弱い人をより弱くするのが戦略なのか

2011.03.24

(2011年3月24日メルマガより)


3月11日の東北地方を襲った大地震と津波の被害に合われた方には、心
からお見舞いを申し上げます。

前回のメルマガ発行が、3月10日です。その次の日に、地震が発生しました。

私は、関西にいて無事だったものの、東北地方や、関東にも仕事関連の友人
知人がいますので、決して他人事ではありません。

■最初は呆然としていたコンサルタント仲間からも、しばらく経つと「自分
たちのできることをやっていこう」「こんな時こそ、明るい話題を提供しよ
う」「西日本が頑張って、東日本の経済を支えよう」という声が聞こえてき
ました。

私もその通りだと思い、自分のブログに書いたりもしました。

つい先日も、茫然自失している企業のメンバーに「今、できることは何かを
考えよう!」と励ましてきたところです。

■ただ、正直にいって、今回の地震の被害を報道で見ると、心の内では、と
ても前向きな気分にはなれませんでした。

阪神淡路大震災の時は、地理的に近いこと、親族が被害に合うなど当事者感
が強かったこともあってか、落ち込むような気持ちはありませんでした。む
しろ、平然としていた気がします。

ところが今回はきついものがありました。

地震や津波被害の酷さもそうですし、福島の原子力発電所事故の危機的な状
況にも参りました。

今は徐々に落ち着いてきているようですが、一時期は、もうダメじゃないか
と思えてきたものです。

不謹慎だと思う方もおられるかも知れませんが、フリップ・K・ディックの
核戦争に関する小説や、イングマル・ベルイマンの「冬の光」という映画を
思い浮かべて陰鬱となっていました。

それは、我々が安全だと信じ込んできた日常が、実は破滅と紙一重の状況に
過ぎなかったという不安感からきたものだと思います。

■そんな時、あるテレビ番組の生放送でビートたけしが、生々しい感情を吐
露しているのを観て、私はどういうわけかほっとしました。
http://topics.jp.msn.com/wadai/j-cast/article.aspx?articleid=537652

たけしは、いつものふざけた調子ではなく、被災地での火事場泥棒や、政治
家のパフォーマンスに直截的な怒りを表していました。

しかし、私がほっとしたのは、たけしが「下痢が酷い」と発言していたこと
です。

彼は、悲惨な状況を見すぎて、体調を崩していたそうです。

もともとたけしはナイーブな人物なのでしょう。その人が正直に自分の弱さ
を表したことに、私は共感し、ほっとしてしまったのです。

要するに、この状況に前向きになれずに弱っているのは、自分だけではない
という連帯感に安心したのです。

こういう気持ちにさせてくれるということ自体が、たけしが現代のカリスマ
である所以なんでしょうね。

■内省的になってしまって恐縮ですが、このことによって、私は2つのこと
を感じました。

一つは、自分の精神の脆さです。

私はある程度のショックにも平然としていられる人間だと思っていましたが、
そうではありませんでした。

もう一つは、たけしとの連帯感を通してしか、自分の不安を認められなかっ
た弱さです。

結局、私は脆くて弱い人間でした。

それを肝に銘じて、これから過ごしていきたいと思います。

今回のテーマも、この私の気分を反映したものとなっています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■坂口孝則氏の「思考停止ビジネス」という本は、いろいろな意味で考えさ
せられます。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4198631360/lanchesterkan-22/ref=nosim

「売りたかったら客に考えさせるな」なんて副題がついており、このご時勢
に不謹慎な本を紹介するな!と怒られそうですね。

でも、よくある実践ノウハウ本ではありません。むしろ、ノウハウ本に対す
るアンチテーゼを志向した本です。

■この本の最初の方に、坂口氏の衝撃の体験が書かれています。

昔、坂口氏は、各界の成功者といわれる人たちに、講演を依頼してまわって
いたことがあったそうです。

その過程で大勢の成功者と会ったわけですが、そのうち一人がこう言ったそ
うです。

「(儲けるには)弱い人たちからもっとお金をひっぱることが一番だ。弱い
人たちをより弱くすることにコツがある」

身も蓋もない。でも、これは成功者の姿勢の一面の真実をついていると実感
します。かつて私が知り合った成功者(らしき人)にも、こういう考えを持
ちながら、表面では誠意が大切だとか平気でいう人が"いっぱい"いました。

