小さなお菓子屋さんが描く大きなストーリー

2011.11.17

(2011年11月17日メルマガより)


■今回の話は、10月の「戦略勉強会」でネタにした事例をもとにしています。

だからいつものように、私だけの意見ではなく、参加されたメンバーの意見
や見識が入っています。

ご了承ください。

■さて、その事例はこちらです。

「アホか」と言われたイベントに家族が涙する理由
一度訪れるとファンになってしまう洋菓子店
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2679

長野県伊那市にある洋菓子店が、1年に1回、「夢ケーキの日」というイベ
ントを実施しておられます。

これは全国の小学生から送られてきた「自分の夢」の絵をもとにケーキを作
って、無料で配布するというものです。

2006年からスタートして、2009年には、なんと850個(!)も配布しています。

ショートケーキではありません。立派なデコレーションケーキを850個無料
で配布しているのです。

半端な決意ではできないイベントですね...

■何のために、そこまでのイベントを開催するのか。

記事によると、オーナーである清水さんが、ある殺伐とした事件を知って、
「うちのケーキを食べてくれていたら、こんな事件は起こらなかったのに」
と考えたことがきっかけだったといいます。

もともと「お菓子を通じて世の中のためにできることがあるんじゃないか」
と考えていた清水さんは、家族で夢について語る時間を作ってほしいという
思いで「夢ケーキの日」を始めたのだそうです。

いささか出来すぎた話じゃないかという意見も(勉強会では)ありましたが、
ここは素直に受け取りたいと思います。

■この事例でまず感心したことは、オーナーである清水さんが、真面目に
「お菓子とは何か」「お菓子屋の役割とは何か」ということを考えているこ
とです。

普通はそうではありませんね。前回のメルマガにも書きましたが「理念でメ
シが食えるか」「儲けてから夢を言え」と切り捨てる経営者が多い。

(と、私が思うだけかも知れませんが...)

しかし、一見、儲けにつながらないように思えるこうした理念やコンセプト
を明瞭にしておくことは、事業の根幹を強靭にすることにつながります。

目先の利益ばかりに囚われる人には、理解できないことかも知れませんが。

■同店のオーナーである清水さんは、洋菓子を単なる「砂糖とバターと小麦
粉を混ぜた嗜好品」だとは捉えていません。

彼は「お菓子には人と人をつなぐ力がある」「菓子屋は、世の中で一番幸せ
や夢を与えられる仕事」だと言っています。

大型で洋風の建物を見ていると、まるでディズニーランドかジブリの家のよ
うな夢の国を現出しようとしているかのようです。

オーナーのコンセプトに対する本気度は、従業員に敏感に伝わりますから、
ここで「儲けたらええんや」と考えているようでは、店内は白けきってしま
い、顧客にも伝わってしまいます。

それではせっかくの意匠も台無しです。

■マーケティングの本質は社会貢献です。

「社会貢献が好きなら、ボランティアでもやればいいじゃないか」などと陳腐
なことを言う人は少なくなりましたが、それでも理解されにくい概念です。

逆に「社会貢献は善、ビジネスは悪」などと考える似非社会起業家が未だに
存在するのも困りものです。

彼らは相容れないようでいて、実は、表裏の相似形なんですね。

企業が社会的な存在である限り、企業活動はすべて社会に貢献することで成
り立ちます。

少なくとも長期的に存在し続けるためには、社会に貢献する存在でなければ
なりません。

企業活動が社会に与える影響が大きいということは、ビジネスこそ非常に大
きな社会貢献の方法であるということです。

■問題は、その手段です。

ビジネスは社会貢献の方法であるという概念には異論がないとしても、実際
のビジネスの現場では、利己的な手段であるとしか思えない「逆流」が起こ
ります。

全体的な流れが社会貢献に向かっているのならば、小さい逆流は仕方ないと
いってもいいのかも知れません。

しかし、今日、その小さな逆流をも詭弁だとして許さない風潮があります。

大王製紙やオリンパスの旧経営陣が「会社全体では社会の役に立っているの
だから、小さな不正は誤魔化そう」という功利主義的な考え方を持っている
とすれば、今日の正義感の前ではそれは見逃すことができません。

