薄型テレビ市場2.0 競争の鍵はブランド力か

2008.02.14

(2008年2月14日メルマガより)

子曰く、

吾れ十有五にし学に志す。

三十にして立つ。

四十にして迷わず。

五十にして天命を知る。

六十にして耳順(した)がう。

七十にして心の欲する所に従いて、矩(のり)を踰(こ)えず。

~論語・孔子より

■インターネットで検索してみると「おれは40代なのに迷ってばかりだ~」
という記述がやたら目立ちました^^;

だから私は言わないでおきます。言おうと思っていたんですが。。。

ちなみに矩(のり)とは方形を正しく書く定木、さしがねのこと。これが、
きまり、おきてを指すようになった。

つまり、心の欲する所に従いて、矩(のり)を踰(こ)えず、とは、心の赴
くままに動いても(人生の)法則にはずれないことの意味です。

(いずれもネットで調べたことなので間違っていたらスンマセン)

■「幸之助神話を壊した男」こと中村邦夫松下電器産業会長は、
現在68歳のはずですが、もう既に「心の欲する所に従いて、矩を踰えず」という
境地に達したというのでしょうか。

今回の松下電器産業の社名を「パナソニック」に変更するという一大事を、
改革の総仕上げとして準備していたのは、中村会長に他ならないでしょうか
ら。

大坪社長が言うように「社名と別の複数ブランドを持つ会社は世界の優良企
業にまれだ」というのは事実です。松下電器も、パナソニックへの社名変更
が合理的であると長く言われ続けてきた会社です。

巨艦松下とはいえ、これからグローバル市場で競争していくためには、今ま
でのような強者の戦略だけで戦うわけにはいきません。なんせ、敵は、サム
スンやLGやフィリップスなど。マイクロソフトやアップルが家電市場に参
入してくるとも噂されています。

競争に備えて、ブランド価値を最大限高めるためには、社名変更は避けては
通れなかった道のはずです。

しかし、そうはいっても、現実のしがらみは複雑怪奇です。松下のような歴
史も実績もある会社ならなおさらです。

人間ある程度の地位にまで上り詰めると、落ちるのが怖いので、守りに入る
のが普通です。凡人はそうなります。仕方ありませんな。

でも、中村邦夫氏は、摩擦を避けるとか、事なかれにするとか、そういう
姿勢とは無縁の人だったようです。

最後の最後まで壊しまくろうという腹積もりのようで。たいしたもんです。

■しかし、薄型テレビの状況は、そんな中村会長でも誤算だったと言わざる
を得ないのではないでしょうか。

参考:一人勝ちのワナにはまった松下電器

2007年には液晶パネルの大型化もあり、プラズマテレビの失速が明らか
になりました。松下は「大型はプラズマ中心」と言っていますが、実際には
帰趨は決しています。

プラズマの王者松下と言えども、薄型テレビ全体では、6位(8.5%)の
シェアしかありません。

だから、松下も、液晶パネルの調達体制を整え、また液晶工場の建設に投資
を行うことを決めました。

実は、プラズマが液晶に変わったからと言って、それほど影響はないかも知
れません。というのは、売り場を押さえている限り、新製品に順次入れ替え
ていけばいいわけです。隙間のない売り場に無理やり新製品を押し込もうと
いう営業をするわけではありませんからハードルは思ったほど高くないはず
です。

ところが、液晶パネルの逼迫という事態が、松下を苦しめました。基本的に
液晶パネルはアウトソーシングでという青写真を描いていた松下とすれば、
販売力はあっても生産力がないというメーカーらしからぬ事態に陥ってしま
ったのです。痛恨の極み。松下が自社生産にこだわりたくなるのも頷けます。

ここへ来て、松下は「液晶でもトップメーカーになる」とぶち上げています。
しかし、液晶テレビの世界には、サムソン、ソニー、シャープ、フィリップ
スなど、強豪がひしめいています。