■結局、今の日本は、弱い人たちが、それを食い物にする人たちによって、
カモにされているのが真実ではないのか。

この本を読んでいて、あらためてそう思いました。

坂口氏のいう弱い人の特徴は

(1)自分は幸せではないと感じている。

(2)だけど、自分は特別な存在だとどこかで思っている。

(3)でも、自分からは何も決められない。

ということです。

思い当たるふしはありませんか?

私はあります。

■ちなみに、坂口氏は、多くの成功者の講演を聞いた要諦を次の3つにまと
めています。

(1)朝早く起きて仕事をすること

(2)学び続けること

(3)人にはできるだけ優しく接すること

朝から仕事をして、学ぶことを忘れず、周囲に優しく接していれば、それは
成功もするでしょうね。

だけど、こうした地味な努力は、成功する一部の「強い人」にのみできるこ
とです。

■弱い人は、こんな面倒なことを続けることはできません。

弱い人たちは、

(1)自分より不幸な人の話を聞いて自分を慰め、小さな幸せを探して納得し、

(2)まだ見ぬ本当の自分になれるような体験や変身、自己啓発を求め、
(結局は、変革できず)

(3)自分の代わりに方向を示してくれるリーダーを求め、単純で分りやす
い解決策に飛びつきます。

弱い人たちをより弱くするとは、こうした性向をより助長させるようなビジ
ネスを展開するに他なりません。

■特に(3)は仕事柄、実感する部分です。

私は自分のコンサルティングの目標を「自律的に営業力向上できるようにな
ること」としています。

そのために、考え方や、考えるためのツール、その使い方を時間をかけて伝
えようとしています。

もちろん、なるべく具体的に伝えようとしますが、その具体性は、考え方の
全体を理解してもらうための事例です。

あくまで全体を理解していただき、自ら動いてもらうようにします。

が、企業側からは「手っ取り早くやり方を教えろ」という声をよく聞きます。
(企業というより現場の人たちですね)

なぜなら「やり方」ならば、これまでの経験で培った考え方をそれほど変え
なくても、取り入れることができる。要するに、今さら、頭を働かさなくて
も解決策に到達できる。

コンサルタントによっては、そんな心情に迎合して、シンプルな「やり方」
を提示しただけで終わる人もいます。

もちろん、そんなことで、長期的な営業力がアップするわけではありません。
短期的によくなった気がしても、すぐに元の木阿弥に戻ります。少しでも考
えられる人ならそれは分るはず。

ただ、後者のようなコンサルにも一定の需要があるので、なくなることはあ
りません。

■ランチェスター戦略勉強会に来られる方の中にも「解決策」を求める方が
おられます。

そういう方は、長続きしません。戦略とは、解決策そのものではなく、解決
を導くための考え方であり、ツールだからです。

そういう方は、たぶん、いろんな会を回っているんだろうなーと思います。

いつか、幸運な偶然により、自分にぴったりとくる解決策が見つかることを
祈ります。

■「いやー。そういう人たちを相手に商売すればいいんだよ」とアドバイス
されることもあります。

適当な解決策をでっち上げて「解決できないのは、あなたの真摯さが足りな
いからだ」と繰り返していればいいんだよ、と。

ある人は「皆、意味のないことにお金を払いたがっているんだから、変なこ
とに使われるぐらいなら、自分が貰っちゃえばいいんだよ」とうそぶいてい
ました。

そういう人が「強い人」なんでしょうね。

■坂口氏の著作の前半は、「弱い人たちをより弱くする」ための心理的テク
ニックやからくりが書かれています。

まあ、このあたりは、ゲーム型交渉術本などに書かれている内容と同じです。

私が面白いと思ったのは、この本の後半、いささか文学的に「騙す方が悪い、
騙される方が悪いという問題ではなく、現代の人びとがそれを求めているの
ではないか」という意味のことが書かれているくだりです。

