ノウハウを捨てよう!

2006.02.16


(2006年2月16日メルマガより)

■営業に携わる者が最も言ってはならないのは「昔はよく売れたのにな」と
いう類の言葉です。

これを言い出したら、引退の時期が来たということです。

なぜなら、今は昔ではないからです。ノスタルジーに浸るのは、引退してか
らで十分でしょう。


■どの企業にも「伝説の営業マン」という存在がいます。

今からでは、考えられないような成績を上げたことがあったり、会社の危機
を救うような奇跡の活躍をしたり。

そういう存在です。


■私はそういう方の話をよく聞かされました。

毎朝5時に起きて顧客の家を回ってポスティングをしたとか、顧客が飲んで
帰ってくるのを毎晩待って口説き落としたとか、3日3晩ぶっつづけで働い
て大型案件の企画書をまとめたとか。

日本が戦後奇跡の復興を遂げ、20世紀最も成長した国家となったのは、そ
ういった方々の血のにじむような努力があったからに他なりません。


■ところが、そういう方々の現状は、決して恵まれたものではありません。

私のよく知っている会社の「伝説の人」は、若い社員から、飲み屋のネタに
されていました。
「あの人、昔はすごかったらしいよ」
「朝5時にお客さんのところに行ったらしいよ」
「ストーカーと一緒だね」
私はその有様を見てショックを受けました。

しかし、自分の営業活動を体系化できず、経験のみで行動する"万年兵隊型
"営業マンの末路はこのようなものです。
まさにアーサー・ミラーの「セールスマンの死」そのままです。

なぜ、このようなことになったのでしょうか。


■日本の経済復興は、敗戦の年、1945年からです。
何もない時代に、全員が一斉にスタートを切ったのが特徴です。

1945年から1955年までの10年間は明らかな「生産志向」の時代で
す。作れば作るほど売れた時代です。ものがないのだから、作り続けること
は世の中の役に立つことでした。

この頃には営業の役割も大きなものではありませんでした。


■1955年になると、大量生産体制が整い、ものが余ってしまいました。
だからこの頃からは「販売志向」の時代となりました。

ものが余ったのだから、なんとかして売ろうと努力する時代です。

同時に日本人の暮らしはどんどん豊かになっていきました。大量に作ったも
のが大量に売れるのだから、企業の業績はよくなって、払う給料も増えてい
きます。そのため、人々が使うお金も年々増えてくるという好循環です。

俄然、営業マンの役割もクローズアップされてきました。
売上がないと会社は成り立ちません。
不可能を可能にし、会社の危機を救う存在。ライバル会社との熾烈な競争に
打ち勝ち、売上を上げ続ける存在。それが営業です。

モーレツ社員が受け入れられたのはこの頃です。

皆、「坂の上の雲」をつかもうと夢を見ていましたから、モーレツに頑張る
ことは美徳でした。少々強引な販売手法であっても、受け入れられる雰囲気
があったのでしょう。

血のにじむような努力があったことは確かですが、それは同時に、努力する
ことが必ず報われた古きよき時代だったのです。


■ところが、日本の高度成長期は1973年に終わりを遂げます。

オイルショックがやってきたのです。

その時、日本ははじめて低成長の時代を経験しました。低成長とは、来年の
業績が、今年より上がるとは限らないことを意味します。
同時にそれは、社員に払う給料を上げることができないことでもあります。

こんな状態ではとても怖くて消費できません。
すると景気が冷え込んで、さらに企業の業績は伸びない悪循環です。

したがって、売り込むだけの営業マンはうっとうしい存在になりました。
モーレツに売り込む営業マンなど害悪にしか過ぎません。


■実は、それ以降、日本の成長性は何ら変化していません。ずっと、我々は、
低成長の時代をすごしています。

つまり、ライバルの下値をくぐったり、名刺代わりに目玉商品を提供したり、
問屋に在庫を無理やり押し込んだり、そういった顧客の根本的な問題解決に
結びつかない営業手法では業績が伸びない時代に営業を行っているのです。

