戦略はストーリーで語れ

2010.06.17

(2010年6月17日メルマガより)

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■今日は紹介したい本があります。

楠木建氏の「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件

恐らく私がここ数年に読んだ本の中で、最も重要なものの1つです。

楠木建氏は、競争戦略論を専門とする一橋大学の教授です。楠木氏が、自分
自身の理論と経験の集大成と位置づけるこの本ですが、その触れ込みに恥じ
ぬ充実ぶりです。

文章が平易。切り口が明快。論理展開が鮮やかで分かりやすい。事例が適切。
実感がこもっている。

それになにより、楠木氏の披露する競争戦略の論理体系が、明快で、納得で
きる。

大げさではなく、今までの企業戦略論に覚えていた"違和感"をこの本が払
拭してくれました。

■楠木氏は経営学者ですが、学者らしい悩みを最初に吐露しております。

経営というものは、論理だけで割り切れるものではなく、実践の要素が高い。
だから実務家からは、論理なんて役に立たないといわれることもしばしばで
ある。自分の存在価値は本当にあるんだろうか...という悩みです。

私と比較するのもなんですが、私は経営コンサルタントですから、実務家を
自認しておりますが、それでも「コンサルなんて認めない」という経営者は
おられます。

「あんたのアドバイスが正しいなら自分でやればいいじゃないか。自分でで
きないというのは、あんたのアドバイスは信用できないということだ」と面
と向かって言われたこともあります^^;

■もっとも多くの優秀な経営者は、実務家であると同時に、論理的です。そ
れが経験で得たものか、既存の経営理論から得たものかはともかくとして、
自分独自の経営理論体系を持っています。

楠木氏は、経営実務の20%しか理論化できないとしても、残りの80%が
理論外であるとはっきりするだけでも大きな意味があると書いています。

経営の現場において「さあ、あとは気合の勝負だ!」と言う場面はあります
が、最初から気合で押すわけではありません。理論で組み立てて、お膳立て
をして、後は気合に切り替えるわけです。前の20%を把握しているいない
では、全く違う経営スタイルとなってしまいます。

確かに、現場では不確定要素が多く、理論通りに進まないこともしばしばで
す。だからといって、無勝手流を貫いていると、知らず知らずのうちに経験
による体系を持ってしまいます。「前はうまくいった。今度もうまくいくだ
ろう」というわけです。

経験による体系は、理論ではなく、ジンクスのようなものです。

自分の経験したことを論理的に組み立て直すことで、それは修正が効き、応
用が効き、普遍的な原理原則に高めることができます。

原理原則にまで高めることができると、それは今後の自分の行動の指針にな
るだけではなく、他人と共有することができるようになります。

優秀なプレーヤーが、優秀なマネージャーになるための鍵は、自分の知見を
理論にできているかどうかにかかっているといってもいいでしょう。

■ただし「理論なんて役に立たない」と言いたくなる実務家の気持ちがわか
らなくもありません。

これは理論を組み立て、提供する学者やコンサルタントの側にも責任があり
ます。

楠木氏は、世の中に日々生まれる経営理論の多くは「無意味」か「嘘」だと
断じています。

例えば「成熟市場では競争が激しいのでブランド力が大切になる」という論
旨の本があったとします。学者のアプローチは、現在がいかに成熟市場であ
るか、競争が10年前と比べて激化しているかを示し、それでもうまくいっ
ている企業はブランド力が評価されている状況を提示します。

確かにその通りには違いないのですが、だからどうするの?ということがあ
まりにも薄っぺらい。うまくいっている企業の事例を数例載せている程度で
あり、その前の現状分析に比べてつけたしのような印象を与えます。これは
理論にもなっていない「無意味」の例ですね。

これに対して「この方法を適用すれば全てうまくいく」という万能の手法を
喧伝するコンサルタントもいます。

これは「嘘」です。

経営実務家の優れた著作は、「自分の場合、これでうまくいった」というこ
とが誠実に書かれています。

このように、経営の手法は、本来「ある一定の条件下で」という但し書きが
つくはずです。だから、我々はどう応用するかを考えるわけです。

一部のコンサルタントが「万能の手法」を主張するのは、インパクトを強く
して顧客を釣ろうという自分の商売上の理由です。

入り口だけ「万能の手法」で釣っておいて、中に入れば、きちんと対応して
くれるならまだマシですが、釣るだけ釣っておいて、中身は何もないという
コンサルもどきに当たった時は悲惨です。釣られた方は「理論など役に立た
ない」という固い信念を持ってしまうでしょう。