というのも、現代は、×nのネットワーク社会であり、ものを買うことと、
社会に参加している、承認されているという欲求を満たすことは分離されて
いる。

ものを所有することが一定のステイタスであり、集団の中で認められるため
の方法であった時代は、消費することが社会から承認されるために必要不可
欠の条件だったが、現代は最低限の消費で事足りる。

ところが、消費を控えすぎると、経済が回らずに、自分自身の労働報酬が縮
小してしまう。

だから人びとは、わざと思考停止になって一定の消費をするようになる。

これが坂口氏のロジックのようです。

弱い人たちは、自らを思考停止状態に追い込んでいる。思考停止なので騙さ
れているという意識もない。お金に対する執着がないので、弱いとか強いと
かいう価値観そのものに馴染みません。そんなにお金に執着して可哀そうだ
ね、というぐらいの気持ちです。

強い人たちは、その気持ちに乗っかって、お金を自分に引っ張ってくるとい
う図式です。

■興味深い推論ですね。

真偽はともかく、世の中全体が消費に関して思考停止状態になっているとい
うのは、私も実感することです。

怪しげな情報商材だけではありません。食品も日用雑貨も家電製品も、陳列
やパッケージやブランドやまといつく様々な物語によって購入されます。

特に売り方の巧拙を意識しながら購入するわけではありませんから、心理テ
クニックに乗せられて購入しているかも知れない。でも、乗せられたからと
いって、何が悪い?どうでもいいじゃないか、と思っています。

怪しげな自己啓発セミナーやカルト宗教に全財産を使ってしまうのは問題だ
としても、一定の消費限度内なら、怪しげな情報商材を買ったとしても、本
人の気持ちの持ちようだけなので、他の消費と程度の違いこそあれ、本質的
には変わらない話なのではないでしょうか。

■マズローの5段階欲求説によれば、人間は、衣食住が満たされ、当面の生
活苦から解放されると、社会に参加し、そこで承認され、尊敬されることを
欲するようになります。

マズローのいう3段階目が「社会的欲求」、4段階目が「自尊の欲求」です。

×nのネットワーク社会とは「社会的欲求」「自尊欲求」を最も重視する社
会です。

いわゆる評価経済社会ですね。

別の角度から見れば、評価経済社会の底辺を支えるのは、皆が目をつぶって
消費する資金そのものです。それがなければ、資本経済は回りませんから。

だから、そのからくりを知る者たちによって、思考停止した人たちから搾取
するという図式が生まれる。

坂口氏は、弱い人たちと見なされて搾取され続けるのは嫌だから、そんな思
考停止の状態から脱して本当の自由を手に入れようぜということを著作の結
論としています。(マズローのいう第5段階である「自己実現の欲求」に目
覚めようということです)

もっとも正直にいいまして、坂口氏がそれまで提示してきた社会を見るユニ
ークな切り口に比べて、この結論はずいぶん凡庸な気がします。

付け足したような結論ですね。

■この本のロジックに従うと、マーケティング戦略は、思考停止状態の人た
ちからお金をせしめるための表層的なテクニックに思えてきます。

私が信じ、一生を賭けてもいいと思ったマーケティング戦略は、よりよい社
会を実現するための方法でした。

ところが、上記の世界観によれば、あたかも水槽の中に入れられた我々弱い
人たちに適当な喜びを与えてその生態を見て喜んでいる強い人たちの姿が浮
かび上がってきます。

ここでマーケティング戦略は、弱い人たちを幻惑し、現実を直視させないた
めのテクニックであるかのようです。

まるで「GANTZ」のような世界です。あまりにも悲観的に過ぎますか?

