生き残りをかけてもがく家電メーカーたち

2020.12.24

(2020年12月24日メルマガより)


前回のメルマガでは家電量販店のヤマダ電機について書きました。


家電販売ビジネスの縮小に見舞われ、住宅関連事業などに活路を見出そうとしているヤマダ電機のお話です。

ヤマダ電機ほどの規模になると、事業転換も容易ではありません。

ところどころ成長機会はあるものの、いずれもニッチ需要で、ヤマダ電機全体を潤わせるほどのものがありません。

メルマガでは偉そうなことを書きましたが、所詮は外野の意見ですかね。組織全体を賄えるほどの方向性を見つけるのは至難の業ですから、内部の方のご苦労はお察しいたします。

その点、規模の小さな会社は、小さな市場でも生きていけます。雑草のようなもので、隙間や窪地でも充分に生育可能です。

雑草には雑草の生き方がある、ということを理解する者は、強いですよ。


■それはともかく、そもそもヤマダ電機が苦境に陥ったのは、日本の家電産業全体が勢いを失ってしまったからです。

パナソニックも、ソニーも、日立も、東芝も、三菱も、シャープも、かつての勢いはなく、事業再構築を迫られ、方向転換を余儀なくされています。

韓国勢にも中国勢にも勝てず、事業事業の縮小、撤退に追い込まれるその姿には、家電王国といわれた頃の面影は皆無です。

いったい何があったというのでしょうか。

そうかと思えば、規模は大きくなくても、きらりと光る新興家電メーカーも育ってきており、バルミューダのように新規上場し、評価されている企業もあります。

今回は、前回に続き、家電産業について書いてみました。

どうか最後までお読みください。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


12月16日、家電メーカーのバルミューダが、東証マザーズに株式上場しました。

その日の終値は、公募価格の2倍近くになり、時価総額は約298億円に達したといいます。

成熟産業の新興メーカーとしては、上々の滑り出しではないでしょうか。



衰退する国内大手家電メーカー


もっとも日本の家電産業には、かつてのような勢いがありません。とくに、業界を牽引してきた大手企業に元気がありません。

日立も東芝も家電部門を海外企業に売却し、産業材やインフラ部門に経営資源を集中させようとしています。

シャープは、会社そのものが、台湾の鴻海の傘下にあります。

三洋電機はパナソニックの子会社ですが、家電部門を中国企業に売却して10年近くになります。

家電メーカーの雄、パナソニックでさえ、家電からの脱却を目指して、方向性を探っています。

まあ、それも仕方ありません。

人口減少する日本において、これらの企業は、持ちこたえられないほどの大きさになってしまったわけです。

成長期に網を広げるのは正しい戦略です。が、肝心の魚がいなくなったら、大きな網が無駄どころか邪魔になってしまいます。

小さな船で充分な時に、維持費のかかる巨大船は金食い虫でしかありません。網元は、船を処分するか、別の使い道を探すかしないと、経費倒れになってしまいます。

いまの大手家電メーカーが直面しているのはそういう状況ですな。


海外進出にも本気になれない


日本では魚が減っていくかもしれないが、海外では増えているじゃないか。という人がいるかもしれません。

確かにそうです。日本でダメなら海外に行けばいい。

ただ、日本の家電メーカーはことごとく海外進出に失敗しています。

これも、日本国内で充分に潤ってきた時代が長かった悲しさです。海外に売るためには、海外の顧客にあわせたビジネスをしなければなりません。商品も、売り方も、現地にあわせることが重要です。

韓国のように国内市場がもともと小さい国の企業は、海外進出ありきでなければ、それなりの大きさになりません。だから、サムスンやLGなどは、早い段階から、海外進出を含んだ商品づくりや販売のための組織を志向していました。

しかし、日本企業はそうではありませんでした。

日本国内で商売するだけで充分に儲かるので、海外進出を意識するのは、大企業になってからです。商品も販売も、まずは国内仕様となっています。

商品については、国内市場で同程度の技術力を持つライバル企業がひしめいていたため、いきおい似たようなものとなってしまいます。差別化のために機能の付加を繰り返すうちに、使わない機能がいっぱいついた謎の多機能製品が定番となっていきました。