努力しても報われるとは限りません。
努力する方向性を間違えたら、いくら頑張っても無駄になるのです。


■さらに言うと、1985年に世界の枠組みは決定的に変わってしまいまし
た。

阪神タイガースが日本一になった年です。

大前研一氏はその著書の中で「プラザ合意」「ゴルバチョフの登場」「ウィ
ンドウズ1.0の発売」の3つの要因が世界を変えたと指摘しています。

「プラザ合意」はドル安を招き、アメリカにさえ輸出していればよかった各
国の産業構造は転換を余儀なくされました。

「ゴルバチョフの登場」は、共産主義社会の崩壊を招き、東西冷戦は終わり
を遂げました。

そして、最も大きな要因が「ウィンドウズ」の登場です。
IT革命は1985年に始ったとも考えられます。


■いまや、インターネットがない世の中など考えられません。

我々は、情報が普遍的に存在するという前提に立ってビジネスを組み立てな
ければなりません。

世の中の動きは加速したかのようにスピードアップし、成長市場はすぐに成
熟し、衰退してしまいます。


■変化がこの時代の常識になりました。

先月成功したノウハウは、瞬時に陳腐なものとなってしまい今月も通用する
とは限らないのです。

過去のノウハウを後生大事にすることほど愚かしいことはありません。
そもそもノウハウなどは、思考が衰弱した者の逃避だと私は考えます。

売れないのならば、どうすれば売れるのかを、原理原則から一回一回考え直
さなければ、役に立つ手法は生まれてこないのです。


■だから「昔はよく売れた」などは、現役の営業マンの神経を逆なでするた
めの発言でしかないということを理解しなければなりません。

それは、現在の経営環境ではもう通用しないからと努力することを停止した
人の発言なのです。


■伝説の営業マンとは神話の人物のようなもので、現実のものではありませ
ん。

それは大理石でできた彫像と同じく、功績を称えられつつも、現実には消え
去った存在なのです。


■何を隠そう、現役を離れて久しい私も、営業としては「大理石の彫像」で
しかないと自覚していることを白状しておきます。

私こそ、ノウハウなんかに逃げずに、一回一回、問題解決を丹念に行ってい
かなければ通用しない存在です。


編集後記

■営業交渉に最も必要なのは「誠実さ」です。

なぜなら、売れない時代には顧客維持が課題となり、そのためには誠実さが
最も効果的だからです。

■営業交渉のセミナーでは「悪の交渉術」の手口も紹介しています。
いわゆる騙しのテクニックです。
誠実さを基本としても、相手から騙しにかかってこられた時に、対処しなけ
ればならないからです。

ところが、セミナーを聞かれたある女性経営者が、最後に私にこう言い残し
て去っていきました。

「ありがとうございます。悪の交渉術を全部試してみます」

私は何を提供したんだろうと、背筋が寒くなってしまいました。


(2006年2月16日メルマガより)

■営業に携わる者が最も言ってはならないのは「昔はよく売れたのにな」と
いう類の言葉です。

これを言い出したら、引退の時期が来たということです。

なぜなら、今は昔ではないからです。ノスタルジーに浸るのは、引退してか
らで十分でしょう。


■どの企業にも「伝説の営業マン」という存在がいます。

今からでは、考えられないような成績を上げたことがあったり、会社の危機
を救うような奇跡の活躍をしたり。

そういう存在です。


■私はそういう方の話をよく聞かされました。

毎朝5時に起きて顧客の家を回ってポスティングをしたとか、顧客が飲んで
帰ってくるのを毎晩待って口説き落としたとか、3日3晩ぶっつづけで働い
て大型案件の企画書をまとめたとか。

日本が戦後奇跡の復興を遂げ、20世紀最も成長した国家となったのは、そ
ういった方々の血のにじむような努力があったからに他なりません。


■ところが、そういう方々の現状は、決して恵まれたものではありません。

私のよく知っている会社の「伝説の人」は、若い社員から、飲み屋のネタに
されていました。
「あの人、昔はすごかったらしいよ」
「朝5時にお客さんのところに行ったらしいよ」
「ストーカーと一緒だね」
私はその有様を見てショックを受けました。

しかし、自分の営業活動を体系化できず、経験のみで行動する"万年兵隊型
"営業マンの末路はこのようなものです。
まさにアーサー・ミラーの「セールスマンの死」そのままです。

なぜ、このようなことになったのでしょうか。


■日本の経済復興は、敗戦の年、1945年からです。
何もない時代に、全員が一斉にスタートを切ったのが特徴です。

1945年から1955年までの10年間は明らかな「生産志向」の時代で
す。作れば作るほど売れた時代です。ものがないのだから、作り続けること
は世の中の役に立つことでした。

この頃には営業の役割も大きなものではありませんでした。


■1955年になると、大量生産体制が整い、ものが余ってしまいました。
だからこの頃からは「販売志向」の時代となりました。

ものが余ったのだから、なんとかして売ろうと努力する時代です。

同時に日本人の暮らしはどんどん豊かになっていきました。大量に作ったも
のが大量に売れるのだから、企業の業績はよくなって、払う給料も増えてい
きます。そのため、人々が使うお金も年々増えてくるという好循環です。