■いや、そもそも、我々は弱い人でもないし、搾取されているとも思ってい
ない、という意見もあります。

搾取されているとか、弱い人・強い人、という切り分け自体が、拝金主義の
考え方に囚われているだけだ。

拝金主義者たちは、勝手に自分のゲームを楽しんでいたらいいじゃないか。
そんなことに自分は構いたくない。

我々は、自分たちで新しい価値観を創ってやっていく。評価経済だかなんだ
か知らないが、ポスト資本主義社会は我々が作っていく。

今は過渡期だから、目をつぶって消費してやっているだけだ。そのうち、我
々が新しい社会の仕組みを作ってやる。

まるで神に見放されたサルトルが「仕方ないから、人間だけで、新しい価値
を創ろうぜ」と言っているのに似ている気がしますが。

でも、こちらの方が、私は可能性を感じます。

■マーケティング戦略は、よりよい社会を創ることを目標としています。

我々は、自分に割り当てられた仕事を通して「より良い社会を実現」する作
業に取り組んでいるのです。

それがマーケティングの根本的な概念です。

弱い人をより弱くなどしてはいけない。自分の仕事に真摯に取り組むことが、
社会の利益につながり、私や私の家族や周囲の人たちを幸せにすることにつ
ながっているのだという感覚があるからこそ、つらい時でも頑張れるはず。
我々は、そういう仕組みを作っていかなければならない。

こういう話をすると「あほちゃうかこいつ」という目で見てくる自称成功予
備軍も多いのは事実です。

「あほはお前じゃ」と心の中で言い返してきた自分でしたが、それは価値観
や思考回路そのものの違いを表していたのでしょうね。

■だからこそ、コトラーはじめ、マーケティングの理論家たちは「理念」と
いうものを重視してきました。

戦略というものは思考の道具です。これをマスターすることができれば、必
ず自分の目指す目標に近づくことができます。

ただし、その目標設定そのものが間違っていたなら、その道具は凶器となっ
てしまう。

戦略とはそういう性質のものなのです。

だから、自分が何を目指すか。どういう価値観を持ち、どういうビジョンを
持つのか。

戦略を身に着けようとする人間は、特に、これらの前提を重視しなければな
らないわけです。

我々が目指す「よりよい社会」とは何か?

マイケル・サンデル教授のいうように、いまこそ我々にとっての正義を模索
すべき時にきているのですね。

もしかすると、今の価値観でいう成功者が、小馬鹿にされ、蔑まされるよう
な社会が来るのかも知れません。

まさに革命ですね。

■この本と同時に購入したのが、リンクアンドモチベーションというコンサ
ルティング会社代表の小笹芳央氏の書いた「変化を生み出すモチベーション・
マネジメント」です。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4569795595/lanchesterkan-22/ref=nosim

仕事に役立つだろうかという思いで購入しました。

ここに書かれているのは、組織の変革を行うための手法と手順です。

簡単にいうと

(1)アンフリーズ(相対化する)それまでの習慣や価値観を揺るがせ、新
たな価値観を受け入れる素地を作る。

(2)チェンジ(方向づける)新たな価値観を注入し、方向性を構築する。

(3)リフリーズ(定着させる)新たな習慣として定着させる。

という手順で行います。

私も、営業組織を変革させるべく日々努力しておりますので、このメソッド
は参考になります。

■ただ、先ほどの「思考停止ビジネス」を読めば、カルト宗教の洗脳方法と
して、

(1)破壊

(2)注入

(3)凍結

という手順が紹介されています。

組織変革のメソッドと、同じなんですね。

■これらの著作を読んだ人が、どう考え、どう行動するかは勝手なんですが、
やはり手法やノウハウというものは、使う人の考え方次第なんだなーーと思
います。

いろいろ考えさせられるというのは、坂口氏が提示する社会の切り取り方の
面白さや多様性が、実に深刻な問題を含んでいるからです。

ノウハウ本では味わえない様々な考えるヒントをもらえる本でした



(2011年3月24日メルマガより)