売れるか売れないかわからない海外市場に向けて、今さら、シンプルな商品を作り直すのはリスクですから、日本市場向けの製品をそのまま海外に持ち込む企業が殆どでした。これでは、顧客無視といわれても仕方ありません。

販売においても同じです。海外展開のために、労使関係を含めて組織の在り方を変えるとかややこしい。そんなことをしなくても、国内で充分儲かるやんと、国内担当者からの茶々が入ります。そのうち国内では儲からなくなったものの、今さら、そこに費用や労力をかけられなくなりました。

そこに苦労するぐらいなら、家電部門は海外に売り払って、自社は国内でもっと儲かる分野へ移行する方が、合理的だというものです。

国内家電メーカーの多くが、国内の産業材分野へ軸足を移そうとしているのは、経済行動として、理にかなっていると考えます。


家電から撤退するかつての総合電機メーカー


日本の成長期には、家電から大型電機機械まで扱う総合電機メーカーが、隆盛を誇ったものですが、それも今は昔です。

こうした電機メーカーのなかで、経営戦略の基本通り「選択と集中」を推し進めようというのが日立です。

日立はリーマンショック後の大赤字で目覚めて、猛烈に事業再構築を進めている途上です。

日立が目指すのは、「社会イノベーション事業でのグローバルリーダー」だそうですが、これをかみ砕くと、インフラ分野の御用聞きだということです。

要するに、インフラ分野のことなら、何でもやりますよ。問題解決に取り組むので、何でもお申し付けください。という姿勢ですな。

いわば、物理的な商品(機械)をビジネスにするよりも、それに付随するサービスやソリューションを中心にしていこうということです。

その方向性に向けて、事業の売却と買収を進めています。


東芝はもっと早い時期から「選択と集中」に取り組んできました。

しかし、原子力事業への集中投資が裏目に出てしまいました。福島の事故以来、原子力事業の未来が描きにくくなり、莫大な投資が無駄となってしまいました。

そのうえ、2015年には、社内に根の深い会計上の不正が多く見つかり、ダブルパンチで破綻寸前に追い込まれてしまいました。

そこからの東芝は涙なしには語れません。金になるものは何でも売却し、サザエさんのスポンサーもおりて、破綻を逃れるのに精いっぱいでした。

何とか破綻は回避できたものの、今では、柱となる事業がない状態です。まさに白紙からの出直しですな。

こちらも、「インフラサービスカンパニー」を目指すということです。たぶん日立と似た方向性を志向しているのでしょうが、具体的な中身は見えません。

でも、ゼロからのスタートなので、案外、面白い存在かもしれませんよ。



これに対して、全社的な選択と集中をするのではなく、それぞれの分野で分散的に儲ければいいやん、というのが三菱電機です。

同社はバランス経営と称していますが、要するに、各事業部に権限を与えて、各自が生き残り策を考えなさいというやり方です。

いわば弱者の戦略の集合体で、規模的なパワーは活かせませんが、不確定な時代にとにかく生き残るという意味では、理にかなっています。



業績不振が目立つパナソニック


そんな大手家電メーカーの中でも、パナソニックの不振が目立ちます。

パナソニックといえば、日本の家電メーカーのトップに長く君臨し、強者の名をほしいままにしてきた企業です。

とくに1970年代、80年代の「強者の戦略」は、あまりにも盤石で、絶対王者といってもいい存在でした。

ところがコロナ禍の現在、パナソニックは、1人負けといいたくなるような状況です。


この記事を読むと、パナソニックの株式時価総額は、2.6兆円。これは、2008年当時から比べると、4%マイナスです。

これに対して、ソニーの時価総額は11.4兆円。これは、2008年の6倍です。

ちなみに、パナソニックの売上高、7兆5千億円。純利益、2257億円。

ソニーの売上高、8兆2千億円。純利益、5821億円です。(両社とも2020年3月期)