いち早くプラズマ特化を鮮明にした5年前とは状況が違うので、そう簡単に
は行かないでしょう。

社名を変えてでも、ブランド力の強化が急務とされる所以です。

■液晶の雄シャープも実は苦しんでいます。

日本ではダントツ1位のシャープといえども、世界ではサムスン、ソニーに
続く3位です。生産力でもブランド力でも両社に見劣りします。

生産力は、投資を増加することで何とかなりそうです。実際、亀山工場に続
いて、堺工場の建設を始めました。最大生産3500万台。

ただし、シャープだけの販売能力は1000万台と言われています。という
ことは、今の3倍以上販売力を上げるか、パネルを購入してくれる他メーカ
ーを探すかしない限り、大赤字になってしまうということです。

そうなんですね。生産力は短期になんとかなっても、販売力を劇的に上げる
ことは難しい。ソニーにあって、シャープにも松下にもないのが、世界的な
ブランド力です。

このブランド力というやつ。構築するのに時間がかかります。ソニーだって、
トヨタだって、ホンダだって、何十年という歳月をかけて築いてきました。

シャープだって「在庫が余って困るからブランド力を高めよう」というわけ
にはいきません。

むしろ、この商品はシャープでしか手に入らない、シャープの製品は特別だ、
という特徴が必要です。

ところが、背に腹は変えられず。工場を稼動させるためには、パネルを他社
に供給する戦略をとらざるを得ません。

ブランド力の構築は、もう少し時間がかかりそうです。

■ソニーは、出井体制後期の混乱を、ブランド力を最大限活かすことで乗り
切ろうとしています。

同社は、携帯音楽プレーヤーでアップルに惨敗し、薄型テレビでも大きく出
遅れました。

ソニーの特徴は、他の日本メーカーと同じく、自社生産、自社ブランドを貫
いてきたことでした。それが今日のブランド力を築き上げてきたのです。

ただし、この混乱を乗り切るためにとった戦略は、大胆にOEM供給を受け
入れることでした。

携帯音楽プレーヤーではエリクソンと組み、アップルの一人勝ち状態に一矢
報いようとしています。

そして薄型テレビではサムソンと組み、世界2位の薄型テレビメーカーに躍
進しています。

ここには「販売力はないが技術は最高」「一番売れるわけではないが最高に
クール」とイメージされたソニーの姿はありません。むしろ、自身のブラン
ドイメージをしたたかに利用するメーカーとなっています。

もっとも、この戦略がいつまでも続くとは思えません。おそらくソニーも次
世代テレビ(有機EL)に照準を合わしていると思われます。

つなぎの技術にこだわりすぎて失敗したのはつい最近です。(ipodの躍進を
やすやすと許したのはMDという技術にこだわりすぎたからだという説があ
ります)

だから液晶パネルについては自社技術の開発にこだわらず、サムソンからも
シャープからも仕入れようという腹のようです。

ただし、次世代テレビに関しても、「松下、日立、キャノン連合」と「シャ
ープ、東芝、パイオニア連合」がグループでの開発体制を作ろうとしていま
す。

ソニーだけが自社生産を貫くわけにはいかない気配がしています。

■もうおわかりでしょうが、21世紀になって、家電メーカーがとるべき戦
略は完全に変わってしまいました。

それまで鎖国しているような市場で強者として君臨してきたメーカーは、完
全に衰退市場に入ってしまった日本で今の規模を維持できなくなっています。

弱者としてグローバル市場に出て行かざるを得ないのです。

ただし、世界市場は、まだまだ成長余地があります。戦いようによっては、
もっと大きく勝つチャンスが残されていることは間違いありません。

事実、ある無名のメーカー(ヴィジオ)は、北米の低価格志向の顧客に特化
した商品をひたすら供給することでわずか5年で5位の薄型テレビメーカー
となりました。長くは続かないでしょうが。

必要なのは、市場を明確に選び、差別優位性を持ち、集中し、確実に勝てる
戦いをすること。要するに「弱者の戦い」をすることです。

■東京通信工業がソニーと名前を変えて、今年で50年だそうです。

四十にして迷わず、五十にして天命を知る。

やはり、強いコーポレートブランドを育てるためには4,50年の歳月が必
要になるというのでしょうか。

ちなみに松下は創業90年だそうで。

パナソニックさん、あと50年は頑張ってください!

