「タカラヅカ」のビジネスには、衰退市場で生き残るヒントがある

2021.07.22

(2021年7月22日メルマガより)



心斎橋の事務所で、毎月1回、「戦略勉強会」を開催していますが、先月のテーマは、「宝塚歌劇団」でした。

タカラヅカです。

もちろんその存在は知っていますが、観劇したことはありませんでした。

しかし、これがまた面白い。

いや、芝居のことではなく、ビジネスです。タカラヅカって、実に優れたビジネスなんですよ。

何が、優れているかというと、その強固な顧客基盤です。

私は、ビジネスにおいて生き残る秘訣は、顧客基盤を強固にすることだと考えていますが、タカラヅカは、その理想的な事例です。

ニッチですが、一部の顧客への吸引力がすごく、しかも、顧客が顧客を巻き込み、労せずして新規顧客を作り出す流れができています。

衰退市場である今後の日本において、タカラヅカのビジネスは大いに参考になるはずです。

今回は、そのタカラヅカのビジネスについてとり上げました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

宝塚歌劇団、「タカラヅカ」をビジネスとして見たとき、その優秀さに驚きます。

ニッチですが、一部の顧客への吸引力が凄く、揺るぎません。

顧客基盤を強固にすることが、成長しない市場における最大の生き残り策であることを考えると、タカラヅカは、まさに理想的な形であるように思えます。

ニッチと言いましたが、私のようなオッサンは、その標的顧客ではありません。

タカラヅカは、女性のもの。だから、今まで馴染みがありませんでした。

今まで知らなかったのが勿体ないと思えます。これから、参考にしていくべきビジネスの秘訣が、そこにありました。


阪急電車の集客策として設立


宝塚歌劇団の誕生は、1914年。実に107年の歴史があります。

阪急電鉄の一部門であり、当初は、電車への集客策として、阪急電車の主要駅がある兵庫県宝塚市に設置されました。

鉄道は、莫大な先行投資が必要なビジネスです。鉄道を作ったはいいけど、乗る人がいませんでした、では、途方もない借金を抱え込んでしまいます。

国営鉄道では、ある程度の赤字でも許容しなければならない部分もありますが、私営鉄道ではそうはいきません。

阪急電鉄創始者の小林一三は、アイデアマンだと知られる人で、鉄道ビジネスを軌道に乗せるための集客策をいくつも打ち出しました。

宝塚ファミリーランドという遊園地もそうですし、阪急ブレーブスというプロ野球球団もその一つです。不動産会社を作って、沿線開発に力を入れたのも、鉄道需要を作るためです。

阪急グループの方法論は、鉄道事業の需要喚起に効果を発揮し、多くの私鉄が参考にしました。そのため、日本は狭い国土で、自動車が発達した国であるにも関わらず、同時に多くの私鉄が生き残る稀有な国となりました。

思えば、世界にその名を轟かせる我らが阪神タイガースも、当初の設立目的は阪神電車の集客策でした。今では、阪神電鉄こそ阪神タイガースの子会社だと思う人が多いようですが。


「ベルサイユのばら」で覚醒


宝塚歌劇団も、阪急電車の集客策の一つでした。当初から、女性ばかりの華やかな歌劇団で「清く、正しく、美しく」というスローガンも、小林一三が作ったものだとか。

が、そこには、小林一三の密かな趣味も込められていました。というのは、彼は、もと文学者志望だった一面があり、自分の書いた脚本を、タカラヅカで上演したかったらしい。

実際、設立当初は、小林が書いた脚本を使っていたといいます。ですから、タカラヅカは、もともと文学的に質の高い舞台を志向する気質があったようです。

戦前、戦後、何度かの興隆期があったものの、1960年から70年代、テレビの普及とともに、歌劇団の人気も低迷していきました。タカラヅカ側も、海外の有名な芝居を輸入するなどして、様々な試行錯誤を繰り返したようですが、赤字続きで存続を危ぶまれるほどでした。