パナソニック(当時は松下電器)が絶対王者だった時代は、ソニーといえばいつ駆逐されるかもしれない弱者企業だったはずです。

なにしろ創業者の松下幸之助氏から「ソニーはうちの開発部隊だ」と揶揄われていたぐらいです。

そんな両社がいまになって立場逆転してしまうとは。。栄枯盛衰を感じずにはいられません。


強者の戦略が使えなくなった


パナソニックの場合、1970年、80年代に盤石なビジネスモデルを築き上げていたゆえに、市場環境の変化への対応に苦労しました。

第一段階は、家電量販店の台頭により、独自の販売チャネルであるナショナルショップの威力がそがれてしまったことです。

パナソニックの強者の戦略は、販売チャネルを押さえることで成り立っていました。いくらソニーが画期的な商品を作ろうとも、後追いでパナソニックが似たようなものを作れば、いちばん売れてしまうのです。販売チャネルを確保する者は、かくも強いのです。

ところが、家電量販店が全盛となると、売り場で比較されるようになり、より商品の力が重要となります。

もっとも、市場シェアトップのパナソニックには、より多くの売り場面積が与えられたので、ここでも同社有利には変わりませんでした。


第二段階は、国内家電市場が縮小し、家電量販店そのものが勢いを失ってしまったことです。

これは深刻です。需要が低迷してしまうと、メーカーは無力です。

家電エコポイントとか、地デジ移行とか、需要を喚起するイベントが終わる2010年頃をピークに、家電の売上は坂を転げ落ちるように縮小していき、如何ともしがたい状況となっていきました。

ただし、この頃には、人口減少により需要が減っていくことは予測されたことですから、メーカーは各社とも、脱家電を志向していました。


柱となる事業が見いだせない


パナソニックも同じです。産業関連機器、住宅設備、車載部品などに活路を求め、家電事業に頼らない体制を作ろうとしました。

特にテスラと提携した電気自動車向けの車載電池については、主力事業にするという強い決意を表していたものです。

ところが、あてが外れました。

天才と謳われながら性格が悪いことで有名なテスラCEOのイーロン・マスクのわがままに散々振り回された挙句「電池は自社で作ることにした」と宣言される始末です。

時間も労力も費用もかかる開発時の一番しんどいところを担わされながら、利益を出す前に放り出されるとは、継子話にも聞いたことがない悲惨さです。

完全にはしごを外されたパナソニックは、柱となる事業をいまだ見出せず、五里霧中にいるといっていいでしょう。



事業再構築に失敗した津賀社長


2012年から社長となった津賀一宏氏の最大のテーマが、脱家電と主力事業の育成でした。

パナソニックほど巨大で歴史のある企業の主力事業を転換するなど並大抵のことではありません。

なにしろ、社内の重鎮やらOBやら謎の関係者やら、歴史を作ってきたと自負する人々が大勢いますから、抵抗勢力だらけです。戦略を作って、ハイ、転換、というわけにはいきません。

津賀氏が、ジャック・ウェルチほど変人で悪辣なら、OBなど糞でも食っとけと嘲笑うこともできたのでしょうが、そうではなかったらしい。

しかもコロナ禍の巣ごもり消費で、家電の売上がなにげに良くて、むしろ存在感を増しています。

津賀氏は、来年、退任する予定ですが、結局、将来に向けて柱となる事業を見出せぬ、脱家電も進まずでは、いったいこの8年間は何だったのだろうと、言われても仕方ありませんな。


脱家電を成し遂げ、業績好調なソニー


対してソニーは、ゲーム関連事業や音楽事業が巣ごもり消費で業績好調です。

設立当初、技術屋の楽園を目指したソニーは、その理念の通り、可能性のある面白い技術の宝庫であったと聞きます。

しかし、1995年に6代目社長となった出井伸之氏は、ソフトとハードの融合を掲げて、ネットワーク事業やエンターテイメント事業に傾倒、大胆な方向転換に踏み切りました。

その過程で、ソニーに蓄積されていた多くの技術が切り捨てられたといわれています。

もちろん非難轟々で、出井CEOの晩年は「最悪の経営者」のレッテルを貼られていたほどです。

後継者に指名されたのは米国人のハワード・ストリンガー氏です。しがらみがより少ない立場だったストリンガー氏は、米国に拠点を置いたままで、エンターテイメント事業のグローバル化と強化を推し進めました。ストリンガー氏自身は、業績不振により解任されますが、後を受けた平井一夫氏が、現在のビジネスモデルを形にしました。