週刊ダイヤモンド2008/01/26を参照しました)


(2008年2月14日メルマガより)

子曰く、

吾れ十有五にし学に志す。

三十にして立つ。

四十にして迷わず。

五十にして天命を知る。

六十にして耳順(した)がう。

七十にして心の欲する所に従いて、矩(のり)を踰(こ)えず。

~論語・孔子より

■インターネットで検索してみると「おれは40代なのに迷ってばかりだ~」
という記述がやたら目立ちました^^;

だから私は言わないでおきます。言おうと思っていたんですが。。。

ちなみに矩(のり)とは方形を正しく書く定木、さしがねのこと。これが、
きまり、おきてを指すようになった。

つまり、心の欲する所に従いて、矩(のり)を踰(こ)えず、とは、心の赴
くままに動いても(人生の)法則にはずれないことの意味です。

(いずれもネットで調べたことなので間違っていたらスンマセン)

■「幸之助神話を壊した男」こと中村邦夫松下電器産業会長は、
現在68歳のはずですが、もう既に「心の欲する所に従いて、矩を踰えず」という
境地に達したというのでしょうか。

今回の松下電器産業の社名を「パナソニック」に変更するという一大事を、
改革の総仕上げとして準備していたのは、中村会長に他ならないでしょうか
ら。

大坪社長が言うように「社名と別の複数ブランドを持つ会社は世界の優良企
業にまれだ」というのは事実です。松下電器も、パナソニックへの社名変更
が合理的であると長く言われ続けてきた会社です。

巨艦松下とはいえ、これからグローバル市場で競争していくためには、今ま
でのような強者の戦略だけで戦うわけにはいきません。なんせ、敵は、サム
スンやLGやフィリップスなど。マイクロソフトやアップルが家電市場に参
入してくるとも噂されています。

競争に備えて、ブランド価値を最大限高めるためには、社名変更は避けては
通れなかった道のはずです。

しかし、そうはいっても、現実のしがらみは複雑怪奇です。松下のような歴
史も実績もある会社ならなおさらです。

人間ある程度の地位にまで上り詰めると、落ちるのが怖いので、守りに入る
のが普通です。凡人はそうなります。仕方ありませんな。

でも、中村邦夫氏は、摩擦を避けるとか、事なかれにするとか、そういう
姿勢とは無縁の人だったようです。

最後の最後まで壊しまくろうという腹積もりのようで。たいしたもんです。

■しかし、薄型テレビの状況は、そんな中村会長でも誤算だったと言わざる
を得ないのではないでしょうか。

参考:一人勝ちのワナにはまった松下電器

2007年には液晶パネルの大型化もあり、プラズマテレビの失速が明らか
になりました。松下は「大型はプラズマ中心」と言っていますが、実際には
帰趨は決しています。

プラズマの王者松下と言えども、薄型テレビ全体では、6位(8.5%)の
シェアしかありません。

だから、松下も、液晶パネルの調達体制を整え、また液晶工場の建設に投資
を行うことを決めました。

実は、プラズマが液晶に変わったからと言って、それほど影響はないかも知
れません。というのは、売り場を押さえている限り、新製品に順次入れ替え
ていけばいいわけです。隙間のない売り場に無理やり新製品を押し込もうと
いう営業をするわけではありませんからハードルは思ったほど高くないはず
です。

ところが、液晶パネルの逼迫という事態が、松下を苦しめました。基本的に
液晶パネルはアウトソーシングでという青写真を描いていた松下とすれば、
販売力はあっても生産力がないというメーカーらしからぬ事態に陥ってしま
ったのです。痛恨の極み。松下が自社生産にこだわりたくなるのも頷けます。

ここへ来て、松下は「液晶でもトップメーカーになる」とぶち上げています。
しかし、液晶テレビの世界には、サムソン、ソニー、シャープ、フィリップ
スなど、強豪がひしめいています。