そんなタカラヅカの人気が一気に復活したのが、1974年に上演された「ベルサイユのばら」の大ヒットです。

社会現象を巻き起こすほどの空前のブームとなったこの舞台は、その後のタカラヅカの方向性を決定づけました。

ヒットを分析したタカラヅカは、こう考えました。

・観客は、華やかでカッコいいキャラクターを観たいのだ。

・特に男役の人気が凄まじい。

・タカラヅカの独自の魅力は、女性から見た最高にカッコいい男性を女性が演じることだ。

そこで、タカラヅカは、芸術的に完成度の高い舞台を志向するのではなく、最高にカッコいい男役を際立たせるための舞台を目指すことになったのです。


第一の魅力は、女性が演じる理想の男性


タカラヅカの第一の魅力は、女性が、理想の男性を演じるという特殊な形態にあります。

現実にはありえない虚構の世界ですが、それだけに、純度が高く理想化された男らしさを観ることができます。

これは、逆に、男性が女性を演じる歌舞伎にも通じるものがありそうです。

歌舞伎の女形は、しばしば「女性よりも女性らしい」と言われますが、要するに、男性が感じる理想の女性を形にしているわけです。

女性側からすれば、そんなもの、本当の女らしさじゃないと言うでしょうが、虚構の世界ですから、女形とはそういうものだというしかありません。

タカラヅカの男役が演じる男性にも、同じことが言えるのでしょうね。

その舞台に現れるのは、女性が考える理想の男性です。そこにしかいない存在ですが、それだけに、魅力があります。


「戦略勉強会」でこの話題をとりあげた時、残念ながら、タカラヅカファンの方はおられませんでした。が、友人がファンだという方の話を聞くと、やはり、ファンの方々は、男役に夢中になっているそうです。

タカラヅカには、娘役もいます。舞台作品の構成上、必要です。が、ファン目線からすると、娘役など眼中になく、むしろ、嫉妬の対象にもなるということですから、徹底しています。