現在、ソニーの収益は、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツを活用したサブスクリプションビジネスから得られています。

つまりプレイステーションのオンライン会員などが負担する定額会費が、収益の基盤となっています。

オンラインゲームはグローバルかつ成長産業なので、ソニーの将来は明るいだろうと、株式市場が評価をする次第です。


もっとも、そこにかつての技術企業ソニーの姿はありません。

あのスティーブ・ジョブズも憧れたといわれるソニーは、場合によっては、アップルのような企業になっていたかもしれません。

※アップルの売上高は28兆円、時価総額200兆円超(2020年9月期)

そう思うと、なんとも小粒な会社となったという意見もあります。が、そんなとらぬ狸の皮算用をしても仕方ありませんな。


生き残るために躊躇していられない


そうかと思えば、バルミューダのように、新規上場を果たす新興家電メーカーもあります。

バルミューダだけではありません。ローテクでも、特殊な使用場面に則した商品や尖ったデザインを武器に、ヒットを飛ばす小さな新興メーカーが表れてきており、何気にニッチな盛り上がりを見せています。

いまは、マスを捉えにくい市場なので、むしろ規模が小さいことが、強みとなります。

つまり、大手家電メーカーの規模では、生きにくい産業になっているということです。どうしても家電市場で生きていこうとするならば、ニッチ市場を一つ一つ深掘りしていくことが求められます。

そんな面倒なことやってられん、と大手企業の殆どが、家電事業から撤退したのは、無理からぬことですな。


いずれにしろ、変革期にある産業では、各社が生き残りをかけて知恵を絞り、行動しています。

面白い、といえば失礼に聞こえるかもしれませんが、今の日本は変革期にある産業ばかりなので、決して他人事ではありません。

こんな大企業が生き残るために右往左往しているのだから、われわれ小さな事業者は、躊躇している場合ではありませんよね。

コロナで売り上げが厳しいとか言っていても始まりません。

どうすれば生き残れるのか、すぐ動けばいいのか、あるいはじっと耐えしのぶのがいいのか、自分で考え、決めていかなければなりません。

やはり、戦略がなければ生き残れない。と思う次第です。




(2020年12月24日メルマガより)


前回のメルマガでは家電量販店のヤマダ電機について書きました。


家電販売ビジネスの縮小に見舞われ、住宅関連事業などに活路を見出そうとしているヤマダ電機のお話です。

ヤマダ電機ほどの規模になると、事業転換も容易ではありません。

ところどころ成長機会はあるものの、いずれもニッチ需要で、ヤマダ電機全体を潤わせるほどのものがありません。

メルマガでは偉そうなことを書きましたが、所詮は外野の意見ですかね。組織全体を賄えるほどの方向性を見つけるのは至難の業ですから、内部の方のご苦労はお察しいたします。

その点、規模の小さな会社は、小さな市場でも生きていけます。雑草のようなもので、隙間や窪地でも充分に生育可能です。

雑草には雑草の生き方がある、ということを理解する者は、強いですよ。


■それはともかく、そもそもヤマダ電機が苦境に陥ったのは、日本の家電産業全体が勢いを失ってしまったからです。

パナソニックも、ソニーも、日立も、東芝も、三菱も、シャープも、かつての勢いはなく、事業再構築を迫られ、方向転換を余儀なくされています。

韓国勢にも中国勢にも勝てず、事業事業の縮小、撤退に追い込まれるその姿には、家電王国といわれた頃の面影は皆無です。

いったい何があったというのでしょうか。

そうかと思えば、規模は大きくなくても、きらりと光る新興家電メーカーも育ってきており、バルミューダのように新規上場し、評価されている企業もあります。

今回は、前回に続き、家電産業について書いてみました。

どうか最後までお読みください。

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12月16日、家電メーカーのバルミューダが、東証マザーズに株式上場しました。