■私はコンサルタントですから、自分で自分の道具(武器)を持っています。

その一つがランチェスター戦略であるわけですね。

ただしそれはあくまで仕様説明書がついた道具であることを忘れてはなりま
せん。

私が「ランチェスター戦略で、経営も人生も全部うまくいく」などと言い出
したら、商売のために嘘を言い出したなと思ってくださいね^^;

ここだけの話。我々の業界では、日々、新しい手法(理論まがい?)が開発
されています。

多くは、海外で実証された理論とかいう触れ込みで入ってきて、東京などで
華々しく研修やセミナーとしてデビューします。

その中には、なるほどーーと納得させるロジックを持つものも少なくない。
いや、ロジックがなければ、そもそも成り立ちませんので、それなりに一貫
性を持っている。

しかし、大半、というかほぼ全てが1、2年で消えてしまいます。

他の新しい手法に代替されてしまうわけです。

そういう代替可能な手法を万能の法則のように考えてしまう我々にも問題が
あります。

手法はあくまで手法。道具であるという意識を持っていなければなりません。

私が企業経営理論に持つ"違和感"は、私の「一つの手法ですべて対応した
い」という甘い気持ちに起因するものだったのですね。

■意味のある経営理論とは、無意味と嘘の間にある、と楠木氏は言っていま
す。

悪意ある嘘かどうかはともかくとして、多くの経営手法が、ある一定の条件
下でしか機能しないのは事実でしょう。

それを万能の法則だと考えてはならない。万能の法則という「魔法の道具」
を求めてしまう気持ちをまず切り替えなければいけない。

やはり、理論を組み立て、実践・検証を重ねるという作業が、持続する成功
への道なのだと私も思います。

すなわち、誠実なコンサルタントとは、派手なインパクトに頼るのではなく、
その人の状況に合わせた理論の組み立てを地道に支援する者だと私は考えま
す。

■誠実な理論家である楠木氏は、第2章で、自分の理論体系を明らかにして
います。

決して奇を衒うものではなく、ごく普通の理論体系なのですが、私はこの体
系に全くもって納得し、いたく感銘を受けました。

今まで自分が考えていたことを明確な体系にしてくれたという意味です。

私は、理論の大きな効用は、個々の手法を整理しまとめることだと考えてい
ますので、楠木氏の仕事には感謝しております。自分がこれまで持っていた
体系を楠木氏のものに置き換えようと思った次第です。

理論家を目指す自分が恥ずかしくなるほどですね。

■なるべく簡単に説明してみます。

事業の目的が最終的な利益を出すことだとしましょう。

利益を出すには、およそ3つのパターンがあります。

1.全体に成長している社会で事業する。

当たり前の話ですが、成熟市場である日本を見切って、アジアで事業展開し
ようという考えがここになります。

2.利益率の高い業界で事業をする。

これも当たり前ですね。金儲けの神様と言われる邱永漢氏は、金儲けの秘訣
は儲かる仕事を見つけてすることと言っています。当たり前すぎて禅問答の
ようですが、真実を突いています。成熟社会であっても、儲かっている業界
は存在するのですから、そこを目指すというわけです。(もっとも儲かって
いる業界には、参入障壁が高い、そもそも規制があって新規参入できないな
どの理由があることが殆どですが...)

3.競争戦略を展開する。

1でも2でもないとすれば、違う方法をとらなければなりません。どんな成
熟市場にあっても高い利益を上げている事業はあるのですから、何かやり方
があるはずです。

社会全体が沈んでいるのに、その事業だけが儲かっているのは、「他と違う
ことをしている」ということです。

すなわち、競争戦略の要諦は、差別化をする、ということになります。

■ここで、ランチェスター戦略とクロスしましたね。

ランチェスター戦略では、市場シェアによって、事業を「強者」と「弱者」
に分けて、それぞれ異なった戦略をとることを推進しています。

「強者」は、ミート(まね)すること。「弱者」は、差別化することです。

■これに対して、楠木氏は、差別化には2つの方法があると説いています。

1つは、程度の差別化。同じことをするにしても、もっと多くする。長くす
る。回数を増やす。効果的にするなど。

1つは、種類の差別化。同じことをしない。商品を変える。販売ルートを変
える。営業方法を変えるなど。

楠木氏のこの分類は、「強者の戦略」と「弱者の戦略」に見えませんか?

