、鬼塚氏は、純粋でまっすぐで好奇心に満ちた方でした。

決して相手が若造だからとか、小さな会社だからとか言って、軽く見たり、知ったかぶりをしたり、理不尽な要求をするような人ではありませんでした。

お亡くなりになる数年前に知己を得た私は本当に幸運だったと思います。


アシックスの飛躍を信じています


一時期、総合スポーツ用品メーカーとして業績が低迷していましたが、復活したのは、原点である靴に経営資源を集中させる戦略が功を奏したからです。

いまやアシックスは、70%以上を海外で稼ぐ完全なグローバル企業です。

いま少々業績を落としているようですが、必ずやV字回復すると信じています。

きっとランチェスター戦略を学びなおして、各国でシェア向上に取り組んでいることでしょう。

ランチェスター戦略の緻密なシェア向上策をもってすれば、決して難しいことではないと思います。


(2017年12月14日メルマガより)

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最近のマイブームといえば「陸王」です。

日曜日の午後9時からTBS系で放送されているテレビドラマのことです。

この枠で放送される池井戸潤原作のドラマは、ストーリーや演出にけれんみがあって面白い。

主に、ビジネスにおいて、主人公やその仲間たちが、困難を乗り越えて目標達成を成し遂げていく姿を描いています。

余計な恋愛模様が出てこないところもいいですね。

「半沢直樹」「ルーズベルト・ゲーム」「下町ロケット」ぜんぶ観ておりますが、今回の「陸王」も変わらず面白いです。

ちなみに「陸王」というのは、小さな足袋メーカーが始めたジョギングシューズのブランド名です。

資金繰りにも困る小さな足袋屋さんが、スポーツシューズを開発したものの、毎回のように資金難や大手企業からの妨害や幾多の試練にさらされます。

それを一つひとつ乗り越えていく様が感動的です。

まだ放映中ですから、原作を読んで結末を知っている人は、どうかネタバレしないようにお願いいたします。


ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝「SHOE DOG」


そんな私にとって実に旬な本を読みました。


SHOE DOG(シュードッグ)
フィル・ナイト
東洋経済新報社
2017-10-27



世界最大のスポーツ用品メーカー、ナイキの創業者フィル・ナイトの自伝です。

「SHOE DOG」とは「靴の製造、販売、購入、デザインなどにすべてを捧げる人間」のことだと書かれています。

意訳すれば「靴オタク」「靴キチガイ」といったところでしょうか。

学生時代に陸上選手だったフィル・ナイトが陸上用の靴を愛するあまり、1962年日本製の靴を輸入販売する会社を立ち上げるところから、メーカーとして自社製品を作るようになり、1980年株式公開するところまでが書かれています。

常に革新性を失わず、新たな挑戦を止めないナイキらしく、この本の中のフィル・ナイトもベンチャースピリットの塊です。

常に困難に立ち向かい、常に動き回っている。止まったら死んでしまうサメのようです。


ビジネス書というよりも、冒険小説


1962年、フィル・ナイトが、日本の鬼塚(現アシックス)を訪問して、製品の販売代理店になることを取り付けたところから行き当たりばったりです。

思い付きだけで訪問したものだから、受け入れる会社もない。そこで存在しない会社をでっちあげて、代理店の権利を勝ち取ります。

幸運にも、成長市場に網を張ることができたナイトの会社(ブルーリボン社、現ナイキ)は、倍々ゲームのように売上を伸ばしていきます。

ところが実際には困難の連続です。

鬼塚からの製品は遅れるわ、注文通り来ないわ。

他の販売代理店から商圏規約違反を主張されるわ。

銀行からは目の敵にされるわ。

FBIからは詐欺の疑いで調査されるわ。

鬼塚からは、買収されそうになるわ。

関税局からは巨額の関税を請求されるわ。

常に資金不足で資金繰りに追われるわ。

後発だったナイキがいかにして世界トップ企業に上り詰めたのか、戦略面のことは殆ど書かれていません。

一貫して描かれるのは、迫りくる危機をベンチャー企業がギリギリでさばく様です。

そういう意味では、ビジネス書というよりも、冒険小説に近いものがあります。

常に困難が押し寄せる展開は、読みだしたらやめられない面白さです。


サークルノリの経営


ベンチャー企業側としては、理路整然と戦略を練る姿よりも、行き当たりばったりで右往左往する方が、実感に近いものなのでしょうね。

そこに伝説の創業者たるフィル・ナイトの虚栄心が全く見られないのがさすがです。普通、人間は「あの時はこうだったから、こう決断した」という後付けの判断根拠を書きたくなるものですからね。