その日の終値は、公募価格の2倍近くになり、時価総額は約298億円に達したといいます。

成熟産業の新興メーカーとしては、上々の滑り出しではないでしょうか。



衰退する国内大手家電メーカー


もっとも日本の家電産業には、かつてのような勢いがありません。とくに、業界を牽引してきた大手企業に元気がありません。

日立も東芝も家電部門を海外企業に売却し、産業材やインフラ部門に経営資源を集中させようとしています。

シャープは、会社そのものが、台湾の鴻海の傘下にあります。

三洋電機はパナソニックの子会社ですが、家電部門を中国企業に売却して10年近くになります。

家電メーカーの雄、パナソニックでさえ、家電からの脱却を目指して、方向性を探っています。

まあ、それも仕方ありません。

人口減少する日本において、これらの企業は、持ちこたえられないほどの大きさになってしまったわけです。

成長期に網を広げるのは正しい戦略です。が、肝心の魚がいなくなったら、大きな網が無駄どころか邪魔になってしまいます。

小さな船で充分な時に、維持費のかかる巨大船は金食い虫でしかありません。網元は、船を処分するか、別の使い道を探すかしないと、経費倒れになってしまいます。

いまの大手家電メーカーが直面しているのはそういう状況ですな。


海外進出にも本気になれない


日本では魚が減っていくかもしれないが、海外では増えているじゃないか。という人がいるかもしれません。

確かにそうです。日本でダメなら海外に行けばいい。

ただ、日本の家電メーカーはことごとく海外進出に失敗しています。

これも、日本国内で充分に潤ってきた時代が長かった悲しさです。海外に売るためには、海外の顧客にあわせたビジネスをしなければなりません。商品も、売り方も、現地にあわせることが重要です。

韓国のように国内市場がもともと小さい国の企業は、海外進出ありきでなければ、それなりの大きさになりません。だから、サムスンやLGなどは、早い段階から、海外進出を含んだ商品づくりや販売のための組織を志向していました。

しかし、日本企業はそうではありませんでした。

日本国内で商売するだけで充分に儲かるので、海外進出を意識するのは、大企業になってからです。商品も販売も、まずは国内仕様となっています。

商品については、国内市場で同程度の技術力を持つライバル企業がひしめいていたため、いきおい似たようなものとなってしまいます。差別化のために機能の付加を繰り返すうちに、使わない機能がいっぱいついた謎の多機能製品が定番となっていきました。

売れるか売れないかわからない海外市場に向けて、今さら、シンプルな商品を作り直すのはリスクですから、日本市場向けの製品をそのまま海外に持ち込む企業が殆どでした。これでは、顧客無視といわれても仕方ありません。

販売においても同じです。海外展開のために、労使関係を含めて組織の在り方を変えるとかややこしい。そんなことをしなくても、国内で充分儲かるやんと、国内担当者からの茶々が入ります。そのうち国内では儲からなくなったものの、今さら、そこに費用や労力をかけられなくなりました。