タカラヅカ運営側とすれば、この吸引力を最大限、売りにしなければなりません。だから、タカラヅカの舞台は、男役の魅力を最大限引き出すための媒体になっていきます。

そういえば、タカラヅカの舞台には、ロングランという概念がないそうです。どれだけ大ヒットした作品でも、スケジュール通り、粛々と進み、終わります。

劇場ビジネスにおいて、これは異例のことです。大ヒット作品は、できるだけ長く公演して、より多くの観客を集めることがセオリーのはず。

そのセオリーを無視できるのは、タカラヅカが提供しているのは、作品よりも、役者そのものである、という本質があることを示しています。


役者が成長するプロセス


ただ、ファンの方が、タカラヅカは一度はまったら抜け出せないというのは、これだけではありません。

タカラヅカは「ベルサイユのばら」以降、スターシステムを確立していきました。

これは、特定の俳優を主役(トップスター)として規定する制度です。

タカラヅカは5つの組(花、月、雪、星、宙)に分かれていますが、それぞれにトップスターが存在し、彼ら以外が主役を演じることはありません。

スターとなる人は、入団から10年未満で階段を上るように序列を上げていき、トップに上り詰めれば、2年程度で卒業します。

定期的な新陳代謝が行われており、一人のスターが、ずっとトップに居続けることはありません。

ファンとすれば、様々な役者が、若手時代から努力をして実力をつけ、最後はトップになって有終の美を飾るところまでを約10年で観ることができます。

コアなファンには、それぞれお気に入りの男役がいるようです。その人が、序列を登って、トップになっていくまでを我が事のように、応援することができます。

そして、お気に入りのスターが卒業すれば、次に応援する若手を見つけて、また一緒に登りつめるプロセスを経験するようになります。

つまり、タカラヅカが一度はまったら抜けられないというのは、このプロセスを一緒に体験できるからです。

ファンは、完成したものを一方的に鑑賞するのではなく、未完成の時代から、少しずつ、力をつけてくる役者の成長の軌跡をみることができます。

モノづくりや、育成に通じる魅力が、このプロセスにはあるようです。

しかも、約10年でサイクルが回るため飽きません。次の10年、次の10年と継いでいくうちに、長い期間、ファンであり続けることになります。

タカラヅカには、親子で、あるいは孫までファンという人がいるらしいですが、それだけ長い期間、ファンであり続けているという証拠に他なりません。

コアなファンが、さらにファンを吸引するという流れをみることができます。


私設ファンクラブとの関係


この体験価値を重視した運営側は、ファンとの関係性構築に力を注いでいます。

タカラヅカには、公式のファンクラブと、俳優個人の私設ファンクラブがあります。

公式ファンクラブに入ると、優先的なチケット購入ができるそうで、これは他のファンクラブと同じようなメリットですね。

特徴的なのは私設ファンクラブです。その名の通り、特定の役者個人のファンクラブです。

役者の成長プロセスを伴走するかのように体験したいコアなファンは、この私設ファンクラブに入会するようです。

私設ファンクラブに入ると、その役者の公演のチケットが優先的に入手できるだけではありません。

「お茶会」と称する集まりで、役者を囲んで歓談することができます。ファンクラブの重鎮にもなると、役者の間近に座り、直接話をすることができるそうです。

その役者の成長を見守りたい、成長を支援したいと思うファンからすれば、垂涎の機会であるには違いありません。

ただし、ファンだからといって、何でもできるわけではありません。いや、ファンであるからこそ、節度を守らなければなりません。

特にタカラヅカの私設ファンクラブは規律が厳しいことで有名です。役者に向かって勝手な言動はご法度ですし、クラブ以外のファンからの勝手な言動から役者を守る役割も担っています。

公演などの際、役者の入り出を同じ服を着た女性たちがガードしているのを見たことはないでしょうか。あれが、ファンクラブの人たちです。

ファンと役者と運営の協力関係のバランスがとれているからこそ、タカラヅカのビジネスは、そのサイクルを回し続けることができているようです。



弱点はファンマネジメント


・ニッチであること。

・はまると抜け出せなくなる強い魅力。

・ファンがファンを巻き込む力、それを可能とするファンマネジメント。

これらが、合わさって、タカラヅカという稀有なビジネスが成り立っていると考えます。

これからの日本において、有効なビジネスのヒントがあると思います。


ちなみに、日本を席巻したAKB48は、タカラヅカのビジネスモデルを参考にしたものだと言われています。

ただし、どうやらAKBは、ファンとの関係性を間違えたようで、ファン同士、あるいは、ファンとタレントのトラブルが頻発しました。

もちろん、タカラヅカのファンクラブにも様々な問題があるでしょう。相当の費用負担があるでしょうし、内部では、ドロドロした人間関係があると容易に想像できます。

それがあまり表沙汰にならないのは、運営側の的確なマネジメントなのか、役者への教育制度なのか、あるいは、狭い市場であるからなのか、たぶん、全部が影響しているでしょうが、100年の蓄積のなせる技で、簡単に模倣できるものではないのだということでしょう。

しかし、この部分は、タカラヅカにとっても弱点になりえると思えます。

コアなファンの存在はビジネスにとって必要不可欠ですが、それに加えて、ライトなファンの存在がなければ、じり貧になっていきます。

コアなファンとライトなファンのバランスが保たれているうちはいいですが、これが崩れると、一気に問題が噴出します。

「お茶会」で、オフの時の役者と接する機会を持ちたいと思うのは、ライトなファンも同じでしょう。

しかし、そこに参加するためには、ファンクラブへの入会が必須ですし、間近に座る特権を得るためには、ファンクラブへの貢献が求められます。ありていに言うと敷居が高い。

かといって、AKBのように、誰でも役者に接する機会を与えていたら、節度を守らない者も現れるでしょうし、収拾がつかなくなるというものです。

規律が強すぎると白けるし、弱いとカオスになってしまう。ファンマネジメントの難しさです。

いかに、運営側が、コアなファンと協力して、ライトなファンを引き寄せていくか。今後も、細心の注意をもって、かじ取りしていかなければなりません。

このビジネスが、今後も続いていくための鍵は、そこにあると考えます。


宝塚歌劇団の総支配人であった森下信雄氏の著作には、タカラヅカの経営について詳しく書かれています。

今回は、これらの著作を参考にさせていただきました。








宝塚歌劇団の経営学
森下 信雄
東洋経済新報社
2021-02-19



(2021年7月22日メルマガより)