3月11日の東北地方を襲った大地震と津波の被害に合われた方には、心
からお見舞いを申し上げます。

前回のメルマガ発行が、3月10日です。その次の日に、地震が発生しました。

私は、関西にいて無事だったものの、東北地方や、関東にも仕事関連の友人
知人がいますので、決して他人事ではありません。

■最初は呆然としていたコンサルタント仲間からも、しばらく経つと「自分
たちのできることをやっていこう」「こんな時こそ、明るい話題を提供しよ
う」「西日本が頑張って、東日本の経済を支えよう」という声が聞こえてき
ました。

私もその通りだと思い、自分のブログに書いたりもしました。

つい先日も、茫然自失している企業のメンバーに「今、できることは何かを
考えよう!」と励ましてきたところです。

■ただ、正直にいって、今回の地震の被害を報道で見ると、心の内では、と
ても前向きな気分にはなれませんでした。

阪神淡路大震災の時は、地理的に近いこと、親族が被害に合うなど当事者感
が強かったこともあってか、落ち込むような気持ちはありませんでした。む
しろ、平然としていた気がします。

ところが今回はきついものがありました。

地震や津波被害の酷さもそうですし、福島の原子力発電所事故の危機的な状
況にも参りました。

今は徐々に落ち着いてきているようですが、一時期は、もうダメじゃないか
と思えてきたものです。

不謹慎だと思う方もおられるかも知れませんが、フリップ・K・ディックの
核戦争に関する小説や、イングマル・ベルイマンの「冬の光」という映画を
思い浮かべて陰鬱となっていました。

それは、我々が安全だと信じ込んできた日常が、実は破滅と紙一重の状況に
過ぎなかったという不安感からきたものだと思います。

■そんな時、あるテレビ番組の生放送でビートたけしが、生々しい感情を吐
露しているのを観て、私はどういうわけかほっとしました。
http://topics.jp.msn.com/wadai/j-cast/article.aspx?articleid=537652

たけしは、いつものふざけた調子ではなく、被災地での火事場泥棒や、政治
家のパフォーマンスに直截的な怒りを表していました。

しかし、私がほっとしたのは、たけしが「下痢が酷い」と発言していたこと
です。

彼は、悲惨な状況を見すぎて、体調を崩していたそうです。

もともとたけしはナイーブな人物なのでしょう。その人が正直に自分の弱さ
を表したことに、私は共感し、ほっとしてしまったのです。

要するに、この状況に前向きになれずに弱っているのは、自分だけではない
という連帯感に安心したのです。

こういう気持ちにさせてくれるということ自体が、たけしが現代のカリスマ
である所以なんでしょうね。

■内省的になってしまって恐縮ですが、このことによって、私は2つのこと
を感じました。

一つは、自分の精神の脆さです。

私はある程度のショックにも平然としていられる人間だと思っていましたが、
そうではありませんでした。

もう一つは、たけしとの連帯感を通してしか、自分の不安を認められなかっ
た弱さです。

結局、私は脆くて弱い人間でした。

それを肝に銘じて、これから過ごしていきたいと思います。

今回のテーマも、この私の気分を反映したものとなっています。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■坂口孝則氏の「思考停止ビジネス」という本は、いろいろな意味で考えさ
せられます。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4198631360/lanchesterkan-22/ref=nosim

「売りたかったら客に考えさせるな」なんて副題がついており、このご時勢
に不謹慎な本を紹介するな!と怒られそうですね。

でも、よくある実践ノウハウ本ではありません。むしろ、ノウハウ本に対す
るアンチテーゼを志向した本です。

■この本の最初の方に、坂口氏の衝撃の体験が書かれています。

昔、坂口氏は、各界の成功者といわれる人たちに、講演を依頼してまわって
いたことがあったそうです。

その過程で大勢の成功者と会ったわけですが、そのうち一人がこう言ったそ
うです。

「(儲けるには)弱い人たちからもっとお金をひっぱることが一番だ。弱い
人たちをより弱くすることにコツがある」

身も蓋もない。でも、これは成功者の姿勢の一面の真実をついていると実感
します。かつて私が知り合った成功者(らしき人)にも、こういう考えを持
ちながら、表面では誠意が大切だとか平気でいう人が"いっぱい"いました。