いや、むしろ、そういう立派に見える部分を意図して省いているかのようです。

頼りない創業者を助けたのが、これもまた癖のあるメンバーたち。

闘争心むき出しの陸上コーチ。

承認欲求がやたら強い社員第一号。

ブルドーザーマニアの元会計事務所の上司。

巨漢の弁護士。

SHEO DOG」であること以外、共通点のない彼らが、創業者たるナイトの言うことをまるで聞かず、勝手なことを言い合いながら、経営を進めていくのです。

その様は、ほとんどサークル運営のノリのよう。ナイトは、自分を含めたメンバーをバットフェイス(負け犬)と呼んでいますが、実際には、弁護士や会計士や、優秀な人物揃いです。

そもそもフィル・ナイト自身が、スタンフォード大学でMBAを取得し、会計学の講師もできるほどのエリートです。

まさかただのサークルノリでナイキができたわけではないでしょう。


理想的なチームとは


しかし、この本に書かれている経営チームが、理想的な組織であることは認めなければなりません。

デコボコでまとまりのないメンバーほど一体となった時にパワーを発揮します。

手前味噌ですが、拙著『「廃業寸前」が世界トップ企業になった奇跡の物語』でも、あえてデコボコのメンバーを描きました。(実際にあった話ですが、メンバーは創作です。モデルはいません。念のため)

それはコンサル経験上、デコボコチームの威力を知っていたからです。

私が考えるチームが一体化して威力を発揮する条件とは、

(1)明確な目標がある。

(2)風通しが良い。コミュニケーションがとれている。

(3)できる限り権限移譲されている。

ことです。

SHOE DOG」でも、その様子はイキイキと描かれています。サークルノリだから、必要以上にコミュニケーションはとれているし、権限移譲の割合も高い。というか、社長がアップアップで殆ど丸投げです^^;

ただし(1)の目標は、ナイキにおいては、世界トップなどではありません。

フィル・ナイトやそのメンバーは、まるで「仕事に追い立てられる」ことを目的にしているかのように描かれています。

つまりナイキのメンバーとして靴に関わり続けること。それが彼らの大きな動機となっているのです。


日本のトップ企業、アシックス


いま、ナイキの売上高は、約3兆8千億円超。世界トップ企業です。

2位がアディダスの約2兆4千億円超。

この2社が、2強を形成しています。

その下に、アンダーアーマー(約5300億円)、プーマ(約4500億円)、ニューバランス(業績非公開)などが続きます。

日本のトップ企業は、アシックス。売上高は、約4千億円弱。世界でいえば5位。(ニューバランスは業績非公開なので省く)

昨年、今年と売り上げを落としていることが気がかりですが。

この「SHOE DOG」で気になるのは、鬼塚(現アシックス)を、理不尽な要求を突きつける悪役企業に仕立てていることでしょうか。

私は、アシックスの創業者、鬼塚喜八郎氏を知っています。少なくとも、私が知る鬼塚氏は、公共意識、利他意識が強い高潔な人格をお持ちの方でした。

およそ「SHOE DOG」に書かれるような、姑息な策略を弄してベンチャー企業を陥れるような人ではありません。

もちろんビジネス上のことですから、一方から見れば理不尽な仕業にみえる部分があったのかも知れません。

が、それはあまりにも一面的な見方であると言っておきます。


アシックスの創業者 鬼塚喜八郎


私は以前、このメルマガで何度かアシックスについて書いたことがあります。




詳しくは上記を読んでいただくとして、簡単に再掲いたします。

鬼塚喜八郎氏は、もとは坂口喜八郎という名前でしたが、軍隊にいた時、戦地に赴く戦友から「自分が死んだら、代わりに近所の老夫婦の面倒を見てほしい」と頼まれ、それを実行するために老夫婦の養子になり、鬼塚姓となりました。