心斎橋の事務所で、毎月1回、「戦略勉強会」を開催していますが、先月のテーマは、「宝塚歌劇団」でした。

タカラヅカです。

もちろんその存在は知っていますが、観劇したことはありませんでした。

しかし、これがまた面白い。

いや、芝居のことではなく、ビジネスです。タカラヅカって、実に優れたビジネスなんですよ。

何が、優れているかというと、その強固な顧客基盤です。

私は、ビジネスにおいて生き残る秘訣は、顧客基盤を強固にすることだと考えていますが、タカラヅカは、その理想的な事例です。

ニッチですが、一部の顧客への吸引力がすごく、しかも、顧客が顧客を巻き込み、労せずして新規顧客を作り出す流れができています。

衰退市場である今後の日本において、タカラヅカのビジネスは大いに参考になるはずです。

今回は、そのタカラヅカのビジネスについてとり上げました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

宝塚歌劇団、「タカラヅカ」をビジネスとして見たとき、その優秀さに驚きます。

ニッチですが、一部の顧客への吸引力が凄く、揺るぎません。

顧客基盤を強固にすることが、成長しない市場における最大の生き残り策であることを考えると、タカラヅカは、まさに理想的な形であるように思えます。

ニッチと言いましたが、私のようなオッサンは、その標的顧客ではありません。

タカラヅカは、女性のもの。だから、今まで馴染みがありませんでした。

今まで知らなかったのが勿体ないと思えます。これから、参考にしていくべきビジネスの秘訣が、そこにありました。


阪急電車の集客策として設立


宝塚歌劇団の誕生は、1914年。実に107年の歴史があります。

阪急電鉄の一部門であり、当初は、電車への集客策として、阪急電車の主要駅がある兵庫県宝塚市に設置されました。

鉄道は、莫大な先行投資が必要なビジネスです。鉄道を作ったはいいけど、乗る人がいませんでした、では、途方もない借金を抱え込んでしまいます。

国営鉄道では、ある程度の赤字でも許容しなければならない部分もありますが、私営鉄道ではそうはいきません。

阪急電鉄創始者の小林一三は、アイデアマンだと知られる人で、鉄道ビジネスを軌道に乗せるための集客策をいくつも打ち出しました。

宝塚ファミリーランドという遊園地もそうですし、阪急ブレーブスというプロ野球球団もその一つです。不動産会社を作って、沿線開発に力を入れたのも、鉄道需要を作るためです。

阪急グループの方法論は、鉄道事業の需要喚起に効果を発揮し、多くの私鉄が参考にしました。そのため、日本は狭い国土で、自動車が発達した国であるにも関わらず、同時に多くの私鉄が生き残る稀有な国となりました。

思えば、世界にその名を轟かせる我らが阪神タイガースも、当初の設立目的は阪神電車の集客策でした。今では、阪神電鉄こそ阪神タイガースの子会社だと思う人が多いようですが。


「ベルサイユのばら」で覚醒


宝塚歌劇団も、阪急電車の集客策の一つでした。当初から、女性ばかりの華やかな歌劇団で「清く、正しく、美しく」というスローガンも、小林一三が作ったものだとか。

が、そこには、小林一三の密かな趣味も込められていました。というのは、彼は、もと文学者志望だった一面があり、自分の書いた脚本を、タカラヅカで上演したかったらしい。

実際、設立当初は、小林が書いた脚本を使っていたといいます。ですから、タカラヅカは、もともと文学的に質の高い舞台を志向する気質があったようです。

戦前、戦後、何度かの興隆期があったものの、1960年から70年代、テレビの普及とともに、歌劇団の人気も低迷していきました。タカラヅカ側も、海外の有名な芝居を輸入するなどして、様々な試行錯誤を繰り返したようですが、赤字続きで存続を危ぶまれるほどでした。