そこに苦労するぐらいなら、家電部門は海外に売り払って、自社は国内でもっと儲かる分野へ移行する方が、合理的だというものです。

国内家電メーカーの多くが、国内の産業材分野へ軸足を移そうとしているのは、経済行動として、理にかなっていると考えます。


家電から撤退するかつての総合電機メーカー


日本の成長期には、家電から大型電機機械まで扱う総合電機メーカーが、隆盛を誇ったものですが、それも今は昔です。

こうした電機メーカーのなかで、経営戦略の基本通り「選択と集中」を推し進めようというのが日立です。

日立はリーマンショック後の大赤字で目覚めて、猛烈に事業再構築を進めている途上です。

日立が目指すのは、「社会イノベーション事業でのグローバルリーダー」だそうですが、これをかみ砕くと、インフラ分野の御用聞きだということです。

要するに、インフラ分野のことなら、何でもやりますよ。問題解決に取り組むので、何でもお申し付けください。という姿勢ですな。

いわば、物理的な商品(機械)をビジネスにするよりも、それに付随するサービスやソリューションを中心にしていこうということです。

その方向性に向けて、事業の売却と買収を進めています。


東芝はもっと早い時期から「選択と集中」に取り組んできました。

しかし、原子力事業への集中投資が裏目に出てしまいました。福島の事故以来、原子力事業の未来が描きにくくなり、莫大な投資が無駄となってしまいました。

そのうえ、2015年には、社内に根の深い会計上の不正が多く見つかり、ダブルパンチで破綻寸前に追い込まれてしまいました。

そこからの東芝は涙なしには語れません。金になるものは何でも売却し、サザエさんのスポンサーもおりて、破綻を逃れるのに精いっぱいでした。

何とか破綻は回避できたものの、今では、柱となる事業がない状態です。まさに白紙からの出直しですな。

こちらも、「インフラサービスカンパニー」を目指すということです。たぶん日立と似た方向性を志向しているのでしょうが、具体的な中身は見えません。

でも、ゼロからのスタートなので、案外、面白い存在かもしれませんよ。



これに対して、全社的な選択と集中をするのではなく、それぞれの分野で分散的に儲ければいいやん、というのが三菱電機です。

同社はバランス経営と称していますが、要するに、各事業部に権限を与えて、各自が生き残り策を考えなさいというやり方です。

いわば弱者の戦略の集合体で、規模的なパワーは活かせませんが、不確定な時代にとにかく生き残るという意味では、理にかなっています。



業績不振が目立つパナソニック


そんな大手家電メーカーの中でも、パナソニックの不振が目立ちます。

パナソニックといえば、日本の家電メーカーのトップに長く君臨し、強者の名をほしいままにしてきた企業です。

とくに1970年代、80年代の「強者の戦略」は、あまりにも盤石で、絶対王者といってもいい存在でした。

ところがコロナ禍の現在、パナソニックは、1人負けといいたくなるような状況です。


この記事を読むと、パナソニックの株式時価総額は、2.6兆円。これは、2008年当時から比べると、4%マイナスです。

これに対して、ソニーの時価総額は11.4兆円。これは、2008年の6倍です。

ちなみに、パナソニックの売上高、7兆5千億円。純利益、2257億円。

ソニーの売上高、8兆2千億円。純利益、5821億円です。(両社とも2020年3月期)

パナソニック(当時は松下電器)が絶対王者だった時代は、ソニーといえばいつ駆逐されるかもしれない弱者企業だったはずです。

なにしろ創業者の松下幸之助氏から「ソニーはうちの開発部隊だ」と揶揄われていたぐらいです。

そんな両社がいまになって立場逆転してしまうとは。。栄枯盛衰を感じずにはいられません。


強者の戦略が使えなくなった


パナソニックの場合、1970年、80年代に盤石なビジネスモデルを築き上げていたゆえに、市場環境の変化への対応に苦労しました。

第一段階は、家電量販店の台頭により、独自の販売チャネルであるナショナルショップの威力がそがれてしまったことです。

パナソニックの強者の戦略は、販売チャネルを押さえることで成り立っていました。いくらソニーが画期的な商品を作ろうとも、後追いでパナソニックが似たようなものを作れば、いちばん売れてしまうのです。販売チャネルを確保する者は、かくも強いのです。

ところが、家電量販店が全盛となると、売り場で比較されるようになり、より商品の力が重要となります。

もっとも、市場シェアトップのパナソニックには、より多くの売り場面積が与えられたので、ここでも同社有利には変わりませんでした。


第二段階は、国内家電市場が縮小し、家電量販店そのものが勢いを失ってしまったことです。

これは深刻です。需要が低迷してしまうと、メーカーは無力です。

家電エコポイントとか、地デジ移行とか、需要を喚起するイベントが終わる2010年頃をピークに、家電の売上は坂を転げ落ちるように縮小していき、如何ともしがたい状況となっていきました。

ただし、この頃には、人口減少により需要が減っていくことは予測されたことですから、メーカーは各社とも、脱家電を志向していました。


柱となる事業が見いだせない


パナソニックも同じです。産業関連機器、住宅設備、車載部品などに活路を求め、家電事業に頼らない体制を作ろうとしました。

特にテスラと提携した電気自動車向けの車載電池については、主力事業にするという強い決意を表していたものです。

ところが、あてが外れました。

天才と謳われながら性格が悪いことで有名なテスラCEOのイーロン・マスクのわがままに散々振り回された挙句「電池は自社で作ることにした」と宣言される始末です。

時間も労力も費用もかかる開発時の一番しんどいところを担わされながら、利益を出す前に放り出されるとは、継子話にも聞いたことがない悲惨さです。

完全にはしごを外されたパナソニックは、柱となる事業をいまだ見出せず、五里霧中にいるといっていいでしょう。



事業再構築に失敗した津賀社長


2012年から社長となった津賀一宏氏の最大のテーマが、脱家電と主力事業の育成でした。

パナソニックほど巨大で歴史のある企業の主力事業を転換するなど並大抵のことではありません。

なにしろ、社内の重鎮やらOBやら謎の関係者やら、歴史を作ってきたと自負する人々が大勢いますから、抵抗勢力だらけです。戦略を作って、ハイ、転換、というわけにはいきません。