このことからも鬼塚氏が「約束は絶対に守る」人だったことがわかっていただけるのではないでしょうか。

養子になったものの、一家を食べさせていかなければならない。どうすればいいのだろうかと学校の先生に相談すると、戦後すぐのこと「いまの子供たちは履く靴もない。彼らが健康に育つように運動用の靴を作ったらどうか」と勧められ、靴メーカーになることを決意します。

ところが、靴を製造する技術もない。そこで、鬼塚氏は、神戸長田の靴工場に働きに出て、靴の作り方を一から学んだそうです。

そこまでやったのです。まるでリアル「陸王」のようではないですか。

鬼塚氏もベンチャー精神にあふれた人でした。


オニツカ錐もみ商法


ここからが圧巻です。

靴を作る技術を習得し、需要を捉えたものの、鬼塚氏はこう考えます。

「いまは戦後で物資の少ない時期だから、何を作っても売れる。しかし、物が充分に供給されるようになると、小さな会社は淘汰されるのではないか?」

そこで、鬼塚氏は「今のうちに大手企業が手掛けないような分野に旗を立てよう」と決断します。

選んだのがバスケットシューズです。

動いたり止まったりの激しいバスケットシューズは作るのが難しい。だから、大手もやりたくないはずだ。そう考えたからです。

狙いは的確でした。しかし、バスケットシューズの制作は想像以上に困難だったようです。

バスケットの強い地元の中学に靴を無償提供し、何度も「こんなもの履けるか!」と突き返されながら、少しずつ機能と品質を向上させていきました。

やがて地元の中学が全国大会で優勝。

話題になったバスケットシューズを会場で展示販売し、徐々に知名度を高めていきました。

ついに最初の目論見通り、狭いながらもバスケットボール競技者の世界で知らぬ者のない存在となっていきます。

この機を逃さず、各地の販売店に展開していき、国内ナンバーワンシューズの地位を確立していきました。

そしてバスケットシューズの世界でトップになった鬼塚タイガー(ブランド名)は、ジョギングシューズ、テニスシューズ...というように、一競技ずつ同じように攻略していきました。

これを鬼塚喜八郎氏は「オニツカ錐もみ商法」と呼んでいます。


貴社のやってきたことはランチェスター戦略です


競技靴の世界を制した鬼塚は、アシックスとなり、総合スポーツ用品メーカーとなっていきます。

後に、ランチェスター戦略を知った鬼塚喜八郎氏は「これは自分のやってきた戦略ではないか!」と感じます。

創立者の田岡信夫先生にその旨を尋ねると「その通りです。貴社のやってきたことはまさにランチェスター戦略です」と言われました。

有名な戦略の創立者に認められた。その時の感激を鬼塚氏は生涯忘れなかったようです。

それ以来、鬼塚氏はランチェスター協会の会員として、この戦略の普及に協力されました。

このエピソードからもわかるように、鬼塚氏は、純粋でまっすぐで好奇心に満ちた方でした。

決して相手が若造だからとか、小さな会社だからとか言って、軽く見たり、知ったかぶりをしたり、理不尽な要求をするような人ではありませんでした。

お亡くなりになる数年前に知己を得た私は本当に幸運だったと思います。


アシックスの飛躍を信じています


一時期、総合スポーツ用品メーカーとして業績が低迷していましたが、復活したのは、原点である靴に経営資源を集中させる戦略が功を奏したからです。

いまやアシックスは、70%以上を海外で稼ぐ完全なグローバル企業です。

いま少々業績を落としているようですが、必ずやV字回復すると信じています。

きっとランチェスター戦略を学びなおして、各国でシェア向上に取り組んでいることでしょう。

ランチェスター戦略の緻密なシェア向上策をもってすれば、決して難しいことではないと思います。


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