そんなタカラヅカの人気が一気に復活したのが、1974年に上演された「ベルサイユのばら」の大ヒットです。

社会現象を巻き起こすほどの空前のブームとなったこの舞台は、その後のタカラヅカの方向性を決定づけました。

ヒットを分析したタカラヅカは、こう考えました。

・観客は、華やかでカッコいいキャラクターを観たいのだ。

・特に男役の人気が凄まじい。

・タカラヅカの独自の魅力は、女性から見た最高にカッコいい男性を女性が演じることだ。

そこで、タカラヅカは、芸術的に完成度の高い舞台を志向するのではなく、最高にカッコいい男役を際立たせるための舞台を目指すことになったのです。


第一の魅力は、女性が演じる理想の男性


タカラヅカの第一の魅力は、女性が、理想の男性を演じるという特殊な形態にあります。

現実にはありえない虚構の世界ですが、それだけに、純度が高く理想化された男らしさを観ることができます。

これは、逆に、男性が女性を演じる歌舞伎にも通じるものがありそうです。

歌舞伎の女形は、しばしば「女性よりも女性らしい」と言われますが、要するに、男性が感じる理想の女性を形にしているわけです。

女性側からすれば、そんなもの、本当の女らしさじゃないと言うでしょうが、虚構の世界ですから、女形とはそういうものだというしかありません。

タカラヅカの男役が演じる男性にも、同じことが言えるのでしょうね。

その舞台に現れるのは、女性が考える理想の男性です。そこにしかいない存在ですが、それだけに、魅力があります。


「戦略勉強会」でこの話題をとりあげた時、残念ながら、タカラヅカファンの方はおられませんでした。が、友人がファンだという方の話を聞くと、やはり、ファンの方々は、男役に夢中になっているそうです。

タカラヅカには、娘役もいます。舞台作品の構成上、必要です。が、ファン目線からすると、娘役など眼中になく、むしろ、嫉妬の対象にもなるということですから、徹底しています。