つまり、今日の企業人は、常に原理原則に忠実な立場を取らなければならな
いのです。

■「夢ケーキの日」という手段は、顧客とのコミュニケーションのあり方と
しては理想的であると感じます。

郊外のお菓子屋さんが、集客のためにテレビCMにお金を投じたからといっ
て、どれほどの効果が見込めるでしょうか。

ケーキを無料で配布する場合、1個あたり600円の損失があるとしても、
1000個で60万円の出費です。

それで、広域からケーキを受け取るために1000人の顧客が集まるとすれば、
非常に安上がりな集客手段です。

しかも、顧客にとって、それは無料のプレゼントですから、感謝こそすれ
「CMにまんまと乗せられたな」などと不満や疑念を抱くことは少ないでし
ょう。

つまり清水オーナーの「家族で夢を語る時間を作っていただきたい」という
思いが直接伝わる手段なのです。

■この「夢ケーキの日」にはいろいろな相乗効果があるようです。

まずは、上に書いた集客効果。郊外のお菓子屋さんに1000人の顧客が集まる
ことはそうはないはずです。

次にブランド力の向上。無料で子供の夢をケーキにしてくれた店に、好まし
い印象を抱かないはずはありません。

ブランド力が向上すれば、リピーターが増えます。固定客の増加に効果を発
揮します。

そして記事に最も大きく取り上げられているのが、従業員に対する影響です。

1つは、850個も一気にデコレーションケーキを作ることによる技能の向上。

もう1つは、社会に貢献して、顧客から直接感謝されるという経験を通じた
遣り甲斐の向上です。

■企業が競争力を発揮するには、主に2つの方法があります。

1つは、他者が気づいていない&真似できない独自の位置取り(ポジショニ
ング)を行うことです。

ランチェスター戦略の「弱者の戦略」は、この独自の位置取りを体系化した
ものです。

手順としては、独自の市場(顧客)を見つけて、その市場に報いるための方
策を、やはり自社独自のやり方(差別化戦略)で行います。

ランチェスター戦略に限らず、あらゆる競争戦略は、独自の位置取りに重き
を置いています。

もう1つは、従業員の能力を最大限高めることにより、競争力を発揮する方
法です。

こちらは従来、日本企業が得意とする方法です。

高度成長期の日本企業は「年功序列、終身雇用、企業別労働組合」という鉄
壁の組織維持の仕組みを持っていて、それが非常に機能していました。

ところが低成長市場が普遍化した今日、その仕組みでは組織を維持するどこ
ろか、破綻につながることが明らかになりました。

では、低成長時代に組織を維持するために効果を上げる仕組みは何か。。
といわれても、正解は見つかっていません。

ただ、私はこの事例を読んで、顧客に貢献しているという実感をリアルに持
つことが、従業員のモチベーションを高め、組織の結束を固める方法なので
はないかと感じました。

■高度成長期の企業は、顧客に報いるというよりも、従業員の生活を保障す
るというコンセンサスが大きかったのではないか。

だから少々強引な売り方でも、クレーム隠しがあっても、組織維持のために
は許される部分があったわけです。

ところが、顧客第一主義でないと企業が存続できない今日の状況で、組織維
持のために顧客を欺くという手段は合理的ではなくなっています。

だから、従業員も、自分の雇用を守るために組織が欺瞞を行うということに
納得性を感じなくなっているのです。

要するに、ビジネスの目的が社会貢献だとすれば、社会貢献していない組織
など何の価値もない。

そんな組織に属していること自体が、大きなリスクを背負っていることです。

我々は、それを感覚として感じ取っているのです。

■お客様が感謝してくれる。笑顔を見せてくれる。

それを直接見て感じることは、人間本来の喜びにつながります。

本能的にそれを我々は知っています。

だけど、それだけではありません。

顧客に報いることは、我々の生活にとって最も合理的な方法なのです。

実は、それを理解しているからこそ、我々は、顧客に報いる仕事に遣り甲斐
を感じているわけです。

■モチベーションの高い従業員の存在は、企業の大きな競争力となります。

同店の従業員は、技能を向上したいという欲求も満たされますから、なおさ
らです。

それが、新しいオリジナルケーキの開発につながっていることが記事に書か
れています。

いい事例ですね。

■それにしても、同店の清水オーナーが語る「夢ケーキの日」の理念は、素
晴らしいストーリーです。

清水オーナーの個人的な思いから始まって、地域の名物イベントとなり、最
後には全国的なムーブメントになればいいと締めくくられています

ストーリーは理解され、再生され、伝播されるという特性を持っていますか
ら、彼の描くストーリーは、早晩実現していくかも知れません。

そう考えれば、ストーリーを作って語る能力は、経営者にとって、非常に大
きな武器になるということですね。

経営者よ、ストーリーを語れ!