ちなみに、楠木氏の分類では、程度の差別化のことを「組織能力」の差別化、
種類の差別化のことを「ポジショニング戦略」の差別化と呼んでいます。

■ただし、楠木氏は、特に強者と弱者に分けようとはしていません。

というか、この2つの差別化は独立するものではなく、相互に効果を発揮す
るものだと捉えています。

一般に、日本企業は「組織能力」で差別化を志向することが多く、欧米企業
は「ポジショニング戦略」をとることが多いようです。

例えば、日本企業は自分が始めた事業を粘り強く続けることで、いつの間に
か得意分野にしてしまいます。

これに対して欧米企業は、儲からないなら止めて別の事業を探すという意思
決定が早いといわれます。

欧米の大企業が日本の中小企業の技術力の高さに驚くことが多いというのも、
日本の「組織能力」志向の高さを示すものでしょう。

ただし、市場の変化が早い現在においては、儲からないと止めるという決断
が効果を上げますから、欧米企業の好調さが目立つことになります。

春が来るのをじっと待つ日本企業ですが、そもそも、両方の考え方をバラン
スよく持てばいいんじゃないかというのが楠木氏の主張です。

■戦略的なポジション取りをしながら、組織能力を高めることは可能なのか。

戦略とは、大胆な絞込みを伴うものですから、組織のメンバーの思いを分断
してしまうかも知れません。

メンバーがやる気にならなければ、戦略は画に描いた餅となってしまいます。

ここでは、戦略ポジションの明確化と組織能力の向上はトレードオフの関係
になってしまっています。

それを払拭する方法はないものか。

そこで、楠木氏が用意した答えが、戦略を「誰かに話したくなるようなスト
ーリー」として組立てる、ということです。

これが「ストーリーとしての競争戦略」の意味となります。

■実は私が頭を悩ませていることも、楠木氏の問題提起に重なることです。

水も漏らさぬような完璧な戦略を作ったとしても、それが実行されないなら
何の価値も生みません。

ある意味、戦略を作ることは簡単、それを実行してもらうことは困難です。
実行は人間が行うことですから、強制させるわけにはいきません。より複雑
で難しい作業となってしまいます。

だから、せっかく作った戦略をどのように浸透させて、人を動かせばいいの
か、という問題は私のテーマでした。

私だけではありません。多くの経営マネージャーが、テーマにしているはず
です。

■楠木氏の提案は、まさに目から鱗です。

楠木氏は、戦略を立てた後、組織をどう動かそうか考えているようでは、ト
レードオフの関係から脱することができない。戦略と組織の問題は同時に考
えるべきだと主張しています。

「人に話したくなるような活き活きした戦略ストーリー」を作って、人々を
巻き込もうというわけです。

■私も馬鹿ではありませんから^^;戦略を実行してもらう工夫をしていま
す。

例えば、戦略作成する際には、実行者になるべく参加を促し当事者意識を持
ってもらうという仕掛けを作っていますが、その場合でも、当事者自身が戦
略を作る際と実行する際には、気持ちが別人になってしまうことがしばしば
起こります。

楠木氏のいうストーリーとは、戦略の最初からゴールまでをつなげて説明す
ることですから、確かに分かりやすく、当事者意識を持ちやすい。活き活き
したストーリーは、作った本人をやる気にさせます。

しかも人に話したくなるような面白さのストーリーは、伝播していきますか
ら、多くの人を巻き込んでいきます。

戦略を浸透させる上で、魅力的なストーリーにすることほど相応しいものは
ありません。

■楠木氏のいう活き活きとしたストーリーとはどういうものか。

詳しくは、著作を読んでいただきたいと思います。相当充実しておりますの
で、私の下手な解説よりも余程いいはずです。

まあ、そうは言いながら、私なりに噛み砕いてまとめると、

1.事業の目的がはっきりしていて、納得できるので、参加したくなる。

2.ラストシーン(事業のゴール)が明確で、魅力的である。

3.打ち手(どうやって競争に勝つのか)が、明確である。

4.複数の打ち手が、バラバラではなく、つながっている。

5.一見して意外な打ち手がある。

というのが、いい戦略ストーリーです。

氏はこれを「戦略ストーリーの5つの要素」と呼んでいます。

■この中でユニークなのが、5の「意外な打ち手」です。

楠木氏によると、優れたストーリーには「意外性」があるといいます。

この本の中で挙げられているのが、マブチモーターの「小型モーターの標準
化」、スターバックスの「直営店展開」、ガリバーの「小売をしない決断」、
サウスウエスト航空の「ハブ空港の回避」などです。