■結局、今の日本は、弱い人たちが、それを食い物にする人たちによって、
カモにされているのが真実ではないのか。

この本を読んでいて、あらためてそう思いました。

坂口氏のいう弱い人の特徴は

(1)自分は幸せではないと感じている。

(2)だけど、自分は特別な存在だとどこかで思っている。

(3)でも、自分からは何も決められない。

ということです。

思い当たるふしはありませんか?

私はあります。

■ちなみに、坂口氏は、多くの成功者の講演を聞いた要諦を次の3つにまと
めています。

(1)朝早く起きて仕事をすること

(2)学び続けること

(3)人にはできるだけ優しく接すること

朝から仕事をして、学ぶことを忘れず、周囲に優しく接していれば、それは
成功もするでしょうね。

だけど、こうした地味な努力は、成功する一部の「強い人」にのみできるこ
とです。

■弱い人は、こんな面倒なことを続けることはできません。

弱い人たちは、

(1)自分より不幸な人の話を聞いて自分を慰め、小さな幸せを探して納得し、

(2)まだ見ぬ本当の自分になれるような体験や変身、自己啓発を求め、
(結局は、変革できず)

(3)自分の代わりに方向を示してくれるリーダーを求め、単純で分りやす
い解決策に飛びつきます。

弱い人たちをより弱くするとは、こうした性向をより助長させるようなビジ
ネスを展開するに他なりません。

■特に(3)は仕事柄、実感する部分です。

私は自分のコンサルティングの目標を「自律的に営業力向上できるようにな
ること」としています。

そのために、考え方や、考えるためのツール、その使い方を時間をかけて伝
えようとしています。

もちろん、なるべく具体的に伝えようとしますが、その具体性は、考え方の
全体を理解してもらうための事例です。

あくまで全体を理解していただき、自ら動いてもらうようにします。

が、企業側からは「手っ取り早くやり方を教えろ」という声をよく聞きます。
(企業というより現場の人たちですね)

なぜなら「やり方」ならば、これまでの経験で培った考え方をそれほど変え
なくても、取り入れることができる。要するに、今さら、頭を働かさなくて
も解決策に到達できる。

コンサルタントによっては、そんな心情に迎合して、シンプルな「やり方」
を提示しただけで終わる人もいます。

もちろん、そんなことで、長期的な営業力がアップするわけではありません。
短期的によくなった気がしても、すぐに元の木阿弥に戻ります。少しでも考
えられる人ならそれは分るはず。

ただ、後者のようなコンサルにも一定の需要があるので、なくなることはあ
りません。

■ランチェスター戦略勉強会に来られる方の中にも「解決策」を求める方が
おられます。

そういう方は、長続きしません。戦略とは、解決策そのものではなく、解決
を導くための考え方であり、ツールだからです。

そういう方は、たぶん、いろんな会を回っているんだろうなーと思います。

いつか、幸運な偶然により、自分にぴったりとくる解決策が見つかることを
祈ります。

■「いやー。そういう人たちを相手に商売すればいいんだよ」とアドバイス
されることもあります。

適当な解決策をでっち上げて「解決できないのは、あなたの真摯さが足りな
いからだ」と繰り返していればいいんだよ、と。

ある人は「皆、意味のないことにお金を払いたがっているんだから、変なこ
とに使われるぐらいなら、自分が貰っちゃえばいいんだよ」とうそぶいてい
ました。

そういう人が「強い人」なんでしょうね。

■坂口氏の著作の前半は、「弱い人たちをより弱くする」ための心理的テク
ニックやからくりが書かれています。

まあ、このあたりは、ゲーム型交渉術本などに書かれている内容と同じです。

私が面白いと思ったのは、この本の後半、いささか文学的に「騙す方が悪い、
騙される方が悪いという問題ではなく、現代の人びとがそれを求めているの
ではないか」という意味のことが書かれているくだりです。