俄然、営業マンの役割もクローズアップされてきました。
売上がないと会社は成り立ちません。
不可能を可能にし、会社の危機を救う存在。ライバル会社との熾烈な競争に
打ち勝ち、売上を上げ続ける存在。それが営業です。

モーレツ社員が受け入れられたのはこの頃です。

皆、「坂の上の雲」をつかもうと夢を見ていましたから、モーレツに頑張る
ことは美徳でした。少々強引な販売手法であっても、受け入れられる雰囲気
があったのでしょう。

血のにじむような努力があったことは確かですが、それは同時に、努力する
ことが必ず報われた古きよき時代だったのです。


■ところが、日本の高度成長期は1973年に終わりを遂げます。

オイルショックがやってきたのです。

その時、日本ははじめて低成長の時代を経験しました。低成長とは、来年の
業績が、今年より上がるとは限らないことを意味します。
同時にそれは、社員に払う給料を上げることができないことでもあります。

こんな状態ではとても怖くて消費できません。
すると景気が冷え込んで、さらに企業の業績は伸びない悪循環です。

したがって、売り込むだけの営業マンはうっとうしい存在になりました。
モーレツに売り込む営業マンなど害悪にしか過ぎません。


■実は、それ以降、日本の成長性は何ら変化していません。ずっと、我々は、
低成長の時代をすごしています。

つまり、ライバルの下値をくぐったり、名刺代わりに目玉商品を提供したり、
問屋に在庫を無理やり押し込んだり、そういった顧客の根本的な問題解決に
結びつかない営業手法では業績が伸びない時代に営業を行っているのです。

努力しても報われるとは限りません。
努力する方向性を間違えたら、いくら頑張っても無駄になるのです。


■さらに言うと、1985年に世界の枠組みは決定的に変わってしまいまし
た。

阪神タイガースが日本一になった年です。

大前研一氏はその著書の中で「プラザ合意」「ゴルバチョフの登場」「ウィ
ンドウズ1.0の発売」の3つの要因が世界を変えたと指摘しています。

「プラザ合意」はドル安を招き、アメリカにさえ輸出していればよかった各
国の産業構造は転換を余儀なくされました。

「ゴルバチョフの登場」は、共産主義社会の崩壊を招き、東西冷戦は終わり
を遂げました。

そして、最も大きな要因が「ウィンドウズ」の登場です。
IT革命は1985年に始ったとも考えられます。


■いまや、インターネットがない世の中など考えられません。

我々は、情報が普遍的に存在するという前提に立ってビジネスを組み立てな
ければなりません。

世の中の動きは加速したかのようにスピードアップし、成長市場はすぐに成
熟し、衰退してしまいます。


■変化がこの時代の常識になりました。

先月成功したノウハウは、瞬時に陳腐なものとなってしまい今月も通用する
とは限らないのです。

過去のノウハウを後生大事にすることほど愚かしいことはありません。
そもそもノウハウなどは、思考が衰弱した者の逃避だと私は考えます。

売れないのならば、どうすれば売れるのかを、原理原則から一回一回考え直
さなければ、役に立つ手法は生まれてこないのです。


■だから「昔はよく売れた」などは、現役の営業マンの神経を逆なでするた
めの発言でしかないということを理解しなければなりません。

それは、現在の経営環境ではもう通用しないからと努力することを停止した
人の発言なのです。


■伝説の営業マンとは神話の人物のようなもので、現実のものではありませ
ん。

それは大理石でできた彫像と同じく、功績を称えられつつも、現実には消え
去った存在なのです。


■何を隠そう、現役を離れて久しい私も、営業としては「大理石の彫像」で
しかないと自覚していることを白状しておきます。

私こそ、ノウハウなんかに逃げずに、一回一回、問題解決を丹念に行ってい
かなければ通用しない存在です。


編集後記

■営業交渉に最も必要なのは「誠実さ」です。

なぜなら、売れない時代には顧客維持が課題となり、そのためには誠実さが
最も効果的だからです。

■営業交渉のセミナーでは「悪の交渉術」の手口も紹介しています。
いわゆる騙しのテクニックです。
誠実さを基本としても、相手から騙しにかかってこられた時に、対処しなけ
ればならないからです。

ところが、セミナーを聞かれたある女性経営者が、最後に私にこう言い残し
て去っていきました。

「ありがとうございます。悪の交渉術を全部試してみます」

私は何を提供したんだろうと、背筋が寒くなってしまいました。

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代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
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