いずれも、その当時の常識からすれば「それはないだろ」ということばかり
です。

例えば、マブチモーターは、顧客が求める「オーダーメイド式のモーター」
ではなく、標準化された既成品にシフトしました。顧客であるメーカーとす
れば、「なんでモーターごときのために、自社のデザインが制限されなけれ
ばならないんだ」と言いたくなるような決断ですから、ライバルである他モ
ーター製造メーカーは、誰も追随しませんでした。しかし、結果として、モ
ーターの低コスト化が進んで、顧客はマブチモーターの既成品を使うように
なりました。

スターバックスは、落ち着いた空間を演出することで付加価値の高いサービ
スを提供することに成功しましたが、追随する他社が真似しなかったことが
コストのかかる「直営店方式」です。しかし、これこそがスターバックスの
クオリティを維持する源泉となっていたのです。

ガリバーは利益率の高い「小売を捨て」て、買取専門に特化し、オークショ
ンでさばく事業としました。出口がはっきりして安定しているので、在庫の
いらない回転率の高い事業を行うことができるのですが、既存事業者は小売
の魅力を捨てることができないために、追随できませんでした。

このように、一見非常識で非合理な打ち手が、実は、競争力の源泉になって
いるというのが、ここでいう「意外性」です。

意外なので、ライバルが真似しないので、追随されることがありません。む
しろ形だけ真似してうまくいかないことが多いということになります。

■いかがでしょうか。

自ら冒険に旅立ち、集まった仲間と共に工夫して闘い、意外な展開を経て、
大団円を迎える。

まさにいい戦略が、いいストーリーになっていると、のめりこんでしまいま
す。

何を隠そう、私は文学青年崩れですから、ストーリーを経営に活かす試みに
は前から注目していました。

この手法が優れているのは、一つのロジックに縛られない綜合的な組み合わ
せ手法だという点です。

応用が効きますので、これからいくらでも使い方を考えることができそうで
すね。


(2010年6月17日メルマガより)

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■今日は紹介したい本があります。

楠木建氏の「ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件

恐らく私がここ数年に読んだ本の中で、最も重要なものの1つです。

楠木建氏は、競争戦略論を専門とする一橋大学の教授です。楠木氏が、自分
自身の理論と経験の集大成と位置づけるこの本ですが、その触れ込みに恥じ
ぬ充実ぶりです。

文章が平易。切り口が明快。論理展開が鮮やかで分かりやすい。事例が適切。
実感がこもっている。

それになにより、楠木氏の披露する競争戦略の論理体系が、明快で、納得で
きる。

大げさではなく、今までの企業戦略論に覚えていた"違和感"をこの本が払
拭してくれました。

■楠木氏は経営学者ですが、学者らしい悩みを最初に吐露しております。

経営というものは、論理だけで割り切れるものではなく、実践の要素が高い。
だから実務家からは、論理なんて役に立たないといわれることもしばしばで
ある。自分の存在価値は本当にあるんだろうか...という悩みです。

私と比較するのもなんですが、私は経営コンサルタントですから、実務家を
自認しておりますが、それでも「コンサルなんて認めない」という経営者は
おられます。

「あんたのアドバイスが正しいなら自分でやればいいじゃないか。自分でで
きないというのは、あんたのアドバイスは信用できないということだ」と面
と向かって言われたこともあります^^;

■もっとも多くの優秀な経営者は、実務家であると同時に、論理的です。そ
れが経験で得たものか、既存の経営理論から得たものかはともかくとして、
自分独自の経営理論体系を持っています。

楠木氏は、経営実務の20%しか理論化できないとしても、残りの80%が
理論外であるとはっきりするだけでも大きな意味があると書いています。

経営の現場において「さあ、あとは気合の勝負だ!」と言う場面はあります
が、最初から気合で押すわけではありません。理論で組み立てて、お膳立て
をして、後は気合に切り替えるわけです。前の20%を把握しているいない
では、全く違う経営スタイルとなってしまいます。

確かに、現場では不確定要素が多く、理論通りに進まないこともしばしばで
す。だからといって、無勝手流を貫いていると、知らず知らずのうちに経験
による体系を持ってしまいます。「前はうまくいった。今度もうまくいくだ
ろう」というわけです。