ですね。

(2011年11月17日メルマガより)


■今回の話は、10月の「戦略勉強会」でネタにした事例をもとにしています。

だからいつものように、私だけの意見ではなく、参加されたメンバーの意見
や見識が入っています。

ご了承ください。

■さて、その事例はこちらです。

「アホか」と言われたイベントに家族が涙する理由
一度訪れるとファンになってしまう洋菓子店
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2679

長野県伊那市にある洋菓子店が、1年に1回、「夢ケーキの日」というイベ
ントを実施しておられます。

これは全国の小学生から送られてきた「自分の夢」の絵をもとにケーキを作
って、無料で配布するというものです。

2006年からスタートして、2009年には、なんと850個(!)も配布しています。

ショートケーキではありません。立派なデコレーションケーキを850個無料
で配布しているのです。

半端な決意ではできないイベントですね...

■何のために、そこまでのイベントを開催するのか。

記事によると、オーナーである清水さんが、ある殺伐とした事件を知って、
「うちのケーキを食べてくれていたら、こんな事件は起こらなかったのに」
と考えたことがきっかけだったといいます。

もともと「お菓子を通じて世の中のためにできることがあるんじゃないか」
と考えていた清水さんは、家族で夢について語る時間を作ってほしいという
思いで「夢ケーキの日」を始めたのだそうです。

いささか出来すぎた話じゃないかという意見も(勉強会では)ありましたが、
ここは素直に受け取りたいと思います。

■この事例でまず感心したことは、オーナーである清水さんが、真面目に
「お菓子とは何か」「お菓子屋の役割とは何か」ということを考えているこ
とです。

普通はそうではありませんね。前回のメルマガにも書きましたが「理念でメ
シが食えるか」「儲けてから夢を言え」と切り捨てる経営者が多い。

(と、私が思うだけかも知れませんが...)

しかし、一見、儲けにつながらないように思えるこうした理念やコンセプト
を明瞭にしておくことは、事業の根幹を強靭にすることにつながります。

目先の利益ばかりに囚われる人には、理解できないことかも知れませんが。

■同店のオーナーである清水さんは、洋菓子を単なる「砂糖とバターと小麦
粉を混ぜた嗜好品」だとは捉えていません。

彼は「お菓子には人と人をつなぐ力がある」「菓子屋は、世の中で一番幸せ
や夢を与えられる仕事」だと言っています。

大型で洋風の建物を見ていると、まるでディズニーランドかジブリの家のよ
うな夢の国を現出しようとしているかのようです。

オーナーのコンセプトに対する本気度は、従業員に敏感に伝わりますから、
ここで「儲けたらええんや」と考えているようでは、店内は白けきってしま
い、顧客にも伝わってしまいます。

それではせっかくの意匠も台無しです。

■マーケティングの本質は社会貢献です。

「社会貢献が好きなら、ボランティアでもやればいいじゃないか」などと陳腐
なことを言う人は少なくなりましたが、それでも理解されにくい概念です。

逆に「社会貢献は善、ビジネスは悪」などと考える似非社会起業家が未だに
存在するのも困りものです。

彼らは相容れないようでいて、実は、表裏の相似形なんですね。

企業が社会的な存在である限り、企業活動はすべて社会に貢献することで成
り立ちます。

少なくとも長期的に存在し続けるためには、社会に貢献する存在でなければ
なりません。

企業活動が社会に与える影響が大きいということは、ビジネスこそ非常に大
きな社会貢献の方法であるということです。

■問題は、その手段です。

ビジネスは社会貢献の方法であるという概念には異論がないとしても、実際
のビジネスの現場では、利己的な手段であるとしか思えない「逆流」が起こ
ります。

全体的な流れが社会貢献に向かっているのならば、小さい逆流は仕方ないと
いってもいいのかも知れません。

しかし、今日、その小さな逆流をも詭弁だとして許さない風潮があります。

大王製紙やオリンパスの旧経営陣が「会社全体では社会の役に立っているの
だから、小さな不正は誤魔化そう」という功利主義的な考え方を持っている
とすれば、今日の正義感の前ではそれは見逃すことができません。