というのも、現代は、×nのネットワーク社会であり、ものを買うことと、
社会に参加している、承認されているという欲求を満たすことは分離されて
いる。

ものを所有することが一定のステイタスであり、集団の中で認められるため
の方法であった時代は、消費することが社会から承認されるために必要不可
欠の条件だったが、現代は最低限の消費で事足りる。

ところが、消費を控えすぎると、経済が回らずに、自分自身の労働報酬が縮
小してしまう。

だから人びとは、わざと思考停止になって一定の消費をするようになる。

これが坂口氏のロジックのようです。

弱い人たちは、自らを思考停止状態に追い込んでいる。思考停止なので騙さ
れているという意識もない。お金に対する執着がないので、弱いとか強いと
かいう価値観そのものに馴染みません。そんなにお金に執着して可哀そうだ
ね、というぐらいの気持ちです。

強い人たちは、その気持ちに乗っかって、お金を自分に引っ張ってくるとい
う図式です。

■興味深い推論ですね。

真偽はともかく、世の中全体が消費に関して思考停止状態になっているとい
うのは、私も実感することです。

怪しげな情報商材だけではありません。食品も日用雑貨も家電製品も、陳列
やパッケージやブランドやまといつく様々な物語によって購入されます。

特に売り方の巧拙を意識しながら購入するわけではありませんから、心理テ
クニックに乗せられて購入しているかも知れない。でも、乗せられたからと
いって、何が悪い?どうでもいいじゃないか、と思っています。

怪しげな自己啓発セミナーやカルト宗教に全財産を使ってしまうのは問題だ
としても、一定の消費限度内なら、怪しげな情報商材を買ったとしても、本
人の気持ちの持ちようだけなので、他の消費と程度の違いこそあれ、本質的
には変わらない話なのではないでしょうか。

■マズローの5段階欲求説によれば、人間は、衣食住が満たされ、当面の生
活苦から解放されると、社会に参加し、そこで承認され、尊敬されることを
欲するようになります。

マズローのいう3段階目が「社会的欲求」、4段階目が「自尊の欲求」です。

×nのネットワーク社会とは「社会的欲求」「自尊欲求」を最も重視する社
会です。

いわゆる評価経済社会ですね。

別の角度から見れば、評価経済社会の底辺を支えるのは、皆が目をつぶって
消費する資金そのものです。それがなければ、資本経済は回りませんから。

だから、そのからくりを知る者たちによって、思考停止した人たちから搾取
するという図式が生まれる。

坂口氏は、弱い人たちと見なされて搾取され続けるのは嫌だから、そんな思
考停止の状態から脱して本当の自由を手に入れようぜということを著作の結
論としています。(マズローのいう第5段階である「自己実現の欲求」に目
覚めようということです)

もっとも正直にいいまして、坂口氏がそれまで提示してきた社会を見るユニ
ークな切り口に比べて、この結論はずいぶん凡庸な気がします。

付け足したような結論ですね。

■この本のロジックに従うと、マーケティング戦略は、思考停止状態の人た
ちからお金をせしめるための表層的なテクニックに思えてきます。

私が信じ、一生を賭けてもいいと思ったマーケティング戦略は、よりよい社
会を実現するための方法でした。

ところが、上記の世界観によれば、あたかも水槽の中に入れられた我々弱い
人たちに適当な喜びを与えてその生態を見て喜んでいる強い人たちの姿が浮
かび上がってきます。

ここでマーケティング戦略は、弱い人たちを幻惑し、現実を直視させないた
めのテクニックであるかのようです。

まるで「GANTZ」のような世界です。あまりにも悲観的に過ぎますか?