経験による体系は、理論ではなく、ジンクスのようなものです。

自分の経験したことを論理的に組み立て直すことで、それは修正が効き、応
用が効き、普遍的な原理原則に高めることができます。

原理原則にまで高めることができると、それは今後の自分の行動の指針にな
るだけではなく、他人と共有することができるようになります。

優秀なプレーヤーが、優秀なマネージャーになるための鍵は、自分の知見を
理論にできているかどうかにかかっているといってもいいでしょう。

■ただし「理論なんて役に立たない」と言いたくなる実務家の気持ちがわか
らなくもありません。

これは理論を組み立て、提供する学者やコンサルタントの側にも責任があり
ます。

楠木氏は、世の中に日々生まれる経営理論の多くは「無意味」か「嘘」だと
断じています。

例えば「成熟市場では競争が激しいのでブランド力が大切になる」という論
旨の本があったとします。学者のアプローチは、現在がいかに成熟市場であ
るか、競争が10年前と比べて激化しているかを示し、それでもうまくいっ
ている企業はブランド力が評価されている状況を提示します。

確かにその通りには違いないのですが、だからどうするの?ということがあ
まりにも薄っぺらい。うまくいっている企業の事例を数例載せている程度で
あり、その前の現状分析に比べてつけたしのような印象を与えます。これは
理論にもなっていない「無意味」の例ですね。

これに対して「この方法を適用すれば全てうまくいく」という万能の手法を
喧伝するコンサルタントもいます。

これは「嘘」です。

経営実務家の優れた著作は、「自分の場合、これでうまくいった」というこ
とが誠実に書かれています。

このように、経営の手法は、本来「ある一定の条件下で」という但し書きが
つくはずです。だから、我々はどう応用するかを考えるわけです。

一部のコンサルタントが「万能の手法」を主張するのは、インパクトを強く
して顧客を釣ろうという自分の商売上の理由です。

入り口だけ「万能の手法」で釣っておいて、中に入れば、きちんと対応して
くれるならまだマシですが、釣るだけ釣っておいて、中身は何もないという
コンサルもどきに当たった時は悲惨です。釣られた方は「理論など役に立た
ない」という固い信念を持ってしまうでしょう。

■私はコンサルタントですから、自分で自分の道具(武器)を持っています。

その一つがランチェスター戦略であるわけですね。

ただしそれはあくまで仕様説明書がついた道具であることを忘れてはなりま
せん。

私が「ランチェスター戦略で、経営も人生も全部うまくいく」などと言い出
したら、商売のために嘘を言い出したなと思ってくださいね^^;

ここだけの話。我々の業界では、日々、新しい手法(理論まがい?)が開発
されています。

多くは、海外で実証された理論とかいう触れ込みで入ってきて、東京などで
華々しく研修やセミナーとしてデビューします。

その中には、なるほどーーと納得させるロジックを持つものも少なくない。
いや、ロジックがなければ、そもそも成り立ちませんので、それなりに一貫
性を持っている。

しかし、大半、というかほぼ全てが1、2年で消えてしまいます。

他の新しい手法に代替されてしまうわけです。

そういう代替可能な手法を万能の法則のように考えてしまう我々にも問題が
あります。

手法はあくまで手法。道具であるという意識を持っていなければなりません。

私が企業経営理論に持つ"違和感"は、私の「一つの手法ですべて対応した
い」という甘い気持ちに起因するものだったのですね。

■意味のある経営理論とは、無意味と嘘の間にある、と楠木氏は言っていま
す。

悪意ある嘘かどうかはともかくとして、多くの経営手法が、ある一定の条件
下でしか機能しないのは事実でしょう。

それを万能の法則だと考えてはならない。万能の法則という「魔法の道具」
を求めてしまう気持ちをまず切り替えなければいけない。

やはり、理論を組み立て、実践・検証を重ねるという作業が、持続する成功
への道なのだと私も思います。

すなわち、誠実なコンサルタントとは、派手なインパクトに頼るのではなく、
その人の状況に合わせた理論の組み立てを地道に支援する者だと私は考えま
す。

■誠実な理論家である楠木氏は、第2章で、自分の理論体系を明らかにして
います。

決して奇を衒うものではなく、ごく普通の理論体系なのですが、私はこの体
系に全くもって納得し、いたく感銘を受けました。

今まで自分が考えていたことを明確な体系にしてくれたという意味です。

私は、理論の大きな効用は、個々の手法を整理しまとめることだと考えてい
ますので、楠木氏の仕事には感謝しております。自分がこれまで持っていた
体系を楠木氏のものに置き換えようと思った次第です。