つまり、今日の企業人は、常に原理原則に忠実な立場を取らなければならな
いのです。

■「夢ケーキの日」という手段は、顧客とのコミュニケーションのあり方と
しては理想的であると感じます。

郊外のお菓子屋さんが、集客のためにテレビCMにお金を投じたからといっ
て、どれほどの効果が見込めるでしょうか。

ケーキを無料で配布する場合、1個あたり600円の損失があるとしても、
1000個で60万円の出費です。

それで、広域からケーキを受け取るために1000人の顧客が集まるとすれば、
非常に安上がりな集客手段です。

しかも、顧客にとって、それは無料のプレゼントですから、感謝こそすれ
「CMにまんまと乗せられたな」などと不満や疑念を抱くことは少ないでし
ょう。

つまり清水オーナーの「家族で夢を語る時間を作っていただきたい」という
思いが直接伝わる手段なのです。

■この「夢ケーキの日」にはいろいろな相乗効果があるようです。

まずは、上に書いた集客効果。郊外のお菓子屋さんに1000人の顧客が集まる
ことはそうはないはずです。

次にブランド力の向上。無料で子供の夢をケーキにしてくれた店に、好まし
い印象を抱かないはずはありません。

ブランド力が向上すれば、リピーターが増えます。固定客の増加に効果を発
揮します。

そして記事に最も大きく取り上げられているのが、従業員に対する影響です。

1つは、850個も一気にデコレーションケーキを作ることによる技能の向上。

もう1つは、社会に貢献して、顧客から直接感謝されるという経験を通じた
遣り甲斐の向上です。

■企業が競争力を発揮するには、主に2つの方法があります。

1つは、他者が気づいていない&真似できない独自の位置取り(ポジショニ
ング)を行うことです。

ランチェスター戦略の「弱者の戦略」は、この独自の位置取りを体系化した
ものです。

手順としては、独自の市場(顧客)を見つけて、その市場に報いるための方
策を、やはり自社独自のやり方(差別化戦略)で行います。

ランチェスター戦略に限らず、あらゆる競争戦略は、独自の位置取りに重き
を置いています。

もう1つは、従業員の能力を最大限高めることにより、競争力を発揮する方
法です。

こちらは従来、日本企業が得意とする方法です。

高度成長期の日本企業は「年功序列、終身雇用、企業別労働組合」という鉄
壁の組織維持の仕組みを持っていて、それが非常に機能していました。

ところが低成長市場が普遍化した今日、その仕組みでは組織を維持するどこ
ろか、破綻につながることが明らかになりました。

では、低成長時代に組織を維持するために効果を上げる仕組みは何か。。
といわれても、正解は見つかっていません。

ただ、私はこの事例を読んで、顧客に貢献しているという実感をリアルに持
つことが、従業員のモチベーションを高め、組織の結束を固める方法なので
はないかと感じました。

■高度成長期の企業は、顧客に報いるというよりも、従業員の生活を保障す
るというコンセンサスが大きかったのではないか。

だから少々強引な売り方でも、クレーム隠しがあっても、組織維持のために
は許される部分があったわけです。

ところが、顧客第一主義でないと企業が存続できない今日の状況で、組織維
持のために顧客を欺くという手段は合理的ではなくなっています。

だから、従業員も、自分の雇用を守るために組織が欺瞞を行うということに
納得性を感じなくなっているのです。

要するに、ビジネスの目的が社会貢献だとすれば、社会貢献していない組織
など何の価値もない。

そんな組織に属していること自体が、大きなリスクを背負っていることです。

我々は、それを感覚として感じ取っているのです。

■お客様が感謝してくれる。笑顔を見せてくれる。

それを直接見て感じることは、人間本来の喜びにつながります。

本能的にそれを我々は知っています。

だけど、それだけではありません。

顧客に報いることは、我々の生活にとって最も合理的な方法なのです。

実は、それを理解しているからこそ、我々は、顧客に報いる仕事に遣り甲斐
を感じているわけです。

■モチベーションの高い従業員の存在は、企業の大きな競争力となります。

同店の従業員は、技能を向上したいという欲求も満たされますから、なおさ
らです。

それが、新しいオリジナルケーキの開発につながっていることが記事に書か
れています。

いい事例ですね。

■それにしても、同店の清水オーナーが語る「夢ケーキの日」の理念は、素
晴らしいストーリーです。

清水オーナーの個人的な思いから始まって、地域の名物イベントとなり、最
後には全国的なムーブメントになればいいと締めくくられています

ストーリーは理解され、再生され、伝播されるという特性を持っていますか
ら、彼の描くストーリーは、早晩実現していくかも知れません。

そう考えれば、ストーリーを作って語る能力は、経営者にとって、非常に大
きな武器になるということですね。

経営者よ、ストーリーを語れ!

ですね。

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