津賀氏が、ジャック・ウェルチほど変人で悪辣なら、OBなど糞でも食っとけと嘲笑うこともできたのでしょうが、そうではなかったらしい。

しかもコロナ禍の巣ごもり消費で、家電の売上がなにげに良くて、むしろ存在感を増しています。

津賀氏は、来年、退任する予定ですが、結局、将来に向けて柱となる事業を見出せぬ、脱家電も進まずでは、いったいこの8年間は何だったのだろうと、言われても仕方ありませんな。


脱家電を成し遂げ、業績好調なソニー


対してソニーは、ゲーム関連事業や音楽事業が巣ごもり消費で業績好調です。

設立当初、技術屋の楽園を目指したソニーは、その理念の通り、可能性のある面白い技術の宝庫であったと聞きます。

しかし、1995年に6代目社長となった出井伸之氏は、ソフトとハードの融合を掲げて、ネットワーク事業やエンターテイメント事業に傾倒、大胆な方向転換に踏み切りました。

その過程で、ソニーに蓄積されていた多くの技術が切り捨てられたといわれています。

もちろん非難轟々で、出井CEOの晩年は「最悪の経営者」のレッテルを貼られていたほどです。

後継者に指名されたのは米国人のハワード・ストリンガー氏です。しがらみがより少ない立場だったストリンガー氏は、米国に拠点を置いたままで、エンターテイメント事業のグローバル化と強化を推し進めました。ストリンガー氏自身は、業績不振により解任されますが、後を受けた平井一夫氏が、現在のビジネスモデルを形にしました。

現在、ソニーの収益は、映画、ゲーム、音楽などのコンテンツを活用したサブスクリプションビジネスから得られています。

つまりプレイステーションのオンライン会員などが負担する定額会費が、収益の基盤となっています。

オンラインゲームはグローバルかつ成長産業なので、ソニーの将来は明るいだろうと、株式市場が評価をする次第です。


もっとも、そこにかつての技術企業ソニーの姿はありません。

あのスティーブ・ジョブズも憧れたといわれるソニーは、場合によっては、アップルのような企業になっていたかもしれません。

※アップルの売上高は28兆円、時価総額200兆円超(2020年9月期)

そう思うと、なんとも小粒な会社となったという意見もあります。が、そんなとらぬ狸の皮算用をしても仕方ありませんな。


生き残るために躊躇していられない


そうかと思えば、バルミューダのように、新規上場を果たす新興家電メーカーもあります。

バルミューダだけではありません。ローテクでも、特殊な使用場面に則した商品や尖ったデザインを武器に、ヒットを飛ばす小さな新興メーカーが表れてきており、何気にニッチな盛り上がりを見せています。

いまは、マスを捉えにくい市場なので、むしろ規模が小さいことが、強みとなります。

つまり、大手家電メーカーの規模では、生きにくい産業になっているということです。どうしても家電市場で生きていこうとするならば、ニッチ市場を一つ一つ深掘りしていくことが求められます。

そんな面倒なことやってられん、と大手企業の殆どが、家電事業から撤退したのは、無理からぬことですな。


いずれにしろ、変革期にある産業では、各社が生き残りをかけて知恵を絞り、行動しています。

面白い、といえば失礼に聞こえるかもしれませんが、今の日本は変革期にある産業ばかりなので、決して他人事ではありません。

こんな大企業が生き残るために右往左往しているのだから、われわれ小さな事業者は、躊躇している場合ではありませんよね。

コロナで売り上げが厳しいとか言っていても始まりません。

どうすれば生き残れるのか、すぐ動けばいいのか、あるいはじっと耐えしのぶのがいいのか、自分で考え、決めていかなければなりません。

やはり、戦略がなければ生き残れない。と思う次第です。




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