いち早くプラズマ特化を鮮明にした5年前とは状況が違うので、そう簡単に
は行かないでしょう。

社名を変えてでも、ブランド力の強化が急務とされる所以です。

■液晶の雄シャープも実は苦しんでいます。

日本ではダントツ1位のシャープといえども、世界ではサムスン、ソニーに
続く3位です。生産力でもブランド力でも両社に見劣りします。

生産力は、投資を増加することで何とかなりそうです。実際、亀山工場に続
いて、堺工場の建設を始めました。最大生産3500万台。

ただし、シャープだけの販売能力は1000万台と言われています。という
ことは、今の3倍以上販売力を上げるか、パネルを購入してくれる他メーカ
ーを探すかしない限り、大赤字になってしまうということです。

そうなんですね。生産力は短期になんとかなっても、販売力を劇的に上げる
ことは難しい。ソニーにあって、シャープにも松下にもないのが、世界的な
ブランド力です。

このブランド力というやつ。構築するのに時間がかかります。ソニーだって、
トヨタだって、ホンダだって、何十年という歳月をかけて築いてきました。

シャープだって「在庫が余って困るからブランド力を高めよう」というわけ
にはいきません。

むしろ、この商品はシャープでしか手に入らない、シャープの製品は特別だ、
という特徴が必要です。

ところが、背に腹は変えられず。工場を稼動させるためには、パネルを他社
に供給する戦略をとらざるを得ません。

ブランド力の構築は、もう少し時間がかかりそうです。

■ソニーは、出井体制後期の混乱を、ブランド力を最大限活かすことで乗り
切ろうとしています。

同社は、携帯音楽プレーヤーでアップルに惨敗し、薄型テレビでも大きく出
遅れました。

ソニーの特徴は、他の日本メーカーと同じく、自社生産、自社ブランドを貫
いてきたことでした。それが今日のブランド力を築き上げてきたのです。

ただし、この混乱を乗り切るためにとった戦略は、大胆にOEM供給を受け
入れることでした。

携帯音楽プレーヤーではエリクソンと組み、アップルの一人勝ち状態に一矢
報いようとしています。

そして薄型テレビではサムソンと組み、世界2位の薄型テレビメーカーに躍
進しています。

ここには「販売力はないが技術は最高」「一番売れるわけではないが最高に
クール」とイメージされたソニーの姿はありません。むしろ、自身のブラン
ドイメージをしたたかに利用するメーカーとなっています。

もっとも、この戦略がいつまでも続くとは思えません。おそらくソニーも次
世代テレビ(有機EL)に照準を合わしていると思われます。

つなぎの技術にこだわりすぎて失敗したのはつい最近です。(ipodの躍進を
やすやすと許したのはMDという技術にこだわりすぎたからだという説があ
ります)

だから液晶パネルについては自社技術の開発にこだわらず、サムソンからも
シャープからも仕入れようという腹のようです。

ただし、次世代テレビに関しても、「松下、日立、キャノン連合」と「シャ
ープ、東芝、パイオニア連合」がグループでの開発体制を作ろうとしていま
す。

ソニーだけが自社生産を貫くわけにはいかない気配がしています。

■もうおわかりでしょうが、21世紀になって、家電メーカーがとるべき戦
略は完全に変わってしまいました。

それまで鎖国しているような市場で強者として君臨してきたメーカーは、完
全に衰退市場に入ってしまった日本で今の規模を維持できなくなっています。

弱者としてグローバル市場に出て行かざるを得ないのです。

ただし、世界市場は、まだまだ成長余地があります。戦いようによっては、
もっと大きく勝つチャンスが残されていることは間違いありません。

事実、ある無名のメーカー(ヴィジオ)は、北米の低価格志向の顧客に特化
した商品をひたすら供給することでわずか5年で5位の薄型テレビメーカー
となりました。長くは続かないでしょうが。

必要なのは、市場を明確に選び、差別優位性を持ち、集中し、確実に勝てる
戦いをすること。要するに「弱者の戦い」をすることです。

■東京通信工業がソニーと名前を変えて、今年で50年だそうです。

四十にして迷わず、五十にして天命を知る。

やはり、強いコーポレートブランドを育てるためには4,50年の歳月が必
要になるというのでしょうか。

ちなみに松下は創業90年だそうで。

パナソニックさん、あと50年は頑張ってください!

週刊ダイヤモンド2008/01/26を参照しました)


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