タカラヅカ運営側とすれば、この吸引力を最大限、売りにしなければなりません。だから、タカラヅカの舞台は、男役の魅力を最大限引き出すための媒体になっていきます。

そういえば、タカラヅカの舞台には、ロングランという概念がないそうです。どれだけ大ヒットした作品でも、スケジュール通り、粛々と進み、終わります。

劇場ビジネスにおいて、これは異例のことです。大ヒット作品は、できるだけ長く公演して、より多くの観客を集めることがセオリーのはず。

そのセオリーを無視できるのは、タカラヅカが提供しているのは、作品よりも、役者そのものである、という本質があることを示しています。


役者が成長するプロセス


ただ、ファンの方が、タカラヅカは一度はまったら抜け出せないというのは、これだけではありません。

タカラヅカは「ベルサイユのばら」以降、スターシステムを確立していきました。

これは、特定の俳優を主役(トップスター)として規定する制度です。

タカラヅカは5つの組(花、月、雪、星、宙)に分かれていますが、それぞれにトップスターが存在し、彼ら以外が主役を演じることはありません。

スターとなる人は、入団から10年未満で階段を上るように序列を上げていき、トップに上り詰めれば、2年程度で卒業します。

定期的な新陳代謝が行われており、一人のスターが、ずっとトップに居続けることはありません。

ファンとすれば、様々な役者が、若手時代から努力をして実力をつけ、最後はトップになって有終の美を飾るところまでを約10年で観ることができます。

コアなファンには、それぞれお気に入りの男役がいるようです。その人が、序列を登って、トップになっていくまでを我が事のように、応援することができます。

そして、お気に入りのスターが卒業すれば、次に応援する若手を見つけて、また一緒に登りつめるプロセスを経験するようになります。

つまり、タカラヅカが一度はまったら抜けられないというのは、このプロセスを一緒に体験できるからです。

ファンは、完成したものを一方的に鑑賞するのではなく、未完成の時代から、少しずつ、力をつけてくる役者の成長の軌跡をみることができます。

モノづくりや、育成に通じる魅力が、このプロセスにはあるようです。

しかも、約10年でサイクルが回るため飽きません。次の10年、次の10年と継いでいくうちに、長い期間、ファンであり続けることになります。

タカラヅカには、親子で、あるいは孫までファンという人がいるらしいですが、それだけ長い期間、ファンであり続けているという証拠に他なりません。

コアなファンが、さらにファンを吸引するという流れをみることができます。


私設ファンクラブとの関係


この体験価値を重視した運営側は、ファンとの関係性構築に力を注いでいます。

タカラヅカには、公式のファンクラブと、俳優個人の私設ファンクラブがあります。

公式ファンクラブに入ると、優先的なチケット購入ができるそうで、これは他のファンクラブと同じようなメリットですね。

特徴的なのは私設ファンクラブです。その名の通り、特定の役者個人のファンクラブです。

役者の成長プロセスを伴走するかのように体験したいコアなファンは、この私設ファンクラブに入会するようです。

私設ファンクラブに入ると、その役者の公演のチケットが優先的に入手できるだけではありません。

「お茶会」と称する集まりで、役者を囲んで歓談することができます。ファンクラブの重鎮にもなると、役者の間近に座り、直接話をすることができるそうです。

その役者の成長を見守りたい、成長を支援したいと思うファンからすれば、垂涎の機会であるには違いありません。

ただし、ファンだからといって、何でもできるわけではありません。いや、ファンであるからこそ、節度を守らなければなりません。

特にタカラヅカの私設ファンクラブは規律が厳しいことで有名です。役者に向かって勝手な言動はご法度ですし、クラブ以外のファンからの勝手な言動から役者を守る役割も担っています。

公演などの際、役者の入り出を同じ服を着た女性たちがガードしているのを見たことはないでしょうか。あれが、ファンクラブの人たちです。

ファンと役者と運営の協力関係のバランスがとれているからこそ、タカラヅカのビジネスは、そのサイクルを回し続けることができているようです。



弱点はファンマネジメント


・ニッチであること。

・はまると抜け出せなくなる強い魅力。

・ファンがファンを巻き込む力、それを可能とするファンマネジメント。

これらが、合わさって、タカラヅカという稀有なビジネスが成り立っていると考えます。

これからの日本において、有効なビジネスのヒントがあると思います。


ちなみに、日本を席巻したAKB48は、タカラヅカのビジネスモデルを参考にしたものだと言われています。

ただし、どうやらAKBは、ファンとの関係性を間違えたようで、ファン同士、あるいは、ファンとタレントのトラブルが頻発しました。

もちろん、タカラヅカのファンクラブにも様々な問題があるでしょう。相当の費用負担があるでしょうし、内部では、ドロドロした人間関係があると容易に想像できます。

それがあまり表沙汰にならないのは、運営側の的確なマネジメントなのか、役者への教育制度なのか、あるいは、狭い市場であるからなのか、たぶん、全部が影響しているでしょうが、100年の蓄積のなせる技で、簡単に模倣できるものではないのだということでしょう。

しかし、この部分は、タカラヅカにとっても弱点になりえると思えます。

コアなファンの存在はビジネスにとって必要不可欠ですが、それに加えて、ライトなファンの存在がなければ、じり貧になっていきます。

コアなファンとライトなファンのバランスが保たれているうちはいいですが、これが崩れると、一気に問題が噴出します。

「お茶会」で、オフの時の役者と接する機会を持ちたいと思うのは、ライトなファンも同じでしょう。

しかし、そこに参加するためには、ファンクラブへの入会が必須ですし、間近に座る特権を得るためには、ファンクラブへの貢献が求められます。ありていに言うと敷居が高い。

かといって、AKBのように、誰でも役者に接する機会を与えていたら、節度を守らない者も現れるでしょうし、収拾がつかなくなるというものです。

規律が強すぎると白けるし、弱いとカオスになってしまう。ファンマネジメントの難しさです。

いかに、運営側が、コアなファンと協力して、ライトなファンを引き寄せていくか。今後も、細心の注意をもって、かじ取りしていかなければなりません。

このビジネスが、今後も続いていくための鍵は、そこにあると考えます。


宝塚歌劇団の総支配人であった森下信雄氏の著作には、タカラヅカの経営について詳しく書かれています。

今回は、これらの著作を参考にさせていただきました。








宝塚歌劇団の経営学
森下 信雄
東洋経済新報社
2021-02-19



コラム

blog

代表者・駒井俊雄が発行するメルマガ「営業は売り子じゃない!」
世の中の事象を営業戦略コンサルタントの視点から斬っていきます。(無料)

記事一覧

blog

記事一覧

Customer Voice

記事一覧

このページのTOPへ