理論家を目指す自分が恥ずかしくなるほどですね。

■なるべく簡単に説明してみます。

事業の目的が最終的な利益を出すことだとしましょう。

利益を出すには、およそ3つのパターンがあります。

1.全体に成長している社会で事業する。

当たり前の話ですが、成熟市場である日本を見切って、アジアで事業展開し
ようという考えがここになります。

2.利益率の高い業界で事業をする。

これも当たり前ですね。金儲けの神様と言われる邱永漢氏は、金儲けの秘訣
は儲かる仕事を見つけてすることと言っています。当たり前すぎて禅問答の
ようですが、真実を突いています。成熟社会であっても、儲かっている業界
は存在するのですから、そこを目指すというわけです。(もっとも儲かって
いる業界には、参入障壁が高い、そもそも規制があって新規参入できないな
どの理由があることが殆どですが...)

3.競争戦略を展開する。

1でも2でもないとすれば、違う方法をとらなければなりません。どんな成
熟市場にあっても高い利益を上げている事業はあるのですから、何かやり方
があるはずです。

社会全体が沈んでいるのに、その事業だけが儲かっているのは、「他と違う
ことをしている」ということです。

すなわち、競争戦略の要諦は、差別化をする、ということになります。

■ここで、ランチェスター戦略とクロスしましたね。

ランチェスター戦略では、市場シェアによって、事業を「強者」と「弱者」
に分けて、それぞれ異なった戦略をとることを推進しています。

「強者」は、ミート(まね)すること。「弱者」は、差別化することです。

■これに対して、楠木氏は、差別化には2つの方法があると説いています。

1つは、程度の差別化。同じことをするにしても、もっと多くする。長くす
る。回数を増やす。効果的にするなど。

1つは、種類の差別化。同じことをしない。商品を変える。販売ルートを変
える。営業方法を変えるなど。

楠木氏のこの分類は、「強者の戦略」と「弱者の戦略」に見えませんか?

ちなみに、楠木氏の分類では、程度の差別化のことを「組織能力」の差別化、
種類の差別化のことを「ポジショニング戦略」の差別化と呼んでいます。

■ただし、楠木氏は、特に強者と弱者に分けようとはしていません。

というか、この2つの差別化は独立するものではなく、相互に効果を発揮す
るものだと捉えています。

一般に、日本企業は「組織能力」で差別化を志向することが多く、欧米企業
は「ポジショニング戦略」をとることが多いようです。

例えば、日本企業は自分が始めた事業を粘り強く続けることで、いつの間に
か得意分野にしてしまいます。

これに対して欧米企業は、儲からないなら止めて別の事業を探すという意思
決定が早いといわれます。

欧米の大企業が日本の中小企業の技術力の高さに驚くことが多いというのも、
日本の「組織能力」志向の高さを示すものでしょう。

ただし、市場の変化が早い現在においては、儲からないと止めるという決断
が効果を上げますから、欧米企業の好調さが目立つことになります。

春が来るのをじっと待つ日本企業ですが、そもそも、両方の考え方をバラン
スよく持てばいいんじゃないかというのが楠木氏の主張です。

■戦略的なポジション取りをしながら、組織能力を高めることは可能なのか。

戦略とは、大胆な絞込みを伴うものですから、組織のメンバーの思いを分断
してしまうかも知れません。

メンバーがやる気にならなければ、戦略は画に描いた餅となってしまいます。

ここでは、戦略ポジションの明確化と組織能力の向上はトレードオフの関係
になってしまっています。

それを払拭する方法はないものか。

そこで、楠木氏が用意した答えが、戦略を「誰かに話したくなるようなスト
ーリー」として組立てる、ということです。

これが「ストーリーとしての競争戦略」の意味となります。

■実は私が頭を悩ませていることも、楠木氏の問題提起に重なることです。

水も漏らさぬような完璧な戦略を作ったとしても、それが実行されないなら
何の価値も生みません。

ある意味、戦略を作ることは簡単、それを実行してもらうことは困難です。
実行は人間が行うことですから、強制させるわけにはいきません。より複雑
で難しい作業となってしまいます。