■いや、そもそも、我々は弱い人でもないし、搾取されているとも思ってい
ない、という意見もあります。

搾取されているとか、弱い人・強い人、という切り分け自体が、拝金主義の
考え方に囚われているだけだ。

拝金主義者たちは、勝手に自分のゲームを楽しんでいたらいいじゃないか。
そんなことに自分は構いたくない。

我々は、自分たちで新しい価値観を創ってやっていく。評価経済だかなんだ
か知らないが、ポスト資本主義社会は我々が作っていく。

今は過渡期だから、目をつぶって消費してやっているだけだ。そのうち、我
々が新しい社会の仕組みを作ってやる。

まるで神に見放されたサルトルが「仕方ないから、人間だけで、新しい価値
を創ろうぜ」と言っているのに似ている気がしますが。

でも、こちらの方が、私は可能性を感じます。

■マーケティング戦略は、よりよい社会を創ることを目標としています。

我々は、自分に割り当てられた仕事を通して「より良い社会を実現」する作
業に取り組んでいるのです。

それがマーケティングの根本的な概念です。

弱い人をより弱くなどしてはいけない。自分の仕事に真摯に取り組むことが、
社会の利益につながり、私や私の家族や周囲の人たちを幸せにすることにつ
ながっているのだという感覚があるからこそ、つらい時でも頑張れるはず。
我々は、そういう仕組みを作っていかなければならない。

こういう話をすると「あほちゃうかこいつ」という目で見てくる自称成功予
備軍も多いのは事実です。

「あほはお前じゃ」と心の中で言い返してきた自分でしたが、それは価値観
や思考回路そのものの違いを表していたのでしょうね。

■だからこそ、コトラーはじめ、マーケティングの理論家たちは「理念」と
いうものを重視してきました。

戦略というものは思考の道具です。これをマスターすることができれば、必
ず自分の目指す目標に近づくことができます。

ただし、その目標設定そのものが間違っていたなら、その道具は凶器となっ
てしまう。

戦略とはそういう性質のものなのです。

だから、自分が何を目指すか。どういう価値観を持ち、どういうビジョンを
持つのか。

戦略を身に着けようとする人間は、特に、これらの前提を重視しなければな
らないわけです。

我々が目指す「よりよい社会」とは何か?

マイケル・サンデル教授のいうように、いまこそ我々にとっての正義を模索
すべき時にきているのですね。

もしかすると、今の価値観でいう成功者が、小馬鹿にされ、蔑まされるよう
な社会が来るのかも知れません。

まさに革命ですね。

■この本と同時に購入したのが、リンクアンドモチベーションというコンサ
ルティング会社代表の小笹芳央氏の書いた「変化を生み出すモチベーション・
マネジメント」です。
http://amazon.co.jp/o/ASIN/4569795595/lanchesterkan-22/ref=nosim

仕事に役立つだろうかという思いで購入しました。

ここに書かれているのは、組織の変革を行うための手法と手順です。

簡単にいうと

(1)アンフリーズ(相対化する)それまでの習慣や価値観を揺るがせ、新
たな価値観を受け入れる素地を作る。

(2)チェンジ(方向づける)新たな価値観を注入し、方向性を構築する。

(3)リフリーズ(定着させる)新たな習慣として定着させる。

という手順で行います。

私も、営業組織を変革させるべく日々努力しておりますので、このメソッド
は参考になります。

■ただ、先ほどの「思考停止ビジネス」を読めば、カルト宗教の洗脳方法と
して、

(1)破壊

(2)注入

(3)凍結

という手順が紹介されています。

組織変革のメソッドと、同じなんですね。

■これらの著作を読んだ人が、どう考え、どう行動するかは勝手なんですが、
やはり手法やノウハウというものは、使う人の考え方次第なんだなーーと思
います。

いろいろ考えさせられるというのは、坂口氏が提示する社会の切り取り方の
面白さや多様性が、実に深刻な問題を含んでいるからです。

ノウハウ本では味わえない様々な考えるヒントをもらえる本でした



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