だから、せっかく作った戦略をどのように浸透させて、人を動かせばいいの
か、という問題は私のテーマでした。

私だけではありません。多くの経営マネージャーが、テーマにしているはず
です。

■楠木氏の提案は、まさに目から鱗です。

楠木氏は、戦略を立てた後、組織をどう動かそうか考えているようでは、ト
レードオフの関係から脱することができない。戦略と組織の問題は同時に考
えるべきだと主張しています。

「人に話したくなるような活き活きした戦略ストーリー」を作って、人々を
巻き込もうというわけです。

■私も馬鹿ではありませんから^^;戦略を実行してもらう工夫をしていま
す。

例えば、戦略作成する際には、実行者になるべく参加を促し当事者意識を持
ってもらうという仕掛けを作っていますが、その場合でも、当事者自身が戦
略を作る際と実行する際には、気持ちが別人になってしまうことがしばしば
起こります。

楠木氏のいうストーリーとは、戦略の最初からゴールまでをつなげて説明す
ることですから、確かに分かりやすく、当事者意識を持ちやすい。活き活き
したストーリーは、作った本人をやる気にさせます。

しかも人に話したくなるような面白さのストーリーは、伝播していきますか
ら、多くの人を巻き込んでいきます。

戦略を浸透させる上で、魅力的なストーリーにすることほど相応しいものは
ありません。

■楠木氏のいう活き活きとしたストーリーとはどういうものか。

詳しくは、著作を読んでいただきたいと思います。相当充実しておりますの
で、私の下手な解説よりも余程いいはずです。

まあ、そうは言いながら、私なりに噛み砕いてまとめると、

1.事業の目的がはっきりしていて、納得できるので、参加したくなる。

2.ラストシーン(事業のゴール)が明確で、魅力的である。

3.打ち手(どうやって競争に勝つのか)が、明確である。

4.複数の打ち手が、バラバラではなく、つながっている。

5.一見して意外な打ち手がある。

というのが、いい戦略ストーリーです。

氏はこれを「戦略ストーリーの5つの要素」と呼んでいます。

■この中でユニークなのが、5の「意外な打ち手」です。

楠木氏によると、優れたストーリーには「意外性」があるといいます。

この本の中で挙げられているのが、マブチモーターの「小型モーターの標準
化」、スターバックスの「直営店展開」、ガリバーの「小売をしない決断」、
サウスウエスト航空の「ハブ空港の回避」などです。

いずれも、その当時の常識からすれば「それはないだろ」ということばかり
です。

例えば、マブチモーターは、顧客が求める「オーダーメイド式のモーター」
ではなく、標準化された既成品にシフトしました。顧客であるメーカーとす
れば、「なんでモーターごときのために、自社のデザインが制限されなけれ
ばならないんだ」と言いたくなるような決断ですから、ライバルである他モ
ーター製造メーカーは、誰も追随しませんでした。しかし、結果として、モ
ーターの低コスト化が進んで、顧客はマブチモーターの既成品を使うように
なりました。

スターバックスは、落ち着いた空間を演出することで付加価値の高いサービ
スを提供することに成功しましたが、追随する他社が真似しなかったことが
コストのかかる「直営店方式」です。しかし、これこそがスターバックスの
クオリティを維持する源泉となっていたのです。

ガリバーは利益率の高い「小売を捨て」て、買取専門に特化し、オークショ
ンでさばく事業としました。出口がはっきりして安定しているので、在庫の
いらない回転率の高い事業を行うことができるのですが、既存事業者は小売
の魅力を捨てることができないために、追随できませんでした。

このように、一見非常識で非合理な打ち手が、実は、競争力の源泉になって
いるというのが、ここでいう「意外性」です。

意外なので、ライバルが真似しないので、追随されることがありません。む
しろ形だけ真似してうまくいかないことが多いということになります。

■いかがでしょうか。

自ら冒険に旅立ち、集まった仲間と共に工夫して闘い、意外な展開を経て、
大団円を迎える。

まさにいい戦略が、いいストーリーになっていると、のめりこんでしまいま
す。

何を隠そう、私は文学青年崩れですから、ストーリーを経営に活かす試みに
は前から注目していました。

この手法が優れているのは、一つのロジックに縛られない綜合的な組み合わ
せ手法だという点です。

応用が効きますので、これからいくらでも使い方を考えることができそうで
すね。


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